156話 『懐刀』達の進化と邪竜
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【ありきたりはイヤじゃ!】~『LR』とな?~《珠実view》
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違うのじゃ……それでは足りぬ。
もっと欲張らせんか! そんな進化ではアリサ様に遠く及ばぬではないか!?
『空狐』、『天狐』……ありきたり。当たり前のような進化なぞ妾は望んでおらぬのじゃ!
もそっとすんごいのを持ってくるんじゃ!
なんと言うんじゃったかの? もっとこう~「おはいそ」で「はいぶりっど」で「はいーすぺっく」な進化をせねばならんのじゃぞ?
そうでなくてはアリサ様の横に並ぶ事も出来んのじゃ! ホレホレ! 見せてみぃ?
……おぉ、これはのっけから失礼したの皆の衆。珠実さんじゃよ~♪
妾は今、『エルハダージャ』の王城で進化の途中なのじゃ。まあ、他の者共の目には妾がまるまって寝とるようにしか見えぬじゃろうがな。
「ヒヒイロさぁん♪ 王都の方の騒動はだいぶ落ち着いたわよぉ~?」
「それは何よりです。各地方の状況はどうですか?」
「そちらも続々と吉報が届いているわ。『亜人』達は皆目が覚めたかのように大人しくなったって」
「まあ、どうしてこんな襲撃をしたのかとか、『ディード教団』にいたのか~といったところが不鮮明で困惑しているようだが、概ね落ち着いているぞ!」
そうかそうか。うむ、なによりじゃの。やはり教団のボスであったヴァンパイアロードの奴に洗脳されておったのじゃろう……その親玉が倒された事で一斉に『亜人』達の洗脳が解けて正気にかえったのじゃ。
この謁見の間に報告に来た冒険者ギルドのマスターであるオネェさん。そしてSランクパーティーの冒険者『閃光』のリーダーであるウィーリミアとレグスの話をヒヒイロと妾が聞き、『聖域』との情報交換で得た状況を照らし合わせ解を示す。
「わお! 凄いや……珠実様寝てる訳じゃなかったんだ?」
当たり前じゃ! 誤解するでないキャルルよ! 進化しつつもあーだこーだとヒヒイロに指示を出しておったんじゃぞ?
「確かに吉報です。無数の『魔装戦士』達も姿を消しましたし。ようやく落ち着いてきましたね」
「しかしヒヒイロ殿。小生としては『魔装戦士』が姿を消したのは、ロアの策略ではないかと懸念致す」
ああ、ドムよ。それは心配いらぬ。『魔装戦士』共が姿を消したのは、アリサ様が手を打って下さったからじゃ。
「おお! それでは本当に安心なのですね!」
「あら~! アリサ様凄いのね! じゃあ残すところは……」
うむ。ロア本人とディードバウアーのみじゃ。
ロアについては主神ティリアが直々に手を下すそうじゃし、ディードバウアーにおいても『聖域』の皆が立ち向かっておるところじゃ。
「マジか……俺達が行っても、ははっ足手まといになるだけだな……」
妾の思念を聞いて安堵するドムとオネェさん。レグスはやや驚きつつも戦いに協力できない不甲斐なさに歯噛みしておる。なぁに、主等はこれからじゃよ?
今は各都市の治安回復に尽力致せ。
はっ! かしこまりました女王陛下!
よき返事じゃ。さて、となれば妾も進化に集中したい故、本格的に眠りに入るのじゃ。あとのことはヒヒイロよ。よきにはからえ?
「お任せ下さいませ。陛下がよりよき進化を果たされる事をお祈りしております!」
任せておくがよい!
そうヒヒイロに伝え、妾は意識を己の内に沈ませてゆく。
見える進化先は冒頭に述べた『天狐』と『空狐』の二種。ううむ……いずれも強力な進化先なのじゃ。しかし、ありきたり。当たり前とも呼べる進化であるの?
これは勘なのじゃが、そのどちらの進化先でも、何か足りぬのじゃ。どちらに進化しようと、結局「それなり」で終わってしまい。アリサ様はおろか、あのディードバウアーにすら及ばず仕舞いになっていまいそうでのぅ……故に妥協は許されぬ。
(ホレ! 出し惜しみしとらんでもう一声ゆかぬか! 妾はやればできるんじゃ!
今までもそうして来たし、これからとてそうじゃ! もっと評価せい! この大一番でどでかい進化をせねば明るい未来は掴めんじゃろが!!)
ぐぬぬぬーっ! 中々納得できる進化先に巡り会えず、妾は歯痒い思いを抱きながら、更に己の深淵に潜って行く。あまり深く潜ってしまうと出口が閉ざされ戻れなくなってしまうのじゃが……なに、それすら承知の上じゃ! 自己の消失を怖れていては誠に望む力は得られぬ!
そう覚悟を決めた妾の前に微かな光が見えてくる! アレじゃ! 逃さぬぞ!? ようやっと見付けた妾の大きな可能性!
不思議な事にあれだけ必死になって探しているときには、いくら探していても見付ける事が出来ずにおったこの可能性の光。諦めず、妥協せず。兎に角執拗に追い求める事で初めて見えてくるのじゃな? 一度見付け出してしまえばもう見失うことはない。
(どれ? 見せてもらうのじゃ。妾がこうまでして求めた新たな力……期待せずにはおられんぞ!)
ピコーン♪ 『三千世界空天狐神』……『LR』New!
は? なんじゃこの『LR』とは? ようわからんのがついておるようじゃが……はて?
まあ、わからぬ事は置いておいて、肝心要の能力についてみてみなければならんのぅ。ここまで頑張って、残念性能だったら、妾泣いてくれるぞ?
そんな風に思いながら妾は新たな進化先の情報をくまなく調べるのじゃった。
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【まだか!!】~まだ終わらんか!?~《シドウview》
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ズドォォォーンツ!!
『どうっ!? このリーネリュールリアの『神気超粒子砲』! 流石にこれだけ強烈なら効くでしょう!?』
「ガオォォォアァァーッ!!」
「効いてます! 効いてますよリュール様! だけどっ!!」
リールとフォーネの故郷である『ファムナ村』の『聖柩』で出会うた、かつての三神国のそれぞれの王達。子孫に憑依することで行動を共にしておる彼等は、今『守護者』を駆り、強大な力を有する魔王。ディードバウアーとの決戦にまで儂等に協力してくれておるのじゃ。
「ちぃっ! また再生してきおったぞ……これで何度目じゃ? キリがないではないか!!」
その三神国の王達が操る三体の『守護者』は創世の女神である、あの次女と、性悪魔女との合作だけあって、かなりの高性能っぷりじゃ。その内の一体。リュールが操るリーネリュールリアが放った、神気を集束させた粒子砲が炸裂! ディードバウアーの土手っ腹に大きな穴を穿ったのじゃ!
しかし、多少仰け反りはしたものの、ディードバウアーの奴はなに食わぬ顔で立ち上がり、あっという間にその風穴を再生し、塞いでしまう。
「おそらくこれは……取り込んだ『黒水晶』の力によるところが大きいのだろう。それをなんとか破壊出来れば……」
幾度傷を負わせようとも、その都度、超再生能力で傷を塞がれて振り出しに戻されるこの現状に、普段冷静なドガすらもが毒づく。しかし、アイギスの奴は更に戦況を見極めておるようじゃな。ディードバウアーの驚異的なあの再生能力は、巨大な『黒水晶』を取り込んだ故のものであると断じ、それを何とかして取り除き、破壊せねば埒が明かぬと見切りを付けた。
「きっつ~……ぶっちゃけそのためには火力が足りないじゃん、アイギっち!?」
「グルルアァァーッ!!」
『ぬぅぅーんっ!!』「『神の護り手』展開! ゼオン! サポートを頼む!」
「応よ破られた時の穴埋めは任せろ!!」
ガギィィッ!! ガゴォッ!! ガギィンガギィンッ!!
「んっ!? 猛攻……激しい! 耐えてユグライア、アイギス、ゼオン! あたしもサポートする! 多重防壁!」
「っ! 『攻撃役』行きますよ! 『盾役』の負担を減らします! 穿て、ティレーネ!」
「了解ですアルティレーネ様! 撃ち抜いて! セイクリッドブラスター!!」
「応よ! 食らうがよいぞディードバウアー!! 儂の渾身の一撃ぃぃーっ!」
『リーネリュールリア! 出力上げて! 放てぇぇーっ!!』
『何度だって斬り刻んでやるぜ! 行くぞルーネフォレスター!!』
確かに、今まで『黒水晶』を取り込んだ敵は強大な力を有するに至っておった。そして、敗れる際にはそのほとんどがやはり『黒水晶』を砕かれて散って行った。それならばディードバウアーとて同じことの筈。
しかしじゃ、奴の攻撃は激しく、ユグライアの駆るセリアルティレーヴェと、アイギスが中心となり、『神の護り手』及び、ゼオンと次女の防御魔法の多重掛けで、ギリギリ耐えられると行ったところじゃ。
長女に続き、『攻撃役』たる者達、リール、ドガ、リュール、フォレストが負けじと攻撃を仕掛けるが……
「駄目だ! やっぱり『黒水晶』を穿てない!」
三女がアイギスに訴えたようにやはり火力不足。皆の攻撃はディードバウアーを大きく傷付けるも、要の『黒水晶』を穿つには至らぬようで、またもその傷が再生されていこうとしておる!
「なんのぉぉーっ! 私達を忘れてもらっちゃ困りますよぉーっ!?」
「フォレアルーネもさっきからぴーちくぱーちく騒いでないで、私達に続きなさい!」
「セルフィ姉、フィーナ姉!? わ、わかったよ! おりゃあぁぁぁーっ!!」
じゃが、その再生の途中! 主神の義姉妹達も三女を叱り付けつつ、攻撃を追加する!
『弓神』の放つ矢にあのメイド服と三女の力が重なり、一条の光となる! むぅ! こりゃ凄まじいわい! かつて魔神との戦いでナーゼが己の総てを賭けた一矢……『生命を賭けた一矢』に勝るとも劣らぬものじゃ!
ズゴォォォォォーッッン!!!
「グギャアァァオオォォォォーッッ!!!」
「っしゃぁ! 入った! 直撃だよ!!」
貫いた! ディードバウアーの胴を真正面から真一文字に貫通じゃ! これならば!!
「……う、ウソでしょう?」「馬鹿なっ!?」
「ガルアァァッ!」
カッ!! ズドォォンッ!!
「うっがぁぁぁーっ!?」
ゼオーンっ!!
な、なんじゃと!? 奴は、ディードバウアーは化け物か!?
あの凄まじい攻撃にも耐えおったばかりか、反撃とばかりにゼオンの奴を吹き飛ばしおった!
「呆けている場合ではありません! フォーネ! レウィリリーネ! 早く彼を回復なさい!」
「そうだ! 来てくれドガ! 急いで体制を立て直す!」
了解っ!!
呆気にとられた面々も『弓神』とアイギスの声に、はっと我にかえる。くぅ……! まだか!? 儂の進化はまだ終わらぬのか!?
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【陽光の導き】~『白野威』~《リンview》
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「ぐっ! 痛ぇぇーっ! やりやがったなこの犬畜生がっ!?」
「ゼオン!? ああ、なんてこと! 貴方……足が!」
「ゼオンさん! 大変! 片足吹き飛んじゃったじゃない!? 私『部位復元』なんて使えないよ!?」
なんということだ!? 余が進化の途中。ディードバウアーの攻撃でゼオンが爆破されたではないか!?
ゼオンは咄嗟に飛び退いたようだが、完全に回避できず片足を失ってしまった! レウィリリーネとフォーネが駆け寄り回復を施そうとするも、失ってしまった足を治す事はできぬようで狼狽えている。
「大したことねぇ! 後でアリサの嬢ちゃんに治してもらう!
アイギスだって『氾濫』の時にゃあ片腕なくしてんだからな!
聞けぇぇーっ! 皆! ここが正念場だぜぇぇーっ!? 気張らなきゃならねぇだろーが! 俺達が背負ってるもんを思い出せ!!」
「「「ゼオン!!」」」
おお! なんたる豪気! 片足を失いながらも『飛行魔法』で飛び上がり、セリアルティレーヴェの肩に舞い戻るゼオンが叫ぶ!
『よくぞ言うた! それでこそ余の子孫! アルティレーネ様! 此度は以前のように我等を逃したりせぬよう願いますぞ?』
『応よ! この戦ぁーっ! 俺達全員で勝利するぜぇーっ!』
『よぉぉーしっ! 私もやるよぉぉーっ!』
うおおおぉぉぉーっ!!!
見事! 見事なり!! 受けたダメージよりも更に大きな指揮高揚を促したではないか! その皆の気概! 余はしかと受け止めた!
アリサ様に示された余の進化先。機は満ちた! 皆の昂るその意志に応じずしてなにが女神の『懐刀』か! さあ、今こそ目覚めの時!!
「ガァッ!?」
「なになに! 一体どーしたっての!? ディードバウアーがそっぽ向いて……リンっ!?」
気付いたかディードバウアー? 余のこの吹き荒ぶ大いなる力に!?
「ジャデーク! ネハグラ! 奴がリン様に狙いを定めた! お守りするぞ!!」
「了解です!!」「任せて下さい隊長!」
ガルアァァッ!! と余に向かい先ほどゼオンを吹き飛ばした魔法を放ってくるディードバウアーだが……
「それはさっき見せてもらったぁーっ!」
「俺達兄弟に同じ技は通じない!」
バゴォォォーンッッ!!
その魔法は余に届くどころか、余を守るように立ち塞がるジャデークとネハグラの兄弟によって、あらぬ方向へと狙いが逸らされ、無駄に終わる!
「……うむ。見事であるジャデーク、ネハグラ。余を守護する大任。よくぞ果たした……大義である!」
「勿体なきお言葉です、リン様!!」「進化の成就。心よりお慶び申し上げます!!」
ウオオォォォォォォーッッ!!!!
目覚めの咆哮。嗚呼、なんと心地好い……
「「リン殿!!」」「「リーンっ!!」」
『うおっほぅ♪ こいつはすげぇ!』『やっとお目覚め~? リンちゃん遅いーっ!』
ワァァーッ!! 余の進化成就に皆の高揚した士気が更に高まり、大いなる気概が立ち昇る!
待たせてしまったな皆! 余は『神狼フェンリル』改め、『白野威』!
この地に渦巻く暗雲を払い、野に余の白き威光を示さん!!
「見よ! ロアなどと言う小者に利用されし憐れなる魔王ディードバウアーよ!
これがアリサ様の導きにより、余が得た新たな力だ!!」
ウオオォォーンッッ!! 天に向け余は大いなる咆哮一つ! 皆の昂る気概を神風に変え、渦巻く魔素霧を吹き飛ばす!!
「ガアァァッ!?」
「むおぉーっ!? こりゃ凄まじい神気じゃ! 見よ皆! 霧が消しとんでお天道様が顔を出して下さったぞい!」
「おおっ! 身体から力が溢れる! まるでアリサ様の『聖なる祝福』のようだ!」
吠えるディードバウアーを一瞥し、余はこの新たな権能『陽光の導き』を発動させる! ドガとアイギスが驚いたように、この権能は正にアリサ様の『聖なる祝福』と同等の効果を皆にもたらす!
「っしゃぁ! ありがてぇぜリン様! これでまだまだ戦える!」
「うむ! 往くぞ戦士達! この戦いに勝利し未来を掴もうぞ!!」
おおおぉぉぉぉーっ!!!
余の『陽光の導き』を受け、皆は陽炎をオーラとして纏い、再びディードバウアーへと立ち向かって行く! 如何に強大な魔王であろうと余達は決して諦めぬ! さあ、行くぞ!
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【攻撃力皆無】~防御力絶大~《フェリアview》
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「でやあぁぁぁーっ!!」「うおおぉぉーっ!!」
ビュオォンッ!! ブォンブォンッ!!
「甘いわ馬鹿者!」
シュパンッ! ビシィッ!!
「うおわっ!?」「ぐふぅっ!?」
「身構えている相手にそんな大振りな攻撃が当たるわけないだろう!? 素人丸出しの攻撃は控えろ!」
ある日の『無限円環』での訓練のことだ。
私はジャデークとネハグラの兄弟を相手に訓練に明け暮れていたのだが、この二人……戦闘に関してはずぶの素人である。今も私を仮想敵として二人がかりで立ち向かわせて見たのだが、てんでお話にならない。
ただ、持った剣を大振りに振り回すだけ。技術や体捌きと言ったもの以前の問題だ。
「す、済みませんフェリアさん……」「俺達、こういった争い事とはホント無縁だったもので……」
「うぅむ、確かお前達は冒険者ギルドの職員だったのだな? それならば無理もないかもしれないが……それ以前に、なんだか、こう……」
「相手を傷付けるって行為に忌避感を感じてるように見えるわね~?」
はっ! アリサ様! ご覧頂いておられたのですね!? ありがとうございます!
打ち合いを止めて、私が二人の兄弟に感じた事を上手く言葉にできずにいると、いつの間にかアリサ様がお側に来られ、そうご指摘を下さった。
忌避感。そう、この兄弟は人を傷付けるどころか、人に武器を向けることにも躊躇いが見られるのだ。
「フェリアは相変わらず真面目だね。うん、いつも頑張っててエライよ♪」
「はうっ!? ありがとうございます! その、お褒め頂き、う、嬉しいです」
ああ! なんたる至福! 敬愛申し上げるアリサ様にお褒めの言葉を授かったばかりか、優しく頭を撫でて頂けるとは! 感無量とはこのことだ!
「ジャデーク、ネハグラ?」
「「は、はい! アリサ様!」」
そうしてアリサ様は二人の兄弟に顔を向け、問うた。
「今まで荒事とは無縁の一般人だったんだから、武器を手にして攻撃~ってのが怖くて恐ろしいって気持ちはわかるし、その気持ちはとっても大事だって私も思うよ?」
……ふむ。確かに闇雲に人を傷付けるのは論外だが、そうも怖れる事だろうか? 剣を向ける相手を間違いさえしなければ……ああ、いや。彼等は一般人なのだ。私達とは考えなんかが根底から違うのか。
「だったら無理に相手をやっつけようとかしないでさ、人を守る事に念頭置いて見たらいいんじゃないかな? ほら、他のみんなは血の気の多いのばっかじゃん♪」
ねーフェリア~? って、そ、そんな……私はそこまで乱暴者じゃありませんよ、アリサ様!?
「あはは♪ ごめんごめん! でもそういった攻撃面が得意な人は沢山いるんだし、無理に自分達も~なんてしなくていいと思うよ? 任せちゃお! 代わりに貴方達は彼等の事をなにがなんでも守る! みたいな感じにやってくのはどうよ?」
「守るために……」「おお、それなら!」
それはまただいぶ思い切った試みですね。でも……うん。そうだな。今までろくに武器を振るった事もない素人がたがだが一年、修練に励んだとてそう伸びはしまい。それならばいっそのこと攻撃を捨て、徹底的に守りを固める、防御特化型を目指すのは間違いではないな。
「流石のご慧眼です、アリサ様! このフェリア。感服致しました!」
「大袈裟だってばよ? で、どう? ジャデーク、ネハグラ? それならやれそうかな?」
「はい! 傷付けるためではなく……」「皆さんを守るための力なら!」
──そして今。
バルオォォォーッ!! ズドォォォーンッ!!
「なんのぉぉーっ! シドウ様を傷付けさせはしない!!」
「我等に仇なす脅威を防げ! 『可変大盾』!!」
リン様が進化を果たし、ディードバウアーとの戦いが一層激しいものとなった。その余波もまた凄まじく、今も進化の途中であるシドウ様をお守りする私達のところまで衝撃波や流れ弾といったものが飛んでくる!
油断すると吹き飛ばされてしまいそうなその余波に、ジャデークとネハグラが強力な防壁。『可変大盾』を展開してくれたおかげで、なんとか踏み留まっていられる。
『可変大盾』とはその名の通り、迫る攻撃を防ぐのに、都度その姿を最適な形に変形して防ぐという、アリサ様発案の防御魔法だ。その魔法を習得したこの兄弟は、『無限円環』で行われた模擬戦においても活躍し、そのあまりの守りの固さから「敵に回したくない相手」に数えられる程にまで成長したのだ!
『聖域』の並みいる屈強な戦士達による、ありとあらゆる攻撃を日々その身で受け止め、皆の助力により防げるようになって、そして遂には……
「ガアアァァァァーッッ!!!」
「危ない!! フェリア殿! ジャデーク! ネハグラ!! ディードバウアーが君達に狙いをっ!!」
アイギス達に攻撃を集中させていたディードバウアーが、突如としてこちらにその矛先を向けて来た! アイギスが私達に注意を促す!
シドウ様の進化を警戒しているのだろう。ディードバウアーは一気に魔素を収束! 神気へと昇華させて私達に向けて特大のブレス攻撃を放って来た!!
「やるぞネハグラ!!」「わかってる兄さん!!」
ゴオォォォーッッ!! と迫るディードバウアーの破壊の力が内包されたブレスが私達に差し迫る! そこに飛び出す兄弟!
「「『合成魔法』……『空間歪曲領域』!!」」
ディードバウアーが放つ極大の破壊のブレスは、二人の『合成魔法』によって完全に打ち消されるのであった!
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【ロアを追い詰めたら】~邪竜出てきた!~《アリスview》
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『さーて……そろそろ拘束させてもらうわよ、ロア!?』
『ぐあぁぁっ!! おのれっ!』
パキィィーンッ!! そんな甲高い音がモニターから聞こえ、ティリア様の手によって総ての元凶である『技工神ロア』は封じられました。
あのむっつりんさんの故郷『ランバード』を覆った時と同等。ティリア様の結界『次元牢獄』の中に。
『まったく……散々手を焼かせてくれたわね? ただで済むと思わないでよあんた?』
『……くっ! 無念だ……だが、このままで終わると思ったら大きな間違いである』
アリスのマスターのご活躍で、創造した世界からの魔力供給を断たれたロアには『無限魔力』で編み上げられたティリア様の『次元牢獄』を解くことは不可能でっす。
この『聖域』から見守っていたアリス達の誰もが「勝負あった」と確信しましたが……ロアは最初こそ悔しそうに歯噛みしたものの、直ぐに不敵な笑いをこぼしまっする。
「なんだと? この期に及んでまだ何かあるというのか?」
「おい! みんな油断すんな! なんだか嫌な予感がビンビンするぜ!!」
『黒狼』のバルドさんとセラさんがロアの不穏な発言を聞いた直後身構えまっした。アリスもなんだか背筋を走る妙な悪寒を感じ、警戒しまっす! なんでっすか!? この嫌な気配は!
『あんた! ディードバウアー以外にもなんかやらかしたの!?』
『ククク……吾輩の百八十三の世界が何故滅びたのか? 汝等は吾輩の実験の果てに滅んだと思っているようだが……』
ゴゴゴゴゴッッ!!
うぇぇっ!? なんちゅう大気の鳴動でっすか!? こりゃヤバい感じがしまっすよぉーっ!
『真実はそうではない! 見るがいい! 吾輩を追ってこの世界にやってくる……』
『なに? 何を言ってるのよ! ロア!?』
うああっ! ちょい! マジでっすか!? なんだかとてつもない巨大な何かが次元を飛び越えてここにやってくる!
「いかん! ヴィクトリア様! アルナ様! ガルディング殿! 皆の避難を急がれませいっ!!」
「了解したわバルガスさん! アルナ、手分けして皆を『無限円環』に誘導しましょう!」
「はいヴィクトリア! 未だ意識を失っている『亜人』達を最優先に!」
「リリカ! 妖精の皆さんと我が家の使用人部隊を指揮して女神様のお手伝いを!」
「畏まりました奥様。お任せくださいませ」
《うおおぉっ!? 来るぞ強大な気配が! 『ガルーダナンバーズ』戦闘態勢を取れ!》
「不味い! カインくん! 僕達はゆかりさんを守るぞ!」
「はいレジーナさん!」
バババッ!! 『聖域』を震わせるこの異常事態に皆が皆動き出しまっする! 『待ち望んだ永遠』すらも無視して、この『聖域』のど真ん中に何かとんでもないモノが転移してきまっす!
『吾輩を疎ましく思った『竜神』が差し向けた刺客……『世界樹喰らう邪竜』である!!』
ガアアァァァァーッッ!!!
ビリビリビリビリィィィーッッ!!
うっげ! 鼓膜が破れそうでっす! 凄まじい咆哮を挙げて、次元の壁をぶち破りこの『聖域』に姿を現したのは巨大な竜!
「うわっ! こいつは、こいつはヤベェ!! 『死の悟り』がビンビン反応してやがる!」
「わ、わわわっ! ワタシ、死ぬ! 死んじゃうーっ!」
「ブレイドくん! ミュンルーカさん! 落ち着いて! 冷静さを欠いたらそれこそ命はありませんよ!?」
「なんてこと! 『世界樹喰らう邪竜』がこの世界に現れるなんて!!」
かぁーっ!? なんちゅう禍々しい姿の竜でっしゃろい!?
紅蓮に染まる眼光は恐ろしいくらい獰猛で、全身を覆う鱗は黒紫色で怪しい光沢を帯びて、そのひとつひとつが鋭利な剣の如し!
長い尾先はまるで巨大な槍のようで、竜種において比較的薄いと言われる翼の皮膜も分厚そうな鱗がびっしりでっす!
そして、何よりも全身に感じるこの圧倒されるような紫煙のオーラ! どす黒い神気!!
ブレイドくんとみゅんみゅんが震え上がるのも無理ねぇーでっす! アリスもこの想定外の事態にちょっとちびっちゃいそうでっすよぉ~? まぁ、アリス達『聖霊』はそんなもん出す必要ないんで出ませんけども……だけど、ネヴュラんの言う通り、飲まれたらおしまいでっすからね! 気合いいれまっしょい!
「いけない! みなさんお姉ちゃんを! 『世界樹』を守って下さい!
その竜は『世界樹喰らう邪竜』! その名の通り、『世界樹』を餌に強大な力を得るに至った私達神の敵なのです!」
なんだってぇぇぇーっ!!?
ちょいアルナしゃん! それってマでっす!? だとしたら超ヤベーじゃあないでっしゃろか!?
アルナしゃんの大声にアリス達はこの状況のヤバさを改めて実感して、同時にめっちゃびっくらこいちゃいまっした! あのロアとか言うアホンダラはなんちゅーもん連れてきやがりまっしたかぁぁーっ!?
『ふざけんじゃないわよあんた!』
『ぐぼぉぉーっ!?』
ドゴォォーンッ!!
ドガンドガンドガンッ!! 『次元牢獄』内のロアを怒りの神気でぶん殴るティリア様。結界内でピンボールみたいに跳ねるロア! いやもう、マジでふざけんじゃねぇでっすよぉ!!
『ふん。文句なら『竜神』に言うのだな! あやつめ、吾輩の実験が余程気に入らぬようで、刺客としてあの邪竜を差し向けて来たのだぞ? 己の手に負えぬ暴れ竜を体良く厄介払いしたのだろうがな!?』
『あぁぁぁーっ!! もぉぉぉーっ!? これだからあんた達『旧神』共はぁぁーっ!!』
モニターからティリア様とロアのしょーもないやり取りが聞こえてきて、こっちもげんなりしちゃいそーでっす! でもでも! この邪竜。よりによってユニちゃん先輩を食べようだなんて……ちょい! 許せねーのっでっす! 皆さんもビビってたのは最初だけ、今や全員この招かれざる客をぶっ飛ばそうって顔になっちょりまっすからね! やってやろーじゃねぇーでっすか!!
ヴィクトリア「……あの(・・;) この緊急時になんだけど二人とも?(^o^;)」
ガルディング「如何されましたかなヴィクトリア様?( -_・)」
セレスティーナ「何か気になる点でも?(・_・)」
ヴィクトリア「パルモーくんやラグナースが「敵に回したくない相手」とは聞いたのだけど(_ _) 他には誰が?(・о・)」
ガルディング「そうですな(´・∀・`) まずはそのお二人の他に、ジャデーク殿とネハグラ殿の兄弟でしょうな(^ー^)」
セレスティーナ「あのお二人が相手側にいると、大将を落とす事がとてつもなく困難になりまして……(;´д`)」
ヴィクトリア「ふむふむ(゜-゜) それだけ守りに特化しているのね?(*´∇`)」
ガルディング「別々の陣営となればそうでもないのですが、それでも守りは固いですなぁ(^_^;) その分攻撃力は皆無ですが(*゜∀゜)」
セレスティーナ「後は珠実様でございますね( ´ー`) 如何に良い作戦を考えても、次々と見抜かれてしまいまして(ーдー)」
ヴィクトリア「ああ( ̄▽ ̄;) 彼女は読心術が使えるからねぇ(´ヘ`;)」
ガルディング「それもありますが……(;´A`) 見目が幼子ですのでな(´・∀・`)」
セレスティーナ「とてもやりづらいお相手です(ーー;) そういう意味ですと、ブレイドくんやミストちゃんもそうなのですけれど(;´∀`)」
ヴィクトリア「あはは(*´艸`*) じゃあレウィリリーネなんかもそうだったんじゃない?(^ー^) 私もアルナやポコに剣を向けたくなんてないし♪(´▽`*)」
ガルディング「ふはは♪(*`▽´*) いやはや、実にその通りでございましたなぁ~(°▽°)」
アルナ「ヴィクトリアーっ!( `□´) 何をおしゃべりに興じているのですか!(≧Д≦) 早く皆さんを避難させなさーい!ι(`ロ´)ノ」
ヴィクトリア「あらら!Σ(゜ロ゜;) 怒られちゃった(゜ω゜;)」
セレスティーナ「急ぎましょうか!( ・`ω・´)」
ガルディング「うむ!( `_ゝ´) いざ『無限円環』へ!(`Д´)ノ」




