19話 魔女と冒険者達
誤字報告ありがとうございます! 修正しました。2023.3/22
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【早々に危機】~因縁~《アイギスview》
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「よし、上手いこと上陸できたな!」
「しかし、凄い岩山だな、サーサがいなくてはとても侵入は不可能じゃないか?」
「この断崖絶壁です、途中マジックポーションを飲むことになりますよ? その時は上手く岩肌にしがみついて下さいね?」
私達は今、『魔の大地』こと、『聖域』の東端に上陸していた。わずかな浜辺があったのは幸いではあったのだが、今度は高く聳える岩山に行く手を阻まれているのだ。だが、ここで頼りになるのが魔法使いのサーサだ。
「浮遊補助の魔法ね、ホント、サーサがいてくれて助かるわ!」
「済まんのぅ! 儂等はどうも魔法は苦手での!」
サーサの浮遊補助。この魔法は対象の身を極端に軽くさせ、まるで中空に浮き上がるかのような効果をもたらしてくれると言うものだ。ただ、人数分かけるため魔力の消費も激しく、岩山を登る途中で魔力切れになる。その為、サーサにはいつもより多くマジックポーションを持たせているのだ。
「はぁぁ~仕方ないとは言え……このポーション、苦いんですよねぇ……」
しおしお~と、項垂れるサーサ。わかるぞ、普段使いの通常ポーションも酷く苦いからな。多少の怪我なら塗り薬で治るのを待つ方がまだ良いと思えるくらいだしな。申し訳ないとは思うが今は我慢してもらうしかあるまい。
「まぁ、街に戻ったら美味いモン食おうぜ!」
「ゼルワの奢りですね! 頑張ります!」
「えっ!? おいっ奢りだなんて言ってねぇ!!」
「あらぁ~嬉しいわゼルワ♪ ダーリンと一緒に参加するわね!」
「ふははっ! 奢りじゃ奢りじゃ! ガッツリ呑むとしようかの!!」
「ふっ、済まないなゼルワ。馳走になるよ」
お前等ふざけんなーっ!! と、ゼルワが叫び皆が笑う。よし、いいぞ……誰も気負っていない。この岩山を越えた先に何が待っているのかわからないが、私達はいつも通りの自然体で臨むのだ。
「では、いきますよ? 風よ我等を運べ、この身に集いて友たらん! 浮遊補助!」
予定通り、私達はサーサの浮遊補助のおかげでスイスイと岩山を登る事ができた、下から見上げれば断崖絶壁に見えたが、登ってみれば結構凹凸があり、十分に足を休める事も可能だった。サーサの魔力切れを機に少々休み、また登るを繰り返す。
「おぉぉっ! これは見事な!」
「すげぇ~こんな肥沃な島だったのかよ?」
「みんな見て! 世界樹があんなにはっきりと見えるわ!」
ついに岩山を登りきった私達。山頂から望む『聖域』の景色はそれは見事なものだった。美しく澄み渡る空に陽光を天露に反射させる世界樹を中央に、肥沃な大地が広がり川のせせらぎが聞こえ、その水面はまるで透き通ったガラスのようである。草木はのびのびと生い茂り、花々はその色取り取りの色彩を咲き誇らせている。
「素晴らしいです……私達のエルフの里など比べ物になりませんね」
「うぅむ……これはもう『魔の大地』等と呼べんな、バチが当たりそうじゃわい」
私達はその絶景に暫し酔いしれ時を忘れそうになる。
「っと、皆。気持ちはわかるがこうして立ち止まってはいられない。まずは降りよう」
「あ、そうよね! いやぁ~見惚れちゃったわぁ~♪」
「……次はゼルワと二人でこの景色を見たいですね」
「だな……今度は二人で来ような、サーサ」
「お主等、いちゃついとらんでこれからどうするかを考えんかい……」
私もあの夢の君とこの見事な景色を眺めたいな……ふふ、困ったものだ、すっかり夢の君に虜にされてしまったようだ。
「この下は結構深い森林が拡がっていますね、降りるのはいいですが、何処を目指します?」
「神々の雫の手掛かりがありそうなのは、やはり世界樹かのう?」
未開の地を最初から踏破するのは難しい、しかし拠点もない状況では、悠長にしてはいられない。持ち込んだ食料や備品を考えれば精々七日が限界だろう。
「懐事情から見て、ここにいられるのは六日か七日ってとこだぜアイギス?」
「あぁ……私も同じことを考えていた、危険かもしれないが世界樹を目指そうと思う。皆、それでいいか?」
「構わないわ、まぁ、あてもないことだしね」
「グワーッグワッ!!」「グワグワーッ!」
「なんだぁ!? 気配感じなかったぜ!?」
目的地が決まったと思った矢先、上空から魔物が襲来してきた! その数は二頭、一見鳥のようなトカゲのような見た目の飛行生物だ。今まで数多くの魔物を目にしてきた私だが、この魔物は初めてだ。
「ヤベェぞ! イヤな予感がビンビンしやがる!」
「気を付けるのじゃ! たった二頭でも儂等を狩れると判断されたようじゃ!」
「舐められたモノね! 落ちなさい!」
皆が素早く臨戦態勢を取り、レイリーアの魔弓が唸る!
レイリーアの魔弓閃弓はなんと矢を必要としないレアな魔装具だ、この武器のお陰で彼女は矢を切らす事なく戦える!
「必中! ブレイジングアロー!」
ガガガガッ!!
「グワーワグワーワッ!」
「ウソッ! 嘴で受け止めた!?」
レイリーアの必中の矢をこの魔物は避けようともせず、素早い身のこなしで迫る矢を全て、その大きな嘴で挟み無効化させてしまう、なんて奴等だ! 間違いなくSランク並の強さだ!
「いけません! レイリーア避けて!!」
「させんぞっ!」
もう一体がレイリーアに体当たりを刊行するつもりなのか、高速で突っ込んでいる! 咄嗟にドガが戦斧を盾に割って入る!
ドゴオォォーッ!!
「ぬぐああぁーっ!?」「きゃあぁーっ!!」
「ドガ! レイリーア! いかん! サーサ、浮遊補助だ急げ!」
「はいっ!」
力まで凄まじい! ドガとレイリーアをまとめて吹き飛ばし岩山から、深い森林へと落とすとは! 慌ててサーサに指示を出し、今の状況が不利だと判断。
「私達も降りて戦うぞ! ここは足場が危険すぎる!」
「了解!」
岩山から即座に降りて森林に着地する、浮遊補助のお陰で駆け降りる事ができたのは幸いだな。ドガとレイリーアもなんとか無事だ、私達は合流を果たし先の魔物に向かい合う!
「樹木の密集したこの場所なら、お得意の速度も出せないでしょう? 今度はこちらの番ですよ! 風よ、我が敵を打つ鉄槌となれ! 風の大槌!」
ドゴオォーンッッ!!
サーサの風の大槌が魔物を捉えた、直撃だ! しかしっ!
「そんな!? 効いていない!?」
「サーサ危ねぇっ!」
ビュオオォッ! と、風切り音を伴い魔物の一頭が驚愕するサーサに迫るが、間一髪、ゼルワが抱き抱え難を逃れる。この魔物……予想以上に強い!
「ガオオオォォーッッ!!!」
「何だっ!?」
戦闘の騒ぎに駆け付けたのだろうか? 凄まじい咆哮が前方から聞こえてきた、まずい……初見の魔物二頭を相手にしている最中に横槍が入るのは危険すぎる!
「アイギス! ヤバイわよ! この二頭だけでもキツイのに他の魔物が来られたらたまんないわ!!」
「撤退だ! 飛行する魔物を牽制しつつ、この場から離れるぞ!!」
少しでも離れ、別個に相手をしなくては! 私は即座にそう判断し指示を出したのだが、咆哮をあげた主の方が一足速くこの場に現れてしまった、それも……
「ウソだろ……よりによって番かよ……」
「ホーンライガー……どうやら私はこの魔物と随分縁があるらしい!」
「お主、一度厄払いでもしてもらった方がええぞ?」
「やるしか、ありませんね……」
「参ったわね、のっけから全力出さないといけないなんて!」
グルルル……と唸る二頭のホーンライガー、上空には木々の隙間から狙う二頭の飛行する魔物。
『聖域』到着直後。早々に私達は危機に陥っていた。
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【魔女さん冒険者を拉致る】~遂に合流~《アリサview》
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げんちゃんの報告を受けて、私はミニマップを改善する。敵でも味方でもない「不明」な反応を黄色マークで示すようにするのだ。すると東の端、丁度岩山辺りに五個の黄色い反応が見つかった。
「五人の侵入者だね、会議で話してた冒険者達が早速やって来たのかな?」
「あれま、随分と早い到着ね……外から様子でも伺ってたのかしら?」
私は手早く髪を整え魔女服に着替えて、アリアを箒に変える。
「もしかしたら早速『聖域』の魔物に襲われてたりしてね~!」
「ん、可能性は高い」
「アリサお姉さま、お気を付けて」
妹達に様子を見てくると伝えて、アリアに腰掛け上空に飛び上がる。侵入者達を引き寄せで引き寄せるって事も考えたけど、悪者かもしれない相手を近くに呼びたくない。
「取り敢えず、青龍と合流してからどんな奴等か観察しますかね。転移」
ファンタジー定番の転移魔法で青龍の飛ぶやや前方、青龍から見て少し斜め前に転移する。
「うおぉ!? アリサ殿!? 驚いたぞ!」
「おはよう青龍。驚かせてごめんね! げんちゃんから話を聞いてさ」
突然現れた私にビックリする青龍に一言ごめんなさいして、一緒に向かう。勿論ドローンを先行させる事も忘れずに。
「あ、うむ……おはようアリサ殿。やれやれ、朝からアリサ殿のお手を煩わせてしまい申し訳ない」
「ううん、大丈夫だよ。それより……こんな直ぐに侵入者が来るなんてね」
「それなのだが、どうも此度の侵入者に、なにやら懐かしい感じがするのだ」
懐かしい? なんだべ?
「遠い昔に感じた……そうだな、魂の波長とでも言えばよいか……それを此度の侵入者に感じたのだ」
「ほほう~? よくわかんないけど、実際に姿見れば……そろそろドローンが到着するから映像通信出すね」
青龍が懐かしいって感じるくらいだし、悪い奴等じゃないのかな? 確かに悪意は感じないけど、なんか必死さが伝わってくるね。もしかして魔物と戦ってるのかも。
「お、見えた見えた……あのずんぐりむっくりの斧髭はもしかしてドワーフ?」
「おぉ……こやつ等。こやつ等は!!」
ドローンから送られてくる映像通信からは、二頭のプテランバードと、同じく二頭のホーンライガーと必死に戦っている五人の様子が見える。
「あの耳長い子達ってエルフ!? うおぉ~リアルに見ること出来るなんて!」
前世でのアニメやマンガでお馴染みのドワーフにエルフを生で見れて思わず興奮する私、あの褐色肌の弓使いも耳が長いから、ダークエルフかなぁ? そして馬鹿デカイ盾を持ったのは……
「えっ!? あれって! アーグラス!?」
「うむ! 間違いない、こやつ等はかつての勇者達だ!」
ビックリだ! 最初の侵入者がアーグラス達とは、って……今は違う名前かな? 確か記憶も失ってるって言ってたしね。それより、見てて思ったけど大分苦戦してるみたい。
ホーンライガーの攻撃をアーグラス(仮)がその大盾で受け止めて、ドワーフが攻撃しようとするけど、もう一頭に邪魔されて思うように攻撃出来ないみたい。エルフっぽい青年と女の子にダークエルフはプテランバードのヒットアンドウェイの攻撃を捌きつつ、反撃してるけど威力が弱くて有効打が入らないようだ。
「……えぇ~? 勇者達にしては思った程じゃないって言うか、その……ぶっちゃけ、弱くない?」
「仕方あるまい、かつての勇者達とは違って女神の加護を受けておらんのだから。寧ろそれ無しにあそこまで渡り合えるのだから大したものであるぞ?」
う……そっか、今まで魔神の残滓とか凄いのと普通に戦っていたけど、戦えていたけど。それは妹達が加護を与えてくれたお陰であって、それがない素の私だったら一瞬で御陀仏だったろう。いけないいけない……借り物の力で粋がるなんて駄目だね、反省だ。
「助けに入って大丈夫かな? 冒険者って獲物を横取りされると怒るんでしょ?」
「ふふふ、なんだアリサ殿? 細かい事を気にするではないか。何の問題もあるまい、こやつ等は侵入者なのだからな」
いやぁ~確かにそうなんだけども……まぁ、いいか。
「もし文句を言うような連中なら我が一喝してくれようぞ」
「あはは、そりゃ頼もしいよ♪ って、あ、ヤバそうだね?」
青龍と一緒に五人の戦いぶりを観察しながら移動してたけど、ここにきてアーグラス(仮)の防御が崩された。なかなか攻撃が通らないのはホーンライガーも同じだったみたいで、しびれを切らしたんだろうね。二頭同時に攻撃して、彼の持つ大盾を吹き飛ばした。
「見ろアリサ殿! あの者、左腕を失っているぞ!!」
「ホントだ! 大盾で見えなかったけど……いやいやすんげぇ根性だね! よし、急いで助けに入るよ。短距離転移」
ガアァーッ!!
「しまったっ! みんな逃げろ!!」
「アイギス!!」
ー止まりなさいー
ビタァ!!
短距離転移で青龍と一緒に、侵入者達の上空に来た私達。見れば今まさにエルフの女の子と弓使いのダークエルフにホーンライガーの爪が突き刺さろうというところだった。
私は咄嗟に言葉に神気を込めた『言霊』を発し、その場にいる全員の動きを止めた。ボテンボテンッと飛んでたプテランバードも落っこちる。
「危なかった、間に合ったみたいだね」
「うむ、流石はアリサ殿だ。一声で皆の動きを封じるとはな」
「まぁ、ぶっつけ本番だったけど上手く行って良かったよ。じゃあ、青龍は上空で待機しててくれる?」
「心得た!」
青龍を上空に待機させて私はアリアを操作して、五人の前に降りて行く。動けないながらも五人は驚愕の目で私を見てくる、まぁ、身動き出来ないところに見ず知らずの人間がくればそりゃビビるよねぇ……近くで見てみれば結構傷を負っているようで、五人共に出血があるね。
「まずはコイツ等か、見境なく襲いかかるんだから……まったく」
ホーンライガーとプテランバードを見やり、一瞬どうするか考えたけど、五人は冒険者だし素材がほしいだろうから綺麗に仕止める事にする。鮮度保って保存するならやっぱり……
「冷凍保存」
パキーンッ!
凍らせて~ミーにゃんポーチにほいほーいっとね!
「「「「「!!!???」」」」」
魔物の群れをやっつけた私は、動けない五人に向き合って話し掛ける。大分混乱してるだろうからまだ『言霊』は解除しない。もうちょっと我慢してもらおう。
「さてと……あんた達も色々と聞きたいだろうけど、もうちょっと待ってね? これからみんなのとこに連れてくからさ。何度も同じ説明するのお互いに面倒でしょ?」
そう言うことだ、ここで細かく説明しても屋敷に戻ればみんなにまた説明しなきゃいけなくなるのでこのまま青龍と合流して屋敷に戻るのがベストって思うのよ。そう言うわけで、五人に浮遊をかけて浮かせ、一緒に上空に待つ青龍のところに戻る。
「おぉ、アリサ殿。相変わらず見事な手並みでしたな」
「「「「「!!??」」」」」
「いやはや、間に合ってよかったよ。この人達が倒されちゃった~なんて妹達が知ったら泣いちゃうだろうし」
「む? アリサ殿の妹とな?」
あー、その辺もちゃんと説明しないといけないねぇ。
「うん、丁度屋敷にみんな集まってるから、そこで説明するね。じゃあ、転移」
そうして青龍と五人の冒険者と一緒に屋敷の上空に転移する。いやぁ~便利だわぁ転移魔法。まぁ、空飛ぶのも楽しいから急ぎの時くらいにしか使わないと思うけど。
屋敷には既に昨日の面々が揃っており、庭で待機してくれているみたいだね、青龍が人型に姿を変え、私と一緒にゆっくりと降りる。
「アリサおねぇちゃん! お帰りなさい!」
「ただいま~ユニ~♪」
真っ先にユニが私に抱き付いてくるので、なでなでしてただいまする。
「おかり~アリサ姉♪ どうだったん?」
「あたし達の事はみんなに説明しておいたけど……」
「ふふっ、アリサお姉さまが正式に私達の義姉となった事を伝えたら、皆さん驚いていましたよ」
「おぉ、説明しておいてくれてありがとうね、こっちはお客さん連れて来たよ」
五人をゆっくり浮遊で地上に降ろして、『言霊』を解除する。さぁ、色々事情を聞きましょうかね?
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【騎士は魔女に恋をする】~驚愕~《アイギスview》
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夢の君だ!! 夢の君だ!! あぁ、まさか本当に会えるなんて思いもしなかった! 夢で見た服装とは違うが、あの顔は間違いない!! 嬉しい!
っと、失礼した。興奮のあまり我を忘れてしまった。
私達は番であろう二頭のホーンライガーと、飛行する二頭の魔物に囲まれ、まさに絶体絶命の危機に陥っていた。何とか活路を開こうとホーンライガーの猛攻に耐えていたのだが、ドガとの連携が二頭のホーンライガーの前に機能せず、ゼルワ、サーサ、レイリーア達は飛行する魔物に苦戦。
そうこうする間にドガが吹き飛ばされ、二頭のホーンライガーの凄まじい連続攻撃に私の守りが突破されてしまった!
「しまったっ! みんな逃げろ!!」
そう叫ぶも間に合わない! サーサとレイリーアにそれぞれホーンライガーの鋭い爪が突き刺さる!! そう思った瞬間だ。
ー止まりなさいー
その声が周囲に響いた。すると、私を含めその場に居合わせた全員の動きが言葉通りに止まったのだ、飛行する魔物も地面に落ちて来た。
(な、なんだ! う、動けない!!)
まるで絶対の命令のような、逆らうことを許さない強制力! その最中空から箒に腰掛けた彼女が降り立ったのだ。
目立つのはその帽子。大分ツバが広く三角形の頂点は折れ曲がり、先端に魔方陣を象った装飾がついている。巻かれた大きな白いリボン。そして一見すると魔法使いが好んで着用するようなローブのように見える衣装だが、よく見ればベストにミニスカートを上から羽織るコートで上手くコーディネートしている。腿まである靴下は確かニーソックスと言うのだったか? 腰に掛けている猫をモチーフにしたあれは小物入れだろうか? 履いている編み上げブーツの爪先が少し巻かれている。
(街では見たこともないファッションだが、彼女によく似合っている。そして、なんて美しいのだ……夢で見たそのままの顔に艶やかな黒髪、衣装も違うし、光の二対四翼もないが……間違いない!)
「冷凍保存」
なっ!!? 待て! なんだ今のは!? 夢の君が一言呟いたと思ったその直後、ホーンライガーと飛行する魔物が一瞬で凍りつき、信じられない事に彼女の小物入れに吸い込まれ姿を消した!
(な……何が起きたのだ!?)
「さてと……あんた達も色々と聞きたいだろうけど、もうちょっと待ってね? これからみんなのとこに連れてくからさ。何度も同じ説明するのお互いに面倒でしょ?」
突然の浮遊感に驚いた。サーサの浮遊補助とは違い私達の体が中に浮き上がる。そしてその先にいた巨大な龍にまた驚き、一瞬で移動する転移魔法に驚き……いやいや、一体何度驚けばよいのか?
「思った以上に早い再会になったわねアーグラス、それにみんなも」
ようやく体が動けるようになった私達だが、今度は別の意味で動けずにいた。夢の君に連れられ大きな屋敷の庭園……と言うにはあまり手が掛けられていないが、に集められ、一目で我々を凌駕する力を持つ者達とわかる、人と魔物? に取り囲まれているのだ。
「あ、いえ……私はアーグラスではなく、アイギスと言うのですが、貴女は……いえ、貴女方は一体……?」
「あれ? ちょっと~アリサ姉さん、コイツ私見ても何の反応もしないんだけど~?」
「洗濯機にかけられたからでしょー? 取り敢えず、質問攻めにしちゃ可哀想だし……あんた達から聞きたいこと聞いてもらえる?」
夢の君と瓜二つの白銀の髪の女性が、私達によくわからない事を言い出し、私が答えると何故か不貞腐れてしまった。いや、それよりもだ! 夢の君の名前が判明した!
「アリサ……様? で、よ、よろしいのだろうか?」
あぁ、情けない……夢の君の名を口にするだけで緊張に震える、顔が熱い、赤面していないだろうか?
「うん、そうよ♪ そうね、まずは自己紹介から始めましょう。私はアリサ、『聖域の魔女』よ、よろしくねアイギス」
名を呼ばれた! 歓喜が胸の内から込み上げて来る……いかん、落ち着かねば!
「わ! 私は! いえ、私達は冒険者で、『セリアベール』と言う街で、その!」
「ぷっ! あはは♪ 落ち着いてよ? 何も取って食おうって訳じゃないんだし」
は、恥ずかしい!! 少しも落ち着けていないではないか!? だが、私の不様っぷりが功を奏したのか、集まった皆に明るい笑いが満ちる。見ればサーサ、ドガ、ゼルワにレイリーアまでも笑っているではないか。
「ふふっ! アイギスのこんな顔が見れるなんてね!」
「わははっ! まったくじゃ珍しいわい!」
「えぇ、本当に。街の女性に言い寄られても動じないアイギスでしたのにね」
「ははっ! なんなら俺が代わりに説明してやるぜ? アイギス」
し、仕方ないだろう!? 夢に見た愛しい女性が目の前にいるのだぞ!? 緊張しないわけがない。そしてゼルワの提案は却下だ、夢の君、アリサ様と会話できる好機なのだ。絶対譲らん!
「大丈夫だ、申し訳ないアリサ様。お見苦しいところを見せてしまいました」
「ううん、良い仲間達だね。緊張も解けたんじゃない?」
あぁ……なんと愛らしい微笑みだろうか、ますます彼女に惹かれていく自分を自覚する。
「改めて、私はアイギス。この『聖域』より南に位置する『セリアベール』と言う街を拠点に活動している冒険者です」
アリサ様に素性を説明し、パーティーメンバーに顔を向け紹介に入る。
「Sランクパーティー『白銀』のリーダーを務めさせてもらっている騎士です、そして……」
「初めまして、『白銀』メンバーの魔法使い、エルフのサーサです」
「同じく、戦士のドガじゃ! 見ての通りのドワーフじゃ!」
「俺はゼルワ、斥候でハーフエルフだ、よろしく!」
「レイリーアよ。ダークエルフね。パーティーでは弓士を担ってるわ」
皆が自己紹介を終えたのを見計らい、頷き合う。
「「「「「助けてくれてありがとう!」」」」」
アリサ様に向け揃って一礼。彼女が来てくれなければ私達は全滅していただろう、本当に感謝だ。そして次に目的を説明する。
「失った左腕を治すため、神々の雫を求め『聖域』を訪れました。ついで、ではありますが調査も兼ねて」
「ふぅん、アリサの読み通りって訳ね。流石アリサね!」
「だな! 流石姐御だぜ!」
「さすアリ~!」
「「「グーワグーワ♪」」」
見事な髪飾りをつけ、不思議な衣装を身に纏った赤髪の女性に、随分背丈の大きい髪が白と黒の二色の青年。茶髪の快活そうな少女がとても嬉しそうにはしゃぐと、後方に控えるグリフォン達も騒ぎ出した。正直異様な光景だ、少し焦る。
「はいはい、朱雀も白虎もあまりおだてないで。後フォレア、さすアリやめんさい」
「はーい♪」「あいよー!」
「え~、良いじゃんアリサ姉ぇ~」
「ぶー垂れないの! グリフォン共も騒がない!」
やんややんやと騒がしくも楽しそうなその光景に思わず笑みがこぼれそうになる、なんと穏やかな空気だろう。
「なぁ、アイギス。悪い連中じゃなさそうだな?」
「この方達にご協力頂ければ、もしかしたら……」
ゼルワとサーサが耳打ちしてくる、うむ、そうだな。是非とも友誼を結びたい。
「っと、ごめんね~? みんなもあんた達に会えてはしゃいじゃってさ。アイギスの腕なら私が治せるよ、折角だし神々の雫もわけてあげるね」
「おぉ! なんと有難い!」
「ウッソ! マジに神々の雫って存在してたの!?」
アリサ様が騒ぐ皆を窘めつつ、朗報をもたらしてくれた! 腕を治して頂ける上に神々の雫までもお与え下さると言うのだ! これには驚きを隠せない、いや、今までも隠せていないが。レイリーアは神々の雫が実在していたことに驚いているな、お伽噺の存在だと思っていたのだから無理もない。
「待って。アリサ姉さん奮発しすぎよ?」
「そうですね、アリサお姉さまの懐の深さは理解しますが安売りしてはいけません」
「ん、相応の対価はもらうべき」
「アリサ姉~いくらなんぼでも創れるからって、神々の雫をポンポン広めちゃマズイって!」
アリサ様の御姉妹だろうか? 先程の白銀の髪のアリサ様と瓜二つの女性……双子なのだろうか? と、金髪が美しいドレスを纏う女性に、桃色の髪を左右二つに束ねる小柄な少女、そしてフォレアと呼ばれた少女が待ったをかけた。やはりそう簡単にはいかないか。
「大丈夫だよ? ちゃんと考えてるからね。安心したまへ妹達よ~それよかほら、挨拶挨拶♪」
「ホントに~? 神々の雫が実在するって知れ渡ったら苦労するのはアリサ姉さんなのよ?」
「だろうねぇ、まぁ、それ以外の薬も色々世に広めたいかなって思ってるけど……後で詳しく説明するよ。今回は特別に一つだけ処方して、対価には口止めってことにしよ?」
確かに神々の雫が実在するとわかれば、誰もが目の色を変えこぞって求めて来るかもしれない。
「皆、アリサ様方の心配は最もだ。絶対他言しないように。パーティー誓約をしよう! カードを出してくれ」
「オッケー! アリサ様達を敵に回すような馬鹿な真似しねぇよ!」
「了解じゃ!」
「わかったわ!」
「はい、勿論です」
私の言葉にパーティーメンバーが揃ってギルドカードを提示する。冒険者ギルドから、Sランクパーティーのみに与えられた特権、誓約を発動し、神々の雫の情報を他言しない旨をカードに刻む。
「あら、随分懐かしい魔法ですね。誓約ですか……昔ユグライアに教えましたよ」
「ん、これ……付与魔法だね。リュールに教えた事あった」
「おー、よく見ればも一つあるじゃん……「仲間を裏切らない」か、うん! 良いパーティーだね!」
ギルドカードに誓約で刻まれた内容を守り続けていれば、僅かではあるが、メンバーに強化効果が得られ、逆に破ってしまうと弱体化が掛かると言うペナルティが発生する。特権と言うより、オマケのようなものだな。フォレアと呼ばれた少女が読み上げた「仲間を裏切らない」は私達がSランクとして認められた暁に皆で誓ったものだ。あの時の思いは今も、そして、これからも変わらない。
余談だが、同じSランクである『黒狼』のバルドは結構悩んでいたが、弱体化のリスクの方が高いと判断して、この機能は利用していないらしい。
しかし、金髪の女性が言う「ユグライア」と桃色の髪の少女が言う「リュール」とは誰の事だろうか?
「え? ユグライアって……まさか『ユグライア・セリアルティ』ですか!? リュールは『リーネ・リュール』!!?」
「は? サーサ、なんだそれ?」
「お伽噺『魔神戦争』に登場する、創世の三女神の祝福を受けた三国のうちの二国じゃよ、ゼルワ」
「確かもう一つの国が『ルーネ・フォレスト』よね?」
ほう、そうなのか? サーサもドガもレイリーアもよく覚えているな、私は大まかな内容しか覚えていなかったよ。
「おー、懐かしいね! フォレストくんは良い子だったなぁ~♪」
「ユグライアも優しい子でした、決して魔神に屈しないと誓う強い心も持っていて、せめてものお礼に誓約を教えてあげたんですよ」
「ん、リュールは勤勉だった。あたしの教えを一生懸命覚えて守ってくれた」
……まるで子供を自慢する母親のように話に華を咲かせる三人だが、いや、待ってくれ……まさか、まさかこの三人は!?
「ほーら、昔話に盛り上がってないで自己紹介しなさいよ~?」
「あぁ、そうでした。ごめんなさい、私はアルティレーネ。『生誕』を司る創世の三柱の一柱です」
「ん、あたしはレウィリリーネ。『調和』を司る女神」
「うちはフォレアルーネだよ! 司ってるのは『終焉』ね、よろ~(σゝω・)σ」
「「「「「ええぇぇーっっ!!!???」」」」」
アリサ様が三人を促し、その紹介を受けたのだが……まさかの三女神だったとは!! 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だ、今日一番の驚愕ではなかろうか? しかし、アリサ様から更に驚く事実を聞かされる。
「あはは♪ この子達フレンドリーだから神様って感じしないよねぇ? で、この子が主神のティリアね」
「私から見れば初めましてって感じじゃないけど……あんた達は転生して記憶失ってるしねぇ、改めて自己紹介しときましょうか。私はティリア。アリサ姉さんの言った通り主神をやってるわ」
「「「「「しゅしんーっっ!!!????」」」」」
あまりの事実に私達は全員、気が遠くなるのを感じたのだった。
アリサ「拉致ってきたよー《*≧∀≦》」
ユニ「わぁー♪ 大漁だねアリサおねぇちゃん(*´▽`*)」
アイギス「あぁ……夢の君にさらわれてしまった! 嬉しい!(*´∀`)」
ゼルワ「おい、アイギスがおかしくなってんぞ!?(;゜д゜)」
サーサ「しっかりしてくださいヾ(゜д゜;)」
ドガ「死ぬ前に浴びるほど酒飲みたかったのぅ(´・ω・`)」
レイリーア「ちょ、縁起でもないこと言わないで(*`ω´*)」




