29話 魔女と歌
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【懐かしい夢】~突撃~《アルティレーネview》
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──それは、遠い記憶。
「報告! 第三騎士団壊滅! 団長戦死されました!!」
「「何だとっ!?」」
セリアルティ王宮内に響き渡る伝令士の無情の報告。王であるユグライア・セリアルティを含む軍例部の幹部達に戦慄が走った。
魔神と共に顕現した七大魔王、各国で猛威をふるい、世界を破滅へと導かんとすその脅威を勇者達が討ち払った直後のことである。
「魔王達は囮……大規模誘導と言う訳ですな」
「勇者達が戻られるまでかなりの時間を要しましょうぞ」
頼みの綱の勇者達、その一行が各地の魔王討伐に出払っているその隙を魔神は突いた。このセリアルティが落ちれば、『聖域』と言う本丸を残すのみ。他国は魔王によって壊滅的な被害を受け、同盟国のリーネ・リュール、ルーネ・フォレストも既に落とされた。援軍など望むべくもなく、まさに窮地。
「報告! 最終防衛線に接敵されました! 第一騎士団長より伝令! 「長くは持たぬ急ぎ逃れられたし!」とのことです! 皆様、どうかお逃げを!」
再度もたらされる絶望的な報告に、私は立ち上がり決断を下す。
「……これまで、ですね。ユグライア、そして私達女神に付いてきて下さった皆さん。今こそ『誓約』を果たしましょう」
「アルティレーネ様!?」
「お待ちください! 我々は最後の一兵まで貴女様と共にあらんと覚悟しております!」
ありがとう……貴方達のその思い、何て嬉しいことでしょうか。でも、だからこそ。
「これ以上貴方達を失いたくありません……ですからどうか」
生き延びて……優しい人達。
「どうか……次代に繋いで下さい。私は、私達姉妹は決して忘れません」
「アルティレーネ様! お待ちを! 私は、私達は!」
瞳に大粒の涙を湛え叫ぶユグライア。ありがとう……本当に、最後まで一緒にいてくれて。
「「「「「アルティレーネ様!! うおおぉぉっ!」」」」」
「「「ご再考を! 我々は貴女様と共にぃぃっっ!!」」」
「『誓約』」
私が彼等と結んだ『誓約』……貴方達を守る。それを、それだけはどうしても守りたい。どうか、どうか生きて……
発動した『誓約』によって、柔らかい光が彼等を包み込み、ここより遠く離れた地に彼等を転移させる。そう、城外で戦う兵士も含め全員を……もう誰も死なせない!
もぬけの殻となった王城に一人佇めば、セリアルティの皆との思い出が脳裏をよぎる……優しくも厳しい善政をしいたユグライア。それを支え国のため、民のためにと尽力した宰相達。国を民を護る剣となり盾となった勇敢な騎士団の皆。明るく、人情に溢れた国民達。
「あぁ、全て愛しいセリアルティ……本当にありがとう……」
ドオォォーンッッ!!!
城が崩される音がする……私を探しているのでしょう。決戦は近いようですね……レウィリもフォレアも『聖域』へと移っているでしょう、アーグラスさん達が戻られるまでなんとしても耐えなくてはいけません。
「私も覚悟を……『聖域』へっ!」
──目が覚めました。
二三瞬きをすれば、その目に映るのは見馴れた天井です。仰向けの首を横にすればそこは私の部屋であるとわかります。……夢を見ていたのですね。
ゆっくりと体を起こし、徐々に覚醒する頭で理解しました。懐かしい、忘れもしないあの時を。
「昨日のアイギスさん達が見せてくれた魔法の影響かしら? 久しく見ていなかったのに……」
そう、昨日に見たアイギスさん達冒険者の方達が使った『誓約』の魔法。かつてユグライアに教えてあげた、とても懐かしいその魔法を見た影響が夢に反映されたのでしょう。
~♪~♪~♪
「……? これは、歌ですか?」
確かに聞こえてくるアリサお姉さまの歌声と、どうやって出してるのかわからない様々な楽器による演奏が朝の屋敷に響き渡ります。
「~♪ 綺麗な歌声ですね」
歌詞は大切な方を失い、その人を思うような内容のようです。この歌も夢に影響したのかしら? アリサお姉さまの綺麗な歌声をしばらくベットの上で堪能していると、歌い終わったのか、歌も曲も止まりました。
「さて、しっかり目も覚めましたし。起きましょう」
今日も頑張らなくてはいけません。魔除けの指輪の効果を知った妖精達も、その多くがこの『聖域』にやってくることでしょう。ふふっ、ますます賑やかになりそうですね。
~♪~♪~♪
「あら? また歌が……先程とはまた違いますね」
再びアリサお姉さまの歌声が聞こえてきました。先程の切なさを歌う歌詞とはうって変わって……なんと言いましょうか、その……艶かしいような……声をつくられて歌われていますね。
「はよ~♪ アルティ姉~! 珍しく遅いじゃん?」
「おはようアルティ、貴女もアリサ姉さんの歌に酔いしれていたのかしら?」
寝間着から着替えて、身だしなみを整え、軽く化粧を済ませ部屋を出ると丁度フォレアとティリア姉さまとばったり出会いました。どうやら思ったより寝過ごしてしまっていたようですね。
話を聞くと二人は起きてこないレウィリを起こしに来たそうです。
「少し懐かしい夢を見ていまして……他の皆さんは?」
「冒険者達は朝早くからバルガス達と派手にやってるわ、元気よねぇ~?」
「レウィリ姉は、まぁ~いつも通りのねぼすけさんかなぁ? アリサ姉とゆにゆに、アリスっちにエスぺっち達とミーにゃんは一緒だろうし……」
アイギスさん達冒険者の皆さんとバルガスさん達は屋敷から少しだけ離れて、訓練をしているのだそうです。昨夜から課した私達からの『神の訓練』の成果が出ていれば良いのですが。
アリサお姉さま達はお部屋で歌に夢中なのでしょう、アリサお姉さまの性格からしてこんなに周囲に聞こえるほどに歌うとは思えないのですけれど。
「しかし、色っぽい歌ね……アリサ姉さんってば消音忘れてるんじゃないかしら?」
「おっ! そうだ突撃してみよっか♪ 面白そうじゃん?」
いいわねそれ♪ って、フォレアとティリア姉さまは顔を見合わせてニシシ♪ って笑い合います。もう、イタズラ好きなんですから……でも、私も気になりますね。
「そうと決まれば……」
「ふふっ行きましょうか♪」
「ぬはは♪ アルティ姉もノリノリだね!」
うふふ♪ アリサお姉さまの戸惑った顔が目に浮かぶようです! ちょっとワクワクしてきましたね。私達三人は気配を悟られないように、わざわざ存在を隠蔽してアリサお姉さまのお部屋に近づきました。大丈夫です、気づかれていません。アリサお姉さまは歌に夢中ですよ!
「「おっはよー! アリサ姉!」さん!」
ドーン!!
「ふあっ!!??」
驚かせるのが目的なので今回はノック無しです! ドーンとアリサお姉さまのお部屋に突撃した私達を目にしたアリサお姉さまはピタリと歌を止めて石像のように固まりました。ふふっ! 大成功ですね!
「ふふふ、おはようございますアリサお姉さま♪ あら、レウィリも一緒だったのね?」
「ん、昨夜からアリサお姉さんに魔装具の作り方を教えてて、そのままここで寝落ちしてたの」
固まっているアリサお姉さまの傍らに、アリスさんとユニ、そしてレウィリの姿もありました。
「あぁ~ん、もう! 女神様達ったら、マスターの美声にうっとりしてましたのに!」
「びっくりしたぁ~おはよーございます! 女神さま~♪」
あらら、ふふっ、ごめんなさいアリスさん、ユニ。そしておはようございます。
(おはようございます女神様方~♪ イタズラ好きですねぇ~魔女さま固まっちゃってますよぉ?)
「「ぷー♪」」「「「ぷっぷ~♪」」」「うなぁ~ん」
「アハハ! おはようみんな♪ いやいや、アリサ姉さんがもう、ノリノリで歌ってるからさ~」
「楽しそうだったからつい~♪ はよ~ん♪」
エスぺルとモコプー達、ミーナちゃんにも挨拶をしていると固まっていたアリサお姉さまが動き出しました。ギギギってまるで少し動きの悪い木彫りの人形のように。
「あああ、あんた達……き、聞こえてた……の?」
「はい! それはもうバッチリと♪」
「~♪ ってもう~アリサ姉さんたらエローい♥️」
「聞いてるこっちまでなんかドキドキしちゃったよ~♪」
「ぬわわぁあぁぁーっっ!! 嘘でしょう~!? ぼーくんはどうしたのよぉぉ!?」
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【試したくなるよね】~これもTSの醍醐味か~《アリサview》
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なんてこったい!? まさか聞かれてたなんてーっ!? どうしてこうなったの~? よーく思い出せ私っ!
昨夜レウィリリーネに街に行く準備ってことで、売りに出す魔装具を作るために基礎的な事を教わってて……ライターとか、ハンドライトとか色々作ってた。うん、そして続きはまた明日ってことで一緒に寝たのよ……私、レウィリ、ユニ、アリスで……まぁ、エスぺル含むモコプー達も何でか私の部屋が寝床って覚えちゃったみたいで一緒だった。で、朝起きて……
さぁ、思い出せ私! 並列意思をフル回転だ!
「うん……?」
「うふふ♪ おはようございますマスター、一緒のお布団で寝れてアリスは幸せでっす♥️」
目が覚めたら目の前にアリスの顔があったんだよね、寝る前になんでか、「起きていて見張りをします」とか言って、一緒に寝ることに凄く遠慮してたから「大丈夫だよ」って言って一緒に寝たんだ。なんだかんだで真面目なんだよねこの子。
「ん~っ……おはよーアリス。あんたもよく眠れた?」
「はい、お陰様で……こんなにも温かく、安らいで眠れたのはいつ以来でしょう……『聖域』は波乱の渦中にあることが多かったものですから……」
「それであんなに警戒してたの?」
「えぇ、いつ何が起きるかわからない……そんな日々を繰り返してきましたから……」
ユニとレウィリはまだスヤスヤと寝息をたてているので、私とアリスは互いに小さな声で話し合う。時計を見ればまだ朝の四時、うん。起こすのは忍びないね。
「そう、これからは貴女も安心して眠れるように頑張らないとね」
「マスター……ありがとうございます……」
アリスは私の言葉に少し驚いた後、嬉しそうに微笑んだ。うん、アリスだけじゃない。『聖域』のみんなが安らいだ生活を送れるように頑張ろう。
「目が覚めちゃった……魔装具作りの続きでもやろうかな?」
そうだ……そして魔装具作りやってるうちに、音楽聞きたくなったんだよ。作業用BGMってやつだ、これがあると捗るのよね。まぁ、そう言ってもここは異世界。当然オーディオ機器なんてあるはずもないので、私のイメージ魔法が炸裂するのだ。
「『不朽』のお陰で前世の曲もバッチリ思い出せる。これを魔法に組み合わせて……あぁ、危ない。まだみんな寝てるんだった……」
そうよ! ここで私が作った局所的防音装置「ぼーくん」が出来上がるのだよ! シンプルに「局所」と「部屋」ってコマンドスイッチで切り替えてオンとオフのスイッチを押すだけ。
「局所」は二~三人で内緒話をするとき、「部屋」はまんま部屋を防音にするってだけの単純構造だ。魔力を電池みたいにってのはまだできないから、スイッチをオンにしたとき、自動で私から吸い取るようにしてるの。これぞ正しい「無限魔力」の使い道ではなかろうか?
「わーっ!!!」
試しに「ぼーくん」を「局所」に切り替え、スイッチをオンにしてその場で叫ぶ。それを見ていたアリスはコテンと首をかしげて不思議そうにしている。
「マスター? どうしたんでっすかぁ~? そんな口パクしてぇ?」
オッケー、聞こえてないね! 大丈夫みたいだから、オプションを召喚して脳内再生してるBGMを流してみよう!
~♪~♪~♪
「あぁ~懐かしい♪ やっぱり良い曲よねぇ~」
「マスター? 一体何をって、おぉぉ!?」
ベッドから起き上がり、机に近付いて来たアリスが突然の音楽にびっくりして大声をあげる。
「これは……局部的に狭い範囲を遮音してるんでっすかぁ~?」
「そだよ、この「ぼーくん」でね!」
防音装置のぼーくん。
「うわ、ビミョー……」
「なんだとこんにゃろー!?」
「あはは! ごっめんなさぁ~い♪」
なんてね。実際試作段階なので微妙な出来なのは私も認める。
「はぁ~良い曲ですねぇ~♪ 歌とかはないのですぅ?」
「勿論あるよ。こんなのとかどう?」
「ん、聞きたい。歌ってアリサお姉さん」
おわっ!? びっくりした! いつの間にかレウィリリーネがすぐ側にいたよ!
「これは……音を遮断する魔装具? だから聞こえなかったんだ」
ぼーくんを見てうんうん頷くレウィリリーネ、寝ぼけ眼で辺りを見たら私とアリスがおしゃべりしてるけど何も聞こえなかったから起き上がって来たのだそうな。
「おはようレウィリ。歌うのは流石に恥ずかしいかなぁ」
「おぱやー♪ レウィリリーネ様!」
「おはよう、二人とも……聞きたい、アリサお姉さんの歌」
挨拶を返すものの、レウィリリーネの顔はシュンとしてしまっている……うー、そんな顔されちゃうと弱いーっ! でも流石に恥ずかしいってばよ~!
「アリスも聞きたいでっす! マスターぁ、お願いしますよぉ~?」
「ユニもききたーい♪ アリサおねぇちゃんのお歌!」
(ぷー……わたしも聞きたいですねぇ~♪)
おぉぅ……ユニもエスぺルも起きて来たよ。おはようってお互い挨拶すれば理由も同じで、楽しそうにおしゃべりしてるみたいだから気になったという。
しかしこうまでみんなに請われちゃ仕方ない……披露するしかないか。覚悟を決めよう!
「わかったよ、じゃあ~歌うけど笑ったりしたら私暫く部屋からでないからね!」
「アリサお姉さん大袈裟」
「笑ったりしまっせんよー♪」
(楽しみです~♪)
「ドキドキ!」
むぅ、ホントかなぁ? まぁ、いい。さて何を歌うかな? 最初はおとなしめのがいい、テンション上がってないしね。よし、これだ! ちょっと切ない故人を想う歌、静かなイントロから入るところも良い。前世で私が好きだった歌だ……感入って涙したねぇ。
「~♪~♪~♪」
歌い出す。あぁ、懐かしい……目を閉じれば自然、歌に集中してる自分がいてどんどん昂って行く。いいね、上がるわ~♪
「~♪~♪~♪」
──♪ ……はぁ~やっぱいい歌だわこれ。
歌い終わり余韻に浸る……ゆっくり目をあけて見れば、みんなじーんと感動してるみたい。でしょでしょ? いい歌だよね? ね?
「……ぐすっ、リュールを思い出した」
「あぁ……『聖域』を護り散っていった多くの命にも聞こえたでしょうか? なんて素晴らしい……」
「うん、アリサおねぇちゃん……すごくすごくよかった!」
(心に沁み入ります~)
「「「「「ぷぅ~♪」」」」」
おうおう、みんな涙目だ。ちょいとしんみりしすぎだね、よし、のってきたし今度は少し元気になれるような歌にするかな……あ、いや待って……
ここで考える、前世では好きな歌を、昔はカセットテープが擦りきれるほど。CDは音飛びするほど、MDはプレイヤーが壊れるほど、PC音源に至っては一日二日、連休中はひたすらに聞き入り、歌っては完コピしたほどの歌の数々。人様にお披露目するなんてついぞなかったけど……
「その多くが女性シンガーのものだったんだよねぇ~」
アニメの主題歌とか女性シンガーが多くない? 単に私の好みがそうだっただけかな? 他にも流行った歌とかも女性が歌うのを好きになってた。男性だったからかな? 出せないその高音程。女性ならではの可愛さや、艶っぽさ、色っぽい感じとか……自分にはない領域に惹かれたのかもしれないね。
でも、今私は女の子だ! 聞かれるのは恥ずかしいけど、それ以上に試したい!
「~~♪ ~~♪」
可愛らしい少女がちょっと背伸びして、好きな男の子の気を惹こうってする歌。時にドキッってするほど色っぽく、時に聞いている方も照れてしまいそうなほど可愛らしく。私は完全に模倣して歌っていく。あーこれはいい! 歌ってて気持ちいいわ♪
──って、そうよ。この後妹達が突撃してきて……
バッ!!
私は思い出したようにぼーくんを置いた机に振り向く。
「なぁ~ん?」
「みみ、みぃなぁ~……なんであんたはそうピンポイントにそこに座るぅぅ~!?」
いつの間にか起きていたのだろう。ミーナが机に置いていたぼーくんの上にお行儀よく、腰を降ろし、そのふさふさで長い尻尾を前面に丸め、前足を伸ばす。所謂「尻尾巻き座り」で、ぼーくんの「オフ」スイッチの上に鎮座してるじゃあないの……
「あはは! ミーナちゃんには敵わないわねアリサ姉さん!」
「ミーナちゃん、とてもいい仕事をされました♪ なでなでしますね」
「流石はミーナ大先輩でっす! アリスちゃんマジにそんけーでっす!」
あははは! ってもう~っ! せっかく気持ちよく歌えてたのに……
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【ティリアは音痴】~朝ごはん~《アリサview》
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「それにしても……それが昨日話してたベビードール? めちゃくちゃアリサ姉さんに似合うわね!」
「ほあぁっ!? しまった! 私このカッコで歌ってたのか!?」
ティリアに指摘されて思い出した、考えてみれば下着姿のままだったんだ。これで熱唱してたのかと思うと少し……いや、めっちゃ恥ずかしいわ!
「ふふっ着てくださって嬉しいです♪ アリサお姉さま、ちゃんと下まで合わせてくださってるんですね?」
「あはは、めんどくさいと上下揃ってない~ってこともやらかすんだよねぇ?」
下も合わせて……上下揃わず……? あ、ブラジャーとパンツの話しか。いや、これは……わざわざこれに着替えて寝たのは昨夜のアレで、パンツ汚したからで……うぅ! 恥ずかしいぃ~っ!!
「ね、寝間着に! その……良さそうだなぁ~って思って! あはは~は、恥ずかしいなもー!!」
笑って誤魔化す! このベビードールが寝間着に良さそうって思ったのも本心だし、このまま歌いまくってたのが恥ずかしいのも事実!
……いや、待ちたまへよ? 私この短時間でどんだけ恥をさらしてんのよ!?
「ああぁぁ~もぅ~……マジに恥ずいわぁ~トホホ」
改めて考えるとなんか情けなくなってきて、ヘタヘタ~と床に座り込んでしまう。
「まぁまぁアリサおねぇちゃん、元気出して! すっごく素敵だったんだから♪ ユニでも歌えるようなお歌あったら教えてほしいよ?」
「おー♪ いいねそれ! うちらにもなんか教えてよ~?」
「ん、みんなで歌お♪」
「ふふっ素敵。アリサお姉さま、何かいい歌はありませんか?」
うぅ、みんなの優しさが沁みるぜぃ!
「合唱かな? 楽しそう! 輪唱も面白そうよね!?」
「おぉ? ティリア様「合唱」に「輪唱」って何でっすか?」
(楽しい事なら歓迎ですよぉ~♪)
──それから集まったみんなに楽しくなりそうな陽気な歌とか、元気になれそうな応援ソングとか、本当に色々な歌を一緒に楽しんだよ。意外だったのがティリアで、私のなかで何でもそつなくこなすイメージがあったんだけど……ものっそい音痴だった!
(楽しいですねぇ♪ 楽しいですねぇ!)
「「ぷっぷ~♪」」「「ぷぅ~♪」」
「うぇん……なんでみんなそんなに上手いのよぉ~」
「そう言われましても……」
「プギャーww ティリア様ウケる~♪ ぼえ~って感じでっすねぇ~ぷくく!」
「うぐぐっ! アリスぅ~後で覚えてなさいよぉ~?」
楽しめたようで何よりだけど、アリスその辺にしときなさいよ~? まぁ、ティリアはともかく。一番上手いのはやっぱりと言うか、アルティレーネ! 何この子超美声なんですけど!? まさに女神って感じ!
レウィリリーネもフォレアルーネもアリスもかなり上手い。正直私は音楽についてはさっぱりわからない。さっきまで歌ってたのだって、それこそオーディオプレイヤーの如く再生していただけだしねぇ。因みに、ミーナはまたベッドに丸まって寝始めたよ。
「もう! アリスちゃん、ティリアさまをいじめちゃダメだよ?」
「にゅはは~♪ 「いじめて」ませ~ん。「いぢめて」るんでっすよぉん★ ユニちゃん先輩!」
えー? 何が違うのぉ~? ってユニ。ユニも初めての歌ってことでお世辞にも上手とは言えないけど……
「気にしなくていいよ~上手かろうが、下手だろうが「楽しい」って気持ちが大事なんだと思うからね」
「アリサ姉さ~ん」
そう言うとティリアが抱きついてくる、おーよしよし。
「おー♪ 流石アリサ姉!」
「さすアリさすアリ~♪」
「楽しむ……大切なことですね」
フォレアルーネとレウィリリーネがはしゃぎ出す。ちょっとレウィリリーネまで、さすアリやめなさいっての! アルティレーネはうんうん頷き、その通りだと納得してるみたいだね。
「うん! みんなでお歌歌うの楽しい~♪」
「マスター……なんて含蓄のあるお言葉~ありがたやありがたや!」
そんなに大層なこと言ってない。下手でもなんでも、それを笑ったりバカにしたりせずに一緒になって楽しめれば理想的でしょ? アリスには後でお仕置きしてやろう。そしてゆっくりでもいいから、少しずつ上達していければ最高だね♪ 私も頑張ってみようかな?
「ちょっと気になってたんだけどさ、冒険者達に課した訓練ってどんなの?」
朝からワイワイ楽しんだ後、片付けと支度を済ませてキッチンまで来た私達。朝ごはんを用意するかたわら、その手を休めず妹達に聞いてみる。
「寝てる間に夢の中でやる」
「睡眠学習ってやつか、それなら日中にも時間取られなくて済むね」
「そうそう、アイギっち達にはひたすらに訓練漬けの濃い日々を過ごしてもらうよ~」
ふむむん、レウィリリーネの話だと睡眠学習ってイメージが真っ先にわくけど、なんせ女神の妹達が用意してるくらいだから結構な効率なんだろうね。フォレアルーネがパンをつまみ食いしながら楽しそうに言うけど、大丈夫かな? 疲れが取れる、疲労回復効果がある何か……ポーションでも良いし、アロマでも作って見るか?
「どうも気になるんだよね……『悲涙の洞窟』で起きるスタンピート、それで溢れた魔物達って街を襲撃するんでしょう? 魔物達ってそんな組織だった行動するもんなのかね?」
「あ、やっぱりアリサ姉さんもそこ気になるわよね?」
「おそらく、何者かが意図的に行っているのでしょう……それを調べるために私とアリサお姉さまが同行するんです」
やっぱりそうだよね……五階層から下が今まで誰にも見つからないってのも変な話だし。それに名前も気になる。『悲涙の』なんて、どう聞いても明るい感じじゃない。
「マスターぁ~今日のご飯はなんですかぁ? このパンだけでもかなり美味しいでっすけど!」
「あーもぅアリスちゃんったらお行儀悪い! フォレアルーネさまもつまみ食いしちゃメーです!」
「あはは! ごめんごめんゆにゆに!」
「うぇっへっへ~すみませ~ん♪」
おっと、いけないいけない! ちゃんと料理に集中しなきゃね! パンは昨日いっぱい焼いたから一個や二個つまんでも平気だよ。そして今朝は昨日追加で仕込んでおいたコンソメに具をたっぷり入れたコンソメスープと、パンに目玉焼き。にんにくと塩、胡椒……じゃなくてコーチョで味付けした唐揚げだ。
「あぁ、お米が恋しいなぁ~爽矢のとこで米酒作ってるくらいだから聞いてみようかな?」
「ふふっ妖精達もまた食材を持ってくるそうですから、それにも期待できますね! チョコレートとかもあるかしら?」
「ん、楽しみ♪ いよいよ本格的に活動が始まる!」
そうだった、今日からいよいよ妖精さん達も増えて本格的に『聖域』で作物を作ったりする活動が始まる。色々な食材を自給自足できるなら料理の幅も拡がるだろう、アルティレーネご所望のカカオ豆からのチョコレートだって夢じゃないかもしれないね!
「う~ん……うちらも料理覚えるべきかな? 今のままだとアリサ姉に負担かかっちゃうよねぇ?」
「おぉ! それでしたらアリスちゃんは頑張りまっすよぉ~! マスターとぉ~うっフフ……仲良くいちゃいちゃお料理~♪」
「それは良いですね! 昨日妖精国との外交でもプリンが高評価でしたし……他国でも上手く使えば大きな武器になります」
うーん……確かにフォレアルーネの言う通りかもしれない、私は料理好きだけど、そればっかりやってる訳にもいかないのだ。でもフォレアルーネは農業班のリーダーだし、アリスはみんなの訓練担当だしで、みんながそれぞれの役割を持っている。
「じゃあ、アルティ。その外交の武器に使えるように暫く一緒に料理覚えようか? 他のみんなは時間が取れたとき教わるって事にしてさ」
(皆さん大事な役割がありますものね~わたしも手伝えたら良かったんですけどぉ~)
「ん、エスペル達モコプーはのんびりしてていい。アルティ姉さん頑張って♪」
このなかで一番集中して時間を取れるのがアルティレーネだろう。将来はどうなるかわからないけど、今の時点で政治的な事なんてそうそうないからね。レウィリリーネの言うようにエスペル達モコプーにまで手伝ってもらうような事はないだろう。この子達はミーナと一緒に仲良く遊んでのんびり過ごしてほしい。
「それでしたら玄武……水菜もアリサお姉さまからお料理を教えてもらいたいそうですし、誘ってみましょうか?」
「おぉ~いいねぇ♪ 今日来る妖精さん達に何品かふるまうつもりだから、是非誘ってみてよ! 「こう言う料理を作れます」って知ってもらってからの方が、教わる方も身が入るってもんだろうしね♪ 一緒に料理すればもっと仲良くなれそうだし」
妖精達のリクエストに、「レシピの提供」が含まれていたのを覚えておいでだろうか? それをかなえるべく、ちょっとした料理教室みたいなのを予定しているのだ。
いや、ぶっちゃけ前世の食レベルで考えれば、私の料理の手腕など、とてもじゃないけど人に教えられる程のものじゃあない。精々家庭の味ってところだ。でもこの世界は食文化が極めて低いって知った以上、できることはやりたいんだ。
「ふふっわかりました! ユニも一緒にお料理するんでしょう?」
「うんっ! えへへ~頑張ってお料理覚えていつかみんなに食べてもらうんだ!」
ふふっ♪ ユニも張り切ってるね! ユニが作る初めての料理は私が予約済みだ! 今から楽しみだよ。どんな料理を作ってくれるんだろうね?
「ただいま~♪ アリサ様~女神様~♪」
「ただいま戻りましてございます! アリサ様!」
「た、ただいまです……ふふ、何か恥ずかしいな♪」
「ただいまですわ、アリサ様、女神様」
おや、ようやく訓練に出ていたバルガス一家が帰って来たみたいだ。きっとアイギス達冒険者も一緒だろう。手を止めて火を消して出迎えよっと。
「お帰りなさいって、どうしたの!?」
「おかり~バルバル~って、おわぁ~だいじょぶなんそれ?」
玄関にバルガス達の出迎えに来てみれば、なんとまぁ~アイギス達冒険者がぶっ倒れて意識を失っている。ネヴュラとパルモーの浮遊で浮かされて連れてこられた五人。一体何があったんだろ?
「あわわ! アイギスのおにぃちゃん達どうしちゃったの!?」
「あっはっは♪ 無様でっすねぇ~? 目がぐるぐるしてるじゃないですかぁ~プフーww」
「こらこらアリス笑っちゃ駄目でしょう? 確かに面白い顔で気絶してるけどさ」
「ん、全力で飛ばし過ぎ」
「だいぶ躍起になって訓練されていたようですね?」
見たところ多少怪我してるみたいだけど、びっくりする程の大きな怪我はしていないね。アリスの言った通りみんな目を回して気絶してる。朝っぱらからぶっ倒れるほど訓練するとは……凄いわぁ、私なら絶対ごめんだけど。
「女神様方。一体どのような訓練を課したのです?」
「あんちゃん達スゲェよ! 昨日とはまるで別人みたいに強くなってたんだ!」
「まだまだ遅れはとりませんが……驚くほど動きが良くなっておりました」
「サーサさんの魔力も高まっておりましたわね」
相手をしていたバルガス達が揃ってアイギス達の上達ぶりに驚いている。妹達の用意した睡眠学習はそんなに凄いのか。何はともあれ、起こしましょうかね。
「あ……そうだ。丁度いいや、試作したポーション使ってもらおう! ホレ、起きて起きて!」
いつものように治癒魔法をかけようとして、かざした手を下げた。玄関に転がされた……もとい、床に寝かされたアイギス達を妹達と一緒にペチペチして、昨日サーサからもらったポーションを参考に『創薬』で作ってみた自作ポーションをミーにゃんポーチから取り出す。
そうしてるうちに冒険者のみんなが「う~ん」って唸って意識を取り戻したようだ。さて、妹達が課した訓練ってのは実際にどんな訓練だったのかも聞かせてもらいましょうかね。
アリサ「局所防音装置、「ぼーくん」( ≧∀≦)ノ」
ティリア「(´-ω-`)」
アルティレーネ「まぁ~! 凄いです(о^∇^о)」
レウィリリーネ「まだまだ……( ̄ー ̄)」
フォレアルーネ「他には(´・ω・`)?」
アリサ「点火装置「らいったくん」(  ̄ー ̄)」
ユニ「おぉ~簡単に火がつくね(^∇^)」
アリサ「携帯照明、「らいとーん」(´∀`)つ」
アリス「えっと……今後作る物は……(;`・ω・)?」
アリサ「髪を乾かす「どらいや~ん」(*/□\*)イヤーン」
アルティレーネ、ユニ以外の皆「ネーミングセンスぅ~(´Д`|||)」




