135話 聖女と珠実と『ココノエ』
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【緊急サミット】~『エルハダージャ』も~《ゼオンview》
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集まって来た! 集まって来たぜ! ルヴィアスの帝国! 俺達『セリアベール』! ドワーフの国『ジドランド』! そして『誉』時代からの朋友、ゲッキー達の『ゲキテウス』!!
モニター越しとはいえ、この世界を代表する大国の連中達と肩を並べられてる事に、俺は……いいや! 俺達『セリアベール』を代表する皆は、その誇らしさに胸がいっぱいだ!
「夢じゃありませんよゼオンさん……皆さん! この名だたる大国の代表者達と僕達は、今、共にあるんです!」
「おお! エミルの言う通りだ……もう俺達は『セリアルティ王国』の復興を待たずとも、その誇り高き民だ!」
「ふふふ、エミルもディンベルも気が早いじゃないか? だが、無理もないね……私も心が昂って仕方がないよ」
ティリア様が中心となって、『聖域』にて開催される緊急のサミット。それに俺達は真っ先に声を掛けてもらえた事もあって、皆、気を引き締めている。まあ、既に『聖域』の連中と懇意にしてたってのも大きな理由だろうが、それでも、俺達を頼りにしてくれてるって事に他ならねぇからな! エミルもディンベルも、デールの野郎も……各ギルドマスターにスラム代表のゲンも、ラグナースも、当然、俺も皆昂っているぜ!
「あっ! アルナちゃん! ティリア、ヴィクトリア! 『エルハダージャ』から通信入るのです!」
「来たわね!」「待っていました!」「ありがとうポコ。繋いでちょうだい!」
了解なのですー! って、元気な返事のポコ様がティリア様達、女神様の皆に返事を返すと、『聖域』の神殿内にある会議室に新たなモニターが現れる。ココノエのとこの『エルハダージャ』からの応答らしい、
『ココノエか、懐かしいがよ、ゼオン、エミル、デール? おめぇらアイツの本当の姿っつーか、種族知ってっか?』
「あ~見たことはねぇが女神の『懐刀』の『九尾』でもある珠実様が言うには『狐人』らしいぜ? なんでもその珠実様の弟子らしいわ」
ゲッキーの奴もココノエも同じ『誉』のメンバーだったんだが、解散するまで結局、ココノエの本当の姿ってのはわからずじまいだったからな。俺も珠実様の話聞いて驚いたぜ?
『しかも『エルハダージャ』は俺が『帝国』築いたすぐ後に興ったんだぜ? その当時から今日までずっと『ココノエ』が治めてるって言うんだから、驚きだよな?』
『うぅむ……成り立ちが古いと言うなれば、儂等の『ジドランド』も負けておらんが……話を聞くに『ココノエ』殿もルヴィアス殿のように一代のみらしいではないか?』
『マジかよ? 俺はてっきり世襲制だと思ってたぜ?』
そのルヴィアスの話も驚いたよなぁ、祖先達も言ってたし間違いはねぇだろう。だが成り立ちの古さっていやぁ、そりゃ『魔神戦争』の真っ最中に興った『ジドランド王国』が何処よりも古い。しかし、それを治める王は世襲制で、今俺達と話してるジドル王も代を積み重ねている。
『本来であればそれこそが正しい。私達のように一代が幾年も治める国の方が珍しい……』
『おぉ、『ヒヒイロ』ではないか! 相変わらず若作りしおってからに!』
『久しいねぇヒヒイロ? こうして『三賢者』が集まるのはいつ以来だろう?』
聞きなれない男の声がモニターから聞こえてきて、顔をやれば、そこには一人の優男の姿。『ジドランド』と『ゲキテウス』の爺さまと婆さまが言うには、この男が『エルハダージャ』の大臣でもあり、『三賢者』でもある『ヒヒイロ』って人物らしいが……俺も会うのは初めてだ。『ココノエ』とは確かに同じパーティーを組んで、共に冒険した仲だが……結局、実は『エルハダージャ』を治めてる女王だって事以外はほとんど知らねぇ……一応手紙でのやり取りはあったんだが……
「そうね、代を替えても大きな争いやいさかいを起こさず安定した統治を続けている『ジドランド』や、『ゲキテウス』に『セリアベール』の方が凄いと思いますよ?」
「そうなのです! ジドルちゃんもレオちゃんもゼオンちゃんも凄いのです!」
「アルナとポコの言う通りだと思うわ。貴方達はこれからも自信を持って、国を統治していってほしいわね」
こいつはありがてぇお言葉を賜ったもんだ。恐れいりますぜ、アルナ様、ポコ様、ヴィクトリア様。このゼオン。そのお言葉を誇りに今後も邁進する次第。
俺、ジドル王、ゲッキーと。皆思うとこは同じだろう、女神様達のお言葉に感謝し、深々と頭を下げて礼を言う。
「そうね。これからも頑張ってちょうだい。
そして、よく来てくれたわね? 『エルハダージャ王国』……『聖域』を代表して感謝するわ。うちのアリサ姉さんと珠実にはもう会ってくれたのかしら?」
『女神の皆様、『聖域』の皆様。本日は私共をお招き下さり光栄の至りでございます。
その件につきまして……一つご報告がございます』
ティリア様からも励ましの言葉を賜り、感謝をしつつ。『ヒヒイロ』との会話に耳を傾ける。俺が書いてアリサの嬢ちゃんに渡した、『エルハダージャ』の冒険者ギルドマスターである『オネェさん』宛ての手紙と、『ココノエ』宛ての手紙は役に立っただろうか? なんだか『ヒヒイロ』の歯切れが悪いように思えるが……?
『この場に集まられているのは、各国を代表する各々方とお見受け致します。どうか、これから私が話すことは内密に願いたいのですが?』
『ふむ、『ヒヒイロ』殿。私は『ルヴィアス魔導帝国』皇子、ルォン・オーヴェ・ルヴィアス。我々は貴殿の話を他言せぬ事を主神ティリア様に誓おう』
『同じく。『ゲキテウス王国』の王。『シャイニング・レオナード・ゲキテウス』も誓うぜ? 『ココノエ』になんかあったのか?』
『俺達『セリアベール』もこの『ゼオン・ユグライア・セリアルティ』が誓おう。遠慮なく話してもらいてぇ』
『うむ。最古参たる我が『ジドランド王国』も同じく誓うぞい? 賢者『ヒヒイロ』殿、遠慮せず申しませい!』
内密に……ときたもんだ。やれやれ、こりゃなんかあったらしいな? 俺達代表陣は『ヒヒイロ』のその神妙な様子を察し、皆ティリア様の名の元に他言無用の誓いを立て、続きを促す。
「わかったわ。『誓約』を成立させるから総てを明かしてちょうだい」
『はっ! 感謝致します。それでは、どうぞお心を静かに、落ち着いてお聞きください。
我等『エルハダージャ王国』の女王……『ココノエ』は……』
ティリア様が俺達の誓いを『誓約』の魔法に昇華させ、一つの光輪が『聖域』を駆けた。誓った以上、誰も他言することはねぇだろうが……主神様の魔法だ。破ったらそりゃとんでもねぇペナルティが課せられそうだな? そして、『ヒヒイロ』の話は『ココノエ』に関する事のようだぜ。一体どうしたってんだ?
『……『ココノエ』は、先ほど、崩御なされました』
なっ!? なんだってぇぇーっ!!?
『そして、その後をお継ぎになられる、新たな指導者をお迎えしたのです。その御方が……』
いやいやいやいや!! 待て! 待ってくれよ!? 『ココノエ』が崩御……死んだってのか!? それに後継者だと!? 全然頭がおっつかねぇぞ!?
『……妾が『ココノエ』を継ぐ新たな『エルハダージャ』の女王と相成った。皆の衆……よろしく頼むぞ?』
ウソだろ……? 珠実様じゃねぇか……
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【謁見】~賢者と女王~《アリサview》
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「お待ち申しておりました……『聖域の魔女』アリサ様。『九尾』珠実様。私はこの国の大臣を務める賢者、ヒヒイロと申します。どうぞお見知り置きを……」
「「…………」」
ヒヒイロ……なんだろう? この人とは会うの初めてのはずなのに……ひどく懐かしく、ユニ達みたいにひどく親愛の情が駆り立てられる。それは珠実も同じようで、不思議なその感覚に少し戸惑いが見れる。
なんだろう……? 彼も同じなのかな? 私達を見るその瞳はとても優しく、穏やかだ。例えるなら……そうだね、とても親しい家族や、愛しい恋人に向けるような、そんな愛情がこめられた優しい瞳だ。
「ヒヒイロさぁん? アリサ様達の事をご存知だったのねぇ? アタシが来なくても平気だったかしらね?」
「いや、彼女達を案内してくれて感謝するよオネェさん。それで、大変申し訳なく思うのだが……ここより先はどうか女王陛下と私達だけにしてくれまいか?」
『エルハダージャ王国』に到着し、冒険者ギルドのマスターであるムキムキマッチョなオネェさんが一緒に来てくれたお陰ですんなりと入城できた、この『エルハダージャ城』なんだけど、凄い立派だ。
床や壁は惜しみ無く美しい光沢を放つ大理石をふんだんに使い、見事な装飾が施された柱に、規則正しく並べられた大きな花瓶には綺麗な花が活けられて、めっちゃ繊細な刺繍が施されたすんげぇ高そうな絨毯が、ピシッと敷かれ、土足で踏んでもいいものかと迷ってしまう。
高い天井には希少な鉱石を加工したのだろうシャンデリアがズラリ。正面ホールのど真ん中には立派な噴水なんかも……いやぁ~お城だねぇ? ルヴィアスのとこにも負けてないんじゃないのこれ?
「……わかったわ。とても大事な話みたいね? でもねヒヒイロさん? アタシもアリサ様達の話は聞いたのよ、だから総てとは言わないけど、ある程度は後で教えてちょうだい?」
「勿論だ。ご理解頂き感謝する」
ふむ、流石の冒険者ギルドマスターと言えどもそう簡単には女王様に謁見するのは難しいようだね。まぁ、オネェさんも「ヒヒイロさんまでなら~」と言っていたし、その辺りは理解しているんだろう? あの『格納庫』の『パソコン』に残されていた『記憶の断片』に映った『ココノエ』の状態を察するに、彼女は人前に出れる事が叶わないんだろうし、ヒヒイロさんのこの対応にも納得できるよ。
「それじゃあアタシはここまでね? アリサ様、珠実様。お話が聞きたいからまた冒険者ギルドに寄ってちょうだいね?」
「うん、わかったわオネェさん。ここまで案内してくれてありがとう」
「うむ、感謝するのじゃ! 『閃光』の皆にもよろしくな?」
あでゅ~♥️ って私達の感謝に投げキッスを返すオネェさんに、思わず苦笑いがこぼれてしまう。そんな彼のムッキンムッキンな背中を見送った後、改めて大臣で賢者なヒヒイロさんに挨拶。
「改めまして……初めましてヒヒイロさん。突然の訪問に応えて頂き感謝します」
「うむ、妾も感謝しよう。時にお主は妾達を知っておる様子じゃが……はて、どこぞで会うた事があったかのぅ?」
うんうん。私達ヒヒイロさんに会うのは初めてのはずなんだけど、彼は初対面のはずの私達の名前もズバリ当てて来たのよね。なんか噂でも流れてて、それを聞いた~とかなのかな?
「……お二人の事は、よく……存じ上げております。『技工神』ロアの『魔装戦士』、『武神』リドグリフ、『獣魔王』ディードバウアー……そして『エリクシル・ウィスタール』が操る『ディード教団』と戦うため、世界各国の王に注意と協力を呼び掛けていることも……」
「マジか……」「ふむ。それを知るも、ココノエの力かの?」
こいつは驚きだね。私達の目的だけじゃなく、あの黒フードの親玉の名前までバッチリ当ててきたよ。珠実はココノエが何らかの不思議な力を使ってそれを知ったのかって思ってるみたいで、その事をヒヒイロさんに訊いてみるんだけど……
「……まずは、急ぎ女王にお会い下さい。彼女にはあまり時間が残されておりませんので」
なんだろう? ヒヒイロさんはとても悲しそうな、辛そうな……何かに耐えるような表情を見せると、私達に背を向けて、女王の間へと案内をし始めた。
(……不思議、どうしてこの人にアイギスが重なるんだろう? まるで『無限円環』で伸び悩んでいたときのアイギスみたいに……)
わからない……わからないんだけど……なんだろう? このヒヒイロさんに対して、私の中に「愛しい」って感情が芽生えて来る……それはアイギスに向けられる「恋慕」ではなく、ユニやアリア、シャフィーちゃんやネーミャちゃんといった子に向ける「親愛」の情だ。母性とも言えるだろうか?
「さて、いよいよ御対面じゃな。まったく、不出来な弟子め! 壮健ならそうで便りの一つも寄越せと言うんじゃ、ちと文句を言ってやらねばならんの!」
「あはは、ほどほどにね~珠実?」
まったくまったく! とか言ってプンスカしてる珠実だけど、ホントは久し振りに会う『ココノエ』に対して、若干緊張しているのがわかる。長年一緒に過ごしてきた不思議な弟子。何も言わず姿を消して、どうしているのかと思っていれば、こんな大きな国興して女王様やってます。ってきたもんだ。
そりゃ色々聞きたい事も多くなるってなもんよね? まあ、でも。再会に嬉しそうでもあるね。
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【ココノエの忠告】~広がる不安~《珠実view》
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ギギィィィ~……
軋む鈍い音を立てて、ゆっくりと女王の間へと繋がる木の大扉が開いていく。ふむ、石造りのこの城内に異彩を放つこの木造の間はなんとも奇妙な感覚を妾達に植え付けてくるのぅ……城の最奥でもあり、この木造の木の壁が目立たぬよう、二重壁となっておるようで小さい窓から差し込む陽の光と燭台に灯されたロウソクがこの部屋の光源となっておる。
「なんじゃ……随分と陰気臭いのぅ? 不快。とまでは言わぬが、やや気が滅入るではないか?」
「そう? 何処と無く『聖柩』に似てて私は落ち着くけどなぁ~ふふん♪ 『ココノエ』は思った以上に引きこもりの才能があるのかもね?」
妾がアリサ様に同意を求めればそんな答えが返ってきおった。ふぅむ、確かにあの『ファムナ村』の『聖柩』と似ていると言われればそうやもしれぬが、引きこもりとはこんな薄暗い部屋に閉じこもるのかえ? もっとこう、陽の光を沢山浴びて外で遊ぶ方が健康的じゃぞ?
「ノンノーン! それは陽キャの意見でーす! 私みたいに陰の者にはとても耐え難いのデース!」
「はぁぁ~? アリサ様とて今や外に出回っておろうに? 何が陰の者なんじゃか~? ちゃんちゃら可笑しいのぅーっ!」
「あ、あのぅ~お二方? その、女王のおなりですので……」
にゃにおぉ~? 私は引きこもってだらだらしたいんだよぉ~? とかのたまうアリサ様としゃべくっておると、おずおずと言った感じでヒヒイロと呼ばれる大臣から注意されてしもうた。仕方ないのぅ、アリサ様とじゃれあうのは後にするとしようかの。
「ぼくも出来ればお外を自由に駆け回りたいんだけどねぇ~?」
そう言う声が聞こえる方を見れば、ふむ。やはりあの『記憶の断片』で見た『ココノエ』が立っておった。
その姿もやはり希薄であり、ザザッとノイズが走るようにぶれる。顔もよく見えず判別がつきづらいが……妾にはコヤツが昔保護したあの『狐人』であるとわかった。
「ありがとう……来てくれて……おば、ごほんごほん! 『聖域の魔女』アリサさん。そして、久し振りだね『九尾』……ううん、珠実さま?」
んん? なんじゃ? 今アリサ様になんて言おうとしたんじゃコヤツは? まあ、よいわ。
「どうやら記憶が戻ったようじゃの? お主には色々と聞きたいことがあったのじゃ、のう? アリサ様や?」
「…………」
ん? なんじゃ、どうしたのじゃアリサ様? そのような小難しい顔をして?
「すごいわこの子、どうやったらそんなに属性つくのよ?」
「え?」「はぁ? 属性じゃと?」「アリサ様それはどのような意味ですか?」
アリサ様には『ココノエ』のヤツがどう見えておるんじゃ? 意味のわからん言葉に『ココノエ』本人も妾もヒヒイロまでがアリサ様に問い返してしもうたぞ?
「あ~実際に見てもらった方が早いか、『映像投影』っと」
ブゥゥン……
「あ! ぼくだ!」「ほう! これは!」「なんと!?」
「透けてるうえにブブブってぶれまくりのあんた見てると目が疲れて来るからさ、一瞬一瞬のコマを連続で繋ぎ合わせてトレースした映像を可視化させたよ」
ほほう~なるほど、ようわからぬわ! じゃがお陰で『ココノエ』のヤツの顔も姿もハッキリとわかるのぅ。時折動きがカクついて見えるが、それがアリサ様の言うた「コマ」を繋ぎ合わせたためなんじゃろう。
「ほら! 見てよ! ロリ巨乳ぼくっ娘キツネ耳と珠実と同じ九本のしっぽだよ!? うっひょぉぉーっ!! たまらんわ『ココノエ』ちゃん! ぎゅーさせてよ!?」
「あはは~それは駄目。今のぼくに触れるとアリサさんも存在が危うくなっちゃうからね」
「えー!?」
いやいやアリサ様や「えー」ではないわ。まったく、相変わらず幼子に目がないようで困るのぅ。
しかし……やはりあの頃から変わっておらぬ……いや、妾がコヤツを拾った当時は尾が一つしかなかったはずじゃ。それがどうじゃ? まさか妾と同じ『九尾』ではないか!
「どう言うことじゃ? 『九尾』と至るには気が遠くなるほどの長い年月を費やし、修行に明け暮れねばならぬのじゃぞ? 『ココノエ』よ、お主は一体何者なのじゃ?」
「あーあー、お待ちんしゃい珠実ちゃんや。この子には時間があまり残されてないって話じゃん? まずは話を聞いた方がよくない?」
むぅ、た、確かに。アリサ様の言う通り、『ココノエ』は今にも消えてしまいそうな不安定さがある。魔王共が動き出した今、話を訊ねるよりも、聞かせてもらうが先決か。致し方あるまいな。
「うん。ありがとう。じゃあぼくも手短に話すよ。まず一番大事な事……アリサさん」
「あいよ」
「これから貴女は今までにない窮地に立たされる。その時が来たら、どうか『自分が何者なのか』を思い出して下さい。そして、『みんなの声を聞いて』、『初めから貴女に寄り添ってくれていた者の声を聞いて』……そうすればきっと、道が開けます」
うむむ!? まさか……まさかアリサ様がこの『エルハダージャ』に来る前に懸念しておった事と似たような内容を言う『ココノエ』じゃ! アリサ様が窮地に陥るじゃと!?
「……そう。わかったわ、その言葉をしっかり胸に刻んでおくわね? って、そんなに心配そうな顔をしないで珠実。こうして必死に自分を繋ぎ止めてまで教えてくれた『ココノエ』の忠告なんだから、しっかり活かしてみせるから、ね?」
「う、うむ……頼むのじゃ! 妾達には……否、この世界は最早アリサ様なしでは何も出来ぬ赤子のようなものじゃからして!」
大袈裟♪ と、妾の言に笑うアリサ様じゃが……そんなことはないのじゃ! 妾達が心から笑い合えるのはアリサ様あってこそなのじゃよ? それを絶対忘れないでたもれ!?
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【ココノエは】~かぐや姫?~《アリサview》
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なんとなく……ではあるけど、感じていた一抹の不安。今までは漠然としてたそれは、『ココノエ』の忠告で確信に変わった。改めてその忠告の内容を心の中で振り返り考えてみる。
『自分が何者なのか』……うん、これは多分『聖域の魔女』であると同時、『聖域の聖女』であると言うことを指しているんだと思う。
『みんなの声を聞いて』……そこから紐付けて考えると、この忠告はみんなの『想い』や『願い』、『祈り』の声を聞けってことだろう。
でもってよくわからないのが最後の『初めから寄り添ってくれていた者の声を聞く』って部分だ。これは誰の事を言ってるんだろ? 初めからってのは、私がこの世界に転生してからってことでいいのかな?
(それならアルティ、レウィリ、フォレアの三人の声? それともミーナのこと?)
この『ユーニサリア』に転生してから初めて寄り添ってくれてたのは彼女達だ。
そして、その窮地に立たされるのは『いつ』なのか? それは十中八九、『教団』に潜り込もうとしているにゃるろってに変身中の魔女の私だろう。相手は当然ロア……つまり、それだけ危険なヤツだって事なのね?
「それから、珠実さま?」
「うむ、なんじゃ?」
「ごらんの通り、ぼくはもうすぐ、この世界から消えてしまうんだ……まるで幻だったようにね。
だけど、この『エルハダージャ王国』はぼくと、ぱっ、ゴホンゴホン!! ……ヒヒイロが興して、長い年月をかけて発展させたこの国は決して幻なんかじゃない」
おっと、私が『忠告』を考察していると『ココノエ』が今度は珠実に向かって話しかけた。どうやらこの『エルハダージャ王国』の行く末についての大切なお話のようだ。
「だから、どうか……『ココノエ』を継いでほしいの」
「ほう……妾にこの国の女王となれ。そう申すか? その願い。聞いてやらんでもないがの……まずは話すがよい。お主のこれまでの事を。なに、話せる範囲で構わぬ」
ふむ。珠実に女王の座を受け継いでもらいたいときたか。まあ、驚く内容じゃない。実は私達はこうなるのではないかと予想していたからね。そう、『記憶の断片』で見た『ココノエ』の不安定さを見たときから……
「……そう、だね。どこから話そうかな……ぼくの事を明確に明かすわけにはいかないから……うん。『かぐや姫』って知ってるかな?」
おやおや、まさかここであの『竹取物語』の『かぐや姫』の話が出てくるのか? この子、一体どこでその話を知ったのかしらん?
「ぼくは……元いた世界でちょっとイケない事をしちゃってね? その罰としてこの『ユーニサリア』に飛ばされたんだ」
「ほう。なにやらかしたんじゃお主は?」
あはは~って自嘲気味に苦笑いしては、自分のキツネ耳をポリポリする『ココノエ』に珠実はちょっと呆れ顔を見せる。ふぅむ、やらかした罰で世界を飛ばすなんてすごいわ。この子の背後にいるのってそういうことが出来る連中なのか? 『ココノエ』って実は凄いとこの子なの?
「えへへ♪ ちてきこーきしんってのが抑えられなくて~叔母さん巻き込んで、ちょこーっと♪」
うおぉーい!? ホントなにやらかしてんのこの子!? 巻き込まれた叔母さんかわいそうじゃんよ!
「はぁ、その子の叔母も「やっちゃいけないこと」とはわかっていたのですが、おねだりされてしまったそうでして……」
「ん? なんじゃ、ではお主もコヤツに巻き込まれてここにおる口かえ、ヒヒイロとやら?」
なんとまぁ……聞けばヒヒイロさんは『ココノエ』の保護者的な立場にいた人らしく、叔母さん共々監督不行ってことで、元の世界のお偉いさんから三人まとめて罰を受けているらしい。
「それでね、ついでに記憶まで封印っていうの? されちゃってさ~ワケわかんなくてオロオロしてたら、珠実さまに拾われたんだよ~?
それで、珠実さまに色々とお世話してもらってたある日に、すこーし記憶が戻ってきて……あはは、あの時は何も言わずいなくなっちゃってごめんなさい」
「……まったくじゃ、出て行くのであれば一声くらいかけんか馬鹿者め! それで? お主はその後、この『エルハダージャ』を立ち上げたと言うわけじゃな?」
う~む。珠実に何も言わずいなくなった~ってな部分が気になるけど、少し記憶が戻ったってことに理由がありそうね? 多分、訊いても答えられないんだろうけど。
そして後は伝え聞いた通りらしい。珠実の元を去った後、ヒヒイロさんと合流して、この国を興し、『ファムナ村』を訪れ、『三神国』の王達のために『聖柩』を作り上げたりしたそうだ。
更には民のお悩み相談所なる物を作って、色々問題を解決して……いつの間にかそれが『冒険者ギルド』って呼ばれるようになって……より専門的な派生ギルドとして他のギルドも出来上がった~とかなんとか、今のかたちに至る迄の経緯なんかを教えてもらった。
「……そして今、ぼくの記憶は完全に戻ったの。それは同時にぼくの罰が終わる証拠」
「なるほどね。だから貴女は月……元いた世界に帰るってわけか。ホントに『かぐや姫』みたいね?」
確か『かぐや姫』も元々月の住人で、なんぞやらかした結果地球への追放っていう罰を受けてたんだっけか? なんの罪だったかってのは明かされてなかったけど、そんなとこも『ココノエ』は被ってる。まあ、この子は二人も巻き込んでるからより性質悪いと思うけどね。
「そう。ぼくの役目はさっきの『忠告』を……アリサさんに教えること。この『エルハダージャ王国』を……『ココノエ』を、珠実さまに受け継いでもらう事だったんだ……珠実さま。最後まで自分勝手でごめんなさいだけど、どうかこの国を、『ココノエ』を受け継いで下さい!」
「は? 嫌じゃが?」
えぇーっ!? さっきは「吝かではない」って言ったじゃーん!? って、珠実の明らかな拒否に目をまるくして驚く『ココノエ』である。
「言うとらんぞ? 妾は「聞いてやらんでもない」と言うたのじゃ。そして話を聞いた上で断ると言うたのじゃ!」
ふええ~って涙目になる『ココノエ』に珠実はちょっと怒ったように突き放す。
まあ、わからなくもないよ。私だって勝手な言い分だなぁって思ったし。
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【まったく!】~馬鹿弟子めが!~《珠実view》
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まったく、話を聞いてみれば……なんという自分勝手な言い分じゃ!?
無論コヤツにはコヤツなりに事情があるんじゃろう。それは妾もわかった、しかし! だからといって、『エルハダージャ王国』の女王を受け継いでくれと言うのは承諾しかねる!
「珠実さまぁ~お願いだよぉ~!!」
「お主……まさかそのために仲間達に正体を明かさなんだか?」
泣き付く『ココノエ』に妾は、心の隅に小さく引っ掛かりしこりとなって残っておった気持ちをぶつける。そうじゃ、コヤツは『誉』と言う冒険者パーティーの一員であったと聞く。己の正体を最後まで明かすことなく、ゼオンの坊や達と共にあった。
「たわけが……よくそのような不誠実さで王が務まったものじゃな? どうせその様子じゃと今回のこともアヤツ等に話しておらんのじゃろう?」
「うぅ……ぼ、ぼくが『誉』に入ったのは、ゼオンくんとかゲキちゃんがいずれ王様になるから、仲良くなっておきたくて……」
それは良い。いずれ王となり、民を導く事となる者共と交流するのはコヤツにとっても多くの学びとなったであろう。しかし、本当の己の姿と心の内をひたすらに隠し上部だけの仲を取り繕う……そんな物がお主の言う『仲間』なのか?
「うぅ……だって、だって……下手に正体明かして失敗したら、この世界を救う事が……今に辿り着く事が出来なかったかも知れないんだもん……」
「見くびるでないわ! 妾達では頼りにならぬと抜かしよるか、この小娘が!?」
「はいはい。ストップストップよ二人とも~?」
腹が立つ! 言うに事欠いて「世界を救う事が」じゃと!? まるで己一人で事を成すのだ! みたいな事をほざきおって! なにを自惚れておるのじゃ小童が!
と、いきり立っておる妾と、べそべそと泣きっ面をかく『ココノエ』の間にアリサ様が割って入ってくる。
「落ち着きなさい。珠実もココノエもお互いの立場になって考えてみようね?
この子はこの子なりに限られた条件下の中で、世界のために動いていた。珠実もそこはちゃんとわかってるよ。そのせいでちょっと不誠実になっちゃったところもあるのは仕方ないって思うの。
でも珠実の言い分もわかるよ? 世界を護るために頑張ってる私達から見たら、この子はどうしてそんなに独りよがりなんだろう? ってね」
「アリサ様……う、うむ……そう、じゃな……ちと頭に血が登ってしまったようじゃ……済まぬな、『ココノエ』よ?」
「う、ううん……ぼくも、ごめんなさい……」
アリサ様に言われ、カッとなっておった頭が冷めてゆく……そして改めて『映像投影』ではない、本当の姿の『ココノエ』を見やる。
相変わらず透けてノイズでぶれるその姿……そうじゃな、コヤツはこのような姿と成り果てても、妾達の世界を、そのより良い未来を掴ませるべく孤軍奮闘しておったのじゃ……そうだとわかったその時、自然妾の口から謝罪の言葉が紡がれた。
「う~ん『九重珠実』かぁ……いいんじゃないの?」
「「え!?」」
互いに謝罪する妾と『ココノエ』を見てアリサ様が妙な事を呟いた。一体なんの事じゃ? して、何故に『ココノエ』とヒヒイロは左様に驚いておるんじゃ?
「お? 二人の反応からして的を射ちゃった? あんた達、よくわかんないけど私達に近しい存在でしょう? 以前珠実には教えたけどね、『ココノエ』って『九重』って書けるの。そして、私の前世じゃ名字って言って、こっちの世界で言うなら氏族名みたいなもんがあんのよ」
「ほう。ゼオン坊主の『ユグライア』みたいなものかの?」
そんなものがあるんじゃな? 妾達はその辺り特に気にする事もなく今までを過ごしておったのじゃが……ふぅむ、妾が『ココノエ』を継ぐならばそうなるのか。
「ふふ、答え合わせは大分先の話……珠実」
「はいなのじゃ。アリサ様」
「私からもお願いするよ。どうかこの子達と、その叔母さんだっけ? 彼女のためにも……私達の紡ぐ未来のためにも……『九重珠実』になってほしい」
アリサ様……なんと慈愛に満ちたお顔じゃ……まるで我が子を愛しく見守る優しき母親のような……ふふ、やはりこの御方には敵わぬものよ。一体どれだけ先が見えておられるのか、見当もつかぬ。
「……ふふふ、仕方がないのぅ~? アリサ様たっての頼みとあらば無下にするわけにも行くまい! 『ココノエ』よ、お主の願い、この珠実様が聞き届けようぞ! ありがたく思うのじゃ♪」
「おおっ!! 珠実様、ありがとうございます!」
「よ、よかったぁぁ~! ありがとう珠実さま~アリサさーん! よかった、よかったよぉぉーっ!」
ふはは! なんじゃなんじゃ? ヒヒイロも『ココノエ』も泣くほど喜びおって!
こうして、妾は不思議で不出来でなっとらん馬鹿弟子の「ひ、酷いよ~!」興したこの、『エルハダージャ王国』を受け継ぐことと相成った。
「余計なちゃちゃを入れるでない! しかし、女王と言うても何をすればいいんじゃ? 妾はさっぱりわからぬぞ?」
「ぷぅーっ! その辺りはヒヒイロさんからとっても丁寧に説明があるよ、ぼくは流石に時間ないから」
まったく。綺麗に締めようと思うたら『ココノエ』のヤツめ、まあ、それは良い。問題は女王としての仕事の内容じゃ。聞くに大臣であるヒヒイロのヤツが逐一教えてくれるそうじゃ。うむ、それならば安心じゃ! それに妾にはどこぞの皇帝やら街の代表やら、王族の知り合いは多いでな! アヤツ等にも相談すれば良いのじゃ。
「なんじゃ、そう思うと結構やれそうじゃな? これっ! 『ココノエ』! お主は元の世界に帰る前に世話になった者達に文を用意せい! 何も言わず帰るなど許さぬぞ!?」
「あわわっ!! い、今すぐ書きまぁぁーすっ!」
まったく! そのくらいちゃんと用意しておかぬか!? ほんに不出来な弟子じゃ、元の世界に戻ってもちゃんとやれるのか心配で仕方ないのぅ!?
珠実「そう言えばお主は『ココノエ』と一緒に元の世界に帰るわけではないのかえ?(´・ω・`)」
ヒヒイロ「はい(_ _) 私と叔母は女王の保護者的な立場であることもあり、少しだけ彼女とは重い罰を受けています(´・ω・`)」
ココノエ「こればっかりはホントにごめんなさい(。>д<)」
アリサ「その叔母さんってのは何処におるのん?(・д・ = ・д・)」
ココノエ「叔母さんは『ゲキテウス』にいるよ(*´∇`)」
珠実「なんじゃ一緒におるのかと思いきや(・о・)」
ヒヒイロ「一応この子にせがまれたとはいえ、禁を破った張本人ですので(´∀`;) その分罰も重く、私達と合流も叶いません(>_<)」
珠実「ふぅむ、なるほどのぅ(´・∀・`) アリサ様も十分気をつけた方が良いのではないか?(*`艸´)」
アリサ「にゃんだってたまみんや!?( ・`ω・´) 私が何をどう気を付けるっていうのかね?( ;゜皿゜)ノシ」
珠実「いや、だって……( ̄▽ ̄;) アリサ様もユニに頼まれたら大抵の事は断らんじゃろう?(゜∀゜ )」
アリサ「そっ!?Σ(゜ロ゜;) ソソソ……ソンナコトナイヨー?ヾ(・д・`;)」
ココノエ「プフーっ♪(*≧ω≦) めっちゃドモってる~(*゜∀゜)」
アリサ「い、いいから!(≧□≦) あんたはさっさとお手紙書きなさいな!(。・`з・)ノ」
ココノエ「はーい♪ヽ( ・∀・)ノ」
珠実「それはそうと、アリサ様や(^ー^) コヤツ……なんとなくアイの字に似ておらぬか?( *´艸`)」
アリサ「あ、珠実もそう思う?(°▽°) 不思議なんだけどヒヒイロくん見てると、なんかこう~甘やかしたくなるって言うか~ユニ達みたいに庇護欲掻き立てられるんだよね(*≧∀≦)」
ヒヒイロ「えっと、私は成人しておりますし……結構な年齢なのですが……(゜Д゜;)」
珠実「ほ~ん(゜ω゜) そうかのぅ~?( ´ー`)」
アリサ「な~んかやせ我慢してるんじゃないのぉ~?(*´艸`*) ヨシヨシってしてあげよう~♪ヽ(´ー` )ヨシヨシ」
ヒヒイロ「Σ(*゜Д゜*) だだっ! 大丈夫! 大丈夫ですから!?Σ(゜Д゜;≡;゜д゜)」
珠実「ふはは!(^∀^) 賢者ともあろう者が何を慌てておるんじゃ?(*´▽`*)」
ココノエ「(¬∀¬)」
ヒヒイロ「そ、それは!( ; ゜Д゜) ほら、女王も見ておりますし!(*ノωノ)」
アリサ「にょほほ♪。:+((*´艸`))+:。 かーわいぃ~♪( 〃▽〃)」
ヒヒイロ「か、勘弁して下さいぃ~!(*/□\*)」




