20話 魔女と賑やかな聖域
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【魔女さん冒険者達を気に入る】~尊さに涙~《アリサview》
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おぉ~おぉ~ぷふふ♪ 冒険者のみんなめっちゃびっくりしてるよ。こう良い反応してくれるとなんか嬉しくなっちゃう! 悪意も邪心も全く感じないし、五人とも善良なんだね、神々の雫のことも他言しないって、何かギルドカードに付与された魔法まで使って約束してくれたし。それになにより話しやすいんだよね。
私は人嫌いだけど人見知りはしないから、気を許した相手となら普通に喋れるんだけど、こんなに早く打ち解ける事が出来るとは思わなかったよ。
えっと、とりとめのないこと言ってるけど要は、アイギス達を私はとっても気に入ったってこと。
「はぁはぁ……も、申し訳ない。あまりの衝撃の事実に一瞬気が飛びました……」
「あ、ごめん! 怪我してるんだったね、今治すから」
いけないいけない、会話が楽しくてすっかり失念してたよ。うーん、今日は反省する事多いな。気を付けなきゃ。
私は心の中で反省して五人に治癒魔法を掛けて傷を治してやる。アイギスの腕は普通の治癒魔法じゃ治らないので……
「アイギスの腕も治すからね、ちょっと触るよ、いい?」
「は、はいっ! おお、お願いしますアリサ様!」
うん? なんでまたどもるのん? 心なしか顔赤いし、目が泳いでるし……なんだべ?
「部位復元」
「う、あ……」
アイギスの左肩を両手で優しく触れて部位復元を掛ける、セインちゃんで一度使ったから効果は保証できるんだよね。淡い光が私の両手からアイギスを包み、収まると見事に左腕が再生された。
「「「「おおーっ!!」」」」
「な、治った! 失った左腕が!!」
やったーっ! って冒険者の皆が飛び跳ねて喜ぶ。うんうん、よかったよかった。死に物狂いでこの『聖域』まで来た肝の据わったパーティーだもんね、その覚悟に感銘を受けたし、何よりもその人柄が好ましいみんなだ。ご褒美~なんて言ったら偉そうになっちゃうから、報酬かな?
「うっ……」
「アイギス、どうした?」
なんて思ったらアイギスがふらついている。あ、もしかして……
「はい、これ飲んで。多分貧血だよ、再生された腕に血が通い始めて一時的に足りなくなったんだと思うから」
「な、成る程……ありがとうございます、頂きます。んぐ、ごく、ごく」
「あぁ、それで顔色が青ざめたんですね。飲ませたのは増血剤かなにかですかアリサ様?」
エルフの女の子、サーサがうんうん頷いて私に聞いてくる。
「神々の雫だよ」
「「「「え?」」」」
私がそう言うと四人は凄い勢いでアイギスの方に顔をぐりんと向ける。そんな勢いで首回すと痛めちゃうぞ?
「おぉぉ……これは、凄い! 身体中に力がみなぎるようだ!!」
「エナジードリンクみたいなもんよね、調子良くなったでしょ?」
「はい! ですが、やはりこれは危険と思われます。一般に広めるのは避けた方が良いでしょう」
だねぇ、まぁ、ティリアにしか創れなかったって言うくらいだしなぁ~『創薬』で色々効能落として見ようかな……他にも常備薬とか色々作りたいね、『聖域』には薬草もあるみたいだし。
「えへへ♪ 腕が治って良かったね勇者のお兄ちゃん!」
おっと、紹介の途中だったね、今度は私達の大天使ユニの番だ。
「あらぁ~可愛い♪ アタシ、レイリーアって言うの。お嬢ちゃんのお名前はなんて言うのかな?」
「ユニはユニだよ~♪ 世界樹のユニ! よろしくね!」
「「「「「えっ!?」」」」」
ふふっ! 五人揃って目が点になってるよ♪ 軽く経緯を説明するとまたびっくりしてる。
「ちゃんとご挨拶できたよ~アリサおねぇちゃん♪」
「うんうん♪ 見てたよ~偉いねユニ~♪ 良い子良い子!」
最早馴染みになったユニの抱き付きを受け止めて優しく頭をなでなで~からの、にこーって大天使スマイルのコンボに弛む頬が止められない。
「可愛い! 可愛すぎます! 胸がきゅんきゅんしちゃいます!」
「あぁぁ~たまんないわぁーっ! アタシもユニちゃんみたいな子が欲しい!!」
サーサは両手を顔に当て目をうるうるさせて、レイリーアは自分の腕で自分を抱き締めてユニの可愛さに悶えている。わかるよぉ~? 私達の自慢の妹だもん! そして可愛さ勝負に外せないのがこの子達!
「珠実~エスペル~ミーナ、いらっしゃい」
「ハイなのじゃアリサ様♪」
(はいはーい! ほらほら~勇者様ご一行に挨拶しますよみんな~?)
「「「「「ぷーぷー♪」」」」」
「んなぁ~ん?」
ユニを始めに、珠実、エスペルとモコプー達、ミーナ。我が『聖域』が誇る可愛さ特化の面々が勢揃いする。
「わぁーい! たまちゃーん♪ ぎゅぅ~!」
「おぉ~ゆにゆに~お返しのぎゅぅじゃぁ~♪」
(初めまして皆さん、わたしは希望の象徴、モコプーのエスペルですよ~同胞共々よろしくです!)
「ぷ~ぷぅ~♪」「ぷぅ?」「ぷっぷぅーっ!」「ぷ!」「ぷぷーっ!」
「で、この子が私の一番の家族のミーナよ。ほら、挨拶してミーにゃん?」
「にゃあーん♪」
ユニが珠実に抱きついて、珠実も尻尾フリフリさせて抱き返す。エスペル達モコプーが揃って挨拶をしてはミーナが機嫌良さそうに一鳴きしてお行儀よく猫座り。可愛すぎる……写真に残したいくらいだ!
「可愛い! しかも通信魔法が使えるなんて驚きです! 私サーサと言います、よろしくお願いしますね♪」
「ホッホッホ! これはまた随分と愛らしいのぅ~寿命が延びるようじゃわい! よろしくの皆の衆、儂はドガと言う者じゃよ~」
「か、可愛すぎるぜ……へへっ思わずニヤけちまうな! 俺はゼルワってんだ、よろしく!」
サーサがエスペルを抱っこしてニコニコ。ドガなんてもう孫を可愛がるおじいちゃんみたいな反応だし、ゼルワもニヤニヤが止まらない様子だね! アイギスはどうかな?
「……」
「あ、アイギス? あんたなんで泣いてんのよ?」
レイリーアが反応のないアイギスを訝しげに思い見れば、なんでか知らないけど無表情のままつーって涙を流してるじゃないか。
「っつ……あまりの尊い光景に心が洗われるようだ……まさに、まさに此処こそが『聖域』!」
「尊い……そうね、わかるわ!」
「はい、私、もうここに住みたいくらいです」
尊いよねぇ~うんうん! 私もたまんない! みんなぎゅーってしたくなる可愛さだよ!
「ふはは、それなら住んでみれば良いではないか? ふむ、記憶を失っておるのじゃったな? 妾は珠実。九尾じゃ。こう見えて女神の懐刀の一人故な、敬意をこめて名を呼ぶのじゃぞ?」
うん、見た目小さい狐耳尻尾の幼女だけど、珠実も懐刀なんだよね。戦ってるとこ見たことないけど相当強いんだろうね……今度懐刀同士の模擬戦みたいなの見せてもらいたいな。
「アーグラス、ラインハルト、ジドル、サーニャ、ナーゼ……かつてのお主達の名じゃ。転生し記憶を失ってもまたこうして巡り会うたのじゃなぁ……」
黄龍のシドウがしみじみと語るのはかつての勇者、アーグラスとその仲間達の名前らしい。そうだ、彼等は実際に共に魔神と戦った事がある分、アイギス達への思いもひとしおなのかもしれないね。
「私達が、私達全員が『魔神戦争』を戦った勇者達だった……と、仰られるのかご老人? 正直実感がありませんが……」
「いえ、アイギス……先日門が開かれた時感じた、あの懐かしさを思い出して下さい」
サーサが言う門はティリアが降りて来たときの事だね、アイギス達も見てたんだ……あ、そりゃあ昼間なのにあんな真っ暗になったうえ、どでかい魔方陣が空中にでーんって現れれば目立つわよね。
「そうか、だからティリア様に初めて会った気がしねぇんだ……へへ、ラインハルトだってよ! 前世? の俺って洒落た名前だったんじゃん!」
「儂はジドルだったのじゃな……まさか伝説のドワーフロードだったとはのぅ」
「アタシはナーゼか、お伽噺だとハイエルフだったと思うけど、なんでダークエルフに転生してるのかしらね?」
ティリアに惚れて無茶な頼み事を引き受けた勇者に、付き添った仲間達。
共闘していたと言うアルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの女神達と聖獣達、守られていた世界樹……呪いの番人にされたバルガス達……あれ? 私だけのけ者じゃない? むー、なんか悔しいんですけど?
「申し遅れたな。儂は黄龍シドウ。『聖域』守りし『四神』の長にして女神の懐刀の一人じゃ。今はただの「変態」爺……」
なんかムッとしたのでシドウの挨拶にちゃちゃいれて見た。
「こりゃあっ! 魔女よ絶妙のタイミングで変な言葉を被せるでない! 誤解されるじゃろうが!?」
「何言ってんのよ? シドウが変態なのは事実でしょー?」
「「「「「えぇ~……」」」」」
ふはは、見るがいい! アイギス達もドン引きだ。
「おのれ、この小娘がぁ! そこに直れぃ! その性根叩き直してくれる!」
「おーっ! やるかーこんにゃろーっ!!」
シドウは人型を解き、黄龍本来の姿を取って上空に飛び上がる、応えるように私はアリアを箒に変え、上等とばかりに同じく飛び上がる。さて、ちょいとじゃれましょうかね!
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【睨まれる】~ゼルワやらかす~《アイギスview》
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ガオオオォォーッッ!!!
「うおぉっ!? マジかよ!?」
「シドウ殿!? 黄龍とはこういうことか!?」
「ちょ、女神様! 大丈夫なのアレ!?」
咆哮をあげシドウ殿がその姿を巨大な龍に変え、アリサ様と上空に飛び上がって行った! なんと凄まじい魔力の奔流だ……これが女神の懐刀と言われる力なのか!?
「あー、大丈夫大丈夫~アリサ姉ってばみんなが皆君達の前世の話ばっかするもんだから疎外感感じちゃったみたいだね~なんかムーってしてたし」
「アレはじゃれあっておるだけだ、気にする必要もあるまい」
レイリーアが慌てて女神様に確認を取るも、問題ないと言う。白銀の毛並みの大きな狼が言葉を話す事にも驚きだが、アリサ様とシドウ殿はあれでじゃれあっているだけだと言う事の方が驚きだ。
「いけないぞー! アリサ様がムーってなるのも仕方ないぞー? コイツ等はアーグん達じゃないんだからのけ者みたいに感じちゃうぞー?」
うむむ? 妙な言い回しだがこの大きな白熊の言いたいことはなんとなくわかる。正直、私達がかつての勇者一行だ、と聞かされても他人事にしか思えないため、若干の疎外感を感じるのだ。
「えっと、貴方達は……?」
サーサがおずおずと狼と白熊の素性を尋ねる。大きさも相まって少しおっかなびっくりな感じだ。
「余は神狼フェンリル。女神の懐刀である、先日アリサ様よりリンと言う名を賜わった。故に余の事はリンと呼ぶがよい」
「オイラはジュンだぞー! 懐刀だぞー!」
聞けばアリサ様よりそれぞれ名を授かったのだ、と誇らしげに語るリン殿にジュン殿。その表情からはアリサ様への敬愛が感じられる。
「えっと……聞いて良いか? アリサ様って、何者なんだ?」
「ゼルワ! せめて言葉を選ばぬか!?」
ザワッ!!
ゼルワがやらかした一言に四つの殺気が立つ! ま、まずい! プレッシャーだけで倒れそうだ!
「すっ! 済みません!! 気に障ったのなら謝ります! 許して下さい!」
「ごめんなさい! ゼルワは悪気があったわけじゃないんです!」
私達は必死で殺気立つ四人に対し謝罪する。彼等がその気になれば私達など一瞬で消し炭となるのは最早疑いようもないのだ。頼む! 許してくれ!
「バルガス達、控えて」
「レウィリリーネ様、この者共我等が神、アリサ様の素性を探ろうとしております」
「友好的に近付いて『聖域』の情報を得ようと言う魂胆でしょうか」
「これだから人間共に気を許す事は出来んのだ!」
「はんっ! クエスト報酬の為なら手段を選ばないってか? 浅ましい奴等だぜ!」
ち、違う! 断じてそのような意図はない! 禿頭にフルプレートメイルを身に付けた騎士らしき男性が今にも背負う大剣に手をかけそうだ! それだけではなく、隣の妙齢の女性も既に魔方陣を構築しいつでも放てる状態に! 軽鎧を着こんだ女性は細剣を抜き放って、少年は両手に出した炎と氷の魔法を撃つ体勢を取っている!
「誤解だ! 私達に貴殿方を害する意思はない!」
私は一歩踏み出しメンバーの前に出ると、堂々と言葉を紡ぐ。こういう時は慌てふためいてはいけない。毅然とした態度で誠意を示す事が大事なのだ、そして如何に力の差があろうと必要以上に謙ってはいけない。
「信じられないと言うのならば、この依頼書をここでっ!」
ビリビリビリーッ!!
「「「アイギス!!?」」」
「クエストの依頼書を破るなんて! 下手すればランクダウンされてしまいますよ!?」
私の行動にメンバーが驚く。無理もない、冒険者ギルドが発行するクエストの依頼書を受け取っておきながら達成もせずに意図的に破棄したとあれば、問題行動とされて降格処分となる可能性が高い。だが、メンバーの命には変えられないのだ!
「ほう……」「まぁ~」「ふむ……」「へぇ~」
さぁ! これが私の示す誠意だ。信じてもらえるだろうか?
「よかろう。今は貴様達を信じてやる。だが、次に不審な言動をしてみろ……このバルガス、迷わずに貴様達を切り伏せてくれる」
「うふふ……命拾いしましたね?」
「ふんっ! 図に乗るなよ?」
「元勇者だなんてボク達には関係ないね、礼儀くらい弁えなよ」
ふぅ……どうやら助かったようだ。正直肝が冷えた。
「す、済まねぇアイギス……俺のせいで……」
「いや、私も少し気が弛んでいたよ……確かに彼等にとって私達は侵入者なのだ。気を引き締めよう」
「そうですね、『聖域』は神とその遣い達の家です。ゼルワ、礼節を」
「いやはや、サーサの言う通りじゃな。他所様の家と思わねばならん」
「あっぶな~……アタシも気を付けなきゃ!」
謝罪するゼルワを慰める、そうだ、アリサ様や女神様方が友好的なので、歓迎されているものと勘違いをして調子に乗ってしまった感は否めない。大いに反省せねば。
「グオオォーッ!?」
ドガァァーン!!
突然の轟音に驚き見てみれば、シドウ殿がその長い体躯を玉結びにされて上空から墜ちて来たではないか!? 一体どうやればシドウ殿の巨体をこんな風に出来るのだ!?
「シドウ~? メルドレードの時も思ったけどあんたワンパターン過ぎるわよ~? も少し攻撃パターン増やしたら良いんでないの?」
「ぷっ! シドウ様……また結ばれてるぷぷっ!」
「兄者……嘆かわしいぞ……」
「うぐぐ、悔しいがなんも言い返せんワイ!!」
見上げれば箒に腰掛けたアリサ様がスゥーっと降りてくる。息も乱れていなければ、傷一つ負っていない……ゼルワではないが、確かに彼女が何者なのか気になるところだ。
「次までに考えておいてねシドウじいちゃん。……ん? なんぞこの紙切れ?」
降り立ったアリサ様が破れたクエストの依頼書の切れ端を拾い上げ、首をかしげるのを見てアルティレーネ様が先程起きた事を説明している。
「ふぅん、そいうことか。巻き戻し」
アリサ様が何事か呟くとどうしたことか、破かれた依頼書がまるで時間を巻き戻したかのように元の一枚の羊皮紙に戻っていく! もしや魔法なのか!? まさか、今までの現象も!?
「ほい、アイギス。ごめんねぇ~バルガス達ってやたら私に……何て言うの? 忠誠心凄くてさ、ちょっとした事でも過剰に反応しちゃうんだよね。あんた達~気持ちは嬉しいけどね、折角仲良くなれそうなんだからある程度自重してくれない?」
元に戻った依頼書を私に差し出すアリサ様は、先程の四人に注意している。いや、私達も不躾であったのは確かですから。
「はっ! 申し訳御座いませぬアリサ様。今後気を付けましょう」
「了解しましたわアリサ様、ふふっ、釘は刺せたと思いますので彼等はもう大丈夫でしょう」
「畏まりましたアリサ様!」
「はーい! へへっ良かったなお前等!」
いや、こちらこそ礼節を欠いた言動、大変失礼をした。と、全員で改めて謝罪した。そして流れで彼等四人の紹介を受ける。
まずはフルプレートメイルの男性、バルガス殿。彼は四人の家長で少女と少年の父と言う事だ。大剣を持つことからバルドに近い戦闘スタイルかもしれない。
そして、バルガス殿の奥方であるネヴュラ殿。とても二児の母親とは思えぬ程の若々しさと、妖艶と言う言葉が似合う美貌の女性だ。先程の魔方陣を見るに彼女は魔法を中心に戦うのだろう。
軽戦士と思しい少女フェリア殿。バルガス殿夫婦の長子と言う彼女は、とても生真面目で父譲りの武人肌だそうだ。細剣を腰に佩いている事から素早い戦闘を得意とするのだろう。
少年パルモー殿。見た目ユニ殿と同い年くらいに見えるが、その考えは柔軟で、人の感情の機微に敏く、アリサ様曰く「空気読める子」とのこと。彼も魔法をメインに戦うのだろうか?
四人共に元悪魔貴族だったが、アリサ様のお力により更に進化を果たし『聖魔霊』と言う種族になったそうだ、爵位持ちの悪魔にも敵わない私達では格が違うな。
「じゃあ、妹達。アイギス達に教えてあげてよ。私のこととか、私が来てから今までの事とか」
「アリサお姉さま、そうですね……良い機会ですし」
「ん、懐刀に四神、聖獣達も」
「ゆにゆにが解放されたトコとか知らない子もいたしね」
「そしてまたティターニアは良いタイミングで現れるのだった」
どうやら、アリサ様は素性を知られる事に忌避感はないようで教えて下さるようだ。そして、ティリア様が何らかの気配を感じたのか、あらぬ方角を見てはアリサ様に話しかけている。
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【ヘルメットさん】~魔女さんは調味料をご所望です~《アリサview》
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それにしても、私の素性かぁ~やっぱ気になるんだね。まぁ、別に知られて困るって訳でもないし話しても良いんだけど……妹達の方が詳しいだろうから、任せるか。どうせだし、私がこの世界に来てから今日迄の『聖域』での出来事も説明してもらって、これから何をやろうとしているのか、ってのも知ってもらおうか。
「じゃあ、妹達。アイギス達に教えてあげてよ。私のこととか、私が来てから今までの事とか」
「アリサお姉さま、そうですね……良い機会ですし」
「ん、懐刀に四神、聖獣達も」
「ゆにゆにが解放されたトコとか知らない子もいたしね」
「そしてまたティターニアは良いタイミングで現れるのだった」
ティリアの言葉に私はミニマップを確認。どうやらティターニアがお供の妖精達を連れて棲処から出てきたようだ。ホント凄いタイミングで来るね。
「ホントだ。ちょいと迎えに行ってくるから待ってて」
「「「「はーい♪」」」」
転移を発動して、ティターニア達の前に移動する。あ、良かった魔物に襲われたりはしてないね。早速声を掛けよう!
「おはよーティターニア♪」
「うきゃあぁっ!? あああ、アリサ様ぁっ!? おお、驚きましてよ!? せめて事前にご連絡下さいませ!」
私がティターニアの背中に声を掛けたら、ティターニアは文字通り飛び跳ねてびっくりしている。あはは、ごめんごめん!
「えへへ、ごめんね~映像通信を先に使えば良かったね、その子達が協力してくれる妖精さん達かな?」
「え、ええ……取り敢えず初日ですし、農業、酪農、土木に関する子達三名を様子見で連れて来ましたの。いきなり大勢で押し掛けてもご迷惑でしょう?」
流石女王様だ、こちらの事情もよく考えてくれているね! ティターニアが連れて来た二人の……あれ? 三人って言ってなかったっけ? の妖精は突然現れた私にびっくりしているのか、ティターニアの陰に隠れてこちらの様子を伺っている。私達の膝くらいまでしかない小さい背丈の可愛らしい二人だ。
「驚かせてごめんね? 私はアリサ。『聖域の魔女』だよ、貴方達はなんて言うのかな?」
私はしゃがみこんで、出来るだけ小さな妖精の子達と目線を合わせる。「安全第一」って共通語で書かれたヘルメットをかぶった男の子と頭巾、いや、三角巾かな? 料理するときエプロンと一緒につけるやつ、をかぶった女の子を交互に見てにこーって、ユニの笑顔を真似てみる。
「は、はじめまして……ぼく、ノッカー。植物とか育てるの好き……」
ノッカーと名乗ったヘルメットかぶった男の子は、緊張しているのかモジモジとしつつもちゃんと名乗ってくれた。
「わ、わたし! ブラウニーです! 動物のお世話が好きなの! ノッカーのお姉ちゃんです!」
わはぁ~二人共可愛い~♪ 姉弟なんだねぇ~!
「姉弟で来てくれたんだね? ありがとう。これから色々二人に教えてもらうこと沢山あると思うから、楽しく、仲良くして行けたら嬉しいなって思うよ? どうかな?」
「「はい♪ よろしくお願いします!」」
あーん! 二人の笑顔可愛いよ~♪ どんな妖精が来るのかと思ってたらまさかの展開ですよ! もうこういう子達なら大歓迎しちゃう!
「ノッカーが農業をブラウニーは酪農を任せるとよろしいと思いますわ!」
「うん、わかったよ。それで、もう一人は?」
「ノッカーがかぶってますわ!」
え? ノッカーくんがかぶってる?
「……ヘルメット?」
「ヘルメットですわ!」
「え?」
「ヘルメットですわ!」
「……えっと」
「ヘルメットですわ!」
えぇ~? 何言ってんのこの女王様?
「ヘルメットですわって、何回言わせますの!? ありとあらゆる工事ならお任せ! のヘルメットですわ!」
「えっと、ノッカーくん。そのヘルメットは何か聞いて良い?」
「うん、妖精のヘルメットさんだよ」
マジかー? 今やヘルメットが妖精になる時代なのか……あまりの事実に思わず遠い目をしてしまう。ファンタジーならなんでもありかこんちくしょーめ。
「おう嬢ちゃん……俺様になんか文句でもあんのか?」
「うおっ!? びっくりした! え、何今の声……まさか!?」
突然の渋い声にびっくりした私は何事かと思い、周囲を見渡すけどそれらしき人物は誰もいない。まさかと思うけど、今の声って……
「お初だな! 話は女王に聞いたぜ? アリサの嬢ちゃん!」
「ウッソだぁ~あんたどっから声出してんのよ……」
「てやんでぃ! バーローめ! こまけぇ事は良いんだよ! んな事より嬢ちゃん、女神の神殿造ろうってんだろーがよぉ? 俺様が協力してやるってんだ! 感謝しやがれぃ!」
しかも何でか江戸っ子気質……うーん、ある意味妖精って面白いかも。
「ホレ! さっさと俺様をかぶりな! サイズは俺様が合わせてやるぜ!」
え、魔女の帽子かぶってるんですけど……あ、ハイ。逆らいません。
「うふふ、アリサ様、ヘルメットも私達妖精の一員ですのよ? いくら口が悪いからと言って不当な扱いなどなさいませんように、お願い致しますわ……そのポーチどうなってますの?」
私が帽子を脱いでミーにゃんポーチにしまっていると、ティターニアがそんなこと言い出した。何この女王様、Sっ気でもあるの?
「あんたこの期に及んでまだ私を試そうって言うの? アルティ達とどういう話し合いしたのよ?」
「いやですわ、誤解なさらないで下さいまし。ヘルメットの口の悪さは妖精達にも有名なんですの。ほら、アリサ様は見掛けによらず気性が荒いでしょう?」
う、そう言われると何も言い返せない。さっきもシドウとじゃれあってきたばかりだし。
「図星、ですわね? ですから少々反応がたのしオホンっ! 心配ですの! それで、そのポーチ。私にも下賜して下さいませんこと?」
「今楽しみって言おうとしたよね!? ポーチほしいならそれなりの態度で接してよ!」
もー! なんなのこの子!?
「ガハハ! ムカついたならぶん殴っちまえよ! コイツ性悪だから人望もねぇしな!」
「ヘルメットーっ!? 女王に向かって何て事言いますの!?」
「うるせぇバーカ!」
キーッ! ってプリプリ怒るティターニアと子供みたいに悪口言い出すヘルメット。いや、ホントなんなのコイツ等……
「あの、アリサ様。ぼくたち食材持ってきたんです」
「美味しい料理、作れますか?」
ヘルメットをかぶって、ポンコツ女王とヘルメットのやり取りをげんなりして聞いてると、ノッカーくんとブラウニーちゃんが嬉しい報せを届けてくれた!
「わぁ♪ ありがとう~! 嬉しいよ! 食材にもよるけど頑張って作るね。よーし、こんなとこで立ち話もなんだし私達の屋敷に行こうか?」
「「はい!」」
「ほらポンコツ女王に江戸っ子メット、口喧嘩やめんさい! 屋敷に転移するからね?」
「ポンコツではありませんわぁー!」
「江戸っ子ってなんだ嬢ちゃん?」
あんたみたいな口調の人の事だよ。それ、転移!
「あ、おかえりなさーい! アリサおねぇ……ちゃん?」
「あらあら? 転移魔法って便利ですのね! って、昨日は見なかった方がおりますわ!」
「わぁ! 怖い人いっぱいだよブラウねぇちゃん!」
「だ、大丈夫だよ! 女王様が盾になるもん!」
「ちょっ!? なりませんわよぉ~!」
「おーおー!! なんかスゲェ面子だなおい! あんだよ!? 世界でも征服すんのかアリサの嬢ちゃんよ!?」
あー、やかましいやかましい……もうしっちゃかめっちゃかだよ。結界張って四神達と他の子にも名前付けてあげたいのに、もぅ。
ティターニア達を伴ってみんなが待つ屋敷に帰って来たんだけど、いやぁ~もぅやかましいのなんの。ヘルメットかぶった私を見てユニだけじゃなくみんな不思議そうな顔してるし。
「取り敢えず……はい、アルティ!」
「きゃっ! なんですか? 妖精のヘルメット?」
脱いだヘルメットさんを、アルティレーネの頭にがぽってかぶせる。
「私はノッカーくんとブラウニーちゃんが持ってきてくれた食材を確認してるからさ、みんなに話してあげてくれるかな?」
「ホントに顕現してたんだなぁ~女神様よぅ! 俺様が妖精ヘルメットだ! よろしく頼むぜ!」
「なるほど、協力してくれる妖精達ですね。わかりました、アリサお姉さま」
ヘルメットを脱いで両手で持ち、向き合って「よろしくお願いしますね、ヘルメットさん」と、挨拶するアルティレーネを横目に貰った食材の入った袋を持ち上げる……って重い。私の力じゃ無理だ、いっぱい持ってきてくれたんだねぇ~、浮遊で浮かせて運ぼう。
みんなはお行儀よく庭で妹達の話に耳を傾けているみたい。朝ごはん食べて来たのかな? 軽いオヤツみたいなの作れればいいけど。
「あれま、ちゃんとじゃがいも入れた袋にリンゴ入れてある。こう言った知識ってこっちの世界にもあるんだね」
キッチンで早速貰った食材を確認していて気付いた。じゃがいもとたまねぎを入れた袋にリンゴが一緒に入れてあるのだ。これは前世にもあった、食材の長期保存のコツ。リンゴが放出するエチレンガスがじゃがいもとたまねぎの芽の発生を抑えてくれるんだよ。逆にキャベツとか白菜なんかは早く痛んじゃうんだけどね。
まぁ、私には収納した物の時間を停止させるミーにゃんポーチがあるから、あまり気にしなくて大丈夫だろう。
さてさて、他にも色々あるね。じゃがいも、人参、たまねぎ、このカメは? カパっと蓋を開けて見れば透明な液体。おたまをイメージして具現させて掬い、指をつけてみると油だとわかった。精油する技術もあるのか、妖精さん凄いな。鑑定してみれば……
「植物性由来の油。とってもヘルシー」
と言う結果。久々に鑑定のピコーンを聞いて、普通に料理に使えそうだと確認。他にも搾りたての牛乳なんてのもある。搾りたてならバターに生クリームもいけるかしら?
他には、この白いサラサラは……ん、塩だね。前世のと負けず劣らずの品質っぷりじゃん!
「この世界の料理事情って結構進んでるのかな? うーん、でも、醤油とか味噌ってのは……ないのねぇ~」
塩だけじゃちょいと厳しい、調味料の確保は優先しないといけないね。
気を取り直して、ドンドン確認していこう! 次はこれだ、しっとりした白い粉……え、これって薄力粉!? 製粉も出来るの!? こっちはサラサラ、強力粉だ! うおぉ! リンゴもあるし、もしかしたらふわふわパンが作れるんじゃない!?
「やっばーい♪ テンションあがるぅ~!」
小麦粉が作れるなら、麦は確定! 稲も期待出来そうだね! 更に卵もあるし、醤油があれば卵かけご飯も夢じゃないぞぅ! そして酢も期待。お酢があればマヨネーズが作れるし!
更なる期待を膨らませて私はノリノリで調理を始めるのでした。
アリサ「今回はヘルメットさんに全部持ってかれた気がする( ;´・ω・`)」
ユニ「てやんでーぃ! べらぼーめー♪ あはは! ヾ(@゜▽゜@)ノ」
アリサ「ああぁぁーっ! ユニに早速影響がぁーっΣ(゜ロ゜;)」
ヘルメットさん「おうっ! 何でぃ嬢ちゃん! 俺様の真似なんかしてよぅ!? (`Δ´)」
ユニ「ヘルメットさーん! 被らせて~♪ (ノ≧▽≦)ノ」
アリサ「くぅっ! ヘルメットさんの人気に嫉妬! (≧口≦)ノ」




