167話 過去と未来と……
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【二人の正体】~うん。知ってた~《アリサview》
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さて、『ゲキテウス王国』の魔女ウォーラル、『エルハダージャ王国』の賢者ヒヒイロがこの『聖域』を訪れると言うことは、私とアイギス。そして、珠実にとって大きな意味がある。まあ、その意味を理解しているのは私と珠実の二人だけなのだが……こうして私達と面と向き合って会おうとすると言うことは、彼等の存在が確立されたからなのだろう。
「アリサ様。女王陛下。この度は私達のために時間を割いていただき、感謝の念に堪えません」
「まことにありがとうございます。この姿でお会いするのは初めてですわね? 改めまして、『ゲキテウス』が魔女。ウォーラルにございます」
そうしてやって来た二人。流石、と言うか、当然。と言うべきか……『聖域』の魔物などものともせず、二人とも正面きってやって来たよ。だけど……
「うむ、よう来たのじゃ二人共……その姿。どうやら、本来在るべき時へ帰る頃合いのようじゃのぅ?」
「今この屋敷には私と珠実の二人だけよ? 防音も完璧だから何も遠慮いらないわ」
ヒヒイロとウォーラルの二人はその姿が、かつての『ココノエ』のように、半透明であり、時折ブレたりするとても不安定な状態だった。それはもうすぐ二人が元いた世界へ帰還するという合図だ。
「そうですね。私達にはもう、あまり時間が残されておりません」
「ええ、ようやく課せられた罰が赦される時。私達は本来いるべき世界へと還りますわ」
そう。『ココノエ』もそうだったが、この二人は本来の世界でなんらかの罪を犯し、この世界へと償いのために飛ばされたという。
「お主等がこうして妾達の前姿を見せたのは、別れの挨拶のためじゃな?」
「はい。しばしの別れです」
「……色々とご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんわ」
うん。やっぱりそうみたいだ。この二人なりに義を通しに来たってわけか。と、言ってもこの二人が「迷惑~」って言っているのはまだ、未来の話。ここで頭を下げるのもおかしな話だろう。
「それは、向こうに戻ってココノエと一緒に、みんなに言いなさいな? でも、気持ちはちゃんと受け取っておくわ。元気でやるのよ?」
「はい。ありがとうございます」
「勿論ですわ、今までの経緯をお話し、誠意をもって謝罪します」
そう、この子達が謝るべきは、本来在るべき世界へ帰った後。お世話になっているみんなに対して、「ごめんなさい」をするべきなのだ。だけど、こっちでもお世話になった私達にも、ちゃんとそうやってお礼できるのはいいことだわ。ふふ、しっかり育てられてるようで嬉しい♪
「それで、一体ココノエの奴は何を仕出かしたのじゃ? お主達の正体に気付いて思うたのじゃが……罰を与えた側にも相当な危険を孕む内容ではないか?」
「あ~ちょいとお待ちなさいな珠実。答え合わせもかねて、順を追って確認しあいましょう?」
結構ややこしい話だからねこれ。ひとつひとつちゃんと整理して、こんがらがってしまわないように、ちゃんと順番に話していこうじゃない?
「むむ、それもそうじゃな。では、妾から……
ヒヒイロ、ウォーラルよ。其方達二人は、未来のアリサ様のやや子じゃな?」
「はい。その通りです……母は『神々神』アリサ」
「父は『大聖霊』アイギス。つまり、貴女様から産まれた双子でございます」
そう、だからこそ初めてヒヒイロに会った時に「他人って感じがしない」って思ったんだ。
ウォーラルに関してはモニター越しに見た程度だったけど、直感で多分この子も身内っぽいなとは感じてた、下手な変身魔法使ってたし、素性隠したいんだろうなってのも察せたし、なによりココノエが「叔母さんが~」って言ってたもんね。
でも、双子だったのか……それにしてはこの二人は、親である私とアイギスには似ているものの、兄妹? 姉弟? としては似てないから、二卵性双生児なのかしら? なんにせよ、こりゃ私も頑張って産まなきゃいけないね。
「そしてココノエは……私と……」
さしたる驚きはない。私と珠実は既に察していたから。ただ、この事は他のみんなには話せない。だって、未来の話だからね。この子達がこうして挨拶に来たってことは、未来での存在が確定したからだとは思うんだけど、リスクを減らしておくに越したことはないから。だからこそ他のみんなには席を外してもらっているのだ。
「妾との子じゃな? ふふ、道理で似ておるわけじゃ♪」
「私マジにおばあちゃんになってる時代かぁ~あんた達~私のことママって呼んでいいのよ?」
結構先の未来からやって来たのね三人は。私とアイギスの子が成人して、珠実とくっついて、孫が産まれてるとはねぇ……あ、そう言えばココノエに渡した卵焼きは喜んでもらえたかしら?
「えーと、あはは。父さんとくっついたばかりの頃の母さんかぁ~見た目全然変わってないからちょっと戸惑うけど、やっぱり色々と若い気がするわ」
「母上はそうだな、本当にお変わりない。しかし……その、女王陛下、いや……珠実様は」
「なんじゃ? お主達の妾はどんななんじゃ? 普段からの口調で構わぬぞ? 申してみよ」
ほほう、そうかね? まあ、『不滅』持ちの私だし、その私の『聖霊』となったアイギスも今と見た目は変わっていないのはわかる。そして、子供を産んで、孫ができてってなれば、精神が年をとるのも納得だ。
ふむ。それは珠実も同じはずだと思うけど、なんかヒヒイロがちょっと困ったように苦笑いを浮かべてるのはどうしてだべ?
「では、失礼して……オホン。私達は幼い頃から貴女に「自分のことは『たまちゃん』って呼ぶように」と言われていて……」
「そうそう♪ そして、そのたまちゃんの口調がね。今と違って、のじゃのじゃじゃないんだよ?」
「なんじゃと? 妾に一体どんな心境の変化があったんじゃ?」
「あ~それって今なんじゃないの珠実? 多分、未来の私達もこうしてこの二人に会って、先に進んだんだろうから」
どうやら、未来の珠実は言葉遣いが普通になってるらしい。私が考えるにそのきっかけはまさに今、この時なんじゃないかと思う。将来ヒヒイロとくっついてココノエを産む。その事実を知って、普通の母らしくなろうとしたんじゃないだろうか?
「ぶっちゃけ今のままだと、お母さんというよりはおばあちゃんみたいだもん。珠実」
「にょわぁぁーっ!? 何を言うんじゃアリサ様! こーんなぷりちぃで愛らしい幼女じゃぞ妾は!?」
「あっはっは♪ ホントだったんだ~あの時のたまちゃんと母さんの話!」
「ははは、実はそのきっかけも聞き及んでいたのですが……ふふ、その通りで笑ってしまいました」
あ、ほら~やっぱりね♪ 将来ココノエのお友達に「おばあちゃんですか?」とか言われないように、改めてみたらいいんじゃなーい?
「うぬぬ……妾は婆ではないわ! いいじゃろう、改めてみせようぞ!」
そう豪語しては私達に拳を掲げて見せる珠実であった。あはは♪ 先は長そうね~。
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【やっぱり】~あんたは私の娘だわ~《アリサview》
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「だけどさぁ~ヒヒイロ? あんた我が子ながら心配なんだけど……シドウから悪影響もらったりしてない? 珠実って自分でも言っちゃうくらいに幼女なんだけど?」
まさか未来の我が子があの若返り、しゃらくさい兄ちゃんと化したシドウに影響を受けて変態となっていないか、お母さんとっても心配なのだけど?
「え? 今は確かに幼い姿のようですが……私達の幼い頃には大人の女性の姿でしたよ?」
「そうそう。エプロンの似合う料理上手で美人なお姉さん。その実態は『エルハダージャ王国』の女王様♪」
「うむうむ。今の妾はまだ進化を果たして間もない故な。いずれ本来の姿をとれるようにもなるじゃろう。アリサ様や? 妾の本来の姿は傾国の美女然りとした見目じゃぞ♪」
ああ、そういやそうだったっけ? どうにも珠実がその本来の姿をとった時間が短かったもんだから、あんまり記憶に残ってないんだよね。
「まあ、よいわ。さて、よい具合に緊張も解れたところで本題に入るとしようかの?
あ、いや。待て? お主達、その名前は本名ではないのじゃろう? 本名を名乗らぬは何か理由あってのことかえ?」
「大した理由じゃないんだけどね。ほら、あの子から聞いたと思うけど、私達って記憶を封印されてこの過去世界に飛ばされたのよ?」
あ~そういや言ってたわ。珠実も当時のココノエに会った時「記憶をなくしていた」って話をしたよね?
「なんと……ココノエだけでなくお主達もそうじゃったのか……ああ、いや。変に未来の知識や記憶を残していたままじゃと未来世界の改変の危険が高まる故の処置じゃな? 流石アリサ様じゃな。いつも二手三手と先を読んで対策をする……妾も女王として大いに参考にせねばならんのぅ♪」
ふむ。なるほど確かに、珠実の言った事はもっともだ。最初から歴史を知ってしまっていると、余計なこと仕出かして、結果過去が変わり、未来が変わり、本来在るべき世界へと帰る事が不可能になるかもしれない。
珠実はその罰を与えたのが未来の私だと断定しているけれど、どうなのかしら? もうちょっと判断材料がほしいわ。もう少し彼等の話を聞こうじゃないの?
「その時なんとなく印象に残っていたのが、アマテラス様、ツクヨミ様、スサノオ様が創造したという神鋼……『ヒヒイロカネ』でした」
「私は子供の頃、母さんに聞かせてもらった物語の魔法使いの名前がよぎったわね……私だけ記憶封印と老婆の姿に変えられるってオマケつきだったしーっ!?」
ほうほう。なるほどなるほど。そうか、アマテラス達あの神鋼を創造するようになるのか……やはりあの三人を選んだのは間違いじゃなかったようだ。『ヒヒイロカネ』について話すと長くなってしまうため割愛するが、とても稀少な金属であると思ってくれればいい。
で、ウォーラルの方はと言うと、どうやら私が語って聞かせた物語の魔法使いの名前をもじったものだという……まあ、私のことだから十中八九あのタクティクスなゲームの話でもしたんだろう。
「はは~ん? あんただけ老婆の姿にって? なるほど、ルヴィアスの前に現れたっていう老婆とその孫……それは『ココノエ』と、ウォーラル。あんたね?」
「はうぅ! なんでバレたしっ!?」
「ふはは♪ やはりアリサ様の娘じゃのぅ? 反応がそっくりじゃ。して、その様子じゃとお主、姪子可愛いさに甘やかしておるのじゃろう?」
以前ルヴィアスの帝国にお邪魔したとき見せてもらった、あの不思議な絵画。あれは『ココノエ』によるものだった。ルヴィアスからも「祖母と孫」とか聞いていたし、おそらく私にバレないように変身魔法でも使ってウォーラルが誤魔化そうとしたんだろう。
「うん……実はあの子、この世界の歴史にすごい興味をもっててさ、「是非自分の目で見たい!」そう言って聞かなくて……」
「なるほど。それで無断で過去に遡って、あの絵画を残したのね? 概ね予想通りか。でも、あんただって時間移動は禁忌だって知ってるでしょう? どうしてそんなことしたのよ?」
まったく困った子ね、ココノエってば! 歴史に興味を持つのはいいけど、勝手に時間移動しちゃ駄目でしょう? 下手すりゃその歴史そのものが変化しちゃう可能性もあるんだから。んで、それを手助けしちゃう我が娘も大概である。あんたは止めなきゃいけない立場でしょうに!
「だってぇ~姪っ子可愛いんだもん! 母さんがユニちゃんとかユイちゃん、アリアちゃんとか小さくて可愛い子達独り占めするんだもん! 私だっていっぱい甘やかしたかったんだもーん!」
……あ~、うん……やっぱこの子、私の娘だわ。
つまりなんだ? 禁忌を犯しながらもココノエのわがままをきいてあげたのは、叔母バカからきたもんだってわけ? しかもなんか私がちぃちゃくてかぁいぃ子を独り占めしてると? アルナやポコだっておるだろうに……あ~だから叔母バカなのか。
「アルナちゃんとポコちゃんは私にお姉さんぶってくるんだもん……「貴女達が産まれてきた時から知ってる」とか言ってーっ! 甘やかさせてくれないんだもん」
「……と、言うわけで。お察しの通り、ココノエと妹の行動が原因で私達は罰として、この過去世界に飛ばされたのです……私はあの子の父として責任を感じ……いえ、心配で一緒に罰を受けました」
なるほどね……確かにアルナとポコは見た目が幼いとは言え、そこは『幼女神』だ。ホントは私より歳上だからね。新たに産まれてきたこの子達に甘えたりはしないか。うん、多分同じ理由でユニとユイ、アリアもウォーラルに甘えないんだろうね。
さて、それじゃあ結構情報が出揃ったところで、少し整理してみようか。
まず、ココノエ含むこの三人は未来から来た人物であり、それぞれが仮名を使っている。本名についてはこれから知ることに……いや、名付けることになるから、言及しなくてもいいだろう。
そして、ヒヒイロとウォーラルは私とアイギスの実子であり、双子。兄がヒヒイロ、妹がウォーラルってわけだ。
そのヒヒイロと珠実がくっついて産まれたのがココノエで。この子は歴史に対して、非常に興味を持っていた。そんな姪子を叔母バカで可愛いがるウォーラルは、ある日ココノエのわがままをきいて、禁忌を犯してしまう。それは、当然親である私達にバレて、連帯責任として、また。父親としてヒヒイロも含め、罰が与えられた。
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【未来では】~深刻な卵不足~《アリサview》
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「なるほど、私はココノエのお願いを叶えたかったんでしょうね、そして、身内が犯した罪なら、子供達だけじゃなく、自分達もリスクを背負わなきゃ駄目だって判断したんだわ」
うむ、確信した。この子達に罰を与えたのは間違いなく、未来の私だ。
たとえ子供達の記憶を封印しても、過去に飛ばす以上、改変のリスクは絶対にある。しかし、罪を犯したのが自分の子供達であるなら、その親である自身にも責任はあるのだ。
しっかりと三人が過去をなぞるならばそれでよし。ココノエの好奇心も満たされて万々歳だが、一歩でも間違えれば未来が変わる。っていうね……
ふぅむ……結構リスクの方がデカくない?
「はい。それが母上が私達に与えた罰でした」
「その事も最近になってようやく記憶が戻ってきたんだけどね」
うぅむ……子供産んで、孫まで産まれて~って経て、私も考えが変わるのかな? 正直、ココノエの望みを叶えつつ~ってのは、確かに私が考えそうなことだけど、それにしてはリスクが大きすぎるんだよねぇ~? 今の私はようやっとアイギスと結ばれて幸せいっぱい。うっひゃほーい♪ な状態。苦労して辿り着いた今を台無しにするような選択をするかな?
(どーも、保険かけてそうだわね……そんなこと出来そうなのは……ちょいとミーナさんや、こっそり私に教えてちょーだい? この件、あんた絡んでない?)
─にゃん。相変わらず察しがいいのにゃしもべよ。み~の世話をするしもべが使い物になんなくなっては困るのにゃ。故にみ~が過去を固定しといたのにゃ─
ちょいとみんなに内緒で我がご主猫様に『個人通話』を飛ばして訊いてみれば、やっぱりというか、予想通りの答えが返ってきたよ。なるほどね。だからこそ未来の私はそんな思い切った決断ができたわけだ。
─言うまでもにゃんけど、これはみ~としもべだけの秘密だにゃん? 大いに感謝してみ~にあのぢゅ~るを献上するように!─
へへ~! かしこまりましてごぜぇーますよミーにゃん様。
「ふぅむ……なんにしてもじゃ。お主達もようやってくれた。『エルハダージャ』もしかと妾が引き継いだ故な。安心するがよいぞ」
「そうね。あんた達はしっかりと罪を償ったんだし、胸を張って帰りなさい?」
うむ。珠実の言葉に私も頷いて、二人を労う。本当に長い時間よく頑張ってくれた。ありがとう、未来の我が子達。あんた達がいなかったら、もっと苦労してただろうし、被害も増えていたかもしれない。感謝するわ。
「ありがとうございます母上……勿体ないお言葉。痛み入ります」
「正直、もっとこっちの母さんや父さん達とも遊びたかったけど……もう、時間みたい」
あ~もう。そんな泣きそうな顔しないの! 寂しいって気持ちは私達にだってあるんだからね?
それにあんた達は帰ればすぐに出迎えてもらえるんだから、そんな顔してちゃ笑われるわよ~?
「うむ。おぉ、そうじゃアリサ様や、こやつ等に何か手土産でも持たせてやってはどうじゃ? ほれ、ココノエの奴には玉子焼きを渡しておったじゃろ?」
「「玉子焼き!?」」
「おぅ? なんぞビックリしたなぁ~? なんでそんなに驚くのよ? 玉子焼きなんて未来じゃ当たり前にあるんじゃないの?」
別れを惜しみ、(o´・ω・`o)って顔する二人を励まそうと、珠実が手土産の話を出すと、途端に血相変えて私に詰め寄ってくる我が子二人である。その豹変っぷりに面食らった私は、若干引き気味にどうしたのかを訊ねてみた。
「当たり前に。ではありません母上! 母上がお作りになられる玉子焼きは未来で「やみつき玉子焼き」と称され、卵の消費量があまりにも増え、遂には!」
「つ、遂には……どうしたんじゃ?」
「レシピそのものが世界から封印されてしまったくらいなんだよ!? たまちゃんも再現しようと頑張ってたけど駄目で……もう、母さん以外には作れない玉子焼きなの!!」
な、なんだってぇぇーっ!!? んな馬鹿な話があるかい! 流石に冗談でしょ?
「もうちょっとマシなウソをつきなさいな? たかが玉子焼きひとつでそんなことになるわけないじゃん?」
「冗談なんかじゃ!!」「なぁぁーいっ!!」
えぇぇ~? マジぃ~? 口をいーってして聞けばどうやらマジらしく、どうも『セリアベール』や『ルヴィアス魔導帝国』、『エルハダージャ』辺りで爆発的にヒットして、養鶏業界がえらいことになったらしい。
「あわや世界から鶏が神聖視されそうになるほどで、事態を重くみた母上が人々の記憶からそのレシピを消して、書き残された物も総て消して、そうしてようやく事態は収まったのですよ?」
「ほーんと……世界中で卵不足! 鶏絶滅の危機! なんてニュースになったんだよ母さんや!?」
おぉう……なんたることか。たかが玉子焼き……なれども、そんなとんでもない事態を巻き起こしてしまうとは……やっべ、これちょっと学校で教える料理のレシピ見直した方がよがんべが?
「最近はだいぶ鶏の数も戻って来たからいいけど……暫く大好きな母さん特性の茶碗蒸しが食べらんなくなったのは辛かったよぉ~今も辛いぃ~!」
「私も母上が作って下さるオムライスがとても好物なのですが……その事件が起きて以降、もう滅多に食べられなく……」
いや、その……泣くほどなのかね? 思い出したのか二人はその顔を(*T^T)こんなにして、なんとも情けない。でも、大好きな食べ物が食べられなくなったらそうなるかな?
「やれやれ、ちと大袈裟にも聞こえるが……妾もアリサ様の作るあの玉子焼きは大好物じゃしのぅ……
うむ。考えてみればアリサ様や。どんな宴席でもあの玉子焼きは出ておったのではないか?」
「あ~言われてみればそうね……作る気なかったけど大体誰かしらに「作って」ってリクエストされるんだよ」
この『聖域』でも『無限円環』の時も、確かにあの玉子焼きを作ってた。先日の合同結婚式でも、勿論大量に作って完売御礼だ。
「母さん! どうか今のうちから対策しておいてよ!」
「何卒……何卒お願い致します! 母上!」
あ~はいはい。そこまで必死にお願いされちゃ、聞かないわけにはいかんわね。
とりま。玉子焼きレシピはしっかり考えるって約束して、二人の好物っていう茶碗蒸しとオムライスを『状態保存』の魔法でお弁当にして渡してあげると、二人は大喜びして、清々しい笑顔で未来へ帰って行ったのでした。
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【帰還】~出迎えてくれた両親~《大view》
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シュゥゥンッ……
目を開けるとそこは同じ『聖域』だ。しかし、先程までとはやや違う。切り開かれた森に、建ち並ぶ住居。しっかりと石畳で舗装され、整理された道……
「……帰って、きたのね? 私達……」
隣の妹がそう呟いて、感慨深く、雄大に聳える『世界樹』を見上げた。ああ、先程と変わらないその存在感。しかし、ここは私達の時代。ようやく戻ってこれたのだ……
「お帰りなさい。二人とも、よく戻られました」
「父上!」「アイギス父さん!」
ザッザッザと、聞こえる足音と共に私達の帰還を真っ先に出迎えて下さったのは、我が父上にして、『神々神』たる母上の『大聖霊』アイギスその人であった。
私達は姿勢をただし、その偉大な父上に対し一礼する。
「……貴方達が何を成し、何を失い、何を得たか? それは今のこの世界が物語っています。
大、アイリス……多くを学べましたか?」
「はい。父上……娘と共に『エルハダージャ王国』の礎を築けたこと、我が誇りであります」
「私も……『ゲキテウス王国』の基盤を構築できたのは大きな勉強となりました」
静かに、そして厳しくも私達を思いやる気持ちが、父上のお言葉からひしひしと伝わり、私と妹、アイリスは自然その頭を垂れていた。
「何よりです……『大』。貴方の名はアリサが「人として大きく、広い器を持つ者となるように」との願いが籠められて命名された名です。その通りに育ってくれて、私は父として、感謝を……」
「そんな父上、私などまだまだです。今後もその誇り高き名に恥じぬよう、精進していく所存!」
そう。私の名は『大』……母上の前世で「大きい」そして「広い」等と言った意味が籠められた名だ。偉大な母上と父上にはまだまだ遠く及ばぬ私だが、ご期待に応えるべく、今後も慢心することなく励まねばならない。
「ふふ、私も負けていられませんね。互いに励みましょう。
そして、アイリス? 貴女の名にもちゃんと意味があるのをご存知でしたか?」
「え? 父さんと母さんの名前から頂いた名前ですよね? 素敵な名前で私も誇りに思っていますけれど……」
「ふふふ、気に入ってくれているようで嬉しいです。『アイリス』とは確かに私の『アイギス』と妻の『アリサ』から私が名付けましたが……ほら、そこの花壇をご覧なさい」
優しく微笑む父上に、私もこの余裕がほしいと思いつつも、お話を傾聴する。
双子の妹、アイリスの名については、私も以前にそう伺っていたが? 言われた通り花壇に目をやると、そこには美しく咲き誇る多々の花達が陽光を浴び、気持ちよさげにしている。
「この花が『アイリス』なのですよ? その花言葉は色々あるのですが……」
「真っ先に思い付いたのが『希望』だったわね~♪」
父上と一緒に花壇の花を観賞している私達のその背後から声がかけられる。振り向けば、そこにはエプロンを身に付けた、つい先程まで過去でお会いしていた姿となんら変わらぬ美しい母上の姿。
「母さん! ただいま~♪」「母上、『大』ただいま帰りました!」
「うふふ♪ お帰りなさい私の可愛い子供達。って言っても、あんた達が過去に飛んでまだこっちじゃ二日しか経ってないんだけどね?」
なんと、過去ではもうかなり長い年月を過ごしてきたが、私達の現実ではまだたったの二日しか経っていないのか……
「むふふ、で~? アイギスくんや? ちゃぁんと練習通りにお話できたかね~?」
「ちょ、アリサ!? それは内緒にしてくださいとあれほど言ったじゃないですか!」
わひょーい♪ と秘密をバラされた父上が逃げる母上を追いかける。やれやれ、本当にいつまでもお若い二人だ。
「あっはっは! やだ~なに父さん? さっきまでのセリフ練習してたの~? ぷふーっ! 随分父親っぽくてかっちょえぇなぁ~なんて思ったのにぃ~?」
「何を言うのですアイリス! 練習していたのはどのような順序で話そうかと考えていただけです!」
「そうそう♪ お父さんったらね、「これでは説教くさいだろうか?」とかうんうん唸って考えてたのよ~? 私は別に普通にお帰りなさいすればよがんべよっていったんだけどさ~♪」
わーわー! ふふふ、こんなにはしゃぐ父上を見るのもまた久し振りだ。普段厳格で厳しくもある父上だが、母上と一緒だとこんなにもくだけるものだから、親しみが湧くのだ。
「それでねアイリス? あんたの名前にはさっきも言った『希望』だったり、『信じる心』とか、『よい便り』って花言葉を持つそこの『アイリス』ともかけて付けたのよん?
私達はね、二人を過去に飛ばしたとき、あんた達を信じて、よい便りが来るって希望を持っていたわ」
……そうか、過去で私達に会った母上達は、私達が未来から過去に飛ばされた事もご存知だった。故に今に至るにおいて、私達の名に沢山の『想い』籠めて下さったのだな……本当に、感謝しかない。
「……そっか、そうだったんだ……ありがとう! 父さん、母さん! 私、自分の名前がますます気に入っちゃった!」
「むぅ……折角私が格好いい父親として見られる場面でしたのに……アリサには後でお仕置きをしなくては」
「ウヒョヒョ♪ アリサさんはそう簡単には屈しませんけどぉ~?」
あははは!! ああ、この明るい両親の笑い声と下らないやり取り……私達はようやく自分の居場所に帰って来たのだと実感する。さあ、他の皆様にもご挨拶をして、今日はゆるり休もう。
「なに言ってんのよ? 昨日さとみちゃんも帰って来て、『聖域』はお祭りムードなのよ? そこにあんた達の帰還とくれば当然……」
「ははは! そうだぞ? 私も既に『白銀』達や知人友人に連絡したからな? ここ最近じゃ平時が続いていたから、今日から三日程はお祭り騒ぎが続くだろうなぁ~?」
おぉぉ……私の娘であるさとみも無事に帰還していたのは嬉しいが……ああ、でもそうだな? 『聖域』の皆は本当にお祭り好きなのだった……これは覚悟せねばならんか……
「いいじゃーん♪ 母さん、私準備手伝うわ! そうそう、過去の母さんから茶碗蒸しをお土産にもらったのよ! ね、覚えてる?」
「あら♪ 懐かしいわね。さとみちゃんも病みつき玉子焼き持って帰って来たのよ~? もうみんなで食べちゃったけどね」
な、なんだと!? はっ! そういえば娘が帰還する際に母上が何かを渡していたな! あれが玉子焼きだったのか!? くぅ……私も食べたかった!
「えぇ~ずるぅーい! 母さん『無限円環』で作ってよ~? あそこならいくらでもイメージで出せるでしょぉ~ねーねー!」
「わ、私も母上の卵料理を食べたく思います! 是非お願いします!」
「あらぁ~♪ うっほっほぉ~しゃあねぇ子等だごどぉ~? よかろう! 作ってしんぜよう♪
むふふ、たーんと食べせ~? そいでもってこの母の偉大さを改めて知るのだ!」
ははぁーっ! ありがたき幸せ~!
などと、母上のノリに付き合うのも久し振りだと懐かしみ、苦笑いを浮かべる父上と一緒に『無限円環』へと向かう私達であった。
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【同窓会?】~ううん、老人会です~《アイリスview》
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「うぅまぁぁ~♪ 母さんの玉子焼きチョー美味しいんですけどぉぉーっ!?」
「でっしゃろーい! うっはぁ~マスターの病みつき玉子焼きを二日続けて食べられるなんて、アリスめっちゃ幸せですよぉ~♪」
「うーん♪ クセになるわねやっぱり! この味を再現しようとして世界中の料理人達がこぞって卵を求めたのも納得だわ」
ここは母さんの『無限円環』内の、母さんの引きこもりハウス。
私のお願いを快く引き受けてくれた母さんが、病みつき玉子焼きと他の色々な料理を私達に振る舞ってくれて、ちょっとしたパーティーみたいになってるのよね♪
私は早速出来立てのその玉子焼きを食べて、もう何年振りかもわからない、だけど子供の頃食べた美味しいって記憶が鮮明に蘇って来て、思わず叫んじゃった。それはアリスちゃんもたまちゃんも同じだったみたいで、みんな一様にその美味しさににっこりだ。
「あまりにも美味……あ、いえ。待って下さい……たまちゃん? その話は本当ですか? 一応私達は過去で釘を刺したではありませんか?」
「そうね~でも、ほらあの時は合同結婚式の後だったでしょう大ちゃん? あの時点でもうレシピとかも広まっちゃってたのよ~?」
「ぱっぱもまだ記憶の整合済んでないだろうから、ビックリしちゃうのもしょうがないよね~? うんうん、ぼくもまだ整合取れてないんだ~やっぱり過去に長居しすぎたせいかな?」
兄さんも美味しいって頷くひとりだ。だけど、そうね? 確かに私達は過去で母さんとたまちゃんに卵不足を伝えたのだけど、戻ってきた未来でもやっぱり不足したまま。
それをどうしてかと兄さんがお嫁さんのたまちゃんに訊くけど……そうか、伝えるのが遅かったのかぁ~!
兄さんとたまちゃんの娘。そして私の姪である、さとみちゃん。
かつて過去ではココノエとして兄さんと一緒に世界を駆け、『エルハダージャ王国』を築き上げ、更には『冒険者ギルド』を始め、各ギルドの今の体制を構築させたっていう、自慢の姪子ちゃんだ!
そのさとみちゃんが言うところによれば、どうやら私と兄さんは過去から帰ってきたばかりで、私達が過去から帰還した後の歴史や記憶の整合が済んでいないために、やや混乱するらしい。
「もう! さとみちゃん!? 美味しいご飯食べてる時にむつかしい話しないの!」
「あうっ! ごめーんユニおねぇちゃん! どうにも『ココノエ』のクセが抜けないね~タハハ♪」
そんなさとみちゃんをユニちゃんが「コラッ!」って叱る。そうだね、折角の美味しいご飯だ。集中して楽しまなきゃね♪
「でも、無事に帰って来てくれてよかったね♪ それに皆に会うのも久し振り!
アリサ様、明日は何人くらい集まりそうですかね?」
「そうね~『白銀』は今もみんな健在だし、全員来るわよね? アルティ、レウィリ、フォレア~あんた達のとこはどんな感じ?」
玉子焼きを頬張りながら嬉しそうに話すのはゆかりちゃん。カインさんの恋人で、今は『エルハダージャ』の学校に通うさとみちゃんのお目付け役っていう同級生してるけど、さとみちゃんが卒業したらカインさんと結婚するんだって♪
そんなゆかりちゃんの質問に母さんが答えて、妹の女神様達にも訊いている。うんうん、『白銀』のみんなに会うのも久し振り! 楽しみだなぁ。
「はい。アリサお姉さま、『セリアルティ』からは隠居したゼオンにその子供達。ガッシュさんやデールさんと言った『誉』の面々に、ゲンさんも是非参加したいと♪」
おぉぉ……こりゃまたおじいちゃん連中が勢揃いするのか……うぅーん、まーた「早くお前も結婚しろ」とか言われそうだなぁぁぁーっ!? 嫌だってほどじゃないけど、ちょっとウザイんだよね~?
「ん。フォーネも今は子供達に『リーネ・リュール』任せて暇してるから喜んで来るって……後、ルヴィアス達も」
「りるりる達も来るって~♪ あっはっは! ちょっとした同窓会みたいだね~? うち楽しみ!」
わぁ~『リーネ・リュール』と『ルーネ・フォレスト』に帝国のみんなも! こりゃ賑やかになるぞ~? お手伝い頑張らなきゃ!
「セルフィがシーベルお父さん連れて来るって~♪」
「ふふ、『ゲキテウス』からも獅子王とその王子が参加したいそうですよ?」
「散り散りになってた『黒狼』達とも連絡がついたわ! みんな来るって!」
ティリア様に、アルナちゃん、ヴィクトリア様も次々に連絡がついたみんなを挙げていくよ。う~ん、これは同窓会っていうより、私達から見たら老人会だよね……みーんな六十から七十歳超えてるんだし?
あ、でも……『ミストレイク王国』のミスト様とブレイド様はまだそんなでもないんだっけ?
『黒狼』のミュンルーカさんなんて、パルモーさんに『悪魔司祭』にされてからというもの、年をとらず若々しいままだし。
「あはは♪ 勢揃いね~これは気合い入れて準備しなきゃ! ほら~珠実、アイリス、ユニ、ユイ、アルナ、ポコ~お母さんを手伝って?」
はーい♪
って……あれぇ? これって私達が無事に帰って来たお祝いだよね? 私、主賓じゃないの~?
ま、いっかぁ~母さんと一緒に料理するのも久し振りだしね♪ さぁ~て、いっぱい美味しいの作るぞ~!
アリサ「珠実が普通のしゃべり方するのかぁ~( ̄~ ̄;) なんか全然想像つかないんだけど、大丈夫珠実?( *´艸`)」
珠実「ふはは!(*`▽´*) 見くびってもらっては困るのじゃアリサ様や(。・`з・)ノ 妾にかかれば口調のひとつやふたつ変えることなど造作もないことじゃて!(°▽°)」
アリサ「(  ̄- ̄) なんか最初からまんまなんだけど?(´∀`;) ほれ、試しに普通の口調でしゃべってみそ?(´▽`)」
珠実「よし、普通のじゃな!( ; ゜Д゜) 見ておれよアリサ様!( ・`ω・´)」
アリサ「んじゃ、挨拶からやってみよっか?(^ー^) 珠実~おはよう(* ̄∇ ̄)ノ 今日はいい天気ねぇ?(´・∀・`)」
珠実「おはようさんなのじゃアリサ様~♪(ノ・∀・)ノ はっ!?Σ(゜ロ゜;)」
アリサ「早速駄目じゃん?(ーωー)」
珠実「ぐぬぬっ!(≧口≦) 長年染み付いた口調じゃから自然と出てしまうのじゃ!(; ・`д・´) アリサ様、もう一回じゃもう一回!(`へ´*)ノ」
アリサ「はいはい(;´A`) じゃあ~今日の朝ごはんは何が食べたい?(゜ー゜*) お味噌汁は豆腐とわかめよ?(^-^)」
珠実「焼き魚とお新香に~お味噌汁は油揚げと大根がいいのじゃ~♪(ノ≧∀≦)ノ はぁっ!?Σ(*゜Д゜*)」
アリサ「たまみぃぃ~?(;´д`) こりゃホントに先が長そうねぇ?(´ヘ`;) もうそのままでいいんじゃないの?(_ _) のじゃのじゃ言葉も立派な個性だってばよ?( ´ー`)」
珠実「な、なんの!o(`Д´*)o ここで止めたらまるで妾がダメな子のようではないか!?(`□´) やるのじゃ! アリサ様、続きじゃ続き!(#゜Д゜)ノ」
アリサ「いや、既にしゃべれてないじゃんよ?( ̄0 ̄;) 仕方ないわね、じゃあ私の言葉を復唱してみようか?(´・∀・`) 真似してればそのうち普通にしゃべれるかもよ?(´・ω・)っ」
珠実「おぉ!(*´∇`*) 流石はアリサ様なのじゃ!ヽ( ・∀・)ノ 妾真似っこ頑張るのじゃ♪ヾ(≧∀≦*)ノ〃」
アリサ「じゃあ行くよ~?(*´▽`*) 生麦生米生卵!ヾ(゜▽゜*)」
珠実「なみゃむぎなまごめなみゃなみゃも!?(;´゜д゜)ゞ」
アリサ「隣の客はよく柿食う客だ!(*´・∀・)ノ」
珠実「となりのきゃくはよくきゃききゅうかっやっきゃ!!Σ(ノ`Д´)ノ」
アリサ「青巻き紙赤巻き紙黄巻き紙!(*>∇<)ノ」
珠実「あおまきがみあかかぎかみきみゃっきぎゃぎゃ!?ヾ(゜0゜*)ノ」
アリサ「柔術呪術術法地術!o(*≧∇≦)ノ」
珠実「じゅうじゅつじゅじゅじゅじゅほっちっじゅーっ!!(≧□≦)」
アリサ「あっはっは!。゜(゜^∀^゜)゜。 全然ダメじゃーん珠実ぃ~ん?(*`艸´)」
珠実「ぬあぁぁーっ!L(゜皿゜メ)」 なんなのじゃこれはぁーっ!?(ノ`Д´)ノ ただの早口言葉ではないかアリサ様っ!(`皿´)」
アリサ「あはは♪ヽ( ̄▽ ̄)ノ めっちゃ面白いわ珠実!(≧∇≦)b あっはっは!(ノ∀≦。)ノ」
珠実「んもぉぉぉーっ!。゜ヽ(゜`Д´゜)ノ゜。 妾は真面目にやっとるんじゃぞぉーっ!?ヽ(♯`Д´)ノ」
アリサ「ごめんごめん!人( ̄ω ̄;) んじゃちゃんとやろうか?(*´∇`) 頑張ろうね♪(*゜∀゜)」
珠実「うむ!゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」




