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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
186/211

149話 火口での戦い~決着~

────────────────────────────

【武神との】~決着!~《アイギスview》

────────────────────────────


「ドガっ! ドガぁーっ!! 目ぇ開けやがれ馬鹿野郎ぉぉーっ!!」


 決着……この『グレブヒュ火山』の山頂で始まった、私達『白銀』と『武神リドグリフ』との激戦は、辛くも私達の勝利で納めることができた。しかし……雌雄を分かつ一撃、私の『断絶』が放たれるに至るまでの間繰り広げられたリドグリフとの激しい攻防にて……


「ちぃっ! あの『狂神』めが、無粋な真似を!」

「よそ見なぞしとると、もう片方の腕も斬り飛ばすぞリドグリフぅーっ!!」

「行くぞ! 剣聖剣技秘奥!」

「俺は昔から足癖悪くてなぁーっ!! 食らいやがれリドグリフ!!」

「決める……サーサが託してくれた魔力を神気に練り上げて……正真正銘、『最後の一射(ファイナルアロー)』よ!!」


 私達はこの火山周辺に、ロアの『魔装戦士』を召喚するための召喚陣が展開されているのも気に止めず、リドグリフとの闘いに集中する。

 私は肋骨が肺に刺さり、神気を練り上げるための剣聖奥義の息吹『神気循環』の呼吸をするのも苦しい……が、必殺の一撃のために無理をおして神気を練り上げる!

 ゼルワはリドグリフとの激しいラッシュの際に両肩を砕かれ、自慢のナイフも扱えず、足技で対抗する構え。

 ドガもリドグリフの片腕を斬り飛ばすと言う快挙を果たすも、常に奴の攻撃に曝されて満身創痍だ。

 サーサは神器の制御に神経が追い付かず動けなくなり、しかし、その魔力を、魔力切れとなってしまったレイリーアに託した。

 そしてリドグリフも無事ではない。ドガに斬り落とされた右腕。レイリーアの射撃によって穿たれた右脇腹……回復も追い付かず、その傷口からは多量の出血。


「決めるぜ皆! 決着の時だリドグリフっ!!」

「よかろう! 貴様達のその心意気やよし! この武神リドグリフ! 全霊をもって応えん!!」


 ゼルワが叫び、残った魔力を神気に替えてリドグリフに立ち向かう! 腕の上がらないゼルワが放つのは脚技による連撃だ。巧みな脚捌きから繰り出されるゼルワの蹴りは、別にリドグリフに対してダメージを狙ったものではない。虚を付き一瞬の隙を生ませるための攻撃だ。


「しかし! 無視すれば軽くない痛手を被るか!? 食えぬ男よ! あの槍使いの転生体だけはあるな!? だが、鍛練がまるで足りておらぬわぁーっ!!」


ガシィッ!!


 ゼルワの繰り出す右からの蹴りとリドグリフの蹴りがクロスし衝撃波が疾る!


ボギィッ!! ドゴォッ!!


「うがあぁぁーっ!!?」


ドッゴォォォーンッ!!


 ゼルワ!! なんということだ! 互いの蹴りがぶつかり合ったその刹那、リドグリフは器用に自分の足をゼルワの足に絡め、彼の膝を破壊した! 苦痛に一瞬怯むゼルワを逆の左の蹴撃によって地面に叩き付けるリドグリフ! 凄まじい武だ!


「ぬうりゃあぁぁーっ!! 覚悟せいっ! リドグリフ!!」


 だが、そこに間髪入れず飛び込むのがドガだ! リドグリフはゼルワを蹴り飛ばした勢いをそのままに、その場で自らを回転。ドガの斬撃を回避すると同時、回転の勢いを乗せた速度の強烈な足刀を繰り出す! がっ!


「そう来ると思うたぞ! まんまと引っ掛かりおって、このたわけがぁーっ! ふぬあぁぁーっ!!」


ザシュゥゥーッ!!


 読んでいた! ドガの戦闘におけるセンスか、はたまた歳の功か! ドガの放った最初の一撃はフェイントであったのだ。勢いよく放たれたリドグリフの蹴撃を難なくかわし、カウンターの斬り上げがリドグリフの右足を捉え、深い傷を負わせる!


「ぐああぁぁぁーっ!! おのれ、またしても!! このドワーフがぁぁーっ!!」


バギィィィーッ!!


「ぐほぉぉっ!!?」


 ドォォォーンッ!! リドグリフの意地の反撃! 全体重を乗せた強烈な肘打ちによる叩き付けが、斧を斬り上げたドガの背を直撃し、先のゼルワ同様、地面へと落とす! 許されるなら直ぐにでも側に駆け付け容態を確認したいが、この機を逃せばリドグリフを討ち得ない!


「もらったわ! ほんの少しでいい! 止まりなさいっ!!」


 ドガを叩き付けたリドグリフをレイリーアの矢が襲う!


「なにぃっ!? うぐあぁぁーっ!!」


 青龍の爽矢殿のブレスの如く、カイン殿が放つ雷撃の如く! レイリーアが放った矢は雷を伴い、リドグリフの右肩に突き刺さると同時、リドグリフの全身に強力な電撃を疾らせた! 『無限円環(メビウス)』での訓練で爽矢殿とカイン殿の協力の下に編み出したレイリーアの弓技『雷神の矢』だ。


「今よアイギス!」


 ああ、わかっている! 皆が作ってくれたこの好機を逃しはしない!


「剣聖剣技秘奥……『断絶』ーっっ!」


ギィィィィィィィィィーンッッッ!!!!!


 『神気循環』にて練り上げた神気を乗せ、正真正銘、全身全霊をかけた剣聖剣技秘奥『断絶』を『雷神の矢』を受け、その電撃で一瞬動きが止まったリドグリフに向けて放つ!!


「う、うおぉぉーっ!! み、見事! 見事だ勇者達よ……これほどの闘い……我はっ!!」


ボシュウゥゥゥーッ!!


 満足だ……と、最後に……リドグリフは心底満足そうに消えていった……その身は勿論、『根源の核』すらも完全に断った私の『断絶』の余波と共に……虚空へと消えていったのだ……


「はぁはぁ……勝った……勝ちましたよ……! アリサ様!」


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【目覚めぬドワーフ】~これをこうです!~《フィーナview》

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「余韻に浸る暇はないよ兄ちゃん達! ほら、ティリア様から預かってた『神々の雫(ソーマ)』だ! さっさと回復済ませちゃって!!」

「ぱ、パルモー殿!?」「おわっ!? お前いつの間に!?」

「ちょっと! ちゃんと飲むからかけないで!」


 ほらほらほらー! ふむ。元気がいい少年ですね。あのパルモーとかいう『聖魔霊』は。リドグリフと『白銀』達の決着がつくやいなや、素早く『神々の雫(ソーマ)』を取り出し、傷付いた勇者達に振り掛けたり、飲ませようとしたりしています。


《アルティレーネ様! サーサを回収しましたわ!》

「了解ですルロイヤ! 彼女は私に任せて翼達と『魔装戦士』の殲滅に当たりなさい!」

《かしこまりましたわぁーっ!》


 リドグリフと『白銀』達の決着がつくであろうその間際、この火山上空にロアの『魔装戦士』を召喚する陣が無数に出現し、わらわらとやって来ましたよ。


ビィィーッ!! ドシュドシュゥーッ!! ブォォンッブォォンッ!!


「はぁ、射撃の精度も速度も狙いも粗雑……剣に至っては稚拙……数だけ多い羽虫をいくら送り込んで来ても……」


 こんな羽虫のガラクタ相手に弓を使うまでもありません。


「『封印(シール)』」


パシュゥゥゥーッ!!


 これで十分でしょう。対象の動作を一定時間の間封じる魔法です。この火山一帯に効果が及びますから、暫くは『魔装戦士』の発生も抑えられる筈ですよ。


《マジかよ? この山全部?》《フィーナ様すげぇな……逆らわんとこ》

《翼! ウノ!! 召喚が止まっている内に片付けるぞ!》

《私もご一緒しますわ!》


 ええ、ええ。畏れ戦きなさい鳥達よ。そして働くのです! ……おほん。いえ、冗談ですよ? 私はそんなタッカビーな女ではありません。さて、『白銀』達の様子はどうでしょうか?


「ドガっ! ドガぁーっ!! 目ぇ開けやがれ馬鹿野郎ぉぉーっ!!」


 おや? あのドワーフが目を覚まさないのですか? ハーフエルフ……ゼルワが叫んでいますね。


「そんな、ウソだろ! ドガじいちゃん!! ふざけんなよ!? アリサ様が悲しむじゃないか!!」

「ドガ! 起きろ! お前には帰りを待つファムとギドがいるだろう!」

「信じないわよ!? あんたが、あんたがこんなことで、し、死ぬなんて! 起きなさいよ! 目を開けなさい! ドガぁぁーっ!!」


 あのパルモーもアイギスもレイリーアも揃い、倒れ伏しては一向に目を覚まさないドガに必死に呼び掛けていますね。ふぅむ……決着の直前にリドグリフの渾身の一撃を受けていましたからね……どれ、私も側で診てみましょう。


「フィーナ様ぁぁ~ドガがっ! ドガがぁ~目を開けないのぉーっ!」

「傷は『神々の雫(ソーマ)』で完全に治ってる! なのに、どんどん呼吸が、脈が小さくなっていくんだ!」

「お願いしますフィーナ様! コイツを! この馬鹿野郎なドワーフを助けて下さい!」

「私からもお願い致しますフィーナ様! 何卒お力添え下さい!!」


 落ち着きなさい。レイリーアは涙を拭いて、パルモーはその場を代わりなさい? ゼルワ、アイギス。貴方達の必死な思いはわかりましたから、そんなに頭を下げずともいいですよ?

 さて、私はドガを心配そうに見守る皆の視線を一身に集まるのを感じつつ、パルモーと場所を交代してもらい、ドガの状態を確認します。


「ふむ……なるほど……これは。パルモー? 貴方『神々の雫(ソーマ)』をドガに振りかけましたよね?」

「え? うん! ドガのじいちゃん気を失ってたし、急がなきゃって思ったから」


 やはりそういうことですか。それならば原因はこれですね。よいしょっと!

 私は気を失っているドガの上半身を起こします。小柄の割りに重いですね、この鎧のせいでしょうか?


「アイギス、ゼルワ。ドガの鎧を外しなさい」

「え? あ、はい!」「直ちに!」


 ガチャガチャ、ズシンッ! 私がドガの身を支えている間に、ゼルワとアイギスによってドガの身に付けている鎧が外されていきます。すると……


「やはり『身代わりの宝珠』でしたか。これを、えいっ!」


バキィッ!!


「うおっほ!! ゲッホゲホッ!! ぬあぁぁーっ! なんじゃなんじゃ一体!?」


ドガぁぁーっ!!


 わあぁぁーっ!! と、揃い表情を喜びに染める皆です。ふふ、よかったですね?


「馬鹿野郎! ドガ! この野郎!!」「心配したのよ! このバカぁーっ!」

「よかった……本当に……」


 現状を把握出来ずに困惑しているドガにゼルワとレイリーア、アイギスがそれぞれ肩を組んだり、軽く頭をひっぱたいたり、泣きそうな顔を隠したりと反応を示します。良い仲間達のようですね。

 さて、ドガはこれで安心ですが、サーサの方はどうでしょうか?


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【無事でした】~そして……~《アルティレーネview》

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「まったく……無茶をして、心配したのですよ?」

「あ~あはは……ごめんなさい、アルティレーネ様」


 ルロイヤがリドグリフとの闘いで意識を失っていたサーサさんを保護し、私の側に連れて来ました。

 彼女達の前世である、かつての勇者達に与えた神器を、アリサお姉さまのオプションの如く操ると言う不相応な技術を押し通したサーサさんは、その代償にいくつかの神経を損傷し昏睡状態に陥っていました。


「立てますか? 神経の損傷は簡単には治せません。ある程度治療はしましたが……いくつかの身体的な行動に支障をきたしているかもしれませんよ?」

「ありがとうございます、アルティレーネ様。それも覚悟の上でしたから……っとと!」


 あ、大丈夫ですか!? 立ち上がろうとしてふらついたサーサさんをそっと支えます。治療を施したとはいえ、それは完全ではありませんからね。彼女には療養が必要です。


「むぅ~それにしてもゼルワはなにしてるんですか? 恋人がこうしてふらふらになっているのに、寄り添ってくれてもいいでしょうにーっ!」

「……サーサさん。ゼルワさんはドガさんが心配なのでしょう。パルモーさんが用意した『神々の雫(ソーマ)』をかけても意識が戻らないと言ってるのが聞こえました」


 私はサーサさんの治療に専念していましたから、詳細はわかりませんが。


「そんな、ドガが!? アルティレーネ様、私達もみなさんと合流しましょう!」

「ええ、そうですね。私も彼の容態が気になります!」


 サーサさんの言葉に頷き、彼女の手を取って『飛行魔法(フレイ)』にて飛び上がります。


「あれ? 『魔装戦士』達が出なくなってませんか?」

「フィーナ姉様の魔法のお陰です。一時的ではありますが召喚を止めているのです」


 陣はあれど、一向に召喚されることのない、中空に並んでいる召喚陣を不思議そうに見るサーサさんに、これはフィーナ姉様のお陰ですと説明しておきます。


「正直助かります。私と翼達だけでは、傷付いた貴女達を守り切れるか危ういところでしたから……」

「何から何まで……私もいっぱい感謝しなきゃいけませんね。あ! 見えてきました! 無事みたいですよ!」


 ──そうして、フィーナ姉様達と合流を果たした私達。

 自分の事をそっちのけでドガさんの心配をしていたゼルワさんを、サーサさんはぷんぷんと怒りながら責めたり、なんにしても全員無事でよかったと、喜びあう『白銀』達を微笑ましく眺めたりしましたが……


「一体儂に何が起きたんじゃ?」

「ああ、簡単に話せばタイミングが重なってしまったのですよ?

 貴方が身に付けていた『身代わりの宝珠』の発動と、パルモーが振りかけた『神々の雫(ソーマ)』による回復効果がね。

 稀な事ですが、一時的に貴方の意識……魂が、本人と宝珠との間で迷子になってしまったのです」

「はへぇ~んなことってあるんだな……ったく! 焦らせんじゃねぇぜ、このジジイ!」


 そんなことが……私も知りませんでした。流石フィーナ姉様、博識でいらっしゃいます。

 ドガさんもゼルワさんも理屈はよくわからないけれど、互いに無事だったのでよしとしたようですね。


「私も前例を知っていただけで、詳しい理由は知りません。後でレウィリリーネあたりに訊いてみるといいでしょうね」

「うむ。なんにせよじゃ……宝珠を用意してくれたラグナース殿には感謝せねばのぅ!

 ほれ、サーサもいつまでむくれておるんじゃ? 儂等はまだやらねばならんことがあるじゃろ?」

「わかってますぅーっ! ですがアルティレーネ様、本当なのですか?

 ……アリサ様の身に何かが起きたと言うのは?」


 そうですねフィーナ姉様。落ち着いたらレウィリに訊いてみましょう。

 ドガさんはしみじみと『身代わりの宝珠』を預けてくれたラグナースさんに感謝した後、いまだに頬を膨らませているサーサさんを嗜めます。ゼルワさんの腕にしがみつくサーサさんは、そんなドガさんに、べーっ! ってした後、私に不安そうな瞳を向けてきました。


「アリサお姉さまに授けた私の……私達姉妹の加護が返還されました……これは、間違いなくお姉さまの身に何かがあった証拠なのです……」

「ま、待って下さい! それでは今のアリサ様は加護を失った状態だって事ですか!?」

「マズイよそりゃ! アリサ様は常々言ってた……自分の力は借り物だって!」


 私の答えにゼルワさんとパルモーさんが慌て出します。ええ、気持ちはわかります。ですが……


「落ち着きなさい。ここで私達が慌てふためいても、何の解決にもなりません」

「そうね。フィーナ様の仰る通りだわ。とにかく状況を詳しく知っているとしたらやっぱりティリア様よね? 連絡を取ってみましょう?」

「いえ、レイリーア。悠長に連絡を取り合っている時間はありません。私の施した『封印(シール)』もそろそろ効果時間が切れますから」


 弓を扱う方は冷静ですね。フィーナ姉様もレイリーアさんも……そうですね、現状を正しく理解されているのは、『聖域』で指揮を採っていらっしゃるティリア姉様でしょう。バングルを着けた腕を上げ、連絡を取るかと皆さんに確認するレイリーアさんですが、それをフィーナ姉様が止めました。


《殲滅完了だぜ! フィーナ様!》《いつでも『聖域』に飛べまっせ~?》


 バサバサッ! と、その翼をはためかせ、『魔装戦士』の対処に当たっていた偵察部隊が戻ってきました。ありがとう、ご苦労様でした。アイギスさん達の治療をしている間、彼等に任せきりにしてしまいましたから、しっかり労いの言葉をかけませんとね。


《構いませんわ! サーサさんも無事に目を覚ましたようで何よりですわね!》

《落ち着いているなアイギス? 状況は聞いたのだろう? 正直お前は動揺すると思っていたが……》


 いぇーい♪ だなんてそんな……もう、翼とウノは元気いっぱいですね! ルロイヤも保護したサーサさんが目を覚ましていることに嬉しそうです。そして、ドゥエがアイギスさんを気にかけています。確かに静かですねアイギスさん?

 正直お姉さまがピンチと知ったら、いてもたってもいられなくなってしまうのではないかと心配していたのですが……


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【まさかの代役】~単純でよかった~《レイリーアview》

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「いえ……動揺はしています……ですが、同時にアリサ様はこうなる事を予想しておられたのではないか、とも思うのです」


 焦ったわ~! なんとかリドグリフはやっつけたけど、サーサとドガの二人が昏睡状態から全然起き上がってこないし、正直最悪の事態を想像しちゃったわよ!

 でも、アルティレーネ様とフィーナ様がいてくれたお陰で二人共、ちゃんと目を覚ましてくれたわ!

 だけど、ドガは問題なさそうなんだけど、サーサが心配ね……神経の損失は『神々の雫(ソーマ)』でも完全には治らないって話らしくてさ。サーサに後遺症なんか残ったりしないか、不安だわ。

 更に悪い報せは続いたの。なんでもバルド達『黒狼』、レジーナ達『猫兎(キャットラビット)』達と一緒に黒フード共のの本拠地に向かった筈のアリサ様に何かがあったそうなのよ!

 いつもアリサ様が仰っていた、借り物の力。そう称していた女神様達の加護が、返還されてしまったとか! もうアタシ不安でしょうがないんだけど、意外にもアイギスは落ち着いていて……


「マジかよ!? 根拠を聞きてぇとこだが……ヤベェな、フィーナ様の魔法の効果も切れそうだぜ!」

「ええ、話は後にしましょう。先程も言いましたが、私達は皆『聖域』へと移動します。

 そして、この『龍脈の源泉(レイライン)』の守護は……パルモー、『神々の雫(ソーマ)』を出しなさい」

「あ、はい! どうぞフィーナ様」


 アイギスが慌てない理由にゼルワが驚いたわ。アタシも詳しく聞きたいけど、フィーナ様が施した魔法がピキピキとひび割れて行くのを見るに、悠長におしゃべりしてる時間はなさそう!

 フィーナ様は『聖域』に向かうつもりのようで、この『グレブヒュ火山』の『龍脈の源泉(レイライン)』を誰かに代わってもらうみたい。パルモーから『神々の雫(ソーマ)』の入った小瓶を受け取って……あれ!?


「パルモーはいつの間に来てたの!?」

「パルマーが僕だったんだよ、レイリーアの姉ちゃん♪」


 えぇっ!? そうだったの!? やだ~全然気付かなかったわ!


「はいはい、その辺の話も落ち着いてからにしなさい? さて、それでは私の代わりにここを守護してもらう者に来てもらいましょうか」


 そう言うとフィーナ様は、なんと! 無造作に『神々の雫(ソーマ)』を放り投げて!


ガシャーンッ!


「えぇーっ!? なんでぇーっ!?」

《ちょぉーっ!! なにしてんのフィーナ様ぁーっ!?》

「さあ、起きなさいよ? どうせ『不滅』なんですから遅かれ早かれまた復活するでしょう?」


 わ、割っちゃったーっ! 中空に放り投げた『神々の雫(ソーマ)』の小瓶をこう、魔力を込めてパリーンッ! って!! これにはみんなもビックリよ! サーサも翼も訳がわからず叫んでるんだけど、アタシも訳わかんないわ! 貴重な『神々の雫(ソーマ)』なのに!


「……お前も大概勝手よ。『弓神』」


うわああぁぁぁーっ!? リドグリフがよみがえったぁぁーっ!


 割られた小瓶から『神々の雫(ソーマ)』が降り注がれるその先に! なんてこと!! やっとの思いでやっつけたリドグリフがピンピンして復活しちゃったじゃないの!?


《ウッソだろ!? フィーナ様どういうつもりなのよ!?》

《まさかと思いますけど……リドグリフにこの場を守護してもらうおつもりですの!?》

「正解ですグリフォンロード♪ そのまさか。このバトルマニアにこの場を任せようと思います。

 異論はあっても聞きません。いいですねリドグリフ?」


 はぁぁぁーっ!? しょ、正気なのフィーナ様!? コイツ魔王なのよ!? 暴れだしたりしたら大変な事になっちゃうわよ!?


「……いや、私はいいと思う」

「「はぁっ!? 本気で言ってるのかアイギス!?」」


 アイギスまで! ちょっとなに言ってんのよ!? ゼルワとドガも声をハモらせて叫んでるじゃない! 無茶よ無茶っ!!


「そんなことはあるまい。リドグリフ、貴方が望むのはイタズラな破壊等ではあるまい?

 強者との満足の行く闘争こそが貴方が望む事のはずだ。違うだろうか?」

「ふっ見抜いておるわ……如何にも。我のこの身は『不滅』……『弓神』の言うように幾百年後には再びこの地に甦っていたであろう」


 いやいやいや! だからその間にティリア様達と協力してどうにかしてやろうって話じゃないの!? それをこんなあっさり復活させちゃって大丈夫なのフィーナ様!?


「ご心配なく。責任は私が取りましょう。そもそもリドグリフは悪神ではありませんし。『神界』なんかに戻してももて余すだけですからね」

《おっほぉ~んじゃなによ? リドグリフが仲間入りってことぉ~?》

《これは恐れ入る……俺達では到底思い付かん采配だな……》


 うへぇ~ちょっとマジぃ~? いや、リドグリフが味方についてくれるってなら、心強いわよ? でも……大丈夫ぅ~? すーぐに「おい、バトルしようぜ?」とか言ってきたりするんじゃないのぉぉ~?


「ふん。我も貴様達の言う、そのアリサなる魔女に興味が湧いたぞ? 是が非でも死合わねばなるまい!

 それに貴様達以外にもおるのであろう? 強き者達が!?」

「けーっ! 俺等に大苦戦した挙げ句に負けたオメェなんざ、アリサ様の足元にも及ばねぇっての!」

「そうじゃそうじゃ! 儂等五人を赤子扱いするアリサ様じゃぞ!?」

「そうです! 『聖域』のみんなだって私達と同じくらい、いえ、それ以上の方だってごろごろいますもん!」


 ほらぁーっ! 早速言い出した! まあ、でもゼルワとドガが言ってるように、アリサ様だったらリドグリフ相手でもきっとあっさりやっつけちゃう気がするわね。それにサーサも言ってるけど、『聖域』には私達と同じ『無限円環(メビウス)』での訓練を経た仲間が大勢いるからね。


「ふははっ! それは僥倖! ならば往けぃ! この場は我が引き受けよう!

 総て終わりし時、我は再び貴様達の前に現れよう!」

「はい決まりですね。まったく単細胞の熱血馬鹿は扱いが簡単で楽ですね♪」


 あはは~えぇっと……フィーナ様がボロクソ言ってるけど、リドグリフも「抜かしよるわ」とか言って笑ってるから、うん。きっといいのよねこれで。


────────────────────────────

【帰還】~状況把握~《パルモーview》

────────────────────────────


「ティリア様! 『白銀』ただいま帰還致しました!」


シュウゥゥゥーンッ……


 アルティレーネ様の転移で僕達は『聖域』へと帰って来た。見馴れた女神の神殿の会議室だ。

 アイギスの兄ちゃんが、室内に映し出されている沢山のモニターを前に、各方面へと指示を飛ばすティリア様の姿を見つけ、声を挙げて駆け寄った。


「おお! アイギスよ、よくぞ戻った!」

「『白銀』の皆さんもご無事なようで!」

「お帰りなさい! お父さん! 『白銀』の皆さん!」

「お帰りなさい。その様子だとリドグリフとの決着はついたようね?」


 僕達の姿を確認したアイギス兄ちゃんの、父ちゃんと、母ちゃん。それにアルナ様とヴィクトリア様もお帰りって言ってくれるのがなんか嬉しいね!


「ん!? ああ、お帰り! あんた達の健闘を褒めてあげたいとこだけど、後にさせてもらうわ! フィーナ、報告しなさい。パルモーは任務完了ね、続けて指示を出すからこの場で待機なさい!」


 うぅわ、すっごいピリピリしてるなぁ~いつものおちゃらけた明るいティリア様とは大違いだ。取り敢えず「了解しました」って言っておく。

 ……でも、それもそのはず、僕達にも見える沢山のモニターに映る映像は、各国が大勢の『魔装戦士』達と戦っているその姿だもん。

 北の『ルヴィアス魔導帝国』なんかは相当だね、でっかい宮殿を浮上させて『魔装戦士』の多くを引き付けている。そのお陰で都市部への攻撃はまばらみたい。ルヴィアス様とあの三人衆……バロードさんとカレンさん、オルファさんと、シェラザード様に水菜様でばったばったと薙ぎ倒してる。

 南の『セリアベール』は優勢だね! ドランドさん達『ハンバーグ』とルルリル姉ちゃん達『フライドポテト』にラグナースの兄ちゃんもいるし戦力としては申し分ないんだろう。なんか凄い結界も張られてるみたいだし! あれ、でもゼオンのおっちゃんとあの格好いい『守護者(ガーディアン)』は何処さ~?

 更にその南の『ジドランド』ではパーシヴァルのおじいちゃんと、朱美様、そしてポコ様が大暴れしてる! いや、主にポコ様が。だね。そして城の守備隊から打ち出される砲撃も中々に凄い。残ってるギドのじいちゃんが頑張って作ったのかな? 見たことない兵装もあるじゃないか。

 東の『エルハダージャ』では……あれれ!? どうしちゃったの珠実様!

 モニターを見て僕は思わず息を飲んだ。珠実様がうずくまって苦しそうにしているじゃないか! 鈍い光を放って動かない珠実様を守るように、あれはヒヒイロっていう大臣さんだっけ? それに爽矢様とティターニア様が無双して『魔装戦士』を蹴散らしてる。う~ん、気になるね!

 西。『ゲキテウス』方面では大地様とアリサ様お手製の『魔装巨人(ゴーレム)』ヒャッハーくんが大暴れしてるからか、『魔装戦士』の数は少ないね。いや、それよりも更に西だ。空に浮かぶ巨大な神殿!

 ゼーロさん達『ガルーダナンバーズ』の小隊長達が群がり、あ! フェリア姉ちゃん! それにネハグラさんとジャデークさん! おお! ゼオンのおっちゃんが『守護者(ガーディアン)』の肩に乗って飛んで来たぞ!


「なんてこったよこりゃあ……何処もかしこも乱痴気騒ぎじゃあねぇか!」

「珠実様が動かないわ! 一体どうしちゃったの!?」

「リールやフォーネ達は、うおおっ! 凄まじい魔素霧じゃ!」

「くっ! ディードバウアーが復活するのも時間の問題ということか!」

「レウィリリーネ様とフォレアルーネ様達はご無事なんでしょうか……?」


 一緒にモニターに映る映像を見た『白銀』のみんなも一様に驚いたり、焦ったりしてる。特に『ルーネ・フォレスト』に向かったレウィリリーネ様とフォレアルーネ様達の様子は、濃い魔素霧のせいではっきりとはわからない。


「……そう。わかったわ、それならあの火山は任せておいてよさそうね。

 さて、最終決戦も近いわよ! もう一頑張りお願いできるかしら?」

「それは勿論ですが、ティリア姉様。アリサお姉さまがどうなったのかを教えて下さい!」

「アリサ様のこと……勿論大丈夫であるとは思いますが、やはり心配です!」


 フィーナ様からあの火山でのリドグリフとの戦いについて報告を受けたティリア様が僕達に向き直る。僕はまだ全然戦いに参加してないからね、バリバリ元気さ! ご用命とあればガンガン戦うよ! でもアルティレーネ様とアイギス兄ちゃんが……いや、一緒に戻ってきた皆が気にしてるように、アリサ様の状態が知りたいな。


「安心しなさい! さっきユニから連絡が入って、アリサ姉さんの気配を見つけたって!」


おぉーっ!!


 よかった! こっちから気配を感じ取れるなら、いくらでもやりようはありそうだね! 僕達は揃ってティリア様の、その報告に安堵のため息をついたり、ガッツポーズしたりして喜んだ!


「だから姉さんに関しては心配いらないわ。「無事に帰って来て。待ってるわ」って『想い』をもって待ちましょう。いえ、むしろ姉さんが戻ってくる前に決着つけてさ、「やーい!」ってからかってあげましょうか♪」


 アハハ! それも面白そうだけど、アリサ様拗ねちゃうんじゃないかな?


「それはそうと、サーサ。あんた随分魔力が乱れてるわね? フィーナから聞いたけど大分無茶したのね……ちょっと戦線復帰は難しいかな?」

「ご、ごめんなさい……」


 うん。サーサの姉ちゃんはもう無理させらんないよね? 神経が傷ついた今の状態で無理したら廃人になっちゃうかもだし。


「ティリアお姉様。彼女は『世界樹(ユグドラシル)』で静養させるべきかと」

「そうね、ゼルワ。あんたも付き添ってあげなさい。代わりにフィーナとパルモーに働いてもらうから」

「はい、済みません……」「あざっす! 頼むぜパルモー! フィーナ様!」

「オッケー! 任しといてよ!」

「アリサお姉様のケーキのために一肌脱ぎましょう」


 サーサ姉ちゃんはティリア様の取り計らいで『世界樹(ユニちゃんの家)』でお休みすることになった。ゼルワの兄ちゃんも一緒だし退屈することはないだろうね。それに『世界樹(ユグドラシル)』はこの世界の『龍脈の源泉(レイライン)』から絶えず魔力が供給されて来ているから、きっと治りも速いはずだよ。

ゼルワ「いや、でも……(;´д`) いくら『神々の雫』だからって、アイギスの『断絶』まともに受けて『根源の核』まで吹っ飛んだのを一瞬で復活させるなんて信じられねぇぜ((゜□゜;))」

サーサ「ですねぇ~(;゜0゜) 聞いた話でもいくら『不滅』持ちでも、『根源の核』までやられちゃうと、その再生には百年単位でかかるってことでしたのに(-_-;)」

フィーナ「ああ、それにはちゃんとからくりがあるのですよ?(*´∇`)」

翼《へぇ~?(゜∈゜ ) どんなんなんです?(´・ω・`) 俺っち達も聞いていい話?(^-^)》

ドゥエ《察するに……(_ _) 『龍脈の源泉』が関係しているんだろうよ(^ー^)》

フィーナ「正解です♪( ´ー`) 貴方達とリドグリフの激しい戦いであの火山の『龍脈の源泉』はかなり活性化しましたから、余剰魔力を彼の『核』の再生にあてたのですよ(*゜∀゜)」

レイリーア「はぁ~凄いわね(・о・) フィーナ様って器用だわ!(*つ▽`)っ」

ウノ《弓は勿論、魔法も達者だしなぁ~♪(*`▽´*)》

ルロイヤ《ご尊敬申し上げますわ!(о^∇^о) フィーナ様!(´∀`*)》

アイギス「何かと御助力頂き、感謝の念に堪えません( ・`ω・´) ありがとうございますフィーナ様m(_ _)m」

パルモー「あはは♪(´▽`*) アリサ様の弁当に夢中になってるとこは面白かったけどね!(((*≧艸≦)」

ドガ「そうじゃパルモー殿( ・∀・) パルマーっちゅうんは安直じゃのぅ?(´∀`)」

ゼルワ「ははっ!(´▽`) 正体わかった今だから言えるんだけどな!(^_^;)」

サーサ「私達結局、誰も気付けませんでしたからね( ̄▽ ̄;)」

フィーナ「ふふ(^ー^) 見事な変身でしたね?(´^ω^) 他に正体を明かした者はいるのですか?(*゜ー゜)」

パルモー「うん( ゜ー゜) パーシヴァルのおじいちゃん( ゜∀゜)」

ドガ「ああ( ̄O ̄) それで翁の師匠と名乗ったんじゃな?( ´ー`)」

パルモー「うんうん♪(*^-^) あのおじいちゃんったらねぇ~(*`艸´)」

ティリア「ほらほらあんた達!( `Д´)/ いつまでもくっちゃべってないで動いてちょうだい!(≧□≦)」

みんな「失礼しましたーっ!Σ(゜ロ゜;)」

ティリア「まったく!(`ε´ ) 緊張感ないんだから!(`Д´)」

ヴィクトリア「まあまあ(;´∀`) 悲壮感漂わせるよりいいじゃない?(゜ー゜*)」

アルナ「はぅ……(。・´_`・。) お母さん早く帰って来て……(_ _)」

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