25話 魔女と一緒にお散歩
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【頑張る冒険者】~東にお散歩~《アリスview》
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「ウキー! キキー!」
「くそっ! 速ぇなコイツ等!」
シュババッ!! スカッ! スカスカッ!!
「プギィーッ!!」
「むんっ! 行かせるか!!」
ドゴォーンッ!!
「射抜け! アローレイン!」
「ウキー!?」「ウキャッ!」「ウッキキー!」
「水よ地に渡りて足枷となれ! マッドトラップ!」
「ぎゃぷー!」
はい、みなさんこんにちは。アリスでーす♪ 冒頭からなんかやかましいんですが、ごめんなさ~い! 『白銀』の連中がぁですね~『どんぐりモンキー』とぉ~『ビックリィノッシー』とぉ~『バカダケキノコ』を相手に戯れてるんですよねぇ~!
え? ふざけてるのかって? いえいえ! とんでもねぇでございますよ? そう言う名前の魔物達なんですってば!
「はぁ~絶対フォレアが考えた名前でしょーねぇ、ゼルワ~後ろ、レイリーアはもっと動き回った方がいいよ~?」
「ドガよ、もっと腰をのせて斧を振るえ、その程度で倒れる猪ではないぞ?」
「サーサさん、キノコに泥トラップなんて効かねぇですよぉ汚れるだけでって、言った側から押し倒されてますねぇ」
はい、アリス達は今、『聖域』の東の端。冒険者のみなさんがやって来たっていう岩山付近にいます。
朝一から始まった会議も済んで、アリス達は早速各班にわかれて行動を始めたんですわこれが。
まぁ、ティリア様の『建築班』とレウィリリーネ様の『酪農班』そしてフォレアルーネ様の『農業班』は牧場だの畑だの神殿だの作るにしてもまずは、何処に何を~ってところから、地質を調査して~だの小難しい事話し合っていますけどねぇ~。アルティレーネ様はすっとこ女王のティターニアと今後の方針を~って事で護衛の聖魔霊夫婦連れて妖精の国へと外交にお出掛け。
「うわぁ~ん! なんとかやっつけましたけど……どろどろ~グスン……」
氷槍でバカダケキノコをザックリやったエルフのサーサさんが涙目で起き上がります、可哀想に全身泥塗れになって……プフフ♪ おっと、笑っちゃいけませんねぇ~アリスちゃん、はんせー! きゃる~ん★
で、アリス達『探索班』は、むっつりスケベのアイギスさんの盾を回収ついでに、冒険者達がどうやってこの『聖域』に侵入したのか? その経路を確認しましたよぅ。なんでも『魔導船』とか言うエルフの魔法技術の粋を結集した携帯可能な船で海を渡って来たそうです。まぁ、その船もあっさりマスターに模倣されてサーサさんとゼルワさんが目を丸くしてたのには笑いを抑えるの大変でしたけどね~♪ さっすがアリスのマスター! プラモデルってなんですかぁ?
「あーあ、もうしょうがないわねぇ~ほらサーサ、汚れ落とし」
「あわわ、アリサ様ありがとうございます!」
マスターが見かねてサーサさんの汚れを魔法で落としました、よかったですね!
マスターの転移で、東の端に飛んだアリス達。囲む岩山をどうやって登ったのかと問えばこれもまたサーサさんの魔法で身を軽くして登ったって話でした。うーん、サーサさん大分重要なポジションにいるんですねぇ。
「捉えたぜ! くたばれ猿共っ! 疾風斬!」
「ギィーッ!」「ウキャーッ!」
「爽矢さんの領域だからかしらね? 風の属性が強いみたい! 貫けウインドアロー!」
「ウッキーッ!?」
ゼルワさんもレイリーアさんもそれぞれにどんぐりモンキーを討伐。ようやっと気付いたんですねぇ~「東の青龍」って言われるようにここは爽矢のテリトリー。当然司る風の属性が強まるんですよ。
「ドガ! 決めるぞ! おぉぉっ!!」「応! 任せぃ! どりゃあぁっ!!」
ザシュッ!! ズドォーンッ!!
気合い一閃、アイギスさんとドガさんの渾身の一撃がビックリィノッシーに叩き込まれました!
「プギィィーッ!!?」
断末魔をあげてドスーンッって倒れる猪さん、南無~。やれやれ、ようやっと終わりましたか……この調子ですと屋敷に帰るまでに日が暮れますよぅ? まぁ、マスターが転移使えば一瞬ですけどね。
「ふむ、女神の加護も無しによくぞここまでの技量を身に付けたものだ。敬服するぞ?」
同行している爽矢が冒険者達を誉めてますねぇ~確かにアリス達から見れば物足りないように見えますが、一般の冒険者として見れば相当な実力です。襲ってきた猿も猪もキノコも冒険者から見ればSランクの魔物なんですよ? それを多少手こずりはしたものの、全員被害は軽傷程度に済ませて討伐を果たしました。ウヒョヒョ♪ これは鍛え甲斐がありそうでっすよぉ~! 特にあのむっつりナイトは悉くマスターと急接近してやがり下さってますからねぇぇ~っ!!
「どう、アリス? 貴女から見てアイギス達は? 強くしてあげられそうかな?」
「くふぅ~隙を見てぶっころがして……え? えぇ! そうでっすねぇ~♪ 強くなれますよん、教官アリスのしごきに耐えられれば。ですけどね!」
愛しい愛しいアリスのマスターが質問してきます! えぇ~えぇ~! もっちもちのロンですよぉ♪ ご要望とあらば可能な限り鍛えて鍛え上げてやりますとも!
「今さりげなく怖いこと言われたような……私はできればアリサ様に優しく教えてもらいたいのですけど……」
あぁんっ!!? 何だとこのエルフっ子!? あまっちょろい事をぬかすサーサさんを思わずギロッって睨み付けてビビらせてやりましたよ、イエーイ♪
「こらこら、脅かしちゃダメじゃない! ごめんねぇ~サーサ、うちの子が怖がらせちゃって。よしよし、大丈夫だからね?」
「あぁぁ、アリサ様ぁ~え、えへへ……」
ちょっ!? おいぃっ!!? マスターにぎゅってされてなでなでとか!? うぎぎっ! うらやまなんですけどぉぉぉ!!?
「教えてあげたいのはやまやまなんだけどね、私の魔法って一般的じゃないみたいだからさ。そうだね、珠実とかネヴュラとかに教えてもらった方がいいかもしれないね~」
「確かにな、アリサ殿のイメージを具現させるあの魔法は真似できるものではあるまい」
マスターの魔法。『イメージ魔法』はレウィリリーネ様から与えられた加護『最適能力』から生まれたマスターだけの究極でっす。他の魔法の追随を許さない、かーなりぶっ壊れた魔法ですよねぇ? それを教わったところで当然使える筈もありません、そもそも理解できません。
「あぁ、でも『剣聖剣技』なら大丈夫だと思うから。アイギスは私と一緒に修行しようね?」
「映像で拝見した魔王メルドレードの影との戦い。あの時の剣技ですね! 有り難く!」
「まっ! ままま待った待ったぁぁーっ!! ダメです駄目でぇすぅ!!」
冗談じゃありゃーせんよ!? ありゃーせんよみなさん!! 聞きましたか!? マスターと? 一緒に~? しゅぎょーっ!!? ふふふ、ふざんけんなよこんにゃろぉーっ!!?
「アリス、何でそんなに焦ってるの? 狼狽アリス?」
「ちゃいますわ! 激おこアリスです! マスター駄目ですよ! このむっつりスケベと一緒に修行なんてしたらマスターが傷物にされてしまうじゃないですかぁ~っ!?」
二人きりなのをいいことに、あんなことやそんなことをっ!! マスターの優しさにつけこんで、このむっつりはとんでもないことしでかすに決まってますよぉ!? いや、絶対に!!
「あら~! アイギスってばそんなこと考えていたの? このスケベ!」
「やっぱムッツリだよなぁ、アイギスはよ!」
「わははっ! 若さ溢れてよいよい!」
「ふふっ、アリサ様は魅力的ですものね。流石のアイギスもほだされてしまいましたか」
「なっ!? 皆して何を言うんだ!? 私は決してやましい事など!」
おーおー慌てとりますよぉ~? えぇ、むっつりは大抵こう言うとき否定するんですよぉ、「興味ありません」とか抜かしておいて、実はものっそいすけべぇなこと考えてるんです!
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【吹っ飛ぶアイギス】~大好き!~《アリサview》
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「はいはい、馬鹿なこと言ってないでどんどん先に進むよ~? 大体こんな元男の変な女に好意持つ男なんていないってばよ?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
まったく、アリスは過剰に反応しすぎだよね? アイギスと二人になったって相手が私じゃ色気ある展開になんぞならないっての。
「え~……アリサ様それマジに言ってます?」
「これは、苦労しそうねぇ~」
「寧ろアリサ様のどこが変なのか知りたいのぅ」
「自己評価が低いのもアリサ殿の美徳よ……」
ちょいっ! なによぅ~何でみんなしてそんな呆れたような目で見んの?
「マスタ「アリサ様、過去に囚われ過ぎてはいけません。過去は自己を構築する要素ですが、大切なのは今ではありませんか?」
何か言おうとしたアリスのセリフを食ってアイギスが、私と正面から向き合って凄い真剣な表情を見せる。
過去に……囚われてる……私が? ……言われると、確かにそうかもしれない。
「後悔や、痛みなら私にもあります……アリサ様の過去に比べれば微々たるものではありますが……」
アイギスもあるの? 辛い思い、苦しい気持ち、悲しくて泣き出してしまう程の痛みが?
じっとアイギスの瞳を見つめればひどく哀しみを湛えているのがわかった……わかってしまった。
両肩に置かれた彼の手のひらがあったかい……
「大事なのは、今……か……うん、そうだね。嫌な思い出ばっかりの前世なんて気にする事なんてないんだよね! ありがとうアイギス♪ 大好き!」
「ぶっころがしぃぃーっっ!!!!」
ドッゴォーンッッ!!
「ぐっはあぁぁーっっ!!!??」
うわあぁーっ!? アイギスがアリスにドロップキックされて吹っ飛んだよ!?
「なんなんですかぁぁぁーっ!? えぇ? アリスちゃんのセリフ全部持って言った上にマスターから笑顔全開の「大好き!」もらうなんてぇぇっ!!?」
「ぐふっ! ふふっ、アリス殿には負ける訳にはいきませんのでね!」
おぉぉ? 一体何が起きてるんだこれは? 吹っ飛んだアイギスの胸ぐらを掴んでアリスがブチギレてるんだけど? ブチギレアリスになっちゃった。
「あぁ~えっと、アリサ様……今の大好きは、その……」
「ん? 勿論、妹達みたいにちゃんと私を認めてくれたから大好きって言ったんだよ? 勿論みんなも大好き!」
サーサがおずおずと聞いてきたのでそう答えたら、何でか、はぁ~ってみんなして盛大にため息ついたんだけど……どうしたのん?
「ふぁっふぁ、まぁまぁ、一歩は前進したのではないかのぅ?」
「はは、だな! まぁ、見守っていこうぜ?」
「もー、なんなのみんなして~?」
むぅ~聞いても全員笑って誤魔化すだけで答えてくれないよ! アイギスとアリスはなんか鬼ごっこ始めてるし。あ、アイギスが捕まった!
「はいはいはい! アリスーっストップ! 本来の目的忘れないで!」
「ちぃぃっ!! 命拾いしやがりましたですね! ドスケベナイト!」
「ふぅふぅーっ! いずれアリス殿すら超えて見せましょう!」
なんだかよくわかんないやり取りしつつ二人が戻ってくる。取り敢えずさっきの戦闘で怪我した『白銀』のみんなに治癒魔法をほいっとな。
「ありがとうございますアリサ様! しかし『聖域』の魔物って強ぇ~!」
「ただのどんぐりがあんな凶器になるなんて思いもしなかったわね……死ぬかと思ったわ」
ゼルワとレイリーアが出会った魔物、『どんぐりモンキー』の脅威を思い出して身震いしてる。
どんぐりモンキーは一見すると可愛いお猿さんなんだけどね、世界樹の葉弾みたいに、拾ったどんぐりに魔力を込めて投げ付けてくるっていう危険な魔物だ。魔力が込められ、投げ放たれるどんぐりの威力は凄まじく、樹を一本軽く貫通させる。
「散々な目に会いました……暫くキノコは見たくありませんね……」
ふぅーって大きな溜め息をつくサーサが相手をしたのは、身の丈二メートルはあるバカでっかいキノコの魔物、『バカダケキノコ』だね。正直この魔物は攻撃力は皆無と言っていいほど弱っちぃんだけど、物理的な攻撃がまったく効かない。そして人を小馬鹿にしたような表情と声? 鳴き声かな? を出すのが非常にうざったいのだ。そのイラってするキノコは近付いて来ると、胞子をばら蒔いて相手を眠らせたり、痺れさせたりとこれまたいやらしい事しでかす。
「マスターが『状態異常無効』をかけてくれて良かったですねぇ」
アリスが言うようにあらゆる状態異常を引き起こす胞子さえ無効化してやれば、バカダケキノコは脅威じゃなくなるので、フォレアルーネからもらった加護『不変』を一定時間だけかける魔法『状態異常無効』をサーサにかけて相手をさせたのだ。物理攻撃が効かない分、魔法がよく効くからね。
「しかし、あの猪は驚くほどタフじゃったのぅ……儂はそれなりに力には自信があったのじゃが……」
「あぁ、驚いたよ……まさかドガの一撃をまともに受けて怯みもしないとはな」
ドガとアイギスが戦っていたのは、『ビックリィノッシー』っていうふざけた名前を、おそらくフォレアルーネにつけられた猪の魔物。その大きさはペガサスのカインくらいなんだけど、コイツはとにかく固い上にタフで、魔法を使う事はないけどそのパワーから繰り出される突進は岩をも粉砕するほど強烈。純粋に強い。
次のスタンピートに備えて、少しでも強くなりたいって願い出た『白銀』のみんなを私の『探索班』に加えて、早速アイギスの盾を回収した後、爽矢の領域である東を冒険しているところなんだ。ユニとミーナは屋敷でお留守番、エスペル達と遊んでるだろう。
「山菜より薬草が多く目立つね、ねぇ爽矢この世界って四季……季節ってある?」
「うむ、勿論だアリサ殿。今は秋の終わり、冬の始まりの中頃だ」
「これからどんどん寒くなりますよねぇ~私寒いの苦手です」
え、秋くらいかなって思ってたけどもう冬になるのか? 私は薬草を鑑定で出る採取手順に従って丁寧に摘んでいきながら爽矢に聞いてみると、そんな答えが返ってきた。そしてサーサは寒いの苦手らしい。
「薬草採取なんて駆け出しの頃以来かしらねぇ、懐かしいわ。あ、アリサ様その薬草ってマジックポーションになりますよ?」
「うん、そうらしいね。ポーションなんて初めてだしちょっと練習がてら作ってみようかなぁ」
レイリーアの話だと大抵駆け出し冒険者は薬草採取から始めるのだそうな。そして、成長する過程でその薬草から作られるポーションのお世話になり、有り難みを知るんだって。前世のゲームじゃお馴染みのポーション。作品によっては対称に振り掛けたり、飲ませたりしてたけど実際どうしてるんだろう?
「苦ぇんだよなぁ~ポーションって……もう少し飲みやすい味なら良いのによぉ~」
「良薬は口に苦しだぞ、ゼルワ……まぁ、私も正直お世話にはなりたくないが……」
あ、飲むのね。そして苦いと……でも我慢しないといけない状況が多々あるわけだ。命には変えられないもんねぇ~。
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【ポーション】~ログハウス~《サーサview》
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「そうだ、これがそのポーションですよアリサ様! 差し上げます!」
「おぉ~! 良いの? ありがとー♪」
ポーションの話で思い出したので、折角だからアリサ様に普通のポーションとマジックポーションを一瓶づつプレゼントしました。なんでもアリサ様は飲んだことがないそうなので、話のネタにでもどうかなって思ったんですよ。
「赤いのがマジックポーションで、水色のが普通のポーションですから……」
「へぇ~どれどれ? んぐっ!!?」
あ、早速とばかりに開封されて普通のポーションを一口、口に含んだアリサ様の表情が歪む。ですよねぇ~苦いですよねぇ~? ってあらら、マジックポーションも試すんですか?
「うっへぇ~!? 不味い!! あー、でもヘドロよかマシだわね……」
ぐえぇ~って言いながらも、しっかり味を確認されたみたいです。
「サーサよお主アリサ様になんて物飲ませるんじゃ?」
「いやいやドガ、アタシ達も飲んでるポーションでしょうよ?」
「や~これはきっついわ、アリスと爽矢も試す?」
「我は遠慮しておこう」「飲みます飲みます! マスターとぉ間接キッスぅ♥️」
ドガが心底嫌そうな顔を私に向けて、レイリーアの突っ込みを受けていますね。なんですか? 浮遊補助使うのに私が何本これを飲んだと思ってるんです? 爽矢さんとアリスさんにもすすめるアリサ様ですが、爽矢さんは皆の表情だけで苦さが伝わってきたとかで遠慮し、アリスさんは逆に嬉々として勢いよく挙手されました。
「一口だけよ~? 残りは私が創薬で使いたいんだからね」
「はーい♪ んぐっ、ぶっほぉぉっ!!?? ぎゃおぉっ!? なんですかこれは!?」
ぷっ! あはははっ!! アリスさんが意気揚々とポーションを口に含んだ瞬間、一気に吹き出しました! やだ、もう~汚いですよ?
「うわっ! アリスってば汚い! えんがちょアリス!」
「そっ、そんなぁ~!! 綺麗にします綺麗にします! 水球! ガラガラ~ペッ! ついでに浄化魔法も! はい! 大丈夫です小綺麗アリスでっす!」
うぅ、流れるように無詠唱で魔法を連続で……凄いです。『聖域』の皆さんにとってはきっとそんなの当たり前の事なんでしょうけど、私達から見ればとんでもない高見を見た気分です。
アイギスの腕を治す為に、あるかどうかもわからない神々の雫を求めて辿り着いた『聖域』ですが、そこにはお伽噺以上の出会いが待っていただなんて……誰が予想したでしょうね? アリスさんも、爽矢さんも勿論ですが。なんと言っても女神様とアリサ様にお会いできた事が、今までの人生で最大の驚きです!
「アリスさん! わ、私もその……無詠唱で魔法を使えるようになれますか……!?」
「当然でしょう? 寧ろそこがスタート地点なので、そこまではとぉーっても優しく教えますよぉ~? ヒヨコちゃんには優しいアリスですからね♪」
あうぅーっ! ヒヨコちゃんですか……うぅ、わかっていますけど悔しいです!
「ですがそこなムッツリは駄目です! 貴方のようなドスケベナイトはのっけからぶっころがしてあげますからね!? 感謝して泣きわめきやがってくださいませね!?」
「ふ、ふふふ……負けるものか、私の不屈の信念の前に膝を折るのは貴女ですよ!」
ぐぬぬーっ!! ってにらみ合いをするアイギスとアリスさん。アイギスがあそこまで大言壮語するなんて初めての事です。それだけアリサ様を本気で想っているのですね……朋友として、仲間として応援しますよ! そして将来私とゼルワ、アイギスとアリサ様とでダブルデートしましょう!
「それはそうと、大分日が高くなってきおったのぅ」
「そうね、お昼時だわ。お腹空いた~!」
ドガとレイリーアが陽光を反射するオーロラの空を見上げてはぐぅぅーってお腹を鳴らします。言われればもうそんな時間なんですね。朝は軽めの朝食に、数時間前に、アリサ様の作って下さったポテトチップスにフライドポテト、そしてプリン。あまり量を食べていませんからね、確かにお腹が空きました。
「うん? お腹空いたの? じゃあ丁度良いしさっき拾った栗でも食べる?」
「えっ!? 栗ってあのトゲだらけのですか?」
「アリサ様が嬉しそうに拾っていたのが不思議でしたが……」
アリサ様が変な事を言い出しました、あのトゲだらけの木の実を食べる? ゼルワもアイギスも信じられないーっ! って顔をしていますよ。
「アリサ殿の事だ、我等の知らぬ知識があるのだろうが……あのトゲ玉をどうやって食うのだ?」
「マスター……あんなもの食べたらトゲが刺さりまくりで、イテテのテーっ! ってなっちゃいますよってばよ?」
爽矢さんもアリスさんもあのトゲトゲを食べると言い出すアリサ様を訝しげに見ています。うーん、もしかしたらアリサ様なりの冗談なんじゃないでしょうか?
「え? 爽矢まで知らないのはちょっと意外だけど……うん、じゃあ実際に調理してみようか。魔物に邪魔されても嫌だし……さっきの『魔導船』の応用で~『中継基地』っと!」
ポンッ!
アリサ様が魔法を使ったと思ったら、彼女の手のひらに丸い球体が現れます。よく見ればその球体の中には、小さな家の模型が入っています。
「これをある程度広いとこに、魔力をちょこっと込めて。そーい!」
そしてアリサ様は、その家が入った球体に軽く魔力を通すと、少し開けた場所に投げ放ちました。
ボワワーンッ!!
するとどうでしょう! さっきまでアリサ様の小さな手のひらに納まるくらいの小さな家が、私達の目の前にドドーンとでっかくなって現れました!
「すっげぇ!! 『魔導船』の応用って、こう言う事ですか!」
「うん、まぁ~今しがたパッと思い付いたのが木造ログハウスだから、あんまり見た目も良くないけど、ちょこっと休憩したいときには十分でしょ? さ、入るよ~」
えぇ~? これが見た目良くないって、立派な家ですよ! 高床式の二階建てで、白樺でしょうか? 周囲の森の緑に映える白がとってもお洒落かと思うのですが!? ガチャってドアノブを回して両開きの玄関の戸を開け、家の中に入るアリサ様に続いて私達も入ります。
「おぉ! これはまた見事な! しかしこう目立っては魔物に襲われたりはせんかのぅ?」
「いや、ドガよ。この家はあの屋敷と同じ隔離隠蔽の魔法がかけられているようだ。魔物はおろか人も気付くまい」
見れば内装も立派です! 広い玄関から右手に二階に登るための階段が見え、正面には広いリビング、ガラス張りの大きな戸が左壁から正面に直角に設置されて、外の様子が良く見えます。爽矢さんが言うにはこの家は周囲から隠されている上に、結界のようなもので隔離されているので安心安全だそうです!
「さっすが! さーすが! マイマスタァァ♪ もぅ~アリスをどれだけきゅんきゅんさせればご満足頂けるんですかぁ~?」
「すごっ! キッチン、お風呂、トイレまで!」
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【栗】~美味しい♪~《レイリーアview》
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アリスちゃんが感激するように瞳をキラキラさせて、リビングでくるくる回ってるけど無理もないわね! アタシもはしゃぎたくなるくらいよ♪
アタシは各部屋の扉を開けて回り、その都度驚いたわ。リビングには広いキッチンがあるの、料理好きのアリサ様らしいわね♪ そして階段の裏手にはとても清潔なトイレとお風呂! 凄いわ、普通お風呂なんて貴族や王族くらいの上層階級の者くらいしか入れないのよ!? アタシ達のような一般人は大抵水浴びや魔法で済ませるからね。
「タンスにクローゼット、テーブルにテーブルクロス敷いて~椅子も人数分っと♪」
「すげぇ~何もないとこから、テーブルだの椅子だの出てくるぞ!?」
「あぁ、改めて見ると……目を疑うな」
アリサ様が踊るように腕を振れば、そこにはテーブルが現れ椅子が並べられるの。ゼルワもアイギスも間近でその様子を見てるけど……ええ、気持ちはアタシも同じよ。まるで夢でも見ているのかと錯覚しそう。『聖域の魔女』とは確かにアリサ様の事を差すのね。
「さてと、じゃあみんなは座って待ってて。私は早速栗を料理……って言っても茹でるだけなんだけどね、しちゃうからさ」
ニコニコと栗食べるの久し振り~と、上機嫌のアリサ様は、これまたいつの間にか手に鍋を持って鼻歌を歌いながらキッチンに入ったわ。サーサはお手伝いしようとでも思ったのかしら? アリサ様の後に続こうとしてるわね。
「ん? どったのみんなして、座っておしゃべりしてて良いんだよ?」
ぞろぞろと、みんながキッチンの前に椅子を持ってきて酒場のカウンター席みたいになっちゃったわね。ふふっ、そうだわ!
「アリサママ、今日は何を食べさせてくれるのかしら?」
「スナックアリサってか? ホントにありそうで嫌だわ~今日は茹で栗だよ」
ぷっ! アタシの思い付いた演技に即座にのってくるアリサ様が何か可笑しくて思わず笑っちゃったわ♪
「いやいや、邪魔はせぬ。ただあのトゲ玉を一体どうするのか気になってな」
「うむ、見ていても構いませんかな? アリサ様」
「わ、私はお手伝いしたいと思いまして!」
みんな思うことは同じみたいね。確かにあのトゲトゲをどうすれば食べられるのか興味津々よ。
「そんな大層な事じゃないけど、こうやって手を怪我しないように手袋つけるなりしてから持って、地面に置いて足で踏んで器用にこのトゲトゲを、パカッっとな!」
「「「「「おぉ! 中からなんか出てきた!」」」」」
「へぇ~! このトゲって実を守る殻だったのね!?」
「違うよレイリーア、このトゲが皮なの。イガって言うんだけどね。で、この赤茶色のが実で皮みたいになってて、鬼皮って言うの。その中に渋皮と種が入ってるんだよ。食べるのはその種ね」
「ふへぇぇ~面白いですねぇ!」
こんな木の実があるのね~、アタシ達は今までこの栗を食べられる物だとは思いもしなかったわ。
「イガを取った栗を沸騰したお湯張ったお鍋にじゃぶじゃぶ~ってして、大体中火で四~五十分。さて、この後はどうしようか? 爽矢の棲処にお邪魔しようにも急だしね~」
「うむ、折角来てもらえるのなら、こちらも向かえる準備はしたいのでな」
「あはは、ユニちゃんが聞いたらずるい~とか言って怒っちゃうかもしれないでっすねぇ~♪」
アリサ様にならって足でこの赤茶色の粒を割らないよう気を付けて、トゲトゲを割ってみたわ。おぉ! 三つも出てきたわよ! 何か楽しいわねこれ!
「おぉ~一個のトゲから三個も出てきたぞ! なんか得した気分だな!」
「アタシもよ♪ うふふ、なんか楽しくなってきちゃった!」
「三個入ってるのが基本なんだよ~まぁ、たまに……」
「うおっほっほー! 皆見てみぃ! 一個だけじゃがこーんな立派なのが入っておったぞ!」
「おぉ! 凄いなドガ」
アリサ様が言うには一つのトゲ……イガには三つの種が入っているのが一般的なんですって。でも稀にドガが見つけたように一つの大きな種子になる事もあるのだそうよ。この場合ドガが大当たりを引いたってことね。うむむ……何か悔しい!
「別に何がある訳じゃないけど、そういうの見つけると何となく嬉しくなるわよね♪」
そういって笑顔を見せるアリサ様に頷き、茹であがった栗を頂く。半分に切った栗をスプーンで……うぅ~ん!! 美味しいっ! この優しい甘さが最高ね!
「なんと美味な! 我は今まで己の領域にありながらこれを知らずにいたとは! 大分損をしていたな!」
「アリスは聖霊……そもそも食事を採る必要のない存在ですけど……もぅ~ダメです! こんなに美味しいの知ったらもう無理! 食べるなっていう方が無理むりんですよぉ~!」
爽矢さんもアリスちゃんも栗の美味しさにとても驚き、そして喜んでいるわ! うんうん、そうよね、美味しい食べ物は本当に幸せを与えてくれるのよね♪
「美味しいですね♪ ゼルワ!」
「おぉ、そうだなサーサ! しかし見た目あんな危険ぽいのが、文字通り割って見りゃこの事実だ……わかんねぇもんだな~」
「わっはっは! だから冒険はやめられんのじゃ! あぁ、これで酒があれば言うことなしじゃあ~♪」
「もう、ドガったらそればっかりね! ちゃんと味わって食べなさいよ!?」
まったくドガったら……あれ? ちょっと待って、『聖域』に滞在している間にお酒って飲めるの? マズイわね、アタシ達はともかく、ドガは我慢できないんじゃないかしら? アリサ様に相談してみようかしらね?
「ふはは、ジドルもそうであったが。ドワーフは酒好きよな?」
「わはは! 儂等にとって水のようなもんですわい! 趣味で酒造りしとるくらいでしてな?」
「へぇ~凄いじゃないドガ! ねぇ爽矢、あんた達四神も懐刀も棲処にはお酒あるよね? よかったらドガに飲んでもらったら?」
ナイス! いいタイミングで爽矢さんとアリサ様がお酒について話題を出してくれたわ! しかもドガに飲んでもらおうって、願ったりかなったりよ!
「うむ、そうだな。新たな出会いの祝いに宴席でも開こうか?」
「良いねぇ~♪ 色々食材も揃いそうだし料理も沢山作るよ~私!」
「おぉ! 歓迎会ですねぇ~♪ マスターのお料理楽しみすぎてアリス発狂しちゃいそう!」
あらぁ~! 歓迎会ですって! うふふ、こそばゆいけど嬉しいわ~!
「よかった、ドガがお酒切れて明日にでも帰る~とか言い出したらどうしようかって思ったから」
「な、何を言うんじゃレイリーア! そんなことない……ない、ないわい……多分!」
「多分かよ!? なんにしてもありがたいぜ! すげぇ楽しみです!」
「嬉しいです! あぁ、『聖域』に来て本当に良かった……」
「ありがとうございます、アリサ様。私達『白銀』一同、喜んで参加させて頂きます」
アリサ様と爽矢さん、アリスちゃんにみんなでありがとうってお礼を言ったわ。本当にありがたいもの! アタシ達は侵入者なのにこんなに良くしてもらえるなんてね。
「ふふっ、私としてもみんなには色々教えてもらいたいからね。スタンピート落ち着いた後もよろしくってことで♪」
「うひょひょ♪ 中途半端な修行で終わらせたりしませんからねぇ~? めたくそ強くなってもらうんで~逃げられると思わないことですよぉ?」
あら、アタシ達で教えられる事があるならもう、いくらでもお話しちゃうわ! アリスちゃんの修行はなかなか大変そうだから覚悟が必要そうだけど、アタシ達もスタンピートを落ち着かせてはい、さようなら。じゃあ寂しいからまた『聖域』に来るわ!
うふふ♪ それにしても歓迎会楽しみね! アリサ様の料理は勿論、『聖域』のお酒も飲めるなんて! よーし! お姉さん頑張って強くなるわ~そして少しでもアリサ様のお力になるのよ!
ゼルワ「あの猿共また来やがった!(#゜Д゜)」
アリサ「よーし、今度は私が相手になろうじゃないの(°▽°)」
サーサ「あ、アリサ様なんですかその武器(´・ω・`)?」
アリサ「ゴルフクラブだよ! さあこーい(^∇^)」
どんぐり猿「ウッキーッ!ヽ( ゜∀゜)ノ」
アリサ「ウッキーウッキー♪(*゜∀゜)ノシ」
パカーンパカーン♪
アイギス「おおっ! なんとリズミカルな!( ゜A゜ )」
レイリーア「綺麗に打ち返すわねぇ~(゜д゜)」
どんぐり猿「ウッキャーッ(*`Д´)ノ!!!」
アリサ「ウッホッホーイッ!(ノ≧∀≦)ノ」
パッカーン!
ドガ「おおーっ!!ヽ(゜д゜ヽ)(ノ゜д゜)ノ!! あの豪速球すらも!」
どんぐり猿共「「「ムッキャーッッ!!((ヾ(≧皿≦メ)ノ))」」」
爽矢「おぉ? 怒っているな! 一辺に投げて来たぞアリサ殿( ; ゜Д゜)」
アリサ「なんの~♪ そーれ! てきぱきどっかーん♪゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」
パカパカパッカーン!!
どんぐり猿共「「「ウッキャー!?( ゜□゜)」」」
アリス「~かなしみの~きょうれつなすこぉぉるぅ~♪」
アリサ「おー♪ 逃げてった逃げてった! ハイレベルげっとだぜ~ヽ( ̄▽ ̄)ノ」




