109話 偵察部隊とお好み焼きと『メビウス』の面々
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【偵察部隊出発!】~どこから行く?~《翼view》
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《──んじゃ『偵察部隊』行くぜ~♪》
《うふふ♪ 『聖域』の外ってどんな世界かしら? 楽しみだわ!》
《まずはフィーナ様とセルフィ様って女神様にご主人の弁当届けねぇとな!》
《何かありましたら連絡入れます!》
ワアァーッ! って、『ガルーダナンバーズ』の連中から激励を受け取った俺っち達『偵察部隊』の四羽は『聖域』から高く高く上空へ舞い上がる。
アリサ様が編成したこの『偵察部隊』だけど、『偵察』ってのは名ばかりで、基本的に俺っち達の自由。何処に飛んでいこうが、何処で遊ぼうが全部俺達の好きにしていいってんだから最高だぜ! ルロイヤが言ったように、俺っち達は『聖域』から外に出るのは初……まぁ、『セリアベール』の防衛戦には参加したが、あれはあくまで戦闘であって、空の旅とは言い難いからなぁ~、ってなわけで、自由気ままに空の旅に出るのは初めてってことで。
《フィーナ様は南南東の火山っつったっけ?》
《ああ、そしてセルフィ様が南西の海底火山だな》
ま、自由って言っても、各地で見聞きした事をアリサ様に報告する義務はあるんだけど、それも定期連絡するだけでいいって事だ。特になんもなければ居場所伝えて、「異常なし」とだけ伝えればいいらしいし、楽なもんだよな。そんな自由な俺っち達だけど、簡単なお使いなんかも頼まれたりする。ウノが言う弁当を届けるってのは、アリサ様に頼まれたお使い。
何でも、『龍脈の源泉』っていう、重要な場所を魔王の手から守るために、ティリア様が義姉妹の女神様を呼んだらしい。要所を守護する手前、下手に離れる事ができないその二柱の女神様に、アリサ様から心尽くしの弁当を差し入れだ。コイツは重要なお役目だぜ。
んで、そのお二人が何処にいるのかってのをドゥエと確認する。ティリア様に呼ばれたフィーナ様という女神様はこの『聖域』から、南南東に位置する火山。近くには『エルハダージャ』っていう国があるらしいな。
そして、もうお一人のセルフィ様という女神様は南西の海底火山。確か、『ゲキテウス』って国の更に南だって話だ。海の底にある火山なんて、一体どうやって守るんだろうな?
《先に西に向かうのがよろしいのではなくて? サーサさんとゼルワさんからのお手紙も預かっていることですし》
《するってーと……先にゼルワっち達の里に行くことになるよな? 『ゲキテウス』よか北西、『ルーネ・フォレスト』の近くの森の中だって話だもんよ》
《じゃあ、北西に向かうか。ゼルワ達の手紙届けて、南下して~『ゲキテウス』も空から見てみようぜ?》
ルロイヤがゼルワっちとサーサから預かった、二人の里の長老とか言う奴に当てた手紙の事を話題に出してきたんで、俺っちとウノは進路を北西に取ろうとする。ゼルワっち達の里は、フォレアルーネ様が祝福を授けた亡国、『ルーネ・フォレスト』近辺の森林の中にあるって話だから、先にそっちに向かって、手紙届けて南下。『ゲキテウス王国』をチラ見して、セルフィ様のいる海底火山を経由した後、東に向かって、フィーナ様のいる火山に向かう。
《いやいや、待て待てお前ら。優先すべきは女神様に弁当を届ける事ではないのか?》
《安心なさいな、ドゥエ。アリサ様も『状態保存』の魔法をかけてあるから、焦らずとも良いって仰っていたもの》
俺っちがそんな風にルートを考えてると、ドゥエが先に弁当を女神様達に届けるのが先じゃね? とか言ってくるんだが、それをルロイヤが大丈夫だと諭した。まぁ、先に弁当届けてからだと、ゼルワっち達から預かった手紙の事なんてすっぱり忘れちまいそうだしなぁ。
《そうか、それなら焦らずともいいか。では先にゼルワ達の里に向かうか》
《おっしゃ! 決まりだな。早速行こうぜ~俺、早く外の世界ってのを見たくてウズウズしてんだ♪》
はは、そうだなウノ! ドゥエも納得したようだし、早速行こうぜ! 俺っちもお前と同じ気持ちだからよ!
《ふふふ、なんだか私もワクワクしてきましたわ!》
《ああ、楽しみだ!》
《よーし! んじゃ、ぶらりと行きますか~折角だし、風を楽しみながらのんびり行こうぜ? かっ飛ばしちゃあ勿体ねぇや》
俺っちとウノだけじゃない。ルロイヤとドゥエも外の世界を見たくて楽しみにしてる。初めての旅路だ。文字通り、全身で風を感じて楽しんで行きてぇもんだぜ!
《ひょぉ~♪ 気持ちいいなぁ》
《ええ! 最高ですわ♪ 『聖域』の外ってこんなに広いんですのね!》
《『聖域』で飛べぬと腐っていた日々が嘘のようだ! 見ろみんな。内海の広さを! 俺達はこんなことも知らなかった……》
そうして『聖域』から飛び立った俺っち達の目には、大きく広がる『聖域』を囲む内海。内海って言っても、かなりの広さだ、ウノもルロイヤもドゥエもその眼下に広がる大海原に感動しまくってらぁな。ま、かくいう俺っちも内心興奮しまくってるんだけどな!
《だなぁ~『世界樹』が呪いを受けてから俺達、ずぅぅーっと、地べたを這いずり回って生きてたもんなぁ……》
《ああ、ご主人には本当に感謝しかない……》
ウノとドゥエが言うのはかつての大戦で、『世界樹』が魔神から呪いを受けてしまい、無差別に近付く者を攻撃するようになっちまって、それをアリサ様が解決するまでの長い期間のことだ。考えてみれば俺もその頃から腐り始めて、色々面倒くせぇって思うようになっていったっけ。
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【あっちこっち】~行ったり来たり~《ルロイヤview》
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《それも解決して、やっと空飛べるようになったってのに、姉貴はやれ「聖獣なんだから」とかなんとかばっかでなぁ……》
私達がゼルワさんと、サーサさんの里を目指し『聖域』の外に出て、その広い世界に感動し、これもすべてはアリサ様が尽力なさってくれたお陰だと、感謝を口にすると、何だか翼が愚痴り始めましたの。
《ああ、翼は昔から自由に焦がれていたよな? しかし、聖獣としての務めにもしっかりと理解を示していたと思うが……?》
《簡単な話、飛べない時間が永すぎたせいで、す~っかり、ひねくれちゃったって事ですわよね?》
確かにドゥエの言う通り、以前の翼は自由に憧れてはいても、聖獣として『聖域』を守るという使命にも誇りをもっていましたわ。しかし、魔神から『聖域』を守りきれなかったこと、呪われた『世界樹』によって、空を飛ぶ自由すら奪われたこと。その長い時間は、彼の気持ちをひねくれさせるには十分過ぎるほど長いものだった。と、ズバリ指摘してあげましたわ!
《そうなんだよなぁ……しかし、アリサ様に出会って、道が示されて……訓練を通して、俺っちは目が覚めた! やるぜぇ~俺っちは! 『聖域』だけじゃなく、この世界を守るんだ!》
《はは、そいつはいいぜ! 「『聖域』を守る」っていう使命が「『世界』を守る」って変わるだけで、俺達は自由にあちこち行けるんだもんな》
まったく翼もウノも単純でしてよ? けれど、その単純さが大きくひねくれてしまうほどの長い時を終わらせてくれたアリサ様には、私も心より感謝しています。
《ふっ、よく言う。本音は自由に飛び回るついでに世界も守るってとこだろうに》
《あんだよ~? 折角盛り上がってきたのに水差すんじゃねぇよ~ドゥエ~?》
そーだそーだ! って、ドゥエの一言にブーブー文句を垂れ流す翼とウノです。やれやれですわね~結果的に世界の平和が守られるならどっちでもよろしくてよ? ですから言い合いはおよしなさいな。
そうして、のらりくらりおしゃべりしては海面に跳ねる魚を見たり、みゃあみゃあと鳴く鳥の群れを見つけて、興味本意で近付いて並走し、驚かせたりして……
《ワハハ♪ 面白ぇ鳥共だったなぁ?》
《かわいそうだってばよ? あいつ等俺達に食われんじゃねぇかって必死に逃げてたじゃねぇか?》
《まぁ、敵意がないって。途中で気付いたようだし、いいんじゃないか?》
と、まぁ……遊び半分で近付いて怖がられちゃったりもしましたわね♪ ホントに男共はやんちゃで困りますわ!
そんな風にあっちにフラフラ、こっちにフラフラとしつつ数時間。ちょっと方角を間違えたりもしましたが、ようやく水平線の先にに大陸が見えてきましたわ!
《うおぉ~こりゃすげぇ!》
《デカイ大陸だな、ここが『ゲキテウス』なのか?》
《どちらかと言うと『ルーネ・フォレスト』かしら?》
《海峡で隔てられているな。おそらく南側が『ゲキテウス王国』で北側が『ルーネ・フォレスト』になるんじゃないか?》
国境がどうなっているのかは、私達にはわかりませんが、遠目に見える大陸は大きく隆起した岩山で北と南に分けられ、海峡を作っておりますわ。その自然が作り上げた壮大な光景に翼が感嘆の声をあげ、ウノと私とドゥエは北の大陸が『ルーネ・フォレスト』で、南側が『ゲキテウス王国』であるとあたりをつけます。
話では『ゲキテウス王国』は『聖域』の真西に位置するとのことですので、おそらく、縦長の広大な大陸となっているのでしょう。
《んじゃ、北の方だな? かつてフォレアルーネ様が祝福を授けたっていう『ルーネ・フォレスト』か、今はどうなってるんだろうな?》
《フォレアルーネ様とリン様が共に戦い、噂の黒フード達が崇拝する『獣魔王ディードバウアー』が眠る地でもある……警戒しておこう》
コクリ。進路を北側の大陸に向ける私達は翼とドゥエの言葉にみんなで頷きあい、警戒を強めながら、かつての三神国の一つ、『ルーネ・フォレスト』のあった地に向かいます。何もなければそれでよし。ですけれど、もしその地に眠る『獣魔王ディードバウアー』が目覚めたりしたら……
《わかってんなみんな? 俺っち達の仕事はあくまで偵察だぜ? なんかあっても報告を第一に考えろよ!?》
《待て翼。日が落ちてきている。このまま進むのは危険だぞ?》
《ドゥエの意見に賛成だぜ。どっか手頃な場所で夜を明かそう、腹も減ってきたしよ》
《急いては事を仕損じる。ですわね? 夜闇の中でも活動はできますけど、そう焦る必要もありませんわ》
今にも『ルーネ・フォレスト』の大陸に突入する気満々の翼ですが、色々寄り道したりしたせいで、とっぷりと日が暮れ始めてきておりますの。私達はそこらの鳥と違って、夜目も利きますが、夜間の戦闘に慣れているわけではありません。ここはウノの言うように手近な場所で夜をやり過ごすのが賢明ではないかしら?
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【腹へった~】~ご主人の千切りキャベツ~《ウノview》
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《ん~それもそうだな! 腹が減っちゃ戦は出来ぬ~とかなんとかバルガス達もよく言ってるし》
『聖域』から飛び立って一日目。俺達は『ルーネ・フォレスト』があったって言う大陸にまで飛んできた。真っ直ぐに向かってればもっと早くに到着したんだけどな。なんせ俺達『聖域』から出て、こうしてまじまじと外の世界を見るのは初めてだかんなぁ~色々興味が惹かれるモン見付けては、「あれはなんだ?」「これはなんだ?」と、寄り道ばっかしてたせいですっかり夕方だ。
《んじゃ、誰も寄り付かなそうなあの岩山に穴でも空けて、即席の宿にしようぜ?》
《いいですわね、北に寄ってきたせいか……風も冷たいですし》
そうそう、ルロイヤも感じてたかぁ、やっぱ北に来ると寒いよなぁ~? ルヴィアス様の帝国の様子をご主人の映像通信で見たとき、相当寒いんだろうなって思っちゃいたが……
《まだその手前だと言うのに、結構な冷え込みだ。『ルヴィアス魔導帝国』に行くときは、それなりに準備が必要かもな? ふんっ!!》
ボゴオォッ!! ガラガラガラーッ!!
ドゥエがそう言いながら、海峡の岩山に魔法弾を放って、丁度人が数人入れる程の大きさの穴を穿つ。いや、上手いもんだ。ドゥエはご主人の『無限円環』での訓練でも、魔法の制御が上手いとシェラザード様やルヴィアス様に褒められてたからな。
《やるぅ~♪ 俺っちやウノじゃこう上手く穴を空けられねぇ。流石ドゥエ、加減が絶妙だな!》
《翼、俺を褒めたところで何も出ないからな?》
《ふふふ、素直に喜びなさいなドゥエ♪ さぁ、早速人化して食事の準備に取りかかりましょう?》
《応! 何食う? やっぱホットケーキか?》
ははは! まったく、ドゥエの野郎素直じゃねぇなぁ? ルロイヤの言ったように素直に受け止めりゃいいのに。ま、それよか飯だ飯! 俺達はその穴に近付いて人化し、内部を確認する。飯を作って食えるスペース、四人が横になって寝れるスペース。簡単なもんでいい、どうせ一時的な寝床だからな。
「パンのようにそのまま食べられるのは今じゃなくてよさそうですわね。即席とはいえ腰を落ち着ける事ができますし、簡単な物を作っていただきましょう?」
「ホットケーキもいいけどよ、ほら? アリサ様に甘いものばっか食ってちゃ駄目だって釘刺されたじゃんじゃん?」
魔法の鞄をあさって調理器具を引っ張り出す俺が、得意のホットケーキにでもするかって言えば、ルロイヤとドゥエは賛成っぽいけど、翼がなんか思い出したように、ご主人から注意されてた事を話し出す。そういやそうだった……初めての旅ですっかり浮かれて忘れてたわ。
「折角ご主人が俺達のためにって、野菜やら肉やらを詰めてくれたんだ。肉野菜炒めでも作るか?」
「いやいや待ちなさいなドゥエ? それでしたらライスも欲しくなってしまいますわ! 今からお米を炊いていては食べるのも遅くなります!」
あー、うん。ドゥエが魔法の鞄から、皿に盛られた肉と野菜を取り出して、肉野菜炒めでも作ろうってするんだけど、それだとライスも食いたくなるってルロイヤが待ったをかけた。ごもっともな意見だぜ。
「ではどうする? 因みに米もあるんだが?」
「ふふふ、大丈夫ですわ! 『お好み焼き』にすれば直ぐ作れて直ぐ食べられます!」
おおーっ! そうか、その手があったな! ドヤ顔するルロイヤにどうする? って聞いたドゥエも、なるほどって感心してるぜ。流石ルロイヤ! グリフォンロードは伊達じゃねぇな!
《おっしゃ! じゃあ決まりだな、早速取りかかろうぜ! って……おいぃ~? なんか既にキャベツが千切りされてんのが入ってんぞ?》
《ああ、それはご主人が……「千切りキャベツは色んな料理に使うからあると便利なのよ?」って、わざわざ用意してくれてた物だ》
マジ!? 俺達は早速『お好み焼き』を作るべく、材料を魔法の鞄から、それぞれに取り出そうとしたんだけど、そこで翼が既に千切りにされたキャベツが入ってるのを見つけてびっくりしてるんだ。「なんで?」って問いにドゥエの答えを聞いて、俺達、またびっくりよ?
「すげぇ~ご主人の愛をひしひしと感じるぜぇ~♪ ああ、くそ……ご主人嫁にしてぇ~!」
「愛とか言うな。気遣いと言え、ウノ!」
「うふふ♪ アイギスさんにお熱ですからねアリサ様は」
「はは、こんな気遣い、俺っちの姉ちゃんには到底無理だろうなぁ?」
わははは! って俺が思わず声に出しちまった本音に笑い出すみんなだ。あー、もう、マジでアイギスの野郎が羨ましいぜぇ~? ご主人ほどいい女なんてそうそういねぇってのに~!
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【顆粒出汁】~思い出になったお好み焼き~《ドゥエview》
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「さて、換気はこんなものでいいだろう。土埃の舞う場所で料理などできんからな」
「なんか火に反応するガスってのが充満してる場合もあるんだっけ~? 穴空けるとき火属性の魔法使わなくてよかったな」
軽く風魔法でこの即席の寝床の空気を入れ換える俺に、翼がそう言えば、と、何処かで聞きかじったであろう知識を話し出した。ふぅむ、なるほど。それは確かに危ないな?
「んじゃ今ドゥエが土埃払うために使った風魔法も効果あったかもな! その換気が終わったんなら早速『お好み焼き』作ろうぜ?」
「ええ! もうお腹が空いて仕方ありませんわ。ふふ、こんな時のためにアリサ様がご用意下さったアレを使いましょう♪」
換気せずにいきなり火を使い始めたら、危うくそのガスとやらに反応して事故が起きたかもしれないのか……うん、換気は大事だな。旅するうえでこういう知識も覚えていった方がいいのか? 冒険者なら詳しいだろうか……後でアイギスやバルド、レジーナ達にも話を聞いてみたいな。
っと、そんな考えを巡らせていると、ドゥエとルロイヤがテキパキと調理の準備に取り掛かり始めた。しかし、ルロイヤの言うご主人が用意してくれたアレってのはなんだ?
「じゃじゃーん! 驚きなさい? なんと、これを水に溶かすだけで美味しい出し汁の出来る、『顆粒出汁』ですわ!!」
ジャーン!!
おおおっ!? なんだとっ!? ルロイヤが得意気に高く掲げるのは手のひらサイズの小瓶。その中には極小さな茶色い粒がぎっしりと詰められている。
「はぁ? ウソだろルロイヤ? つくならもっとマシなウソをつけよ、そんな粒々を水に溶かすだけであの美味い出し汁ができるなんて信じられねぇぜ?」
「あら。そう思うのなら一つ試してご覧なさいなウノ? こうして少量の顆粒を器に入れて、水を注いでかき混ぜてっと。はいどうぞ?」
出汁をとるのは結構手間がかかる。それを俺達はご主人の『無限円環』内で教えられた。その手間がかかる出し汁が、そんな粒々を水に溶かすだけで作れるなんて信じられない。俺達はそんな思いでルロイヤの作業を見ていた。
渡された顆粒を溶かした水が入った器を持ち、「飲んでみなさいな」と言うルロイヤを見ては、翼とウノと俺で顔を見合せ、頷いた後に一口。
「!? マジに昆布の出し汁じゃん!」
「こいつはすげぇ! これがあれば料理がぐんと楽になるぜ!」
「素晴らしい! 流石はご主人だ……早く食べたい時に便利だな」
舌に伝わるしっかりとした昆布の旨味に俺達三人は揃い驚いた。
「ですわよね! アリサ様は「早く食べたいとか、ちょっと面倒だなって思うとき、これがあるのとないのじゃ違う」と、そう仰ってましたのよ? 今の私達にピッタリですわ!」
「ああ、こいつがあれば直ぐにでも美味い『お好み焼き』が作れるぜ!」
嬉しそうに語るルロイヤに翼を始め、俺達は揃い破顔して喜び合う。よし! ご主人に感謝をしつつ、『お好み焼き』の調理に取りかかろう。
「ご主人の愛が詰まった千切りキャベツ~♪」
「小麦粉ふるって出し汁入れて~♪」
「粉気がなくなるまでまぜて~まぜて~♪」
「……お前ら、なんなんだその歌は?」
『お好み焼き』の作り方はそう難しくはない。文字通り、好きに具材をまぜて焼けばいいだけだ。ご主人の話ではその作り方は多種多様であると言うが、俺達は以下のような手順で作る。
一、器に千切りキャベツを入れる。これは既にご主人が用意してくれた物をそのまま入れるだけでいい。
二、その器に小麦粉をふるい入れる。ケーキを作る時もそうだが、そのまま小麦粉を入れると、ダマが溶けきれずに残る事があるからな。ふるいにかけておくほうがまざりやすい。
三、出し汁を投入。しっかり粉気がなくなるまでまぜる。
四、卵を入れ、軽くまぜる。好みにもよるが、やや白身を残すくらいにまぜる方が美味いと思う
「はは、いいじゃねぇの~ご主人も「料理は楽しんでやるもんだ」って言ってたじゃん?」
そこまでの工程を消化する際に、ウノ、翼、ルロイヤは奇妙な歌を歌いつつ進めているので、俺が思わずつっこむとウノがそう返してきた。ふむ、確かにご主人も時折鼻歌を歌いながら料理をしていたのは確かだが。なるほど……楽しむか、そうだな。
「ドゥエは卵どんくらいまぜんの? 俺っちはあえてまぜずに目玉焼き風にすっかなって思うんだけどよ?」
「ああ、そこは俺が自分でやる。好みが別れる大事な部分だしな……よし、フライパンの準備ができたから好きに焼いてくれ」
基本一~三までの工程は俺達の誰がやっても同じなので、俺の分をそこまでを翼に任せておき、俺は人数分の火を起こし、フライパンを準備、油もひいていつでも焼けるようにしておいた。さて、次の工程からいよいよ焼き始めるぞ。
五、熱したフライパンに油をひき、生地を広げる。
六、生地の上に薄くスライスした豚肉を敷いて、軽く生地に押し付ける。
七、裏面が焼けたらひっくり返して蓋をし、五分ほど蒸し焼きにする。
「ひょーっ! 旨そうな匂い~♪」
「いい感じに豚も焼けてきたぜ~鰹節、青のり~マヨネーズに、ソースっと!」
「早速いただきましょう? 私、もう待ちきれませんわ!」
「ほお、翼の目玉焼き風も上手くできてるじゃないか? 普通にうまそうだ」
それぞれで自分好みの『お好み焼き』を焼き上げ、皆でこの穴倉から海を臨み食べる。初めての旅路で食べる『お好み焼き』はなんと美味いことか。うむ、今日のことは生涯忘れないだろう。
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【一方その頃】~『無限円環』にて~《ゆかりview》
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「や、やっと見付けたわ! もう~この王子何処ほっつき歩いてたのよ!?
……「いやぁさがしましたよ」って、こっちのセリフよまったく!」
プリプリと画面に向かって怒っているのはシェラザードだ。ああ、こんにちはみんな♪ 久し振り~ゆかりだぞ? 覚えてるよな?
ここはアリサ様が創造した小世界『無限円環』、一年間に渡る『ユーニサリア』の住人達を向かえて行った大規模な訓練も終わり、みんなは魔王を倒すために帰って行ったんだが、シェラザードは一応、この『無限円環』に幽閉されてるから、残っている。私はその付き添いだ。別にアリサ様達と一緒に『ユーニサリア』に行ってもいいんだけど、シェラザードを一人にするのも気が引けるんだよなぁ。ま、これを口に出すと、シェラザードは「気にしなくていいわよ」とか、強がり言い出すから言わないけどな。
「あーっ!? しかもレベル一のままじゃないの! 何よ、ずっと逃げ回ってったってわけカイン!?」
「……あの、僕じゃないですシェラザード様」
「わかってるわよ!」
そしてもう一人。『天馬』のカインもこの『無限円環』に残る事になったのだ。
「ゲーム画面に向かって文句言っても仕方ないだろう? あと、この仲間になった王子が「カイン」って名前だからって、カインにあたるなよ……」
「だってぇ~ゆかりったら、最近カインにばかり構って、私と一緒にゲームしてくれないじゃない」
おいおい、私のせいか? 女神ともあろう者が子供みたいに拗ねるな。
ああ、すまんすまん。どういうことかちょっと説明しよう。別にカインだけ、『ユーニサリア』のみんなから仲間外れにされてここに留まっているわけじゃないんだ。
……まぁ、その。なんだ……ちょっと言いづらいな、つまり~カインがだな、自ら望んで『無限円環』に残ったってことなんだ。
「いいことカイン?」
「はい、シェラザード様!」
「ゆかりと仲良くするのは別に構わないわ。でも、ちゃんと私とゲームもしてちょうだい!」
うわぁ……
「シェラザード、お前凄いな……よくもまぁそんな恥ずかしいこと言えたもんだ」
「ふーん! 私はもう何かと我慢した挙げ句に、あんな目にあうのは二度とごめんなだけよ?」
カインが『人化の術』を覚えて間もない頃、人の姿に馴れないうちは、私が何かと面倒を見てやっていたんだけど、その期間が互いを知るきっかけにもなって、意気投合したし、カインの生真面目で優しいところとか色々惹かれて、私達は付き合う事になったんだ。
その事をアリサ様に伝えたら、驚いた顔をされたけど「おめでとう」と、祝福して下さり、盛大な宴まで催してくれたんだよ。あれは、少し気恥ずかしいものがあったが……それ以上に嬉しかったなぁ♪
「あはは♪ わかりました。シェラザード様はゆかりさんのお姉さんのような方ですからね。三人でゲーム観賞も楽しいですし、喜んで一緒にします」
「おいおいカイン~それじゃ私がシェラザードの妹か? 構ってちゃんな姉をもつと苦労するなぁ~?」
もーなによぉ!? って、今度は私達にプリプリ怒り出すシェラザードだ。やっぱりこいつを一人置いて『ユーニサリア』に行くわけにはいかないな、幽閉早く解けるといいのに。
「う~ん、向こうに行こうと思えばいつでも行けますけどね。アリサ様が『ユーニサリア』の『聖域』に繋がる『扉』を開いたままにしてくれていますし」
「時間の流れも今は『ユーニサリア』と同じだしな」
「……その『扉』はあなた達二人がいつでもこの『無限円環』と、『ユーニサリア』を行き来出来るようにって用意されたものですもの、私が使っちゃダメでしょ?」
はぁ、こいつはホント真面目な奴だな!? わざわざこんな風に『扉』を開け放ったままにしてるのは、「別に罰の幽閉なんて気にせず『ユーニサリア』に来ていいんだよ?」って言う、アリサ様と女神達のメッセージだろうに……
「そんなのわかってるわよ……でも、だからといって「わーいやったぁ!」ってひょいひょい、『ユーニサリア』に行ってみなさい? 表面には出さなくても、その裏方で他の神達からブーブー文句言われるティリアの姿が見えちゃうのよ?」
「いや、だからそれも含めて「気にするな」って言ってるんだと思うぞ? あのティリアだって、そんなの重々承知の上だろ?」
あーもーっ! めんどくさい奴だ! 気にしすぎだぞシェラザード!
「まあまあ、お二人ともその辺で。なんにせよ魔王が討たれるまでの話ですから。それに、万が一アリサ様達が危機に陥った時には有無を言わさず、僕達も『ユーニサリア』に救援に来てもらうから、との事ですし、今言い合いをしていても仕方ありませんよ?」
ぎゃいぎゃい! と、あーだこーだ言い合う私とシェラザードをカインが両手を広げて宥める。あの誰よりも一つ抜けた実力を持つアリサ様に限って「万が一」なんて起きるとも思えないけど、確かに魔王共が倒されればシェラザードの幽閉も終わりに近付くか。
「そ、そうね……今ここでケンカしてもなんにもならないわ。ごめんなさいゆかり、今は時を待ちましょう?」
「ああ、私もごめん。気を取り直して三人でゲームの続きをしよう」
カインの言葉に私とシェラザードはお互い冷静になって、熱くなってしまった事を謝罪する。そしてまたゲームの続きを始めるのだった。と言っても、私とカインはシェラザードの横で見て、「あっち行ったらどうだ?」とか、「もうちょっと強くした方がいいんじゃないか?」とか口を挟んだりするだけなんだけど、これもまた面白いからいいや。
カイン『あ、でも見てくださいシェラザード様(・о・) このカインは回復魔法が使えるみたいですよ?(^∇^)』
ゆかり「やったじゃないか!(ノ゜∀゜)ノ これで『やくそう』三昧からオサラバだぞ(゜∀゜ )」
シェラザード「魔法じゃなくて『じゅもん』よカイン?( ・`ω・´) でも、大分『つよさ』が私と違って低いわね……(´ヘ`;)」
カイン「そこはまだ加入したばかりで、レベルも低いですから(^_^;)」
ゆかり「シェラザードがしっかり守ってやらないといけないだろうな(。_。) 装備もしっかり面倒見てやろう?(・∀・)」
シェラザード「そうね(°▽°) ふふ、どっちのカインも世話が焼けるわねぇ~♪(*´艸`*)」
カイン「あはは(;゜∇゜) ご苦労お掛けします( ´ー`) 僕ちょっとお腹が空いたので軽く食事作りますけど、お二人はどうします?(´・ω・`)」
ゆかり「もちろん食べるぞ!(ノ≧▽≦)ノ 一緒に作ろうカイン、シェラザード♪(≧ω≦。)」
シェラザード「え~?(´・ω・`; ) やっと仲間が増えて面白いところなのに~(>_<") 今作の『じゅもん』長いのよ?( ̄0 ̄;)」
ゆかり「別に点けっ放しでもいいだろ?(´∀`;) 変に真面目なんだから( ̄▽ ̄;)」
カイン「でしたら、手早く簡単に作れる料理にしましょうか?(^ー^)」
シェラザード「お好み焼きがいいわ!ヽ(*´∀`)ノ 私豚玉~♪(*´▽`*)」
ゆかり「お~いいな!o(*⌒―⌒*)o 私はイカ天にしようかな?(´▽`)」
カイン「それなら僕は贅沢にミックスしちゃいます!ヽ(`ω´)ノ」
シェラザード「まあ、うふふ♪( *´艸`) ホント贅沢ねぇカインの欲張り~♪(≧▽≦)」
ゆかり「そう言えばお好み焼きは『偵察部隊』も好物だったな(´・∀・`) アイツ等、今頃どうしてるかな?(^ー^)」
翼「はーっくしょいっ!Σ(>o<") ええぃべらぼうめぇ!(`□´)」
ドゥエ「何だ翼?(;´д`) 風邪でもひいたか?(´・ω・`; )」
ルロイヤ「汚ないですわ!(`Д´) くしゃみするなら口をおさえなさいな!(`へ´*)ノ」
ウノ「わはは!(´▽`*) べらぼうめぇって何だよ?(^∇^) ヘルメットじゃあるまいし(°▽°)」
翼「いやぁ~悪い悪い!(´。・д人)゛ 誰か噂でもしてんのかな?( ̄0 ̄;)」




