107話 『白銀』達と宿屋の娘
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【わかる~!】~儂等もそうじゃった~《ドガview》
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「さぁ皆! お待たせしたな? 準備が出来たから早速食べよう!」
おっほぅ~♪ 待っとっだぞい! わはは、さっきからアイギスが作っとるスープの匂いに腹がぐうぐう言うて敵わんかったんじゃ! しかも鍋! 儂の好物の海鮮鍋じゃ、心踊るのぅ! この『リージャハル』に着いて直ぐに入った飯屋で食うた魚料理はそりゃ酷いもんじゃったからな。
アイギスの呼び掛けに軽いつまみで爽矢様からいただいた清酒をちびちびと楽しんでおった儂と、ギド。そして、この宿を経営する親子、シーベル殿とその娘さんのリデル嬢ちゃんが座る大きなテーブル……これはシーベル殿がわざわざ用意してくれたもんじゃ。そこに、熱々の湯気をのぼらせる鍋を持ったアイギス達が調理を終えてやってきおったのじゃ。
「こちらの小鉢にお玉でよそって食べて下さいね。お箸はお使いになられますか?」
「わぁー! とっても美味しそうですよお父さん♪ これが『鍋』なんですねぇ?」
「有り難う御座いますサーサ様。スプーンとフォークをお願い致します。しかし、箸とはまた珍しい……どうやってその二本の棒を使われるのでしょうか?」
ほっほっ、サーサがシーベル殿とリデル嬢ちゃんの前に小鉢を置いて、スプーンにフォークと一緒に箸も用意しおったが、やはり存じてはおらんようで、珍しがっておるな。
「俺にはスプーンとフォークをくれ、サーサ」
「あたしもそれで。箸は慣れないと使うのが難しいからねぇ? あいよ、たーんとお食べリデルちゃん」
「ありがとうございますファムおばさま♪」
隣に座るギドとファム。ギドはサーサからスプーンとフォークを受け取り、ファムはリデル嬢ちゃんに早速鍋からよそって食べるようすすめておるわ。
「おっしゃっ! 皆行き渡ったな? んじゃ食おうぜ! いただきます!」
いただきます!
「え? えぇと、い……いただきます」
「いただきまーす!」
アイギス、サーサ、ゼルワ、レイリーアも席につき、それを見計らったゼルワの一声に儂等は揃い、「いただきます」をして食事を開始じゃ。シーベル殿はその「いただきます」の掛け声に、やや戸惑いつつも真似をしておる。リデル嬢ちゃんもニコニコ笑顔で「いただきます」したぞ。
儂はまず、よそられた小鉢からそのスープを一口……ほぉ~こりゃ美味いわい。やりおるなアイギス! 流石に毎日のようにアリサ様の小間使いをしとるだけあって、味の再現度もかなりのもんじゃ。どれ、続いて魚介類じゃ、ホタテの貝柱、ホッケの切り身……むおぉぉっ! こりゃ美味い! いかん、酒じゃ酒! この美味を美味な清酒で更に美味とせねば!
「うめぇぇ~♪ こりゃたまんねぇなオイ!?」
「ああ、昼のアレとは雲泥の差だ……お教え下さったアリサ様には感謝しかないな」
ほうっ……と、ゼルワとアイギスが頬張った食材を飲み込み、大きくため息をついた後、『海鮮鍋』の出来栄えを喜ぶ。
「ホントよねぇ~このスープの作り方覚えただけでも大きいわ」
「ええ、なんせ色々な食材に合わせられるスープですものね。ちょっと配合変えたりすればまた違った味も楽しめますし」
「いや、マジで料理ってな奥が深ぇよなぁ……アリサ様もあっちじゃ別に料理人って訳じゃなくて、一般人だったって話だぜ?」
うむ。今まで儂等は飯の味付けなぞ、塩しか知らなんだ。毎日食う飯じゃというのにのぅ……それが、アリサ様の教えで料理とは如何に深く、そして有り難いことであるのかを知ったのじゃ。この『海鮮鍋』のスープにしても、レイリーアとサーサが今言うたように、調味料の分量を変えたり、付け足したりすれば、また違った味となってきおる。それは様々な料理に応用が効くということでもあるわけじゃな、ほんに大きいことじゃ。
儂等が知らずにおったその料理の奥深さ。しかしして、それを教えて下さったアリサ様とて、転生する前は一般人であったのじゃ。ゼルワが感心しとるように、アリサ様の前世での世界の料理人とは一体どれほどのモノなんじゃろうなぁ?
「これは……凄い! なんて美味しいんだ!? いや、美味しいなんてレベルじゃない……」
「うん~♪ 凄いです! 私達が今まで食べてきたのってなんだったんでしょうねぇ~?」
そして同じく小鉢によそられた具材を口にした、シーベル殿とリデル嬢ちゃんが揃い驚愕しておる。むほほ♪ きっと儂等もアリサ様から美味い料理を食わせてもろう度に、こーんな顔をしとったんじゃろうなぁ? そう考えるとなにやら可笑しゅうて、自然と声をあげて笑うてしまうわい。
「でもでも! これは大変ですよ!? たーいへーん! ですよぉ~?」
「ど、どうしたんだいリデル? こんなに美味しい食事、めったに食べられないよ?」
おぉ? どうしたんじゃリデル嬢ちゃんや? わははと、皆で笑いあいながらシーベル殿達親子のやり取りを見とったのじゃが、リデル嬢ちゃんが、ガタッ! と、音を立てて席から立ち上がり、シーベル殿に大変だと訴えおるではないか? シーベル殿も困惑しとるんじゃが?
「お父さん! ですから、それが大変なんですよぉ? こんなに美味しいご飯を知っちゃったら~もう今までのご飯なんて食べられないですよね!?」
あー、それなぁ~!
なるほどなるほど、そりゃごもっともじゃわい! リデル嬢ちゃんの訴えに、儂等は皆、「わかる~!」と頷きあったのじゃった。
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【宴もたけなわ】~美味い飯と酒~《ギドview》
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「それなら一つ、レシピでもお渡ししましょう。私達にこの料理をお教え下さったアリサ様も、美味しい食事を広めたいと仰っていましたし」
「だな、あんま時期取れねぇけど、基本的な事は教えられるぜ?」
「そうね! 後はシーベルさんとリデルちゃんで試行錯誤して、オリジナル料理とか作ればいいんじゃないかしら?」
まったく、気のいい奴等だぜ。これだけ美味い飯のレシピを「はいどうぞ」ってな感じで、簡単に他人に教えようだなんてな? わかってんのかサーサ、ゼルワ、レイリーア? こいつはそれ一つで一攫千金の代物なんだぜ?
「いいんですか? 確かに、このお料理を作れるようになれば閑古鳥の鳴く我が家も大繁盛しちゃいますけど~?」
「聞けば最近は『セリアベールの街』で、美味な食事にありつける。と、噂になっておりますが……それも皆様の言う『アリサ様』というお方が広められたのでしょうか?」
気前のいい『白銀』達の提案にリデル嬢ちゃんと、シーベルの旦那が本当に教えてもらってもいいのか? 『セリアベール』じゃこんな美味い飯が食えるのか? って、それぞれに確認してくる。そりゃあ、今までの飯がろくなもんじゃなかっただけあって、この『海鮮鍋』は革命的って言っても過言じゃねぇからな。軽く「教えますよ」って言われても、「本当にいいの?」ってなるのは当然だ。
それで『セリアベール』で、ここまで美味い飯にありつけるかって、シーベルの旦那の問いだが、答えはノーだぜ? そりゃ最近はマシにはなってきたとは思うがな、簡単に作れるもんばっかだ。
「そうさね、あたしのとこはアリサちゃんが直接教えてくれたお陰で繁盛してるんだけど、他はそこまでじゃあないねぇ、精々がこの芋を油で茹でたもんや、コーチョを使った串焼きとかだね?」
「しかし、先日アリサ様が料理人を派遣したからな。今後はシーベル殿が聞いた噂も真実となるだろう」
ああ、そうだぜ。俺も手伝いにファムの店に駆り出されたからな……ありゃすげぇもんだった。例えるならそうだな……俺の鍛冶屋は『氾濫』の発生時期になると、武器だの防具を整備しておきたい冒険者共の注文が殺到して、てんてこまいの忙しさになってたんだが……それが毎日のように続く感じだったぜ?
「俺もファムさんの店の行列見た時は焦ったぜ?」
「うむ、あのままではファムも休めんし、ギドも鍛冶どころではなくなってしまうからのぅ」
「ああ~鍛冶じゃなくて、ファムの手伝いで体壊しちまいそうだった」
本業そっちのけで、連日ファムの店の手伝いにかかりきりになっちまうほど、アリサ嬢ちゃんの教えた飯は大人気だってこったな。「このままじゃいかん」って思ってディンベルの奴に相談を持ち掛けようとしてた時、アリサ嬢ちゃんがゼオン達連れてやって来たのは幸いだったぜ。アイギスの言った、見かねて『聖域』から料理人を数名派遣してくれるってなったのがそん時だな。
そのまた数日後にアイギス達が戻って来て、『ジドランド』に行くから一緒にどうだ? って話を持ちかけられたんだ。それが今ゼルワとドガが話した事だな。さっきも言ったが、あのままじゃ俺もファムもぶっ倒れちまいそうだったし、ここ数年、祖国に帰ってもいなかったしで、丁度いいタイミングだったと思うわけだ。
「はぇ~そりゃまた凄いんですねぇ~? うちでこのお料理を作ってお客様にお出ししたら、同じ目にあっちゃいそうです」
「そうさねぇ、儲かるのはいいんだけど、休めないのは困るよ? リデルちゃん達も料理覚えて、お客に出すなら気を付けなよ?」
「そうですね。折角教えて頂けるのであれば、まずは私達で納得の行くお料理を作れるようにならなくてはいけません。お客様にお出しするのはその後となるでしょうね」
ああ、それがいいぜシーベルの旦那。俺達の話を聞いて驚いてるリデル嬢ちゃんとシーベルの旦那に、ファムが注意を促すが……いやはや、まったくその通りって思うぜ。経験者は語るとはよく言ったもんだ。
「……ふぅ~、しかしこれは……いえ、このお酒もまた素晴らしいものですね?」
「ほぉ、流石じゃな。わかりおるかシーベル殿?」
「ふむ、イケる口かい、旦那? ささっ、もう一献だ。遠慮せずやってくれ」
くいっと小さなお猪口に注がれた酒を口に含み、じっくり味わうように転がした後、胃に流す。中々わかってるシーベルの旦那の呑みっぷりに俺とドガは気を良くして旦那に酌をする。
「これはこれは、ととと。有り難う御座います。うん、やはり香りも素晴らしい。この鼻に抜ける清涼感。舌に残るほどよい辛さ。スッキリとしたのどごし……どれをとっても素晴らしい!」
「まぁた~お父さんったら、通ぶっちゃってぇもう! んぅ~♪ でもでも、本当に美味しいですねこのお酒!」
いいねぇいいねぇ~♪ やっぱり旦那、わかってるな! リデル嬢ちゃん、あんたの父ちゃんは通ぶってるわけじゃねぇみたいだぞ? って、リデル嬢ちゃんも結構酒に強いようじゃねぇか?
「リデルは少し遠慮しなさいね? しかし、これでは私がご提供できるどんなお酒も、総て見劣りしてしまいますね?」
「あぁ、そうだドガ、ギド。酒買うなら自分の懐から金払えよ~?」
わかってるぜゼルワ? だからそんな酒も飯も不味くなるような事言うんじゃねぇよ! そんな余計な事抜かすゼルワに、俺とドガで文句言ってやった後、シーベルの旦那にどんな酒が揃ってるのか聞いては酒談義に盛り上がった。
飯は美味い。酒も美味い。気のいい仲間達との会話も楽しく、その総てが合わさって実にいい時間が過ごせたぜ。
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【食事の後に】~リデル殿の正体~《アイギスview》
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すやすや……と、寝息を立てるシーベル殿。どうやら鍋を囲んだ楽しい一時にすっかり酔って、そのまま寝てしまったようだ。
「ふはは、シーベル殿が潰れてしもうたわい」
「呑ませすぎですよドガ、ギド」
「まぁ、シーベル殿も楽しんでいただけたようだし、いいだろう?」
「でもこのままじゃ風邪をひいちゃうわね。リデルさん。シーベルさんをお部屋に運ぶから案内してくれないかしら?」
やれやれだ。ほろ酔いのドガが顔を赤くして楽しそうに、酔いつぶれたシーベル殿を見て笑っているのをサーサが注意している。しかし、今の酔っぱらいのドガに言っても、明日にはもう忘れてることだろう。まぁ、シーベル殿は終始楽しく呑めていたようだったし、リデル殿も「気にしないで」と言っているので大丈夫だろう。
「ああっと、はいはーい。ご案内します。お父さんを運んで下さるのは助かりますよぉ」
「ドガとギド……は、あ~駄目だな。俺達も皆酒入ったからな、アイギス頼めるか?」
「構わないぞ。ではリデル殿、シーベル殿の部屋まで案内、お願いします」
「すみませんアイギスさん。こちらになります」
シーベル殿を運ぶ。と、言い出しっぺのレイリーアも、大して酔いが回ってはいないように見えるが、それなりに呑んでいたし。私以外の皆も酒を呑んでいるからな。ゼルワに頼まれた私が運ぶのが一番だろう、シーベル殿を背負いリデル殿の案内で、彼を部屋のベッドに寝かせる。
「ふふ、お休みなさいお父さん。また明日ですよ♪」
「お休みなさいシーベル殿。良い夢を」
私とリデル殿の二人でシーベル殿にそう挨拶をし、リデル殿が部屋を照らす『光石』を使った照明を消して退出。さて、戻ろうか。鍋の片付けもしなくてはいけないし、それに、リデル殿から詳しい事情を聞くいい機会だ。
「……さて。それではお話を伺いましょうリデル殿」
台所に戻ると皆が既に食器を洗い、片付けもほぼ済んでいた。その状態を見たリデル殿が嬉しそうに微笑み、「あらら、なんだかお客様にそこまでして頂いちゃって、申し訳ないですねぇ♪」と私に向かって言って来た。丁度いいので、私はそのまま改まってリデル殿に話が聞きたい旨を伝えた。リデル殿はそんな私に、少し困った顔を見せる。
「リデルさん、いいえ。リデル様と、お呼びした方がいいのでしょうか?」
「シーベルさんの娘……じゃあないわよね? 女神様達の関係者だと思うのだけど?」
サーサとレイリーアが正に核心をつく。以前までの私達だったなら、まず気付きはしなかっただろうが、アリサ様の『無限円環』での訓練を経た今では、リデル殿から微かに漏れる『神気』を見逃しはしない。
そして、それを抑えに抑え、この港町の小さな宿屋の娘に扮しているのには、きっと理由があるはずなのだ。リデル殿はふふっと微笑んだ後、わかりましたと、私達にその事情を話して下さるようだ。
「お見事です。お察しの通り、私はティリアお姉様の義理の妹、『セルフィーヌ・リデル』と言います。れっきとした女神ですよぉ~♪ うふふ、でもでも、気軽に『セルフィ』ってお呼び下さいね♪」
「ティリア様の妹君であらせられましたか。セルフィ様、そうと気付けず、数々の無礼をお許しください。貴女様のお話はアリサ様を始め、女神様方から伺っておりました」
これは驚いた。漏れる『神気』と、メイド服からてっきり女神様の使いではないかと思っていたが……まさか噂に聞いていたティリア様の義姉妹の女神、セルフィ様だったとは。
私達は揃い、彼女の前に膝をつき、頭を垂れ、今までの馴れ馴れしい態度を詫びた。セルフィ様は気にしないだろうが、礼を忘れては騎士を名乗れないからな。
「うふふのふ♪ 勿論許しちゃいますよ! と言うかお父さんの前でそーいうことされると逆に困っちゃうので、普通のメイドのフリをしてるんですからね?」
うむ。やはりそのあたり込み入った事情がおありのご様子。最初に様子を見るか、という私達の判断は正しかったようだな。
「確かティリア様の話だと、セルフィ様は海底火山の『龍脈の源泉』を守護するために呼ばれたんですよね? それがどうしてこの『リージャハル』で宿屋の娘やってるんです?」
「もしよろしければ儂等に事情を話して下さいませんかのう?」
うむ、ゼルワが言った『龍脈の源泉』については、ティリア様とアリサ様から、お聞きした内容だ。その時にこのセルフィ様と、もう一人のティリア様の義姉妹であらせられる、フィーナ様という女神様の事も教えて頂いた。
しかし、その女神様が何故この街の宿の娘として振る舞っているのか? ドガも言うように事情があるならば聞きたいと思う。
「もー! 少しは「どえぇーっ!?」とか言って驚いて下さいよぅ! みなさんちょっと冷静過ぎません? まぁいいですけど~」
おっと、怒られてしまった。どうも私達が大して驚いた様子を見せなかった事がご不満のようだ。うーむ、セルフィ様はなんだかフォレアルーネ様のように、イタズラをしてはその相手の反応を楽しむタイプの女神様のような気がする。
「さて、『龍脈の源泉』を守護している筈の私がこの街でどうして宿屋の娘をしているのかですね? いいですよぉ~お話しましょう。聞いてきたからには最後までお付き合いしてもらいますからねぇ~?」
にゅふふ♪ と、含み笑いをしてセルフィ様は語り出す。
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【メイドの回想録】~お姉様にお呼ばれ~《セルフィview》
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「──これからは積極的にこの世界の安寧に努めるわ! 今回はその第一歩よ!」
この『ユーニサリア』は多くの神が干渉したことにより、『神界』でイレギュラーとして認識され始めました。その収拾をつけるべく、主神であるティリアお姉様自らが動き始めたのです。
「お任せくださいティリアお姉様。早速エルハダージャ南南東の火山を守護します」
「あやや、フィーナお姉様は東にお向かいですかぁ~じゃあ私はゲキテウスの南西にある海底火山ですねぇ~ちゃちゃっと行ってきまーす♪」
手始めに、近々復活を果たすであろう、魔王達の手から『龍脈の源泉』を守るべく、その守護の任を務める者として、私とティリアお姉様のもう一人の義姉妹である、フィーナお姉様が選ばれました。私達姉妹は古くからの付き合いで、互い互いが勝手知ったる仲ですからね、協力するにしても何かと都合が良いのですよ。
「「アリサお姉様、ティリアお姉様それでは~!」」
シュンッ!
本当は折角来た『ユーニサリア』ですから、アルティレーネさん達にも挨拶をして、アリサお姉様とも色々おしゃべりしたかったのですけどね。『龍脈の源泉』は世界の大動脈とも言える大事なポイントなので、お仕事優先です。
「さて、ここですねぇ~? それじゃあ、ちょいちょいっと結界張っちゃいますか」
転移で件の海底火山上空に移動した私は、目標を確認し、早速結界を張る準備にかかります。
「場所が海中だけあって、ちょーっと面倒ですねぇ……先ずは自身を守護する結界を張って、潜って火山をまるごと覆う結界を~」
山と言うのは、いわば天然のお城。要塞と言ってもいいかもしれません。『龍脈』が流れる場所に山脈が多いのは、それだけ大地の力が強いからなのですね。ほら、高く聳え立つ山ってとても力強く感じるでしょう? そんなこと思いつつ、はいはーい! ちゃっちゃのちゃ~♪ 上手に結界張れました~ぱちぱちぱち!
「はぁ」
「セルフィお姉様~ため息なんてついてどうされたんですか?」
「ありゃりゃ、見られちゃいましたねぇ~フィーナお姉様、通信送るならおっしゃって下さいよぉ~?」
一仕事終えて、ちょいとため息。そんなタイミングでフィーナお姉様から通信が入りました。むふふ♪ なんとこの通信方法なんですけどね? 聞いて驚いて下さいよぉ? ティリアお姉様がアリサお姉様から『映像通信』なる方法を聞いて、それを再現したものなんですよぉ~? 凄いですよね!?
「ふふ、ごめんなさい。こちらは保護結界を張り終えましたけど、セルフィお姉様の方は如何ですか?」
「あやや。お早いですねフィーナお姉様、こっちはなんせ海底なもんでちょーっと面倒なんですよ~」
「なるほど、それでため息を」
流石はフィーナお姉様ですね。東の火山の『龍脈の源泉』を早くも結界で守護されましたか。まぁ、私の方も今しがた終わったとこなんですけど、ため息ついた理由は別にありましてね?
「いえいえ~もう終わりましたし。私がため息ついたのはですねぇ~私もアリサお姉様の作られたケーキを食べたかったからなんですぅ~」
「あはは。成る程、そうでしたか」
そう。私達が呼ばれた時、ティリアお姉様達はアリサお姉様の作られたケーキを食べてる最中だったんですよ!? ずるーい! 私達も食べたいです!
「ティリアお姉様のお話ですと、アリサお姉様のお料理はそれはそれは美味しいとのことですよ!」
「ああ、特に玉子焼きが美味しくて、アルティレーネ達と奪い合いになったとかおっしゃってましたね」
この『ユーニサリア』にいらっしゃるティリアお姉様は、各世界に送り込んだ遍在存在のお一人で、本体……まぁ、どの存在も本体と言えるんですけど、便宜上そう呼びますね。……は、『神界』におわしまして、お仕事を頑張っているんです。
その遍在存在のティリアお姉様からよく聞かされるのが、アリサお姉様の作るお料理の美味しさについてなのです!
「そんなアリサお姉様の作られるケーキ!」
「食べたい、ですね!」
アリサ姉さんの料理は美味しい美味しいと、いつも自慢するティリアお姉様のおかげで、私もフィーナお姉様もずっと食べてみたいって思っていたのです! もー、それを考えるとため息の一つや二つは出ちゃうもんですよ!
「それはそうと、セルフィお姉様。今後どうされますか? 私のいるこの『グレブヒュ火山』は、マグマの熱気がすごくて駐在するにはむいてないです」
「あれま! それを言うならこっちは海の中ですよぉぉ? とてもじゃないけど駐在なんて無理ですね」
お互いに人が暮らすにはあまりにも向いていない環境。『龍脈の源泉』の守護については、結界を張ったため、ずっと付きっきりで見ていなくても大丈夫でしょうと判断し、近くの街や村に居を構えましょうか。と、あいなりました。
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【お宿を探して】~倉庫裏~《セルフィview》
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私の守護する海底火山から最も近い位置にあるのが、この『リージャハル』でした。この港町を拠点に、定期的に『龍脈の源泉』をパトロールすることにしようと決め、一般人の振りをして暮らすことにしたのです。
「と、すれば……寝泊まりできるお家を探さないといけませんねぇ、どうしましょうか?」
『リージャハル』の上空に転移で移動した私は、街の様子を俯瞰で見つめ考えます。見る感じ、背や腰に各々武器を持った者が多く見受けられるのは冒険者と呼ばれる者達のようですね。後は、その冒険者達と談笑されているのは、商人や貴族、旅行者でしょうか? ここまでの道中、または、これからの道中の護衛に雇った、雇う予定でも決めてるんでしょうかね?
「冒険者になって、この街を拠点に違和感なく過ごす……それも悪くありませんが、私は女神であり、メイドさんなのですよ?」
冒険者生活。と、言うのも悪くないかなぁ~なんて思いましたけれど、やはりそこはメイドとしての自分にはちょっと違うなぁ~って感じて、見送ります。どうせなら、メイドさんとして働きたいですし。
そうなりますと、宿屋さんでしょうか? できればあまり繁盛していない小さな宿屋さんがいいですね。ちょいとおサボり、あっ! いえいえ! 違いますよ? この街で生活するのはあくまでカモフラージュ。私のメインのお仕事は『龍脈の源泉』を守護することですからね! そう言うわけで、あまり忙しいお宿はダメなんです。
「いい感じの宿屋さんはありませんかねぇ~? ちょーっとおしゃんてぃで、客質のいいこぢんまりとしたお宿~?」
キョロキョロ。
あっちを見てはそっちを見、こっちを見ては向こうを見てよさげなお宿を探します。うんうん、港町と言うだけあって沢山の宿屋さんがありますねぇ~大きなホテルみたいなのから、普通の民家みたいなのまで、ピンキリです。
「あら? あの男性……なんだかとても暗い顔されてますね? ちょっと大きなお屋敷から出てきたところを見るに、執事さんでしょうか?」
そうして私のお眼鏡に叶いそうな宿屋さんを探していると、ふと、視界に入ってきた一人の中年男性。街の少しだけ小高い丘に建つ気持ち大きめのお屋敷から出てきた、身なりのいい方です。あのお屋敷で働いている執事さんでしょうか? しかし、気になるのはその表情です。なんと言いましょうか……まるでこの世の終わりのような、人生に絶望したような、酷く暗いお顔をされています。
「……これって、もしかして、もしかしちゃいます?」
どうにもいや~な予感がビンビンです。目で追って見ればどんどんと人気のない方へと歩いて行くではありませんか? そうして行き着いた先は港の倉庫の裏側。人気は全くなく、彼の眼前に広がるのは海原。
「…………」
その男性が何か呟いたように見えましたが、流石にこの上空では聞き取れません。しかし、その次の瞬間、彼は足を一歩踏み出して、海へと落ちて行くではありませんか!?
「うわぁーっ!? やっぱりですかぁ! ちょーっと待って! なんで私がきたタイミングでこんなことしでかすんですか!?」
ちょっ!? 冗談じゃないですよ! なんなんですか一体!? とにかく助けませんと!
シュンッ! フワァ~……
まさかの入水自殺の現場を目撃してしまった私は急いでその港の倉庫裏に転移して、沈んでいく中年男性を魔法で保護し、浮上させました。
「やれやれですよぉ、まだ生きてますね?」
魔法で男性の心肺蘇生を施して、しっかり呼吸されていることを確認して、ほっと一息です。危ない危ない。意識は戻っていませんが、この分ならじきに目を覚ますでしょう。ですけど、折角助けたのに、また死のうとされても困ります。なにやら事情があるみたいですけど、いちいち起きるのを待つのも面倒です。
「なーのーで。ちょいと貴方の記憶を覗かせてもらいますねぇ? 悪く思わないよーに!」
本当は勝手に他人の記憶を覗き見る~なんてことしちゃいけないんですけどね? 私もそんなに暇じゃないんです、さっさと今日のお宿を決めませんと日が暮れてしまいますし。故にこれは緊急の措置ってことで!
ゼルワ「いや、うんめぇ~なぁ(ノ≧∀≦)ノ」
サーサ「たまりませんねぇ(*´∇`*)」
レイリーア「うふふ( *´艸`) ほらほら、シーベルさんもリデルさんもじゃんじゃん食べて(°▽°)」
シーベル「はい♪ヽ(´▽`)ノ もう、遠慮せずに沢山頂きます!(´▽`)」
リデル「あっ!Σ( ゜Д゜) お父さん! それ私が食べようと思った鰤じゃないですか!?(≧□≦)」
ファム「まぁまぁ( ̄▽ ̄;) リデルちゃんまだ鰤はあるから、取り敢えずこの海老をお食べ(^ー^)」
ドガ「うむ!(。・`з・) このホタテもおすすめじゃ!(ノ゜∀゜)ノ ほい、リデル嬢ちゃん食うてみぃ?(*´▽`*)」
ギド「俺からは蟹をお裾分けだ(。-∀-)♪ コイツの美味さもたまらんぜ?(≧ω≦。)」
リデル「あらぁ~♪ヾ(o゜ω゜o)ノ゛ こんなに沢山! うふふ、どれもこれも美味しい~!σ(*´∀`*) あ、お父さん。お酒ちょうだいщ(゜▽゜щ)」
シーベル「はいはい(´・ω・`; ) まったく、おこづかいから引いておきますからね?(,,・д・)」
リデル「そんなぁ~!?Σ( ̄ロ ̄lll) そこは「お父さんの奢りですよ」って言って、私に「お父さん大好き~♪(*^▽^*)」って、言わせるチャンスですよぉ~?( ゜Д゜)」
アイギス「酒ではありませんがライスは如何です、リデル殿?( ´ー`) これもまた美味しいですよ( ´∀`)」
ゼルワ「ちょい待てアイギスヾ(・д・`;) ライスは締めの雑炊にすんだからあんまバクバク食うなよ?(;´Д`)」
レイリーア「大丈夫よ~(*゜∀゜) アイギスってばライス好きだから沢山炊いてるもの(*≧ω≦)」
ドガ「ほっほっ♪(*´▽`) 余ればおにぎりにして、この先の道中で食えばよいしな!( ≧∀≦)ノ」
ファム「そのための海苔とか鮭も買ってあるんだよ?(*⌒∇⌒*)」
ギド「そいつは安心だな!(´・∀・`) ああそうだ、以前食わせてもらった梅干し(´・ω・`)? とか言うあの酸っぱいやつ( ̄* ̄) が入ったのもまた食いてえなぁ?( ´ー`)」
ゼルワ「マジかよギド……(^_^;) 俺はあのストロングな酸味にゃ白旗挙げるぜ?(>_<)」
アイギス「あれはあれで美味いが(;´д`) 中々希少でな……ゼルワも言ったようにどうしてもその酸味のせいで人気がないらしく……(;´∀`)」
サーサ「青龍の爽矢様の所で作っているんですけどね(・・;)」
レイリーア「好んで食べてるのって、アリサ様と『聖域』の一部の人達くらいなのよね(*`▽´*)」
シーベル「ほほう(*^.^*) それほど希少ですと、ちょっと食べてみたい気もしますね(^_^)」
リデル「私は酸っぱいのより甘いのが欲しいですよぉ~♪( ☆∀☆)」
アイギス(……梅酒と言う存在もあるそうだが、梅が希少だからな……( ̄▽ ̄;) 黙っておくとしよう( ´ー`))
 




