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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
172/211

137話 『武神』と『弓神』

────────────────────────────

【起爆剤】~罠であろうと~《にゃるろってview》

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 作戦開始から五日目。

 ロアの『魔装戦士』の襲撃を受けた各国家は『聖域』での会談を経て、防衛線を張り巡らせるべく動き出した。『聖域』のティリア達はその中継役として大忙しだ。

 『エルハダージャ』の女王となった珠実は、ヒヒイロくんと『閃光』達冒険者、オネェさん達の各ギルドに顔見せを行い、理解と協力を求め、いろよい返事をもらえたようだ。

 そして、アイギス達『白銀』とアルティレーネも『武神リドグリフ』を討つべく、『グレブヒュ火山』へと旅立って行った。私に『無限円環(メビウス)』で挑み、結果。慢心を捨て去る事に成功した彼等なら大丈夫だと思うけれど、やっぱりちょっと心配だね。信じるしかないけどさ。

 そして私。にゃるろっては今、『ゲキテウス王都』へと到着する。

 黒フード達……かつての亡国『ウィスタール王国』の王子『エリクシル・ウィスタール』が率いる『ディード教団』……そしてその彼等を操る『技工神ロア』の懐へ潜り込むために!


「多分僕達『猫兎(キャットラビット)』が側にいれば『教団』の連中は接触してはこないだろう?」

「そうだにゃ。その間にバルドくん達『黒狼』と合流するのにゃ」

「私は『セリアベール』で『黒狼』とも面識がありますから、直ぐには不振に思われないでしょう」


 王都までの街道を一緒に歩く『猫兎(キャットラビット)』達。そのリーダーのレジーナが、王都に到着した後の事を思い、話し出す。

 私を『聖域』の弱味として認識している事は既にガッシュくんの口から説明されている。『ゲキテウス王都』で私をガッシュくんの手引きで『教団』本部に人質として捕らえるって狙いも筒抜けだ。私達はそれを利用させてもらい、私が本部にまで連れていかれたところで仲間達……バルガス、ネヴュラ。『黒狼』、『猫兎(キャットラビット)』を転移させ、一気に制圧するのだ!

 そのために、詳細を既に王都で待機中のバルドくん達と打ち合わせをしたい。それまでは『教団』に捕まる訳にはいかないのだが、そこは今レジーナが言ってくれたように、彼女達と一緒にいれば大丈夫だろう。ガッシュくんについても、お城まで案内するって理由と、活動拠点を同じくする冒険者仲間である『黒狼』達と少々話をしたところで問題とは思われないはず。


「ただ、あんまりのんびりしてると感付かれちゃうかもしれないですね……」

「うん。バルドさん達にバルガスさん達についても『教団』は警戒するかもしれないよね?」


 ちなみに翼達偵察部隊は本来の目的である、私の作ったお弁当を、ティリアの義姉妹であるフィーナに届けるために、『グレブヒュ火山』へと飛び立った。そう、あの『武神リドグリフ』が復活するであろう火山にだ。ひょっとすると、その『武神』と鉢合わせになるかもしれないけど、アイギス達が意地と誇りをかけて闘うと決めているので、手出しはしないだろう。逆に手を出されても、彼等なら切り抜けられる。


「出来れば時間稼ぎをしたいところですね……」

「にゃるろってちゃん……『聖域』の弱味が手に入れば『教団』は本格的に動き出すでしょうからね」


 うむ。ネネとニャモの言わんとしてることはわかる。黒フード達にとって『聖域』の戦力こそがもっとも脅威だろうからね、それを私と言う一人の人質で押さえ込めるなら逃す手はないし。人質として確保できたら、いよいよ動き出すだろうね。


「僕はたとえにゃるろってちゃんが人質とならなくても、黒フード達は動き出すと思うよ? 先日ロアの『魔装戦士』が襲って来たようにね? きっとにゃるろってちゃんのことは『聖域』の戦力を押さえつける『手札』として、()()()()()()くらいの感覚だろう?」

「だろうな……『教団』に与する同朋達は、何故か皆が皆、決死の覚悟を持っている。

 まるで()()()()()()()()()()()()な。

 にゃるろって様がいなくとも事を起こすだろう」


 レジーナとガッシュくんの話を横で聞きながら、私は起爆剤なのだと、改めて思う。

 そして……きっとロアは私が囮だと言うことに気付いている。彼にとって人質と言うなら、この世界総てがそうなのだろうから……つまりは、罠だ。


(ずっと感じていたひとつの懸念がここだ。『ココノエ』の忠告にあった、『窮地』……どうやら、私も覚悟決めなきゃいけないみたいだね)


 互い罠と知りながらそのまま進むのは、そこに打開策があるから。

 私達は敵の本丸に攻めいるチャンスだし、ロアにとっては私と言う敵の戦力を封じ込める千載一遇のチャンス。

 既に賽は投げられた。後戻りなんて出来ない……なら、行くのみよ!


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【いざ!】~火山山頂へ~《アルティレーネview》

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「これは……!? 感じますか皆さん? 『グレブヒュ火山』に強い気配があることを!」


 『ジドランド王国』での宴……世界防衛戦線会議を経ての『決起会』と称された楽しい宴会の翌日。

 私達は『武神リドグリフ』が復活するであろう、『エルハダージャ王国』南方の活火山『グレブヒュ火山』へと向けて、空を駆けています。

 先日の『魔装戦士』の襲撃が世界規模であったことから、「ロアの物量戦力」の脅威を懸念した私達と各国家群。その上更にリドグリフとディードバウアーまでもが暴れだしたら手に負えなくなってしまいます。

 故に私達は急ぎ『グレブヒュ火山』へと向かうのですが、その火山が近付くにつれ、山頂から大きな気配がはっきりと感じ取れるようになってきたのです。


「ええ、さっきからバリバリに感じてますよ、アルティレーネ様」

「大きな神気が二つ……それに近付くこの気配は、パルマー殿だな?」

「ふふ、翼さん達『偵察部隊』も向かっているようですね」

「パルマーさんはなんでまたそんな危険地帯に向かってるのかしらね?」

「応援してくれるのかのぅ?」


 私の後ろに続く『白銀』の皆さんもしっかりとその気配を察しているようですね。ゼルワさん、アイギスさん、サーサさん、レイリーアさん、ドガさんが順に感じたことをお話してくれます。

 本当に頼もしくなりました……『セリアベール』で私と戦った時には手も足も出ずにいた彼等も、今やかのアーグラスさん達を飛び越え、その実力は私達神にすら届きます。

 そんな彼等に加え、いざとなれば私。多分ですが、『ジドランド王国』で出会ったパルマーさんと言う謎の男性。翼達『偵察部隊』……怒られるかもしれませんが、『龍脈の源泉(レイライン)』を見守っているフィーナ姉様にも御助力頂けるかもしれないのです!


「負ける要素がありません! 皆さん、ここまで来れば私の『転移魔法(ワープ)』で山頂にまでお送りしましょう。覚悟はよろしいですか?」


 『グレブヒュ火山』の山頂から感じるこの気配は、ひとつは間違いなくフィーナ姉様。そしてもうひとつは『武神リドグリフ』! 既に復活を果たしていたのですね……動きがないのは、フィーナ姉様が抑えてくれているからでしょうか? いいえ、おそらくアイギスさん達……自分を討った勇者達を待っているのですね?


「ありがとうございますアルティレーネ様。皆、マジックポーションを飲んでおこう!」

「応! 『飛行魔法(フレイ)』で結構使ったからな!」

「そうね、この世界の命運をかけた闘いになるんだし!」

「うむ! 因縁の対決じゃ、心してかかろうぞ!」

「万全の状態で挑んで、絶対勝ちましょうね!」


 私の呼び掛けにバッグからそれぞれマジックポーションを取り出し、飲み干す皆さんです。結構な速度で飛ばして来ましたからね、それだけ魔力の消耗も大きいのです。

 皆さんの準備完了を見届け、私達は円陣を組みます。


「ここまで来たなら、多くは語るまい……勝つぞ! 皆!!」

「「「「おぉーっ!!」」」」


 はい! 勝ちましょう! 絶対に!

 アイギスさんの力強い宣言に皆で応えます! 戦意はじゅうぶん!


「行きます! 『転移(ワープ)』!!」


シュゥゥンッ!!


 そうして転移した先。『グレブヒュ火山』山頂を臨む、中空に私達は移動しました。


「来たか……待ちわびたぞ……」

「遅かったですね? このバトル馬鹿をからかうのにも飽きていた頃ですよ? さあ、アルティレーネ。アリサお姉様の作られた美味しい食事を出しなさい」


 見下ろす火山の山頂は、煮えたぎる溶岩がボコンボコン、と時折その泡を弾けさせ、凄まじい熱気をはらんだ空気がたちこめています。そして、そんなマグマの海の中心に悠然と佇む一人の男性……『武神リドグリフ』の姿。

 そして、そんな彼を抑えてくれていたのでしょう。中空に浮く『弓神』フィーナ姉様が現れた私達によってきます。


「お久し振りですフィーナ姉様。残念ですが私が持っていたアリサお姉様のお弁当は総て、『ジドランド』の皆さんが食べてしまいましたよ?」

「あ、貴女!? うぐぐ……なんてことですか……っ!」

「あーっ! あ~大丈夫です! 今翼達……えっと鳳凰達がフィーナ姉様にお弁当をお渡しするために、ここに向かって来ていますから! ほら、感じますでしょう!?」


 あわわっ!? いけません! フィーナ姉様ってばよほどアリサお姉様のお弁当が楽しみだった様子ですね、「さぁさぁ!」と詰め寄って来るフィーナ姉様に正直に「もうありません」と答えたら、驚愕した後に、めちゃくちゃ厳しいお顔で私を睨み付けて来るじゃないですか!? わ、私、悪くないデス! 翼達! 速く来てくださーい!


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【フィーナ様と】~リドグリフ~《アイギスview》

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 遂に来た……彼が、『武神リドグリフ』か……

 わかる。わかるぞ……初めて出会う相手のはずなのに、私の魂の奥底で「彼の者こそが因縁の相手」であると! アーグラス達が最後に闘った魔王。仲間であったジドルを屠った相手!

 『グレブヒュ火山』の上空にアルティレーネ様の『転移』にて飛んだ私達の眼下。マグマの海に立つリドグリフを見下ろして、私は去来するこの感覚を思う……


「いつ来るんですか!? 答えなさいアルティレーネ! 私はこの嫌になるほど熱い火山を見張りながら、セルフィお姉様の自慢話を延々と聞かされていたのですよ!? やれ美味しい海鮮鍋を食べただの! にゃるろってちゃんになったアリサお姉様と楽しくおしゃべりして、ケーキと言う美味しいお菓子を食べただの!!」

「でで、ですからぁ~今こちらにですね……」


 ……き、緊張感が霧散する。

 この火山は女神様達曰く、この世界の要である『龍脈の源泉(レイライン)』のひとつであり、それを悪用されまいと、ティリア様の命を受けたフィーナ様が守護されているのだとお話は伺っていたが……


「あ、あのぅ~お初にお目にかかります『弓神』フィーナ様?」

「えっと……翼達が弁当持って来るまで、このクッキーっていう菓子、食います?」


 おお、いいぞサーサ、ゼルワ! これからリドグリフとの闘いに興じるところで、この緊張感の欠片もないやり取りをされては正直かなわんからな。バッグから取り出した『ご自由にクッキー』をフィーナ様に差し出し、お怒りを静めさせようとしてくれる二人に倣い、私もここはひとつ、お飲み物でもお渡ししておくか。


「初めましてフィーナ様。私はアイギス。『白銀』と言う冒険者パーティーを束ねる者です。

 この地を守護して下さっておられる事、心より感謝します。こちら、アリサ様がお作りになられましたお飲み物です。どうかお納め下さい」

「あら。これは御丁寧に。この不出来な義妹達がいつもお世話になっています。私はフィーナ。主神ティリアお姉様の義妹です。よろしくお願いしますね?」


 取り敢えず持っていたイチゴ牛乳をお渡しして、自己紹介をすれば、フィーナ様も挨拶を返して下さった。どうやらお身内には厳しい御方のようだ。


「おい……貴様達……」「フィーナ様って『弓神』様なのよね? 『弓士(アーチャー)』としては憧れの存在だわ! あ、アタシ、レイリーアです! よろしくお願いします!」

「儂はドガっちゅうドワーフですじゃ。貴女様とも酒を酌み交わしたいもんですな!」

「はい。レイリーアさんとドガさん。そしてゼルワさんにサーサさん。よくお越し下さいました。かつての勇者達とこうしてまた会える事ができて嬉しいですよ」

「おいっ!」


 ふむ、レイリーアは『弓士(アーチャー)』と言うだけあって、その弓を司る女神のフィーナ様に強い憧憬を抱いているようだ。ふふ、少し緊張しているように見えるな、珍しい。そしてドガはドガでやっぱり酒宴の席で心ゆくまで話したいらしい。酒は嗜まないが、私も神の話には興味があるから、その時には同伴したいものだな。


「貴様等、我を無視するか!?」


ドゴォォォーッ!! バシィッ!!


「貴公達。もう少し緊張感と言うものをもったらどうなのだ?」

「何奴!?」


パルマー殿!!


 無視を決め込んで放置していたリドグリフが怒り、放った『拳閃』が私達に迫ったその刹那、障壁が展開されて空の彼方へとその『拳閃』が逸れて行く。回避出来る攻撃ではあったが、一体誰がこの障壁を張ったのかと思い、振り向くと、『ジドランド』で出会ったパルマー殿の姿があった。


「気の短い男ですね……さて、そこの貴方。一応お礼は言っておきますね。ありがとうございました」

「感謝しますパルマー殿」「ふぁふぁふぁ♪ 少々おふざけが過ぎたかの!」


 構わん。と、一言だけ呟く銀髪の青年に私達は一言礼を述べ、リドグリフの方を見やる。

 見た目の感じで言うならばゼオンくらいの年齢だろうか? 筋骨隆々としたがっしりとした体躯は大きく、バルガス殿よりも一回りはあるだろうか? 獰猛な猛獣のような鋭い眼光には溢れんばかりの闘志が漲っているのがわかる。


「我は長き眠りの果てに貴様達との再戦を待ち望んでいたのだ……」


ズオオォォーッ!!


 むぅ! リドグリフの全身から大きな『神気』が立ち上る!


「些事はいらぬ! さあ、我と死合ぇい!!」


 猛るリドグリフ! いいだろう。前世から続く因縁。貴様を討ち果たして断ってくれよう!


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【一発かます!】~おっ始まってる~《翼view》

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ドゴォォーンッ!!


《うおぉっ!? やっべぇ~もうアイギス達と『武神』がおっ始めやがったんじゃねぇのアレ!?》

《もっと急ぎませんと! フィーナ様にお弁当を渡すどころじゃなくなってしまいますわよ!?》


 にゃるろって様とガッシュ、『猫兎(キャットラビット)』達を『ゲキテウス王都』よか、二つか三つくらい離れた街にまで乗せた後、俺っち達はフィーナ様が待ってるっていう『グレブヒュ火山』を目指してかっ飛ばしてたんだけどさ、なんか聞けば『武神』とかいう魔王がそこに復活するらしいじゃん?

 んで、そいつはアイギス達『白銀』の因縁の相手だーとかで、ヤル気満々でアルティレーネ様と一緒に向かったって話だ。同時に、俺っち達がアリサ様から受けたお使い……弁当の配達の相手がいる場所ってのもその火山な訳よ?

 でもってやって来たんだけど、一足遅かったかな? まだちょいと距離離れてるけど、山頂から何かが爆ぜる轟音と光が走ってきてさ! こりゃどう考えても戦闘中だよなぁ~?


《翼、セルフィ様が言っていただろう? フィーナ様が自分の自慢話を聞いて羨ましがっていると?》

《ルロイヤが言ったようにこれ以上戦闘が激化する前に着かねぇと、弁当渡せねぇかもしれねぇぜ!?》


 あーあーっ! もう、しょうがねぇなぁっ!! ルロイヤにドゥエ、ウノの叫びが俺っちを焦らせるぜ!

 あのクソ魔王が! 届けもんの邪魔すんじゃねぇっての!?


《なんかハラ立つぜ! おいみんな! お届け中に邪魔するようなクソッタレに一発見舞ってやんね?》

《ちょっ! そんなことしたらアイギスさん達の矜持を汚すことになりませんこと!?》

《俺は翼に賛成するぜーっ! 『白銀』の矜持なんぞよかご主人からの届けもんのがよっぽど大事だからな!》

《俺も賛成だ。ご主人は俺達を信じて大事な弁当を届けるように頼んだのだ! それを冒険者に遠慮していられるか!》


 イェェアァァーッ!! どうよルロイヤ? お前以外みんな賛成よ!?


《まったく……仕方ありませんわねぇ~せめてアイギスさん達に一声かけてからになさいな?》


 やれやれって、ちょいとやんちゃな俺っち達に困ったような顔するルロイヤも、なにがなんでも止めようってなわけじゃねぇみたいだ。へへっ! それじゃまぁ、お行儀良く一言かけてから『武神』とか抜かす野郎に一撃かますとしようぜ!


ゴォォーンッ!! ドドォーンッ!!


 距離が近付くにつれて、よりデカくなっていく轟音。そして炸裂する閃光。視界と聞こえるその音のうるせぇことうるせぇこと!

 ったく! 目の前でこんなに派手にドンパチやりやがって……昂って仕方ねぇじゃねぇか!


《ご覧なさいな! アルティレーネ様がいらしてよ!》

《応! んじゃあの見馴れない青髪がフィーナ様だな!?》


 ルロイヤが早速アルティレーネ様のお姿を見つけたらしく、俺っち達もその姿を確認する。と、確かにアルティレーネ様だ。でもって、その隣に青い髪したもう一人。間違いねぇ、あの方が俺っち達が弁当渡す相手。フィーナ様だろう!


《むっ!? もう一人見馴れない奴がいるぞ! 誰だアイツは?》

《ああん? なんだあの銀髪の野郎は? マントなんぞ着けていけすかねぇな?》


 ドゥエとウノが見る先には女神様お二人と、少し離れた位置に浮いてやがる妙な男がいる。なんで部外者がここにいやがるんだ? 普通に空に浮いてるから『飛行魔法(フレイ)』を使えるくらいには魔法に長けているようだが?


《まあいいじゃありませんの? あの闘いを静観しているところを見ると敵ではないようですし。そんなことより、フィーナ様にお弁当をお届けですわ!》


 おぉ~♪ そうだな! あの野郎確かにアイギス達とリドグリフとの闘いを静観してるだけで、邪魔しようとかじゃねぇみてぇだし……もしそんなこと仕出かそうもんならアルティレーネ様が止めんだろ?

 俺っち達は気にせずフィーナ様に弁当を届けるのを優先するぜ!


《ちわーっす! アリサ様の弁当お届けにあがりやしたぜ~?》

《お初にお目にかかります。貴女様が主神様の義妹、フィーナ様で間違いありませんか?》


 ふぃ~どっこらせ……ずっと飛びっぱなしでちっと疲れたわぁ~適当な岩場で羽休めしますかね。


「お待ちしてましたよ鳳凰達。ええ、それはそれは首を長くしてね?」

「や、やっと来てくれたんですね! ささ、早くフィーナ姉様にアリサお姉様のお弁当を!」


 にっこり。おおぅ? なんか怖ぇなフィーナ様のその笑顔?

 俺っち達の呼び声に振り返るフィーナ様が微笑んでくれるんだけどよ、なんか寒気が走るぜ? アルティレーネ様が「早く早く」って急かすんだけど、なんでそんな涙目で必死なんよ?


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【コイツのせいで!】~ケーキ返せ!~《フィーナview》

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ドガドガッ!! ボゴォンッ!


「ほほう~これは! なんという美味しさでしょう♪」


ビュゴォォーッ!! バアァンッ!!


「はもっ!? 凄いです! 噛んだ途端溢れる肉汁が口いっぱいに! ふむふむ、唐揚げと言うのですね? 状態保存の魔法のおかげで出来立てをそのままに。ですか? なんて素晴らしい!」


 はい。皆様ごきげんよう。フィーナです。

 少々騒がしい周囲を他所に、私は今至福の時におります。と言うのも、待ちに待ったアリサお姉様のお弁当が鳳凰達の手によって届いたからなのです!

 渡されたお弁当を丁重に受け取り、その包みをワクワクした気持ちで開封すれば……ふわり。と、実に美味しそうな香りが私の鼻孔をくすぐるではありませんか。

 聞けばアリサお姉様の『状態保存』の魔法によって、出来立てのホカホカなのだとか♪

 その気になる中身は、まず二段重ねの下のお弁当箱に茶色い細々としたお肉……そぼろと言うらしいです。がびっしりと乗せられ、それをスプーンですくうと黒い紙が見えます。これは海苔と言うそうですね。そして更に掘り進めると、白いツヤツヤとした粒々。ライスがところ狭しと詰められています!

 そのそぼろ、海苔、ライスを一緒に口に運んで咀嚼すれば……んん~♪ 美味しいです! なんという幸せでしょうか!


「美味しそうです……アリサお姉様の鶏三昧のお弁当♪」

「あげませんよアルティレーネ! これは全て私のです!」


 物欲しそうに私の食べる姿を見ているアルティレーネにひとつ睨みをきかせると、「わかっています」と苦笑いして、筒からお椀に茶色いスープらしきものをよそい私に差し出してきます。


「フィーナ姉様、こちらもどうぞ。アリサお姉様特製じゃがいもとたまねぎのお味噌汁です」

「ほう。お味噌汁ですか? 頂きましょう」


 どうやらあの筒にはお味噌汁と言うスープが入っているようです。私はお椀を受け取り、そのじゃがいもがごろごろ入っているスープを一口頂きます。

 うん! これは、なんて優しい味でしょうか。舌に残る奥深い味わいに、ホクホクとほどけるじゃがいも、しんなりとして上品な甘味を与えてくれるたまねぎ……このそぼろ海苔ライスと飲めばなんと合うことか。

 美味しい食事に気を良くした私は続けて二段目のお弁当箱を開封します。その中身はおかずで埋められていました。アルティレーネが先程言ったように、鶏の唐揚げがメインに添えられ、玉子焼きに、これまたじゃがいもですね……ほうほう、ポテトサラダですか? コーチョが利いていて美味しいですね! そしてこの赤い丸は? トマトですって? こんなに可愛らしいトマトがあるのですね! ミニトマトですか、ひとつをまるっと口に含んで食べてみれば、プチッと小気味良い音と共に、甘酸っぱくてとても爽やかです♪


《うまそうに食いますねフィーナ様? こりゃあアリサ様が見たらさぞ喜ぶだろうなぁ~♪》

「ふふ。だって本当に美味しいですからね!

 まぁ、惜しむらくはこんなうるさい場所ではなく、もっと景観のよい場所で食べたかったのですが……」


 ビュオンッ! ガギィンッ! ギンギンギィンッ!!


 見下ろす眼下。『武神リドグリフ』と激しくぶつかり合う、かつての勇者一行の転生体達。その闘いは、始まったばかりということもあって、互いに小手調べとも呼べないただのじゃれあいです。まったく……折角の美味しいお弁当ですのに、どうしてこんな熱い場所で、こんな暑苦しい闘いを観戦しながら食べなくてはいけないのでしょう?


《残念ですわ……この分ですと私達がフィーナ様にケーキをお作りする事もできませんわね?》

《だなぁ~魔王の野郎、もうちっと寝とけっての!》

《遊んでいる今の内に、皆で一撃くれてやるか?》


 な、なんですって!? ルロイヤとやら、それではリドグリフがまだ復活せずに寝ていれば、私はケーキも食べる事が出来た……ということですか!? おおお……なんということでしょう! 鳳凰とグリフォン達の会話に私は驚愕を覚えると同時、あのバトルバカ……リドグリフに対し沸々と怒りが込み上げてきます!


「ふ、ふふふ……鳳凰達。あの馬鹿者に一撃見舞いたいのですね? その話、私も一枚かませてもらいましょう!!」

「フィーナ姉様!?」《おほぉーっ! やりますか!?》


 アルティレーネが立ち上がる私に驚きますが、鳳凰は嬉しそうですね。ええ、一発くらい別にいいでしょう! 私のケーキ食べる機会奪ったあのアホンダラをぶん殴るくらいね!


「ああぁ、もう! アイギスさん達ごめんなさい! 私じゃフィーナ姉様を止められません!」

「うるさいですよアルティレーネ! 貴女は冒険者の矜持と私のケーキ、どっちが大事だと言うのです!?」


 リドグリフは彼等勇者一行の因縁の相手だというのは重々承知していますよ。故に自分達で決着を着けたいのだということも。かつての仲間であった『ジドル』の仇ですものね……ええ、汲みましょうその思い。その気概よし!


「ですけどねぇ~? いい加減ウンザリなんですよ! 貴方達『旧神』に振り回されるのは!」

「ぬぅっ!? 邪魔をするか『弓神』よ!!」「フィーナ様!?」


 私が立ち上らせた神気に反応するリドグリフと勇者達。邪魔をするですって?


「邪魔なのは貴方達でしょう? 自分勝手な事ばかり言って私達の手を煩わせないで下さい!」

《そーだそーだ! この野郎!!》《貴様もロアもやりたいことは自分の世界でやることだ!》

《目障りなんだよ! この大馬鹿野郎がぁーっ!》《私達も怒り心頭ですわ!》


 ババッ!! と、咄嗟にリドグリフから距離を取る勇者達、判断が速いですね。流石と褒めておきましょうか。

 私、鳳凰、三羽のグリフォン達の怒りの神気を前に「ぬぅぅんっ!」とか言って構えるリドグリフですが、ふふ。そうでしょうね? 貴方ならそのつまらないプライドで避ける事はしないでしょうね!

 さあ、受け止めなさい! 私達の怒りの一撃! ギリギリ……弓を引き絞る私の手にも力が入ります。


ズドォォォォーンッ!!


 放つ矢が鳳凰達の撃った魔法を取り込み、極大の一矢と昇華してリドグリフへと向かいます!

翼《他にもいくつかありますよフィーナ様(*´∇`*)》

フィーナ「おお!( ・∇・) ホントですか?(^ー^)」

ルロイヤ《その鶏三昧のお弁当の他にも~ハンバーグメインのお肉たっぷり弁当( ´ー`)》

アルティレーネ「素敵です(^-^) お姉様特製のソースがとても美味しいんですよ♪(*´▽`*)」

フィーナ「ほうほう!(゜-゜)(。_。)」

ドゥエ《アリサ様の『状態保存』の魔法が成せる、新鮮海鮮お寿司弁当!(≧▽≦) これは俺も食いたいですね!( ̄¬ ̄)》

アルティレーネ「忌避されがちな生魚ですが(^_^;) 一度食べれば虜になるほどの美味です!ヽ( ゜∀゜)ノ」

フィーナ「おお!(゜A゜;) お寿司ですか、ティリアお姉様も絶賛していた、お寿司!(ノ≧∀≦)ノ」

ウノ《贅沢! 揚げ物いっぱい弁当もあります♪(*≧∀≦)》

アルティレーネ「これも素晴らしい、各種天ぷらとフライの詰め合わせです!ヽ(*>∇<)ノ どれも病み付きになりますよフィーナ姉様!ヘ(≧▽≦ヘ)♪」

フィーナ「透明な蓋で中が見えるので、どれがどのお弁当かわかりやすいですね(´・∀・`)」


パルマー「何やってんの……アレ?( ̄0 ̄;) 今兄ちゃん達めっちゃ戦ってんじゃん?(´゜ω゜`)」


アイギス「うむ!( ´ー`) アリサ様の弁当はフィーナ様にもご好評の様子だ、なんだか私達まで嬉しくなってしまうなヽ(*´∀`)ノ」

リドグリフ「余所見とは余裕だな勇者!!o( ゜Д゜)o」

アイギス「む?(´・ω・`) やれやれ、闘う事しか能がない哀れな神め┐( ̄ヘ ̄)┌」


ヒョーイ(・・)))


サーサ「ぷふー♪(*`艸´) ご飯食べないから余裕が持てないんですねぇ~?(°▽°)」

ゼルワ「ははは!(`∀´) オメェ美味い飯なんざ食ったことねぇだろ?o(* ̄○ ̄)ゝ」

リドグリフ「ぬぅぅっ!?( `Å´) 遊んでいるとはいえ舐めおって!(゜Д゜#)」

レイリーア「アリサ様がよく仰っていたけど(゜∀゜;) 美味しいご飯は心を豊かにするって言うのは本当のようね?。:+((*´艸`))+:。」

ドガ「まったくじゃ!(ノ゜∀゜)ノ 見よ、コヤツの無様な表情!(´▽`*) 笑いが込み上げてきよるわい!。゜(゜^Д^゜)゜。」

リドグリフ「き、貴様等ーっ!!( `□´)」


パルマー「……(  ̄- ̄) 兄ちゃん達も大概だったわ( ̄▽ ̄;) なんかリドグリフがかわいそうに思えてくる(;∀; )」

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