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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
165/211

130話 聖女と『魔神戦争』の真実

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【にゅっと出てくる】~リドグリフ~《フィーナview》

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 世界の南東。『エルハダージャ』と呼ばれる国土の南には、高く聳える山脈が連なっています。

 その山脈の周囲は、麓に及ぶまで作物も育たず、人も動物も住めない荒れ果てた荒野。『グレブヒュ山脈』です。何故こんなにも荒野が続き、不毛の地となっているのか? それは『爪痕』だから。

 この地にはかつて勇者と戦い、倒された魔王、『武神リドグリフ』が眠る地だからなのです。長い年月の間、『世界樹(ユグドラシル)』が反転していたせいで、自浄作用が自壊作用と変わり、『龍脈の源泉(レイライン)』も閉じてしまっていた影響で、魔素が濃くなり生物は魔物と成り果ててしまう。

 さて、そんな人を寄せ付けないこの『グレブヒュ火山』ですが、人の探求心や好奇心というのは面白いもので、「そんな場所だからこそ何かがあるはず」だと、探索に来る者達もいるようですね? それが道中に散見される白骨と、『幽霊(ゴースト)』や『悪霊(イビルレイ)』、『スケルトン』等と言ったアンデットなのですが……哀れなものです。


「……お久し振りですね。リドグリフ?」

「ほう……? 誰かと思えば……『弓神』ではないか?」


 アルティレーネ達三姉妹が創造したこの世界、『ユーニサリア』の南東に位置するこの『グレブヒュ火山』の山頂。ここは、この世界の『龍脈の源泉(レイライン)』の一つであり、また。かの勇者、アーグラス一行がこの『武神リドグリフ』を討った場所でもあるのは前述した通りです。


「……丁度良い。『弓神』よ? かの者共はどうしている?」

「はて? 『かの者共』ではわかりませんよ? それに答える義務も義理もありませんね」


 さて、その『龍脈の源泉(レイライン)』の守護をティリアお姉様に頼まれ、わざわざ『神界』からやってきた私なのですが、つい先日、火口からこの『武神』が復活を果たしました。

 私の役目はあくまでも『龍脈の源泉(レイライン)』を護ることで、魔王に関しては一切手を出すつもりはありません。リドグリフも私との戦いなど眼中にないでしょうからね。

 ただ、定期的にパトロールとしてこの山頂に訪れていましたが、彼が復活をしたことで、漸く退屈せずに済みそうですね。そのためにはこの『武神』をこの場に留まらせておかなければいけません。取り敢えず、軽口を叩き合い、かの勇者アーグラス達の転生体である、アイギス達『白銀』の事を、もったいぶって話してあげましょうか?


「…………」

「ふぅ……相変わらずの無口ですか? 仕方ありませんね。このままでは退屈ですし、少し教えてあげますよ」


 私の返しにムスッとして押し黙るリドグリフです。多くを語らず武に邁進し続けるその姿勢は見事と言えるかもしれませんが、要はただのコミュ症ですよね? よくもまぁそんなんで神になれましたねあなた?


「うるさいぞ?」

「あら? それでは話すのを止めましょうか?」


 お前は口数が多すぎる? そんなの当然でしょう? 女神ですよ私? 女子なんです。おしゃべり大好きな女子なんですよ? 本当はティリアお姉様と、セルフィお姉様にアリサお姉様達も交えて美味しいお菓子とお茶を頂きながら一日中談笑していたいんですよ? それをあなた達は問題ばかり起こして……迷惑なんですけど?


「……答えぬ。と言うならば我、自ら動くまで」

「あぁーっと! 待ってください? それはそれでめんどくさい事になりそうなので止めておきましょうね? アイギス達……勇者一行の転生体達とすれ違っていつまで経っても会えない~なんてなりそうですし」

「むぅ……」


 あ、いえ……それはそれで面白いかもしれませんね? あ、いやいや! 彼を野放しにするわけにもいきません。ふぅ~仕方ありませんね、教えてあげますか。


「安心して下さい。彼等はあなたがこの火山の山頂に復活すると聞き、『神器』を回収して向かっていますからね」

「……そうか」


 やれやれ、何が「……そうか」ですか? 嬉しそうにニヤケないでくれますか? 気持ち悪い。


「……何処か行けばいいだろう? 我はかの者共が来るまで動かん」

「あら? 先客は私ですよ? アリサお姉様のお使いで鳳凰とグリフォンがお弁当を届けに来てくれるんですからね」


 まったく! 聞けばセルフィお姉様は既にお会いしていて、美味しいお料理やケーキ等も振る舞われたと言うではありませんか!? もーっ!! 散々自慢されて悔しいったらありゃしませんよ! しかもちゃっかり街のお宿で働いてって!?


「私は毎日この無駄に熱い火山の火口まで通っていると言うのに! 酷いと思いませんかリドグリフ!?」

「……知らぬ。そもそも我等は食など要らぬ身、そのような無駄な事に時間を割いてどうする?」


 フンッフンッ!! と、煮えたぎる溶岩がボコボコ言う火口の中で、空に拳を打ち出すリドグリフです。つれないですねぇ~? 相変わらずの武術馬鹿と言った感じで、それ以外はまるで興味無しですか? まぁ、私も彼に小粋な答えを返せ~なんて土台無理な話だとわかっていますけどね。

 それにしても……なんてつまらない。この『武神』が『龍脈の源泉(レイライン)』をどうこうしようとは思えませんし、私いなくても良くないですか?


「……ああ、いえ。あなたはともかく、ロアは危険ですね。はぁ、本当にめんどくさい……」

「ふん……」


 ぼやく私を横目に、リドグリフは素振りを続けています。

 彼は『龍脈の源泉(レイライン)』等と言った外部からの補助など受けず、己の力のみで勇者一行……『白銀』と戦う事が望み、の筈。しかしロアは違います。


「あの旧神は我とは真逆……おのが欲を満たす為ならば何でも利用するだろう」

「……欲、知識欲とでも言うのでしょうか?」


 いえ、好奇心と言うべきでしょうか? そう、あの『技工神』は自分の実験の為なら、何もかもを利用する。それが他の神が創造した世界であっても……そんな『狂神』なのです。


「一つ……話をしてやろう、退屈しのぎになるかもしれんぞ?」

「……伺いましょう」


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【パーティー再編と】~ロアの計画書~《聖女view》

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「なんですって……!?」


──『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』の世界技術の利用──


 『魔装戦士』の制御方法に『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』の世界の技術を利用。

 より精密な制御方法を確立する。


 概ね成功。『パソコン』と呼ばれる端末を入手し、『電力』と言う動力エネルギーを魔力を変換する事で確保した。また、『魔装戦士』の『(コア)』に回線経路を作成。これにより、一つの端末操作で複数体同時に『魔装戦士』達を制御可能とすることに成功。

 特筆すべき点は吾が輩でなくとも、操作が可能な事である。


「……なんと言う事じゃ。アリサ様、これがあの『格納庫』で黒フード共がいじっておった事なのじゃな!?」

「そうだね……でも、それは私達も見たからわかってる。問題はこの先だよ、珠実」


 ロアの『魔装戦士』から受けた奇襲とも呼べる襲撃を受けた私達は、無事それらを撃退した。

 魔女の私と行動を共にしているガッシュくんからの情報で、黒フード……『ディード教団』の背後には、既に復活を果たしていたロアがついている事を知った。

 これを受け、最初にロアが復活するだろうと予測した『リーネ・リュール』へと赴く理由がなくなったと判断した私達は急遽各パーティーを再編成し、再び行動を開始したのだ。

 まず、アルティレーネだけど、彼女にはアイギス達『白銀』と合流してもらい、『ジドランド王国』の国宝となっている『神斧ヴァンデルホン』の回収と、『エルハダージャ』南東に位置する『グレブヒュ火山』に復活する『武神リドグリフ』との決戦にまで一緒に行動してもらう。


「アイギスさん達とリドグリフ。双方が死力を尽くした戦いとなるでしょう……ロアはその戦いが終わった瞬間を狙う筈です。彼にとってリドグリフも『白銀』も邪魔な存在でしょうから……」


 ロアの目的がこの『ユーニサリア』を自分の実験場とすると言うのは、最早明白。彼にとって他の魔王も勇者も邪魔な存在でしかないと言うのが、アルティレーネの見解。故に彼女が『白銀』と合流し、彼等を守るのだ。それに、女神であり、『神器』の創造主であるアルティレーネが同行すれば、『神斧ヴァンデルホン』を譲り受ける事も容易だろう。


「儂とリン。女神達は『ルーネ・フォレスト』じゃ。翼達の報告では大分魔素が濃くなっておるとの話……あの『獣魔王』の復活も近かろう?」


 そして本来二手に別れて行動する予定だったシドウにリン。リールとフォーネにレウィリリーネとフォレアルーネ達。彼等は『ルーネ・フォレスト跡地』へと直行してもらう。私のオプションである、『ふぉれやん』も監視を続けているが、先に偵察に入った翼達からもその地の魔素濃度が濃くなっているとの報告を受けているからだ。『ルーネ・フォレスト跡地』はかつて猛威を振るった『獣魔王ディードバウアー』が眠る地でもあり、その地の魔素濃度が上昇していると言うことは、かの魔王の復活も近いという事。

 もし『ディードバウアー』が復活を果たせば、ところ構わず、その荒れ狂う力で破壊の限りを尽くす事だろう。その被害を最小限に抑えるべく、彼等には奮闘してもらうことになる。ある意味一番危険度の高い場所かもしれない。故に『ふぉれやん』のみならず、『リーネ・リュール跡地』を見張っている『れうぃりん』も導入する予定だ。二体共『守護者(ガーディアン)』に換装すれば、シドウとリンと協力して、屈強の護りとなるだろう。


「俺達は『ゲキテウス』だ。『猫兎(キャットラビット)』達と『人猫(ワーキャット)』に変身中のアリサ殿と、ガッシュに合流して黒フード共の拠点を叩くぞ!」


 次に『黒狼』達だ。彼等にバルガスとネヴュラを加え、『ゲキテウス』で魔女の私達と合流してもらい、ガッシュくん……もしくは、彼と『人猫(ワーキャット)』の幼女に変身した魔女の私に接触してくるであろう、黒フード達の案内で奴等の拠点を暴き出しては一斉に乗り込み、一気に制圧する!

 理想的な流れである、『黒狼』と『聖魔霊』夫婦でエリクシル達を相手して、ロアとは『猫兎(キャットラビット)』と私で相手するって感じに持っていきたいね。


「俺達は全力で街と村を守りきる!」

「ああ、なんならこの城ごと皆の救援に向かってやるよ!」


 だから安心してくれ! って、心強いバックアップを約束してくれるのがゼオンとルヴィアス。彼等には各々の大陸の都市や国、村等の防衛と、余力があるなら、他国への救援にも携わってもらうことになり、最も多忙となると思われる。それでも二つ返事で了解してくれた事には感謝しかないね。『聖域』の一部戦力もここに合流してもらい、共闘してもらおう。


「妾とアリサ様は予定通り『エルハダージャ』じゃな。『ココノエ』には会わねばならん」


 最後に私と珠実は当初の予定通り『エルハダージャ王国』へと向かい、女王『ココノエ』と謁見する。何故だかわからないけど、私も珠実もあの『格納庫』で見た『記憶の断片(メモリーピース)』の人物が『ココノエ』であり、そして私達は必ず会わなければいけないと確信している。

 もしも『ココノエ』が私の仮説通りであるならば……いや、そうじゃなくても、必ず会って話をしなきゃいけない……彼女は多分キーパーソンだから……


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【かの闘いの】~真実~《珠実view》

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 と、言うわけでじゃ。妾とアリサ様は再び『エルジャ村』近くの山間。『ファムナ村』に転移する前に『中継基地(サテライトハウス)』を設置した場所に戻って来たのじゃ。

 では『エルハダージャ』に向けて歩を進めるかの? と、早速歩みだそうとした妾をアリサ様は引き留めた。なんじゃ一体? と、思い、話を聞いてみるに。


「先に押収した『パソコン』を解析してみましょう」


 との事じゃ。妾は何も今でなくとも良いのではないかと進言したのじゃが、なにやらアリサ様は少し考えこむ仕草を見せた後、更にこう言うたのじゃ。


「珠実。ひょっとすると、この先私は力になれないかもしれないのよ? これは勘だけど……魔王との決戦の場に、私はいられないかもしれない。だから、そのときは貴女がみんなの支えになりなさい?」

「な、なんじゃと? それはどういう事なのじゃアリサ様!?」


 何を言うのじゃ!? 縁起でもない! そうアリサ様を叱りつけようとしたのじゃが、常に最悪の事態を想定されておるアリサ様の言じゃ。この先そういった事態も「あるかもしれない」と、妾も想定せねばならぬか……


「……うむ、心得た。もしそんな事態に陥ったならば、妾が皆に呼び掛け、支えようぞ? しかし、そう長くはもたぬじゃろう……皆の衆にはどうしてもアリサ様が必要なのじゃからな……

 故にじゃ、もしもそんな事になってしもうたら、一刻も早くその状況を打開しておくれ?」

「わかってる。一応「そういう事態」を想定した秘密特訓はずっとしてきたから……んじゃ『無限円環(メビウス)』である程度は教えたけど、もうちょっと教えとくね?」


 実を言うと、妾はその器用さをアリサ様に認められ、アリサ様の使う『イメージ魔法』をなにかと教わっておったのじゃ。もちろん、アリサ様のように頭に描いたイメージをそのまま具現化させる~なんていう事はできぬが、様々な魔法を組み合わせたり、試行錯誤してアリサ様の魔法と同じ、または似た効果を出す事にいくつか成功しておるのじゃよ♪

 して、先の『パソコン』なる物の解析が行われたのじゃが、そこにはロアが記したと思われる、計画書のような文章がズラリと出てきおったんじゃ。最初に目にしたのはアリサ様の前世での世界の技術を使い、あの『魔装戦士』共を制御する方法についての物じゃった。


「……多分だけど、今はもっと進めてAI制御化してるんじゃないかしらね?」

「えーあい? なんじゃそれは?」


 人工知能制御……じゃと? なんということじゃ……しかし、それならば確かにあの馬鹿げた物量を効率よく運用することが可能か?


「……まぁ、それはそれで無視できないけど、極めて重要な記述があったわ……それが、これよ?」


 カチカチと、アリサ様が『パソコン』なる物に線で繋がれた、ネズミのような物を指で操作すると、もにたぁにはとんでもない内容の文章が表示されたのじゃ。


──新規実験場構築計画──


 現在使用中の実験場が手狭となって来たため、新たな実験場を必要とする。

 また、その新たに用意する実験場には吾が輩の研究成果を試用。その結果を見て更なる改良を施すものとする。丁度主神の妹達が新たな世界を創造するとの事なので、これを利用する。

 手始めに、主神の『無限魔力』を自分も習得せんとし、勉学に励む魔神に接触する。その際は以前ディードバウアーの性質を反転させ、多量の穢れを内包させる事に成功した『黒水晶』を使用。魔神を狂わせ、主神の力に執着させ狙わせる。

 ここまで問題なく成功。更に魔神に主神に近しい女神シェラザードを傀儡とするべく、数点の『黒水晶』を渡す。時間はかかったものの、シェラザードの傀儡化にも成功。

 更なる手駒を増やすべく、魔神を利用し、ヴェーラに『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』の技術の一部を開示。『ユーニサリア』へと攻め入る旨を話させる。ヴェーラはこれに快諾。

 次にリドグリフと接触。この武神は闘神に手も足も出ず敗北を喫した事をダシに、吾が輩達の仲間として迎え入れる。武にしか関心のない単細胞ほど扱いやすいものはない、労する事なくこれも成功した。

 イレギュラーが起きる。幼女神ポコに吾が輩と魔神の会話を聞かれるという失態である。直ちにポコを捕縛、狂化させ理性を奪い、拘束。折角なのでこれから攻めこむ予定の『ユーニサリア』へ放り込み暴れさせる事にする。

 『ユーニサリア』へと攻める前。ルヴィアスが魔神に接触をはかってきた。何事かと思ったが、どうやら反旗を翻す腹らしい。それが本心かどうかなど知らぬが、好きにさせることにする。

 手駒は揃った。魔神、ディードバウアー、シェラザード、ポコ、リドグリフ、ルヴィアス、ヴェーラ。この駒の一部に『黒水晶』を持たせ運用させる。それにより更なる使い道が見つかる事を期待。


「……なん、じゃと?」

「これが……『魔神戦争』の真実。総ての元凶は『技工神ロア』ってことなのね……」


 ロア! 新たな実験の場が欲しい、ただそれだけのためにこの世界を! いや、あの魔神さえも!?

 妾はあまりの怒りに、拳を強く握り締めておった……指の爪が食い込み、血が垂れるほどに!


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【昔のディードバウアー】~今は洗濯機~《リドグリフview》

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「──と、言うわけだ」

「あ、貴方! 馬鹿ですか!? 馬鹿ですよね!? どうしてそんな誘いに乗ったんですか!?」


 ふん。騒がしい女神だ。我が何故にあの『狂神』の誘いに乗ったかだと? 知れたことよ。己を鍛え直す為だ。

 我は思い知った……かつて『神界』で闘ったあの『闘神TOSHI』! その圧倒的な強さを……我が築き、積み上げてきた武が何一つ通じぬその規格外さを! 挑み、何をしても届かず……地に伏した我は『闘神』に強い畏怖を覚えると同時、憧れも抱いた。「必ず奴の強さを超える!」そう己に誓ったのだ。

 しかし……『神界』は平和だ。争い事など起きず、日々の変化もなく怠惰に時ばかりが過ぎて行く……そんなぬるま湯に漬かった世界でいくら自身を鍛えようと、たかが知れている。我自身もこのぬるま湯が当然と認識し、享受してきた。駄目なのだ、このままでは! こんな事ではあの『闘神』を超える事など出来ぬ! もっと、もっと……己を追い詰めなくてはならぬ!


「ならば良き手段がある。『武神』よ……吾が輩の手を取れ」

「誰かと思えば『狂神』のロアか……去れ。貴様の話など聞く耳持たぬ」


 そんな葛藤を続ける日々に、ロアは我に接触してきた。相変わらず薄気味悪い男神だ。等と思いつつ、我は相手にするつもりは毛頭なく無視を決め込んだ。だが……


「汝はこの『神界』では武を極める事など出来ぬと悟っているはずだ」

「…………」

「汝があの『闘神』を超える為に必要な物。それは決して、この規律を重んじ、秩序を守る平和な世界ではない。混沌に溢れ、闘争の耐えぬ新世界であろう……違うか?」


 こやつ……わかっているな? 我が平和等にまるで興味がないことを……かの『闘神』は神の座に至るまで数々の困難な戦いにその身を投じて来たという。その過酷な戦いの日々がかの者を強くし続けた……


「今一度問おう、『武神リドグリフ』よ。吾が輩と共に来るのだ。新たな闘争の地、そこで汝は更なる強さを手にするであろう」


 ……そうして我はこの『ユーニサリア』へとやって来た。最初こそは弱々しいこの世界の国軍に辟易していたが……フフフ、骨のある者達がいた。『三神国』と呼ばれし国々との戦いは兵達も指揮が高く、実に手応えがあった。このまま潰すのは惜しいと思い、一度退いたが……更なる強者が現れた。そう、勇者達だ!


「忘れられぬ……互いに死力を尽くしたあの至福とも言うべき闘い。眠りについた後も何度も夢に見たぞ……」

「はぁ……そうですか? まったく、いいように利用されているじゃないですか。ですが、一つ腑に落ちません」


 我の話を聞いて肩を竦める『弓神』だが、ふむ。何が納得出来ぬのだ?


「何故ロアは一度勇者達に敗北したのでしょう? いえ、ペナルティを解除するため、敢えて討たれたともとれるのですが、そこはあの『技工神』です。いくらでもやりようがあったと思うのですよ?」

「知れたことよ。それすらも奴の『実験』だったのであろうよ?」


 己が実験成果を試す為には、何事よりも優先し、手段は選ばぬ、まさに『狂神』である。


「なるほど、例え失敗しても眠りにつくだけ……魔王とはいえ神が討たれれば、その場所、その大地に根付き、その世界の一部に近しくなる」

「故に、下手に世界から切り離す事も出来ず。我等の復活は止められぬ」


 我等の復活を防ごうとするならば、それこそ世界を切り取る必要がある。討たれし神はその時点で世界とほぼ同化するためにな。


「なんて用意周到な……これだから『旧神』は厄介なのです。それにあの『ディードバウアー』までも」

「ふん。今でこそ『洗濯機』で魂魄の浄化を行っているがな、その昔は『ディードバウアー』が一手に担っていたのだ」


 あの『狂神』めの悪行は旧く。遡ればいくらでも出て来る。その最たる例が『魂喰神ディードバウアー』の性質を反転させた事だ。


「たまはみがみ?」

「如何にも。『破壊神』等と呼ばれ、封印される前の『ディードバウアー』は、各世界から送られて来る様々な魂魄をその身に取り込み、穢れを浄化し無垢なる魂に戻した後に、また同じ世界へ還す役割を背負っていたのだ」


 その送られて来る魂魄に付いた穢れにヤツは目をつけた。『ディードバウアー』の持つ浄化の力を反転させることで、穢れた魂魄が増え続け、『ディードバウアー』も次第にその理性を失い目に映る総てを破壊する獣と成り果ててしまったのだ。


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【懸念】~ティリアがこの事知ったら?~《聖女view》

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「……そうして『黒水晶』が生まれたわけか。それにしても……『無限円環(メビウス)』でシドウと話してた事は本当の事だったのね」


 ロアの『パソコン』を解析して出てきた、とんでもない事実に相当怒りを覚えたんだろう。ワナワナと震える珠実の握り締める拳から血が滴っている。私はそんな珠実の手を両手で包み込み、落ち着いてと声をかけつつ、癒してあげる。


「済まぬアリサ様……ちと冷静になれたのじゃ……」

「うん。どういたしまして。でも困ったわ……この事実をティリア達にどう伝えるべきかしら?」


 凄い形相で『パソコン』のモニターを睨んでいた珠実の顔が、少し困り顔になり、そう言ってくる。うん、どうやら気持ち落ち着いたみたいだね? じゃあ、このままちょっと相談にのってもらおうって思った私は、この事実を妹達……特に、魔神を消滅させてしまったティリアに対して、どのように説明すればいいかを訊いてみる。


「……うむ、困ったの? これだけ重要な情報じゃ。伝えぬ訳にはいくまいが……あの主神が耐えられるかの?」

「そこよね? 問答無用で『存在消滅』させた魔神が、実はロアのいいように操られていたんだって知ったら、あの子……心が耐えられないかもしれない」


 力はあってもあの子の心は私達と同じで、変わらない。そんなティリアがこの事実を知ったら、きっと自責の念に駆られ、塞ぎこんでしまうかもしれないのだ。それ故にこの情報は慎重に扱わなくてはいけない。『魔装戦士』達が襲撃を仕掛けて来た現状、『聖域』を指揮するティリアに潰れてもらうわけにはいかないのだ。


「「…………」」


 今は話さず、総ての決着を着けた後に、しっかり心を落ち着けてもらい、それから話すべきか?

 それとも、今直ぐ映像通信(ライブモニター)で連絡をとり、伝えるべきなのか……?

 私と珠実はその事で悩み、暫く互い無言が続いた。


「アリサ様」「珠実」


 と、二人して同じタイミングで口を開き、ちょっと顔を見合わせる。


「ふふ、済まぬ。アリサ様から話して『よぉー? お前ら! 聞こえるか!?』な、なんじゃ!?」


 珠実が少し微笑んで、私に先に話すよう促そうとしたその時だ。突然この『中継基地(サテライトハウス)』の室内に誰とも知れぬ男の声が響き渡る! 驚く珠実を横目に私は素早くその出所を探し、一つの当たりをつけた。それは鏡だ。


「以前ティリアに聞いた『神鏡』ね? と言うことは……『神界』からのお声かしら?」

「なんじゃと!? 何故このタイミングで妾達に……まさか覗き見しておったのではあるまいな!?」

『あ、いや俺は……』「待って、当てて見せるわ。あんた私の義弟でしょ?」


 リビングに置いてある壁掛けの鏡に目を向けた私は、予想が当たった事をその光ってる鏡を見て確信した。誰であろうティリアに、事の真実を話すか否かを論じていたこのタイミングでの『神界』からのアクセス。十中八九ティリアの関係者だろう。そして、今の『ユーニサリア』の状況を把握してる男神なら、ティリアの旦那の『闘神』か、その弟の『剣神』のどちらかじゃないかしらん?


『ご明察。正確には「弟達」だけどね? 初めましてアリサ姉さん。ティリア姉さんの夫、『闘神』の弟。『剣神』のRYOです』

『応。悪いな覗き見しちまってよ? ティリアの旦那のTOSHIだ。『闘神』なんて呼ばれてるが、まぁ好きに呼んでくれや?』


 おっと、どっちもだったよ。しかし覗き見されるのはあんまり気分のいい話じゃないね。今回は事が事だから、あんま言わないでおくけど、ちょいと注意してもらいたいかな?


「やれやれじゃ、いい歳した男神が揃っておなごの会話を盗み聞きとは見下げ果てたもんじゃな?」

『だから悪いって言ったじゃねぇか? アリサ。その『パソコン』とか言うもんから出てきたロアの計画書だが、そいつは俺からティリアに渡してやりてぇんだ』


 そんな私の考えなど知る由もない珠実はズケズケと文句言ってるけどね、そんな珠実に少し悪びれた様子を見せるTOSHIだけど、直ぐに私に向き直り、ロアの計画書をどうするかって決めたようだ。


『よかったちゃんと繋がったようね?』

『ええ、これで私達からもお母さんに連絡を入れられますね』

「あれ? ヴィクトリアにアルナじゃない、なんで弟達と一緒に……って、そっか、こっちに来てるのは『分け身』だったね? 本体は『神界』にいるんだ」


 そんなTOSHIの両脇からニュっと顔を出す、ヴィクトリアとアルナの二人。『聖域』にいるはずなのになんで? って一瞬思ったけど、彼女達は『分け身』をこちらに寄越しているのであって、本体は今この鏡に映ってる『神界』にいるのだ。『聖域』にいる『分け身』の二人には通信用の魔装具である、バングルを用意出来なかったから、こうして『神界』から、『神鏡』を通して連絡をしてくれたんだろう。


『アリサ姉さんと九尾……珠実の懸念は俺達もわかる。今そちらのティリア姉さんが茫然自失になってもらっては困るんだ』

『そこでだ。俺が一時的にこっちのティリアに『ユーニサリア』にいる遍在存在とのリンクを切るように話すぜ』

「マジ? それやっちゃうとティリアの本体がヤバくない?」


 そしてまたRYOとTOSHIが鏡を覗きこんで来てそう提案をしてきた。だけど、それはまずくないだろうか? 『神界』を治めているティリアの本体が事実を知ったショックで泣いちゃったりしない?


『大丈夫だ。俺はあいつの旦那だぜ? しっかり支えてやらぁな!』

『アリサさん。私達もしっかりティリアをケアするから大丈夫。もし、何も知らずにロアから真実を語られでもしたら、それこそ危ないわ』


 なるほど、旦那さんと親しい友達が側で支えてあげるなら、ショックからもきっと立ち直れるだろうからね。わざわざ『神鏡』まで使って連絡くれたんだし、任せてみようか。

TOSHI「んだと?(*゜ε´*) ロアの野郎がとうに復活してやがっただと?(`Д´)」

RYO「ああ、やられたよ(-_-;) 俺達はすっかり騙されていたんだな( ・`ω・´)」

ヴィクトリア「それだけじゃないわ……すべての元凶がロアだったって事よ!?Σ(゜ロ゜;)」

アルナ「あのディードバウアーをおかしくしたのもロアの仕業だったのですね!?Σ(*゜Д゜*)」

TOSHI「こいつはやべぇぞ?(; ・`ω・´) ティリアは魔神の野郎こそが元凶だと思ったからブッ飛ばしたんだ……(゜A゜;)」

RYO「この事実を姉さんが知ってしまったら……指揮をとるどころじゃなくなるぞ?(>_<)」

アルナ「なんとかお母さん達と連絡をとれませんか?(・д・`;)」

ヴィクトリア「この『神鏡』をちょちょいといじって『中継基地』のアリサさんと珠実に連絡できるようにするとなると、私達じゃ無理ね(゜ω゜;)」

TOSHI「イクシオンあたりならやれんじゃねぇか?σ(´・ε・`*)」

RYO「『知識神イクシオン』か、確かに彼女なら(・о・) よし、呼んでくる!(*´・∀・)ノ」


イクシオン「……そうでやんすか(_ _) 事情はわかったでんす( ´ー`) 『神鏡』をカスタマイズするのは構わないんでんすけど、わっちの条件をのんでくれるんます?( *´艸`)」

RYO「……(ーー;) キミは相変わらずおかしな話し方するね?(^_^;)」

イクシオン「ンヒョヒョ♪ヽ(*≧ω≦)ノ 個性的でおまっしゃいましょ~?(゜∀゜)」

RYO「ハハハ「おまっしゃいましょ~」って面白いね?(^∇^) それで、条件とは?(・_・)」

イクシオン「此度の『ユーニサリア騒動』に、わっちも絡ませてもらいたいんです!(*`艸´)」

RYO「Σ(・ω・ノ)ノ いいのかい?(´д`ι) 君が力を貸してくれると言うなら、俺達も心強いが……( ・`ω・´)」

イクシオン「よごでんすよ!( ̄0 ̄)/ ささ、早速『剣神』はん達の『神鏡』をいじりにいきまんしょ~ヽ(*´∀`)ノ♪」


アルナ「イクシオン、来てくれたんですね!( ・∇・)」

ヴィクトリア「ごめんね、手間かけるわね(´。・д人)゛」

イクシオン「おぉ、アルナはん。お友達のポコはんが見付かってよごでんしたなぁ~?( *´艸`) ヴィクトリアはんもお疲れでんすよぉ( ´ー`)」

TOSHI「応、イクシオン(^ー^) オメェもまざりてぇんだって?ヾ(´∀`*)ノ 歓迎すんぜ~(´▽`*)」

イクシオン「むひょむひょ(*≧∀≦) 歓迎感謝~♪ヽ(*>∇<)ノ どれどれ、おひょぉーっ!O(≧∇≦)O 彼女が噂のアリサでやんすねぇーっ!?( ☆∀☆)」

TOSHI「すげぇテンション高ぇなΣ(;゜∀゜)ノ なんだよ、気に入ったのか?(´・ω・`; )」

イクシオン「推せる……推せるでんすーっ♪o((〃∇〃o))((o〃∇〃))o♪ 皆の衆~このイクシオン! 全力で協力させてもらうでやんすよぉーっ!゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」

アルナ「えっと( ̄▽ ̄;) 「推せる」とかはよくわかりませんが、ありがとうございますm(_ _)m」

ヴィクトリア「ふふふ♪( *´艸`) イクシオンのツボに刺さったのね?(*´∇`*) アリサさんてばなんて神タラシなのかしら♪(*ノ▽ノ*)」

TOSHI&RYO「やれやれだな┐(´~`;)┌」

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