18話 『魔の大地』の異変
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【『魔の大地』へと出発】~レイリーアview~
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「じゃあ、行ってくるわねダーリン♪」
「うん、気をつけて行ってらっしゃいレイリーア」
ちゅっ♪
恋人のラグナースに行ってきますのキス。『魔の大地』へのルートが決まったと、先日斥候のゼルワと魔法使いのサーサが『セリアベール』に帰って来て教えてくれたの。
「見つかると良いね、『神々の雫』が……僕もアイギスさんにはお世話になっているから助けになりたいなぁ」
ラグナースは『セリアベール』の商人、その誠実な商売は小さい店舗でありながらも、住人達の間で評判が高いのよ?
「あら、この『身代りの宝珠』だけでも十分じゃない? わざわざ借金してまで用意してくれたんでしょう?」
懐から取り出す飾り気のないネックレス、『身代りの宝珠』は一度だけ所有者の命を肩代わりしてくれるという、と~ってもお高い魔装具。それをわざわざアタシ達『白銀』のメンバー分用意してくれたラグナース。
「大切な人達の命をお金で守れるなら僕は躊躇なんてしないよ。だからねレイリーア……必ず帰って来てほしい」
「~~っ!!」
あぁっ! もう! 好き好き! なんて素敵な人! 堪らないわ! そんな胸にグッとくる台詞を言われたらアタシ、昨夜あんなに愛し合ったばかりなのにまた求めてしまいそう!
「思い出すなぁ、初めて『白銀』……いや、結成前のみんなに出会ったのは僕の護衛クエストだったね?」
「えっ!? えぇ、そうだったわね!」
いけないわ、多幸感に酔って我を失うところだったわ……これから『魔の大地』に向かおうっていうのに。気を引き締めなきゃ駄目ね!
「今思うと凄い豪華なメンバーだよねぇ~♪ 後のSランクパーティー『白銀』となるみんなが勢揃いだったんだから!」
「ふふっ、そうね。当時はみんなひよっこだったわ……懐かしい」
そう、アタシとラグナースが出会ったのは彼の護衛クエストがきっかけだったわ。デールの仲介でラグナースを紹介されて、同じようにアイギス、ドガ、ゼルワにサーサが揃ったのよね。当時ソロメインだったアタシでもちゃんと受けられるようにって、デールが手配してくれたってのを聞いたのはクエスト達成後だったけれど。
当時はアイギスとドガ、ゼルワとサーサがそれぞれコンビを組んでいて、アタシがソロだった。ラグナースの護衛クエストで出会って、意気投合して……いっそパーティー組もうってアイギスが言い出して……
「今でもハッキリ思い出せるよ、あの時のアイギスさんカッコ良かったねぇ」
「ちょーっとぉ!? ダーリン?」
あまりにアイギスの事ばかり褒めるので少し怒った素振りを見せると、ラグナースは「ごめんごめん」って苦笑して謝ってくる。まったく、そういうところも変わらないわね! 確かに危うく命を落としそうになった攻撃を庇ったのはアイギスだったけどさ! 襲いくる魔物をやっつけてたのはアタシ達だって負けてないのよ?
ま、それ以降ラグナースはそれはもう精力的に東に西に南に……北は『魔の大地』があるから避けていたけど、とにかく走り回って商いの手を広げていったのよね。その度に大抵アタシが護衛につくことが多くて、気付けば恋人になっていたわ。
「レイリーア」
「うん」
アタシ達は見つめ合ってもう一度キスをする。
「待っているよ、君が元気に帰ってくるのを」
「ええっ! 期待しててラグナース。『魔の大地』で取れる様々な素材をお土産に『白銀』みんなで帰ってくるわね!」
愛しい恋人に見送られてアタシは『ラグナース雑貨店』を出ると、『白銀』の家に足を向ける。途中道行く街の住人達と挨拶を交わしたりするのだけど、ここは本当に居心地が良いわ。ダークエルフだからといって誰も差別などしないし、一部を除けばかなり治安も良いし。
「どの国にも属さない、自由の街……ギルマスがなんか代表者みたいになってるけど。上手く機能するものね」
願うならこのままが良いのだけど……未来を見据えるなら街から国へと、しっかりとした地盤を固めた方が良いでしょうねぇ。まぁ、アタシのような一介の冒険者がどうこう出来る問題じゃないけど。
住む街の将来を柄にもなく憂いたりして歩を進めれば『白銀』の家に到着だ。
「おはよう、レイリーア」
「おー、やっと来たな!」
「遅いぞレイリーア、あまり老人を待たせるでない!」
「おはようレイリーア、しっかり休めたか?」
あらら、どうやらアタシが最後に到着みたいね、ラグナースと思い出話に興じていたら遅くなっちゃったわ。ドガはプンプン怒ってるように見えるけど、実はそんなに怒っていないって長い付き合いでわかっている。サーサもゼルワもアイギスも笑顔だわ、どうやら『魔の大地』に向かうことに萎縮、なんてことはないみたいね。
「ふふっ♪ ごめんなさいね、実はラグナースから素敵な贈り物があるのよ」
ラグナースから受け取った『身代りの宝珠』をメンバー全員に配るとみんな驚いてくれたわ!
「これは! 『身代りの宝珠』じゃないか!?」
「スゲェ! 俺達全員にかよ!?」
「なんと……ラグナース殿には感謝せねばな!」
「こ、ここ、こんな高価な魔装具を!?」
一気にみんなの気概が高まるのを感じる、そうよね! ラグナースの気遣いに嬉しさが込み上げてくるのはアタシだけじゃない、お互いに付き合いが長い分尚更嬉しい筈よ。
「よしっ! 行くぞみんな!! ラグナースの心、無駄には出来ない! 私達は必ず目的を遂げる! それは既に決定事項だ!」
「「「「おぉーっ!!」」」」
アイギスの一声にみんな腕を上げて応える! 最高ね! 今のアタシ達ならどんな相手でも負ける気がしないわ! 勇ましい音楽が聞こえてきそうな昂りよ! そんな感じで、意気揚々と街を出ようとするアタシ達だけど、街の北門に差し掛かってまたびっくりしたわ!
「おぉ、来たなお前達!」
「やぁやぁ~『白銀』の諸君! 見送りに来たぞーっ!」
「アイギス、必ず帰って来いよ~!」
「お前達がいない間の街の事は任せとけーっ!」
なんと! ギルマスのゼオンを始めに『セリアベール』の主だった冒険者のみんながアタシ達の見送りに集まってくれていたのよ!
「みんなっ!!」
「ワハハっ! これはこそばゆいのぅ!!」
「ははっ! コイツはスゲェ! 勢揃いじゃねぇか!」
「びっくりしました……ふふっ何か嬉しいですね♪」
集まってくれたみんなに「お土産よろしく~」とか、「無事に帰って来いよ」とか、「頑張って来い!」とかまぁ、沢山激励されちゃったわ。やっぱり良い街よね『セリアベール』!
アタシ達は必ず帰って来るって改めて決意が強まった瞬間だったわ!
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【異変】~ドガview~
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まったく……儂は自分が不甲斐なくて仕方ないわい。
『魔の大地』へと向かう道中、ばかでかいバックパックを背負い、儂は思い出しておった。
先日のスタンピート……『黒狼』の若造を庇い左腕を失ったアイギス。儂がついていながらなんたる体たらくじゃ。代われるなら代わってやりたいもんじゃ。
アイギスと出会うたのは儂と家内が街道で魔物の群れに襲われた時じゃった、儂等ドワーフはその小さい背丈の分足が遅いでな……戦える儂はともかく、その術を持たぬ妻は危ういところだったんじゃ。そこに颯爽と現れたのがアイギスじゃった。おかげで妻は九死に一生を得て無事に済んだのじゃ。
それ以来、儂はアイギスと共に冒険者稼業を続けておった。デールの紹介でラグナース殿の護衛クエストを受けた時にサーサ、ゼルワ、レイリーアと出会うてな。すっかり意気投合した儂等はそのままの勢いでパーティーを組んだんじゃ。
そんな長い付き合いの儂が側におりながら……はぁ~、いかんのぅ折角高揚した士気もぐるぐると巡る思考にすっかり下がってしもうた。
「ドガ……まだ気にしているのか?」
「いやなに、暫く酒が飲めんなぁ~と、思っておっただけじゃ」
これもまぁ、本当に思うとる事じゃ『セリアベール』でクエストをこなし、家や酒場や我が家で酒を楽しむというならまだしも、今は旅の道中。いつ魔物が襲って来るかわからんからの。野宿では仮眠しかとれんし、見張りもせねばならんから飲んどる場合じゃないんじゃ。
「はははっ! 『魔の大地』の素材で美味い酒が出来るかもしれねぇぜドガ」
「ふふっ、そうだな。もしかしたら神々の雫を使った酒があるかもな……私は酒を嗜む事はないが」
「勿体無いわねぇ、アイギスが酔ったところ見てみたいんだけどな~」
皆が笑う。どうやら上手く誤魔化せたようじゃ、折角高揚した士気を儂のせいで下げる訳にはいかんからな、一安心じゃわい。
「まったく……貴方といい、ギドといい、ドワーフという種族はどうしてそうもお酒が好きなんでしょうねぇ?」
「ふはは! 儂等ドワーフにとって酒は切っても切れぬものじゃからのう」
呆れるサーサを笑い飛ばす。儂等ドワーフは皆酒好きじゃからの!
そんな他愛もない会話をしている時じゃった。
ーオォン
「!? い、今……何か……感じましたかみなさん?」
「あぁ……とんでもねぇ魔力が遠くで爆発したみてぇな……」
「……まさか『魔の大地』から来てるのこの魔力波」
かすかではあるが何かが遠くで爆ぜる音が聞こえ、魔力に敏感なエルフ達。サーサ、ゼルワ、レイリーアが真っ先に反応しおった。
「アイギス、感じたか?」
「あぁ……今までこんな事はなかった、一体『魔の大地』で何が起きているんだ?」
肌を刺すようにビリビリとした魔力の波長を儂もアイギスも感じておる。戦士である儂、騎士たるアイギス、互いに魔力の動きにはそれほど精通しておらぬのにも関わらず、これほどハッキリと感じるとは……
「おっと! みんな構えろ! ビビった魔物がこっち来るぜ!」
「ロックウルフにスモールベアか、行くぞドガ! いつも通りだ!」
「応! 任せぃっ!」
ゼルワが素早く得物のダガーを抜き放ち一声をあげおった、見れば先程の魔力波に驚いたのじゃろう、狼が五頭、熊が三頭。計八頭の魔物がこちらに向かって走ってきおる。
ロックウルフ。『セリアベール』周辺の岩場によく生息しておる狼型の魔獣で見た目は普通の狼じゃ、しかしこやつ等は石礫や、岩の刺といった土属性の魔法を使うてきおる。その危険度はBランクじゃが、大抵群で現れるでな……Aランクと言っても過言ではないのぅ!
スモールベア。危険度Bランクの名の通り熊型の魔獣じゃな、スモールと頭に付くので誤解されがちじゃがの、儂等からして見れば十分にデカイ体躯をしとる! その身の丈二メートル以上じゃ。いやはや、これでスモールと言うんじゃから恐れいるわい。有名なグリズリーなんぞはこやつ等の三倍位はデカイんじゃがの!
「あの大きさでスモールって言うんですから、熊の魔獣は凄いですね」
「アハハ、アタシにとっちゃいい的だけどね!」
脚の速いロックウルフをゼルワが撹乱しつつ、ダガーを急所に走らせる。
「おっと! そんな見え透いた攻撃当たらねぇぜ! おらよっと!」
「ギャワンッ!!」「キャインッ!!」
隙を見て放たれるレイリーアの矢が、サーサの放つ魔法が的確に貫いてゆく。
「炎槍よ敵を貫け! 炎の槍!!」
「ギャンッ!!」「ギャインッ!!」
「ウルフはラストっと!」
「ワギャーンッ!」
瞬く間にロックウルフが倒される、皆手馴れたもんじゃ。儂とアイギスは後続のスモールベアを迎え討つ構えじゃ。難なくロックウルフを退けた三人の前に儂とアイギスが躍り出る。
「魔物相手に試すには良い相手だな」
「無理はするでないぞアイギス!?」
「「「ガオオォォッ!!」」」
スモールベアは儂に一頭、アイギスに向かって二頭が襲い掛かってきおった。
「舐められたもんじゃのう! 儂を相手に一頭で足りると思うたか!?」
ガギィィンッ!
振り下ろされる爪を籠手で受ければ、ほれ、良い位置に頭がきおったわい!
「フンッ!!」
「グアッ!!?」
ザシュッ! 戦斧を一閃、前屈みになり、程よい位置に来たスモールベアの首を切り落とす! 他愛のない相手じゃの! さて、アイギスの方はどうじゃ?
「ふむ……良い感じだ、このくらいの負担なら何の問題もなく戦える」
その左半身を丸々カバーするかのような大盾を肩だけで巧みに操り、二頭のスモールベアの攻撃を受け止めて感想をもらすアイギス。勿論普通はそんな芸当は出来はせん。
「ギドの奴はなかなかに良い仕事をしたようじゃな! ほりゃあっ!!」
「ガオオオォォンッ!!?」
アイギスがその盾で弾いた一頭の脳天にジャンプしての一撃を見舞い黙らせると、残り一頭の攻撃をいなしたアイギスの剣がその喉笛に突き刺さる。
「ガァァッ!!」
「あぁ、まさか魔装具に仕立て上げてくれるとは思わなかったよ」
そう、腕を失い肩だけで盾を扱うのは困難を極めるとして、ギドが出した答えが魔装具による補助なのじゃ。
「確か『反発』の魔法を組み込んでいるのですよね? 嫌ですね、おいくらしたんですか?」
「……金貨二百枚」
「ぶふっ!? マジで!?」
「高っ! アイギス借金確定じゃない?」
サーサの問いに目を反らし答えるアイギス。その金額にゼルワもレイリーアも驚いておる。ほほ、ギドめ随分とふっかけよったのう、Sランクの冒険者とは言え金貨二百枚は相当じゃぞ? まぁ、その真意は「生きて帰って来てちゃんと返済せい」という事じゃろうがな。
「はぁぁぁ~、レストクリスタル五個で金貨二十五枚、アイギスの大盾に二百枚、ラグナースさんから頂いた『身代わりの宝珠』のお礼も考えるととんでもない出費に……」
ーオォン!!
「うおぉ!? またかよ!」
「まだ『魔の大地』までは一日以上の距離があると言うのに、届くとは」
「ふむぅ、『魔の大地』で何かが起きておるのは間違いないじゃろうな」
二度目の魔力波の波長をビリビリと肌に感じ、冷や汗が出る儂等じゃ。やれやれじゃのう、今からこんなに緊張しておっては身がもたぬぞい。
「今考えたって仕方ないわよみんな。とにかく進みましょう? 適度に緊張しつつね」
「そうですね、レイリーアの言う通りです。幸いこの魔力波に悪い感じはしませんし、周囲を警戒しつつ先に進みましょう」
ほう、大したもんじゃ。いざと言うときはおなごの方が肝が据わっておるのやもしれんのう。
儂等は互い頷きあい、先に進む事にしたのじゃ。
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【神の降臨】~ゼルワview~
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ドオオォォーンッッ!!!
「何だ!?」
突然の轟音に俺達はビビって、一斉に顔を向ける。
「な、何じゃあれはっ!?」
「ま、魔力を高密度に収束した砲撃……でしょうか?」
『魔の大地』の魔素霧を穿つように、一条の光の帯が『魔の大地』から天空に立ち上っては消えていくその光景を、俺達はハッキリと目にしていた。間違いなく今『魔の大地』に異変が起きていやがる。
「すげぇもん見たな……ははっこうなってくると寧ろ楽しみにすらなってきたぜ!」
「ふふっそうね、アタシもゼルワと同意見よ。やっぱりアタシ達って冒険者なのよね」
俺と同じでレイリーアは恐怖よりも好奇心が勝つみてぇだな。確かにビビったけどよ、さほど恐怖は感じなかった……いや、不思議だが、何故か温かさすら感じたくらいだぜ。
「うむ、何はともあれ夜営の準備じゃ。陽が沈む前に済ませるぞい」
「あぁ、そうだな! いつもよか警戒して進んだぶん思ったよか遅れてっけど仕方ねぇな」
予定じゃあ既に『セリアルティ王城跡地』に到着している筈だったんだけどな、いつも以上に慎重に来た分、予定よか遅れてんだよな。
俺達は無理をせず、陽が高い内に夜営に適した場所を決めて休むことにする。「余裕ある行動こそが命を救う」って、デールが教えてくれてたしな。
「でもよ、驚いたぜアイギス。前よっか安定感増してね?」
「ただ転んで起き上がる、だけでは意味がないからな……だが、やはり日常生活は不便さを感じるな」
転んでもただじゃ起きねぇってのを地で行くアイギス。流石だぜ!
みんなで火を囲んでの食事中、左腕のないアイギスは食器を持つ事が出来ねぇから、枯れ木を使った簡易テーブルを用意してやった。今はそれに乗せたスープをスプーンで掬い口に運んでいる最中だ。
「アイギスもいい加減彼女とかつくったら? こういうときに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる彼女♪」
「そうじゃぞアイギスよ、主もいい歳なんじゃ伴侶を見つけておくのも大事な事じゃ」
おーっ! そいつはいいな! 俺とサーサ、アイギスとその彼女でダブルデートとか面白そうじゃねぇの? でも、なんかアイギスのヤツ乗り気じゃねぇみてぇだな。
「なかなか理想の相手が見つからないのでしょう、アイギスに言い寄って来る女性は『Sランク冒険者』、『白銀のリーダー』として見る者が大半のようですし」
あー、あー……そう言うことな。俺も何度か見かけたわ、つーかアイツ等……
「腕なくしたらそいつ等、あからさまにお前に興味無くしたよな? ムカつく通り越して呆れたもんだぜ」
どうも、名声目当ての女ばっかが寄って来るもんだから、アイギスのヤツ軽い女不信なんだった。「アイギス」っていう個人じゃなく、サーサが言うように『有名な冒険者』ってしか見られてねぇんだ、そりゃあ欲の皮が突っ張った女共に群がられたら嫌にもならぁな。
「とても騎士として命を賭けて守る……等と想える相手がいなくてな」
「あ、じゃああの二人ならどう? あの魔法使いと僧侶の二人組!」
「あぁ、確かCランクの……リールとフォーネでしたか?」
レイリーアの言う二人組ってのは、確かどのパーティーにも属さねぇでフリーを貫いてる女冒険者だな。魔法使いがリール、僧侶がフォーネだったっけ? いつだったかサーサと俺がクエスト行けなくてそん時、臨時のパーティー要員ってことで組んだとか聞いたな。
「おぉ、あの二人組か。覚えとるぞ~二人だけでCランクに至っただけあって、なかなかに実力があったのう!」
「あぁ、確かサーサが風邪で寝込んじまった時の話だよな? あん時は俺も看病で行けなかったから後で礼言っといたぜ」
「えぇ、気の良い二人でした」
魔法系の二人だけで、Cランクまで登り詰めたっつー二人の実力は確かに本物なんだろうぜ。上手いこと前衛とパーティーを組めればあっという間にランクを上げて来んじゃねぇかな? あれ……でもあの二人って……
「まだあの事件からそう日が経っていないんだ、そう簡単にはいかないさ」
「あー……『迅雷』の馬鹿共な、あの二人騙して手籠めにしようとしてたんだっけ?」
そうだそうだ、『迅雷』っつー馬鹿共パーティーがやらかしたんだ。あの二人って結構可愛いからな~まぁ、サーサ程じゃねぇけど! そんな二人がパーティーを探してるってなりゃアホな事を考える輩も現れるってわけよ。幸い二人がひでぇ事される前にギルドが察知して事なきを得たんだよな……余談だけどギルマスのゼオンがものすげぇ剣幕でキレたって話だぜ?
「最低ですね、女の敵です」
「ま、『迅雷』は解体されて『セリアベール』から追放処分されたんだし。無事で良かったんじゃねぇの?」
「そんなことないわよ、彼女達は無事なんかじゃないわ、大分ショックを受けてそれ以来絶対にパーティーなんて組まないって言ってるくらいなのよ?」
「男性不信に陥っているそうだぞ? あのデールでさえ空気を読むくらいだ」
マジか……あの尻撫デールが!? いや~やべぇな、心に負った傷ってのは癒えにくいもんだ、俺ももうちっとばかしあの二人に気を使うとするかね、いや、でも腫れ物扱いにならねぇようにしねぇと……
「そんな子達だから、誠実なアイギスに合うんじゃないかなって思うんだけどなぁ」
「レイリーア、無理強いするものではありません」
そうだけど~と、サーサとレイリーアは二人、女同士で盛り上がる。
俺達は固ぇパンをスープに浸して平らげて、見張りの順番決めて、一夜を明かすのだった。
「おいっ! みんな見ろよ!」
次の日。俺は『魔の大地』の更なる異変に気付き、みんなに向かって大声をあげていた。
「ウソ……魔素霧が……そしてあの樹ってもしかして!」
「『魔神戦争』以後晴れたことのないと言われていた魔素霧が……と言うか、ここからでも見えるあの巨大な樹はなんなのだ?」
「綺麗に澄み渡っています! あの樹はもしかすると世界樹かもしれません!」
「世界樹じゃと!? あのお伽噺のか? 霧が晴れた事といい……これは一大事じゃ!」
俺達は今、『セリアルティ王城跡地』から『魔の大地』を眺めてる。
こないだサーサと一緒に確認した、内海に出るための船着き場がこの王城跡地にあり、そこから俺の持つ『魔導船』で『魔の大地』の東側に回り込み上陸するって手筈なんだけどよ。ん? なんで東かって? それはな、『魔の大地』の南は火山地帯、北と西は船着き場が南東寄りにある分距離があんのよ、だから、比較的緩やかな山脈の東側がベストってわけだ。
しかし、ここに来て新たな異変に俺達は驚きを隠せねぇでいた。なんと『魔の大地』を覆っていた魔素霧が綺麗サッパリと消えてんだもんよ! それだけじゃねぇ、霧が晴れて見えるようになったあのデカイ樹! お伽噺の『魔神戦争』が、実際の歴史を元に作られたのかはわかんねぇけど……もしあれが本当にお伽噺の世界樹だとしたら……とんでもねぇ大発見だぜ!?
「これは好機じゃ、天も我等『白銀』に味方してくれておる!」
「おっしゃーっ! 善は急げだぜ早いとこ乗り込もうぜ!」
「ええっ! こんなチャンス滅多にないわ! 急ぎましょう!」
ドガが魔素霧の晴れた『魔の大地』の空を見上げて、その顔に歓喜を浮かばせて喜ぶ、俺とレイリーアもこの好機を逃すかと大仰な手振りで皆を急かす。みんな急ごうぜ!
「待って……待って下さい……あ、あれは……何ですか?」
しかし、サーサだけは空を見上げたまま動かない。一体どうしたってんだ?
サーサが青ざめた顔で空を指差す。何かと思い俺達は再び『魔の大地』にそびえる樹の上空に目を向けると、また驚く事になった。
「嘘だろ……? まだ真っ昼間だぜ、何でこんなに暗く」
「あぁぁ……あんな巨大な魔方陣、見たことありません」
開いた口が塞がらねぇ。とはよく言ったもんだぜ……世界樹と思われる樹から上空に一筋の光が立ち上り、昼間にも関わらず夜の帳が落ちたように辺り一面が暗くなった。かと思えばその上空にここからでも見えるほどのバカデケェ魔方陣が描かれている。
「おおぉっ! 見よ! 魔方陣が開かれて行くぞ!」
「まさか……まさか!! あれは門なのか!?」
これじゃまるでお伽噺の再現じゃねぇか!? まさか、まさか……アイギスの言う、あの門ってのは神々が住まうって言われてる『神界』に繋がって……っ!?
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【夢の君】~アイギスview~
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「か、神が……降りて来る!!」
「「「「!?」」」」
私が声を上げれば皆も絶句して息を飲み、成り行きを見守る構えになる。かくして門は開かれ、一つの光が降りて来た!
「す、凄まじい魔力じゃ! この距離でも気を張っとらんと倒れそうじゃわいっ!!」
「いいえ! これは魔力じゃありません! おそらく『神気』です!!」
「ま、マジかよ……? マジで神が降りて来たってのかよ……」
「あ、アタシ達、Sランクなんて粋がってたけど……はは、お笑い草だわ……」
震えが、止まらない……あまりの格の違いに身動きが出来ない……神とは、ここまでのものなのか!? だが、だが……何故だ……?
「やべぇ……かなりやべぇってのは、よくわかった……けどよ、なぁ……変なこと言っていいか?」
「ゼルワ……? 何ですか?」
大量の汗をその顔に浮かべたゼルワが私達に問い掛ける、なんとなく彼が何を言うのかがわかる気がする、ゼルワは恐らくこう言いたいのだ。
「『懐かしい』……と、感じているんじゃないかゼルワ……いや、皆も?」
「アイギス、お前も?」
あまりの力に戦慄していた私達だが、漸くまともに動けるようになった。
思わず膝をつくと、皆倣うように地面に座り込み大きく息を吐く。
「あぁ、不思議なんだがあの光が降りて来た時……何故だかひどく懐かしいと感じたんだ」
「俺もだぜ」
「儂もじゃ」
「アタシも」
「私もです」
やはり全員が同じ思いを感じたのか……不思議だな。もしかしたら神とはそういうものなのかもしれない……誰もが同じような思いを抱く存在、それが神なのだろう。
「はぁ~、しかしよう……みんなも感じたように、あんなの手に負える相手じゃねぇぜ?」
「そうね……何が起きてるかはサッパリわからないけど、もし敵対したらまずいわ」
「……『魔の大地』がお伽噺で『聖域』と呼ばれていたのは本当だった。やはりあの樹は世界樹ということなんですか……それはつまり、神々やその遣い達の淵叢であるということで……」
「うむ、彼の地が伝え聞く『聖域』であるならばじゃ、儂等が求める神々の雫の有無も信憑性をおびてきおったという事でもあるぞ!」
皆の意見に私は思考する、先ず先程の光。あれが本当に神なのかどうかは定かではない、だがあの力は本物だ。ゼルワとレイリーアが言うように私達が全員死力を賭したとしても絶対に届かないだろう。そんな超常の存在がいる地へ足を踏み入れるのは自殺行為に等しいのではないか?
しかしだ、もし本当に神なのだとしたら……『魔の大地』が『聖域』なのだとしたら、神々の雫の手掛かりが得られるかもしれない。
「あ……駄目だ……みんな王城跡地入口くらいまで戻ろうぜ」
その最中、ゼルワが迷わず後退を進言してきた。一体何故? と、問うよりも早く、『魔の大地』を見て理解する。
「え、また魔素霧!? でも、ちょっと感じが違うわね?」
「あれは……『呪いの紫煙』!? この禍々しい感じは間違いないと思います!」
再び霧に覆われたその大地、サーサが言うには『呪いの紫煙』との事だが、それはお伽噺『魔神戦争』の一節にもある、魔神とその眷属が現れる前兆だ。もし、それが本当なら魔神、魔王、悪魔と言った世界に破滅をもたらす存在が顕現することになる!
「うおぉっ! あれは戦闘が始まっておるのか!?」
「くっ……なんて魔力の奔流だ! 私達の手に負える問題じゃないぞこれは!」
駄目だ! これはどうしようもない。紫煙立ち込める『魔の大地』では何者かが紫煙から出現する魔神の眷属を相手に戦闘が繰り広げられているのだろう、凄まじい魔力が飛び交い怒号と轟音が絶えず鳴り響いている! とてもではないが近付く事など出来ない!
「跡地入口まで後退する! そこで監視して、最悪の場合来る敵を食い止めるぞ!」
「了解!」
「サーサ、使い魔でギルドへ連絡する手筈を準備しておいてくれ! 一時間程様子を見て状況を把握する」
「わかりました、ゼオンに避難誘導の指揮を取ってもらうとしましょう」
「魔神の眷属達だかなんだかわからないけど、そいつ等と戦ってる誰か達! 頼むわよ!」
「うむぅ~歯痒いのぅ! 儂等にもう少し力があれば!」
私はメンバーに指示を出し『セリアルティ王城跡地』の入口まで後退することにした。ドガの言う通り歯痒い思いを抱いて。今は戦ってくれているであろう誰かの勝利を祈るしか出来ない。
「サーサ、『魔神戦争』の内容は覚えているか?」
王城跡地の入口に簡易キャンプを張った私達は、相変わらず魔力の荒れ狂う『魔の大地』から目を離さずに、今では重要な手掛かりであろうお伽噺。『魔神戦争』の内容を思い出そうとしていた。
「確か、何処からか現れた魔神が魔王と眷属を引き連れ、世界を破壊し始めたところに主神ティリアと創世の三神、アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの加護を受けた勇者とその仲間達が遣わされ戦うというお話ですね」
あぁ、そうだ確かそう言う話だった。幼い頃に聞いた思い出が甦る。
「でも、魔神に世界樹が呪われちゃって三神はこの世界に顕現出来なくなっちゃったのよね?」
「世界樹は確か『聖域』の象徴で『神界』に繋がる門って話だったな」
レイリーアもゼルワもよく覚えているな、そう。それ以来この世界は神を失い、次第に信仰も薄れていったのだ、それが僧侶の少ない理由である。
「しかし、残された勇者達は見事やり遂げたんじゃ……その命を引き替えに、魔神を討伐し世界に安寧をもたらした」
お伽噺『魔神戦争』の内容は概ねそのような物だ、魔神は勇者達に倒された筈。では、今起きている異変は何なのだ? サーサはあの紫煙を呪いと言った、その呪いは誰が何のために?
「……アイギス、紫煙が消えて音が止みました。暴れていた魔力も凪いでいます」
サーサの声に思考の海から引き揚げられた私は、知らず俯いていた顔を上げ、改めて『魔の大地』……いや、『聖域』を見つめる。
「戦いが終わったってのか? 一体どうなったんだろうな?」
「嵐の前の静けさ……なんて事じゃないといいけどね……」
「どうするアイギスよ? 思うままに決めて良いぞ、どのような判断でも儂等はついて行くからの」
確かに禍々しい紫煙が消えて、飛び交っていた戦闘音も止み『聖域』は静けさを取り戻している。だからと言って迂闊に近付くのも危険を感じる……さて、どうするか……
「……一日様子を見る。交代で見張り、変化がなければ明朝上陸するぞ!」
「オッケー! それで行こうぜ!」
「わかったわ、ふふっ焦らず現状を見据えた良い判断だと思うわ、流石ね」
「うむ、では早速夜営地を決めようぞ」
「少し緊張しますね……ちゃんと眠れるかしら?」
夜。『聖域』は変わらず静けさを保っている、このまま何事も起きなければ良いのだが。
私は簡易テントに用意した、毛布一枚のこれまた簡素な寝床に横になり眠りに就いていた。非常時に備え、鎧も身に付けたままなので熟睡などは望むべくもない、更には失った筈の左腕が痛みを訴え、私を苛むのだ、幻肢痛と言うのだったか?
浅い眠り、続く幻肢痛のせいかこれは夢だとはっきりと理解できる夢の中に私はいた。
「…………?」
「……」
誰だろうか? 私ともう一人……自分の声も相手の声も聞こえないが、白一色の世界に私と楽し気に話すとても美しい少女。
艶があり、吸い込まれそうな漆黒の長い髪によく整った顔立ちは一見冷たそうに見えるが、コロコロと変わる表情がそれを感じさせない。
(美しくも可愛らしい女性だ、何を話しているのだろう? ……声が聞きたい、名を知りたい)
白銀の軽鎧に身を包み、二対四翼の光を纏った翼が彼女の美しさを一層引き立てている……溢れる神気も相まってまるで聖女のようだ。
「…………」
「……?」
「……」
彼女……仮に夢の君と呼ぶとして、夢の君が何事か呟くとこの場にもう一人誰かが現れる。こちらは夢の君ほどはっきりとは顔も姿も見えない、シルエットから夢の君によく似ているように思えるが……何故見えない? と、疑問に思っても夢だから仕方ないか。
「……! ……っ!」
あぁっ! 可愛い! どんな会話から夢の君がそうしたのかはわからないが、私に向けられた「あっかんべー」はあまりにも可愛らしい!
「……」
「……」
「……!」
あっ! 待ってくれ! そう叫ぼうにも声が出ない……せめて名を! 貴女の名前を教えてほしい! しかし、無情にも夢の君との距離が離れて行く。
(くっ……どうすれば! 何処に行けば貴女に会えるのだ!? 会いたい! 貴女に!!)
うおおぉっ! 懸命に左腕を夢の君に向けるものの届かず、その姿が見えなくなって行く。そして……
「アイギス! おいっ! 大丈夫か!?」
「はっ!! ここは!?」
目を開ければ私は左の二の腕を天井に向けている状態で、ゼルワに顔を覗き込まれていた。
「起きたか? 大丈夫かよ? 随分うなされてたぜ?」
「あ、あぁ……酷く悔しい夢を見たんだ」
悔しい……あぁ、そうだ、結局彼女の名前も声も聞けなかった。夢だとわかっていても、私の胸にやるせなさが込み上げる、叶うならもう一度会いたい。
「起きたかアイギスよ? 『聖域』は静かなままじゃ、軽く食事をとって向かうとしようぞ!」
ドガとゼルワに促され、テントから外に出て『聖域』を確認すると、確かに静かに佇んでいる。あの激しい戦いがどうなったかは知るよしもないが、乗り込むのなら今を置いてないだろう。
私達は軽目の朝食をとり、夜営地を片付け『聖域』へと足を向けたのだった。
一回目のォォン:どこぞの魔女さんがどこぞの樹にドゴオォォーンッ!
二回目のォォン:どこぞの魔女さんがどこぞのヘドロ沼をドゴオォーンッ!
三回目:どこぞの魔女さんが某ロボットアニメを真似た粒子砲をズドォォーンッ!
次回どこぞの魔女さんと合流です。




