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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
129/211

115話 にゃるろってと合流する『偵察部隊』

────────────────────────────

【王城跡地】~思う~《ザウルview》

────────────────────────────


ヒュオオォォー……


 見上げる空。風を切って、龍と巨狼が南へと飛んでいく。間違うことなき『黄龍』シドウ様と、俺の主たる『神狼フェンリル』のリン様だ。かのお二方はレウィリリーネ様とフォレアルーネ様。そしてゼオンと同じく、かつての『三神国』王家の末裔、リールとフォーネの二人と、『黒狼』達を引き連れ、『セリアベール』と『ファムナ村』に立ち寄った後、『リーネ・リュール王国』『ルーネ・フォレスト王国』の跡地に向かうご予定だったはず。


「ありゃ~立ち寄らずに行っちゃったぞーシドウ様達?」

「……多分、女神様達がこの『セリアルティ』の惨状を見て、気落ちしないようにって配慮じゃないかしら?」


 俺の名はザウル。『神狼フェンリル』のリン様の部下の一人で、『千年狼(サウザンウルフ)』だ。

 『聖域』から『聖域の(サンクチュアリ)水蛇(サーペント)』の背に乗り、内海を渡った後、この『セリアルティ王城跡地』へとやって来たのだが……


「ルーナの考えに私も同意する。アッシュも昨夜この『セリアルティ王城跡地』を見て、「酷い有り様だ」と言っていただろう?」

「隅々まで見て回ったけどさぁ~ホント……酷いよね……魔神の奴ここまでするんだ……」


 同じようにリン様達を見送っていた仲間達。素通りしていく主達に不思議がるアッシュの疑問にルーナが答え、ドランドも同意した。続くレイの言葉に俺達は昨日初めてこの地を訪れた時のことを思い出す。瓦礫の山と成り果てた城壁、所々に穿たれた大穴、見る影もない建物……共に『無限円環(メビウス)』で訓練した、ビットの話では、この『セリアルティ王国』は女神様方のお膝元として、大いに栄えていたと聞く。しかし、昨日に見て回った限りでは何処もその名残があるばかりだった。


「ふぅ、こう言うの『兵どもが夢の跡』ってんだっけか……俺達と違って実際に当時を知る女神様方がこの有り様見たら……」

「そりゃショックだろうにゃぁ……」「だワァン……」


 うむ、ウェズが言った通り俺達は当時を知らない、まだ誰も生まれていなかったからな。だが女神様達や『懐刀』、『四神』の皆様はそうではない。そう考えると俺達も気落ちしてしまうな……


「ハイハイ! みんな、私達が落ち込んでてもしょうがないよ!? こんなこと繰り返させないためにも頑張らないといけないんだからね?」

「ルルリル……ふっ、そうだな。その通りだ、よし、昨夜はここの調査で寝るのも遅ければ起きるのも遅かったからな、手早く支度を済ませ出発しよう」


 少しばかり暗い空気に包まれかけたところを、ルルリルの明るい声が吹き飛ばす。確かに俺達まで気落ちしても仕方がない。気持ちを切り替えて先へと進まなければ!


「夜更かししたせいでまだ眠いわ……」

「寝るなよ~ノア~? お前は一度寝ると中々起きないんだから~?」


 ふわぁぁ~と大きな欠伸を隠すことなく、ノアが眠そうにしているのを見てアッシュがやれやれとため息をつく。『黒王虎(ノアール)』のノアはとにかくよく寝る奴で、寝付きも早く、少しでも暇ができると寝始める。


「にゃぁ~猫科の宿命だにゃ。それはそうとザウル? そんなに急ぐ旅でもにゃぁよ?」

「だワン。僕ちん達が本気で走れば『セリアベール』には今日中に着いてしまうワン」

「いや、我々は街道の状態も確認しながら進まなければいけないのだ。忘れたか? ゼオンとラグナースに頼まれていただろう?」


 そう、今後この跡地はゼオン達『セリアルティ王国』の子孫達が復興を進める事になっている。そのため、多くの者がこの跡地と『セリアベール』を行き来し、街道の利用者も急増することになるのだ。ドランドの言う、ゼオンからの頼まれ事とは、正にその街道の安全確保であり、俺達はそれに協力する事になっている。


「そうだったねぇ~こうしてパッと見るだけでも、結構魔物避けの柵とか壊れちゃってるし、これらを確認しながら進むとなると時間がかかりそうじゃん?」

「チェックしていくだけでいいらしいけど……キャンプ場までどのくらいあるかな?」


 その具体的な内容については今、レイとルルリルが言った魔物避けの柵の破損状況を確認し、そのおおよその数を報告すると言う物だ。この柵はゼオン曰く魔装具であり、魔物が嫌う臭いを放つとかなんとか。まぁ、俺達にはなんの効果もないので、気休め程度かもしれんが。


「はは、そう言ってやるなよザウル。ネーミャやシャフィーみたいな子供達みてぇに無力な奴等は大勢いるんだぜ?」

「当然冒険者達が護衛につくのが前提だそうだけど、私達が確認することで『セリアルティ』の復興の一助になると言うのなら、手を抜く訳にはいかないわ」


 いや、ウェズ、ルーナ……俺は別に手を抜くつもりなんてないぞ? むしろもっと対策をした方がいいんじゃないかと考えてるくらいだ。


「わかってる。けど、『セリアベール』の人達で頑張らないといけない問題でもある……アタシ達はあくまでお手伝い」

「ああ、ノアの言う通りだ。全部を全部俺達『聖域』の者が解決してしまっては、彼等の成長は望めん。他ならぬアルティレーネ様がそう仰るのだから、『セリアベール』とゼオンに期待しよう」


 彼等の未来は彼等が決める。ああ、そうだった……アルティレーネ様は祝福を与えながら、彼等の成長を誰よりも望んでおられるのだったな。ノアとドランドの話で俺も思い出した。過度な援助は相手の成長を阻害する事もある、やれやれ……俺もとんだ過保護になるところだった。


「にゃ~♪ それじゃ行くにゃーっ!」「出発だワーン!」


おーっ!


 そうして俺達は『セリアルティ王城跡地』を後に、『セリアベール』へ向けて歩き出した。


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【二日目】~街道にて~《にゃるろってview》

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「ぜぇぜぇぜぇ……ま、待て……お前達、おかしいだろう?」

「おや? 女性に対して「おかしい」だなんて失礼だねガッシュ?」

「やっぱり歳とったね~もう息切れ?」


 にゃん♪ みなさんこんにちは。『人猫(ワーキャット)』に変身中のアリサさんこと、にゃるろってだにゃぁ~ん♪

 私と『猫兎(キャットラビット)』達、そして『虎人(ワータイガー)』のガッシュくんを含めた七人は、『セリアベール』から『ゲキテウス王国』へと向かうべく、港町の『リージャハル』へと足を動かしている。

 その『リージャハル』から、『ゲキテウス王国』側の港町『ハンフィリンクス』に船で移動するのが一般的なルートらしい。んで、ここはそんな『セリアベール』と『リージャハル』を繋ぐ街道のど真ん中。先頭を行く『猫兎(キャットラビット)』達に続いて私、最後尾にガッシュくんと並んで来たんだけど、ガッシュくんがどんどん遅れて立ち止まっちゃった。


「ば、馬車を使わず走って行く等と言った時点でおかしいとは思ったが……はぁはぁ……何なのだお前達は!?」


 ゼーハーゼーハーと肩で息をして、膝を両手で押さえ、前屈みのガッシュくん。逆にケロリとしてる私達。そんな私達にブー垂れては、レジーナとミミからお小言を返されてる。まぁ、普通なら街と街を定期的に行き来する定期馬車を使うのだけど、私達なら走った方が断然速いから、ここまで突っ走って来たんだけど、それはどうも非常識らしいにゃ。


「はぁはぁ……いや、にゃるろって様。非常識と言うわけではありません。実際に徒歩で動く者達もいます、少しでも金を節約するためにとか、街道の魔物を追い払うついでにとか。私がおかしいと言っているのは……ゲホゲホッ!」


 あ~はいはい、無理せんでいいのにゃ。ほらお水飲みなさいな?


「大袈裟ねぇガッシュは、たった一日走り通しただけよ?」

「一日と言うかまだ半日ですけどね、まぁ、日も暮れて来ましたし、もう少し行けばキャンプ場も見えて来るでしょうから、そこで休みましょうか?」

「それがおかしいのだ! 普通ならここまで馬車で二日はかかるのだぞ!? それを走って一日で来るとか、どう考えたっておかしいだろうがっ、ゲホッ!」


 ガオーッ! って如何にも虎らしく吠えるガッシュくんだけど、正に息も絶え絶えである。お水を差し出した私に一言「すみません」と言ってから、飲み干し、座り込む彼を見たニャモの目には大袈裟に映ってるようだね。


「わかったわかった。ネネが言うキャンプ場で今日は休むとしようじゃないか。しかしそんなに非常識だったかい? う~ん、あのダンジョンを攻略するのに僕達は随分鍛えられたのかな?」

「にゃはは♪ ガッシュくんも『聖域』で大地様に鍛えてもらった方がいいにゃ~?」

「はぁはぁ、ふぅ~『聖域』……『魔の大地』と呼ばれていただけあって、そこに住まう方々も逞しいのですね? まさかにゃるろって様のような幼子にすら体力で劣るとは……」


 やれやれってしたあとに、手を顎にあて、う~んって唸るレジーナは、ネネの提案に承諾し、ガッシュくんと自分達の体力差に少し辟易してるみたい。まぁ、ホントは私の『無限円環(メビウス)』での訓練の成果だけど、それは彼にはナイショだからね。

 それを抜きにしても、『聖域』のみんなは、今まで過酷な環境に対応して生きて来ただけあって、そんじょそこらの冒険者達より屈強だ。ガッシュくんの言い分もあながち、間違いではないんだよね。だからそんなに落ち込まなくていいんだよ?


「──さぁ、着きましたよ~キャンプ場です! 早速ごはんの支度しましょう? ももちーお腹ペコペコです」

「はいな~♪ じゃあアタシはテント用意するね」

「オーケー。ニャモとネネは周囲を警戒してもらえるかい? その間僕達で全員のテントを準備するよ」

「了解よ」「任せてください」


 走るのを止めて、てくてくと街道を歩く私達。途中狼やら犬やら猿だのオークにゴブリンとか、色々な種類の魔物が寄って来たりもしたけど、みんなで「えいやっ!」って一捻りにやっつけた。そうして歩き続けて数十分。広場が見えてきた。焚き火の跡や、小さな川があり、開けた空間。どうやらここがキャンプ場みたいだね。

 私達の他にも利用者がいるみたいで、このキャンプ場の出口側に数人の冒険者らしき人達の姿もある。


「ガッシュ、疲れているだろうけど、向こうの冒険者達に声をかけて来てもらえないかい?」

「いいだろう。二、三話もしてこよう」


 ごはんの準備にモモ、周辺警戒をニャモとネネ、テントの設置をミミとレジーナ。そして向かい側にいる先客に挨拶に行くのがガッシュくんと、レジーナがテキパキ指示を出して、みんなが動く。うむうむ、なるほどこれが冒険者なんだねぇ~とか、なんか感心しちゃう。


「ごはん作るの手伝うよ。ももちー、何作るの?」

「しぃ~。アリサ様、それなんですけど、ももちー達は一応初対面って事になっていますよね?」

「あぁ、うん。そうだね? それがどうかしたの?」


 みんなが働いてる中、私一人がサボってるのも気が引けるので、料理を担当するモモの手伝いをしようと声をかけたら、小声で返された。一応ガッシュくんは向こう側に行ったから大丈夫だろうけど、獣人の聴覚は鋭いからね、私も小声で話そう。


「ほら、この世界の食事情って発展途上じゃないですか? そこでももちーが『無限円環(メビウス)』で学んだ料理出したら怪しまれるんじゃありませんか?」

「ああ、なるほど。確かにそうかもしれないね……じゃあ、私が教わったって事にして一緒に作ろうか?」

「ありがとうございます。そうして下さると助かりますよ~♪」


 うむ。こちらこそ感謝だ。ひょんなことで私達の素性がバレちゃったら困るもんね。私も言動には気を付けよう。


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【美味しい晩御飯】~お魚も楽しみ♪~《ミミview》

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「向こうは『リージャハル』から『セリアベール』へと向かう途中の冒険者達のようだ。私達とはすれ違いだな。こちらの見張り番の交代時間もすり合わせてきたぞ?」

「済まないねガッシュ。手間をかけた」

「お疲れ様だにゃぁ~ほい、お肉多めの肉野菜炒めと、豚、牛、鶏の合挽き肉のハンバーグにニンジンのグラッセにコンソメスープ。ライスとパンならどっちがいいにゃ? 飲み物はジュースとお茶があるにゃ」

「はぁ!?」


 ポカーン。ぷふふ、ガッシュってば大口開けて呆けないでよ? 笑っちゃうじゃん!

 アタシ達がテントを設置してる間、先客の冒険者達に挨拶しに行って、その時に話した内容を教えてくれるガッシュにレジーナが感謝して、アリサ様こと、にゃるろってちゃんが労いの言葉と一緒に夕飯を差し出したんだけどさ。


「え、あ? えぇ~? こ、これが全部夕食!? 『セリアベール』でもここまで豪華な食事を出す店なんてないぞ!? しかも……ああ、どれもこれもなんて旨そうな匂いだ……『聖域』ではこれが当たり前なのですか?」

「最近になってからだにゃ~アリサ様が広めまくってるのにゃ! にゅふふ、私はその一番弟子だぞにゃ~ん♪」

「んまぁぁ~♪ にゃるろってちゃん! このニンジンのグラッセ! もっともっとちょうだいです!」


 彼女の作る料理の豪華さに呆気にとられてるんだもん、笑っちゃうよ! まぁ、確かに旅の途中の野宿で食べる食事としては異彩だから気持ちはわかるよ。アタシ達も昔は携帯食なんて固くなった干し肉に同じくカチカチのパンくらいだったもん。

 野宿でこんなご馳走食べられるなんて、ホント、アリサ様には感謝しかないよ。ってモモ! ニンジンのグラッセはアタシも食べたいんだから独り占めしちゃダメ!


「なんて美味しいんだ! この十年でここまで料理は進化したんだね?」

「あ、いやレジーナ? 対して変わっていないぞ? でなければ私もここまで驚かん」

「ちょっとモモさん、ミミさん! 取り合いしないでください!」


 むうぅーっ!! おのれももちー! ネネに怒られちゃったじゃない! でも、ニンジン好きのアタシとモモにとって、にゃるろってちゃんの作るこのグラッセはホントに美味しい! 美味しすぎる! これだけで『兎人(ワーラビット)』達で紛争が起きそうなくらい!


「へぇ~じゃあ、まだそんなに広まってはいないのね? ラッキーじゃないガッシュ、こんなに美味しい料理が食べられる上に破格の報酬よ?」

「ああ、これでお前達が一緒でなければ尚よかったのだがな?」


 なにおぅ~? 言ってくれるじゃんガッシュ? ネネに怒られて、モモと仲良くニンジンのグラッセをシェアして、ニャモとガッシュの話を聞いてたら、そんな事言い出すんだよ? むぅーっ! 失礼しちゃう!


「あのなぁ? 向こうの冒険者達に「どんなパーティーと組んでるの?」って訊かれて、お前達の名前を出した途端、ドン引きされた私の身にもなってみろ? ひきつった顔で「御愁傷様です」なんて言われたのだぞ!?」

「にゃははは♪ 何それめっちゃウケるんですけど~?」


 おう……なんて事だろ、そりゃあたし達十年前は結構、あちこちで騒ぎ起こしたけどさ~「御愁傷様」はなくなーい? にゃるろってちゃんもそんなに笑わないでよぉ~!


「まぁ、私達の悪評なんて気にしても仕方ないですよ。変に突っ掛かってこられないだけマシですね。んん~♪ それにしても美味しいですね、にゃるろってちゃんハンバーグおかわりありますか?」

「それは確かにそうだがな……あ、にゃるろって様。私もおかわりを頂けるだろうか?」


 って、おいこらネネ、ガッシュ! 悪評だの仕方ないだの、もー言いたい放題じゃない! って言葉が出かかったけど、あたしも自覚あるからとりあえずムスーっとだけしておくに留めるよ。あ、にゃるろってちゃん、あたしもおかわりほしい~♪


「あいあい、みんな食いしん坊だにゃぁ~? いっぱい買っておいて良かったにゃ。そいで、明日には港町にゃん? 海産物豊富だろうし、みんなはお魚使った料理とか平気かにゃ?」

「ふふ、冒険者たるもの好き嫌いなんてしてたらやっていけないよにゃるろってちゃん」

「ですね~ももちーもお魚どんとこいですよ~?」

「私も平気ですが……焼いた魚が好みです」


 いそいそとみんなのおかわりを配って行くにゃるろってちゃん。彼女の言うように明日のお昼頃には『リージャハル』に到着するね。そして港町だけあって、市場に並ぶのはやっぱり海鮮が主だ。むふぅ~♪ 『無限円環(メビウス)』でも食べたけど、アリサ様こと、にゃるろってちゃんの作る海鮮料理はめっちゃ美味しいからね! 今からチョー期待じゃん? ほら、レジーナもモモも心なしか目が輝いてる♪


「魚~♪ じゅるり……あぁ、楽しみですね!」

「魚には目がないのよね! でも十年前に食べた茹でた魚は酷かったわ……凄く生臭くてね?」

「そう! それだニャモ! 私も以前とある食事処で出された茹で魚にはうんざりさせられたのだ!」


 魚って聞くと目の色を変える『人猫(ワーキャット)』のネネとニャモ。この二人はホントにお魚好きだよねぇ? アタシ達がニンジン好きなのと同じくらい。そしてガッシュが焼き魚に拘るのは以前に食べた生臭い魚料理のせいってわけか。うん、なるほど、好きなお魚を酷い味にされて、お金も払わなきゃいけないってなれば、ショックだね?


「にゃるほど~下拵えがしっかり出来てないのだにゃ? じゃあ『リージャハル』行っても下手にお店に入らない方がよさそうだにゃぁ~?」

「にゃるろって様は魚、海産物も料理できるのですか?」


 にゃははって少し苦笑いするにゃるろってちゃんにガッシュが訊ねると、「お任せだにゃん!」ってサムズアップする。うんうん、めっちゃ頼もしい! ガッシュもにっこにこだよ♪


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【葛藤】~魔物の襲撃~《ガッシュview》

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「にゃるろって様は冒険者ではなく、旅行者だ。当然街への入場税が発生するが、それは私達で払わないかレジーナ?」

「入場税って、何だか久し振りに聞いたね。僕達は勿論構わないよ?」

「なんにゃそれ? 『セリアベール』じゃとられなかったのに」


 一夜明けた『リージャハル』へと続く街道で、私達は『リージャハル』の街に着いた時の事を話し合っていた。その内容と言うのは港町特有の『入場税』についてだ。

 入場税とは、私や『猫兎(キャットラビット)』のように冒険者としてギルドに所属し活動している者達は、ギルド登録の証であるギルドカードを掲示すれば支払わずに済む。しかし、どのギルドにも属さない者は銀貨五枚を支払わなければ街に入れない決まりだ。


「港町には『船舶ギルド』っていう組織があってね。漁業は勿論、国と国、大陸と大陸を結ぶ定期船の運営とかを僕達に安く提供する代わり、船の維持費や諸々のために入場税をとることを全国に許可された大きな組織なのさ」

「そして、ギルドカードを見せれば無料になるってのは、各ギルドが一定額をその『船舶ギルド』に納めているからなんですよにゃるろってちゃん」


 私とレジーナの会話ににゃるろって様が不思議そうなお顔をされ、入場税について訊いてきた。それについて詳しく説明するレジーナとネネの話を耳をヒョコヒョコさせて聞くにゃるろって様だ。


(……可愛らしいものだ、このような幼子を人質に取らねばならんのは、少々気が引けるが……否。これも多くの同朋を救うためだ)


 ……本当に、そうなのだろうか? 今私の目の前にいる『猫兎(キャットラビット)』達……『セリアベール』を代表する『白銀』と『黒狼』……他にも多くの同朋達が『人間(ヒューマン)』達と共に笑い合っている。しかし、同時に差別や迫害を受けている同朋がいるのもまた事実なのだ。

 ディード教団が目指す『亜人(デミヒューマン)』の理想郷は『獣魔王ディードバウアー』様を復活させ、その御力で今の世界を崩壊させた後に築き上げるというものだが……


「ガッシュ! なにぼさっとしてるんだい!?」

「!?」


ザシュッ!! ギャインッ!!


 しまった! 考え事をして魔物の接近に気付かないとは、なんという体たらくか!? レジーナの怒声にソードックの断末魔、慌てて見渡せば周囲を奴等に囲まれている!


「いかん! にゃるろって様は!?」

「にゃるるんぱ~んち★」


ドゴォッ!! キャイーンッ!?


 えぇ~? 護衛対象であるにゃるろって様のお姿を真っ先に確認した私の目に、信じられない光景が飛び込んできた。なんと、にゃるろって様はその拳一つでソードックの頭を打ち抜いて瞬殺したのだ!


「ガッシュさん後ろ後ろ!」

「はっ!? いかんいかん! 呆けている場合ではなかった、ぬぅぅんっ!!」


ワオォッ!! ズバァァンッ!!


 にゃるろって様のお声に我にかえった私は、背後に迫る一頭のソードックを、持った剣で一刀両断。気を取り直し改めて戦況を確認する!


「粉砕☆ふんさぁ~い♪」


ドゴォッ! ドガァッ! バキィッ!!


「ふっ! はっ! それっ!!」


サクッ! サクッ! バサッ!


「ギャワンッ!」「ギャインッ!」「ワギャッ!?」


 前方でモモがモーニングスターを振り回し、右でニャモが投げナイフを投擲し……


「どうしてこんなに群れて来るんでしょう?」

「さぁ? なんでだろね? 知らない内にあたし達縄張りに入っちゃってたとか?」


ゴォォッズバァァンッ!! ヒュヒュヒュンッ!! ギャインッ! ギャンッ!!


 ネネが魔法剣で炎の斬撃を飛ばし、左のソードックを蹴散らせば、後ろでミミが両の手に持った扇を踊るように振るい切断してのける。


「ちょっとこれは異常だね、ガッシュ、この十年で生態系に変化があったとか、そういう情報はないのかい?」

「いや、私もそんな話は聞いていない! この犬共がここまで群れて行動するのは『氾濫(スタンピート)』くらいだった!」

「にゃぁ~? 多分原因はあれだにゃ~」


 モモ、ニャモ、ネネ、ミミの四方から抜けて来たソードック達が円陣を組んだ私達中央に迫るのを、レジーナと私で対処していく中、にゃるろって様がある一つの方角を指し示した。


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【鳥達に】~にゃるろってちゃんはお怒りです~《ネネview》

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「──で? なにやらかしてくれてんの、この駄鳥共?」

「あああ、あのっ! そのぅ……」「すすっスンマセンっしたぁ!」

「申し訳御座いませんでした……」「どうか姉貴に報告だけは勘弁してください!」


 私達の前で土下座する四人の男女……そして仁王立ちでお怒りのアリサ様こと、にゃるろってちゃん。

 先程群れを成して私達に襲い掛かって来たソードックを撃退して、その原因をにゃるろってちゃんが突き止めました。ソードック達は別に縄張りに侵入されたからとか、私達をエサだと思ったからとか、そういう理由で襲って来たのではなく、何かから逃げて来たらしいのです。

 それで、その何かとはなんなのか? 答えは今目の前で土下座している四人のせいでした……


「にゃぁ~? 多分原因はあれだにゃ~」


 にゃるろってちゃんが指し示すのは、ちょっとした高台になった丘の上空。四羽の鳥がグワーグワーとなにやら楽し気に騒いでいるではありませんか。

 そう、『偵察部隊』のみなさんです。ソードックの群れをやっつけて、私達がその四羽に近付くと、彼等も私達に気付き……


「グワッ!?」「グワワッ!!」「グワーワッ!」

「ば、馬鹿な!? ぐ、グリフォンじゃないか!? おい、レジーナ! 威嚇されているぞ!? これ以上近付くのは危険だ!」


 威嚇されました……えぇ~こんなに近付いてるのに私達だって気付かないんですか? ほら、にゃるろってちゃんもいるんですよ? ガッシュさんはもう、彼等には敵わないって悟って尻尾を巻いて逃げる態勢になってますけど……しかし、そこでにゃるろってちゃんがみんなの前に出て……


クイックイッ……


 降りてこいと右手の人差し指を彼等に向けて動かしました。後ろ姿なので表情はわかりませんが、耳がピンっと張って外を向いている「イカ耳」になり、尻尾がブンブン左右に振られていることから相当お怒りの様子ですね。その証拠に、にゃるろって様に気付いた『偵察部隊』の四羽が、途端に慌てだして、バサバサと転がる、と言うか、落ちるようにしてこちらに来て、今に至ります。


「朱美様に報告するかどうかは、翼様達がなにやらかしたか聞いて判断するにゃ。さぁ、言ってみるにゃ。危うくワンワン達に噛み付かれそうになった私の前で!」

「あ、あのっ! にゃるろって様! 言い出しっぺはウノですのよ!? 「なんかあの丘に変な犬っころがいるぜぇ~? ちょっと脅かしてやろうぜ!」とか言って!」


 にゃるろってちゃんの前で人化し土下座する四人は、既に『人猫(ワーキャット)』に変身したアリサ様が、「にゃるろって」と名乗っているのを知っている様子ですね、知らない間に思念通話でもして、話を擦り合わせておいたんでしょうか?


「ちょっ!? ルロイヤお前だってノリノリだったじゃねぇか! 「いいですわね! あの肩から突き出た邪魔そうな刃をへし折って爪研ぎにでもして差し上げましょう!」とか言いやがって!」

「俺は止めたぞ?」

「ドゥエ~話をはしょっちゃいけないぜ? あのワンころ共を散々突っつき回して、自分だけ満足してから止めたんだろーが!」

「なにおう!? そういう貴様こそアイツ等が逃げる先に先回りして、驚かせていたではないか!?」


 うわぁ……さっきからなんて見苦しい。ルロイヤさんとウノさんの責任転嫁の応酬を皮切りに、ドゥエさんと翼さんもあーだこーだ言い合いを始めましたよ?

 あ、にゃるろってちゃんの尻尾がびったんびったんと地面を叩き始めました……あ~あ、もう、相当ご立腹ですよこれは? もうどうなっても知りませんからね?


「よし、よ~くわかったのにゃ! あんた達全員上司に報告の刑にゃ!」


 ギャー!? やめてぇーっ!! って情けなく喚き散らすいい大人達ですよ、ちょっと笑っちゃいますね。特に翼さんのあの必死さは哀れみすら覚えます。


「あーっ! やかましいにゃ!! とにかく! みんなごめんなさいだにゃ……『聖域』の身内が、迷惑をかけてしまったのにゃ。ほら、あんた達も謝るにゃ! あんた達がちょっかい出して逃げた犬達が人を襲って被害出てたらどうするつもりだったの!?」


済みませんでしたぁ!!


 ぺこりと私達に深々と頭を下げて謝罪するにゃるろってちゃんは、『偵察部隊』の四人にもちゃんと謝るように言います。翼さん達も自分達の行動の浅はかさに気付いたのでしょう、しっかり気持ちのこもった謝罪をいただきました。

 強い魔物が近くに住み着き、それから逃げて来た他の魔物が人を襲うと言う、今回のようなパターンは過去にもないわけでではありませんが……まさかそれを『聖域』の身内がやらかすなんて思わなかったんでしょうね……アリサ様も。


「謝罪を受け取るよにゃるろってちゃん。幸いこちらに被害はないからね」

「ですよ。でも、居合わせたのがモモ達で良かったですね~?」

「ランクの低い冒険者や、行商に出てる商人達だったら危なかったわ、本当に気を付けて?」


 レジーナとモモさん、ニャモさんが大丈夫と、こちらに被害がないことと、運よく対処が出来る私達が通りかかったから良かったけれど、他の方なら危なかったかもしれないって所を伝え、注意を促します。翼さん達も、にゃるろってちゃんが頭を下げたこともあってか、その注意事項をしっかりと聞いてくれて、興味本意でちょっかいかけたりしないと約束してくれました。

冒険者α「あら?( ゜ー゜) みんな見て、向こうから人が来たわ(*´∇`)」

冒険者β「ホントだ(・о・) みなりからして冒険者達みたいだなσ(´・ε・`*)」

冒険者Γ「可愛いワーキャットの女の子を連れてるぅ~♪( ・∇・)」

冒険者Δ「ふむ( ・-・) 俺達とは逆に、『セリアベール』から『リージャハル』に向かう途中かな?(^ー^)」

冒険者ε「あの女の子の護衛かしらね?(*^-^) でも( ´~`) あの冒険者達どこかで見たことあるような……(-_-;)」

ガッシュ「失礼( ´_ゝ`)ゞ 私達は『リージャハル』へと向かう途中の冒険者だが、この場を共にする事を許可願えるだろうか?( ´ー`)」

冒険者α「勿論ですよ(°▽°) ご丁寧にありがとうございますo(*⌒―⌒*)o」

冒険者β「ガッシュさんでしたか(^o^) 名高いAランクの冒険者に会えて光栄です!(ノ゜∀゜)ノ」

冒険者Γ「こちらは逆に『セリアベール』に向かう途中なんです♪(´・∀・`)」

冒険者Δ「ここから『リージャハル』までの道は特に変わった事はありませんでしたよ(゜ー゜*) そちらはどうでしたか(´・ω・`)?」

ガッシュ「感謝する(o・ω・o) こちら側も普段通りだ、ところで見張りについてなんだが……( -_・)?」

冒険者ε「情報ありがとうございますガッシュさん(’-’*)♪ 私達の見張りの順番と時間はこんな感じで……(´・ω・)っ」

ガッシュ「ふむふむ(・д・) 了解した、では私達も合わせるとしよう(^ー^)」

冒険者α「助かります( *´艸`) ところでガッシュさんは護衛クエストですか?(*^-^)」

冒険者β「あのワーキャットの女の子を護衛されてるんでしょう?(*´∇`)」

ガッシュ「ああ、その通りだ(´・∀・`) 『リージャハル』から『ゲキテウス王国』に向かう予定だ( ´ー`)」

冒険者Γ「あの一緒のパーティーはどんなパーティーなんですか?(*´∇`) やっぱりAランクなのかなぁ~?( ゜∀゜)」

ガッシュ「あ、えっと……Σ(゜Д゜ υ) その、だな……『猫兎』達なのだ(>_<)」

冒険者ε「!?Σ( ゜Д゜) そ、そっかぁ~道理で見覚えがあったわけね……(゜Д゜;)」

冒険者Δ「えっと……その、ガッシュさん(ーー;) 御愁傷様です(-人-;)」

冒険者α「十年振りくらいにその名前を聞きました(^_^;) てっきり引退したのかなって思ってたよ(;^∀^)」

ガッシュ「本当になぁ……(>o<") 兎に角情報をありがとう( ̄ω ̄;)」

冒険者達「いえいえ( ̄▽ ̄;) ガッシュさんも頑張って下さいね(´・ω・`; )」

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