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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
28/211

28話 魔女とホットケーキ

──────────────────────────────

【ホットケーキ】~セルクルって凄いよ~

──────────────────────────────


「うーむ……どうしたものか……」


 アイギスが羽ペン片手に机に羊皮紙を広げて唸ってる。


「ホットケーキウマー!!」

「牛乳と良く合う……ん、最高♪」

「でっかくて、ふわっふわで甘くて……あぁ~幸せねぇ~スイーツ万歳!」

「もう、フォレアはもっと落ち着いて食べなさい。レウィリは頬に蜂蜜がついていますよ?」


 その隣で妹達、私が作ったシフォンケーキばりにふわっふわにしたホットケーキに舌鼓を打っている。フォレアルーネは小躍りして、レウィリリーネは無我夢中。ティリアはなんか万歳してて、アルティレーネは優雅に食べつつ妹二人を窘める。


「うわぁ、みんなもう食べちゃったの?」

「ユニちゃん~だって、だって! 美味しすぎるんだもの!!」

「デザートって言ったっけ? すげぇな……あれだけシチューにハンバーグ、パンを食ったってのに」

「ふほほ、いくらでも入ってしまうのぅ~うむ、美味い!」

「さ、流石に食べ過ぎかもしれません……ですが後悔はありません!」


 ものっそい勢いであっという間にホットケーキを平らげたのは欠食冒険者達。どんだけ食べるのよコイツらは……ユニもあきれてるんだけど? いや、美味しい美味しいって食べてくれるのは嬉しいけどね♪


「見ていて気持ちのいい食いっぷりだが……お前達、普段どんな食事をしてるんだ?」

「フェリア、そういう貴女も相当よ?」

「パルモーもな、落ち着いて味わって頂くのだぞ?」

「父ちゃん、そんなこと言ってると父ちゃんの分も食っちゃうぞ?」


 そしてバルガス一家、冒険者達程じゃないにせよこの家族も結構食べる。すました顔をしてるけどネヴュラも既に二枚目のホットケーキだし。パルモーは見た目相応というか、あぐあぐ懸命に食べる姿が可愛いねぇ~。


「はぐはぐ! うーん♪ おいっしぃぃでっすねぇぇぇ~♥️ ミルクに合いますぅぅ~♪ マスターマスター! おかわりほっしぃでぇーす!」


 ハイハイはーい! って騒ぐのはアリス。この子、本当に美味しそうに食べるんだよね。見てて嬉しくなるよ、でも既に三枚は食べてるから少し自重してほしいかな?


(美味しいですね♪ 美味しいですね♪ 魔女様~おかわり下さい!)

「「ぷぷーぅ♪」」「「「ぷー!」」」

「にゃーん、うにゃーん!」


 エスペル達モコプーもミーナもおかわりをご所望ですか、そうですか♪ よかろうよかろう、たらふく食べさせてあげようじゃないの!


「アイギス、筆が進まないなら少し気分転換しましょ? 追加のホットケーキ焼くから手伝って? サーサ、あんたも来んしゃい。教えるから」

「あ、はい! かしこまりましたアリサ様!」

「はーい♪ 絶対覚えます!」

「ユニもユニも~!」


 アイギス、サーサ、ユニを連れ立って再びキッチンへ。卵に薄力粉、牛乳、砂糖をを用意してさぁ作ろうか。


「サーサ、ユニ。ボウルに水滴とか油とか付いてないかしっかり見てちょうだい。卵白と卵黄に分けるわよん」


 ベーキングパウダーとか、それが予め入ってるホットケーキミックスとか便利な物なんてないけど、ふわっふわのホットケーキにしたいって言うなら、なんと言ってもメレンゲが命。しっかり泡立てるためにもボウルの状態は必ず確認しよう。


「アイギスは砂糖、薄力粉に牛乳をしっかり計量してちょうだい。一つでも間違えれば全部台無しになる重要な仕事よ? やれる?」

「そ、それほど迄に重要な役割を私に! はい! 微力を尽くします!」


 大袈裟だけどね~まぁ、最初だしこのくらいの意気込みで良いだろう。


「アリサおねぇちゃん見て~♪」「ボウルはバッチリです!」

「うん、いいね。じゃあ卵を卵白と卵黄に分けるからね、まずは見てて」


 ユニとサーサからそれぞれボウルを受け取り確認し、大丈夫と判断。早速卵を割って卵白と卵黄とに分ける、この時大事なのが、卵白に卵黄を混ぜないように注意することだ。


「卵を勢いよく割っちゃうと、卵黄がつぶれたりして混ざっちゃうから気を付けてね?」


 割った殻と殻で卵黄を傷付けないように、卵白だけをボウルに落として行く。残った卵黄はもう片方のボウルへ。これを用意した分繰り返して、卵白のボウルを魔法でやや冷やすのだ。泡が立ちやすくなるからね。


「まずは何も入れずそのままかき混ぜて泡立てる。はい、サーサこれが泡立て器。やってみそ?」

「はい、頑張ります!」


シャカシャカシャカシャカシャカシャカーッ!!!


 混ぜる混ぜる、頑張れ頑張れ~明日は筋肉痛だぞ~♪


「でさ、アイギスはさっき何悩んでたの?」

「えぇ、『聖域』の調査の速報と我々の無事をギルマスに伝えようと思い筆を取ったのですが……」


 あー、そっか結構決死の覚悟決めて『聖域』行きを決断したら、見送りも大分派手だったとか言ってたね。そりゃ街のみんなもさぞや心配してるだろう、うんうん。無事だよってお手紙送るのはいいねぇ。


「私の腕が治った事を書こうにも、神々の雫(ソーマ)のことは書けませんし。アリサ様を含め、女神様方の事を、果たして書いていいものかどうか……」

「まぁ、間違いなく! はぁはぁ……ギルドは! 混乱! する、でしょう! ね!」


シャカシャカシャカ!! シャカシャカシャカ!!


「ひぇぇ、そんなにいっぱい混ぜないといけないの? サーサおねえちゃん大変そう!」


 ふむ、街の人達にとってはビッグニュースかぁ~まぁ、でも……ある程度は仕方ないんじゃないかしらん? ティリアからは私とアルティレーネに街に着いていくようにって言われたし。その辺りの詳しい話も含めて相談してみようか?


「あ、アリサ様っ! い、如何で、しょうか!?」


 お、混ぜ終わったかな? 息も絶え絶えのサーサが私にボウルを見せる。


「あー……全然足りないね、残念!」

「う、嘘でしょう……? もう、腕が動きません」


 そうなんだよね~メレンゲ作るのってホント大変なんだよ……ハンドミキサーがないと私も根をあげるよ。


「まぁ、ちょいとは泡が立って来てるし……砂糖を少しだけ加えてっと、じゃあアイギス、やってみそ?」

「はい! いきます!!」

「アイギス、私の腕の仇を!」


シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカーッ!!


 おー、速い速い! いいぞ~頑張れ~♪


「おぉ、凄いスゴイ! がんばれーアイギスおにぃちゃーん♪」

「うおおおぉぉぉーっ!!」


 はい、そんなワケでね……


「はぁはぁはぁ……ど、どうで……しょうか?」


 頑張ったアイギス。明日は筋肉痛よろしくだねぇ~♪ でも、ホント頑張った、泡立った卵白はもう少しで角が立つってところまで来てるよ。ここまで手でやるのってホントに大変なんだよ。


「うん、もう一息だよ、後は私がやるね。泡立て器にこうゆっくり魔力を込めていって……」


フィーン、フォオォーンッ!


 私が魔力を込めることで泡立て器が廻りだす、徐々に回転を速めていき、メレンゲを泡立てる。


「ふぇっ!? 風属性魔法……いえ、違う。純粋な魔力を通して回転させているのですね?」

「は、速い……こういった魔力の使い方もあるのだな。流石アリサ様だ!」

「ユニのおねぇちゃんなんだよ! 凄いでしょ!?」


 魔力を電気に見立てて、ハンドミキサーにする。風魔法でもいいけど高確率で飛び散るからね……むつかしいのよん。よし、出来た。


「ほら、見てみ~? ボウルを逆さにしても落ちて来ないでしょ? これでメレンゲ完成ね」

「ツヤツヤして角が出来てますね、なるほどここまでやるんですね」

「まとめると、卵白と卵黄に分ける時に、卵黄が混じらないように注意。卵白は少し冷やす。軽く混ぜたら砂糖を三分の一加えて泡立てる。更に三分の一砂糖を加えて泡立てる。もういっちょ三分の一砂糖を加えて泡立てる。三回に分けて砂糖を加えるのがポイントだよ。もしあるならレモン汁を数滴混ぜると萎みにくいホットケーキになるからね」


 サーサがアイギスから羊皮紙をひったくってメモを取って、うんうん頷く。いいのかそれ使っちゃって? アイギスを見れば困った顔をしてるけど……


「まぁ、まだ羊皮紙はありますから……大丈夫ですよ、ははは……」


 サーサがほほ~って感心してる横で今度は卵黄を潰して軽く混ぜて、牛乳を入れる。ヨーグルトとかあれば尚良しだけど、ないからしょうがない。続けて蜂蜜、これはジュンが分けてくれた物ね。「美味しいんだぞー! アリサ様食べてー!」って、お裾分けしてくれたのだ。嬉しかったのでいっぱい撫でてあげたよ♪


「卵黄の方は一つ一つしっかり混ぜ合わせる事だね、一回一回ダマがなくなるまでしっかりね! 薄力粉はきちんとふるって、三回に分けて。都度しっかり混ぜてダマを残さない」

「ねちっとしてきました! この後はメレンゲ投入ですか?」

「そだよ、メレンゲを少し入れてしっかり混ぜて~乳化の核を作るのね」


 横で見てるサーサが様子を実況して質問してくるので答えてあげつつ、卵黄の方にメレンゲを少し入れて混ぜる。こうすると乳化の核ができて、メレンゲの気泡が潰れにくくなって、混ざりやすくなるんだよ。


「しっかり混ぜたら一気に残りのメレンゲを入れてサックリと混ぜる!」

「サックリとですか? しっかりとではなく?」


 今度はアイギスから質問がくる。そう、ここで大事なのは如何にメレンゲの気泡を潰すことなく混ぜ合わせるか。なので、あんまりガッツリ混ぜると折角の泡が潰れて膨らんでくれないのだ。


「はい! こんな感じでヘラで持ち上げた時にもたっとしてればオッケーかな。さぁ、いよいよ焼き上げるよ~♪」


 コンロにフライパンを用意して、油をひく。この時キッチンペーパーでフライパン全体に油を馴染ませ、余分な油を残さないこと。火は弱火でね!


「さぁ、ここで登場しますのが秘密兵器! セルクルだーっ!」

「うん? アリサおねぇちゃん……それ、ただの鉄の輪っかに見えるよ?」

「お、同じくですアリサ様……」

「秘密兵器……ですか?」


 ちょっと~なんでそんな残念そうな顔をすんのよみんなして……凄いんだぞセルクルは!? ふん、見てるがいい!


「はい、真ん中にセルクルどーん! 真上から生地入れて、四隅に差し水ちょんちょん。蓋をして大体十分!」

「……今まで食材を適当に切って塩を振って焼く。それだけだったのですが、ここまで複雑な工程を経て出来上がるのですね」

「焼き魚はそれだけで十分美味しいですけどね……私、もっと料理の勉強をしたいです」


 どうもこの世界の食事情は悲しいまでに進んでいない。いっそのこと飯テロでも起こしてくれようか? 食文化に革命を起こすのだ! 美味しいの食べればみんなハッピーだろう!

 なんてバカな事を話して笑いあっていると十分が経過、蓋を取って箸を使ってホットケーキの表面をちょこんと触る。


「うん、生地がくっついてこないね。ひっくり返そう」


 返しヘラで崩れないように慎重に上下をひっくり返して、セルクルを外す。生地に触れないように、再度四隅に差し水をして蓋をのせて……約五分待つべし。


「後はこうやって串を刺してみて、抜いた時に生地がくっついてこなければ完成だよ♪」

「わぁ~♪ アリサおねぇちゃん美味しそうだよ!」


 そうでしょうそうでしょう~? しかしこの世界の薄力粉はやっぱり前世のと少し違う気がするね。ベーキングパウダー無しでここまで膨らむなんて……この辺も要検証かな? 美味しく作れて食べられるから問題はないけどね。


「さぁ、この調子でどんどん作ろう!」


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【かつての三国家】~お手紙どうしよう?~

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「あぁ、んぐんぐ……そこ話す前にさ、美味しい♪ ちょっと冒険者達に確認しときたいんだけど。あ、アリサ姉さん牛乳とって~? ありがと♪ うん、最高!」

「もう、お行儀悪いよティリア? しゃべるか食べるか、どっちかに!」


 おかわり分のホットケーキを焼き上げて、みんなに配った後、さっきアイギスが悩んでた『聖域』調査の速報と無事を知らせるお手紙について妹達に相談したところなんだけど。


「ごふぇんごふぇん、代わりにあるふぃふぇつめいしてあふぇえ?」

「もう、ティリア姉さまったら……端的に申しますと、私達『神』は貴殿方を救済するような存在ではありません。その事をちゃんと認識出来ていますか?」

「ええ、勿論承知しております」


 つまり、この世界に生きる人達の未来は、その人達の物であるべきって事らしい。

 神は別に住民達に関与しないし、請われたり、崇められたりしても手を出したりしないよ~? って言う話だ。世界を借家って言い替えればわかりやすいかな? 家主である妹達は、住人達のトラブルには関わらない。


「ん、住民の問題は住民が解決すべき」

「うち等が手を出すのは世界が壊されそうな事態が発生したときだかんね~」

「かつての魔神との戦いに巻き込まれ、滅んでしまった三国家は例外ですが……」


 何故その三国家だけ例外なんだろう? って聞けば、その三国家は魔神との戦いに全面的に協力を申し出た国家だそうだ。他国が魔神との戦いに妹達を糾弾する最中、共に戦うと言ってくれたのだそうな。


「嬉しかったなぁ~あのときうち等みんなからメタクソに文句言われててさぁ……」

「泣きたくなった……ん、ウソ……泣いた……」

「そんななか、『我等神と共に在らん!』『神の創りたもうた世界護らんが為に!』『神の嘆き我等が収めん!』と……なんと雄々しく立ち上がってくれた事でしょうか」


 三人の妹達が涙ぐむ……そっかぁ~それは嬉しいよね。四面楚歌のなか味方してくれた三国家の恩、忘れちゃいけないよね!


「それがかつて女神に祝福を受けた三国家。『セリアルティ』『リーネ・リュール』『ルーネ・フォレスト』なのですね?」


 アイギスが成る程と頷く。


「正確には~『セリア王国』『リュール王国』『フォレスト王国』だったんだ~」

「あたし達が祝福を授けた事で、それぞれの名を冠するようになった」


 へぇ~そうなんだ、国としても名誉な事なのかな? なんせ創造神の名前をもらえたんだし。うーん、それだけに魔神共に滅ぼされちゃったのは悲しいねぇ……


「そんな事情があったのね……でもその他の国って腹立つわね! 泣いてる女の子三人によってたかって難癖つけてきたなんて、許せないわ!」

「まぁまぁ、そう言うでないレイリーアよ。他国も魔神の軍勢に襲われ、藁にもすがる思いだったのじゃろうて……そう、儂等があるかもわからぬ神々の雫(ソーマ)を求め、この『聖域』に来ることを決意したようにのぅ……」


 私はどっちの気持ちもわかるけどね、レイリーアの言った事を絵面で想像すれば、確かにロクデナシ共だなぁ~って思うし。妹達になにすんだーって怒鳴りたくもなる。

 でも、魔神の残滓や、メルドレードの影と戦ったからその恐ろしさも知ってる。そんな軍勢に襲われて手も足も出ずにやられちゃったら、「何とかして!?」って言いたくもなるよ。


「……そう考えるとよ、その三国家ってすげぇな?」

「ですね、最後まで諦めずに女神様達に寄り添ったのですから……」

「ああ、私達もかくありたいものだ、精進せねばならんな」


 ゼルワにサーサ、アイギスが三国家に感心しているね、うん、私も同じ気持ちだ。人の本質は窮地に立たされてわかるものだって言うし……その最中に妹達を思い、共に戦うのだと決断したんだからね……人じゃなくて国単位でだよ? 自然と敬意がわいてくるよ。


「もし会えるなら会いたいな~フォレストくんの子孫達……」

「ん、あたしもリュールの子孫がいるなら会って沢山お礼したい……」

「そうですね……私も同じ気持ちです、と……済みません湿っぽくなってしまいましたね」


 今なき故人を偲び遠い目をする妹達……アルティレーネが慌てて取り繕うけど、良いんだよ? 大事な事だもんね。その気持ちは大切にしてほしいよ。


「私達の在り方をしっかりと理解されている方に、その手紙を出すと言うのなら、書いて下さって構いませんよ?」

「あい。アリサさんが質問するぞい?」


 ここで私が挙手。ちょいと気になったんだけど……


「ギルマスに送るんだよね? そのギルマスから他の誰かに伝わる可能性はないのん? 例えば他の国の冒険者ギルドとかに伝わったりは?」

「そう……ですね、無いとは言い切れません。例えば、危険な魔物の棲息地が発見された場合等は注意換気のため、使い魔や、伝書鳩と言ったあらゆる手段で各国の冒険者ギルドに広まります」


 アイギスがわかりやすい例えで教えてくれた。あー、やっぱりそうだよねぇ……ちゃんと組織だった活動してるんだからそうなるわねぇ~となると……


「じゃあ、そのギルマスさんはこっちが「この辺は内緒にしてね?」って言えば聞いてくれるような融通利く人かな?」

「うむ、大丈夫ですぞアリサ様。ゼオンは秘密はしっかり守る実直な男じゃて」

「サブマスのエミルにも伝わるかもしれませんけれど……彼もまた真面目ですから」


 ドガとサーサが大丈夫って言い切るなら大丈夫なんだろう。安心していいかもしれないね!


「『聖域』の外の人達にとって、妹達……女神の顕現ってのは結構なニュースなんでしょう?」


 アイギス達もアルティレーネ達が女神って知ったら凄くびっくりしてたもんね……下手に知れ渡ったら街中大パニックになっちゃうかもしれないし、私とアルティが街に行った時に、騒ぎ立てられても困る。


「じゃあ、ぼかして書いてもらったらいいんじゃないかしら? 「協力してくれた方のおかげで腕は治った、今度街に連れてくから調査内容についてはその時に報告する」とか書いておけば、向こうも騒ぐ事はないでしょ?」

「ナイス♪ ティリア! それで良いんじゃないアイギス?」

「畏まりました、御配慮痛み入ります」


 良いね! その内容なら確かに騒がれるって事はなくなるね。流石ティリアだ! って……なによ? その物欲しそうな目は……あぁ、はいはい撫でてほしいのね? 褒めてほしいのね?


「ふふっやった! アリサ姉さん、好き♥️」

「うんうん、私もティリアのこと大好きだよ~♪」


 なでなで。さて、じゃあ続きを聞こうか?


「あう?」


 いや、あう? じゃなくてさ。


「私とアルティを街にやる理由はなんぞ? って話よ?」

「おぉ! そうだわ! そうそう、アイギス達もよくお聞きなさい~?」


 マジに忘れてたのかな? 思い出したように手をポンってして姿勢を正すティリアの前に、アイギス達『白銀』のみんなが真剣な顔つきになった。


「朝話した『悲涙の洞窟』ね、アリサ姉さんが説明した通り、六階層から下の階層に魔力が大分溜まっているわ。もうすぐ五階層っていう蓋が開くのも確かよ」


 うん、ティリアは自分でもしっかり調べてくれたみたいだね。


「魔力っていう水が沸騰して起きるスタンピート、それが繰り返される事によって、魔力の濃度が高まっているの」

「だからスタンピートの発生頻度が高まっているのですね?」

「それだけじゃないわ。アイギス、あんたの腕を奪ったホーンライガー。今までにそんなヤツが出てきたことはあった?」

「「「「「!!?」」」」」


 アイギス達が息を飲む。そうか、そう言うことか……『悲涙の洞窟』の最下層で何が起きてるかまではわからないけど……多分模倣された『迷宮核(ダンジョンコア)』が魔力を収集し続け、スタンピートを繰り返し、それによって濃縮された魔力でより強い魔物を生み出しているのだろう。


「ティリア姉様……それはつまり……」

「……世界を壊すほどの力を持つ存在の現出の可能性があるわね。だからアルティとアリサ姉さんに一緒に行ってもらいたいのよ」


 なるほどねぇ、これは私ものんびりしてられないかもしれないね……『聖域』を離れる事になるから、その間のみんなとの連絡網も構築しておきたい。他にも思い付く事はやれるだけやっておこう、そして……


「アリス。バルガス、ネヴュラ!」

「はいはーいはいマスター♪」

「はっバルガスここに!」

「お呼びでしょうかアリサ様!」


 呼ばれたアリスが嬉しそうに寄ってくる、バルガスとネヴュラも即座に席を立ち側に来る。


「この三人も連れてくよ、いいよね?」

「うん。勿論! 正直言えばもっと連れて行ってほしいけど、『聖域』での役割もあるもんね」

「大丈夫、その辺は私が何とかするよ。いくつか思い付いたイメージあるからさ。ティリアは私の代わりに『聖域』の総指揮をお願いするね?」


 後はシドウあたりに相談しとくかな、なんだかんだで頼りになるからね!


「オッケー、任せて! そしてアイギス達だけど……」

「「「「「はいっ!!」」」」」


 ティリアがアイギス達に向き直り告げた。「死に物狂いで強くなりなさい」と。確かにこの『聖域』に棲息するクラスの魔物が溢れ出したらとてもじゃないけど今の彼等では持ち堪えられないだろう。予想される次のスタンピートまでそう日はない。


「──アーグラス達も通った、神の課す訓練。加護の無い今のあんた達じゃ途中で死ぬかもしれないけど……」


 うおぉ? なんかスッゴい物騒ね、大丈夫なのそれ? もしかしてブラフ? アイギス達の覚悟を試してるのかな? うわ、ティリアの目が据わってる……これはマジっぽい。


「はっ! 上等! 勇者だのなんだの関係ねぇぜティリア様!」

「ふんっ! ドワーフロードのジドルがなんぼのモンじゃい!」

「そうね、前世のナーゼがどれ程のものかは知らないけど、加護なんてなくてもやれるってこと見せてあげるわ」

「見せてご覧にいれますよ……私達の可能性を!」


 凄い……迷いも躊躇もしないの!? 私だったら絶対嫌なんだけど!? あれ、アイギスは? もしかしてびびったかな? 私はアイギスの方に目を向けて見たんだけど……


「……」


ドキッ!!


 えっ、びっくりした……アイギス……なんて真剣な顔だろう、鬼気迫ると言うか……何かを決意したような……強い意思を秘めた瞳……目が、離せない……


「アリサ様」

「は、はい!」


 突然名前を呼ばれてまたまたびっくりしちゃったよ! だってだって、なんだか知らないけどドキドキするんだもん! な、なにコレ!?


「私はアーグラスではありません……これは良い機会です。私が先に言った言葉、「大切なのは今である」事を証明して見せます!」


 貴女がもう、前世の記憶(過去)に縛られる事の無いように!

 あ、う……わ、私のため……? え、なに……胸が、鼓動が速くなるっ! ドキドキが、こんなに! 聞こえちゃいそう! アイギスから目を離せないよ……顔が熱い、私、私どうしちゃったの~!?


「あ、アイギス……」

「っておいこらー!! アイギっち!」

「んーっ!! どさくさに紛れて!」

「アリサお姉さまを口説くなんて……」

「妹の私達の目の前で、いい度胸してるじゃないの?」


 おわあっ!!! ガバッってフォレアルーネに腕を引っ張られてぎゅーってされたと思ったら、レウィリリーネ、アルティレーネ、ティリアがアイギスの前に立ち塞がって私とアイギスを引き離した。


「口説くっ!? あ、いえ……私はただ思った事を……はっ!」


ポン。


「貴方の気持ちは良くわかりましたよ……アイギスさん」


 狼狽えるアイギスの肩に手が置かれる。振り向くアイギスに、穏やかに微笑むアリス。つーってアイギスの頬を冷たい汗が流れる。


「──死にたいならもっと早く仰って下されば良かったのに。うっふふふふふふ♪」

「はっはは……あ、アリス殿」


 ぶっっっっころがしいいぃぃぃーーーっっっ!!!!!! うおぉぉぉっっ!!!?? って叫ぶ二人!! おおぉっ!? アイギスが防いだぞ! 魔力を乗せた強烈な右ストレートだったぞぅ、よく防げたね!? って止めなきゃ! なに観戦してんだ私は!


「ストーップ! アリス、やめて!」

「止めないで下さいマスター!! このどすけべ変態ナイトはここで塵に還します! マスターの貞操はアリスちゃんがおっ護り~しまぁぁーすっ!!」


 てっ、貞操!? な、何を言い出すんんだこの子は!! とにかくやめなさいってば!


「アリスちゃん! メッ!!」


 ピタリ。と、アリスが動きを止めた。そう、ユニが立ちはだかったのだ! おぉぉ、眉をつり上げてほっぺぷくーってしては、両の手を腰にあて、むーってしてるユニ! 可愛い!


「もうっ! アリサおねぇちゃんを困らせちゃダメだよ!」

「で、でもユニちゃん……このどすけべむっつりナイトはマスターになにしでかすか……」

「メッ! 先輩の言うことはちゃんと聞くの!」


 はわぁーっ!! 先輩風吹かすユニがぎゃんかわ~♪ コレには流石のアリスもかなわない!


「ほら、ちゃんとごめんなさいしよ? アリスちゃん?」

「はいユニちゃん先輩! 皆さんお騒がせしてごめんなさい!」


 さーっせんしたぁっ!! って勢いよく頭を下げるアリスでした。凄いぞユニ! 暴走するアリスをこうも簡単に収めてくれるとは!


「うん♪ ちゃんとごめんなさいできてえらいよアリスちゃん! いい子いい子♪」

「うぇへへ~♪ ありがとうございますユニちゃん先輩★」


 ニコニコ笑顔でアリスを撫でるユニ、ほわわ~って嬉しそうな顔するアリス。ふふっ、朝に話した家族云々を早速実践してるみたいだね。本当にユニは素直でいい子♪ 大好き♥️


──────────────────────────────

【やだもー! 魔女さんのぇっち!】~なに想像したの?~

──────────────────────────────


「じゃあ、腕を上げてみて。うん、何か違和感感じるとかは無い?」

「はい、大丈夫ですね。おかしいと感じるところは特に……」

「この古傷は? 少し突っ張ったりするんじゃない?」

「あ、それは大分昔からですので……」


 リビングでの騒動も収まって、ギルドに出す手紙を今夜の内に書くことになったアイギス。書いた手紙は明日の朝に妹達が一通り目を通してから、サーサの使い魔が運ぶんだって。

 そして、ところ変わってアイギスに宛がった部屋。朝に治したアイギスの腕の具合を診る為に、彼の診察……の真似事みたいな事をしている最中。治した腕は問題なく動くみたいで一安心したところで、改めてアイギスの上半身を診ると結構傷だらけだった。

 特に背中の古傷は結構大きく、大きな猛獣の爪にでも裂かれたのか? その痕がくっきりと残っている。


「一応治しておこうね、無意識レベルで動きに制限かかっちゃってるかもしれないから」

「ありがとうございますアリサ様、感謝します!」


 良いってことよ~♪ ほい、治癒魔法っと! さ、治ったよ、どうだべ?


「!! これは……えぇっ! 動きます! 今まで少し固かった両腕が!」

「良かった良かった、結構深い傷だったから、今までその背中の古傷に引っ張られてたんじゃないかな? テキトーな診断だけどね。他の古傷は支障無い?」

「えぇ、大丈夫です! 本当にありがとうございます!」


 んむ、まぁ、男にとって古傷は勲章みたいなもんだし身体動かすのに支障無ければそのままでも良いだろう。嬉しそうに腕を回したりして喜ぶアイギス。


「でもまた随分とでっかい傷痕だったねぇ、なにしたんよ?」

「あ、えぇと……お恥ずかしい話ですが、いえ……私の未熟が招いたものですよ」


 んん~? コイツが言い淀むってことは~。


「未熟なりに誰かを庇った名誉ある負傷とか?」

「そんな! 名誉だなんて……私がもっとしっかり盾役を努めていれば、あのクエストだって達成できていたんです。私が負傷したことで魔物の攻撃を凌ぎきれなくなってしまい、やむなく撤退。クエストは失敗に終わってしまった」

「その時他のみんなは? 誰か怪我しちゃったの?」

「いえ、私だけです……」


 ふぅん~♪ そういう事か……言い替えればアイギスのお陰で誰も怪我しないで済んだって事じゃない? ふふっ、いいなぁ~アイギスのその謙虚と言うか、自分に厳しいとこ? 好きだなぁ♪

 しかし……私も元男だったからわかるけど……アイギスの実戦で鍛え上げたその肉体に感心してしまう。剣や盾を持ち支え、振り回すのであろうその腕の太さ、普段重い鎧に護られる胸板の厚さ、太い首に広い肩幅、腹筋なんて勿論バッキバキに割れている。


「すんげぇ~血管浮き出るほど鍛えられた筋肉って初めて見るかも……」


 手で軽くペチペチしてみればその固さが伝わってくる。「逞しい」とはまさにアイギスみたいな身体の人の事を言うんだろうね……私みたいにぷにぷにじゃない、ガッチリした男性の身体だ。

 もしも……もしもだよ?

 この逞しい腕で、ぎゅってされたら……私、どうなっちゃう……かな……? 広い胸板にすっぽり納まっちゃう……?

 あぅ、またドキドキしてきた! 何を考えてるんだってばよ私は!?


「そうだ、さっきはアリスがごめんねぇ~? 後で良く言ってきかせるから」


 慌てて咄嗟に思い付いた話題をふる。このドキドキ聞こえてないよね!?


「いえ、それだけアリサ様を想っての行動だと思いますから。いずれ必ずアリス殿にも認めて頂いて、そして……」


 うん? アリスにも認めてもらって……どうすっ!?


(マスターの貞操はアリスちゃんがおっ護り~しまぁぁーすっ!!)


 途中でアリスの言葉を思い出した!! えっ……ウソ、アリスにも認めてもらってって……えぇっ!? うわわっドキドキが加速する!! えっ!? えっ!?

 よくよく考えてみれば今の状況も、ひっじょーに! 『アレ』なのではないかっ!!? 上半身裸の男性(アイギス)と、なんちゃって女子だけど、女子()が一つのベットに隣り合って腰かけて、私はアイギスの身体をペチペチと……!!


ぬわわああぁぁーっっ!!!???


 やっばーい!! ヤバいヤバい!! 変な妄想が暴走する! あっちょっと並列意思! 勝手にデュアルモニター出すんじゃない!? 何よその角度! 「スティンバァーイおぅけぃ!」じゃあねぇのよーっ!?


「はうぁ!!??」

「アリサ様? 如何されましたか?」


 え……嘘。こ、コレって……


「あぁ、ごめんごめん。もう服着ていいよ~時間取らせてごめんね。じゃあ、私戻るからゆっくり休んでね?」

「はい! 本当にありがとうございましたアリサ様。お休みなさいませ!」


 おやすみ~♪ パタン……と、なんとか平静を保って扉を閉める。そして……()()使()()()()()()()()()()()へと向かい、個室で『ソレ』を確認した。


(ああぁぁぁーっ!? コレって、あわわ……お、女の子がその、『そう言う気分』が高まった時に起きる……アレだよねぇ!!?)


 うわあーっ! 私ってばなに考えてんのぉぉ~! は、恥ずかしすぎるぅぅーっ!! とんでもない自己嫌悪に陥ったよ! もー! 反省! 反省しなさいアリサぁーっ!!


(そりゃあ『不滅』持ちでも大丈夫って聞いてたけど、実際にこうして目の当たりにすると……強烈に自覚しちゃう! 私……やっぱり、女の子なんだ!!)


 でも、だからって会ったばかりの人にコレって……ないよね……ふぇーん、変態か私はぁ~?

 私はトイレの個室で猛省しつつ、パンツをはきかえるのでした……トホホ。

サーサ「ああああ……う、腕がぁ~(つд;*)」

アリサ「あはは、お疲れ様(。*・д・。)ノ」

アイギス「私も腕がパンパンだ……( ´Д`)」

ユニ「うぅ、ユニにはむつかしそう~(-""-;)」

アリサ「まぁ、ここまで処理しなくても全部ぶっこんで混ぜて焼くだけでも全然いいんだけどね(^_^;)ほら、こんな感じ( ゜∀゜)つ」

サーサ「……膨らんでませんね(´・ω・`)」

ユニ「( ̄O ̄)んぐんぐ……ボソッてしてる……」

アイギス「これはこれで美味しいですが……こうも変わるのですね(・o・)」

アリサ「ちょっと面倒だなって時はこっちでもいいかもね(´・∀・`)」

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