123話 聖女と『聖柩』
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【そんな身近に?】~こうしちゃいられん!~《ゼオンview》
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「ゼオンさん。『聖域』の冒険者候補達って、アリサ様の『無限円環』でお会いした方達ですよね? ほら、あのゲームで妨害してきたり、ゲームの紹介してたりした?」
「おお、そうだぜ~エミル? ハハハ! あいつら『フライドポテト』に『ハンバーグ』とかふざけたパーティー名で冒険者登録するらしいからな? 笑わねぇようにしとけよ?」
ここは『セリアベール』の冒険者ギルドの執務室。俺とエミルは机に積まれた書類の山を、せっせと処理していきながら、時に休憩挟んだりしつつ仕事をこなしていた。
で、そんな仕事風景の途中の小休止。茶でも飲むかとエミルに声をかけ、今に至るんだが、話題に挙がるのは、そろそろ到着するであろう、『聖域』の冒険者候補達のことだ。
アリサ嬢ちゃんの『無限円環』で行われたあのゲームの時に、エミルも一度顔を合わせているから、まぁ初対面ってわけでもねぇはずだが……
「そうは言いましても、彼等はあのゲームの裏方として働いていましたし、それほど会話らしい会話ができていませんからね……ほぼ初対面ですよ?」
「あ~そう言われりゃそうか。まぁ、でも。安心していいぜ? 皆いい奴等ばっかだしよ。何より『聖域』の看板背負ってるっていう誇りを持ってる連中だ。敬意を払いつつ、仲良くなってきゃいいさ?」
彼等の目的は、冒険者となって世界を巡り、見聞を広めつつ、この世界に異常がないかを確認しては、それを『聖域』の女神様達の耳に入れる。ってのが一番なんだが、今まさに迫りつつある異常。負の遺産とも言うべき、魔王問題を解決するのが、何にも優先される。
「頼ってばかりで申し訳ない気もしますが……四の五の言ってられる状況ではありませんからね……頼りにさせてもらいましょう」
「スケールがデケェよなぁ~? なんてったって、神々の戦争だぜ? 当時の祖先達の決断って相当だよなぁ?」
アリサ嬢ちゃんの『無限円環』で訓練したからわかるんだが……神の力ってな、相当なもんだ。『神界』の掟とかでペナルティが課せられ、実力の半分しか出せなかった。とは言え、七柱もの神が魔王になって攻めて来た、まぁ、ルヴィアスはスパイだったら除外するとしても、それでも六柱……更に魔神もいやがったんだ。
「そうですね、そんなどうしようもない驚異にさらされて尚、女神様達の手を取り、立ち向かうと決断した偉大な先人達……尊敬します」
「一度話を聞いてみてぇもんだよなぁ~? ビット殿にもある程度は当時の話ってな聞かせてもらったがよ、当時のユグライア王はどう思ってたんだか……」
エミルの淹れた紅茶を片手に俺は、窓から街を見下ろしてぼやく。正直『誉』時代とは比べもんにならねぇ位の力を身に付けた今でも……いいや。だからこそ、迫りつつある驚異に震える。
今までこの街を襲った『氾濫』とは訳が違う、圧倒的な神の力。それに対して、俺はこの街を、その人々を護りきれるのか? 背にのし掛かる責任は重く。巨大な重圧は俺を不安にさせ、芯から震えさせやがる……それでも、表面に出すことは許されねぇのは辛いとこだ。
「──そうね。正直言えば私も不安だわ……やれること、打てる手立ては打ったつもりでも、総てを護りきれる自信はないもん」
「嬢ちゃん!?」「アリサ様!?」
バッ!!
背後から聞こえた女の声に俺とエミルは驚き振り返る。するとどうだ、いつの間にかアリサの嬢ちゃんが扉に寄り掛かって、腕を組んで頷いてるじゃあねぇか!
「驚かせてごめんね? ちょっとゼオンに用事あって『転移』でお邪魔させてもらったわ」
「聖女の方の嬢ちゃんは『エルハダージャ』に行ってる途中だよな? もしかして道中になんかあったのか?」
見たところ嬢ちゃんは一人単身でこの『セリアベール』に『転移』してきたみてぇだ。俺に用事ってことは、『エルハダージャ』の『ココノエ』絡みだろうか? いや、まだ出発してから、そう日は経ってねぇから、『エルハダージャ』までの道中になんか見付けたか? 取り敢えず話聞かねぇことにはわからんな。
「陛下! 今ただらぬ気配が! っと、アリサ様で御座いましたか……これはとんだ失礼を!」
「ご苦労様ビット。素早い対応をありがとう。その調子でゼオンを護ってちょうだいね?」
「はっ! この命に替えましても!」
突然現れた嬢ちゃんの気配を察知して、ビット殿が執務室に駆け込んで来る。ビット殿は嬢ちゃんの姿を確認すると、即座に落ち着きを取り戻し頭を下げる。流石の忠臣っぷりに俺とエミルは少しの感嘆のため息が出るぜ。
「まあ、道中にもちょっとした発見があったんだけどね。今私達は妹達と合流して『ファムナ村』にいるのよ」
「ああ、確かフォーネさんのご実家にレウィリリーネ様の肖像画が奉られていると言うお話でしたね? それを確認しに行ったのですか?」
そういやそんなことをアルティレーネ様達と初めてお会いした時に言ってたな。なるほどな、嬢ちゃん達は折角なんで一緒にその肖像画を見に『ファムナ村』に寄り道してるって訳か。
「そうなんだよエミルくん。んでさ、あんた達は知ってた? 『ファムナ村』はリュールとフォレストが結婚して作った村で、更に当時のユグライアも一緒に眠ってるんだって!」
「「はぁっ!?」」「なんと!?」
なんだって!? そりゃマジな話かよ嬢ちゃん!? 俺とエミル、ビット殿の三人は嬢ちゃんのビックリ発言に揃って驚きの声を挙げた。いやいや、待ってくれ! 初耳だぜそんな話! 『リーネ・リュール』の王と『ルーネ・フォレスト』の王が婚姻してただって!?
「そんな身近な『ファムナ村』に、今では失われた歴史の事実が!?」
「た、確かに当時の記録はほぼほぼ残ってねぇのは事実だがよ……いやいや、マジかよ?」
「マジらしいわ。んで、これからその三人が眠ってるっていう、『聖柩』って場所の扉を開くんだけど、ゼオンにビット。あんた達も来なさいな? 話を聞かせてもらいましょ?」
マジか!? こいつは是が非でも行かにゃあならんぜ!
「エミル! 留守を頼むぜ! ビット殿ついて来て下せぇ!」
「ぼ、僕も行きたいですが、ギルドを離れる訳にもいきませんね……ゼオンさん、戻ってきたら詳しくお話を聞かせて下さいね!」
「はっ! 承知致しました陛下! おお……まさかこの時代にかつてのユグライア王に謁見出来るとは……アリサ様。感謝申し上げます!」
そうと決まればこうしちゃいらんねぇ! 身仕度整えて、出発だ! っても、嬢ちゃんが『転移』で送ってくれんだろうけど、偉大な先人に会うならしっかりしときてぇからな。エミルも事情を飲み込んで、留守を預かってくれる。ビット殿はなんつっても当時に仕えた王との謁見になる。そりゃ感動もひとしおだろうな。
「よし、じゃあ『ファムナ村』に飛ぶわよ?」
「応! 頼むぜ嬢ちゃん!」「お願い致しますアリサ様!」
降ってわいたその情報に、俺とビット殿は胸踊らせて嬢ちゃんの手を握り、『ファムナ村』へと『転移』した。
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【『おきつね様』】~『ココノエ』かの?~《珠実view》
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「フォレスト様の晩年の際に、『おきつね様』……間違いなく『狐人』のことだよね? が、何処からか現れて、『聖柩』を作るって約束して、その通り作られたってことなのねおじいちゃん?」
「んだよぉ? 『三神国』の王様達が眠る『聖柩』じゃあ~これをずぅぅーっと御守りしてきたんがこの村なんじゃよ」
「し、知らなかった……この事を知ってるのって、何人くらいいるの?」
フォーネが村長に『三神国』の王達が眠る『聖柩』について訊ねれば、旧くから綿々と守って来たのだと村長は言うではないか。その事はリールも知らなんだようで、フォーネと共に驚いておる。
「この村の一部の者しか知らねぇべ。下手にんなごど広めで、墓荒らしさ無法者が来られでもしたら困るべ?」
「なるほどのぅ……王の墓ともなれば、その埋葬品もまた価値ある物だと考える輩がおるじゃろうな」
「そっか、そりゃそうだよな。下手すりゃ村そのものを危険に晒しかねねぇ爆弾だぜ?」
「同感だセラ。盗賊、野党、山賊……こいつらは徐々に減ってきているとは言え、完全にいなくなったわけではないからな」
そうじゃな。フォーネの父とシドウの話に、「うんうん」と頷くセラとバルドじゃが、妾もそう思うのぅ。いつの世にも故人の財すら我が物にせんとする大馬鹿者はいるものじゃ。そのような輩の目には王の墓所など、宝の山にしか見えぬのじゃろう。うむ、秘匿しておいて正解じゃな。
しかし、妾が今もっとも気になっておるのは、その『聖柩』を作ったという、『狐人』の事じゃ。フォレストが会うておると言う話じゃからして……アリサ様の権能で直接話が出来れば、聞き出せるやも知れぬ。
シュンッ!!
「お待たせみんな! ゼオンとビットを連れて来たわ」
「あんれまぁ~! こりゃあびっくらこいたべぇーっ! 突然消えたと思ったアリサ様がゼオンさんと騎士様連れてまた現れたべ!」
「おぉ、『ファムナ村』のみんな、久し振りだなぁ? 元気そうで安心したぜ! いつも美味い食材育ててくれてありがとな!」
「お初にお目にかかる。私は陛下の護衛を務めているビットと申します。以後、お見知り置きを」
おぉ、アリサ様が戻ってきおった! どうせならばと、『三神国』の末裔を揃えて会わせてやろうと言う話になってのぅ、それならばと、『セリアベール』までアリサ様が向かえに行っとったんじゃよ。村の衆は『転移』で突然消えては現れるアリサ様に驚いておるが、まぁ、無理からぬことじゃて。
「これはこれはゼオンさん、よう来て下さった。いつもおら達の村の野菜ば買ってくれであんがどなぁ~?」
「騎士様はビットさんってぇのがい? いやはや、立派だごどぉ~!」
そのゼオンとビットの二人が村の衆に気さくに話し掛ければ、村の衆も嬉しそうにしとる。ふぅむ、慕われておるようで何よりじゃなぁ~?
「ゼオンさん……来てくれたんだね」「わざわざありがとう」
「応。リールにフォーネ、そりゃあ当時のユグライア王に会えるとなっちゃあ、俺が来ねぇ訳がねぇだろ? ……てか、どうしたよ? 暗ぇツラして?」
少し落ち込んだ様子のリールとフォーネがゼオンの坊主に挨拶をするが、その暗い顔を見たゼオンめがどうしたのかと問うておる。その理由について、妾達でこれまでの経緯を説明してやると、ゼオンにビットも多少驚きつつも、「なるほど」と納得したようじゃ。
「女神様方……リール、フォーネ。心中察するぜ」
「なればこそ、亡き陛下達の『想い』をしかと受け止めましょうぞ?」
「そうですね。あの時に言えずにいた別れの言葉をしっかりと届けませんと……」
「うん。うちもちゃんとフォレストくんに「ありがとう」って伝えたい!」
「ん……あたしも、ちゃんとリュールと話したい」
真剣な面持ちでゼオンとビットが、女神と『三神国』の末裔の娘にそう声をかける。リールとフォーネはやや、涙ぐみながらもしっかりと頷き。女神達も、今まで言えず仕舞いであった別れの言葉を交わすのだと、俯いておった顔を上げる。懇意にしておった者共に犠牲が出ぬように、と、落城する城から転移で逃し、ずっとそれっきりじゃったと言う話故な……ここでしっかりとケジメを着けたいのじゃろう。
「……気持ちの整理はついた? そろそろ行くよ?」
そんなやり取りを見守っていたアリサ様が声を掛ければ、皆しっかりと頷き、村の広場から、再び『祈りの間』へと移動する。村長の話では、肖像画に『おきつね様』から授かった鍵を掲げれば、『聖柩』への扉が現れるそうじゃ。
「お父。鍵ばここに」
「うむ、そんでは皆々様……よろしいですかの? 因みに儂等は鍵さ開げでさこごで待ってんがら、気を付けて行ってくんち?」
「うん。よろしくお願いします村長」
ほう。それが鍵かの? 見事な水晶じゃ。
フォーネの母が村長にその水晶を渡し、妾達に向き直り、言外に「用意はいいか?」と問う。それにアリサ様が答えると、村長は大きく頷き、肖像画にその水晶を掲げたのじゃった。
しかし、あの水晶……なんじゃろうな? 今までの『黒水晶』に似ておるが、それは形だけで、寧ろ感じるのは真逆の、清廉な力じゃ。
村の衆が言う『おきつね様』とやらが、妾の知る『ココノエ』じゃったとして、一体どうやってあの水晶を用意したんじゃ? それに『聖柩』とやらを世から隔離するような業をどうやって身に付けたんじゃろう? その辺りの話も訊けるといいのじゃが、難しいかのぅ?
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【え!?】~ユニ……?~《アリサview》
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パアアァァァー……村長が『聖柩』の鍵であると言う水晶を、レウィリリーネの肖像画に掲げた途端、眩い光がこの『祈りの間』に溢れだし、私達を眩しい白一色の世界に導いていく。『ユーニサリア』から隔離された小世界。私の『無限円環』のようにそれなりの広さの世界か、もしくは、『中継基地』のような局所的に隔離したに過ぎないのか? はてさて、どうなっているのかな?
「──って、嘘でしょう? ここって……」
「そんな……『神域』ではありませんか!?」
唖然とする私とアルティレーネ。いや、レウィリリーネもフォレアルーネも同様だ。
眩しい光が収まり、白一色だった世界が開けて来たと思えば、そこは天も地も星空に埋め尽くされた小宇宙。
そう、アーグラス達を保護した『世界樹』内の『神域』だ。
「ど、どういうこと!? どうして『神域』と繋がってるわけ!?」
「むぅ……『世界樹』内の『神域』にはユニか神しか立ち入れないはず……」
そう。フォレアルーネとレウィリリーネも驚いているように、本来『神域』とは、『世界樹』内に存在する特別な空間であり、そこにアクセス出来るのは『世界樹』の『核』である、ユニと『神界』からこの『ユーニサリア』へと顕現するための許可を得るために訪れる神しかいないはずだ。間違っても、言っちゃなんだけど、こんな田舎村からアクセス出来る筈がない。
「あらら? お客様なんて珍しいね! ようこそようこそ~♪」
「えっ!? 誰かいますよ皆さん!」
「なんじゃと!? 馬鹿な、一体何者じゃ?」
その『聖柩』と呼ばれた『神域』とおぼしき場所で戸惑う私達に、不意に何処からか知らない声がかかる。ネヴュラとシドウがその声の主を探して辺りを見渡すけど、何処にも姿がない。
「ここだよぉ~♪ って、アリサおねぇちゃん? え、なんで……って、あぁ~そっかぁ~そういうことかぁ……も~あの子ってばまたこういう……」
「……ゆ、ユニ?」
他のみんなも声の主を探してキョロキョロ始めたその時、私の目の前にほわほわ~って感じの柔らかい光が現れ、人の形を取って行く。そして、はっきりとその姿が見えるようになると……どことなく、ユニに似た女の子。
私の知るユニを大人にして、落ち着いた物腰にしたような、そんな子。
「ち、違います。ユニはユニじゃないよ?」
「……今思い切り『ユニ』って言ったじゃねぇか?」
ちょっと慌てたように人違いだと答えるユニ? 今セラちゃんがツッコミ入れたように、自分を『ユニ』って言っちゃうのは、私達がよく知るユニそのものなんだけど……なんだろうこの違和感。
「おほん。そんなことはどうでもいいのよ? あなた達は『聖柩』に行って『三神国』の王と会うのでしょう?」
「……貴女、何者なのです? ユニのようでいてユニではありませんね? それにこの場所も『神域』でありながら、そうではなさそうですし……『聖柩』とは何処にあるのです?」
大人びたユニはセラちゃんには答えず、一つの咳払いをしたあと、私達の目的と行き場所を言い当てる。そんな大人びたユニに、訝しげな視線を送るのはアルティレーネ。大人びたユニの口調が気に入らないのか? 少し怒ったように質問を投げつけている。
「だーめ♪ ダメだよぉ? アルティお姉ちゃん、そんな風に質問しながら勝手に人を鑑定しようとしちゃ?」
「「「アルティお姉ちゃん!?」」」
おおお? ちょっと! マジにこの子何者なのよ? 秘密裏に行使したアルティレーネの鑑定を弾いたばかりか、「お姉ちゃん」とか呼びおったぞぅ? みんなはどっちかってーと、後者にびっくりしたみたいだね。
「もう! これ以上おいたすると『聖柩』に案内してあげないよ? その鍵も取り上げるからね?」
「……っ!?」
むぅ!? 凄い『神気』だ。どういうこと!? この大人びたユニから感じる圧倒的な力は? ティリア以上……いや、それすら霞むほどじゃないの! 私もみんなもその力を目の当たりにして何も言えず、息を飲む。
「はいはい。わかったわ、降参よ降参。おそらくここの事も、あんたの事も無理に聞き出すと、きっとよくない事が起きる。そういうことなんでしょう?」
「うわぁ……やっぱりアリサおねぇちゃんが一番怖いや……」
はぁ? どーいうこと? 頑なに何も話そうとしない大人びたユニの言うことを素直に受け入れただけでしょーに? なんで怖がるのよ?
「何も言わないよ~♪ 下手なこと言うとおねぇちゃんはすーぐ、「あ、察し」ってなるもん! だーかーらー……ほいっ!」
ブゥゥン……
おぉ? なんぞ大人びたユニがその手をサッと振るえば、私達の目の前に大きな扉が現れたじゃないの?
「その先が『三神国』の王の眠る『聖柩』だよ。話がしたいならそっちでゆっくりするといいんじゃないかな?」
ニコニコと微笑みを浮かべ私達を見る大人びたユニ。うん……私のよく知ってる可愛いユニの『天使の微笑み』は変わらないみたいだね。大人びた。とは言っても、やっぱりこの子はユニなんだろう。変に警戒することもなさそうだ。
「ありがとう。感謝するわ! ……また、会えるといいわね?」
「ふふ♪ そうだねぇ~頑張ってねぇアリサおねぇちゃん?」
答えられないのなら、無理に聞くことはないんだろうね……それはきっとこの大人びたユニを困らせるだけだろうし、もしかすると、自分の首を締める事になるかもしれない。そりゃあ勿論、どうして『ファムナ村』のレウィリリーネの肖像画から、直接『聖柩』じゃなくて、この『神域』に飛ばされたのか? とか、保護した筈のアーグラス達の姿が見えないのはなんでなのか? とか、ユニが大人びた姿なのはなんで? とか、疑問は尽きないけど……
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【『聖柩』】~深まる謎~《アルティレーネview》
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「……よろしかったのですかお姉さま? あのユニらしき者から話を聞き出さなくて?」
「うん。いいのよアルティ……あの子、頑なに話そうとしなかったでしょう? それはきっと、まだ私達は知るべきじゃないって事に他ならないわ」
かつてのユグライア達、『三神国』の王達が眠る墓所、『聖柩』に向かうべく、『エルハダージャ』方面からこのユグライア大陸に戻ってきた私達。レウィリとフォレア。リールさんに、フォーネさん、そしてユグライアも合流して、いざ『聖柩』へと臨んだものの、飛ばされた先は『世界樹』の『神域』と思われる場所。そこにはユニによく似た少女がいて、ろくに話も聞けないままに、移動せざるを得ませんでした。
「……ここが、『聖柩』……なの、か?」
「間違いないでしょうね。とても厳かな空気に包まれているわ」
「な、なんだかワタシ……自然と身が引き締まる思いですよぉ……」
デュアードさん、シェリーさん、ミュンルーカさんがそれぞれ、あのユニらしき者に追い出されるようにして『神域』とおぼしき場所からくぐった扉の先の風景を見渡しては呟きます。
そこはとても、とても小さな世界でした。
扉を背に、目の前に見えるのは赤い柱が二本。見上げれば横に同じく二本の支柱があって、柱を支えています。その間に長く続く石の階段、その先に小さく見える建物。周囲は白樺の木々に覆われ、小高い丘のようです。
「……まさか、鳥居に神社とは、恐れ入るわね」
「アリサ殿。その『鳥居』と『神社』とは何ですか?」
皆さんと一緒に暫くその場でこの『聖柩』を見上げていたアリサお姉さまが、ため息混じりにこぼした言葉をバルドさんが拾いました。お姉さまはこの建物に覚えがあるのでしょうか?
「私の前世の世界にあった……そうね、神様の家ってところよ。まさかこっちでも見ることになるとは思わなかったけど……」
「神様の家……なんでだろ? 『三神国』の王様達が眠ってるんだよね? 実はご先祖様達って神様だったの?」
「違うと思うよリール。多分ここを作った『おきつね様』って人が、ご先祖様達を神様のように扱ったんじゃないの?」
神の家……ふむ、なるほど。お姉さまの説明にリールさんとフォーネさんが話し合っていますが……ユグライア達が神格を得たと言う話は聞いていませんから、フォーネさんの言っている事が正しいのかもしれませんね。
「う~ん、フォレストくんとリュールっち、んで、ユグラっちは実際うち等『女神』の側にいた子達だからねぇ」
「ん? それを客観的に見たら、「神に近しい」とか、「神みたい」って思われた?」
そういうことなのかもしれません。フォレアとレウィリが今言ったように、私達三女神は、それぞれに祝福を授けた国の王と懇意にしていましたし、その様子を民にも見せていましたからね。
「まぁ、どっちにしても直で話聞けばわかんじゃね?」
「そうだねブレイド。私こんな凄い体験できて……ちょっとドキドキしちゃってる……みなさん速くこの階段登って上に見える建物に行ってみましょう?」
「うむ、そうだな。余もフォレストに会うのが楽しみだ」
わいのわいの♪ ブレイドくんとミストさんを皮切りに皆さんが階段を登り始めます。やれ生前のリュールはああだった、フォレストの奴はあんなことを~とかリンやレウィリ、フォレア達が面白いエピソードを皆さんに聞かせては笑わせたりして、ふふ♪ なんだか私も、先程のユニらしき者の事を忘れて、楽しくなってきましたね。
そんな中、アリサお姉さまは最後尾をシドウと一緒にゆっくりと登って来ます。何やら話をされているようですが……
「なんじゃ魔女よ? なんぞ言いたそうな顔をしおって? 何が気になっておるのじゃ?」
「今は聖女だってばよ……いやね? さっきの大人びたユニ見てさぁ~私の中で一つの仮説が出来たんだけど……これがまた突拍子がなくてね、言うに言えないっていうかさ……」
ふむ……どうやらアリサお姉さまは、お姉さまで先程のユニらしき者との少ない会話の中で何かしら感じ取り、ご自身で仮説が出来上がったそうです。一体どんな内容なのか気になりますが……今もまだ思案中の様子ですし、お話ししてはくれないでしょうね。
「格納庫で回収したオーパーツといい、さっきの大人びたユニといい、この『聖柩』といい……色々謎が多いわねぇ」
「そうじゃな、儂には測り知れぬ事態が起きておるのやも知れぬが……ふむ、珠実の奴めもお主と同じように思考を巡らせておるようじゃ。後で時間を取って聞いてみるとよいぞ?」
「そうね……後、あんたにもまた相談させてちょうだい?」
聞こえた会話に珠実を見れば、確かにちょっと難しい顔をして「う~ん」と唸っていますね。アリサお姉さまとシドウの会話に出た、『魔装戦士』の格納庫で手に入れた『パソコン』と言う名のオーパーツ。その『記憶の断片』に残されたなぞの人物。そしてこの『聖柩』を作り上げたと言う『おきつね様』……珠実はもしかしたらそれらを『ココノエ』と紐付けて考えているのかしら?
「お姉さま。珠実も……どうかお一人で悩まずに私達にもご相談下さいね?」
「んぁ? おぉぉ……そうじゃなぁ~いや、何。そう心配せんでも良いて」
「ありがとねアルティ。ちゃんとまとまったらしっかり相談させてもらうから、そのときはよろしくね?」
相談をするにしても、その考えがきちんとまとまっていなければいけないと言う似た者同士のアリサお姉さまと珠実です。そう言う事なら今はゆっくりと待ちましょうか。
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【『神社』】~『狛犬』と『お稲荷さん』~《シェリーview》
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「はぁ~こりゃまた……珍しい建物だな? どことなく『エルハダージャ』の建築様式に似てる気がするが……」
「ふぅむ、『聖域』で言うなれば弟の爽矢の棲処に、このような建物が多いのじゃが……」
「しかし、どことなく違うようだな」
長い階段を登った先。アリサ様の言う『鳥居』をいくつかくぐり辿り着いたそこには、一つの大きな屋敷? のような建物がたっていました。その建物を見上げて「ほぉ~」っと、ため息を漏らすのはゼオンさんとシドウ様にリン様です。
「確かに、『エルハダージャ』の木造建築によく似ているな」
「だなぁ~何かそれを豪華つーか、立派にしたような感じじゃね?」
バルドとセラも以前に旅した『エルハダージャ』で見た、色々な建物を思い出しては目の前の屋敷を観察していますね。
「まんま神社の境内だわ……」「姉ちゃん姉ちゃん!」
「「アリサ様」」
アリサ様が何か言おうとしたところ、ブレイドとミスト、珠実様が声をかけます。アリサ様は、そんな三人に向き直り「どうしたの?」と優しく微笑みました。はて、何を言おうとしていたのかしら?
「あの犬と~」「狐!」「あれはなんじゃろうか?」
三人が指差す先、そこには二体の犬と狐の石像が台の上に鎮座しているではありませんか。興味がわいたので私も近くによってつぶさに観察を! って、あらら。皆さんも一緒に集まってきましたね。
「……不思議な石像、だな?」
「ん。なんだか……『四神』や『懐刀』達に似た感覚がする」
「アリサ姉~知ってるこれ~?」
ほへぇ~と集まった皆でその石像を見ては、何とはなしに感じる神秘的と言いましょうか……不思議と守られているかのような、表現しづらい気持ちを感じ、デュアードとレウィリリーネ様が言葉にします。『聖柩』と呼ばれるこの場所に、意味もなく置かれている石像ではないのでしょう。フォレアルーネ様がこれは何かとアリサ様にお聞きして、皆さんの視線がアリサ様に集中しました。
「これは『狛犬』と『お稲荷さん』だわ。『狛犬』っていうのは、この神社……まぁ、この場所を守る番犬みたいなものね? んで、『お稲荷さん』ってのが前世だと五穀豊穣を司る神様で、その遣いとしての狐をこうして祀ることで感謝したり、豊作を祈ったりしてるとかなんとかだったわね」
ほほう、何て興味深い。アリサ様の前世の世界にはそのような神様がいて、祭られているのね? ミュンルーカみたいに『僧侶』が普段やってる神様へのお祈りのようなものかしら?
「……『四神』を『狛犬』として、この狐を『懐刀』と例えれば、あながちこの配置も間違いじゃないのかしら?」
「ふぅむ、確かに儂等は女神の遣いと言えばそうじゃしな……」
「ふっ、未だに頼りない女神共だがな」
先程レウィリリーネ様が『四神』と『懐刀』に似た感じがする。と、仰っていたけれど、アリサ様のお話を伺って「なるほど、確かに」って思ったわ。この『神社』を『聖域』だとすれば、『狛犬』は『四神』の皆様だろうし、狐は『懐刀』と置き換えることでしっくりくる。シドウ様とリン様もうんうんと頷いていらっしゃるわ。
「むぅーっ! 頼りなくて悪かったねリン! んでも、納得いったよ。ここを『聖域』だと考えると、神様ってのが眠ってるフォレストくん達ってことだろうしね」
「私達の祝福を受けた三人の王が、『ファムナ村』の神……土地神として祀られているのね」
フォレアルーネ様がリン様に膨れっ面をお見せした後、一変して明るい笑顔を私達に見せて下さったわ。アルティレーネ様も、かつて自分達が祝福を授けた国の王が、こうして大切に扱われていることにどこか嬉しそう。
「なるほどなぁ~いや、確かに『ファムナ村』はいつも作物が絶えねぇ村だとは思っちゃいたが……」
「ご先祖様がずぅぅぅーっと守ってくれてたからなのかもしれないね!」
「そうすると、感謝してもしたりないわね? 本当に偉大な先人達だわ……」
ゼオンさんとリールさん、フォーネさん。『三神国』の王の末裔の三人が『ファムナ村』の守り神となったのかもしれない祖先達に尊敬の念を感じてるみたいね。縁もあったのでしょうけど、以前にヴィクトリア様から教えて頂いた位階の昇級がこうして身近に感じる事ができるとは私も思わなかったわ。
「それでも疑問は尽きぬが……いや、寧ろ増えたのぅアリサ様や?」
「そうだね。なんにせよ考えてばかりいても始まらないわ。取り敢えず『三神国』の王様達と謁見と行きましょう?」
うんうんと唸って、考えを巡らせていた珠実様とアリサ様のお二人も、思考を一時中断させて、顔をお上げになられたわ。いよいよ、『三神国』の王達と話が出来るのね! 私の知的好奇心がさっきから「まだかまだか?」と騒いでしょうがないのよ、楽しみね!
ミュンルーカ「それにしても……あのユニちゃんっぽい子はなんだったんでしょうね?( ̄~ ̄;)」
シェリー「自分を「ユニ」って呼んでたし、ユニちゃんであるのは間違いないと思うのだけど……(゜A゜;)」
レウィリリーネ「ん( ・`ω・´) けしからん!(。・`з・)ノ」
リール「そうだよ!( `□´) ミストちゃんやシャフィーちゃん、ネーミャちゃんくらいの女の子だった筈なのに!(≧□≦)」
フォーネ「なんで、なんであんなアリサちゃんみたいな、ぇろチックボデーになってるんですか!?。゜ヽ(゜`Д´゜)ノ゜。」
セラ「応!ι(`ロ´)ノ 許せねぇよなぁっ!(。>д<) アタイにもわけろよぉ~(;´Д⊂)」
アルティレーネ「あはは……( ̄▽ ̄;) アリサお姉さまはどう思われます?( ´ー`)」
アリサ「そうねぇ~どうも『神域』っぽい場所だったし、身体操作でもして大人にしたんじゃないの?(*´艸`*) 『世界樹』内部なら自分の身体を自由にいじる事なんて簡単だろうし(*´∇`*)」
フォレアルーネ「んでもアルティ姉の事を「お姉ちゃん」呼びなのはびっくりだけどね♪(´・∀・`)」
ミスト「でも……ふふ♪( *´艸`) 随分美人さんになったなぁ~って思ったけど、やっぱりユニちゃんぽかったです♪o(*⌒―⌒*)o」
珠実「うむうむ(^ー^) 頑張って大人ぶってる感がまたユニらしかったのぅ~♪(((*≧艸≦)」
ネヴュラ「普段からアリサ様のような女性になるのだと仰ってましたし、もしかするとユニ様の思い描く理想の姿なのかもしれませんわね?(^∇^)」
シドウ「儂は嫌じゃ~(´;ω;`) ユニちゃんまでもあんなむっちんぼでーになってしまうなんて……嘆かわしい!(`□´)」
リン「良いではないか別に……(ーー;)」
バルド「シドウ殿は本当……筋金入りだな(´・ω・`; )」
ゼオン「しかしアリサ嬢ちゃんの言う身体操作は羨ましいぜ(ーωー) 俺も二十代くれぇの若い頃に戻りてぇな(;´∀`)」
ブレイド「ゼオンのおっさん年寄りくせぇって、そのセリフ(;・∀・)」
ビット「陛下はまだまだお若いですぞ!(°▽°)」
バルガス「ゼオン殿の言うことはわかるぞ(_ _) 我も若い頃に比べて体は動かぬわ、体力は落ちるわでなぁ(´ヘ`;)」
デュアード「若くありたい……と、思うのは、種族問わず……皆、同じだな( ̄0 ̄;)」




