131話 聖女とエルハダージャ王都
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【いざ行かん】~『エルハダージャ』~
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「よし。それじゃあ『エルハダージャ』に向かおうか珠実?」
「うむ。事が動き出した今、のんびりしてもいられん。アリサ様や、一気に飛んで行こうぞ?」
ロアの『パソコン』の解析を済ませ、出てきた計画書を『神鏡』で連絡してきたTOSHI達に託し、私と珠実は『ココノエ』に会うべく『中継基地』から外に出てきた。
夜明けと共に襲撃してきた『魔装戦士』の撃退から始まった四日目。珠実の言う通り、遂に事が動き出したのだ。
「そうだね。あの『格納庫』にあった『パソコン』に残されてた『記憶の断片』で見たのが『ココノエ』なら……あの不安定な状態からして、そう長くはないのかもしれないからね」
あの『エルジャ村』にあった『エルジャ茸』の群生地。その地下に隠されていた『魔装戦士』の『格納庫』、そこで押収した『パソコン』、それに残されていた『記憶の断片』……「待ってるから、早く来て」と私達に訴えかける少女は、その姿が半透明であり、テレビの砂嵐のようなノイズがかかって、姿が揺らぎ、その声色と時折見えるようになる顔から、かろうじて少女だとわかる。非常に存在そのものが不安定であり、いつ消えてしまってもおかしくない様子だったのだ。
かつて突如として珠実の前に現れ、長い年月を共にしながら忽然と姿を消し、ゼオン達と『誉』というパーティーを組んだり……とにかく『ココノエ』の行動は謎が多い。
「なに、それも実際に会うて直接聞けばよいのじゃ。アリサ様や案内を頼むのじゃ」
「そうだね。方角はこっちよ? 全速力で飛ばすからね?」
うむ! 珠実がそう頷いたのを確認し、私達は『エルハダージャ』に向けて空に流星を残す。
シュゴォォォーッッ!!
音速を軽く超え、ソニックブームをバリアで防いですっ飛ばし、山と森をいくつか越えたところで、前方に大きな街並みが見えてくる。
「あら? 『エルジャ村』が和風な感じだったから王都もそうなのかと思ったけど、そうでもないのね?」
「ふむ、立派な城じゃのう? 『ココノエ』の奴め、妾に内緒でこんな国を築き上げておったとは……」
バシュゥンッ! と、大気を爆ぜさせ『エルハダージャ』の王都上空で停止する私達は、眼下に広がるその街並みを暫し見下ろす。何せ初めて訪れる街だからね、私のミニマップも更新したいので、ちょっと観察がてら、珠実と感想を言い合う。
大きな街だ。『セリアベール』の倍はあるかしら? 違いは『セリアベール』が円を描くように建物や道が整備されているのに対し、この『エルハダージャ』の王都は『凸』の形を取っていることだろうか。先に立ち寄った『エルジャ村』の様子が和風のそれだったから、てっきり王都もそうなのかと思いきや、奥に見えるお城は西洋の物だし、そのお城に近いエリアは立派な屋敷が建ち並ぶ。まぁ、貴族階級の者が住むであろう、おセレブ~なお値段する土地なんだろう?
中央には大通り。街の正面からずぅっとお城まで一直線に続いてる。左右の城壁沿い、街の入り口側がちょい貧相なお家が、そこから中央に近付くにつれ少しずつ建物のグレードも上がっていて、貧富の差がわかりやすい。
「さて、まずはゼオン坊が用意してくれた手紙を、冒険者ギルドに届けるんじゃったな?」
「そうだね。『エルハダージャ』は冒険者ギルドの発祥の地。『聖域』にもギルドを作るってんなら、先達さんへの挨拶は大事だわ。冒険者ギルドは……ああ、あそこね?」
ふんすって鼻息を鳴らし、「妾はちゃんと覚えておるぞ?」とドヤァする珠実はえらいね。正直、真っ先に城に行こうとするんじゃないかって思ってた。それだけ珠実は『ココノエ』を気にかけているように見えたからさ、長年行方知らずだった弟子? だろうから、無理もないんだろうけど……な~んか、アリサさんちょっとジェラっちゃいますよ?
「ぷふ~♪ アリサ様はほんに考えが顔に出るのぅ? 心配せんでも妾はアリサ様が大好きじゃよ~?」
「あんれま! いやだぁ~私ってばまたやっちまったべよ! ごめんねぇ~? っと、位置は把握出来たし、降りて街に入ろうか?」
見透かされてしまった。うむむ、やはり私にポーカーフェイスは無理なのか?
地上に降りて王都入り口の門の前に行くと、ちょっとした行列が出来ている。商人や冒険者といった風貌の人々だ。視界を行列の先頭に飛ばして見ると、門番の兵士さんが一人一人に話を聞いているね。
「尊い女王様がおわす街故に入門の審査もあるんじゃろうて」
「そうみたいだね、お行儀よく並びましょう」
それにしてもこんな朝早くからご苦労様だね。商人さんが多いかな?
ラグナースが言ってたけど、商売には商機があり、それを逃すまいと商人は時間を問わず動く事があるらしいから、この列に並ぶ商人さん達もそうなんだろう。
続いて冒険者達だけど、『エルハダージャ』は冒険者ギルドの発祥の地と言う事もあって、その人数も多いらしい。受注できるクエストも豊富だそうで、他国の冒険者達の間では、この『エルハダージャ』でクエストを受ける事を目標にしているとかなんとか。
「冒険者の街とか謳い文句にしてる俺達の『セリアベール』も負けてらんねぇのよ?」
とか、ゼオンがぼやいてたのをよく覚えてるよ。
よく見れば並んでる冒険者達の装備はちょっと汚れてたり、壊れてたりもしてるから、クエストの帰りなのかもしれない。彼等はおそらくギルドに報告に行くんじゃないかな?
後は旅行者だろうか? 一般的な服装の人達が護衛らしい冒険者と談笑してる姿も見れるね。ふむ、この辺の地理には明るくないけど、近くに別の街とかもあるんだべか? 一度王都を訪れてみたい! とか、そんな感じ?
「次の方どうぞ~?」
そんな感じで観察している内に、行列が捌けて行き、私達の番になった。
「ようこそ『エルハダージャ』へ。今日はどういったご用件で?」
「はい。『セリアベール』の冒険者ギルドのマスターから、この『エルハダージャ』の冒険者ギルドマスターへのお手紙を届けに来ました。それがこちらです」
「確認させて頂きますね……はい。確かに。冒険者ギルドはこの門を入って右手にありますよ?
それにしても、女性と『狐人』の幼子の二人だけで『セリアベール』からいらしたとは、道中大変だったでしょう? ゆっくり疲れを癒して行って下さい」
あら、ありがとう門番さん達。まさか「空飛んで来たんで問題ありません」とも言えず、私達は一言お礼を言って、手紙の宛名を確認しては返してくる門番さんからその手紙を受け取り、『エルハダージャ』王都へと足を踏み入れるのでした。
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【RPGな街並み】~『エルハダージャ』の冒険者達~
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「へぇぇ~♪ 綺麗な街じゃない?」
「うむ。空から見下ろしていた時には気付けなんだのぉ~♪」
ほぉぉーっ! なんぞ感動しちゃうねぇ~♪ というのも、入って見たこの『エルハダージャ』の王都。その街並みの様子がマジにRPGぽいのだよ!
モザイクタイルが敷き詰められた道とか~入り口から直ぐの広場の噴水や花壇。石レンガに赤い屋根のお洒落なお店とか、『INN』って看板掲げた宿屋さん! 剣の看板の武器屋さん、飾り鎧と盾を看板にしてる防具屋さんとか! もー絶対この街作った『ココノエ』ってRPG知ってるよねこれ!?
「嬉しそうじゃのうアリサ様や。まあ、綺麗な街じゃとは妾も思うがの? 今は冒険者ギルドに急ごうぞ?」
「ああ、ごめんごめん! ついはしゃいじゃったね? えっと、冒険者ギルドはあっちね?」
ふふ、いけないいけない♪ 前世でプレイしてたRPG風のリアルな街に思わずテンション上がっちゃったよ! 道を歩き、お店を覗いてる町人達の服装も中々にそれっぽいし、まるでゲームの世界に迷い混んだみたいで楽しくなっちゃった。
「おはよう。この王都は何処が、何のお店かわかりやすくていいわよね?」
「それに清潔だしな。クエスト帰りで汚れたままの装備で歩くのが申し訳ないくらいだ」
うえっ!? な、なんぞ! なんかいきなり見知らぬ人に声かけられたんだけど!? そんな突然の事態にびびった私は、声をかけて来た人達を睨み付けてしまっていた。
「あ、ごめんなさい。いきなり声をかけてしまって……驚かせちゃったわね?」
「申し訳ない。君達が「冒険者ギルドに~」と話しているのを聞いてね。つい……」
ペコリと丁寧にお辞儀して無作法を謝罪する人達。あ、この人達ってさっきの行列に並んでた、冒険者っぽい人達だ。人数は四人。戦士っぽい青年と魔法使いぽい美人なお姉さん、それに斥候かな? 小さい女の子と……ヌオォって感じの大男は、まさか僧侶?
「あの、何か私達にご用でしょうか?」
うほぉ~見知らぬ人との会話緊張する~! 考えてみれば、今まで出会って来た人達って、事前に情報聞いて、ほんのちょっとだけど悪い人達じゃないってわかってたから大丈夫だった。でもここは『エルハダージャ』っていう初めてばかりの国なのだ、人見知りするわけじゃないけど、警戒はしてしまう。
(大丈夫じゃアリサ様や。この者共、善意で妾達を冒険者ギルドへと、案内しようとするつもりみたいじゃぞ?)
(珠実、『読んだ』のね? ありがとう、確かに悪意は感じないね)
そんな私を気遣ってか、珠実が彼等の心情を読み取って教えてくれる。なんてありがたい。それならちょいとお話聞いちゃおうかな?
「ああ、そんなに警戒しないで? ただ、見たところ貴女達がこの街に不馴れそうだったから……」
「そういうことなんだ。見ての通り、俺達は冒険者で、これからギルドにクエストの報告をしに行くところだったから、よかったら一緒にどうかなって?」
「他意はありません。小生が信じる神。レウィリリーネ様に誓いましょう」
「あっはっは♪ ぶっちゃけ失敗報告だからさ~なんか気をまぎらわせたいんだよねぇ~? ほら、落ち込んだ時こそ他人に親切にしなさいって言うじゃない?」
言わないんじゃないそんなこと? って、最後の小さい女の子の言葉に内心ツッコミいれたりしたんだけど、ふむふむ~ん。どうやらマジに親切で声をかけてくれたみたいだ。まぁ、彼等と一緒するのは短い間だろうし、いっか。
「そうだったんだ? ごめんね、ガンつけちゃって? この子と二人旅だからさ、何かと警戒しちゃっててね?」
「そうじゃな、妾がぷりちぃ過ぎて危ないんじゃ~♪ 困ったもんじゃのぅ?」
アハハ♪ そうだったんですね? って、私達の返事に笑い出しつつも、納得した様子の四人の冒険者達。まぁ、実際に私と珠実みたいな女性と女の子の二人旅、なんて危なっかしい事この上ないだろうからね。
「それで、どうでしょう? よかったら俺達『冒険者ギルド』まで案内しますけど?」
「うむ。苦しゅうないぞ戦士の青年よ。よきにはからうのじゃ」
「こら、珠実ったら! ふふ、連れがごめんなさいね? 是非案内の方、お願いします」
おうおう? 珠実様がおちゃらけておりますわ♪ 折角の善意での申し出だ。急いでお城に行きたいのは確かだけど、こういった縁は大切にしよう。そう思った私は四人の冒険者達にお辞儀して冒険者ギルドまで案内してもらう事を受け入れる。
「ええ♪ 任せて? あ、私はこのパーティー『閃光』のリーダーをやってる、ウィーリミア。魔法使いよ。種族はアルセイデスなんだけど……ご存知かしら?」
「ほぉ~森妖精が冒険者とはのぅ? 引きこもりのお主達にしては珍しいのではないか?」
「うちに沢山いるよ? 貴女、ウィーリミアさんもティターニアのとこから外に出た感じ?」
そうしてお互いに自己紹介の流れに持っていく、最初に話しかけて来た魔法使いの美人さん。このお姉さんは名前をウィーリミアって言って。森の妖精であるニンフのアルセイデスだ。ティターニアの『妖精国』というか、『聖域』以外で見かけるのはちょっと珍しいかな?
「女王様をご存知なんですか!? それに『魔の大地』に私達森妖精の事も!?」
一体貴女達って何者なんですか!? ってびっくりするウィーリミアさんだ。んじゃ『冒険者ギルド』に着くまで私達も自己紹介しつつ色々お話しておこうかな。
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【マスターの】~オネェさん~
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「……大事じゃないですか! あの『魔神戦争』の話は俺達みんな知っています!」
「そういや今日の夜明けごろにいろんなとこで魔物から襲撃されたって話は……!」
私達の話を聞いて、顔を青ざめさせる『閃光』の四人。その内の戦士である『人間』のレグスくんと、ハーフリングの斥候。キャルルちゃんが私達に詰めよってくる。
「こうしてはいられません。小生が崇め奉るレウィリリーネ様が遥か西。かつての『ルーネ・フォレスト跡地』へと旅立たれたとは!? 参りましょうウィーリミア!」
「落ち着きなさいドム! ここからどれだけ距離が離れていると思ってるのよ?」
そしてリーダーのウィーリミアさんに『ルーネ・フォレスト跡地』へと自分達も行こうと騒ぐのが、『鬼人』で僧侶のドムさんだ。
「うむ。ウィーリミアの言う通り落ち着いてほしいのじゃ。お主達はそれなりに名の知れた冒険者達なのであろ? それならばギルドと連携し、いざというときに、民達を守ってもらいたいのぅ?」
「そうだね、この件はこれから女王様に奏上するけど、絶対に他言無用でお願いね? 人達を不安にさせて混乱を生むのは避けたいから」
聞けば彼等『閃光』はこの『エルハダージャ』が誇るSランクパーティーだそうで、国家の中枢。世の『三賢者』の一人であり、大臣も勤めている『ヒヒイロ』と言う人物の覚えもいいと言う。
そんな彼等だからこそ、私達はこれまでの事情を総て話して聞かせ、いざというとき、その『ヒヒイロ』と言う人物と協力し民達を守ってもらいたいのだ。
「わかりましたアリサ様。となれば、ギルドとも連携して迅速な行動が取れるようにするべきですね……」
「マスターのオネェさんは俺の恋人なんです。俺達の話なら必ず信じてくれます!」
ふむ、確かに『エルハダージャ』には冒険者の数も多いし、ギルドにも協力してもらえるなら心強いね。ウィーリミアさんとレグスくんが言うように、冒険者ギルドのマスターにも話をしておこうか。
「ほぉぉ~ギルドのマスターと恋仲とな? それは言わば上司と部下で~と言う関係かの? やっかみとかは大丈夫なのかえ?」
「大丈夫だよ珠実様! レグスとオネェさんは絶対に公私混同しないもん♪」
「以前にはそういった輩もおりましたが、実力で黙らせましたから、ささ、見えて来ましたよ。あそこが冒険者ギルドです」
なんとまあ~レグスくんと冒険者ギルドのマスターは恋人同士なんだって! 職場恋愛だねぇ~♪ お互いの立場上贔屓してるんじゃないかとか、色々と他の冒険者達や職員達にあらぬ疑いをかけられた事もあったそうだけど、『閃光』は高難易度のクエストをバンバン達成していき、今じゃ誰もその実力を信じて疑わないそうだ。
さて、そんなレグスくんの恋人さんがマスターを勤めている冒険者ギルドにもようやく到着だ。ドムさんが指差す先。中々豪華で大きい建物、御影石と大理石で建てられたモダンな装いがまたお洒落だねぇ。始まりの冒険者ギルドだけあって、すごく広そう。
「あれ? そういえば、『エルハダージャ』の冒険者ギルドは暑苦しいって聞いてたけど……」
「「「「あ~……」」」」
そんな三階建ての大きくて広い冒険者ギルドを見上げているときにふと、バルガスとネヴュラが聞いていたと言う情報を思い出した。なんでも女の子には非常に暑苦しい場所だから、行くなら注意するように~とかなんとかだったはず。その事をちょいとぼやくと、『閃光』のみんなが遠い目をするんだけど?
「あはは、確かにそうかもしれないわね? 私達はもう慣れてしまったけど……」
「はっはっは! そう心配なさらずとも皆気の良い者達ですよ! さあ、入りましょう!」
うん? 慣れさえすればなんともないのかねウィーリミアさんや? まあ、ドムさんがもうガチャコと冒険者ギルドの入り口の扉を開けて入ってったから、後に続くしかないんだけども。
カランカラーン♪
あらぁ~? 扉に鈴なんかついて~? お洒落な喫茶店かしらん? なんて思いつつ、『閃光』の後に続いてギルド内に入る私と珠実なんだけど……
「あらぁ~♪ 『閃光』のみんなじゃなぁーい! お帰りなさぁ~い♥️」
「オネェさん、ただいま戻ったわ」「ただいま~オネェさーん、クエスト失敗しちゃったよぉ~!」
「申し訳ないオネェさん、小生達では力及ばず……」「相手はバカダケキノコの群れだった……」
おおお、オネェさん? こ、この人が……レグスくんの恋人さん?
「いいのよ? いいのよぉ~? 貴方達が無事でよかったわ! アタシこそごめんなさいね、バカダケキノコだって知っていたら、もっと魔法使いを増やしたのに! ああ、レグスちゃん貴方も無事ね!? よかったわぁ~♪」
ポカーン……えぇ~マジかぁ~? オネェさんって、男性だったんかい!?
驚いた、こりゃー驚いたたよ! 中々にイケメンなレグスくんの恋人さんって言うから、私はてっきり彼より年上な色っぽくて美人なお姉さんを想像してたんだけど、その恋人さんの実態は、上半身素っ裸で彫りの深い顔にこれまたでっかい傷痕残した、バルガスも顔負けのムッキムキの筋肉筋肉さんじゃないの! これには私も珠実もびっくりしすぎてあんぐりと口をあけることしかできなかったよ!
「大丈夫よみんな、安心してちょうだい♪ 『エルジャ村』のキノコ問題は通りかかった旅人さんが解決してくれたって村長から鳩で連絡が来てるわ!」
「おおっ!!」「そうだったのね!」
「わぁーっ! よかったぁ~♪」「これで安心して『エルジャ茸』が食せますね!」
お、おう……ちょっとほうけてたけど、さっきキャルルちゃんが「失敗報告~」とか言ってたのは、あの『エルジャ茸』の群生地にいたバカダケキノコ問題だったんだ? そりゃあ魔法使いがウィーリミアさんだけじゃあの数を殲滅するのは難しいだろうね。
「あら! あらあら! うふふ♥️ みんな聞いて? その旅人さん達は小さな『狐人』の女の子を連れていたそうよ~? うふん♪ お客様はもしかしてぇ~?」
バカダケキノコ騒動を思い出し、ほうけてた頭も元に戻ってきた。そんなタイミングでオネェさんが私と珠実の姿を認めてはにっこり微笑む。まぁ、隠すことでもないし、教えておこうか? このオネェさんにはこの後も色々とお話しなくちゃいけないしね。
「うむ。そうじゃな。妾達が『エルジャ村』を騒がせておったキノコ共に引導を渡してやった旅人じゃ」
「本当は後三人いたんだけど、今は別行動しているわ」
思えば、そう答えてしまったのがいけなかったのだ。
なんでも『エルジャ村』の村長さんが飛ばした伝書鳩の手紙には、バカダケキノコをやっつけた私達の風貌も書かれていたらしく、オネェさんはその中でも特にわかりやすい珠実を見て断定したらしい。そう……
「まぁーっ! やっぱり~♪ 来てくれて嬉しいわぁ~♥️
おい! 野郎共ぉーっ! 『エルジャの英雄』様のおなりだぁーっ! 歓迎の準備をしやがれぇーっ!」
おおぉぉぉーっ!!
英雄として。
そしてオネェさんの野太い声がギルドに響き渡り、そこらじゅうから雄叫びがあがったのだった。
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【そーれ!】~マッスルマッスル~♪~
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「あそーれっ! マッスルマッスル~♪」「そりゃそりゃそりゃそりゃぁーっ!!」
「マッスルマッスルマッスルマッスルーっ!!」
ムキーン! ムキムキーンッ!!
「ぬああーっ!? なんなのじゃ暑苦しい!!」
「あの、お、オネェさん……ウィーリミアさん達……?」
「うふふ♪ お嬢ちゃん達も沢山楽しんで? アタシ達の歓迎のマッスルダンスよぉぉ~♥️」
「た、耐えてアリサ様。珠実様!」
「やっぱ女の子にはキツイよねぇ? でもこれがオネェさん達の誠意なんだよ、あはは~♪」
マッスルマッスルーっ! そーれそれそれ! マッスルマッスルマッスルゥゥ~♪
げんなり……ぐっふぅ、これキッツイわぁ~一刻も早くこのギルドから外に出たくてしょうがないんだけど? 私達が『エルジャ村』のキノコ問題を解決した旅人だとわかるやいなや、オネェさんが大声で「集まれ!」って叫ぶと、冒険者ギルドの職員さん達がわらわらと集まって来ては騒ぎ出した。それだけなら私達も「あはは、参ったな」って笑っていられたんだけど、職員さん達のみんながみんな、凄いのだ。なんせ上半身裸で、全員凄いマッスル! そうして筋肉に囲まれた私達に、歓迎のマッスルダンスが披露されるのだった! ウィーリミアさんが心配そうに私達を応援? してるけどね……キャルルちゃんが言う誠意ってなんぞ?
「バルガス共が言うておったのはこういう事じゃったのか……」
「あ、頭おかしくなりそうだわ……」
「ははは! 小生も最初は驚きましたが、今やこの通り! むぅん! マッスルマッスルーっ!」
「オネェさん直伝のダンスです! ご堪能下さいお二人共! マッスルマッスルゥーッ!!」
ほーれ! マッスルマッスルーっ! もいっちょマッスルマッスル~♪
飛び散る筋肉達の汗! 蠢く筋肉! 「マッスルマッスル」の掛け声に合わせて、都度マッスルポーズを変えては私と珠実の座るテーブルの周りをぐるぐると、目の前に来た職員さんの「ニカッ!」って笑顔を見て「あら、健康的な白い歯並びね?」なんて現実逃避を試みるも、わざとらしくぴっくんぴっくんさせる胸筋がそれを許さんとばかりに、視界に飛び込んで来ては「こっちをみろぉぉーっ!?」ってな感じにアピールするのだ! しかもレグスくんとドムさんまでノリノリで参加している始末。
他の冒険者達迄一緒になって……いや、これ……一体何の儀式よ? ぶっちゃけ誰でもいいから助けてほしいんだけど? 珠実もたまらず叫んじゃってるし……
ギルドマスターのオネェさんにはゼオンの手紙を渡して、目を通してもらわないといけないんだけど……この筋肉儀式をなんとか終わらせないと話もできないね。どうすりゃいいかしら?
「そういうことなら話が早いわアリサ様。任せて! オネェさん! この旅人さん達『セリアベール』の冒険者ギルドマスターから手紙を預かっているそうよ!?」
ピタッ!!
うおぅ!? すげぇ~あんだけ騒がしかったみんなが、私達の事情を聞いたウィーリミアさんが発した一声で、まるで動画を一時停止したかのようにピタリと動きを止めたぞ!?
「あらあらーっ! うふふ♪ ゼオンちゃんやエミルちゃんは元気にしているかしらぁ~? 『氾濫』解決のお祝いもしたかったのだけど、アタシも忙しくてねぇ~?」
「ほう、やはり冒険者ギルドの繋がりがあるんじゃな? 二人共壮健じゃぞ? よーしお主等! 歓迎の躍りはもう十分じゃ! 仕事に戻らんか!?」
おぉ! 珠実えらい! 私達を取り囲むように群がっていたマッスルダンサーズが動きを止めたその隙を見逃さずに一喝して仕事に戻らせたじゃないか! うむむ、私もあれくらいハッキリ言えるようになった方がいいのかしらん? まぁ、それはさておき、今のうちにささっと手紙をオネェさんに渡してしまおう!
「そうなのねぇ~♪ うふふ、よかったわ! はい、確かに受け取ったわぁ~ん♥️
ほらぁ~? 今朝がたに何か色んなところでドンパチがあったって言うじゃない? この『エルハダージャ』は無事だったけど、心配なのよぉ?」
そう言って私から受け取ったゼオンからの手紙を開き、読み進めるオネェさんだが、始めこそニコニコ笑顔だったその顔が読み進めるにつれ、徐々に険しい真剣なものに変わっていく。
「……どうやら、事は一刻を争う事態になっているようね? 『聖域の魔女』様?」
「そうだね。だからこそ私達はあなたの手助けがほしいと思っているの」
ふぅ~と、大きなため息をついてオネェさんはその真剣な瞳を私達に向けて来た。ありがとうゼオン、色々と手紙に書いてくれてたんだね? お陰で事がスムーズに動きそうよ?
「オネェさん。俺達も事情は聞かせてもらった、だけど下手に公表すると混乱を招きかねない」
「そうねぇ~ゼオンちゃんからはアタシが一筆したためて、アリサ様達が城に入れるよう便宜を図ってくれって事だけど……ウィーリミアちゃん?」
「はいオネェさん」
少し驚いたんだけど、オネェさんは冒険者ギルドのマスターとして、各国との冒険者ギルドとの連絡を密に取っているらしい。流石は冒険者ギルド発祥の地のマスターってとこかな? 『セリアベール』の『氾濫』、『エルジャ村』のキノコ問題、加えて今朝起きたばかりのロアの『魔装戦士』の襲撃の事も察知していた。
そしてゼオンからの手紙を読んで、私達が『エルハダージャ城』へと入城するために手紙を用意してくれると思ったんだけど、何か考え込んだ後、ウィーリミアさんを呼ぶオネェさん。
「少し頼んでいいかしら?」
「オネェさん自ら?」
「ええ、アタシが直接出向いた方が早そうだからねぇ~?」
おや、なんとオネェさんが直々に私達に同行してお城まで行ってくれるみたいだ!
「いかがかしらアリサ様、珠実様? アタシがいれば『ヒヒイロ』さんまで顔パスよぉぉ?」
「それはありがたい申し出じゃ! 宜しく頼むぞオネェさんとやら!」
「嬉しいけど、その間ギルドは……?」
むぅ、ギルドマスターともなればお城の大臣様にも簡単に会えるのか? それならすんなり女王の『ココノエ』にも会えるかもしれない。だけど、その間ギルドマスターが不在になるのは~って思ったんだけど、ウィーリミアさんが手を振って応えてるね?
「ウィーリミアはサブマスもやってるからね♪」
「えぇ~? 冒険者と兼業できるんかい!?」
キャルルちゃんがあははって明るく笑うけど、「いいのかそれ?」って思わず突っ込んだら、これが中々有用性が高いらしい。地域の魔物の分布図とか、サブマスターのウィーリミアさんが直接出向いて調べた分、かなり正確に作られるとか。他にも様々なメリットが多くいそうだ、今はこの『エルハダージャ』でのみ採用してるシステムらしいけど、その有用性から、今度行われる予定の、各国の冒険者ギルドのマスター達が集まる会合の場で提案するつもりらしい。
レグス「オネェさん!!(≧▽≦)」
オネェさん「レグスちゃぁぁーん!゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」
だきっ!!
冒険者達「ヒューッ!O(≧∇≦)O おあついこって!ヘ(≧▽≦ヘ)♪」
アリサ「……おぅふ(  ̄- ̄)」
珠実「……強烈じゃな(ーωー)」
ドム「ハハハ(*`▽´*) 相変わらずですねお二人は(^ー^)」
キャルル「いっつもラブラブだよねぇ~♪( *´艸`)」
ウィーリミア「微笑ましいわぁ~(*≧ω≦)」
アリサ(ほ、微笑ましい……?(゜Д゜;))
珠実(暑苦しいの間違いではないのかのぅ?(゜A゜;))
オネェさん「うふふ♥️ いつもならお帰りなさいのあつぅ~いキッスをするところだけど~お客様が見てるからねぇん( 〃▽〃)」
レグス「ふふ(*´∇`) それは二人の時に、ね?(〃ω〃)」
職員達「いやぁ~(´・∀・`) いつも仲睦まじい理想的なカップルですね!(´∀`*)」
冒険者達「ホントよねぇ~♪(゜ー゜*) 羨ましいわぁ(゜∀゜ )」
珠実(……のうアリサ様や(;´A`) 妾、あの二人がバルガスとアイの字に見えてきたんじゃが?(´・ω・`; ))
アリサ(Σ(Д゜;/)/ ちょ!? や、やめてよ珠実!(≧□≦) なんて恐ろしいこと考えるの!((゜□゜;)))
珠実(済まぬ(-_-;) しかし、この光景をアリスやシェリーにミュンの字が見たら歓喜しそうじゃなぁ?(*´艸`*))
アリサ(えぇ~?(;´Д`) 連れて来なくて正解だったのかなぁ?( ̄0 ̄;))
オネェさん「さぁ~みんな!(ノ・∀・)ノ お客様を歓迎するマッスルダンスよぉーっ!(ノ≧▽≦)ノ」
職員達「オオォォーッ!!ヽ( ̄▽ ̄)ノ」
そーれ! マッスルマッスルゥーっ!!
アリサ&珠実(だ、誰か助けて……(T^T))




