145話 魔女と異界と……
────────────────────────────
【復活の予兆】~守護者召喚!~《リールview》
────────────────────────────
「ヤバイ! ヤバイよこれはレウィリ姉!?」
「んっ……凄い魔素霧! あの神殿が浮上したことで更に酷く……っ!」
「ぬぅぅっ! 『ディードバウアー』も復活目前といったところじゃの!?」
「とてつもない神気……弱体化の解除された『獣魔王』が復活を果たせば、それだけで周辺に被害が出るぞ!?」
フォレアルーネ様とレウィリリーネ様。そしてシドウ様とリン様が叫ぶ。
リン様の背に乗って空を駆けることに大分なれた頃、ようやく見えてきた『ルーネ・フォレスト跡地』なんだけど、近付くにつれ魔素が急激に濃くなって行き、遂には可視化された『魔素霧』にまでなってしまっていた!
「報告じゃアリサちゃんがロアの罠にかかって異世界に飛ばされちゃったっていうし……」
「黒フード達の本拠地が海から浮上してきたって話も……」
私とフォーネの不安な声が重なる……
まだ、とりあえず……まだ『獣魔王ディードバウアー』は復活してはいない、だけど、近付くだけで、否が応にも感じるとてつもない圧迫感! 存在感! 間違いなく『ディードバウアー』はそこにいて、今にも復活しそうだとわからせてくる!
「アリサ様のオプションがいるぞ! 合流して結界を張るのだ女神達よ!」
「あいよ!」「ん、少しでも復活を遅らせて被害も抑えないと!」
そんな相次いで悪い報告ばかりが飛んで来るけれど、いや……だからこそ私達は進まなきゃいけない!
リン様が『ルーネ・フォレスト跡地』を監視している、アリサちゃんのオプションの姿を見つけて、二人の女神様に呼び掛けた。
立ち込める魔素霧は徐々にこの大陸を侵食しはじめて、このままにしておくと第二の『魔の大地』を生んでしまう。それを防ぐため、結界で隔離して被害を抑えると伴に、『ディードバウアー』の復活を少しでも遅らせるのだと言う。
『気を付けろリール!』『魔素霧は有害だよ! フォーネちゃんもしっかり対策してね!』
「「はい!」」
「なに、そう心配はいらん、儂等の魔力で自然と保護されるわい!」
私とフォーネの背後に立つご先祖様の注意にしっかり返事を返して、私達は自身の魔力を高めて行く。シドウ様の言うように、女神様と『懐刀』のおふたりも守って下さるけど、しっかり自分でも守らないとね!
『くそ……ひでぇもんだぜ、郷愁に想いを馳せる事もできねぇ……』
『うん……ユグライアくんの『セリアルティ』を見に行った時以上だね……』
魔素霧の中を飛ぶ私達だけど、その酷く濁った視界の中は見通しが悪くて、地上もよくわからない。かつてこの地を治めていた私のご先祖様のフォレスト様も、せっかくの帰郷が台無しになってお怒りみたいだ。フォーネのご先祖様のリュール様も『魔神戦争』後の『セリアルティ王国』を見に行った時、やっぱり魔素霧のせいで近付けなかった事を思い出したのだろう、その表情を曇らせている。
「見付けた! アリサ姉のオプション『ふぉれやん』だ! りるりる、『守護者』起動だよーっ!!」
「はい! 来て『ふぉれやん』ちゃん! 『守護者ルーネフォレスター』!!」
リン様の背に乗るフォレアルーネ様が前方に光る、アリサちゃんのオプション。フォレアルーネ様を模した『自律人形』である『ふぉれやん』を見付けて、私に『守護者』を呼び出すように指示してくる! 私はその指示に従い手を振っている『ふぉれやん』ちゃんに、側に来てくれるようにお願いすると、ふよふよと飛んで私の両手に収まる。『ルーネ・フォレスト』を守りたいって気持ちを込めて、『ふぉれやん』ちゃんに魔力を送り、『守護者』の名前を高らかに呼ぶと……!
フィィィィィーンッカカッッ!!
呼び掛けに応えた『ふぉれやん』ちゃんが真っ白な光に包まれ、その姿を大きくしていく! 『無限円環』に安置されている三体の『守護者』の一体。フォレアルーネ様とフォレスト様の国、『ルーネ・フォレスト』の名前を冠した『ルーネフォレスター』がここに顕現する!
「むぅ~相変わらず凄まじい神気じゃのぅ! 心強いぞい!」
「ああ、しかし……アリサ様が異界に飛ばされて、何故に動くのだ?」
「ん、ティリア姉さんにパスが切り替わったから……」
「アリサ姉はこうなることも予測してたんだよ?」
そうなんだ!? 確かに『守護者』達はアリサちゃんの『無限魔力』を動力源に組み込んでるとかなんとか言ってたっけ。
『ルーネフォレスター』の巨体と、それに負けないくらい大きな神気にシドウ様も唸る。そしてリン様の疑問にレウィリリーネ様とフォレアルーネ様が答えた。
「そうであったか……ならばご自身が異界に飛ばされる事も察しておられたやも知れぬな」
「あの魔女の事じゃ、そう心配せんでもよかろうて。直ぐになに食わぬ顔でしれっと戻ってきよるわい!」
うむうむって頷くリン様に、ワハハ! って豪快に笑うシドウ様を見て、アリサちゃんは凄く信頼されてるなぁ~って思う。だから、じゃないけど、私もアリサちゃんを信じるよ。頑張って『ディードバウアー』と戦うからね! 早く帰って来て、アリサちゃん!
「さぁ、早いとここの『ルーネ・フォレスト』の周辺を囲う大結界を張ろう!」
「ん。了解……絶対、勝つ!」
おぉ! 負けないよ! きっと他のみんなも今、一生懸命戦ってる。私達だって負けてられないよね!
魔王達をやっつけて、アリサちゃん達との楽しい未来を掴むために、私も頑張る!
────────────────────────────
【神殿内部】~やるべきこと~《バルドview》
────────────────────────────
ザシュウゥッ!!
「ぐあぁぁーっ! きょ、教団に栄光あれぇぇーっ!」
サアァァァー……斬り捨てた教団の一味が断末魔をあげて灰になり、消えていく……間違いなく『ヴァンパイアロード』のあいつ……黒フードの親玉の眷属であるヴァンパイア達だ。
「クソ! さっき姿見せた奴等の他にもこんなにいたのかよ!?」
「全部ヴァンパイアですね、あの……何でしたっけ? エリなんとかの部下でしょうか?」
「そうでしょうね、血を吸い支配下においているのでしょうね!」
ボォンッ!! ギャアァァァーッ!!
俺達『黒狼』とガッシュ、バルガス殿にネヴュラ殿は、アリサ殿と『猫兎』達と別行動して、この浮上した神殿の内部に逃げ込んだ二人の幹部と、親玉を追っていた。
存外にその三人の逃げ足が速いのと、入り組んでいるわけではないが、部屋数の多さのせいで見失ってしまった。一つ一つ部屋を改める度に、こうしてエリなんとかの配下であるヴァンパイア達が襲ってくるので、セラもイライラしているようだ。
逆に冷静なのが魔法使いのミストとシェリーの二人。襲い掛かるヴァンパイアに聖属性の炎魔法『聖なる火炎』を打ち出し、難なく撃退している。
「フンフン……こっちだ! 『蛇人』の臭いがする! ヴァルジャに違いあるまい!」
「流石『虎人』のガッシュさんだぜ! バルドさん、行きましょう!」
「ああ! だが油断するな! ガッシュを中心に隊列を組んで進むんだ!」
おおーっ!!
このままモタモタしていたら、この神殿を利用してあいつらはまた被害を増やしていく……急がなくては! そう焦りが募る俺達にガッシュが道を示した! 『虎人』というよりは、『獣人』の特性の鋭い嗅覚で、教団の幹部であり、先ほど俺達の前にも姿を見せた『蛇人』のヴァルジャの臭いを嗅ぎとってくれたのだ!
この神殿の攻略の鍵は間違いなくガッシュだ。そう判断した俺は迷うことなくメンバーにガッシュを守る隊列を組むよう指示を出す。
「バルガス殿、ロアとの戦いに向かってくれても構いませんよ?」
「……気遣い痛み入るバルド殿。だが案ずる事はない。我等が神たるアリサ様は、御自身が無力化されることを予見しておられた」
「私達はアリサ様を信じ、己の役目を果たすだけですわ」
俺達が逃げた教団の親玉達を追いかけた直後、ロアと対峙したアリサ殿が異界へと飛ばされたと、レジーナから連絡が入ったのだ。その報せに俺達は驚き動きを止めてしまったが、『猫兎』達の「行け!」と言う言葉に皆で頷きあい再び動き出したのだ。
しかし、俺達はともかく、バルガス殿とネヴュラ殿の二人はアリサ殿を神とまで称している程に厚い忠義を持つ二人。本当は直ぐにでもアリサ殿を助けに行きたいのではないかと思ったのだが……
「ただ身を案じるだけが忠臣じゃないんだぞ~ってことですね!」
「ああ……俺達は、俺達がやるべきことを、成す!」
シュバァァァァーンッッ!!! ぐああっ! がふっ!? うぐあぁっっ!!
そう、ミュンルーカの言葉が彼等の心情なのだろう。証拠に二人には微塵の迷いも焦りもみられない。そしてデュアードが続く廊下の先に放つアルティレーネ様直伝の槍術『駆ける星々』放てば隠れ潜んでいたヴァンパイア達が絶叫をあげて消えていく。
「うひょぉー! 流石デュアードさんだぜ! 俺出番ねぇーっ!」
「いいじゃねぇかブレイド♪ アタイ達は黒フード共をぶっ飛ばすっていう「やるべきこと」のために動いてんだ、出番なんて直ぐにくるぜ!?」
「アリサ様なら加護なんてなくても大丈夫ですよ!」
親玉のヴァンパイアロードの眷属達が一掃されていき、ブレイドがはしゃぎ、セラが不敵な笑みを見せ、俺達は進む。が、あのアリサ殿を大好きなミストがそう言うのは少し意外な気がする。
「ほう、その口ぶり。うぬも気付いておったか? 『無限円環』で日毎にアリサ様の動きが洗練されていくのを?」
「はい! 日が変わる度になんだかアリサ様の動作に無駄がなくなって、より綺麗に見えました!」
「え~? なになに? どういうことミスト? バルガスさーん?」
よく観ているなミスト。俺も気付いたのは『無限円環』での訓練も後半に入ってからだったが、ミュンルーカがまったく気付いていないように、魔法使いで彼女の違いに気付く方が珍しい。
「ほらミュン、アリサが『白銀』を圧倒しただろ? 訓練でずば抜けたアイツ等をさ。アタイもそんときに気付いたぜ、「アリサの奴秘密で鍛えてやがったな?」ってよ!」
「あ、確かに! いつも『ランバード』の使用人さん達や、ユニちゃんと私達の身の回りをお世話してくれてばかりだったけど」
「それだけでしたら『白銀』とは接戦になっていたでしょうね?」
そう、セラの言ったように俺もアイギス達『白銀』を歯牙にもかけず圧倒したアリサ殿を見て気付いた。ミュンルーカも言われた事で合点がいったのだろう、うんうんと頷いている。そして、シェリーも気付いていたようだな。
だから俺達がアリサ殿を心配する事はあるまい。彼女を信じ、やるべきことを……そう、黒フード達を追い詰め、俺達の朋友を利用した罰を受けさせてやる!
────────────────────────────
【異界にて】~人、発見~《アリサview》
────────────────────────────
ぐーるぐーるぐーるぐる……私はミーにゃんポーチから声を掛けてきたアリアを取り出し、彼女をホウキに『状態変更・箒』させて、この異界の空に飛び上がった。
『ユーニサリア』へと帰還するため、『門』となる『世界樹』を探して、上空を旋回しているところだ。
初めて『聖域』の空を飛んだ時と非常に状況が似通っているこの異界の空。立ち込める魔素霧をアリアに装備させた『集塵機』に吸わせてガンガン魔力に換えていく。前回と違う点を挙げるとするなら、魔力のストック先が水晶から私自身に変わった事くらいか?
魔素をアリアで取り込んで魔力に濾過して、私という蒸留器にかける事で神気に昇華させていく。こうすることで私は封じられた加護、『無限魔力』をカバーするのだ。
《でも、他の加護も封じられちゃってるのは、心配、です。あるじ様》
「ん~? 『不変』『不朽』『不滅』ならね、実はとある魔法を突き詰めれば別に加護なくてもできるんだよ? だから、そう心配しなくてもいいよ~?」
《んぅっ!? そ、そんなことできる!? です!?》
おぉっとっと!? こらこら、あんたがびっくりした拍子に、軌道が一瞬変になったよアリアちゃんや! 危ないから気をつけて~? 私の答えに驚くアリアにちょいと注意。話に挙げた三つの加護は超常の力と思われがちだが、やりようによっては再現も可能なのだ。
「ぶっちゃけちゃうと、『状態保存』の魔法をいじった『クラウド保存』よ。
これは『無限円環』で私が秘密特訓してたときに思い付いた魔法でね? 常に自分の最良の状態を『無限円環』に保存しとけるんだ」
《はうぅ? よくわかんない、です……》
あはは♪ まぁ、心配はいらないって事だよ♪
「んでもまぁ~流石に『イメージ魔法』は難しいねぇ、『索敵』とか『検索』『ミニマップ』とか、めっちゃ便利機能が全部使えないのは痛いわぁ~っと! 第一村人、ならぬ第一魔物のご登場ですよアリアちゃんや?」
「ギャアァァーッ!!」「グワァーッ!!」
やっぱり空飛んでると飛行する魔物に遭遇するわねぇ。この異世界に飛ばされて初めて遭遇する生命体は、なんかゆかりを小さくしたような小型の竜のようだ。ギャーギャー言いながら、私に向かって一直線に飛んで来る。あ、火吐いた!!
「ほいっ!」「ぐぎゃっ!?」「ぎゃぁっ!?」
明らかに私達に敵対してきたので『聖槍』の魔法をサクサクッ! 明らかに闇属性っぽい小竜達はあっさり打ち抜かれヒュゥーって落っこちて行く。
《現れる魔物は大したことなさそう、です……でも、凄く禍々しい気配がどんどん強まっています》
「うん、徐々にこの世界の中心に近付いてるからね……」
多分だけど……この世界の『世界樹』もユニと同じで、その性質を反転されてたりするんだろう。いや、おそらくこの世界の『世界樹』で反転の呪いを実験と称して使ったまでありそうだ。
《それじゃあ、この世界の『世界樹』が、ロアの狙い通りに反転したから……ユニにも魔神を通して、反転させた……です!?》
「多分ね……ホントにろくなことしないわね、あの眼鏡ぼっち神は!」
まあ、憶測だけど、十中八九間違いではないだろう。そうでなければ『世界樹』そのものを破壊しているかだ。なんせ『世界樹』は世界の自浄作用を司るんだし、こんなに魔素霧が蔓延するはずがない。
「おっと……遠目にも見えてきたね? 私ってば結構近くに転移させられたんだなぁ……」
《はい、魔物、来ます! です!》
アリアと一緒にロアのやらかした所業に憤りながら、えっちらおっちらと魔素霧を掻き分けて、この世界の中心に近付いて行く。そうすると、私の視線の先にうっすらと山みたいな影が見えてくる。うむ、懐かしい。これも『ユーニサリア』で体験したぞ? あの時は葉っぱが弾丸みたいになって飛んで来たけど、今回はなにもなしかね? なーんて思ったけど、代わりに沢山の魔物が群れをなして襲い掛かって来るじゃないの!?
グワラァァーッッ!!
「うわっ!? 群れの中に『魔神の残滓』がいる! あの百足の化け物まで! それに『合成魔獣』共が!? そうか、この世界で……『生産』してたって事ぉーっ!? アリア!」
《合点! です! 粒子砲発射っ!!》
ドッゴォォォーンッ!!
ブシュンッ!! と、叫びを挙げる間もなく蒸発する魔物達。鳥型や、さっきの子竜みたいなの、翼生えた猪みたいなのとか色々いたけど、中でも気分悪くなったのはあの『魔神の残滓』や『合成魔獣』が混じっていたことだ。
「ったく! 気分悪い……またあの百足の化け物見せられるなんて……一つの世界をこんな、こんな形で利用するなんてっ!!」
《この世界の人達がロアの犠牲になった姿……ですか? 酷いです……》
実験場とはよく言ったもんだ……ロアはこの世界の生命を使ってあの『合成魔獣』を造り、魔神に利用させて『ユーニサリア』に連れ込んだんだろう……なんてムナクソ悪い!!
「んんっ!? アリア、あそこ! 人が倒れてる!! 降下して!」
《はい、です!!》
────────────────────────────
【それでも……】~無力と感じる~《アリサview》
────────────────────────────
まだほんの少しではあるが、この世界……『ロアの実験場』と呼ぶとして。その『ロアの実験場』の空を飛び、わかったのは。『ユーニサリア』と違い、結構小さな星らしいということだ。
私が最初にこの『ロアの実験場』に飛ばされて見た廃墟、そこに目印となる魔力痕、『聖なる柱』をこう、どっこいしょっておったてて、そこから真っ直ぐ北に飛んで世界を一周してみた感じそう時間かからず、一周できてしまった。多分だけど、『ユーニサリア』の三分の二程度の大きさかな?
んで、ちょいと気付いたのは、『ロアの実験場』はある程度文明が発展していたようだってこと。
いくつかの大陸があって、それぞれに城や街の廃墟があった。
いずれも人の気配は一切なかったから、本当にこの世界はロアにとって用済みとなった世界なんだろう……人々や魔物、いや……おそらくこの『ロアの実験場』に生きるすべての生命は『合成魔獣』製造の材料とされて、『世界樹』の性質を反転させ、自壊するのを待っている。いわば創造神が放棄した世界。
そんな夢も希望もなさそうな世界で……
《本当です! あるじ様、三人。います!》
『ユーニサリア』へと帰還するために『世界樹』を探す道中、眼下の大陸……うんにゃ、島かなあれ? の砂浜に倒れてる三人の人影が見えたのだ!
「我ながらよく見付けたって思うわ……ねぇ! あんた達大丈夫!?」
私とアリアは直ぐ様降下して、倒れてるその三人に駆け寄ったんだけど……
「……駄目、です。あるじ様……この人達、もう……」
「くっ……もう少し、もう少し早く見付けられたら……手の施しようもあったのに!」
なんてこと……遅かった。彼等は既に事切れていて、物言わぬ躯になってしまっていた。しかも、おそらくついさっきまで生きていたんだろう、三人のうち二人にはまだ微かな体温の温もりが残っていた。
「もう一人の女の子は、彼等より前に亡くなっていたみたい。弔おうとしてたのかな?」
「……かわいそう、です。こんなに傷だらけになって……それに、とっても痩せて……お腹も空いてたんだと思う、です……」
ホウキから人化したアリアと一緒に、三人の状態を調べて見たところ、男性と女性二人。冒険者かなにかなのか、男性は腰に剣を差し、二人の女性を庇いながら戦っていたんだろう、身体のあちこちに傷がみられる。
二人の女性のうち一人は『僧侶』だったのか、ミュンルーカが着ているような法衣姿だ。が、脇腹に致命傷となったであろう大きな傷がある。多分回復魔法で傷を塞いだものの失血は大きかったんだろうね、べっとりとした赤い血で濡れている……
もう一人の女性は彼等よりも前に命を落としていたんだろう、触れる身体は冷たく、生気のない顔は青ざめている。胸に剣のような物で刺された痕があるから、これが原因のようだ。
「……手厚く弔ってあげよう、アリア手伝ってくれる?」
「はい、です。でも、彼等から話を聞きませんか?」
なんともやるせなく、そして行き場のない憤りを感じながら、私は砂浜に倒れる三人の亡骸を弔うべくその身を運ぼうとする。とりあえず『浮遊』で浮かせ、アリアに運んでもらおうと思うが、何処に弔うのがいいだろう? そんなことを考えつつ、アリアに手伝ってくれるようお願いすると、アリアは三人の話を聞いてみるべきじゃないかと問うてくる。
「ちゃんと寝かせてあげてから……とも思ったけど、そうだね……この三人も何か伝えたい事あるみたいだし、そうしよっか?」
コクン。と、私の答えに頷くアリア。確かに彼等の『想い』が強く残っているのは感じている。私に何かを伝えたいっていう強い『想い』だ。
「名も知らない異界の冒険者さん? どうか私の声が聞こえたなら、応えてほしい……」
フワァァァー……
『あ、ああ……やはり、やはり貴女様は、貴女様が伝説の魔女様なのですね……』
『辿り着けなかった……最後の希望……『生命の大樹』……済まない二人共……』
『いいのノース……私達の願いは叶わなかったけど……繋げる事は出来た……』
私の『聖域の魔女』としての権能で、亡くなった三人の『想い』が具現する……三人のその悲し気な表情がとても悲しく、胸が締め付けられる……考えても栓のない事だけれど、もう少し早くに私がここに来ていたら、彼等の元気な笑顔が見れたのだろうか?
……ううん。そんなのうぬぼれだよね。どう頑張ったところで私一人で何ができると言うのだ?
────────────────────────────
【十分の一?】~舐めてんじゃねぇぞ!?~《セラview》
────────────────────────────
バァァーンッ!!
「っしゃ! おらぁーっ!! 追い詰めたぞ蛇野郎にエルフ!!」
「おうおうおうっ!! あのエリなんとか言うヴァンパイアのクソッタレは何処行きやがった!?」
アタイ達はガッシュの嗅覚を頼りに、この花崗岩で出来たどこか錆臭ぇ神殿を突き進んだ。
道中、襲い掛かって来やがる吸血鬼に成り果てた奴等を灰に還してな……腹立つ事にそいつらは元々『人間』だったのもいれば、『亜人』だった奴もいたことだ!
「来たか黒い野良犬共……犬らしくよく吠えるではないか?」
「それと……悪魔としての誇りも捨てた出来損ない、か……ああ、魔女に飼い慣らされた猫もいるな?」
「んだとっ!? てめぇらこそただの魔物に成り下がったクズ共だろうが!?」
「よせ、セラ……安い挑発だ。いちいち……反応、するだけ……時間の、無駄だ」
突き進んだ先の大扉を開けると、そこにはよくアリサが使う映像通信みたいな、板がズラリ並べられた部屋で、そこにあの『蛇人』とエルフの奴がいやがった! アタイとブレイドは散々逃げ回るコイツらに腹が立って怒鳴り付けてやったぜ!
そしたら、この野郎共……っ! いうに事欠いて、アタイ等を野良犬呼ばわりした挙げ句、バルガスとネヴュラ、ガッシュの事まで貶しやがった!! ふざけんなよ! てめぇらこそ自分等の都合だけで動く魔物と変わらねぇくせしやがって!
いきりたったアタイは、半ばキレ気味に叫ぶんだけど、デュアードが止めてきた。
「残念ですが私達は貴殿方に用はありません。エリクシルは何処にいるのか教えて下さいな?」
「悪いことは言わぬ。つまらん挑発等止めて、素直に奴の居場所を吐いた方が身のためだ」
お、おう……ど、動じねぇなぁ、ネヴュラとバルガス……なんかバルドもデュアードも、ガッシュも二人を睨み付けてるけど冷静だ。うぅ、なんかアタイとブレイドだけカッとなっちまって恥ずかしい気分だぜ。
「結構な自信だな? ふふ、我等を魔物と称するお前達こそ、群れれば勝てると思っているあたり、余程魔物と呼ぶに相応しいのではないか?」
「なんとでも言えばいい。お前達のような小者相手にかける時間はない、排除して進むとしよう」
「おぉ、怖い怖い。流石は『セリアベール』の『氾濫』を解決に導いたSランク冒険者と言ったところだな? だが……この状況でも同じことが言えるかな!?」
蛇野郎のヴァルジャとか言う奴! ホントムカつくな! 群れて来るからアタイ達の方が魔物っぽい? けーっ!! 今まで散々吸血鬼をけしかけておいてよく言うぜ、バルドの言う通り問答なんてしてると腹が立つだけで、時間の無駄だな! ぶっ飛ばしてあのエリなんとかを探す方がいいや!
んっ!? あのエルフ……ジャイファつったか? 何しやがる気だ!? 板っキレに手伸ばして?
ブゥゥゥゥンッッ……
「な、なに!? 急に体が重くなりました!」
「これは……結界?」「くっ! なにをしたヴァルジャ! ジャイファ!?」
うおっ!? なんだぁーっ! あのジャイファとか言うエルフが板キレのひとつに触れた途端、アタイ等全員すげぇ全身が重くなったぞ! ミストがたまらず膝を床に着けて辛そうだ、シェリーはなんとか立ってはいるが汗かいてやっぱ辛そうだな。いや、それよかやべぇのはガッシュだ。はぁはぁ言って、今にもぶっ倒れそうじゃねぇかよ!?
「ふはは! ガッシュよ、やはり貴様はそうして我等に頭を垂れている姿がお似合いだ!」
「くっくっく……思うように動けまい? 体が重かろう?
これぞロア様が開発された結界術式! 『死への誘い』だ!
この結界の中ではお前達の力は本来の十分の一にされた上、十倍の重力がかけられる!!」
もうお前達に万が一の勝ち目もありはしない! だとぉ~? 野郎ぉぉアタイ等はともかく、こりゃガッシュが危ねぇぞ!?
ダッ! ビュオォンッ!! ザシュウゥゥッ!!
「むぉぉっ!? な、なんだと貴様!?」「ヴァルジャ!!」
勝ち誇ったかのように笑う蛇野郎、ヴァルジャに向かってバルガスが一足飛びに踏み込んで、その大剣……アリサが造ってくれた『盾剣ディフェンダー』で斬りつけた! ヴァルジャは飛び引くもののかわしきれずに左腕に深手を負う! それを見エルフのジャイファが信じられないって表情で叫んだ。
「ほう、確かに力が落ちておるわ」
「ば、馬鹿な!? 貴様、この状況で何故そこまで動ける!?」
ボタボタと流血する腕を押さえ、苦痛に顔を歪めるヴァルジャがバルガスに向けて叫ぶ、ジャイファの野郎も絶句してやがるぜ!
「何故もなにもない、たかが十分の一、十倍の重力?」
「下らない、小細工……」
「残念ですけどね、そのくらいで埋まるような実力じゃないのですよ~?」
よっと! なんだぁ~最初はビックリしたけど、馴れちまえば大したことねぇな。バルドにデュアード、ミュンルーカもアタイと同じように馴れたんだろう、この結界を意に介さず動き出す。
「な、なな、なんだと……! 馬鹿な馬鹿な!」
「ええいっ! 出合え出合え!! コイツらを生かして帰すな!」
オオオォォォーッ!!
バタンッ! バタンッ! ダダダダダッ!!
「へっ! なんだよ情けねぇ? ぞろぞろと仲間呼びやがって!」
「みっともないです」「ふふ、どちらが魔物なのかしら?」
ブレイド、ミスト、シェリーもアタイに続いてヒョイっと立ち上がる。
やれやーれ。わーわーと、まぁ騒がしいぜ。バルガスに斬られて、アタイ達がなに食わぬ顔で立ち上がっただけでみっともなく取り乱し、慌てて隠れてた仲間も呼び出しやがったぞ、この馬鹿二人?
「お、お前達、動けるのか!? す、済まん……私は、立ち上がるのがやっとだ……」
「ガッシュさんは無理せず休んでいらして」
「よぉネヴュラ? また『セリアベール』の防衛ん時みてぇに暴れてやろうぜ!」
ドゴォォンッ!! ちょいとアタイがアルティレーネ様に造ってもらった得物『ヴァランガ』を床に叩き付けて、クレーターを作ってやりゃ「ひぃっ!」とか言ってビビるヴァルジャとジャイファの仲間共。ったく! 情けねぇ!
アタイはガッシュを守るように防御魔法をかけるネヴュラに声をかける。ネヴュラとこうして共闘すんのは、あの『セリアベール』でヘカトンケイルと闘りあった時以来だ。まぁ、『無限円環』での訓練でも一緒したけど、ありゃ訓練だからな。
「ふふ、なんだかもう随分と懐かしいですね? いいですよ。今回は夫もおりますし、格好いいところを見せなくてはいけませんわね♪」
へへっ、言いやがるぜ! そんならアタイもバルドの奴にいいとこ見せてやるとすっかな!
「なにを恐れている! かかれかかれぇぇーぃ!!」
「っしゃぁ! 行くぜみんな! このアホンダラ共をぶっ飛ばす!」
おおぉぉーっ!!
アタイの号令にみんなが応える! さぁ、とっととコイツら倒して親玉のとこに行こうじゃねぇか!!
ミスト「それと、もうひとつ気付いたんですけど……(*´ω`)」
ネヴュラ「アリサ様のことですか?(゜ー゜*)」
デュアード「なにに……気付いた……?(´・ω・`)」
ミスト「えへへ( *´艸`) 『メビウス』で一日経つ度に、アリサ様の私達を見る目が凄く優しくなっていたんですよ♪(*´∇`*)」
ブレイド「あ~(・o・) そういや俺もそれ感じてたわ( ̄▽ ̄;) なんかすげぇニコニコしててよ、菓子くれんのな?(*゜∀゜)」
バルド「ユニ殿とアリア殿に、シャフィーとネーミャが美味しそうに食べていたあの飴とかか( ´ー`)」
ミュンルーカ「あ~♪(°▽°) 美味しそうだなぁ~って羨ましく思ってたらワタシにもくれたんですよ、その飴ちゃん( ≧∀≦)ノ」
セラ「母親通り越しておばちゃんになってんじゃねぇのかそれ?(゜A゜;)」
シェリー「それは、流石に(^_^;) ……でも、『セリアベール』で商店街歩いてると、よくおばさま達が気さくに「これ持っていきな!」って、色々くれるのよね(;´∀`)」
ガッシュ「よくわからんが(-_-;) その『メビウス』とやらでのアリサ様は、そのご婦人達のようであったと?(;`・ω・)」
ミスト「あはは……(゜∀゜;) 確かに同じものを感じましたね(^ー^)」
バルガス「うぅむ(ーー;) 一体どのような訓練をされておられたのだろうな?( ・`ω・´)」
ブレイド「アリサ姉ちゃんのこったから、ユニ達を喜ばせるにはどーすっかとかだぜきっと!ヾ(≧∀≦*)ノ〃」
ガッシュ「いやいやΣ(゜ロ゜;) その結果がおばちゃん化なのか!?(゜Д゜;)」
ミュンルーカ「あらぁ~( ̄0 ̄)/ ミストちゃん今日もめんこいねぇ~♪o(*⌒―⌒*)o」
ネヴュラ「ブレイドくんは今日も元気いっぱいだない?(*`艸´) んでも、やんちゃばほどほどにしなぁなんねぞい?(*≧∀≦)」
セラ「ほーら、飴ちゃんやるべ(*´▽`*) 食わんせ食わんせぇ~♪(´∀`)」
バルド「ぶっ!( ´,_ゝ`) ハハハハッ!!。゜(゜^∀^゜)゜。」
ブレイド「ワハハ!!( ^▽^) そうそう! (^∇^)」
ミスト「あはは♪(*´∇`*) そんな感じそんな感じ~♪(((*≧艸≦)ププッ」
みんな「あははははっ!!(*`▽´*)」
吸血鬼達「えぇ~?(゜Д゜;) アイツ等なんで敵陣で笑ってんの?((゜□゜;)) 怖いんだけど……o(;д;o)」




