24話 魔女とダンジョンについて
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【だんじょん】~ちびゼーロ~《アリサview》
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さぁ、今回の会議の最後の議題だ。アイギス達冒険者のお悩み相談といこう!
「ふぅん、定期的に魔物を吐き出す洞窟かぁ……」
アイギス達の事情を聞いてみると、なんでも住んでる街の南に『悲涙の洞窟』と呼ばれるダンジョンが存在し、そこから定期的に魔物達が溢れかえっては街……『セリアベール』を襲撃するのだそうだ。
『スタンピート』そう呼ばれる現象は、前世のラノベ知識でチラッと名前を知ってるくらいだけど……どうもキナ臭いね。魔物ってそんな組織だった行動するものだろうか? ここは妹達の意見を聞いた方が良さそうだね。
「アルティ、レウィリ、フォレア……ダンジョンと魔物について、貴女達の意見を聞かせてほしいんだけど?」
「はい、アリサお姉さま。では先ず、『ダンジョン』についてお話します」
「ん、『ダンジョン』とは基本三つに分けられる」
「基本的に自然にできたものを『洞窟』って呼んで、うちらが創世時に創ったのを『迷宮』そして人工的に作られたのを『ダンジョン』って呼ぶんだけど、『悲涙の洞窟』なんて創った覚えがないから……『洞窟』か、『ダンジョン』だと思うよ」
『ダンジョン』とは人工的に作られたものと言う話だ。では、実際『洞窟』と『ダンジョン』そして『迷宮』は何が違うのかと言うと、それは『迷宮核』の存在の有無らしいね。
「『迷宮核』とは簡単に言ってしまうと、魔力管理システムです。自然にできた『洞窟』には存在しません」
「世界には魔力が強い場所ってのがあってさ、『魔力溜まり』って言うんだけど。その魔力溜まりをそのままにしておくとじゃんじゃか魔物が生まれちゃうんだよ~?」
「そこに『迷宮』を構築して、更に『迷宮核』を設置することで、生まれる魔物達に棲処を与えた。その場の魔力は『迷宮核』が管理して一定量を保持し、余剰分を……貴方達の言う『お宝』にしたり、魔物にしたりしてる」
レウィリリーネがいっぱい話してる! なんか可愛くて嬉しいので、思わずぎゅってしちゃった。
「おぉぉ? アリサお姉さん……嬉しいけど何? 説明の途中……」
「ふふっ、一生懸命話してるレウィリが可愛くて、つい~♪」
ずるいずるい~って話を聞いていたアリスが騒ぐ、いけないいけない。つい話の腰を折ってしまった。はいはいって、アリスをなでなでしておさえてもらう。
「『迷宮』には『迷宮核』が存在し、魔物とお宝を生み出すことによって魔力を管理しておる。『ダンジョン』とは人が作った『洞窟』又は『洞窟』に人の手が加えられた物と言う認識で合っとるじゃろうかの?」
ドガが髭を撫でつつ妹達に確認を取ってくる。どうでもいいけど、なんで髭生やしてるじい様達って何か話す時髭撫でるんだろ? シドウもその仕草よくしてるんだよね。
「そぉ~ですねぇ、大体合ってますよぉ? 付け加えるならぁ『ダンジョン』の中にも、『迷宮』から模倣された人工的な『迷宮核』が設置されてるのもあるんですけどぉ、お宝を生み出すってのが結構なレアでしてね」
「そういう仕組みだったのね……確かにこの閃弓は『ダンジョン』で見つけた物だけれど」
レイリーアがここまでの説明を聞いて、持つ弓に視線を移す。
「おー! それは大当たりぃ~♪ 運良いですね! 模倣された『迷宮核』でお宝生み出すのは珍しいんでっすよ!」
あったりぃ~♪ いぇ~い! ってやんややんやとお騒ぎアリス。ハイハイ、わかったから座ってなさいね?
「成る程……『ダンジョン』で見付かる宝は『迷宮核』の保有する魔力の余剰分から生み出されていたのか」
「長年の疑問がひょんな事で解消されましたね」
「つー事はだ、いつ行っても魔物が尽きねぇ『悲涙の洞窟』は、模倣された『迷宮核』が設置された『ダンジョン』って事になるんだよな?」
うん、前世のゲームとかでも『ダンジョン』からはお宝が見つかったりしたもんね、リアルに考えると「誰が用意したの?」って疑問があったけどもそこは「ゲームだから」で片付けられていた。この世界ではちゃんと仕組みがあるんだ。
「おそらく『悲涙の洞窟』とは、私達が不在の間に何者かによって作られたのでしょう……いつ頃から存在しているかはわかりますか?」
アルティレーネの問いに顔を見合わせる冒険者達。ふむ、ユニが呪いを受けて妹達が顕現出来なくなった後、『迷宮核』が何者かの手によって模倣されて『悲涙の洞窟』が作られた……じゃあ、その何者って誰だろう? 少なくとも女神が創ったのをコピーできるだけの知識とか技術を持ったヤツってことよね? あれ……これって結構大事なんじゃないかしらん?
「済みません、詳しくは……私達が『セリアベール』で活動を始めた頃にはもう、冒険者達の稼ぎの場として周知されていましたので」
「ギルドマスターのゼオンの方が詳しく知っているかもしれないな……」
サーサが申し訳なさそうに頭を下げつつ話してくれる、アイギスが言うには冒険者ギルドのマスターさんなら詳しい話を知ってるかもってこと。
「なんにせよ、問題は魔物が吐き出されるってことよね? で、レウィリが言うには『迷宮核』がそうしてるって事なんだから……ちょいと待ってみ?」
私はそこまで言うと、ちょいと高性能の新型ドローンをポンって具現させて飛ばす。今までアリアの箒形態と杖形態を模してたけど、今回用意したのはゼーロをモチーフにした一見普通の鷲に見えるドローンだ。
「おぉ! ゼーロをちっちゃくしたみたいだぞー!」
《おぉ……これは見事な、普通の鷲と変わらぬな》
「成る程、これならば一見普通の鳥にしか見えぬな。怪しまれる事もあるまい」
「そう言うこと、リンは察しがいいね! これを飛ばしてその『悲涙の洞窟』とやらを観察してみようってわけ、さぁ、行ってらっしゃい!」
見事に普通の鷲にしか見えない新型ドローンにジュンとゼーロが感嘆し、リンがその意図を察する。街の近くの『ダンジョン』って言うので、人に見られても疑問に思われないようにって考えたのだ。ドローンは猛スピードで一瞬のうちに南の空へと消えて行く。
「アイギスのおにぃちゃんはその戦いで腕なくしちゃったの?」
「えぇ、私が未熟であったばかりに……情けない話ですが……」
ユニがアイギスに腕を失った理由はそのスタンピートでの戦いによるものなのかと問うと、アイギスは肯定する。でもなんか変ね、ホーンライガー……六本足で角生えたライオン。アイギス達がここに来るとき戦ってたヤツだ。が出たせいだって言うんだけど、アイギスはソイツを二頭相手にして結構な安定感を見せていたのを私と爽矢は知っている。しかも腕を失った状態で、だ。
「で、レイリーア、ホントのところは?」
「あ~、別のパーティーの子を庇った結果、なのよ……その子達スタンピート鎮圧戦初めてだったから……」
そう言うことか、謙虚だねアイギスって! ふふっまたまた私の好感度がピローンって上がったぞぅ!
「あ、そういやアイギス、あんたの盾忘れて来ちゃったね?」
「あっ! そうでした……今まで驚愕の連続ですっかり忘れていました」
腕を失いながらも懸命に戦ってた姿を思い出してみれば、ホーンライガーにその大盾を吹っ飛ばされたところに私が介入し、この屋敷に連れてきたんだ。
「後で一緒に回収しに行こう? その時にあんた達の侵入経路も教えてよ」
「はい、ありがとうございますアリサ様!」
「よかったなぁアイギス! 金貨二百枚のギドの力作だ、速攻なくしたなんて言ったらお前『酒と鍛冶』に入れなくなるとこだぜ?」
「ふぁっふぁっふぁ! まったくじゃ! ギドのヤツあれでそういうとこにうるさいからのぅ!」
金貨二百枚って高いのかな? まぁ、話からしてお高いんだろうね。なんでもこの『聖域』に来るために特注して用意した一品って事らしいからちゃんと見つけてあげないとね。
「さて、ドローン……ちびゼーロが『悲涙の洞窟』とやらに到着するまで結構時間あるし……ん、『聖域』からだと何日かかるん? 街から三日って言ってたよね?」
「えぇ、街から南に三日、街からこの『聖域』の端までに二日、その端からこの屋敷まではわかりませんが……冒険者ですと約六~七日はかかるかと」
「ふぅん、大体四百~五百キロくらいかな? ちびゼーロなら一時間ちょいで着くかな?」
ちびゼーロの飛行速度はかなり速い。なんせ私の神気がエネルギーだからね!
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【ここぞと格言言い出す】~いるよねぇ~《アリサview》
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そんな訳でみんなで一時間程ワイワイ賑やかに談笑していると、ドローンから早速映像通信が送られてきた。めっちゃ早いね!
「さて、ここが『悲涙の洞窟』で合ってるかね?」
「えぇ、間違いありません」
ドローンが送ってきた映像通信に映し出されるのは、小高い岩山にポッカリと開いた如何にも洞窟の入口って感じの穴だ。見た感じ山間の中腹かな? 周囲は岩山に囲まれている山間地帯で、それが結構な面積を占める。少し遠くには草原や森林も見えるけども。
「……まさか、いや……でもあの地って。私の考えすぎ? うーん、でも『迷宮核』を模倣できるヤツなんてそうそういないと思うし……わかんないわぁ~」
映像通信の映像を見てティリアがなんかうんうん唸ってる。何か覚えでもあるのかな?
「ティリア、気になる事があるなら遠慮なく言ってほしいんだけど……?」
「あいや、待たれぃアリサ姉さんや……今は考えを整理中なのよん」
うん、この子と言いフォレアルーネと言い時々変なキャラになるわね。まぁ、考えが纏まるまでは待っていよう。さて、レウィリリーネの話だと『迷宮核』は“一定の魔力量を保持して余剰分を吐き出す”って事だから……
「『階層把握』『過去履歴』」
その建造物の階層を把握するため、3Dスキャナをイメージした魔法『階層把握』と、その魔力値の過去履歴を数値にする『過去履歴』の魔法を発動。更に、わかりやすくトレンドグラフ化させる。前世でお世話になった表計算ソフトをイメージすれば一発だ。
「全部で十階層のダンジョンだね、魔力値の変動は……」
「なっ! まさか!? アリサ様それは間違いないのですか!? 『悲涙の洞窟』は五階層が最下層の筈なのです!!」
「マジかよ!? ゼオンの言ってた『未踏領域』がマジにあったってのか!?」
「落ち着きやがれなさいですよ。この、ぽん、ぽこ、ぽん共めぇ~アリスのマスターにそんなに顔近付けて、なんですかなんですかぁ? キスでもしやがるつもりですかぶっころがしますよこんにゃろー!?」
アリスが私に詰め寄ってきたアイギスとゼルワを交互に、リズミカルにポンポコポンと叩いたと思ったら早口で捲し立てる、キスとか何言ってんだか? しかし、アイギス達の間ではこのダンジョンはどうも五階層で最下層って認識らしい、道理で六階層以降の魔力値が高いわけだ。
「冒険者達の稼ぎの場って言ってたね? それは多分五階層までの魔物達をやっつけてその素材とかを手に入れてたんだろうけど……」
『セリアベール』に住む人なら誰でも知ってるような有名なダンジョンって話だ、毎日のように冒険者達が出入りして、『迷宮核』が生み出す魔物と戦っているんだろう。だけど……
「そこから下の階層が手付かずのせいで、魔力値がオーバーフローして一気に地上まで魔物が溢れてくるんだと思うよ」
簡単に言ってしまえば、鍋に蓋をしてグツグツと煮るって事だ。
「ちょっと六階層~十階層の様子を再現してみようか、ユニ~キッチンからお鍋と蓋を持ってきてくれるかな?」
「はーい! ユニにお任せだよ~♪」
トテテテ~っとユニはにこやかにキッチンへと向かっていく。うん、素直でいい子♪ 鍋とその蓋を持って戻ってきたユニにありがとうってお礼を言って頭をなでなで。「どういたしまして♪」ってニコニコ笑顔が可愛いね!
「はい、この鍋が『悲涙の洞窟』の六階層~十階層です、これに魔力っていう水を入れて五階層っていう蓋をしてグツグツ煮ます」
勿論入れているのは普通の水だし、蓋も普通の蓋だ。早速鍋を火にかけて煮始める。
「蓋の湯気を逃がす小さい穴から湯気が出てきたな、これが魔物という喩えですね?」
「うん、そうだよアイギス、よくできました♪」
偉い偉いってアイギスの頭をちょいと背伸びして撫でてあげる。
「あ、アリサ様……私は、その、子供ではありませんので!」
「おぉぉ、そうだった。ごめんごめん……じゃあ今度は五階層っていう蓋を開けて見るよ?」
むわわわ~っと、蓋を開ければ当然湯気が溢れ出す。これがスタンピートだ。トレンドグラフもそれを裏付けるように六階層~十階層までの魔力値が上昇して一定値に達したところで、カクンと一気に低下して五階層~一階層の値が急上昇している。つまりこの時が五階層って蓋が開いた瞬間。その瞬間一気に五階層~一階層までの魔力値が上昇して振り切れる。この一階層から溢れた湯気が魔物として地上に溢れると言う訳だ。後はこの時……この日にスタンピートが起きていたって事実があれば、間違いなくこれがスタンピートの仕組みって事になる。
「なんて事……だから定期的にスタンピートが発生しているんですねアリサ様!?」
「まだ確定じゃないってサーサ、アイギス達はスタンピートが起きた日付って覚えてる?」
「え? ついこの間のは丁度一週間前ですけど……更にその前って言われると……」
私の問いにう~ん、って腕を組んで首をひねるゼルワ。リーダーのアイギスが腕を失うっていう大事件があった直近のスタンピートの日付は覚えててもそれ以前となると曖昧にしか覚えてないって。他の四人も同じ感じみたい、もぅ! 仕方ないなぁ、仮説を立証するための重要な要素だって言うのに!
「アイギス~ちょっとこっち来て、あんたの記憶見せてよ?」
「え……えぇっ!?」
「大丈夫だって! スタンピートの記憶以外見ないって約束するから!」
そ、それでしたら……と、びっくりしつつも了承するアイギス。よしよし! 『白銀』達は常に最前線で参加してたって言うし、正確な日付を追えそうだね! アイギスに私と正面から向き合うように椅子に座ってもらって、お互いにオデコをくっつける。
「っ!!! あ、アリサ様っ!?」
「あっ! ちょっと、何で逃げんのよ!?」
ババッ! って勢いで後ずさるアイギスをむーって睨む。ちゃんと了承したじゃん!
「ぷっ! どうしたぁ? アイギスぅ! 俺が代わってやろ~かぁ?」
「ぷふふっ! アイギスったら、顔真っ赤よ? 恥ずかしいの?」
「ふははっ! なんじゃなんじゃ照れておるのかアイギスよ!?」
「だ、大丈夫です! 済みません少し驚いただけですので!」
ん~? よくわかんないけど、無理しなくても良いんだぞぅ? まぁ、アイギスが大丈夫って言うんだから大丈夫なんだろう。気を取り直して、もっかいアイギスとオデコをくっつける。ん、これ、アイギスの匂いかな? いい匂いするなコイツ。
「じゃあ、いくよ。目を閉じて、スタンピートの事思い出してね、『記憶の断片』」
ふわぁ~って、アイギスの頬に添えた私の両手から柔らかい光が発せられる。
「ぐぎぎぎっ! マスターとあんなにくっついてぇ~ぶっころ……ぶっころ、ぶっころがしてやりたぃでっすよぉっ!!!」
「アリスちゃん! 今アリサおねぇちゃんとアイギスおにぃちゃんは大事なことしてるんだからじっとして!」
キィーッ! ってハンカチ噛み締めて悔しがるアリスをユニが窘めてる声を聞きつつも、私は意識を集中させて、アイギスが関わったスタンピートの記憶を辿る魔法『記憶の断片』を発動させる。この魔法は対称の記憶を断片的に読み取るっていうもので、某マンガのヤンキー少年の能力をイメージしている。アイギスとオデコをくっつけてるのはより正確に読み取るためだ。
「ふむふむ、オッケー! わかったわ、協力してくれてありがとねアイギス」
「い、いえ……アリサ様、お礼を言うのは私の方です……」
いつの間にか、うん……ホントに、自分自身自覚もないままに、手をアイギスの手に重ねていた。
「「…………」」
なんでだろ? 私もアイギスも言葉が出てこないみたい、でも、全然悪い気はしなくて……アイギスの綺麗な青い瞳を見てるとなんだかドキドキ胸が高鳴ってきて、顔が熱くなる。……はっ! これって夢でっ!?
バッ!!
「あ、あははっ! ごめんごめん! ちょっとボーッとしちゃったね! 日付はバッチリ確認できたよ?」
今朝見た夢を急に思い出してしまい、慌ててアイギスから離れて取り繕う。うー、いかんいかん! アーグラスとアイギスは別人なんだってわかってるけど、如何せん同じ顔だからどうしても思い出しちゃう。
「むぅ……アルティ姉さん、ティリア姉さん、フォレア」
「えぇ、わかってるわレウィリ……昨夜話した試練を……」
「ヤバイわ、あの調子だとアリサ姉さんも満更じゃあないわね?」
「うぐぐ、おのれアイギっち! そう簡単にアリサ姉をゲットできると思うなよぅ?」
ん? 妹達がなんかひそひそ話をしてる、なんだろう? って、それよりも早速日付とグラフを重ね合わせてみよう! そう思い、グラフと日付を照らし合わせれば、見事にビンゴした!
「うん、間違いないね。これなら今の魔力値から次のスタンピートの発生日を予測できるよ……この分なら……十日後ってとこね」
「なんと!? そこまで正確にわかるものとはのぅ!」
「これは大発見よ! 過去の傾向からこんな事がわかるなんて!」
「『過去を知ることは未来を知ることである』ってのは誰の言葉だったかな? まぁ、そんな格言が私の前世の世界にあってね、過去のデータってのは重要なのよん」
鍋による湯気と、日付を追加したトレンドグラフの説明を聞いたドガとレイリーアが、心底感心したように目を丸くするけど、この辺は前世の知識が絡むからね。でも冒険者達も体感で大雑把にスタンピートが発生する時期ってのがわかってたりしたんじゃないかな?
「確かに、感覚で「そろそろか?」と思うこともありましたわい」
「あぁ、あるな……でもここまでしっかり把握できるもんじゃありませんよ! アリサ様すげぇ……」
「因みに、このダンジョンでお宝って出てるの? レイリーアのその弓みたいなの」
「……最近は聞かない、な……皆はどうだ? 誰かが宝を手にしたとか聞いた覚えは?」
アイギスがみんなに問うと四人とも首を振る。と言うことはだ。
「そのダンジョンの『迷宮核』はやはり、模倣品の可能性が高いですね。魔力管理を魔物の出現でしか出来ない。と言う事でしょうし」
アルティレーネの言うようにそう言うことだろうね、だからこそ厄介なんだろうけども。いや、もしかしたら六階層以降にお宝が集中している可能性も……
(ぷー、それよりもこのグラフ見る限り、スタンピートの発生頻度が徐々に短くなってる事の方が問題のように思えますよ~わたし~)
《わたくしもエスペルと同意見ですね、十日後と申されましたが、念のため二三日前には街へ戻られるがよろしいかと存じます》
グラフをじーっと見ていたエスペルとレイヴンが鋭い指摘をしてくる。そう、グラフを見る限り徐々に間隔が狭まって来ているのだ。
「なんだかよくわかりませんけれど大変そうですわぁ~冒険者の皆さんはこれからみっちりこの『聖域』で修行なさいますのね?」
「あれ? そう言う話になるんですか女王様?」
「誰も「修行」なんて言ってないよ?」
「かぁーっ! またこのポンコツはテメェの中で勝手に話を作りやがる!」
なんですのぉーっ!? って騒ぎ出すティターニアさん、やかましいよー? ノッカーくんもブラウニーちゃんも、ヘルメットさんもげんなりしてんじゃん。
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【好き好きアリサ様】~騎士のメロメロ仕立て~《アイギスview》
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「っ!!! あ、アリサ様っ!?」
「あっ! ちょっと、何で逃げんのよ!?」
アリサ様のお顔がこれでもかと近付き、なんと私の額と彼女の額を重ねられた! 私はあまりの唐突な事態に驚き思わず飛び跳ねるように後退りしてしまった。
「ぷっ! どうしたぁ? アイギスぅ! 俺が代わってやろ~かぁ?」
「ぷふふっ! アイギスったら、顔真っ赤よ? 恥ずかしいの?」
「ふははっ! なんじゃなんじゃ照れておるのかアイギスよ!?」
「だ、大丈夫です! 済みません少し驚いただけですので!」
本当は少しどころではない、心の臓はまるで死地を切り抜けた時の如く早鐘を打ち続け、周囲に聞こえてしまうのではないかと錯覚するほど鼓動を響かせて顔に血を送り込んでくる。荒くなりそうな呼吸を抑える事が難しい! 誰かに代わってもらうか? いや、冗談ではない!
(他の誰かがこのようにアリサ様と急接近するのを見てしまったら、私は嫉妬に狂ってしまう!)
私の頬にアリサ様の柔らかく温かくも小さい手が添えられ、額と額が再び重ねられる。
(あぁ、なんと良い匂いなのだ……まるで一輪の美しく咲く花のような……)
アリサ様がそれこそ手を伸ばせば抱きしめられる程近くに……優しく香る彼女の花のような匂いに酔ってしまいそうだ。もう、私はどうしようもないほど彼女が、アリサ様が好きなのだな。
「じゃあ、いくよ。目を閉じて、スタンピートの事思い出してね、『記憶の断片』」
アリサ様の両手から温かい光が発せられると、不思議と心が落ち着いてくる。そうだった……今は集中して過去に起きたスタンピートを思い出さなければ。
「ぐぎぎぎっ! マスターとあんなにくっついてぇ~ぶっころ……ぶっころ、ぶっころがしてやりたぃでっすよぉっ!!!」
「アリスちゃん! 今アリサおねぇちゃんとアイギスおにぃちゃんは大事なことしてるんだからじっとして!」
アリス殿とユニ殿が何か騒いでいるが聞こえない。今は少しでも長くアリサ様とこの時間を共有したいのだ。
「ふむふむ、オッケー! わかったわ、協力してくれてありがとねアイギス」
「い、いえ……アリサ様、お礼を言うのは私の方です……」
終わったのか? あぁ、あっという間だった……なんと名残惜しい事か……そう思っていたらいつの間にか、私の手にアリサ様の手が重ねられていた。
「「…………」」
私達は自然と互いを見つめ合う。言葉はない。それでも心地好く感じる。アリサ様の銀の瞳は美しく透き通り、じっと見つめているとまるで吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る。アリサ様の優しい微笑み。上気した頬。あぁ、総てが愛しい……このまま思いの丈を彼女に告白してしまおうか? アリサ様……愛しい人。ようやく見つけた、私が生涯、総てを賭けて守りたい女性。貴女のその笑顔を守るためならば私は死すら厭わない!
バッ!!
「あ、あははっ! ごめんごめん! ちょっとボーッとしちゃったね! 日付はバッチリ確認できたよ?」
我に帰ったように勢いよく飛び上がるアリサ様と同時、私も状況を思い出す。うむ……恥ずかしくもあるが、なんと名残惜しい時間であった事か。いや、焦るまい……私達はまだ出会って間もない。これから少しずつ親睦を深めて行きたいものだ。
改めてアリサ様の説明を傾聴する。それによれば約十日後には再び魔力値が上昇しスタンピートが発生するだろうと言うのだ! 確かにグラフの魔力値の上がり幅から見て、このままだと十日後には振り切れそうだった。今までは感覚頼りだった事が、こうして過去からの傾向を調べることで未来への予想を立てる事ができようとは。『過去から学ぶ』とはまさにこの事だな。
(ぷー、それよりもこのグラフ見る限り、スタンピートの発生頻度が徐々に短くなってる事の方が問題のように思えますよ~わたし~)
《わたくしもエスペルと同意見ですね、十日後と申されましたが、念のため二三日前には街へ戻られるがよろしいかと存じます》
お宝云々の話をしている際、エスペル殿とレイヴン殿が気付いた点を発言された。確かに、今までスタンピートが起きた日付は狭まって来ており、これから起こるであろう日もそう遠くない。と言うのがグラフから読み取れる。レイヴン殿の仰る通り、そしてデールから学んだ通り、『余裕ある行動』を意識せねばなるまい。
「なんだかよくわかりませんけれど大変そうですわぁ~冒険者の皆さんはこれからみっちりこの『聖域』で修行なさいますのね?」
「あれ? そう言う話になるんですか女王様?」
「誰も「修行」なんて言ってないよ?」
「かぁーっ! またこのポンコツはテメェの中で勝手に話を作りやがる!」
一緒に話を聞いていたティターニア様が、突然そんなことを言い出した。ノッカーくん、ブラウニーちゃん、ヘルメットさんに対して騒ぐティターニア様だが……修行か、確かに悪くない!
「皆、今から一週間程しかないがどうだろう? 折角こうして素晴らしい方々に出会えたんだ! 私はギリギリまでこの『聖域』で自分を磨きたいと思う!」
「賛成賛成ーっ!! アイギス良いこと言いました! 私は大賛成です! アリサ様に魔法も料理も教えてもらいたいです!」
珍しくサーサの興奮した姿を見て、若干引いたが……いやいや、本当に珍しいな。
「儂も賛成じゃ、二度と先のような無様は晒せん……一でも二でも、己を高めようぞ!」
「あぁ、そうだな! たった一週間。それでも一週間あるんだ! やるだけやってやるぜ! 取り敢えずここに来るとき出会ったあの魔物くらいは余裕で倒せるようになりてぇな!」
ドガもゼルワもやる気に満ちている! そうだ、アリサ様が助けてくれなければ私達はホーンライガーとあの飛行する魔物の餌と成り果てていたかもしれないのだ。もう、あのような無様は見せられんな!
「アタシも勿論賛成よ! うふふ、でもアイギス、自分磨きだけが目的じゃあないわよねぇ~?」
うっ……レイリーアが私をニヤニヤと怪しい笑顔で見やる。こういう顔をした時のレイリーアは大抵……
「ねぇ、アリサ様~よかったらアタシ達もアリサ様の『探索班』に入れてくれないかしら? アイギスがアリサ様と一緒にいたぁーいってきかなくてぇ~♪」
「ほぇ? そうなの? いいよ~♪ 一緒に『聖域』を冒険しようね!」
なっ!? レイリーア! お前はなんて勝手に!? いや、しかしこれでアリサ様と御一緒できるのは事実……自分の気持ちに素直になるならこれほど嬉しい事はないではないか!!
「はい、よろしくお願いします! アリサ様!」
気付けば私は心からそう返事をアリサ様に返していたのだった。
アリサ「ダンジョンって言えばさ、トラウマになってるのがあってね(-_-;)」
ドガ「んなっ!? アリサ様がトラウマになるほどのダンジョンじゃとΣ( ゜Д゜)!?」
アリサ「いやぁ~魔物は強いわ、毒沼があるわ、至る所に落とし穴があるわ、同じ所をグルグルさせられる無限ループがあって道間違えれば最初に戻されるわで……( ノД`)…」
ゼルワ「やべぇ……アリサ様でも見抜けねぇ罠とか((゜□゜;))!?」
レイリーア「アリサ様が強いって言う魔物って……(゜Д゜;)」
アリサ「死に物狂いでそのダンジョンを抜けても、その先の拠点までに即死魔法連発してくる魔物に、躊躇いなく自爆魔法使ってこっちのパーティー壊滅させてくる魔物がいるわで……┐(´~`;)┌」
サーサ「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! な、何ですかそれぇ~ヽ(ill゜д゜)ノ?」
アイギス「そ、それはトラウマになるのもしょうがないですねヽ(;゜;Д;゜;; )!?」
フォレアルーネ(……アリサ姉が言ってるのって、ゲームの話だと思うけど……(^_^;))
レウィリリーネ(ん、面白いから静観する(*´-`))
アルティレーネ「まぁ……そんな恐ろしいダンジョンがあるんですね? 一体どの辺りのダンジョンかしら……ティリア姉さまご存知ですか(´・ω・`)?」
ティリア「アルティ……あんた……( ゜д゜)ポカーン」
アルティレーネ「(・_・?)」
ティリア「はぁ、ホントに天然よねぇ(  ̄ー ̄)ノシ 確かロンダルなんたら~ってとこだったんじゃないかしらね~(o・ω・o)」




