159話 ワンワンと戯れる聖女
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【ワンちゃん】~じゃれあいます♪~
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「いけない! アリサ様、不可視の攻撃が飛んできます! 避けて下さい!!」
ガオォォォーッッ!!
ん? なんぞフェリアが私に避けるように叫んでるけど……不可視の攻撃って、コレかね? 中々に強力そうな攻撃……衝撃波だけど、そんな騒ぐほどのもんじゃないね。ほいっとな。
パチンッ!
サァァァー……ふむん。私がちょいとだけ力を込めて指パッチンしたら呆気なく霧散したね。やっぱり大した攻撃ではなかった。
「はぁぁぁーっ!? イヤイヤ! おかしいでしょぉぉぉーっアリサちゃぁぁーんっ!?」
「そそ、そーだよ!? なに今の!? あの見えない攻撃を一瞬で無効化させちゃうとかぁぁーっ!?」
『いやはや……これはもう意味がわからぬな……』
『は、ははは……乾いた笑いしか出ねぇ……』
《スゲェゼ!! 流石俺様ノマスターダゼェェーッッ!!》
おうおう、騒がしい騒がしい! リールとフォーネがやたら叫んで、ユグライアとフォレストが目を点にして、ヒャッハーくんがはしゃいでるぞ? ううむ、『神々神』としての力からすると、今のは別に大したことじゃないんだよね……ただ、ちょっと羽虫を追い払った程度でそんなにやんやされても困ってしまう。
「ワォォンッ!? ウゥーワンワンッ!!」
「あらま、じゃれついてきたあんたまでそんなに驚くの? ワンちゃん?」
なんぞ仕掛けてきたディードバウアーもびっくりしたみたいで、一声吠えた後、唸ってまた吠えて威嚇してくるね。
そういやワンちゃんって、自分で立ち位置に序列つけるんだっけ? なるほど……このワンちゃんは「なんだお前! 俺の方が強くて偉いんだぞ!?」とでも言いたいのだろう。
「まぁ、どのみちあんたを滅ぼしちゃうと色々と面倒なことになっちゃうし、丁度いい機会ね」
「グルルル……ウォンウォンッ!!」
今は洗濯機で行われる、魂の浄化。それをロアがちょっかい出すまでは、一手に担っていたこの『魂喰神』はありとあらゆる世界の人々の憎悪や、怨嗟、妬み嫉み等と言った、所謂悪意を穢れと称して浄化してくれていた。
その性質上、このワンちゃんには自然と世界中の悪意が集うことになり、そしてそれは決して尽きる事がないため、いくら跡形もなく消し飛ばそうと、直ぐにこうやって何事もなかったように現出するのだ。
「な、なんてことだ……それが事実ならば、ディードバウアーを倒す事は不可能ということになる!」
「アーグラス達が一度退ける事ができたのは、弱体化のペナルティがかかっていたからに過ぎない。という事ですか……」
アイギスとフィーナが驚愕しつつも合点がいったようで、納得しつつ、倒す術がない事実に絶望している様子を見せる。
そうなんだよね~生命が存在する以上、悪感情ってのは絶対に消えることはない。故に、ディードバウアーがその存在を失う事はまずあり得ない。
「そんな……だったら一体どうしたらいいんだ!?」
「くそっ! 後一歩なのに……ディードバウアーさえなんとかできれば俺達には未来があるのに!」
はいはい。そう嘆きなさんなジャデーク、ネハグラ。どうすりゃいいか~なんて、もう、答えは決まってんのよ?
「ほら? いらっしゃいワンちゃん♪ 私が遊んであげる。そしてどっちが上なのかってのを身をもって知りなさい?」
「ギャオォォォーンッ!!」
ゴォッ!! って轟音立てて飛び掛かってくるワンちゃん。爪で引っ掻こうってする前肢を、ほいっとな。
「あらぁ~? 折角のぷにぷに肉球がガサガサじゃない! 駄目よぉ、ちゃんとお手入れしなきゃ?」
軽く受け止めてその肉球に触れて見れば、なんてこったい! ザラザラのガッサガサ! ふにふにした感触を期待してた私はなんともがっかりである。
「おぉぉぃ? おかしいだろ? 何で今の攻撃軽く止められんだよ姐御……」
『わ、私……ディードバウアーの動きが見えなかったんだけど!?』
大地とリュールが今のじゃれあいに驚いてる。んむぅ、無理もないか。このワンちゃんってば某サ○ヤ人の如く、一度ブッ飛ばされてから復活してくると、それまでとは段違いの強さを身に付けてくるからね。正直みんなの力ではもう、どうしようもないほどの力の隔たりが出来てしまっている。
「まぁ、それも限界があるみたいだけどね?」
位階の違いってやつだ。単なる『神』のディードバウアーと、『神々神』となった私とじゃ埋めようのない力量の差が生じており、その差はディードバウアーが何度その特性で強化しようと絶対に私に届くことはない。
「な、なななっ!! デッデ、『神々神』!!?」
「う、ウソでしょう!? 私達神の間でもお伽噺の存在よ!?」
「ちょっ、セルフィ様! シェラザード様! なんなの? その『神々神』って!?」
そいでもってまーたびっくらこいてるみんな。特にセルフィとシェラザード。それに、妹達にルヴィアス、リドグリフといった神の連中が大騒ぎして、その慌てようにレイリーア達もまた騒ぎ出す。
「そーいやミーナに詳しく聞いてなかったなぁ……」
「ギャウワウッ!!」
そういやミーナからきっかけを与えてもらって『神々神』になった私だけど、あ~よしよし。構ってほしいのねワンちゃん? ほーれほれ♪
驚いてる神の連中に『神々神』とはどういった存在として伝わっているのかを訪ねようとしたらワンちゃんがじゃれてきたので、軽くお相手する。両の前肢から繰り出されるワンワンパンチを、「あちょちょーっ!」ってパリィして、あむちょーってしてきたのを右腕出して噛ませる。うむ。ほどよい甘噛みだ。
『いや、甘噛みって……アリサ様。その噛み付きでこの『セリアルティレーヴェ』の盾が砕かれたのだが?』
「それにサイズが……普通なら一飲みされちゃいますよ!?」
あれまホントかねユグライア? ホントだ……盾が壊れてる。うぅむ、終わったらもっと強化してやろうかしらね。そして水菜の言うことに改めて私の右腕をあむあむしているディードバウアーを見れば……うん、確かに図体はでっかいね。でも結局はそれだけで大した問題ではない。
んで? どうなの妹達よ? 『神々神』ってどんな存在としてあんた達に伝わってるんだね?
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【アリサさんチョップ!】~はい、おしまい~
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「で……『神々神』とは、私達『神』が『神』と崇め奉る存在です」
「んん~? なんじゃ、神様方の中でも偉い御方の事なのかのぅ?」
「ちがっ、違うよドガっち! うち等にとって、『神様』って事なんだよ!?」
なんぞ~? よくわからんね。あ~ワンちゃんそろそろあむあむ止めようね?
「ふんぬっ! せいっ! アリサさんチョォーップ!!」
「ギャインッ!!」
ずっとあむあむされてた右腕を強引にワンちゃんのお口から引っこ抜いたんだけど、それでも尚、あむちょしようとしてくるディードバウアー。ちょいとしつこいので躾の意味でも叱っておかねばなるまい。そんなわけでワンちゃんの脳天に撫でる程度のチョップを落としてみた。そうしたら、甲高い声で悲鳴あげて、ゴロゴローッ! って地面にのたうち回る始末。なんだべ? そんなに嬉しかったんだべか?
「どぉーれ? そんなに喜ぶんであればもちっと撫でてやっぺない? ホレ~こっちゃこせ!」
「ギャウンッ!? ウゥゥーッ!! ワンワンッ!!」
なんぞなんぞ!? 遠慮なんてすっこどねぇべ! ほら、こっちさ来せっ! 来ねぇんならしゃあねぇない、こっちから行ってやんべ!
「ギャンッ! ワンワンッ! ワンッ!!」
「なんぞこらぁーっ! 逃げるの!? やーいやーい♪ こーの負け犬めぇ~!」
もっと撫でてあげようと私から近付こうとすると、このワンちゃんってば尻尾巻いて背中向けてやんの! どっからどう見ても逃げ出そうとしているので、小馬鹿にして煽ってやると、怒ったのかこちらに向き直り……
「ガオォォォーッッン!!」
ズッゴォォォォーッ!! って、これまた強烈なブレスを吐いて来た! こらこら、ちょいとオイタが過ぎるんでないのかねワンちゃん? こんな強力なブレスが地上に向けられたら『ユーニサリア』が滅んじゃうでしょーが!
「あああぁぁぁーっ!! アリサ様危なぁぁぁーいっ!!」
「大丈夫大丈夫、安心しなさいフェリア。こうしてクルクル~ってして~ほいさ!」
向かってくるブレスを人差し指をクルクル回して絡めとり、『貯槽』を開いて放り込む。
「ギャワワンッ!!?」
「んっふぅ~♪ びっくりした? いい加減理解したんじゃない? あんたが逆立ちしたって私には及ばないってさ。というか、いい加減無力化させてもらうわよ? いつまでも暴れてないで、本来の役目を果たしてちょうだい? 『不変の零』!」
この子とあんまりじゃれついていると、その余波で『ユーニサリア』に被害が出てしまうので、そろそろお開きにしなきゃいけない。ディードバウアーに向けて放つ眩しいばかりの光は、みんな大好きあの名作RPGの三作目……そう! つい最近またもリメイクされたあのRPGの大魔王様が使い始めた、あの波動をイメージしているのだ!
「付与されてる総ての効果を、なんもかんも問答無用で打ち消して、全リセットするイメージ魔法よ。あんたは本来善悪区別なくその魂を浄化するのが本来の役目! 今こそ還りなさい!」
「ワ……ワワァァーンッ!!!」
ボシュッ!! 『不変の零』の光に呑み込まれていくディードバウアーは最後にひとつ吠えて消えて行く……ように見えたが、実際はそうではなく。
「クゥゥーン……キャンキャンッ! クゥゥーン……」
「あらぁ~♪ 可愛いです!」
「えぇっ!? この子犬が、先程まで私達が戦っていたディードバウアーなのですか!?」
今までのいろんな付与が取っ払われて、ぐぐーんと小さくなっただけなのだ。
色んな悪いものがぜーんぶ吹っ飛んだディードバウアーの姿は実に可愛らしい子犬ちゃんだ。切な気に鳴くその姿にアルティレーネが思わずきゃー♪ ってなって、アイギスが目をまるくしてびっくりしてる。
「そうよ~? 本来のこの子はユニとおんなじで、とっても純粋なワンちゃんなのね。あい、おいで~バウわん♪ よーし、いい子いい子ね~♪」
「キャンキャン♪ クゥゥーン。ペロペロ」
あはっ! ちょっとくすぐったいわバウわん♪ テコテコと所在なさげに歩いて来たバウわんを優しく抱き上げて、慈しむように撫でてあげると、嬉しかったんだろう。元気にキャンキャン吠えた後、私の頬をペロペロしてきた。うん! めっちゃ可愛いのぅ♪
「……はっ! あ、いやいや! えっ!? じゃあ、アリサ様……ディードバウアーはもうこれで?」
「何をドモってるんだねルヴィアスくんや? そーよ。もうこの子に悪意は全く感じないし、ロアに歪められた魂の浄化能力も正常に戻ったから、害はないわよ?」
う、ウオオォォォォーッッ!! やったぁぁーっ!! 勝ったぞぉぉぉーっ!!!
ワァァーッ!! って、集まったみんなから大きな勝鬨が挙がった。うんうん。みんなもよく頑張ったね! まぁ、結局最後は私が介入しちゃったけど、並大抵の相手ならとっくに決着してたよ?
「うむ。余もアリサ様に頼ってしまった、と思いはしたが……相手が相手なら既に勝ち戦よな?」
「まったくじゃ! ディードバウアーが規格外だったというだけの話。儂等は総て出しきって勝利したんじゃ! 皆、胸を張ろうぞ!?」
そうそう! リンとシドウの言う通りだよみんな! だから自信もって『聖域』に帰ろう!
「はは……やっと終わったんだな、って! 痛ててっ! 嬢ちゃん! 気が抜けてきたら足が超痛ぇぇーっ! 助けてくれぇーっ!」
「あぁーっ! そうだった、ゼオンさん足が無くなっちゃってたんだ! アリサちゃんお願い!」
徐々に勝利の興奮が落ち着いて来て、緊張してた気持ちが弛んだんだろうね。ゼオンが失った足の痛みを訴え始めてピーピー泣きわめいている。フォーネは僧侶として回復魔法も使えるけど、流石に欠損した部位を復元させる『部位復元』は使えないため、私に頼んでくる。
「はいよ~あんたも気張ったねゼオン? ちょいと前までほんのちょっと腕がたつ冒険者ギルドのマスターに過ぎなかったってのにね♪」
「あ~言われると……そうだな? まさか俺がこんな世界の命運を分ける戦いに先陣切って戦うなんてなぁ~?」
まったくお互いに人生どう転ぶかわかんないもんね? あっはっは♪ なーんて笑い合いつつゼオンの失われた足を『部位復元』で癒してあげた。
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【お帰りなさい】~うん、ただいま♪~
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「それにしても……遅いよ! アリサちゃん!」「そーだそーだ!」
「あんた今までなにやってたのよ!?」「さあ! 我と死合おうぞ!!」
「いやー! マジ助かったよアリサ様!」「流石はアリサ様です!」
《ヒャッハー! 俺様ノマスターハ最高ダゼー!》「マジに助かったぜ、ありがとな姐御!」
わーっ!! って、みんなでディードバウアーとの戦いに勝利した事に喜んだ後、少し落ち着いたらこれである。フォーネとリールに詰め寄られ、ぷんすか怒る二人の文句を「ごめんごめん」って聞きながら、シェラザードとリドグリフのコールを「落ち着いたら一席設けてみんなに話すから~」とか、なんとか言ってやり過ごし、続くルヴィアスとフェリア、ヒャッハーくんと大地からのお礼と称賛に「なんのなんの~」って笑顔で返してあげる。
「お訊きしたいことが山積みです……」
「ん……だけど、なによりもアリサお姉さんが無事でよかった」
「あっはっは♪ まぁ、ぶっちゃけみんなして「アリサ姉のことだから~」ってんで、あんま心配してなかったけどね!」
あぁーん? なんだどフォレアルーネ、それはまことかね!?
側に寄ってくる妹達もそれぞれに話しかけてくれるんだけど、アルティレーネとレウィリリーネはいいのよ、疑問ももっともだし、心配かけてごめんっても思うからね。だけどフォレアルーネの言葉を聞いて思わずみんなに顔を向けてみたらさ。
「お主の事じゃ。ロアに飛ばされる事も予想しておったんじゃろう?」
「ふはは! ロアなどの謀略なぞアリサ様には通じんだろうと皆が信じておったのだ」
「ま、姐御だしなぁ~心配なんざいらねぇ世話だって思ってたぜ!」
おぉーい……シドウにリンに大地まで! そりゃ予想通りだったし、飛ばされた先でもブイブイはっちゃけてたけどさ~もう少し、こう~ねぇ? 気にかけてくれてもよかったんでないのかね?
「わ、私は! その、勿論信じてはおりましたが……それでも、やはり心配しておりました。
なんにせよ……無事の帰還、嬉しく思います。お帰りなさいアリサ様」
「アイギス……うん。ただいま!」
わぁー! お帰りなさい! お帰り! アリサ様!!
アイギスの「お帰りなさい」に胸がいっぱいになる私。ああ、帰って来たなぁ~って去来する沢山の想いに応えるように、ただいまをかえすと、みんなも嬉しそうにお帰りなさいをしてくれる。うん! 嬉しいわ!
「さて、んじゃみんなして『聖域』に帰ろうか。あの邪竜ちゃんも戦乙女がやっつけたみたいだし。もう安心だよ?」
「……え? ちょっと待って下さいアリサ様」
「邪竜!? 邪竜ってなんですか!?」
「せ、『聖域』でなにかあったのですか!?」
ありゃ? みんなして知らないのか? 私が邪竜の事を口に出すと、ジャデークとネハグラ、フェリアが驚いたように聞き返してきた。よく見ると他のみんなも目をまるくして絶句している様子。って、ディードバウアー相手してたから他に目を配る余裕なかったのね? そりゃ無理もないか。んじゃ教えておくべない。
「あ~みんながバウわんと戦ってるときに、ティリアがロアを追い詰めてたんだけど……なんでもロアってば、『竜神』にも目をつけられてたみたいでね……」
あの邪竜ちゃん。『世界樹喰らう邪竜』がこの『ユーニサリア』に現れた理由をみんなに事細かに説明してあげると、話を聞いたみんなは揃ってげんなりした顔になるのが面白い。
《マジデ疫病神ジャネーカ、アノ、ロアトカイウ魔王ハヨォォ~?》
『その『竜神』もなんと強かな……』
『だな。厄介者を体よく放り出せたとか言って喜んでんじゃねぇの?』
『でもその邪竜もアリサ様がやっつけたんだよね? じゃあ残る魔王ってロアだけ?』
うむうむ。我が作品ながら、実に感情豊かな『魔装巨人』だなぁ~ヒャッハーくんってば。元凶のロアの話を聞いてうんざりって感じで項垂れては、首を左右に振るその姿は誰が見ても「やれやれ」って言ってるのがわかる。
一方『守護者』を操る『三神国』の元王様達。セリアルティレーヴェのユグライアとルーネフォレスターのフォレストは、状況を上手く利用して厄介者を追い出した『竜神』に対し、油断ならぬ神だ。とかなんとか。リーネリュールリアのリュールはさしたる興味もないのか? 二人の話には加わらず、私に確認を取ってくる。
「そーだよん。そのロアもティリアが抑えてるし、本体も私が密かに拘束してるからね」
「……じゃあ、これでようやく終わったんだね。はぁぁぁぁ~なんとかなってよかったぁーっ!」
「ホント……あはは、ゼオンさんじゃないけど……私達つい最近まではCランクの冒険者だったのに……」
「ハハハ! それを言うなら俺達なんてただのギルド職員だったんですよ?」
あはは! 私の言葉に盛大な安堵のため息をついたリール。そんなリールの肩に手を置いて、少し遠い目をしては、感慨深そうに『ルーネ・フォレスト』跡地を見つめるフォーネだけど、そのフォーネの言葉に思わず笑い出すネハグラだ。そんな彼等がなんか可笑しかったんだろうね、みんなして明るく笑いあったよ。
『はぁ、しかし……もう見る影もねぇなぁ俺の『ルーネ・フォレスト』はよ……復興なんて出来んのか、これ?』
「ディードバウアーとの激戦で残っていた遺構も吹き飛びましたしね……」
「そこはぁ~アリサお姉様のお力で、こう~パパーっと出来るんじゃありませんかぁ? ほら、その『魔装巨人』を修復したみたいに?」
ひとしきり笑いあった後、改めて戦いの後を確認するのはフォレストだ。バウわんとの戦いで結構ボロボロになった『守護者』ルーネフォレスターだけど、私の『修理』によって、新品同然の姿に戻っている。
そんなフォレストに相槌を打ち、仕方ありませんよと声をかけるフィーナに、私をあてにしようとするセルフィーヌだけど、私はそれに首を振って断る。
「復興ってのは誰かひとりの力で成すもんじゃないわ。思い願う人々が集まって行わなければなんの意味もないじゃない?」
「いや、まあ……そうなんでしょうけどね。だけど、アリサ様。ここまで跡形も残っていないと流石に厳しいんじゃないかしら?」
以前に『セリアルティ王城跡地』を見たときにも感じた事をフォレスト達にも言って聞かせるけど、レイリーアが困ったような顔で難しそうだって事を伝えてきたよ。ふぅむ、確かに焼け野原になっちゃってるからねぇ……
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【実は……】~サプライズ仕掛けてました~
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「仕方ないわねぇ~んじゃ、ちょいとだけ力を貸してあげる。そい、『巻き戻し』っと!」
シュバアァァァァァーッ!!!!
うおおぉぉぉっ!!?
『ルーネ・フォレスト』跡地の大地を部分的に時間を巻き戻し、バウわんとの戦い前の状態に戻してやると、吹き飛んだ筈の遺構群も再び姿を現した。遺構から読み取れる当時の王城や、街並みの姿ってのもこれである程度の予測は立つだろう。それを見ていたみんなの歓声が大きくてちょいとびっくりだ。
「そんなに驚かないでちょうだいよ? 以前にもアイギスが持ってたクエストの依頼書だっけ? あれを直したのとおんなじことしただけなんだからさ」
「いやいやいや! 局地的な時間遡行をここまで精密に行えるなんて!」
「ふはは! 恐れ入る! 『時空神』の奴もここまで緻密な時間操作は出来ぬだろうな!」
最近じゃ巻き戻しなんて言わないんだっけ? 早戻しとか言うんだっけかね? ビデオテープの存在すら知らぬ若人もいるとか聞くけど、ふぅむ、そういう世代の人なら聞き慣れない言葉になるかしらね? フィーナがやたらと驚いて、リドグリフが大笑いしてるけど……
「やろうって思えばもっと大規模に……それこそ魔神が攻め込んで来る前にも戻せるけどさ。それってやっちゃ駄目でしょ?」
たとえどんな悲劇が起きようと、時を巻き戻してやり直し。なんていうことだけは認めない。それは今を否定し、それまでのみんなの葛藤や、決断。そして……覚悟すら踏みにじる行為に他ならないからだ。
「その通りですアリサお姉様。「都合が悪くなったからやり直し」なんて行為は総ての価値を下げる愚行」
「この意見だけは『神界』でも満場一致で決まっているわ」
うむ。そしてそれは禁忌でもあるのだと以前に妹達から聞いている。故に私はそこまではしないで、あくまで『ルーネ・フォレスト』の大地のみをほんの少し、バウわんとの戦いの前の状態に戻すに留めた。
「ごもっともな意見だぜ。確かにやり直してぇって思う時はあるけどよ、実際にやり直せるってわかっちまうと、なんもかんもそれで済まされるもんだから、馬鹿やらかす奴も増えるだろうしな」
「ん。更に言えば……やり直した分だけ並行世界が増えていく。管理が大変。らしい……」
そう、今大地が染々語ったように、やり直しができるってのはそれこそ、あのヴェーラやロアのようにゲーム感覚で人々が行動を起こしかねないのだ。そして、やり直した数だけ並行世界が増えていき、最後にはもうわけわからなくなっちゃうらしく、それは『神界』に住まう神々も望むものではない、と。レウィリリーネから聞かされる。
『しかしまぁ、ここまで戻してもらえたならなんとかなりそうだな! 感謝するアリサ様!』
「うん! こうして上空から俯瞰して見ると、なんとなーく『ルーネ・フォレスト』がどんなお城で、どんな街並みだったのかって想像がつくね」
おうおう。嬉しそうにしおってからにフォレストとリールめ! うむ。リールもご先祖様のフォレストと大きな戦いを経て、王としての自覚っていうか、なんぞ? 失われた王国の復興に乗り気になってるようだね。
「ん。『リーネ・リュール』も忘れないでほしい」
『大丈夫だよレウィリちゃん! フォーネちゃんと協力して絶対復興させるから!』
「はい! 見ていてくださいレウィリリーネ様。私、頑張りますから!」
一方こちらは『リーネ・リュール』のリュールとフォーネ。レウィリリーネのお願いに応えるべく二人ともにやる気十分のようだ。
「へへ♪ なんだかもう、今から楽しみだね! うちも頑張るぞ~♪」
「私達には『聖域』でのお役目があるでしょうフォレア? 『農業班』はどうするの?」
そんなかつての『三神国』の王と子孫のやり取りに破顔しては「おーっ!」って腕を高く挙げてやる気満々のフォレアルーネだけど、冷静なアルティレーネに『聖域』でのお仕事の事を指摘されて、「あ」とか言い出す。
「いいんじゃないかのぅ? 復興の間はノッカーとブラウニーに任せておけば?」
「協力してもらう人々も集めなければならないだろうしな。まぁ、そこは冒険者ギルドにクエストとして依頼すればきっと大勢集まりそうなんだが……」
「うんうん。んじゃリールにフォーネ。ああ、後ゼオンもさ……復興に掲げる思いの丈を存分に話してちょうだいよ?」
なんか話が『三神国』復興の話になってきたので、ここらで各子孫が実際にどう思っているのかを聞いてみたい。先祖に、女神に言われたから。とかじゃなくて、彼等の本音っていうか、そんな感じの気持ちをね?
「あぁん? 俺は以前にも言ったけどよ。『セリアベール』の住人みんなの悲願でもあるわけよ? それだけじゃねぇ、俺のユグライアの家系はずっと夢見続けてきたし、俺自身、心底復興させてぇって思ってる。
まぁ、それが結果として、祝福を授けてくれた女神、アルティレーネ様のためになるってんなら、願ってもねぇよな!」
「ゼオンさんは揺るがないよねぇ~? 私達はホント冒険者やる前は農家の娘だったし……」
「冒険者になっても、うだつの上がらないCランク。細々と生きていくんだろうなぁ~って思っていましたよ?」
うんうん。ゼオンは出会った時からそうだったね。街を挙げて、みんなが世代を越えても復興の意志は揺るがずに今日まで来たのは正直凄い。アルティレーネも思わず涙ぐむってもんよね。
そのゼオンに感心したようにリールとフォーネが話し出す。
「でも、こうして女神様とご先祖様に出会って、この大きな戦いを乗り越えた今ならさ!」
「はい! もう、なんて言うか……なんでもできそうな気になっちゃってますね♪」
おおぉ~!
大きく出たね二人とも! それじゃぁ~?
「えへへ、私達も復興。頑張ってみようって思うの! このリール・サイファ・フォレスト。『ルーネ・フォレスト』王家の末裔としてね♪ だから、アリサちゃんも少しは手伝ってねぇ~♪」
「ふふ、同じく。フォーネ・ウィル・リュール。『リーネ・リュール』王家末裔として、王国の復興に尽力します! なので~私からも協力をお願いしますね、アリサちゃん♪」
あい。二人ともありがとね♪やる気に満ちた回答が聞けてアリサさんは満足です! はい、みんな三人に盛大な拍手~パチパチパチパチーっ!
おぉーっ! 見事だ! 頑張れよ! 私達も協力するぞ! パチパチパチパチパチパチーっ!
「はい。三人ともありがとね♪ 今の言葉を聞いた世界中の人達もきっと協力してくれると思うよ~? 勿論、困ったら私も力を貸すつもりだけどさ、まずはみんなで頑張ってみようね?」
「……え? アリサちゃん、今、なんて?」
「みんなで頑張ってって……」「その前だよ!」
あ~なんだねなんだね? なかなかかっちょよく復興に対しての思いを語ったリールとフォーネが私の言葉に突っ掛かってきおったぞ? なにか気になることでもあったかね?
「世界中の人達も~って……」
「うん。だってあんた達がこのバウわんとバトルしてる間全部ライブで全世界に流してたからね? 今の三人の言葉も届いてるよ?」
ええぇーっ!!!?
うはは♪ みんなめっちゃ驚いてる驚いてる! うんうん、その顔が見たかった。アリサさんのちょっとしたサプライズ、大成功ですよ♪
バウわん「キャンキャン♪《*≧∀≦》」
聖女「お~よしよし(*´∇`) めんこいワンちゃんねぇ~ヾ(゜▽゜*)」
アイギス「……( ゜□゜) この子犬が(-_-;)」
ドガ「さっきまで儂等が必死こいて戦っておったディードバウアーとはのぅ(;´∀`)」
レイリーア「びっくりだわ( ; ゜Д゜) 『守護者』並みに大きかったのに(^_^;)」
リール「可愛いねぇ可愛いねぇ~♪( 〃▽〃)」
フォーネ「アリサちゃん、私にも抱っこさせて~♪(ノ≧▽≦)ノ」
バウわん「くぅぅ~ん♪(U^ω^)」
アルティレーネ「まぁ~♪(*´∇`*) 本当に可愛いらしいですね( *´艸`)」
レウィリリーネ「ん(^ー^) 悪い影響が無くなると普通の子犬だね?( ´ー`)」
フォレアルーネ「うぅぅ(´ヘ`;) うちとしてはめっちゃ複雑だなぁ~(;´A`)」
フォレスト『わかるぜぇ~( ̄~ ̄;) なんせ俺達の国滅ぼしたのがこんな子犬になっちまうなんてなぁ~?(´ε`;)ゞ』
リン「まぁ、そう言うな(_ _) 確かに余も思うところはあるが……( `ー´)」
シドウ「うむ。憎むべきはロアであり、こやつではないからのぅ(*゜∀゜)=3」
水菜「そういう風に割り切る事も王としての器かもしれませんね(゜ー゜*)」
大地「ま、直ぐにってのは難しいだろうがな( ̄▽ ̄;)」
フェリア「我々はフォレアルーネ様やフォレスト王ほど因縁があるわけではないので、このバウわんを素直に可愛いって思えます(*ov.v)o」
ジャデーク「そうですねフェリア隊長(°▽°) ああ、妻と娘にもこのワンちゃんを見せてあげたい!ヽ(゜∀゜)ノ」
ネハグラ「このバウわんは『聖域』で保護するんですよね?( ゜ー゜) きっとクーシー達と仲良くなるだろうなぁ(´・∀・`)」
リドグリフ「ふむ(´・∀・`) ディードバウアーのあの姿を見るのはいつ以来であろうか?(*´ー`*) あまりに昔過ぎて思い出せぬわ(`∀´)」
シェラザード「そう言えば貴方とディードバウアーは同じ旧神同士だったわね(;´д`)」
ルヴィアス「俺もまさかディードバウアーがあんな子犬だったなんて知らなかったぜ( ゜□゜)」
セルフィ「というか!( `□´) こんな可愛い子ちゃんをあんな凶悪な姿に変えるロアは許せませんね!(゜Д゜#)」
フィーナ「まったくです( ・`ω・´) 万死に値する罪ですね!(#゜Д゜)ノ ティリアお姉様と合流して、皆で断罪しましょう!ι(`ロ´)ノ」
ヒャッハー《アーア……( ̄0 ̄;) ロアノ奴、死ンダワ、コレ……(゜A゜;)》




