2話 魔女とイメージ
誤字報告ありがとうございます! 修正しました。(2023/08/04)
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【魔女さんは頑張る】~魔神はとんだアホでした~
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魔女に転生して2日目。
夕べは色々あったけれど、久し振りに愛猫と一緒に寝れて幸せいっぱいでした♪
そして、女神達にもらった魔女装備に袖を通した私は、上機嫌で作業をすすめるのだった。
「よし、これで床も天井も綺麗になったね!」
当初の目標である、ライフラインの確保。そのひとつとして拠点となるこの屋敷の修復を進めているところ。
「さぁ、次は散乱した家具を片付けよう! 棚とか収納先を直して、割れたカップとか皿を直して~とにかく足場を確保しなきゃミーナが存分に遊べないもんね」
《アリサっち~めっちゃ飛ばして魔力使ってるけど、だいじょぶなん?》
フォレアルーネがベッドに寝転がりながら、両手で頬杖をついては足をパタパタさせて尋ねてくる。
《あまりハイペースで魔力を使うと倒れてしまいますよ?》
《ん、魔力切れに注意》
頬に手をあて、眉を八の字にしてアルティレーネが心配する横で、レウィリリーネが愛猫と猫じゃらしで遊びながら注意してくれる。ふふ、ミーナが楽しそうににゃぁにゃぁ言ってる♪
「そうなんだ、知らなかった……忠告ありがとう」
無理して倒れたら本末転倒なので、魔力を使わずに手作業で出来る範囲を片付けていく。
しかしこの新しい身体……女神さまの謹製だけあってか全然疲れ知らずだな、単に若いだけかもしれないけど。
《……アリサさん、作業するのに髪が邪魔になりませんか?》
「え、あー、確かにそうかも。ちょいと結わえとくか」
アルティレーネに言われて、改めて気付く、腰まで伸びた髪はこういった作業するのには向いてない。
《ん、あたしがやったげる、アリサの髪いじりたい》
《あっ! レウィリ狡い、私が先ですよ!?》
あらら、女の子ってホント髪の触りあい好きだよねぇ。
「じゃあ、休憩がてらお願いしようかな? 私、髪の結わえ方とか知らないから教えてもらえると助かるよ」
そもそも生前は髪の毛なんてどうでもよくて気にもしなかったし。
《ぬはは~アルティ姉とレウィリ姉は、アリサっちの髪型も相当考えてたからね~休憩になればいいけどね……ふふ♪》
「え?それって」《はいはーい! アリサさんこちらにお座り下さいね♪》
《シュシュもヘアゴムも髪止め、髪飾りいっぱいある、むふー》
あーっ、あれよあれよと椅子に座らされて早速とばかりに二人に髪をいじられる。
なんか髪いじられるのって思ったよりくすぐったいな。
「そうだ、話は変わるんだけどっにゃーっ!?」
《あら、アリサさんってばとっても敏感なんですね♪ ちょっと首筋に指が触れただけですよ?》
《ビクーッってなったね》
びっくりしたびっくりしたー! すっごい電気走ったような感覚だった、そういや生前も人に触られるの苦手だった気がする。
《あっはっは! なにやってんだか? で、アリサっち何か聞きたかったんじゃないの?》
「あぁ、えっと……魔神の呪いとかいうのが解けると、どうなるの?」
フォレアルーネの方に振り向くとポニーテールになった私の髪が踊る。
主神さまが召喚した勇者一行と相討ちになったと言う魔神は、その際に呪いとやらを残して行ったらしい。それの解呪も3人からの依頼事項だ。
《ポニーテールも良いですね~♪》
《『聖域』が解放される……わかりやすく言うとあたし達が自由に動けるようになる》
《今はこの家の中でしか動けないし、アリサっちにしか見えないんよ》
なるほど、顕現できないって言うのはそういうことなのねん。
「はぁ、しっかし魔神ってのは結局何がしたかったの? 世界征服とか?」
ツインテールになった髪が面白くて、首を左右にふりふりして遊んでみると、ペシって顔に当たる。ふはは♪ おもろーい!
あれ……? 3人ともピタッて動きが止まったんだけど、どうしたんだろう?
《くっ……魔神、アイツはホントに……サイアクだった》
レウィリリーネがこめかみを押さえてぐぬぬって唸ってる。
《うぐぐ……思い出しただけでものっそいムカついてくらぁーっ!》
今度はフォレアルーネがベッドでウガーって暴れだした! なんなの!?
《魔神は、私達姉妹全員に求婚しては全員に断られたんですよ》
アルティレーネが物凄く冷めた目で語り出す、今の話を聞いただけで魔神はどうしようもないヤツだとわかった。
《神の掟で、「その世界に干渉して良いのは、その世界の創造神だけ」という不文律があるのですが》
へぇ~そんな規律があるんだ? まぁ、神さまが総出で好き勝手弄っちゃったら滅茶苦茶な世界になっちゃいそうだしなぁ。
《うちらにフラれた腹いせにその掟破って、この世界に乗り込んで来たんだよ!?》
《後はさっき話した通り……掟破ったアホに対する特例処置として主神が勇者達を召喚》
《送還された魔神は激怒した主神さまが問答無用で消してくれました》
フラれた腹いせに世界規模で嫌がらせとか……うん、最低だなその魔神。
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【お外こわい】~魔女さんビビる~
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アルティレーネとレウィリリーネに散々髪をいじられた結果、編み込みハーフアップに落ち着いた。髪型が変わるとやっぱりイメージも変わるね。
まぁ、お風呂入るときは解すんだけど、その時はまたセットしてもらおう。
「浴室は確認できたけど、これ、どうやってお湯沸かしてるの?」
《外に川が流れてるから、そこから貯水して魔法で綺麗にして汲み上げて~ってかんじ》
なるほど、屋敷の外に貯水槽があるのかな? 試しにキッチンの蛇口を捻ってみる。
「うわぁっ!? なにこれ!? うっ! 凄い臭い!」
なんと出てきた水は酷い腐敗臭のするヘドロのような物だった。
《ぐぇっ! なにこの臭い!?》
《酷い……これは呪いのせいで川が毒沼化しちゃってるかも》
《外の様子が気になりますね……きゃぁ!》
私達がヘドロに辟易していると、窓から外を覗いたアルティレーネが悲鳴をあげる。
《ま、魔物がこんな近くまで!》
「えぇ!?」
慌てて窓に近づいて外の様子を伺うと、目の前をでっかい木? が横切って行くのが見えた。
それだけじゃない、目が3つあるワニがヘドロが泡立つ川から顔を覗かせ、尾羽ねが全部蛇になってるバカでっかい鶏が闊歩して脚が六本ある角の生えたライオン? が2頭、木陰で何かを貪っているのが見える。
《なんてこったいだよこりゃ……幸いこの家は認識されてないみたいだけど》
「嘘でしょう? 私、こんな状況でぐーすか寝てたの?」
《大丈夫、この家は絶対安全……あたし達三神が保証する》
《あぁ、私達は何を呑気にしていたのでしょう。反省です!》
ホントそれね、私達何をやってんだか……私は思わずため息と一緒に頭を押さえる。
しかし、あれをなんとかしないと肝心の水が使えない。当然だけど水がなきゃ生きていられない。
「アルティレーネ達が動けないってことは……やっぱり私がやるしかない……んだよね?」
《心苦しいですが、その通りです……ごめんなさい》
うぅ、やっぱりか……正直怖い! でもやらないとなぁ、幸いこの家は安全らしいからちょっと考えてみよう。
こういう場合、相手を確実に認識する事が大事なんじゃないだろうか? 前世のゲームの知識にターゲットを常に視界に入れておくってのがあった。うん、不意の一撃で何が起きたかもわからないままゲームオーバーは御免だ。
そして判断力だろうか? 今もこうして色々考えてどう行動するかを判断しようとしてるけど、この考える時間をもっと速く早くしないといけない。
次は直感、というか……こう危ないって察して危険を事前に避けられるような察知系。
「視界は切り替えをもう少し、臨機応変に……考える時間をもっと、ううん、速く早く思考加速、後は察知系、危機察知、敵意察知、後は後は~やっぱり怖いからなんかバリア~」
更に大事なのは攻撃手段だろう、私は魔女だし単純に考えて魔法で遠距離攻撃? 別に魔女だからといって殴れない訳じゃないのだけど、正直そんな勇気ないやい。
攻撃魔法って言ったらやっぱり基本は属性魔法? 火、水、土、風、聖、闇……思い付くのはこの6つ、無属性なんてのもあるのかな?
私は思い付く限りをそれぞれイメージしていく、うん、大丈夫。そう思うとなにかが身体からゴソっと抜けてく感覚を受ける。一瞬、「うっ」ってなるけど、代わりにバリアやら何やらとさっきまでイメージしてた効果が現れたので、多分魔力? とやらを消費したのだろう。
《呆れた……スキルを魔力による力技で再現してる、これじゃまるで……》
《普通なら魔力切れて速攻ぶっ倒れるレベルでゴッソリ減ったみたいなんだけど、アリサっちへーきそうだね?》
「う? あ、やっぱり魔力で合ってたのね。うん、大丈夫、それになんか勝手に回復? してるみたいだし」
《アリサさん、どうか無理だけはしないでくださいね、危ないと思ったらすぐにこの家に逃げ込んでください!》
アルティレーネが心配そうに助言してくれる、うん、怖いから無理だけはしないようにしよう。
「わかった、ちょっと試してすぐ戻るを繰り返すよ~おっかないしね……ミーナ、行って来るからね良い子にしてて~♪」
「ンナァ~ン♪」
私はミーナを撫でて撫でて撫でて、アルティレーネ達によろしくお願いすると、玄関の扉をそぉぉ~と開けて、チラッと外を見てみる。
「グオオオォォーッ!!」
「グアアーオォッ!!」
「グギャアァグギャァーッ!!」
パタン。
私はそっと扉を閉じた。
「こっわっ! 外めっちゃ怖い!!」
あばばば……鳴き声にビビってその場でペタンと座り込んでしまう。
いや怖いよ!? 考えてみればリアルにバトル経験なんてないし! それに、引きこもりだったから身体を動かすのも不慣れなんですけど?
《アリサっち~だいじょぶ?》
《無理もない、それが普通》
《怖いですよね、慣れるまでは大変です》
背中から3人の声が聞こえる、そうだよね普通怖くて動けんわ、慣れるなんて言うけど慣れたくないし、慣れちゃいけない気がする。恐怖ってのは謂わば自衛本能だろう?
何かで誤魔化せないかな? 一時的でいい。ありったけの勇気を振り絞る……無理、きっと魔物を目の前にした瞬間くだけ散る。
「あ、そうだ! 耐性ってやつだ」
漫画とかで読んだ知識なのだけど、この手合いは必ずなんちゃら耐性とかいうのがあるはずだ。
それを期に思い付く限りをイメージしていく、同時に思い出したのが探知系の色々と、身を隠したりする謂わば隠密行動のそれぞれ。
「ふふふ、いいぞ~魔物がどこにいるのかがよくわかる……そして私は隠密行動だ!」
《……それは魔法使いなの?》
「う、今は身の安全の方が大事! じゃあ行ってきます!」
レウィリリーネの無粋なツッコミをさらっと避して、ガチャッ! っと。さっきまであんなに怖かったのが嘘みたいにあっさり外に出る。
視界を通常視点に戻し、周囲を見渡すと全体的に霞がかかったかのように霧が立ち込めていて見通しはよくない森林の只中だ。
先程窓から見かけた魔物以外にもうようよと、あっちにもこっちにも。あーあ、もう魔物同士で潰し合ってくれれば楽なのに。
「やー、あんなでっかい木がのっしのっし歩く姿とか……シュールだわぁ~なんなのあれ?」
樹木が意思を持って動いて回る姿なんてそうそう見られるものじゃないと思うの。
ピコーン
『イービルプラント、高濃度の魔素を長時間摂取し続けたために魔物化した精霊樹。火と聖属性に弱く、土と水に強い耐性を持つ』
わーい♪ さっき自分の職業を確認したときみたいなウィンドウがご丁寧に色々教えてくれた。
「これって、私が『知りたい』って思うと出てくるぽいね、有難いや!」
親切な事に弱点まで教えてくれる。有効活用させてもらいましょうか!
「じゃあ、定番と言えば定番! 火の球でもイメージしてみようかな?」
ボッ! 手のひらから火の球が出てきた、ソフトボールくらいの大きさかな?
「……え? これ、投げないと駄目なの? なんかめんどいなぁ~そーい!」
私は手にした火の球をイービルプラントに放り投げる、こちらに気付いていない歩く木に容易に命中したと思ったら。ゴオォォーッ!! って物凄い火柱が立ち昇り、ギギギッと樹木が軋みを上げる音をけたたませ、一瞬で灰にしてしまった。
「冗談でしょう?」
とんでもない威力だ、見た目ちっこい火の球だったのに……思わず某大魔王様の初級魔法を思い出す。
「周りの魔物もビックリしてる、隠密のお陰で私には気付いてないみたいだけど……こんなの連発したら気づかれちゃうだろうし、大火事になっちゃうよ!」
危ない危ない、放火魔になっちゃうとこだった。
これはちょっと考えないと、思考加速してるのでじっくり考えても大丈夫。焦らずに焦らずに!
「さっきの木は弱点があったけど、他の魔物はどうなんだろう? 一度家に戻って安全地帯から探れないかな?」
私は初心者なんだし、無理はしない。命大事に慎重にならないとね。
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【これが、チートか】~エリクサーじゃないのだ~
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《あ、帰ってきた。おかり~アリサっち♪》
「ただま~♪ やービックリしたぁ~」
《ん、見てた……火球一つで精霊樹を灰にするとかびっくり仰天の魔力》
《杖を使わなくて正解でしたね、素であの威力なのですから》
家に入ると3人が出迎えてくれた、まぁ、木を一本燃やしただけなんだけど、なんか嬉しいね♪
「ミーにゃん、おいで~♪ 杖は暫く箒にして使うよ、ちょっと考えたんだ」
私はミーナを撫で回して、指をザリザリ舐め舐めされながら考えを実行に移す。
《お、なんか名案が浮かんだの? ちょいと聞かせてよ?》
「そんなたいしたことじゃないよ? まずは視点操作で出来ると思うんだけど~ムムム!」
私は視点を上空に飛ばすイメージを思い描く、高層の建造物の屋上から見渡すイメージ、ちょっと難しい……でも、きっと出来ると信じる!
「はぁ! で、出来た!! おぉ~見えるーって思ったけど、霧が濃くてそれほどでもないかな?」
《もしかして、視点操作で上部から見渡してる?》
《随分器用な事を……霧は先程お話した魔素が高濃度のために可視化している状態ですね》
「え、この霧が魔素ってやつなんだ? 私達に害はないの?」
結構吸い込んでるけど大丈夫なのかな?
《うちらこれでも神様だからね~んでアリサっちにも加護っていうかーまぁ、そんなのがあるからへーきへーき♪》
《ですが、普通の動植物ですとあのように凶暴な魔物に変わり果ててしまうのです》
そっか、私達なら大丈夫なんだ。ちょいと安心。
さて、気を取り直して次は視点をも一つ増やす! そう、デュアルモニターのイメージ。映し出すのは今の高所からの視点と通常の視点。 よし、出来た。
ふふ、これができるってことは~こういう事もできるってことだ!
「ミニマップ表示! オートマッピング! 敵性マーク表示、オートサーチ! 自動鑑定!」
《《《はぁぁーっ!? なにそれぇぇっ!!?》》》
ふはは! 驚いてる驚いてる! これぞ前世のゲーム知識の応用なのだよ。
これで魔物がどこにいて、どんな弱点をもっているかがすぐにわかるスグレモノだぞぅ!
「おー、こりゃまた沢山いるんだねぇ~って……聖属性が弱点って魔物がやたら多いんだけど?」
《あ、アリサっち……スゲー……》
《スゲー……》
《はわわ……あ、アリサさん絶対闇に堕ちないで下さいね! 絶対ですよ!》
はぁ? 闇落ちってなによ? そんな神様を敵に回すようなことしないよ! おっかない。ね~ミーにゃ~ん♪
「にゃぁ~ん」
「んにゃ~ん♪ 私はやること済ませてのんびりミーナとだらけた生活過ごせればそれでいいんだけど……それを邪魔されたら……あ、そうだ、また人に騙されたりしたら……ふ、フフフ」
あ、こういうこと考えるとホント闇落ちしそうね、フフフ。
《ひえぇっ! アリサっち! 帰ってきてーっ!!》
《アルティ姉さん、あたし達が顕現できたら全力でアリサの生活を守ろう?》
《えぇ、とにかく加護増しましで……》
さて、気を取り直して……杖箒を箒に変化させて、少し考える。
この箒に乗った、いや、座った状態で空中戦するとなると安定した姿勢が大事になると思う、リアルはゲームや漫画じゃあないのだ。
《アリサ、箒に跨がったり腰掛けたりして……何したいの?》
「いやね、どの姿勢が一番安定するかなぁって思って……」
レウィリリーネが首をかしげて不思議そうに聞いてくるから、今の考えを話したんだけど。
《それこそ、さっきみたいに自動で姿勢制御~みたいにすればいいじゃん?》
な、なんと!? フォレアルーネの言う通りだ! なんで気付かなかった私?
《空を飛ぶんですね、あぁ、それでしたら個人的には跨がるより腰掛けた方が良いような気がしますね》
「アルティレーネ、その心は?」
《何らかで姿勢を崩して、そうですね錐揉状態で落下した場合に跨がっていては脚が箒に絡まり墜落するのではないかと、腰掛けているなら離脱も容易では?》
なるほど……めっちゃあり得そう、私素人だしなぁ。
「うん、じゃあ腰掛ける方向で……ちょいと浮いて浮いて~」
フワッ
「お、おぉぉ~浮いてる! じゃあゆっくり徐行で前進……お、おぉぉ! いいぞ~いいかんじ♪」
《わはー♪ 何か楽しそう! うちもやってみたいなぁ~!》
「いいね♪ みんな動けるようになったら一緒に飛ぼうか?」
《それはとても魅力的ですね!》
《めっちゃ楽しみ♪》
うんうん、いずれこの3人とミーナを乗せて空を自由に飛び回る! とっても楽しそうだね♪
ふよふよと箒に乗ってノロノロ家の中をテスト的に飛んで見る、うん、なんとなくコツが掴めて来たと思う。
「聖属性の魔法か~何があったっけ?」
私は箒でその場で浮いた状態を維持しつつ考える。
聖属性、とすればいわゆる神聖なうんたらとかいうのがそうだったはず。でも、それをどうイメージすれば良いのかがわからない、火とか水~とかなら身近なものだしわかりやすいんだけど。
ホーリーなんちゃら~とか、ディバインほにゃらら~とか名前だけイメージできてもなぁ。
《アリサ、なに悩んでるの?》
「レウィリリーネ、いやね……神聖な~とか、聖なる~とかいう魔法のイメージがわかなくてさ~なんかこの辺の魔物の大半が弱点それなんだよ」
《あぁ~なるほどね! それならうちらが力になれると思うよ♪》
《私達神そのものですからね》
神聖な~もなにも、目の前に神様おりましたわ……この3人なんかフレンドリーだからつい神様ってこと忘れちゃうな。
《じゃあアリサっち、手出して~うちらと手繋ご~♪》
「うん、よろしく」
《アリサの手あったかい♪》
《では、感じて下さい……私達の力の一端》
両の手に重ねられた女神達の手から、彼女達の魔力を感じる。
う~ん、なるほど……これはわかりずらい、完全に感覚的な問題だ。
いくら言葉や文章で伝えようとしても、きっと上手くいかないと思う。なので大雑把にこの感覚で使う魔法が聖属性魔法になるとイメージしてみる。
「よし、ちゃんと感じ取れたよ。ありがとう、早速試して見ますかね!」
私はさっきのヘドロをコップに汲んで、テーブルに置き椅子に腰掛ける。
《うえぇ~相変わらずすんげぇにおいΣ(>Д<) 鼻が曲がる~!》
《ありひゃ、どうしゅるのこれ?》
フォレアルーネがあまりの臭さに顔をしかめて、レウィリリーネは鼻をつまんで耐えながらも興味深げに聞いてくる。
《う、臭いだけじゃなくて目にもきますね! イタタ!》
アルティレーネにいたっては、刺激臭のせいで涙目になる有り様だ。正直目の前の私もキツイ、でも我慢我慢!
「見てて、さぁ! 綺麗になって!」
3人から感じた感覚を忘れずに魔力をこめる、私の手のひらから淡い光がヘドロに降りかかり更に強く発光する。
《おぉ~浄化だね! においが消えたよ》
《それだけじゃないわ、どんどん澄んで行く!》
光が収まると、ヘドロは見る陰もなく消え後に残ったのはとても澄んだ綺麗な水だった。
「うん、成功かな?」
《ん、アリサは飲み込みが早い。見てるだけでワクワクする♪》
レウィリリーネが嬉しそうにピョコピョコ体を左右に揺らす、ふふ♪ なんか可愛いな。
《すんげぇキッラキラしてるねこの水~念のため鑑定~って……はぁっ!?》
《どうしたのフォレア? すっとんきょうな声を出して》
フォレアルーネが何か凄い驚いて後ずさっていた、何事なの?
もしかして失敗だったの?
《そんな事って、いや、うち鑑定苦手だし……ねぇ、アルティ姉これ鑑定して見てくんない?》
《え? えぇ、わかったわ……やってみるわね。──てっ、えぇっ!?》
んん~? アルティレーネが固まったんですけど? なに? 鑑定してみればいいの?
ピコーン
『神々の雫。天界に住まう神々よりもたらされた神聖水。ありとあらゆる病、呪いをたちどころに治癒し、失われた体力魔力を回復し、欠損部位すら復元する』
とんでもないのができたんですけど?
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【あわれな魔物達】~ファンタジーの定番~
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「そーま? なんぞこれ、お風呂の湯に使えるのかな?」
《ぶふっ!!? アリサ何て事言うの!?》
《ままま……マジで神々の雫なの!? ウッソ!! 主神さましか造れないって言われてるあのソーマ!?》
《あばばば……そ、ソーマ……そーまでおふろぉぉ~》
きゅうぅぅ~パタン。
あ、アルティレーネが目を回して倒れちゃった……ちょっと大丈夫?
《ん~、もしかして主神はここまで見越してアリサを推薦してくれたのかもしれない》
《にしても、スゴすぎじゃん! これなら世界の再生も思った以上に進展するかも!》
ははは、魔神にぼこぼこにされちゃったって言ってたもんね~、私も出来る限りの協力はするよ?
アルティレーネをベッドに横にして介抱しつつ、感じた手応えを心に刻んで忘れないようにする。さぁ! いよいよ実戦に向かうとしましょうか!
「そうだ、その前にもう一つ!」
いけないいけない、良いこと思い付いたのに忘れるとこだった。
私がイメージするのは無線ページング、チャンネルを受信する人物や場所に合わせるように、前者は個人通話、後者は全体通話だ。
(あー、あぁぁ~フォレアルーネ聞こえるかな?)
《むあっ!? 通信魔法? アリサっちホント器用だね!》
《んぅ?》
二人の反応から察するにうまく個人通話が成功したみたい。
(レウィリリーネ、どうかな? 私の声聞こえる?)
《むぅっ!? 聞こえる! これは個人宛て? 同時にはできる?》
《おぉ、別々にもできるんかぃ……ふへへ、ナイショ話もできちゃうじゃ~ん♪》
レウィリリーネだけにも成功、じゃあ今度は全体に。
(たぶんこれでいけるかな? どう~聞こえる~?)
《《聞こえる~♪》》
(良かった~じゃあ、行ってくるから! なにかあればこれですぐアドバイスお願い!)
《《がって~ん!》》
ホントに仲がよろしいことで。
私は再び外に出ると箒で上空に飛び上がる、相変わらず魔素の霧のせいであまり視界は良くないけれど、辺りは森林が広がっており、ヘドロの川と拠点の屋敷が見える。そして川上の方、遠くにうっすら見えるあの影は山脈だろうか?
魔物達の唸り声があちこちから聞こえてくるが、私は不思議と違和感を覚える。それがなんなのかはわからないのだけど……何か変だなぁと感じる。
考えすぎるのも良くないので、私は視点を通常視点と第三者視点に分けてミニマップに表示される敵性マークに聖属性弱点で検索をかける。考察はやることやってから!
イメージするのは敵を貫く鋭利な槍だ、敵を刺し貫きその場に縫い付ける聖なる槍。
「グロいのは嫌だから姿見えないのはマシ……なのかな? 敵性マーク、オートロック!」
前世で見たアニメっていうのに、ロボットが戦うのがあった。主人公の操るロボットがモニターに映る敵機を次々にロックオンしては高熱兵器で一気に殲滅していたのを思い出す。
今、まさにそんな感じかもしれない。問題はここで……
「えっと、技名とか魔法の名前とか……なにかしら叫んだ方がいいのかしらん?」
それはお約束と言えばそうなのだろうけど、実際にやるとなると恥ずかしい、気がする。
《え~なんで~? 勇者達はめっちゃ叫んでたよ? 「くらえーっ!」とか、「必殺!なんたらーっ!」とか、いっぱい》
《ん、気合い入ってた》
おぉう、聞こえてたのね……勇者達は随分あつくるしい連中だったようで。
私は遠慮しよう、わざわざ叫んでこちらの位置を特定されても困る。魔法使いは常にクールじゃなきゃいけない……って、前世の漫画知識がヒットしてるし。
イメージした槍を無数に魔力で作り出し、中空に展開させる。なんか白く光ってて目立つ。
「こんなにピカピカ光ってちゃ見つけて下さいって言ってるようなモンじゃんか! 隠さないと! えっと、透明になれ~!」
私が腕をパタパタ振ると、槍達はその姿を薄くする。でも、光るのまでは隠しきれないようでぼや~って人魂みたいに見えている。
「うぅ、仕方ないか……今はこれで。よし、行って!!」
腕をかざした私の合図を皮切りに、無数の槍は音もなく閃光をはしらせて駆けて行く。その様子を沢山の光が線を引いて綺麗だなぁ~なんて能天気に思っていると。
「グオオォーッ!!」
さっきの三つ目ワニが、あ、イビルアイゲーターって言うらしい……を貫き。
「バオオォーンッ!?」
デビルエイプとかいう、ゴリラみたいなのを貫き。
ドガーンッ!!
デモンズロックっていう、一見岩にしか見えない魔物に突き刺さったと思ったら大爆発して……
「バルォォオオーッ!!」
その爆音に驚いていたホーンライガー、脚が6つある角の生えたライオンにザックリいって……と、まぁ~あちこちから断末魔が飛び交って大合唱。
「ひぃぃ~我ながらなんて恐ろしい事を、こんなコーラス聞きたくなかったわ」
耳と目をふさぎたくなってくるのだけど……と、その時危機感知が警鐘を鳴らす!
「なにっ!? 正面!」
高速の飛来物!? 咄嗟にバリアに割いている魔力を増やす!
ズガガガガッッ!!
バリアに連続で飛来物がぶつかっては飛び散り、耳障りな効果音を鳴らす。
《うわっ! 凄い音がしたんだけどアリサっち大丈夫!?》
《むぅ、発信された形跡がない……音洩れ? 見えないのがもどかしい》
あまりの騒音に屋敷内にいる女神達にまで、私を通した通話魔法で音洩れしたみたい。
一先ず飛来物は止んだようだけど、一体何が飛んで来たのよ? って、葉っぱ?
バリアにぶつかったことで力をなくしたのか、目の前をヒラヒラと舞い落ちていく無数の木の葉。
「魔力乗せて飛ばすとこんな葉っぱも凶器に早変わりするのね、さしずめマシンガンかしら?」
二度目の危機感知! あんな威力ありそうな葉っぱを『面』で受け続けるのに不安を覚えた私は、バリアを多角形に変更する。『角』で受け流すのだ。
ズガガガガガガガガッッッッ!!!
あーっもう! やかましいわ! 多角形にしたバリアは強固さを増し、葉っぱマシンガンではびくともしないんだけど、音がうるさい。
《うおぉ!? また鳴ってる! アリサっち~無事なら返事して~!》
おっと、いけない。このままだと女神達に心配かけてしまう、音だけじゃ不安だよね?
通常視点を映したモニターをイメージして、全体通話に乗せる。
「ごめん、心配かけたね! なんとか大丈夫だよ、ちょっと今敵から攻撃がきてそれをバリアで防いだとこなんだ」
《むぅ、アリサ無事でよかった……この映像は維持できる?》
「うん、でも、緊急時だから維持するだけで勘弁してね?」
《いや、充分っしょ! 一体どんな攻撃だったん?》
霧が邪魔で相手が見えないけど、撃ってきた方向から川上だろう。
「川上から魔力を乗せた木の葉がいっぱい飛んできたんだよ、それこそ弾丸みたいに!」
《葉っぱ!? それって! ねぇ、アリサ相手はわかる!?》
レウィリリーネが少し焦ったような声をあげる、何か心当たりがあるのかな?
「待ってて、霧さえなくせば見えるはず!」
とは言ったもののどうしたモンかしらん? 思考加速をちょいと強めてじっくり考える。
アルティレーネが言うにはこの霧は濃度の高い魔素って話だ。魔素とは魔力の素、魔力は魔法の素……だと、思うんだよね。
かき集めて何かに使えないかな? フィルター付いた集塵機で浄化しておけばもしかしたら……
あー、そんなの持ってたら手が塞がってなんもできんわい……もっとファンタジーに考えると、魔力を集めて蓄えるなんたら~とか? 確かそういうのって水晶とか宝石であったような気がする。
そっか、杖だ! ファンタジーの定番、魔法使いの定番、その武器! 先に宝石とか水晶付いた杖。魔法を使うときその宝石やら水晶がペカーって光るのだ!
「ふふん♪ 要はそれを応用すれば良いんだ! この箒の取っ手の先端に集積用の、水晶でいいか……を付けて手前に浄化フィルター、集塵装置ってイメージ!」
ペカペカペカー
イメージを固めて魔力を注ぐと、箒の先端が銃のバレルのように変化する、それを魔力で展開させ、更に回転を加えて魔素をかき集めてフィルターで浄化して水晶に集めるのだ。
自分でもガバガバ理論だなぁって思うけど、できたんだからよしとしよう。ご都合主義万歳! イメージすれば魔力でごり押しだーい♪
《えぇ~、アリサさんなにやらかしたんですか? 霧が吸い込まれてるように見えるんですが?》
「ん、アルティレーネ起きたの? 今葉っぱ飛ばして来たとこに向かうからね、何か気付いたら教えて!」
《木の葉、思い当たることはあります》
《あー、アリサっち、この『聖域』の中心にね~》
むっ! また撃ってきた! 今度は頑張って避けてみる、群なので少し大きめに。
「バリアあるからって安心とは限らないもんね! 中心地点から来てるのか、さっき山脈みたいなの見えたけどそれかな?」
集塵装置のお陰で前方の視界が開けて来た。前方に大きな塔みたいな影がうっすら見えるけど、ミニマップにはまだ葉っぱを飛ばして来た敵性マークは見えない、そんなに遠いの?
《私達創造神が世界を創り、管理するにあたって必ず必要になるもの……》
《世界に一つだけと、あたし達神々の掟でも決められたやつがある》
今更かもしれないけど、さっき感じた違和感がわかった気がする……空を飛ぶ鳥がいないんだ。
まぁ~こんな葉っぱ弾丸撃たれたら鳥もおちおち飛べないよねぇ。
《世界の自浄作用を司り、『聖域』の象徴とも言える存在》
《うちらが世界を行き来するための、ん~扉、玄関?》
しつこく飛んでくる葉っぱ弾丸を避けて、時に風を起こして打ち払い、バリアで防いだりしてえっちらおっちらと突き進む。
「アルティレーネ、まさか、その象徴がこの葉っぱ飛ばしてきてるってことなの?」
《はい、世界の……いえ、星の命とも言うべき存在》
《魔神に呪いをかけられて、その在り方を反転された……》
《それはね……》
ミニマップにようやく敵性マークが表示され、自動鑑定が発動する。
それによると、敵は……
《《《「『世界樹』」》》》