21話 魔女とプリン
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【震撼する冒険者達】~じゃがいもウマー~《アイギスview》
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「「うまーいっ!!!」」
アリサ様と女神様がお住まいの屋敷の庭に、感動の声があがっていた。
女神様からアリサ様の素性を、なんと映像付きで説明を受けているところで、当のアリサ様から「おやつ」なる料理が振る舞われたのだ。
「これがあの芋!? うそでしょう!?」
「とても同じ食材とは思えない食感です! 薄くスライスされたこちらはパリパリしていて、美味しいし楽しいです♪」
レイリーアが食材は何か? と問えば、なんとありふれたじゃがいもだと言うではないか! じゃがいもなんて適当に皮を切ってスープに放り込むくらいしかしてこなかったが……サーサが手に取るのは薄くスライスされ、パリパリと噛めば音を立てて口内にうす塩味がふわぁ~っと広がる、病み付きになりそうな料理だ。そしてレイリーアが食べているのは半月状にカットされたもの、こちらは同じ塩味でも食感がまるで違う。表面はパリっとしているのに、中身はホクホクとしていてとても優しい感じがする。どちらもとても美味しく、甲乙付けがたい!
「これは酒がほしくなるな……」
「いやはや、まったくですな! 二~三本忍ばせてくるんじゃったわい」
青龍殿が頷きつつ洩らす感想を、ドガが嬉しそうに拾い同意している。確かに酒、とまで言わなくともこれは飲み物がほしくなるな、塩味だから少し甘い飲み物が……
「朝っぱらからお酒なんて駄目だからね! これで我慢なさいよ?」
アリサ様がオレンジ色の飲み物を運んできて下さった。しまった、つい厚意に甘えてしまった。
「アリサ様、お手伝い致します」
「お、ありがとアイギス♪ じゃあこれみんなに配ってくれる?」
「お任せ下さい!」
皆食事に夢中だからな、お一人でこれだけの数を配給するのは一苦労だろう。私は気を遣ってアリサ様の手伝いを申し出た。
「オレンジジュースよ、ポテトに合うと思うんだ」
「「いただきまーす♪」」
妖精の女王、ティターニア様と共に合流された二人の妖精。ノッカーくんとブラウニーちゃんにオレンジジュースを差し出すアリサ様。
これもアリサ様がおっしゃった言葉。「頂きます」だ、料理を運ばれ、食べるようにと皆に促した時、一緒に教えて下さった「食材への感謝」を示す言葉だ。私は今後この言葉を忘れまい。
「ん、これはユニの呪いぶっ飛ばした時だね? 一昨日だよ一昨日」
「ユニ、この時のこと、一生忘れないよ」
映像の泣きじゃくる姿と真逆に、満面の笑みでアリサ様に抱きつくユニ殿。アリサ様は「私もだよ」とユニ殿の頭を優しく撫で、とても慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。あぁ、アリサ様……その微笑みに私はますます彼女に惹かれていく。
「はは、あん時空に飛んでった魔力ってこの粒子砲だったんですね?」
「お、ゼルワ達も見てたの?」
「この『聖域』に向かっている途中ではっきりと見ました」
ティリア様が操る映像を目にしたアリサ様がこの時の状況を語る。なんでもこの時の『聖域』は、まさに『魔の大地』と呼ぶに相応しい程に淀んでいたのだとか。それもユニ殿……世界樹が『魔神戦争』時代から、魔神によって反転の呪いを掛けられていたからで、その為に女神様方は世界に顕現出来なくなり、世界の自浄作用を反転させられた世界樹はゆっくりと世界を自壊させていったのだ。
その対抗策として、創世の三女神の相談を受けた主神たるティリア様が導いたのが。異世界人であるアリサ様だった。異世界では一般の成人男性であったアリサ様は、だいぶお辛い目に合われた。心の支えであったミーナ殿を寿命で失ない、自身も眠るようにその命の灯火を消した。
(人に騙され、裏切られ、嘲笑の的にされ……しかもその記憶を残しておられるとは……いや、だからこそ。これほどユニ殿を思う事が出来るのだな……アリサ様は誰よりも痛みを知っておられるのだ)
「結構飛んでったんだね、危な~途中に街とかなくてよかったよ。そいえば、この時のウナギどうなったんだべ? 後で見に行きたいな」
「ぷっ! アリサ姉さんって時々言葉が訛るわよね? 面白いわ♪」
「前世が田舎者だったからねぇ~これも培ってきたモンって判断されたんだべね?」
ぷふっ! アリサ様のような見目麗しい女性が言葉を訛らせると、ギャップが凄いな。つい笑ってしまう。話をふったティリア様も可笑しそうに笑い、他の方々にも伝播して明るい笑い声が庭を包んだ一幕だった。
「じゃあ、私は料理の続きしてるから。終わったら結界張るからね~?」
「「「「はーい!」」」」
「ユニも手伝う~!」
「おぉ~ありがとユニ♪ じゃあ一番に食べさせてあげる!」
「わぁーい!」
アリサ様に揃って返事をする女神様の四人。おっ手伝い~♪ と、楽し気にアリサ様と一緒に屋敷に入って行くユニ殿。皆とても仲が良いのだな。
そして映像は昨日の事を映し出す。『聖域』を再生させるために、この屋敷から世界樹に向かい、聖獣達と出会い。黄龍シドウ殿に掛けられた呪いのこと、魔神の残した最後の呪いに打ち勝つ為の凄まじい戦い。その一部始終を見た私達『白銀』は揃って絶句していた。
「いやぁ~ん! 恥ずかしいわ……この時危うく自分で自分の棲処を焼いちゃうとこだったのよねぇ~」
「私も檮杌に玄武の里を焼かれるかと思いました、アリサ様には感謝ですね」
ホントよね~! と、苦笑する赤髪の女性、朱雀殿と、青い髪の玄武殿。
「俺もカッコ悪ぃとこ見られて恥ずかしいぜ、窮奇の自爆にまんまと引っ掛かっちまったからな。青龍みてぇにビシッ! っと決めたかったぜ」
恥ずかしそうに頭をボリボリと掻いて同じように苦笑するのは、白黒の髪の白虎殿だ。あの爆発を耐えきったのだから凄まじいタフネスだと思いますよ?
「はは、そうでもねぇさ。この時は姐御の聖なる祝福があったお陰だぜ」
そう言って謙遜する白虎殿。そう、この戦いでアリサ様はとてつもない活躍を見せた。
「この時は迷惑を掛けてしまった……この場を借りて改めて謝罪したい」
「ですね、皆様申し訳ありませんでしたわ」
「現世に戻れた解放感に酔ってしまいましたね……本当にすみません」
「えっと、ごめんなさい。四神のみんなも懐刀のみんなもそうだけどさ、この時のアリサ様が物凄くてマジびびったよね!」
バルガス殿のご家族が揃って皆に謝罪した。相対した聖獣である、セイントビートル、ペガサス、ガルーダ、フェニックス、八咫烏、グリフォン軍団は、もう済んだことだと笑い飛ばしている。
「パルモーさんはこの時随分楽しそうでしたものね! 付き合わされた私は大変でしたわ!」
「ぽんこつ女王は心が狭いね~ボクが言うのもなんだけどさ、他のみんなを見習ったら良いんじゃないかな!」
「ぽぽ、ぽんこつではございませんわ!!」
「「ううん、ティターニア様はぽんこつだよねぇ?」」
「はっはっは! 違ぇねぇぜ! このぽんこつ女王が!」
「きぃーっ! ノッカーにブラウニーまで! ヘルメットは後で折檻ですわよ!」
パルモー殿とティターニア様とのやり取りに、ノッカーくんとブラウニーちゃん、ヘルメットさんも加わり場に笑いが巻き起こる。妖精とは面白いな。
(しかし、なんと懐の深い……治ったとは言え、セイントビートル殿は一度顎を失ったと言うのに。私も見習わなくてはな)
「……も、もう、凄すぎて何がなんだか、です……」
「これは最早神話じゃなぁ……」
「は、ははは……Sランクってなんだっけ?」
「言わないでよゼルワ……それにしても、アリサ様格好良いわねぇ~聖なる戦乙女……お願いしたら見せてくれるかしら?」
サーサは魔法使いとして、短文詠唱や、並列詠唱と言った技術を突き詰めSランクと至った実力派の冒険者だ。それ故にアリサ様の魔法技術の規格外っぷりがよく理解出来てしまうのだろう。一体どれ程の研鑽を積めばあの境地へと至れるのか計り知れず、何がなんだか、と。
ドガの感想には同意せざるを得ない。ゼルワの乾いた笑いも理解出来てしまう、冒険者として頂点となるSランク。その私達が、例え『黒狼』と組んでも一瞬で蹴散らされるであろう戦力差がここにあるのだから。
そしてレイリーアの言う、アリサ様の聖なる戦乙女の姿こそが私が夢で見たアリサ様のお姿だ! 私はこれを運命だと感じる。アリサ様に私はっ!
「見せてくれると思うよ~? アイギっち達も何日かは滞在するっしょ? アリサ姉に鍛えてもらえばいいと思うよ~!」
「ん、と言うか転生してあたし達の加護を失った貴方達じゃ、とてもじゃないけど『聖域』で活動するのは自殺行為」
「アリサお姉さまに加護を与えたので、改めて貴方達に加護を与える事は出来ませんが……そうですね、鍛練や武具の融通でしたら可能な限り協力しますよ?」
おぉっ! なんと有難い話だろうか!
「是非お願いします! 私は少しでもアリサ様に近付きたい!」
「へぇ~」「ほほぅ~」「まぁ……」「むぅ……」
嬉しい提案に飛び付く私を、少し訝しげに見る四人の女神様。うっ……しまった、これは私がアリサ様に懸想している事がバレたか?
「私もお願いしたいです! もっと魔法を鍛えたいですから!」
サーサが私も私もとぴょんぴょん飛び跳ねてアピールする。
「いやいや、待たんかお主達。儂等は『悲涙の洞窟』のスタンピートに備えるために『セリアベール』に戻らねばならんのだぞ?」
「そうよ、二人の気持ちはわかるけど。スタンピートが起きた時『白銀』不在じゃ厳しいわ」
「だな、確かに今日明日って事はねぇと思うが……あまりゆっくりもしてられねぇぜ?」
ぐっ! そうだった……私達がこの『聖域』に訪れたのは、神々の雫を求めて。ひいては私の腕を治す為だ。それが叶った以上、一刻も早く街に戻り、また起こるであろうスタンピートに備えなければいけない。
「洞窟? スタン……なんちゃら? 何の話?」
その時屋敷からアリサ様とユニ殿が庭に出てきた。トレイに料理を乗せて、なんと愛らしいエプロン姿で! エプロン姿で! ぐわぁぁっ! 可愛すぎる!!
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【ぷりーん】~楽しいお菓子作り~《アリサview》
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貰った食材になんとサトウキビが入ってた! これは嬉しい! 早速魔法で『圧搾』し、絞り汁を『濾過』して不純物を取り除いて『結晶化』させる。
「砂糖ゲット! いやぁ~魔法って便利♪」
取り敢えずお手軽簡単、ポテトチップスにフライドポテトを出したので今度は飲み物を作る。オレンジの皮を剥いて『ミキサー』したオレンジジュース。うん、甘味と酸味が良い感じ! 品質高いね!
「これは酒がほしくなるな……」
「いやはや、まったくですな! 二~三本忍ばせてくるんじゃったわい」
庭に出るとみんな美味しそうに食べてるね。青龍とドガがお酒ほしいとか言い出すので注意。
「朝っぱらからお酒なんて駄目だからね! これで我慢なさいよ?」
「アリサ様、お手伝い致します」
「お、ありがとアイギス♪ じゃあこれみんなに配ってくれる?」
「お任せ下さい!」
私がみんなにオレンジジュースを配ってるとアイギスが手伝ってくれた。うん、こういう風に気が利くなんて良い奴じゃん♪ 私の好感度がピローンと上がったぞぅ!
ティリアが「見てた」という映像は丁度私がユニを助け出した時の状況を映してる。
「そいえば、この時のウナギどうなったんだべ? 後で見に行きたいな」
「ぷっ! アリサ姉さんって時々言葉が訛るわよね? 面白いわ♪」
「前世が田舎者だったからねぇ~これも培ってきたモンって判断されたんだべね?」
すっかり忘れてたけど、あの時の二つ頭の鰻の様子も見に行こう。蒲焼きだ蒲焼き♪
何気に口にした私の言葉にティリアが吹き出す、レウィリリーネが教えてくれた洗濯機は訛りを忘れさせてはくれなかったみたいだね。時々口にしちゃう。
(うん、みんな楽しそう♪ アイギス達も笑顔だね)
屈託なく笑うみんなを見てほっこりしてしまう。特にアイギスなんて子供みたいに可愛い笑顔だ。このイケメンめ! 私はなんだか嬉しくなって、次の料理を頑張って作ろうって思う。
「じゃあ、私は料理の続きしてるから。終わったら結界張るからね~?」
「「「「はーい!」」」」
「ユニも手伝う~!」
「おぉ~ありがとユニ♪ じゃあ一番に食べさせてあげる!」
「わぁーい!」
有難い事にユニがお手伝いしてくれるみたい。ふふっ姉妹仲良くお料理とか、良いね! 頑張って美味しい物作ろう!
「えへへ! アリサおねぇちゃんなんだか嬉しそうだね♪」
「わかる? やっぱり料理って楽しいし、みんな美味しいって喜んで食べてくれるのが、また嬉しくてさ!」
そうよ、そうなのよ。私はこう見えて結構料理好きなのよ。前世では自分で作って自分で食べるだけだったけど、今は食べてくれるみんながいる。そのみんなに「美味しい」って言ってもらえるのがこれほど嬉しいものだったなんてね。
「ユニもお料理したいな! アリサおねぇちゃん何作るの?」
「そうだね……」
ユニの言葉に私は少し考える。なんせ人数が多いから、数を作らないと……今ある食材から、沢山作るには~?
「よし、プリンを作るよ! ユニも手伝ってね?」
「はーい♪」
折角砂糖もあるし、牛乳、卵と材料もある。欲を言えばバニラエッセンスも欲しかったけど……っと、いけない。ちゃんとエプロン着けなきゃね!
料理するときはこれを着るんだよって、ユニに見せないといけないので、イメージを具現させてミーにゃんエプロンを装着する。
「よし、どんな感じかな? って、うぐぅ……これは……」
おぅふ……視点を操作して自分を見てみたけど……いや、ちょいと可愛くイメージし過ぎたかな?
胸元にワンポイントとしてデフォルメにしたミーナを模様にあしらい、可愛らしいフリルが着いてて、まるで新妻エプロンみたいだ。
「わぁー! 可愛い~♪」
「まぁ、いっか……はい、ユニも着るんだよ~? これはエプロンって言って、お料理するときに着る服だからね?」
「わーい! やったぁ~アリサおねぇちゃんとおそろい~!」
うんうん、ユニが喜んでくれるならいいや。早速プリン作りを始めよう!
お菓子を作る時に最も重要なのが計量だ。これを間違えると大抵駄目になるので食材を無駄にしない為にもしっかり計量しよう。
まずは大さじ、小さじ。その二分の一さじ。計四つの計量スプーンを具現させる、これは前世で使ってた持ち手に動物をあしらった物だ。大さじならウサギ、大さじの二分の一ならカエル、小さじならパンダ、小さじの二分の一ならライオンといった風に、ユニのような小さな子でも楽しくお菓子作りを出来るように工夫されている。
後は今回使わないけど泡立て器、こちらも大、中、小と三種類用意。残念ながらハンドミキサーは具現化出来なかった、どうも電化製品は無理みたいだね。
「へら、ボウルも大中小~計量カップに、キッチンペーパー、こし網、秤に、小さい鍋とプリン用の型に蓋っと!」
必要な道具をホホホーイっと具現させキッチンに並べる。
「わぁ……こんなにいっぱい道具を使うんだ!?」
「そうだよ~料理って、いっぱいてまひま使って作るものなんだよ」
まぁ、今用意した物全部使う訳じゃないけど、今後使う事になるだろうしね。ユニの戸惑いを背中に聞きながら私はオーブン、と言うか窯? を確認する。このタイプは使うの初めてだ、よく調べよう。温度管理は魔法でなんとでもなる。
「じゃあ、ユニ。この秤のこの針がここに来るまで、そのお砂糖をスプーンで乗せてくれるかな?」
「お砂糖って、この白いつぶつぶ? はーい!」
ユニのために踏み台を用意して、台に手が届くようにしてあげて計量作業を見守る。ふふっ一生懸命で可愛いね~♪
「ふんふん、ここに火を入れて熱掛けて……なるほどなるほど」
再びオーブンを確認して、大まかな使い方を理解する。慣れないと難しいかな……ちょっと使いやすく改造したほうがいいかも。しかし、前世の技術ってかなり凄かったんだなって改めて認識しちゃうね。だってこんなのがちょっとしたボタン操作で直ぐ使えるんだもん。
「卵を溶いて……だから見えないっての!」
またやってしまった、じゃがいもをカットしたときもそうだったけど。いつもの感覚でやると手元が見えないんだよ……このGカップのせいで! 少し見える位置にずらしてっと。
「卵は泡立てないように」
ユニが砂糖を計量している横で、卵をボウルに入れ静かに泡立てないようにしっかり溶いておく。ここでしっかり解きほぐさないと濾した時に裏ごしに卵白が残ってしっかり固まらないんだよね。
「アリサおねぇちゃん、出来たよ~見て見て~!」
「はーい、どれどれ……うん、バッチリだよ! ありがとユニ♪」
「えへへ! このくらいお安いご用でーす!」
わぁ~ユニの可愛いドヤ顔いただきました~! やったぜ!
「じゃあ今度はユニが計ってくれたこのお砂糖を火にかけるよ。そのウサギさんスプーンに水入れてくれるかな?」
「はーい♪ ウサギさんウサギさん可愛い~!」
カラメルソースを作る、鍋に砂糖を入れてユニが用意してくれた大さじ一の水をサッとかけ、中火にかける、この間にユニにはさっきの水と同じく今度はお湯を用意してもらう。ふつふつと煮立ち、水分が蒸発して白い結晶が溶けて飴色の液になっていく。
「ここでお湯を、えぃ!」
ジュワジュワーッ!
「わぁー! あわあわだね!」
「うん、これがカラメルソースだよ。甘くて少しほろ苦いんだ」
鍋を火から下ろして、型に均等になるように入れて行く。さあ次はプリン液だね。計量した牛乳に、同じく計量した砂糖を入れて、電子レンジ……がないので魔法で温めてかき混ぜ、砂糖を溶かす。さっき溶いた卵に加えて同じように泡立てないように注意して混ぜて、こし器で型に流し入れる。
「よし、じゃあユニ、蓋を被せていってくれるかな?」
「うん、これだね? ちっちゃくて可愛い蓋!」
ユニが型に蓋を被せている間に、オーブンの角皿に水で湿らせたキッチンペーパーを敷いてっと。
「じゃあこれに並べようか」
「うん♪」
間隔をあけて型を並べ、オーブンにかける。焼き上がったら火傷しないように、耐熱手袋をはめて角皿を取り出して、冷蔵庫に……そんな物はないのでこれも魔法で解決。うーん、色々勝手が違うねぇ、誰でも使えるように何とか考えよう。
「はい、出来た! ユニ一個食べてみて」
「やったぁ~♪ エヘヘどんなだろ~?」
蓋を取り、スプーンと一緒に一個のプリンをユニに差し出す。私も食べよう、味見は大事だし!
「うん、美味しい! やっぱりこっちの世界の食材ってどれも高品質みたいだね」
「う、うぅ……アリサおねぇちゃん……」
えっ!? ユニがポロポロと泣き出しちゃった!
「どどど、どうしたのユニ!? 美味しくなかった!? お腹いたくなっちゃった!?」
ヤバイ! もしかして口に合わなかったのだろうか? いやいや、もしかしてアレルギーとか!? いやいや、ユニには毒になるような食材だったとか!?
「こんな、こんなに……こんなに美味しい食べ物あったなんてぇ~! 美味しい! うぅっ美味しいよぉぉ~!」
オロオロと慌てる私に向かってユニが泣き叫んだ、な、なぁ~んだ……びっくりしたぁ~……プリンの美味しさのあまり感動しちゃったのか、あはは、まさか泣くほど喜ばれるなんてね!
「あぅ、もう無くなっちゃった……うぅ~でも、凄かった! アリサおねぇちゃん凄いね♪」
「あはは、結構ありふれたお菓子なんだけどね~」
無我夢中でプリンを食べてしまったユニを見て、気を良くした私はみんなの分も作って庭に持って行く。
「いやいや、待たんかお主達。儂等は『悲涙の洞窟』のスタンピートに備えるために『セリアベール』に戻らねばならんのだぞ?」
「そうよ、二人の気持ちはわかるけど。スタンピートが起きた時『白銀』不在じゃ厳しいわ」
「だな、確かに今日明日って事はねぇと思うが……あまりゆっくりもしてられねぇぜ?」
すると、ドガ、レイリーア、ゼルワが何かアイギスとサーサに話してる。
「洞窟? スタン……なんちゃら? 何の話?」
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【大好評】~得られる協力~《アリサview》
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「うわあぁーっ!! アリサ姉可愛い~!」
「ん♪ 最高に可愛い! ナイスエプロン!」
「まぁ~! 流石私達が自慢するアリサお姉さまです♪」
ハイハイ、ありがとねありがとね。料理に夢中でエプロンのことすっかり忘れてた、めっちゃ女の子したエプロン着けてたんだったよ。
「ちょっと甘いお菓子作ってきたよ。女の子は喜ぶんじゃないかな? 食べてみて感想聞かせてね~?」
妹達とティターニアにブラウニーちゃんとノッカーくんには最優先に渡す、このプリンの味で協力体制が築かれることを祈ってね!
「うふふ……アリサ様ったらまるで新妻のようですわね♪ 私も着て甘えようかしら? ねぇ、あなた♪」
「む……むぅ……わ、我は……その、構わぬ……」
おーおー、ネヴュラにバルガス夫婦は仲がよろしいこって! でも普通に似合いそうだねネヴュラは。
「わ、私も……着ましょうか? ゼルワ?」
「おぉっ! マジで!? 見てぇ~♪」
おぃおぃ……こっちにもいちゃつくカップルがおるぞ? サーサとゼルワはそういう仲なのか。
レイリーアもアタシもそれ着てダーリンに色々してあげようかな~なんて言ってる。色々ってなんですかねぇ~色々って? ちょいと後でアリサさんに教えなさいよ!
「ほい、アイギスも食べてみて……って、どうしたの?」
「あ、アリサ様……」
なんかアイギスがプリン渡そうとした私の手を両手で包むように、握ってきたんだけど、何がしたいんだコイツは? っていうか手でっかいな、いや、私の手が小さいのかな?
「あ、そうそう。治した腕の経過知りたいから、後で見せてね?」
「はっ! はい! 料理いただきます!」
私の声に我にかえったように慌て出すアイギス。なんなんだろうね一体?
「うんまぁ~い!」
「ん♪ すごいなめらか、甘くて美味しい!」
「底のほろ苦さと甘さを兼ね備えたソースも絶品です♪」
「まさかこの世界でもプリン食べられるなんてね!」
まずは妹達から感嘆の声があがり。
「素晴らしいお菓子ですわぁ~!」
「凄く美味しい! これぼく達が持ってきた食材で作ったんですか?」
「牛乳と卵? この甘さって何~? 知りたい!」
「かぁーっ! やるじゃねぇかアリサの嬢ちゃん! 俺様は甘いモンは好きじゃなかったんだが、コイツはいくらでも食えそうだぜ!?」
ティターニアを始めに、ノッカーくんとブラウニーちゃん。ヘルメットさんにも好感触だ。……ヘルメットさん、どうやって食べたのよ?
「美味しいのじゃ! 甘いのじゃ♪ もっと食べたいのじゃ~!」
「うむ、甘さがじわりと染み渡る。惜しむらくは量の少なさか……」
「ウマイんだぞ~! ハチミツとはまた違う甘さ!! もっと欲しいぞー!」
「こりゃあ見事な菓子じゃ! 儂のような年寄りでも美味しく食べれる柔らかさ、たまらんのぅ!」
懐刀達も喜んでるけど、やっぱり量が少ないって嘆いてる。他の面々も概ね絶賛してくれてるけど、もっと食べたいって声も同時にあがった。まぁ、今回はしょうがないよね、妖精さん達が持って来てくれた分しか材料ないんだし。
「本当に美味しいわ、こんなお菓子初めて。材料の砂糖がよくわからないけど……それさえあれば街でも流行るんじゃないかしら? このプリン」
「なんとも滑らかな菓子じゃ、特にこの底にある黒いのがまた良い! そうじゃ、ラグナース殿ならば砂糖とやらも存じておるやも知れん、帰ったら聞いて見ようぞレイリーア?」
「はぁ~、もし『セリアベール』にこれ売る店あったら、俺毎日通うぜ~今まで食ってたのってなんだったんだろうな? こんな美味いのがあったなんてよ」
「天にも昇る美味しさ……ホント、ここに住みたいです、アリサ様に魔法も料理も教わりたいです! ねぇ、スタンピート抑えたらまた来ますよね!?」
「ああ! 必ずまた来よう! 次のスタンピートを鎮圧させたら、今度は沢山手土産を用意して必ずまた来よう!」
二回言ったぞアイギス。 冒険者のみんなまで驚いたうえに喜んでるのが意外だった。『聖域』みたいに人がいないわけじゃないんだし……寧ろ人が集まる街なら、美味しい食べ物いっぱいあるんじゃないのかな? 食事処とか酒場ってあると思うし。
「街にはこう言うお菓子って売ってないの? それにさっきも聞いたけどスタンピートってなんぞ?」
って、しまった! 聞いといてなんだけど、アイギス達お客さんにばかり構ってもいられないんだった。
「売っていませんね、精々が肉、魚、野菜。後はパンくらいなもので……アリサ様、このお菓子の作り方私にも教えて下さい!」
「サーサ、落ち着けって。すいませんアリサ様、サーサの奴えらくこの菓子を気に入ったみたいでして……それで、スタンピートっていうのは……」
「あい。ちょいと待ちたまへ。何か事情ありそうだしあんた達の事も今日の議題に取り上げるから」
あ、よっこいしょっと。ドンって昨日使ったホワイトボードをミーにゃんポーチから取り出しては庭に置く。
「あ、ハイ……」
「さて、妖精さん達。私が作ったおやつはどうだったかな? 私達に協力してもらえるならレシピ教えるけど……どう?」
これから農業、酪農を始めるにあたって経験者による指導は必要不可欠なので、色好い返事を期待したい!
「はい! ぼくは喜んで協力させてもらいます!」
「わたしも! ううん、こっちからお願いしたいくらいです♪」
「俺様ははなから協力するって言ってるぜぃ!」
「決まりですわ~! うふふ! これで私の立場は磐石ですわね!」
おぉっやった! 二つ返事で了解もらえたよ。嬉しいな!
《やかましいですよ? ポンコツ女王様》
「そうだ、ウルセェぞこのポンコツが!」
「だだだ、誰がポンコツですか!? このヘッポコカラスにダメメット!!」
ティターニアがわめくわめく。何でこの子に女王が務まるのかね? 八咫烏にヘルメットさんが揃ってディスると負けじと言い返すその様はまるでお子様である。
「いよいよ『聖域』の開拓が始まるのだなアリサ殿、我等虫型の同胞が住み良い環境になると嬉しいが」
「僕は酪農に協力したいですね! 同胞達も一緒に遊びに行きたいみたいでして」
セインちゃんとペガサスが器用にプリンの器を返しに寄って来たので、受け取って声をかける。
「そうだね~樹を伐採する事になるだろうし、その辺セインちゃんが都度注意できるようにした方がいいかもね。他にもそういう事に敏感な子、そうだね……二匹くらい連れておいでよ?」
「うむ、承知した!」
「ペガサスの同胞ってどんな子達? 遊びに来るのは全然構わないよ~協力してくれるってのは願ったりだし!」
「ふふっ多分アリサ様が好きな子達だと思いますよ。ユニコーンとかサンクチュアリースとかモモモモンガーとか可愛いって感じるんじゃないでしょうか?」
ユニコーンは馬だぞね? サンクチュアリースってどんな子? モモモモンガーはモモンガだと思うけど、何でそんなにモが多いのよ? まぁ、なんにせよ楽しみだね!
《魔女殿、馳走になった。料理とはかくも素晴らしいものであるな》
《ご馳走さまでした、アリサ様。大変美味でございました》
「はいはい、お粗末様でした。ガルちゃんもフェニックスも、あっ!!」
同じように器を返しに来たガルーダとフェニックスを見て、私はとんでもない事に気付いてしまった!
「あの~あのね、あの~ね? 二人とも落ち着いて聞いてほしいんだけど、プリンには鶏っていう鳥の卵使ってるんだけど~」
《うむ、どこか慣れた味がすると思ったがやはりそうであったか》
《あの鶏の卵を混ぜ合わせるとあんな味が作れるのですね、私はいつも殻を破って飲み込んでおりましたので気付きませんでした》
あ、いや……共食いとかには……? ならないんだって。鶏は動物で、ガルーダ達は神獣。なので、なんの問題もないとのことだ。……えっ? 良いのかそれで?
《うまかったぜーご主人!》
《俺等今まで鶏なんて丸飲みしてたけどよ》
《ははっ! 今度からご主人に献上するわ!》
「あー、うん……もういいやそれで」
どうやら考えるだけ無駄みたい。グリフォン共は普段から餌として食べてるみたいだし、モコプー達も八咫烏もそうなんだろう。器をユニに返して《美味でした》、「ぷーぷー」、(もっと食べたいですねぇ~)って喜んでるし……
うん。深く考えずに二回目の会議を始めようか。
アリサ「あれ、エルフって卵とか食べて平気なの(・_・?)」
サーサ「え、どうしてですか(´・ω・`)?」
アリサ「いや、私のエルフのイメージってお肉とかなまぐさを食べない種族だからさ(;`・ω・)」
レイリーア「随分変わったエルフねぇ、ゼルワはそんなエルフ知ってる(-ω- ?)」
ゼルワ「いや、知らねぇ。肉も卵も食わねぇって。随分食いもん豊富なとこに住んでんのかな? 俺等なんてガキの頃から狩りやらされてたけど( ´~`)」
サーサ「食べたいなら自分で獲って来い。でしたものね(-_-;)」
レイリーア「アタシも似たようなものだったわね(゜-゜)(。_。)」
アリサ「現実は厳しいんだねぇ~( ノД`)…」
 




