108話 『白銀』と女神セルフィ
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【父と娘】~見捨てるわけには~《セルフィview》
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さて、どうしてこの男性は海に身を投げたのでしょう? 直後に助けあげ、心肺蘇生も無事に成功したので、もう命に別状はありません。しかし、このままでは彼が目を覚ました後に、また同じことを繰り返す恐れがあります。それでは助けた意味がありませんので、意識を失っている今の内に、一体何が彼を自殺に追いやったのかを……失礼とは思いますが、彼の記憶から読み取らせてもらうべく、私は一つの魔法を行使します。
「──お母さんが亡くなってから、もう随分経つねお父さん」
「ああ、そうだね……思えば苦労ばかりをかけてしまった。そして娘の君にも……私が至らぬばかりに……本当に済まない」
覗き見る最初の光景は……墓地ですか。どうやら奥さんが何らかの原因で亡くなってしまい、そのお墓参りに、娘さんと献花している様子ですね。
「やだなぁお父さんったら! 私は苦労してるなんて思わないよ? お父さんと一緒にあの小さな宿で働くの楽しいし!」
「ふふ、ありがとう。とてもいい子に育ってくれましたね」
「お母さんの教育のおかげかな♪」
あらまぁ~♪ なんていい娘さんでしょうか。優しく、お父さんを元気付けてあげる、とても親孝行なお嬢さんですねぇ。
お母さんのお墓の前でにこやかに微笑み合う親子。そんな少し心が温まる光景の後、次の記憶が流れてきました。
「た、大変だ! シーベルさん!」
ドンドンドンッ!!
まず聞こえるのは扉を激しく叩く音と、慌てふためく町人の叫び声でした。
「どうされました? 何かあったのですか?」
「大変なんだ! あんたの娘さんが! 早く入り口広場に来てくれ!!」
「なんですって!?」
町人に促され、街を駆けて大急ぎで入り口の広場に向かうこの男性……シーベルさん。ああ……もう嫌な予感しかしませんねぇ……続き、見なくちゃいけないでしょうか?
「……悲鳴を聞いて、大急ぎで駆け付けたんだが……」
「済まない……間に合わなかった」
……目を、覆いたくなってしまいます。
街の入り口の広場には多くの人だかり。そしてその視線の先に一組の冒険者パーティーと……
「ああぁ……うわあぁぁぁぁーっ!!!!」
魔物に襲われ、無惨な姿に成り果てたシーベルさんの娘さんの横たわる姿でした……
「シーベルさん! しっかり……しっかり、しろよ……ううぅ、畜生!」
「なんてこった……商隊全員……護衛は……」
シーベルさんの嘆きで、周囲の声が聞き取れませんが、どうやら娘さんは商人達と一緒にこの『リージャハル』に戻ってくる途中、魔物に襲われてしまったようですね……
「ふむぅ……なるほど。一見どこにでもあるような悲劇ですけれど……いたたまれませんね」
突然降りかかる不幸というのは、たとえどんな世界であれ、必ずと言っていいほど起こるものですが、当事者にはたまったもんじゃありませんね。しかし……なるほど、奥さんを喪って、男手一人で頑張って、大切に育ててきた最愛の娘さんまでも、こんなことになってしまえば……生きていく気力も失うというのも頷けますね。
「ふむ、なるほど。よぉくわかりました……本来ならこういうことしませんけど、既に関わってしまいましたからね……娘さんの代わりに私が貴方の生きる希望になりましょう」
女神である私が本来この世界に関わりを持つこと、人との関係を持つことはないのですが、ティリアお姉様も仰っていましたようにイレギュラー認定されていますしね。それに……このまま見捨てるなんてこと、とてもできそうにありませんから。
「さて、そうと決まればティリアお姉様にご連絡して許可を頂きませんと。それから、勿論……娘さんにも……」
そうして私はティリアお姉様に連絡と許可を頂いた後、シーベルさんの娘さんの魂に呼び掛けます。おそらくまだ亡くなられて間もないでしょうから、輪廻の輪には還っていないはずです。
「あーあー、オホン。聞こえますか? シーベルさんの娘さん? 私は通りすがりのとある女神なんですけどね」
《はい。女神様、一部始終見ていました。お父さんを助けてくれてありがとうございます!》
おやおや、それは話が早く済みそうで助かりますね。おそらくお父さんのことが心配でずっと側にいたのでしょう。私の呼び掛けに直ぐ様応えてくれました娘さんに感謝ですね。
「いえいえ、礼には及びません。しかし、このままですとシーベルさんは、また見投げしようとするでしょう。彼に生きる希望を与えなければいけません」
《はい。私もお父さんには生きていてほしいです》
「そこでどうでしょう? 私より偉い女神様は貴女が許可を出すなら、代わりとなっても良い。と仰ってくださったのですけれど?」
私のその提案に娘さんは少し思案しています。確かにちょっと突飛な話ですからね。突然そんなこと言われても困ってしまうのも無理のないことでしょう。
いくら女神といっても、過ぎてしまったこと、起きてしまった事象をなかったことになどできません。それは『神界』においても、『禁忌』とされているのです。どんなに辛かろうと、苦しかろうと、決してやり直す事などできない。人も世界も総てはそれらを乗り越えて成長していくからです。
《……貴女様が私の代わりにお父さんの娘として振る舞うってこと、ですよね? わかりました、お願いします。どうかお父さんを支えてあげて下さい!》
「……わかりました。貴女の決断に敬意を……貴女の死は覆せませんが、人々の記憶は書き替えられます。『シーベルさんの娘である私は、奇跡的に一命をとりとめ、今は元気に暮らしている』と、そのように。そして、貴女の今までの記憶も引き継がせて頂きますよ?」
主神であるティリアお姉様のお力添えも頂いて、事象改変という離れ業を行使します。父を案じる娘さんの思いに敬意をこめて。
《ありがとうございます。通りすがりの女神様……ふふ、私、神様ってもっと冷たいのだと思っていましたけど、お優しいんですね?》
「あらら? 神なんてちょっと力を持ってるってだけで、貴女達と大して変わらないんですよ?」
そうして私達は二人、ちょっとだけ可笑しそうに笑いあって……私は彼女の記憶を引き継ぎ。彼女は《お父さんのことよろしくお願いします》と言って、輪廻の輪に還っていきました。
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【リドグリフの居場所】~火山~《アイギスview》
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「……と言う経緯があったのですよ? ですから私は女神のセルフィであり、シーベルさんの娘のリデルでもあるんです」
ふぅ~と私がお出しした緑茶で一息をついて、セルフィ様はこれまでの経緯を私達に語って聞かせて下さった。やはりこの御方もお優しい方だ……シーベル殿に起きた悲劇は、この世界ではそう珍しい訳でもない。言ってしまえば「ありふれた悲劇」でもある。厳しい事を言うようだが、街から街へ移動する際には、入念な準備と、相応の覚悟が必要になる。セルフィ様がお話下さった不測の事態はどんな時も起こり得るのだから。
「アタシもダーリンの行商の護衛で色々とあちこちに行ったけど、魔物の襲撃を受けるなんてしょっちゅうだったわ」
「他人事とは思えないねぇ、あたしも『セリアベール』に向かう道中、魔物に襲われたよ? あの時このアイギスの坊やが助けに入ってくれなかったら危なかった」
ああ、ラグナースの付き合いで頻繁に街の外に出ているレイリーアはよく知ったものだ。ドガとファムとの出会いも、魔物の襲撃を撃退した時だったな。
「街道の整備ってな重要な課題だなぁ? ゼオンの奴、忙しくなるぜこりゃ」
「そうですね、『セリアルティ王国』の復興に、周辺の魔物の対策と、それだけでお仕事には困らなそうです」
このような悲劇が少しでも減るように、ゼオン達には頑張ってもらわないといけない。ゼルワとサーサが言うように、やるべき仕事は山積みだ。『氾濫』が解決したことでそれらの問題解決に向けて、着手出来るようになった事だし、今後は冒険者だけでなく、職人達、工事に取り掛かる人員達と、街の外へ出る者が増えていく。
「儂等冒険者もその護衛についたりせねばならんじゃろうしなぁ~まだまだ忙しいわい」
「しかしよ? 本格的にそういう事業を手掛ける前に、魔王共を抑えにゃならんのだろ?」
魔物が蔓延っている以上、冒険者の仕事がなくなると言う事はない。しかし、それ以上に問題なのが魔王の存在だ。ドガとギドの言に、私達は頷き合い、前世からの宿敵である『武神リドグリフ』打倒のための決意を改めて強く思う。
「ごめんなさい。本当は私達もみなさんの力になりたいんですけどね……」
「お気になさらずに、セルフィ様。貴女様とフィーナ様が重要な『龍脈の源泉』を守護して頂いているからこそ、私達は憂いなく戦いに専念できるのです」
「そうですよ。そのために私達はアリサ様とティリア様に鍛えて頂きましたからね!」
申し訳なさそうに私達に謝罪するセルフィ様に、どうか気にしないでほしいと私が伝えると、サーサもうんうん頷き、同意してくる。
確かに大元の原因である魔神を始めとした魔王達は、『神界』からの来訪者であるため、その収拾に女神様方が動かれている。しかし、私達とて黙ってやられるつもりは毛頭ないのだ。
「セルフィ様はこれまで通り、シーベルさんを支えてあげて」
「フォレアルーネ様にリン様、それとバルド達が『獣魔王ディードバウアー』を相手に、そして、レウィリリーネ様と、シドウ様、デュアード達が『技工神ロア』を相手にするために、それぞれで動いてますから」
「アルティレーネ様にアリサ様も動かれておいでじゃ。セルフィ様とフィーナ様は安心して『龍脈の源泉』をお守りくだされ」
レイリーアにゼルワとドガも、私達がそれぞれに魔王討伐に向けて動いているから、安心してほしい旨を伝え、セルフィ様に気を使わせないように配慮する。
「うふふ♪ 頼もしいですね。それでしたら私も安心してお任せしちゃいますね?
さて、それはそうと。みなさんは『武神リドグリフ』を相手するべく動かれてるのでしたね?」
私達の言葉にセルフィ様は両手を胸の前であわせてにこやかに笑顔をお見せ下さった。うむ、どうやらご安心下さったご様子。そうして、私達が『武神リドグリフ』と戦うべく、行動をしていることを確認されてくるので、私達はまず、『ジドランド』に奉られている『神斧ヴァンデルホン』を回収した後、本格的に魔王討伐に動くと言う予定をお話した。
「……そうですか。それではお伝えしておきましょう。『グレブヒュ火山』はご存知ですね?」
セルフィ様の仰られる『グレブヒュ火山』は『エルハダージャ』の南南東に位置する活火山だ。私達『白銀』もその昔にギルドの依頼で赴いた事がある。
「あの時は五合目くらいまでは登りましたね。口に氷を含んで熱さに耐えながら」
「ああ、あん時はしんどかったよなぁ~?」
サーサとゼルワも記憶に新しいようで、当時の状況を思い出しては「そうだったそうだった」と笑い合う。しかし、セルフィ様が仰るその『グレブヒュ火山』には確か、フィーナ様がおられるのではなかっただろうか?
「その火山の山頂に『リドグリフ』は復活するでしょう。フィーナお姉様が見張っていますから、直ぐに連絡が入るはずです。しっかり準備を整えて挑むのですよ?」
なんと!? 唯一復活する地点が不明だった魔王『リドグリフ』が甦る地を、セルフィ様はご存知だったのか! なんと有意義な情報だろうか。感謝致しますセルフィ様。
「はは、思わぬところで『ジドランド』の次の目的地が決まったな!」
「そう言うことなら、『ジドランド』の港から『エルハダージャ』の港町に定期船が出てた筈だぜ?」
「あたし達は邪魔にならないように、『ジドランド』の実家でのんびりするかねぇ? あんた、帰りに迎えに来ておくれよ?」
正直助かる。『ジドランド』で神器である『神斧ヴァンデルホン』を回収後は、何処に向かうべきか迷っていたからな、ゼルワ同様に私も喜んでしまう。さて、そうなると『神斧ヴァンデルホン』の回収後は『エルハダージャ』方面だな。ギドの言う定期船に乗って向かうとしよう。
「うむ。待っておれファムにギドよ! 面倒事を片付けて、『居酒屋ファム』を始めて余生をだらだら過ごそうぞ!」
はははっ! その時は是非ともシーベル殿にセルフィ様も客として、私達とご一緒して頂こうか♪
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【そう言えば】~お使い頼まれてた方達が~《サーサview》
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「うふふ♪ それでは難し~くておまじめなお話はこの辺にして、ですねぇ~そろそろお料理なんかをば教えてもらっちゃったりしちゃったりお願いできます~?」
「あはは! オッケーオッケー! 任せてセルフィ様。明日の朝に食べられるように、今から仕込んじゃいましょうか?」
さてさて、リデルさん改め、セルフィ様から『武神リドグリフ』の情報を頂いて、私達に明確な目的地が示されました。『ジドランド』の次は『エルハダージャ』の南南東に位置する活火山『グレブヒュ火山』です。頑張りましょう!
そうしてセルフィ様は「伝えるべき事は伝えた」と仰って、まじめな空気を霧散させる明るい声と笑顔で、私達に料理を教えて~? って来ましたよ。勿論かまいません。レイリーアもノリノリですし!
「あたしゃちょっと眠くなってきたねぇ……」
「儂もじゃ、明日に響くといかんでな。先に休ませてもらうぞい?」
「俺もだ、どうも最近は歳でなぁ~夜起きていらんねぇんだわ……くあぁ~むぅ」
あらやだ。ファムさんとドガ、ギドのドワーフ三人共揃ってあくびされてますね。まぁ、結構な量のお酒を呑んでいましたし仕方ないでしょう。
三人のドワーフはセルフィ様に、お部屋まで案内されて早々に床につき寝入ってしまったそうです。寝付きがいいのはちょっとうらやましいですね。
「ああ、そういや『偵察部隊』がセルフィ様と、フィーナ様にアリサ様の弁当届けに向かってんじゃなかったっけ?」
「翼殿達だな。ふむ、具体的にセルフィ様が何処におられるかは知らないだろうし、伝えておこうか?」
「そうね、「見つかんねぇ~!」とか喚き出されても困るし、シーベルさんとの関係もちゃんと説明しておいた方がいいわね」
ドガ達をお部屋に案内して、戻ってきたセルフィ様に、ゼルワが思い出したように、『鳳凰』の翼さん達『偵察部隊』がアリサ様から、『龍脈の源泉』を守護しているセルフィ様とフィーナ様宛にお弁当をお届けすると言うお使いを頼まれていたことを話し出しました。当然彼等もセルフィ様がこの『リージャハル』で宿屋の娘として暮らしていることなんて知らないでしょうし、ましてやシーベルさんとの込み入った関係についても知りません。混乱を避けるためにもアイギスとレイリーアの提案は良いと思いますね。
「あらぁ~♪ もぅアリサお姉様ったらちょっとしかお会いしていないのに、そんなお気遣いをして下さるなんて、嬉しいですねぇ♪ 折角ですし、その翼さん達もこのお宿に泊まって下さいませんかね?」
彼等にアリサお姉様のお話もお聞きしたいですし! って、嬉しそうになさるセルフィ様。うふふ、『龍脈の源泉』を守護して下さっているお二人に対し、しっかりと礼を尽くすアリサ様の心意気には私も感心してしまいます。
「ふふ、ではそのように伝えておきましょう」
アイギスもそんなセルフィ様を微笑ましく思ったのでしょう。快く引き受け、通信の魔装具になっているバングルを起動させました。
「翼殿、聞こえますか? こちらアイギスです」
『おー? アイギスか、聞こえてるぜ~どったよ? なんかあったか?』
『おいおい、ホットケーキ焼いてる途中だぜぇ? 話に夢中になって焦がすんじゃねぇぞ翼?』
アイギスのバングルから翼さんとウノさんの声が聞こえてきます。一緒にシュゥーと言うなにかを焼くような音も聞こえますから、向こうはこれから夕食なんでしょうか?
「ああ、申し訳ない。夕食の準備中でしたか? なんでしたら時間をおいてまた改めますが……」
『いんや、大丈夫だぜ~? ルロイヤ手空いてんだろ~ちょっと頼むわ』
『はいはいですわ~アイギスさん達は今どちらにいらっしゃるのです?』
どうやらホットケーキを焼いていて、その焼き具合を翼さんが見張っているみたいですね。そして今ルロイヤさんと交代したところでしょうか? アイギスはルロイヤさんの質問に、私達が今いる『リージャハル』の場所を伝えています。
『ほう、なんだ? この海のすぐ先の街にいるのか? 俺達は『ハンフィリンクス』って港町だ』
『そうそう、『ゲキテウス』って国も空から見てきたぜ? でっけぇ国だなありゃ。んで、そっから南下して、今に至るのよ』
なんだ、結構近くにいるんですね? ドゥエさんが言う『ハンフィリンクス』の街はこの『リージャハル』の向かい側。『ゲキテウス』と『セリアベール』を繋ぐ港町です。翼さん達は『聖域』から西に向かい、『ゲキテウス』を経由してセルフィ様のいる海底火山に飛ぶ予定なんでしょう。
『あーゼルワとサーサに頼まれた手紙も渡して来たぞ? マジに攻撃して来やがったからちーっと力の差ってのを見せ付けてやったわ』
ぶっ!? ちょっとウノさん!? 私とゼルワの故郷にも立ち寄ったんですか? 随分と速い……ああ、空を飛べば速いですよね? それにしても、やっぱり余所者には手厳しいようですね、里の連中は。
「はは、悪い悪い! 怪我しなかったか?」
『当然。でもよぉ~エルフってなあんな攻撃的だったか? 俺っち達、一応お前達の里の前で人化して友好的に近づいたんだぜ?』
『お前達からの手紙を届けに来たっつっても聞かねぇで、矢を射ってくるわ、魔法ぶっぱなしてくるわ、剣で斬りかかってくるわで散々だったぜ~ゼルワ、サーサ! お前ら後でなんか俺達に奢れよ?』
それは……なんとも……いえ、もう~本当にごめんなさいですよ。友好的に近付いた翼さん達に問答無用で攻撃を仕掛けるなんて、どんだけ野蛮人ですか!? まったく……まさかそこまで酷かったなんて、私達が里を出てからより悪化しているように思えますね……後でゼルワと相談してウノさんの言うように何かしらお詫びしなきゃ。
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【セルフィ様と】~『偵察部隊』~《ゼルワview》
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「局所の『亜人』には、よくみられる光景ですけどねぇ~? 小さな集落に寿命の長い種族が集まると、大抵排他的になります。ましてやこの世界では過去に酷い亜人差別がありましたからね?」
『いんや? それもあんだろうけど、一番の原因は、ゼルワっち! お前が『魔導船』とか言うもんかっぱらったからみてぇだったぞこの野郎!?』
ぬわぁっ!? ここに来て俺の悪行が翼達に迷惑かけちまったあぁーっ!! あー、しまったぜぇ~長老の爺は気にせず持っていけとかいってくれたけど、他の里の連中は許さなかったみてぇだなぁ。
「いや、そりゃあとんだ迷惑かけちまった! マジに済まねぇ! ホント、今度奢るから勘弁してくれよ、なっ?」
『仕方ありませんわねぇ~でも……貴方達、何方と一緒されておりますの? 先程の声、サーサさんでもレイリーアさんでもありませんでしたわよ?』
俺は自分の行いが翼達に迷惑かけちまったその事実に、ひたすら謝罪する……なんか端から見りゃ俺がアイギスに向かって頭下げてるようにも見えちまうな……いや、そんなことぁどうでもいいっての! アイギスのバングルからは翼やウノの『しょうがねぇなぁ~』ってため息と一緒に、ルロイヤのさっきの声の主は誰だと聞いてくる。
「ふふ、何を隠そう。その声の主は翼殿達がお探しのセルフィ様だ」
「はーい♪ うふふ、初めまして鳳凰さんとグリフォンさん達!」
『『『マジかよおぉぉーっ!!?』』』
『これは驚きましたわ! 一体どうしてセルフィ様が『リージャハル』で貴方達と一緒に行動してますの?』
アイギスがズバリ声の正体を明かすと、セルフィ様もノリノリで挨拶を返している。その事に驚愕する『偵察部隊』の声が大音量で聞こえてきたぜ!
事の経緯をアイギスが語って聞かせ、翼達も納得したようで、次第に落ち着きを取り戻していった。
『ちょっとアイギスさん、音声だけでは味気ないですわ! 映像も出しましょう? アリサ様とティリア様の妹様のご尊顔を拝謁させて下さいませ!』
やや興奮気味のルロイヤの願いに、アイギスはセルフィ様に目配りして、「よろしいですか?」と問う。セルフィ様は二つ返事で「構いませんよ~♪」と明るく答えた。まぁ、顔を知ってた方が弁当届けるのも楽だろうからな。
「はいはーい! 初めまして、セルフィですよ~いつもティリアお姉様がお世話になっております! よろしくお願いしますねみなさん」
『セルフィ様のご尊顔を拝謁する機会を賜りまして、このドゥエ。恐悦至極にございます!』
『ご機嫌麗しゅうございますセルフィ様。わたくし、グリフォンロードのルロイヤと申します。どうぞお見知り置き下さいませ』
ブゥゥン……
アイギスがバングルの機能を切り替えると、アリサ様がよく使う映像通信と同じように、四角い板が中空に現れ、翼達の様子を映し出した。相変わらずすげぇ技術だぜ。
映像の翼達はセルフィ様に対して、四人共にひざまづいては各々に挨拶を交わし始めた。
「はい、こちらこそ~♪ って、あらぁ~そちらは野宿ですか? 『ハンフィリンクス』にも宿屋さんは沢山あるでしょうに、わざわざどうして?」
『ウッス。お初ですセルフィ様。俺っちは『朱雀』の弟の『鳳凰』……翼っていいます。なんで俺っち達がわざわざ野宿してるかってーとですねぇ……』
『……飯がクソ不味なんですわ。あ、俺はウノです。ハイグリフォンです』
いや、性格出るなぁ~ドゥエとルロイヤは慇懃な挨拶すんのに、翼とウノはめっちゃフランクじゃねぇか? まぁ、セルフィ様が気にしてねぇみてぇだからいいんだろうけどよ。
しかし、俺もてっきり『ハンフィリンクス』の宿にでも泊まってんのかと思いきや、コイツ等街の外のキャンプ地でテント張ってんじゃねぇか? その事をセルフィ様も疑問に思って聞いてるけど、飯が不味いからかよ?
「別に宿で作って食べればいいじゃない?」
「私達も宿の厨房を借りて『海鮮鍋』を頂きましたよ?」
『そうしたいのはやまやまなのですけれど、宿泊客がとても多いのですわ!』
『そこでお前、ケーキとか作って食ってみろ? 大変なことになっちまうぜ?』
あーなるほどな? レイリーアとサーサが俺達みたいに宿の厨房借りればって言うが……それはこのシーベルさんの宿屋が飯の提供をしない、小さな宿屋だからできる事だ、なんせ俺達で貸し切りにしてるしな。ルロイヤとウノの言葉から察するに、そっちは飯も出す宿屋で、それなりにでかいんだろう?
「アリサ様直伝のケーキだものな、宿泊客だけじゃなく、宿のスタッフからも質問攻めにあうのが目に見えるようだよ……」
『だろ? そうなっちまうと俺っち達『偵察部隊』から『ケーキ屋』になっちまう』
アイギスも合点が言ったとばかりにうんうん頷く。はは、翼達の作るケーキは美味いからな。
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【誠実な商い】~出発!~《レイリーアview》
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「ケーキケーキケーキ!! ちょっとみなさん? 私も~食べたいですよぉぉーっ!!」
翼達の作るケーキはアリサ様の直伝だ~って話を聞いたセルフィ様がわーわー! って叫び出したわ。そう言えばお話のなかでも「食べてみたい」って言ってたわね?
『おぉ? セルフィ様はケーキをお望みですか? 何を隠そう俺達はアリサ様が作るケーキの味に魅了された四人でしてね!』
『みっちりと厳しい教えを受けて参りましたの! 『リージャハル』に着きましたら私達もそのシーベルさんのお宿を利用させて頂きますので、お作りして献上いたしますわ!』
「ホントですか!? わーい♪ やったーっ!!」
あはは! よかったわねセルフィ様♪ ドゥエとルロイヤの返答に、両手を高く挙げて全身で喜びを顕にするセルフィ様。そんなお姿を見て、思わずクスクスって笑っちゃったわ。とっても微笑ましいんだもの。翼達の作るケーキの数々はアリサ様も認めるほど美味しいから、セルフィ様も食べたら驚くでしょうね?
『それじゃ情報サンキューなアイギス! 明日には俺達も『リージャハル』に向かうぜ!』
「いえいえ、こちらこそ。うちのゼルワがとんだ迷惑をかけてしまい、申し訳ない」
「いや、ホントに済まん!」
残念なのはそのケーキを食べて驚くセルフィ様を見れないことかしら? アタシ達は明日の定期船で『ジドランド』に向かうからね。翼達とは入れ違いになっちゃうわ。
翼とアイギスは互いに礼を言い合って、ああ、ついでにゼルワもペコペコ頭を下げて、通信が終了。ゼルワが「いやぁ~参ったぜ。悪いことしちまったなぁ」とか、頭をかいて苦笑いしてるけど。ちゃんと彼等にセルフィ様の情報は伝えられたし、いいんじゃないかしら?
「よし、有意義な情報を得られたな。皆、明日は定期船に乗って『ジドランド』への船旅になるからな、しっかり休んでくれ!」
はーい! 船に乗るのも久し振りだわ。海が荒れてなきゃいいけど……あんまり揺れると酔っちゃうのよねぇ~酔い止めのお薬あったかしら?
「あいやお待ちなさいみなさん! ちゃーんと私にお料理の基本のうんちゃらを教えて下さいよぅ~? 明日の朝食に美味しいご飯作ってお父さんに食べてもらうんですからね!」
あ。
あはは~いやぁすっかり忘れてたわ。「しっかり休め」と言ったアイギスも、他のみんなもアタシ含めて、鳩が豆鉄砲食らったような呆け顔をさらして、セルフィ様を見た。
「もーっ! その顔は忘れてましたって顔ですねぇ~? いけませんよ! ちゃんと約束は守っていただかないと!?」
めっ!!
はーい、ごめんなさい。えへへ、叱られちゃったわ♪ うふふ、なんだかアリサ様に注意されるユニちゃんになった気分ね。
それからみんなで、セルフィ様を交えて簡単な料理をちょっとづつ作っては、あーだこーだと言い合いながら、なんだかんだと楽しい夜を過ごしたわ!
……そうして、一夜が明けて。
「──『白銀』の皆様。大変お世話になりました、美味しい夕食にお酒、更に朝食まで頂いてしまって……これではどちらが客なのかわかりませんね?」
「うふふ~♪ お料理も色々教えてもらっちゃった事ですし、お代は頂けませんね~? 寧ろ私達がお出ししたいくらいですよ~?」
セルフィ様がメインに作った朝食を、またみんなで一緒に食べて、『ジドランド』行きの定期船の時間がくるまでしばし談笑したあと。いよいよチェックアウトすることになったわ。
シーベルさんは料理をご馳走した私達に、何度も何度も感謝してくれて、セルフィ様……ううん。今はリデルさんって呼ばなきゃね? リデルさんは、なんと宿泊費を無料にしてくれるって言うじゃない!
「そう言うわけには参りません。こう言った事はキッチリしなくてはいけないのですよ?」
「金銭の支払いについてはアイギスの言う通りキッチリさせて頂きますよ」
でも、そこんとこ育ちの良いアイギスとサーサは、しっかりしてるのよね。遠慮しがちなシーベルさんに、宿泊費、厨房の利用費、お酒代も合わせて支払ったわ。
「はい、確かに代金を頂きました。ではここから、はい。アイギス様、お受け取り下さいませ。私達親子が皆様から頂いたお食事代と授業料でございます」
「シーベル殿……」
「おっと、遠慮はなしですよ~? 私達は商いで生計を立てている身です。みなさん以上にお金には誠実じゃなきゃいけないんですからね♪」
まぁ! うふふ、なかなか粋なことしてくれるわねシーベルさん! アイギスからしっかり代金を受け取った後。その半分を、食事代と、料理の授業料って体で支払うなんて。アイギスもこれには「ならば受け取らないのは失礼にあたりますね」と、言って、しっかりその代金を受け取ったわ。
「それでは、私共の宿をご利用頂き、有り難う御座いました」
「またいらして下さいね♪ 私お料理のお勉強頑張りますから!」
にこやかに微笑む親子に見送られ、私達はこの素敵な宿を後にしたわ。パーティーのみんなで絶対にまた来ようって約束してね♪ ふふ、その時はこんな急ぎ足じゃなくて、もっとのんびりしたいわね!
アイギス「いい宿だったな(^ー^) セルフィ様には驚いたが(^_^;)」
ドガ「うむ( ´ー`) シーベル殿が出してくれた酒も、『聖域』の物には及ばぬものの、良いものばかりじゃった(´・∀・`)」
ファム「ベッドもふかふかで寝心地よかったさね( *´艸`)」
ギド「久々にぐっすり寝れたぜヽ( ゜∀゜)ノ これなら、たまにこうして旅に出るのも悪くねぇなぁ~(*´ー`*)」
レイリーア「台所貸してくれたり、当日客なのに貸し切りにしてくれたり……(´・∀・`) サービスも素敵だったわ(*´▽`*)」
サーサ「ふふふ(*´艸`*) 繁盛してほしいような、このまま隠れた名店でいてほしいような……(・´ω`・) 複雑な気持ちがありますけどねo(*⌒―⌒*)o」
ゼルワ「あ~みんなしてそう言ってくれると、俺も探した甲斐があるってもんだが……(´・ω・`; ) あぁ~翼達にどうやって詫びっかなぁ!?(>o<")」
アイギス「翼殿達はそんなに気にしてないと思うぞ(-ω- ?)」
レイリーア「どうせ「そんなこともあったなぁ~」程度になるわよ(*≧∀≦)」
ファム「あはは♪(*`▽´*) そうやって、「しっかりお詫びする」って言う気持ちは大事さね!(o・ω・o)」
ギド「そいつ等の好物でも差し入れしてヾ(・д・`;) 一言「迷惑かけて済まん(‐人‐)」って頭下げりゃいいだろうぜ( ・-・)」
ドガ「あ奴等の好物となると甘い菓子かのぅ?( ̄~ ̄;)」
サーサ「でも、お菓子作りなら翼さん達の方が遥かに上手ですよね(´・ω`・)?」
ゼルワ「そうなんだよなぁ(´ε`;)ゞ いっそ昨夜の『海鮮鍋』でも振る舞うか?(´∀`*)」
ファム「いいんじゃないかい?( ´ー`) ありゃ本当美味しかったよ(*⌒∇⌒*)」
レイリーア「そうね!( ・∇・) 彼等お魚も好きだったし、そうしましょう♪(*゜∀゜)」
アイギス「それならまた新鮮な海産物を買って回ろうか?(゜ー゜*)」
ドガ「これから行く『ジドランド』でも海産物は豊富じゃぞい?(^∇^)」
ギド「各地の海産食べ比べってか?(ノ・∀・)ノ そいつはいいな!(´▽`*)」
ゼルワ「おお!ヽ(´∀`)ノ 済まねぇなみんな、協力に感謝するぜヽ(*´∀`)ノ♪」




