128話 『白銀』とパルモー『ジドランド』の賢者
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【焦りは禁物】~冷静に再編!~《聖女view》
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「聖女! 聖女!? やっと繋がった! 大変よ! 『魔装戦士』が襲撃を仕掛けて来た!」
「なんですって!? 状況を!」
かつての『三神国』の王達を『聖柩』からその子孫達に憑依させ、『ファムナ村』へと戻った頃には、なんと日付が変わっていた。
その『聖柩』内は特別な空間らしく、外部との連絡が一切取れなかったのだ。その事に気付いた私は長居するべきではないと判断し、戻って来たんだけど、その矢先に魔女の私から緊急連絡が入った。即座に魔女の私と記憶をリンクして現状を把握すると、世界各地の主要国家に都市が偵察型の『魔装戦士』達から攻撃を受けており、『聖域』に『セリアベール』、魔女のいる『リージャハル』に『ゲキテウス』も含まれる。
「大変だベ! 女神様方! 夜明けと同時に『セリアベール』辺りになんぞ爆発みてぇな閃光が走っただよ!」
「何ですって!? アリサお姉さま!」
「こうしちゃいらんねぇ! 嬢ちゃん、俺達を『セリアベール』に!」
フォーネのお父さん達『ファムナ村』の村人達が『聖柩』から戻って来た私達の姿を見つけ、そう報告してくる。アルティレーネとゼオンが血相を変えて私に呼び掛けるけど、そう慌てなさんな。
「大丈夫よ。『セリアベール』には既に『冒険者候補』達が到着してるようだし、襲撃してきたのは偵察型の『魔装戦士』って事だから。エミルくん。ティリア。ルヴィアス。アイギス。ヒャッハーくん。それぞれ状況を報せてちょうだい」
こう言うときに慌てふためいてはいけない。アルティレーネとゼオンを窘め、私は映像通信を複数展開。各方面に散る仲間達に現状を教えてくれるようお願いする。
「こちら『聖域』よ。現在複数の『魔装戦士』と交戦中だけど、『海王竜』とグリフォン、ガウスとムラーヴェだけで事足りそうね?」
最初に応答があったのは『聖域』で指揮を採るティリアから。全然落ち着いた様子だね。戦力の情報を渡さないよう少数で撃退に当たっているとの事だ。『聖域』には過剰な程に戦力が集まっているので問題はないだろう。
「お久し振り~アリサ様♪ こっちの帝国にもロアの野郎の人形が来てるけどさ、楽勝さ! あの鳥型は『魔神戦争』の時にも使われた旧型の偵察機だ。攻撃は大したことない」
続けて『ルヴィアス魔導帝国』から、明るい皇帝陛下の声が届いた。流石元魔王として今回の『魔装戦士』の事もよく知っており、彼の言葉で今私の側にいる仲間達も安心した様子を見せた。今後もルヴィアスのその知識には頼りにさせてもらおう。
「アリサ様! こちらエミルです! 『聖域』からいらした『冒険者候補』の皆さんが現在、『魔装戦士』と交戦中! 街の冒険者達も応戦しています!」
そして『セリアベール』からエミルくん。やはり『冒険者候補』達が到着していたらしく、彼等を主軸に街の冒険者も一緒になって迎撃体制を敷いているらしいね。ゼオンが「伊達に長いこと『氾濫』で鍛えられてねぇぜ!」と誇らしげだ。一通り報告を聞いたらビットと一緒に街へ『転移』で送ってあげよう。
「こちら『白銀』! 現在、『ジドランド』にて同じく飛行型の『魔装戦士』と交戦中! 『ジドランド』側から一人の魔法使いが我々に接触、協力体制を築いています!」
アイギス達『白銀』を映し出すモニターには、レイリーアが丁度数体の『魔装戦士』をその矢で撃破した様子がバックグラウンドに映されている。彼等とは別に見馴れない服装の男性が一緒に『飛行魔法』で飛び回る姿がチラチラと見える。ほほ~? 『ジドランド』にも『飛行魔法』を使える程の実力者がいたんだね?
《Hey! マスター、コチラヒャッハーダゼ! 『ゲキテウス』方面ハ『魔装戦士』ノ数ハ少ナイ様ダガ、如何セン広スギルゼ! 増援ノユナイト小隊ト手分ケシテ迎撃シテハイルガ……済マネェ、何機カ取リ逃シテル!》
むぅ、こればっかりは仕方ないか? ヒャッハーくん一体にユナイト達だけじゃどうしてもあの広大な『ゲキテウス』の大陸をカバーしきれない。
「アリサ姉さん。『教団』の本部が『ゲキテウス』にある以上、そうそう被害なんて出ないわよ? むしろブラフじゃないかしら?」
なるほど、確かにティリアの言うことはもっともだ。だからユナイト達しか送らなかったのか。
まぁ、この程度なら何処も問題はなさそうだね。多少の混乱はあるだろうけどさ。
「作戦の遂行を急ぎましょう。アイギス達『白銀』は予定通り『神斧ヴァンデルホン』を手に入れて!」
「了解! お任せください、その後『グレブヒュ火山』に赴き、『武神リドグリフ』との決戦に挑みます!」
既にロアが復活しており、こうして攻撃を仕掛けて来た以上、私達ものんびりとはしてられない。残る『武神リドグリフ』と『獣魔王ディードバウアー』がロアと手を組んだらこの上なく厄介なことになってしまう。みんなそんな私の考えに頷き、作戦遂行を急ぐ事に同意してくれる。
「俺達『黒狼』は急ぎ『ルーネ・フォレスト跡地』へと飛ぼう!」
「あいや待たれよバルド。ロアの奴めが既に復活を果たしておると言うならば、じゃ。『リーネ・リュール』へと向かう意味が薄れるのではないかのぅ?」
こうしてはおれん! そう雄々しく立ち上がるバルドくん達だけど、シドウが待ったをかける。確かに私達は『魔神戦争』で倒された魔王達は、討たれた場所に復活すると踏んでいた。ロアの場合それが『リーネ・リュール』だったんだけど、魔女からの情報で『教団』の背後にはロアがいるのだと知らされた以上、『リーネ・リュール』に赴く意味はないのかもしれないのだ。
「ん。いいよ? 『リーネ・リュール』には総て終わらせた後、リュールとフォーネと一緒に見に行こう?」
「今は感傷に耽ってる暇はないみたいですし……仕方ありませんね」
『それじゃあここでパーティー再編だね!』
『リーネ・リュール』に縁あるレウィリリーネ、フォーネ。そしてフォーネに憑依しているリュールも、今は魔王対策の方が重要だと納得した。よし、じゃあ早速メンバーを再編成しますかね!
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【船酔いする仲間】~船上にて~《アイギスview》
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『聖域』から旅立ち、『セリアベール』を抜け、私達は『リージャハル』にてシーベル殿とセルフィ様が経営する宿にて『武神リドグリフ』がかの『エルハダージャ』南南東に位置する『グレブヒュ火山』の山頂に復活するであろうとの情報を得た。
そうして『聖域』から旅立って三日目を数える今日。情報を与えて下さったセルフィ様と、シーベル殿の宿を後にした私達は定期船に乗り、ドガとファム、ギドの故郷である『ジドランド』へ向かい、かつてアルティレーネ様が創造した『神斧ヴァンデルホン』を譲って頂けるよう、今代のジドル王へと陳情を申し出るつもりなのだが、その船上にて……
「うっへぇ~揺れる……キツイぜぇ……」
「ま、『魔導船』の時はこんなに揺れなかったわよね……うぅっぷ!?」
ゆらゆらと揺れる海面に合わせて揺れる定期船。『船舶ギルド』の傑作との触れ込みだが、ゼルワとサーサの『魔導船』と比べると、非常にその揺れは大きく、早々にゼルワとレイリーアが船酔いになってしまった。
「やれやれ~ほら大丈夫かい? レイリーア、しっかりおし!」
「ゼルワも、苦しいなら吐いちゃっていいですよ?」
さすさす、と、レイリーアの背をファムが、ゼルワの背をサーサがさすり、心配そうに声をかけている。
「ははは! 天下に名高い『白銀』も形無しだなぁ~おい?」
「ほっほっほ。仕方ないわい、そう笑ってやらんでくれギドよ」
「酔い止めの薬を少し多目に買っておいてよかった……ゼルワ、レイリーア。薬を飲んで少し横になっていてくれ?」
『魔導船』に馴れすぎたのか、ゼルワとレイリーアにはこの定期船の揺れは許容し難かったのだろう。ギドが二人のなんとも情けない姿を見て笑い、ドガがそれをやんわり窘めているが……私もここまで弱った二人を見るのは久し振りだ。見かねた私はあてがわれた部屋に置いた荷物から酔い止めの薬を用意して、水と一緒に彼等に飲ませてやる。
「んっぐ……はぁ~わ、悪いアイギス、マジに休ませてもらうわ」
「はぁ、ありがと……アタシもちょっと甘えさせてもらうわね?」
サーサとファムに連れられて部屋に戻る二人の青ざめた顔色がひどく私を心配させてくれる、ゆっくり休んで早く良くなってくれと、願うばかりだ。
「しかし、別に海が荒れているというわけでもないのにな?」
「いやなに、酔う時は酔ってしまう客もいますよ? それは俺達船乗りだって同じさぁ。まぁ、滅多にいないがね?」
船上の甲板。足取り重く、船酔いした仲間が客室に向かうのを見届けた私とドガ、ギドの前に、船員らしき男性がそう声をかけてきた。彼の話では船員でも酔う者はいるらしく、この船にも酔い止めの薬を常備しているそうだ。
「もしお持ちの薬を切らしたら遠慮なく声をかけて下さい。お出ししますぜ?」
「ありがとう。その時はよろしく頼もう」
「ほっほっほ♪ 酔うなら酒に酔いたいもんじゃな! 時に船員殿? 『ジドランド』まで後どのくらいかのぅ?」
ありがたい申し出だ。一応私達も少し多目に用意しておいた薬だが、船上でも手に入るのは心強いな。私は船員に礼を述べると、ドガが『ジドランド』到着までの時間を聞いた。
「そうですねぇ~『リージャハル』から結構進んでますし、そろそろ半日の浮きが見える頃です」
「んじゃあ、後半日ってとこだな? 順調な船旅でなによりじゃねぇか♪」
彼が言った「半日の浮き」とは、海路上の魔物避けである。大陸の街と街を繋ぐ街道に魔物避けの柵があるのと同じように、海上に浮きをいくつも浮かせ道を作っているのだ。それ故、海洋に生息する魔物に襲われる事なく、安全な船旅が出来るのだ。
「ふっ『船舶ギルド』はいい仕事をする。お陰で私達冒険者も各地へ容易に行けるようになったからな……感謝せねば」
「ははは! なんのこれくらい! 各国や都市、ギルドの協力あっての事さ。俺達はそれに見あった仕事をするだけでさぁ♪」
快活に笑う、中々気持ちのいい男だな。『船舶ギルド』に勤める者は明るい者が多いと聞いていたが、その通りのようだ。彼等『船舶ギルド』の定期船のお陰で、大陸間の移動も容易となり、貿易や外交等の交流が増えた。私達冒険者の活動も幅が拡がり、まだ見ぬ大地へと冒険が可能となった。
それらを踏まえると、彼等の仕事は世界に大きく貢献したと言えるだろう。
「さあ、『ジドランド』までもう少しかかりますぜ。その間ゆっくり船旅を楽しんでくだせぇお客さん!」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらおう」
「アイギスよ、儂等ちと腹が減ったぞい? なんぞ食わんか?」
「おぉ、俺もだなぁ~ちょいとなんか食おうぜ?」
私達に手を振って自分の持ち場に戻って行く船員に一言礼を言い、さてどうするか? と思う暇もなくドガとギドが小腹が空いたと言い出す。ふふ、そうだな。では少し携帯食料を食べようか? 流石に船上で料理できるほどの自信はまだないのでな?
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【パーシヴァル】~変なじいちゃん~《パルモーview》
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「さぁて、結構飛ばしたし、そろそろ『ジドランド』に着くかな?」
僕はティリア様達からアイギス兄ちゃんの護衛を任せられ、『聖域』から急遽『ジドランド』へと急いでいた。兄ちゃん達より先に『ジドランド』に着いて、そうだな~上手いこと王様に近付いて『神斧ヴァンデルホン』をすんなり兄ちゃん達の手に渡るように出来ればいいんだけど。
(変身魔法が使えるとは言っても、王様に取り入るとなると難しいかな?)
なんとか国のお偉いさんとかと接触出来ないかな? そうすれば口利きしてもらって事をスムーズに運べると思うんだけどなぁ~?
う~んう~ん……と、頭を悩ませて飛んでいると、ようやく見えてきた『ジドランド』のある島だ。
さて、このまま上空から入っちゃうと変に敵とか魔物とかと誤解されちゃいそうだね? 気配と姿を隠蔽して、海面からゆっくり崖を登って進入しようか。街の様子とかも確認したいし。
「ぉぉーぃ……」
「ん? 今何か聞こえたような……」
そうと決まれば、と高度を下げて海面近くまで身を寄せて、飛ぶ速度を落としていく。じゃあそろそろ隠蔽かけて姿を隠そうかなって思ったその時だ。何処からか微かに人の声が聞こえるじゃないの? しまったぞ……早くも見付かっちゃったかな?
「おぉ~い? 誰か、誰かおらんかぁ~? この声が聞こえたら助けてくれぇ~!」
……いや、これは違うね。僕の存在が気付かれた訳じゃないや。多分ずっと声を出し続けて誰でもいいから気付いてもらおうとしてるみたい。どれ、姿を隠して見に行ってみよっと!
「むぅぅ……先程人影が見えた気がしたのじゃが、勘違いであったか? おお~い! 誰か~誰かおらぬか~? 助けてくれぇーいっ!」
あらら? 姿を隠蔽して声の出所に来てみれば……イタタ! 見てるこっちが痛くなっちゃいそうな怪我した、一人のお爺ちゃんが崖の上のちょっとした窪みに横たわってるじゃないか?
あ~あ……腕も足もこれ、折れてるじゃないか? 一体どうしてこんな所にお爺ちゃんが一人大怪我して倒れてるんだろう? 崖の上から足でも踏み外して転落したのかな?
「やれやれ、ドワーフの国に来て初めて会ったのが『人間』のお爺ちゃんとはね……」
「むおぉっ!? だ、誰ぞそこにおるのか!? 後生じゃ! 助けてくれんか!?」
「必死だねぇ~? 僕が何者かもわからないのに、助けを求めるんだ?」
ま、見て見ぬフリなんてしたら後でアリサ様に怒られそうだし、少し手を差しのべよう。ふふん♪ もしかしたら利用出来るかもしれないからね。
そうして僕は横たわっているこのお爺ちゃんの前に姿をあらわにしたんだ。
「しょ、少年!? 一体何処から……もしや隠蔽魔法か!?」
「ご名答♪ で、お爺ちゃん。何者? 何でこんなとこで死にかけてるのさ?」
へぇ、このお爺ちゃん一発で隠蔽魔法だって見抜いたじゃん? 魔法の知識があるんだね。
「う、うむ。あいたた! わ、儂の名はパーシヴァル。こう見えて『ジドランド』に仕える『賢者』なのじゃが……」
「おっとっと、大丈夫? 気休め程度だけどアリサ様からもらったポーションあげるから飲みなよ?」
痛みに顔をしかめながら自己紹介してくれるお爺ちゃんだけど、大分辛そうで、掠れた声も聞き取りづらい。これじゃお話にならないと思った僕は女神様達から預かっている『魔法の鞄』からアリサ様印のポーションを取り出して、お爺ちゃんの口にゆっくり含ませてあげた。
「おぉ? おぉぉーっ! こ、これは凄いポーションじゃな!? 折れた手足がたちどころに治ったわい! 声もハッキリと出せるぞ! なにより美味い! 少年、もうちょっとくれぬか!?」
「はいはい。その一瓶まるっと飲んじゃっていいよ? それで、パーシヴァルじいちゃん、国の賢者様が何だってこんなとこで?」
見る間に元気になったお爺ちゃん。よかったね~流石アリサ様が作ったポーションだ、気休めなんて大きな間違いだったよ……凄い効き目♪ さて、これで色々とお話が聞けそうだねぇ~ふふふ……
「うむ。実はな、儂は『ロストマジック』である『飛行魔法』の研究をしておったのじゃ。なんとか実用出来ぬものかと試行錯誤しておった矢先にじゃな……その……」
「なに? もしかして飛ぶの失敗して落っこちたの?」
う、うむぅ~とか悔しそうに唸るパーシヴァルじいちゃん。なにやってんだか……それであちこち怪我して動けないから、声を出してずぅーっと助けを求めていたそうだ。危なかったねぇ? 僕が来なかったら普通に死んでたんじゃないの?
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【謎の少年】~何にせよ助かった~《パーシヴァルview》
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いやぁ~九死に一生を得たわい! つい先日の事じゃ。儂は念願であった『ロストマジック』である『飛行魔法』の術式をやっとの思いで復元させたのじゃ! 嬉しくなって、早速試すんじゃ! と、意気揚々家を飛び出しその魔法を行使したんじゃよ。
そらもう、大成功じゃ! 儂の思うがまま、自由に空を駆ける事の素晴らしさと言ったら、筆舌に尽くしがたい感動じゃった! そんな感じで飛び回っておったら、あっちゅうまに魔力が切れてしもうての……「しまった!」なんぞ思うた時には遅かった……儂は大空からこの崖下にまっ逆さまじゃ! 何とか身を捻ったりして、即死は免れたんじゃが、あちこちぶつけた腕も足もボッキリ折れてしもうてな……あまりの痛みに気を失う事も出来ず、地獄のような苦しみじゃった……
「本当にお主が来てくれなんだら、儂は無念のうちに死んでおったところじゃ、心から感謝するぞい少年よ!」
「どういたしまして。それにしても独学で『飛行魔法』を使えるようになるなんて凄いね? 『賢者』って肩書きは伊達じゃない感じ?」
半ば「これまでか?」と諦めかけていたとき、この謎の少年が現れおった。見事な隠蔽魔法で目の前に来てもまったく気付けなんだわ。むぅ、無邪気そうに見えるこの少年は何者ぞ? 儂を助けてくれたのじゃし、敵というわけではないじゃろうが……ここは二、三話をして見極めねばなるまい。
「なになに、『賢者』等と称されてもこの様じゃ。まだまだ精進が足りぬよ? して、お前さんは一体何者じゃ? 何の目的でこの『ジドランド』に……いや、そもそもどうやって来たんじゃ?」
「ふぅん……ま、お爺ちゃんになら話してもいいかな? 丁度協力してくれる人を探そうって思ってたし」
お? なんじゃなんじゃ? この少年には命を救ってもろうた恩義があるゆえ、余程の無茶でない限り協力は惜しまぬぞ?
「とりあえず、ちょっと長い話だし。こんなとこじゃ落ち着いて話せないね……ちょっと待ってね?」
「ああ、うむ。このようないつ崩れるかもわからぬ崖の上では、確かに落ち着かぬかって! うおぉ!?」
シュババババッ!! ボゴォッ! ゴンゴンゴンッ!!
な、なんという鮮やかな土魔法なんじゃ! あっという間に崖の側面をくりぬき、部屋を作りおったぞこの少年! 当然のように無詠唱、魔力の構築にも一切の無駄がない!
「よし、こんなもんでしょ。さ、お爺ちゃん。中に入ってお話しようか?」
「中にって、お主……この岸壁をどうやってその部屋の扉まで登るんじゃ? 階段がなければ入りようがあるまい?」
まさかジャンプして扉にしがみつけとか言わぬよな? この少年が土魔法で作った部屋はこの崖の岸壁を少しくりぬいて作った物じゃが、肝心なその入り口の扉までの道がないのじゃ。
「ふふ、簡単さ。お爺ちゃんも使えるんだろう? 『飛行魔法』をさ?」
「な、なんじゃと? その口振り……まさかお主も使えるのか?」
ピンポーン♪ と、明るく笑う少年じゃ! なんという……なんということじゃ……儂が長年研究し、最近になってようやく使えるようになった『ロストマジック』を……
「ほら、お爺ちゃん。手を貸してあげるよ。魔力切れてるんでしょ?」
「お、おぉ……す、済まぬ。助かるぞい……」
儂は驚愕しながらも、差し出される少年の手を取った。それを確認した少年はにこりと微笑み、儂ごとフワァ~と『飛行魔法』を行使したのじゃ! おお! なんと見事な! まるでお手本のような緻密で無駄のない魔力制御! 儂は繋ぐ少年の手から感じるその魔力の動きを見逃すまいとしっかり観察する。
「……さて、と。じゃあ何処から話そうかな? あ、その前にお爺ちゃん飲まず食わずでいたからお腹空いてるよね? 簡単なご飯作りながら話そうか?」
「いやはや……何から何まで、本当に済まぬのう……って! お主、それは『魔法の鞄』か!?」
ガサゴソと肩にかけておった鞄をおろし、その中身を漁る少年が取り出したのは、鞄よりも大きな調理器具の類いじゃった! 間違いない。あれは『魔法の鞄』じゃ! 高ランク冒険者の一部の者が所持していたりするが、かなり珍しいアイテムじゃぞ?
「あはは♪ そうなんだ? これは借り物でね、とあるお方から託された物なんだよ。だから~そんな物欲しそうな顔をしてもあげないよ?」
「おぉぉこりゃとんだ失礼をしたな! わっはっは! 済まん済まん!」
いかんいかん! やや子ではあるまいに儂としたことが! 恩人の持ち物を欲しがるなど恥ずべき事じゃな! 反省せねばならん!
「さて、じゃあ話そうか。僕が何者で、どうしてこの『ジドランド』に来たかって事。びっくりするだろうけど、最後までちゃんと聞いてね?」
「うむ。心得た! このパーシヴァル、『三賢者』の名に懸けて、しかと話を聞こうではないか!」
ふふふ……こう見えて儂は世にも名高き『三賢者』の一人! 大抵の事では驚かんぞ!? ……いや、この少年には最初から驚かされたのじゃが、それはそれじゃ! さあ! どーんと話すがよい少年よ!
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【行方知れず】~相談役の賢者~《ジドル王view》
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「まだ見付からんのか、パーシヴァルは?」
「はっ! 現在も捜索隊が懸命にその行方を探しております!」
やれやれ……まったく、しようのない奴じゃなあの『賢者』殿は。王室の相談役が勝手に行方をくらませるでないわ。はぁ~と盛大なため息をつくこの儂。あぁ~酒が飲みたいのぅ……
おぉ、済まぬ。申し遅れたの? 儂はこの『ジドランド王国』を治める……はて、一体何代目じゃったか? の、王。ジドルじゃあ~♪ よろしゅうな?
今ではお伽噺として語られる『魔神戦争』じゃが。なにを隠そう、この『ジドランド王国』はその魔神を討伐すべく立ち上がった勇者一行の『ドワーフ・ロード』たる『ジドル』様が建国なされた由緒正しき国じゃ! かの『武神』との戦いで惜しくも果てたご先祖様が遺された『神斧ヴァンデルホン』を国章とし、北は『セリアベール』、南は『ルヴィアス魔導帝国』、西の『ゲキテウス王国』に東の『エルハダージャ』と。豊富な鉱石を輸出しておる鉱山国家なのじゃよ♪
さて、そんな背景を持つ我が国なんじゃが、ここ最近は実に平和そのものじゃ♪ うむうむ。『日々是事無』とはなんとも有難い事じゃな~等とポケポケしておったんじゃが、つい先日に国の相談役である、偉大な『賢者』パーシヴァル翁がその行方をくらませおったんじゃ。何の前触れもなく、いきなりじゃ! 彼の家に行ってみても、家財等もそのまま残っておるし、これは何やら事件に巻き込まれたのではないかと、今現在、必死で捜索中なのじゃよ……
翁は世にも名高き『三賢者』のお一人でな? この『ジドランド』のパーシヴァル。『ゲキテウス』のウォーラル。『エルハダージャ』のヒヒイロと、それぞれに王を導き、より良い国へと発展させてきた立役者達なのじゃ。その翁が突然の失踪……気が気でならん!
「うぅむ……翁の不在もそうじゃが、何やら胸騒ぎがするのぅ……」
「王よ、何かパーシヴァル殿の不在以外の不安が御座いますので?」
そうなのじゃ大臣よ。何やらここ最近の事じゃが、血が騒ぐような……上手く言葉に出来ぬが、何かが起こる。そんな予感がしてならぬのじゃよ?
「ほう、血が騒ぐ……ですか? 開祖たるジドル様が何かしら我々に訴えておるのでしょうか?」
「うむ……わからぬが、ホレ。昨今では『セリアベール』の『氾濫』が解決されたじゃろう? お主はその原因が何であったかを聞いておるか?」
執務室にて書類の山を恨めしそうに睨み、儂は大臣に問うた。それに冷や汗をかいて答えとする大臣じゃ。そう、つい先日『セリアベール』の代表者たるゼオンが儂に重要機密文書として送ってきた、一通の親書……それには『氾濫』の解決に至るまでの経緯が書かれておったのじゃ。
「……まさかこの時代に、魔王が復活するとは」
「うむ。これは他人事ではない……儂等は偉大なる祖。『ジドル』様より代々この『ジドランド王国』を守って来たのじゃ。『魔神戦争』は決してお伽噺等ではない! れっきとした史実」
ゴクリと唾を飲む大臣に、既に討伐されたとはいえ、魔王の一柱が復活を果たしたと言う事実に、不安を隠せぬ儂は互いに睨み合う……この局面にどう動くべきか? ああ、だからこそ相談役の翁の不在が更に不安を煽りよる!
「陛下! 陛下ぁーっ!! 翁が、パーシヴァル様が見付かりました!」
ドンドンドンッ!!
「「なんとっ!!」」
おぉ! これは朗報じゃ! けたたましく扉をノックする伝令の兵の声に、儂と大臣は嬉々として駆け寄り、その扉を開けたのじゃった! そこには間違いなく行方不明であったパーシヴァル翁と、伝令の兵。そして、もう一人。見知らぬ青年の姿があったのじゃ。
「王よ、心配をお掛けした! 誠に申し訳なく思う!」
「いや、よいよい! 無事なようで何よりじゃった!」
「ええ。本当に! 伝令よ、捜索隊には後程褒美と休暇を与える故に、今日はゆるり休むよう伝えてくれ」
「はっ! 畏まりました!」
うむうむ。行方知れずであったパーシヴァル翁は、特段怪我などをしている訳でもなく、とても元気そうであるな! ふぅ~一安心じゃわい。捜索隊にも伝令の兵にも心労をかけてしもうたの? 大臣の言う通り、ゆっくり休んでくれ。
さて、それでは翁に何かと話を聞かねばならぬ。何故、何も言わず行方をくらませたのか? 何をしておったのか? そして、その青年は何者なのか?
「うむ。王と大臣のみならば丁度良いな。色々とお話せねばなりませぬ。しかも極めて重大な話故に。しかとお聞き願いたい!」
むぅ。極めて重大な話とな!? 流石は名高き『賢者』殿よ! 儂も感じておった魔王の復活の話に相違あるまい! その青年も何らかの関係者であろうな? でなければ儂の前にこうして連れて来る筈がない。 儂と大臣は互いに頷き合い、翁に話すよう促したのじゃ。
「先ずは突然姿をくらませた事を謝罪いたそう……申し訳なく」
ペコリと丁寧に頭を下げる翁と、青年。よいよい! 確かに心配はしたが、こうして無事な姿を見せてくれたのじゃからな。ふむ、その青年も頭を下げたということはその者も関係する話のようじゃな?
「感謝いたす。そしてこの青年じゃが。こう見えて儂の師なのですじゃ」
「「なんと!?」」
「お初にお目にかかる。『ジドル王』、それに大臣殿。私はパルマー。魔導を追及する者だ。不肖の弟子が世話になっているようで済まぬな? 私は魔法の他にも、少々占いを嗜んでいてな……此度この弟子を呼びつけたのはそれが理由なのだ」
こ、これは驚きじゃ! 翁の出自は確かに不明ではあったが、このような青年を師としておったとは!
パルモー「あ、そうだお爺ちゃん?( ´ー`)」
パーシヴァル「お(・о・) なんじゃ少年よ?(´・ω・`) なんぞ聞きたいことでもあるのかの?(^-^)」
パルモー「うん(・-・ ) 『賢者』って僕よく知らなくてさ(^_^;)」
パーシヴァル「ほほう、そうかそうか!( ゜∀゜) では話してしんぜよう♪(ノ゜∀゜)ノ」
パルモー「そもそも『賢者』ってなに?(;´д`)」
パーシヴァル「うむ、『賢者』とは二つの意味があっての?( ゜ー゜) 一つは職業としての『賢者』じゃな(゜ー゜*)」
パルモー「へぇ~( ・д・) 冒険者達が就いてる『戦士』とか『魔法使い』みたいな?(・∀・)」
パーシヴァル「うむうむ( ^ω^) そうじゃよ~その中で、ありとあらゆる魔法に精通し、使いこなす者を指すのじゃよ(*´∇`*)」
パルモー「そりゃ凄いね!Σ(・ω・ノ)ノ 「ありとあらゆる魔法」って言ったけど、各属性魔法に、またその属性を持たない魔法、他にも精霊の力を借りた魔法とか、挙げればキリがないくらいあるのに……それらを使いこなす職業?((゜□゜;))」
パーシヴァル「ホッホッホ♪(*≧∀≦) まぁ、故に『伝説の職業』と呼ばれるのじゃよ?( ̄▽ ̄;) そんな者は実在せんじゃろうしなぁ(_ _) ああ、そうじゃ、女性の場合『魔女』とも称されておるぞ?(゜∀゜ )」
パルモー(……アリサ様くらいしか思い付かないや( ̄0 ̄;) そういや、アリサ様がリールとフォーネのお姉ちゃん達に初めて会った時、そう呼ばれたとか言ってたっけ?(^o^;))
パーシヴァル「して今一つが儂のように、国の相談役等に選ばれた者達が、そう呼ばれたりするのじゃよ( ´ー`)」
パルモー「なるほど~お爺ちゃん物知りそうだもんね♪(*´艸`*)」
パーシヴァル「ふぁっふぁっふぁ♪(*`▽´*) 職業として言うなら儂は『魔法使い』なんじゃがな?(^ー^) 少年も魔法を志すならば知っていようが、魔法は様々な知識を必要とする故な、ある意味学者に近しい(゜ー゜)」
パルモー「だね(o・ω・o) じゃあさ、他の国にもお爺ちゃんのような『賢者』様がいるのかな?(・_・)」
パーシヴァル「無論おるぞい♪(*^-^) 『ゲキテウス王国』のウォーラルという婆に、『エルハダージャ王国』のヒヒイロちゅう若造もそうじゃ(°▽°) そこに儂が加わって世の『三賢者』等と称されておる!ヽ( ゜∀゜)ノ」
パルモー「へぇ~!(・о・) 世界の『三賢者』って凄いじゃない(*´∇`) 尊敬するよ( ゜ー゜) あれ、でも『ルヴィアス魔導帝国』は?(゜A゜;)」
パーシヴァル「あ~( ̄0 ̄)/ 帝国はルヴィアス様が生き字引のようなもんじゃからなぁ……( ;´・ω・`)」
パルモー(あ~(-_-;) そりゃルヴィアス様って『魔神戦争』時代からの魔王そのものだもんねぇ~?(^_^;) 相談役ってなら、バロードさんにカレンさん、オルファさんがいるか( ´ー`))
パーシヴァル「まぁ、こんなところかの(_ _) どうじゃ、参考になったかの少年?(゜∀゜ )」
パルモー「うん、ありがとうお爺ちゃん(*´▽`) じゃあ今度は僕の話だね?(・∀・)」
パーシヴァル「うむうむ(^ー^) 是非聞かせてくれ!(ノ≧▽≦)ノ」




