106話 『白銀』と港町
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【生臭い料理】~忘れてた~《アイギスview》
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「だーかーらー! 『リージャハル』の飯は生臭ぇのばっかだっつったろ!? アリサ様の……『聖域』での飯に馴れすぎて忘れてやがったなお前ら!?」
ぐっふぅ……気持ち悪い……この不快感、以前のポーションを飲んだ時以来か? 口いっぱいに広がるこの生臭さときたら……いかん、気を抜くと戻してしまいそうだ。
「ぐおぉぉ……こりゃ酒で洗い流さんと気を失いそうじゃわい! 安酒買っといてよかったのぅ」
「俺達は今までよく平気でこの飯が食えてたもんだ……ドガ、俺にもくれ」
「アリサちゃんの料理の味にすっかり舌が肥えちまったねぇ~残さず食べきった自分を褒めてやりたいくらいさね」
ドガが地に伏せ、ギドが側にあったベンチに座り込み、ファムがしゃがみこみ口元を押さえる。三人共に顔色が悪い……そう言う私もきっと同じような顔色になっているだろうが……
ここは『セリアベール』から西南西に位置する港町『リージャハル』。私達『白銀』は、ドガの奥方であるファムと、朋友のギドと一緒に、彼等の祖国『ジドランド』へ向かうべく、定期船に乗るため立ち寄った。
到着したのがつい先程。昼時と言うこともあって、小腹の空いていた私達は軽食を取ろうと、近場の食事処に入った。そう……入ってしまったのだ。冒頭にゼルワが叱るように私達は皆、この世界の食事情をすっかり失念していた。
港町だけあって、この『リージャハル』では海産物を口にするのが日常的であり、私達が入った食事処でも、魚料理が多くメニューに並んでいた。と、言っても焼くか茹でるかしかないんだが……
「こ、今回ばかりはドガに賛成~アタシにもちょうだい、ありがと!」
「うぅ、ゼルワの注意をちゃんと聞いておけばよかった……」
「私は渋い緑茶で口直しを……しかし、酷い物だったな……うぐぅ……」
こんな昼間から酒だなどと……本来ならば叱るところだが、いやはや、今回ばかりは仕方がない。誰がこのドワーフ三人と、レイリーアを責める事ができようか?
出された料理はどれも下地処理が甘く、いや……もしかしたらまったくされていないのだろう。魚の鱗も、内蔵もそのままで調理するものだから、とにかく生臭い。焼いた物ならまだいいが、茹でただけの物はそれは酷い物だった。
私とサーサは荷物から水筒を取り出し、渋めの緑茶で口内を洗い流した。因みにゼルワは、「知らねぇぞ?」と言って、お茶しか頼まずにいたのだが、それが正解だったと思い知った。
「ぶふぅ~、やれやれ。儂、しばらく外食は無理そうじゃ……これならアリサ様に教わった簡単漢飯を自分で作って食った方が断然良いな?」
「うぅむ、酒が足りん……ちっとやそっとじゃこの舌に残る不快感は拭えんのか?」
件の食事処を出て街道に設置されているベンチで少しばかりの休憩。ドガとギドはちゃっかりと荷物に入れていた酒をあおり一息をつく。が、こんな姿をアリサ様がご覧になったらきっと文句が飛んでくるだろう。「もう! 真っ昼間からお酒なんて飲んで!」とかな。
「アタシも~正直、気持ち悪いわぁ……今日はここで宿借りて休みましょうよ?」
「賛成だね、ただでさえとんでもない速さでこの『リージャハル』に着いたんだ、一泊してもいいだろう?」
レイリーアとファムもまだ顔色が悪い、私も正直気分が優れないし、二人の意見には賛成だ。元よりこの『リージャハル』で一泊する予定ではあったので、旅程に滞りはないしな。
「仕方ねぇ、俺が宿探してくるからみんなは休んでろよ?」
「すみませんゼルワ。頼みます」
「ああ、済まないが食事は出さない宿を探してくれるか?」
ゼルワがぐったりしている私達を見かねて、はぁ~っとため息をついた後、宿を探してくれると申し出てくれた。サーサは緑茶をちびちびと飲みつつ、そんな彼に感謝している。私としても有り難いので厚意に甘えるついでに一つ注文をしておいた。
「はは、わかってらぁ。自分達で作った方がよっぽどうまいもんな」
「後は酒じゃ酒!」「頼んだぞゼルワ!」
そう、あんな食事を出されても食べる気になれないからな。それなら宿泊だけで十分。食事は私達自身で作った方がいい。ゼルワもそこは承知の上のようで、「任せろ」と言ってくれた。うむ、なんと心強い……が、ドガ、ギド。お前達は本当にそればかりだな? 『聖域』と違い、それほど美味いわけではないんだろう?
「まぁのぅ。しかし、酒造りが趣味の儂としては外せんのじゃ!」
「俺もドガの酒造りには付き合っててな。それに、俺達ドワーフに酒を飲むなと言う方が無理な注文ってもんだろ?」
「へーへー。わかってんぜ~ま、大抵の宿に酒はつきものだし、大丈夫だろうぜ? んじゃ、行ってくるからここで待ってろよ~?」
ゼルワはやや呆れた顔を見せて、私達に背を向けると手をヒラヒラさせて、街中に歩いて行った。
私は酒を嗜まないので、味の違いについては詳しくはないが、他の皆が言うにはやはり『聖域』の『四神』や『懐刀』殿の造る酒は断然美味らしい。特にドガとギドのドワーフ二人は趣味が酒造りと言うことも相まって最近は意欲的だ。各地を訪れ、その地その地の酒を飲んで研究したいらしい。
「ぐふふ、魔王を討伐したら本格的に取り掛かるぞい!」
「あっはっは! 頑張っておくれよアンタ? あたしもアリサちゃんから沢山の料理を教えてもらって、いずれ『居酒屋ファム』を開店さね♪」
「素敵ねファムさん! アタシのダーリンにも協力してもらえば全然夢じゃないわ!」
ふふ、『居酒屋ファム』か。ファムが作る料理を肴に、ドガが造る酒、ラグナースが仕入れた酒を皆で楽しく頂く……悪くないな。私も飲んでみたくなってしまいそうだ。実際に今もファムは似たような事をしているし、レイリーアの言うように、商人であるラグナースの協力があれば不可能ではない。
魔王討伐の暁には、私もアリサ様をお誘いして一緒に楽しく酒を覚えていけたらいいな。
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【港町リージャハル】~小さいお宿~《ゼルワview》
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『リージャハル』の街は『セリアベール』ほどじゃないにしろ、それなりに大きな街だ。
結構しっかりとした石造りの壁に囲まれ、魔物からの守りも固く、『冒険者ギルド』の職員による警備隊なんてのも存在してるから治安も悪くない。
街の入り口広場から西に入っていき四角形を描くように各建物が区画されて、俯瞰すればラッパのような形になる。北側に住宅街、南側に旅行者や、冒険者を客層とする店が立ち、そのまま歩くと港が見えてくるっていう、如何にも訪れる者に対し、購買意欲を高めさせる作りになってるな。
「さて、いい感じのお宿は何処だろなっと……」
俺は生臭さ全開のメシを食ってダウンしたみんなのために一人、その商業区域とも呼べる場所まで足を運び、一泊できる宿を探して回っていた。やはり港町っていうだけはあり、中々の人の多さってとこだな。ひっきりなしに様々な種族の者とすれ違うし、建ち並ぶ色々な店にもその姿を認められる。
(……差別なんざ、今じゃしてる方が珍しいだろ? 黒フードの連中はその辺わかってんのか?)
そんな様々な種族達が互いに笑い合いながら楽しそうに街を闊歩してるのを見て、俺は黒フード一味の動向を思う。そもそも魔物が蔓延ってるこの世界でそんな差別なんて下らねぇ事してる余裕なんざねぇだろう? そういう奴等は結局、他を頼ることが出来ずに勝手に消えていくか、俺の生まれ故郷みてぇに閉鎖的で排他的になり、細々とした生を送ることになるっての。
「ま、変に長生きな分、怨み辛みも消えにくいんだろうがな……」
『人間』のように百年も生きられねぇ種族なら、代が変わるにつれ過去の遺恨なんてのも薄れていくもんだが、『亜人』は大抵の種族が、『人間』の五倍は生きるからな……中には五百年生きてようやく大人って種族もいるしな。
「さぁて、んじゃテキトーに飯食って『ハンフィリンクス』行きの船に乗るぜみんな!?」
「「おーよ」」「世話になった店主」
「いえいえ、ご利用有り難う御座いました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
ん? あの四人組は冒険者か? 身なりだの微かな訛りから判断するに、『ゲキテウス王国』の冒険者達と思われる四人組が、二階建ての、ちょっとした金持ちなら貴族とかじゃなくても住めそうな家から出てきた。『ハンフィリンクス』と言っていたので間違いはないだろう。『ハンフィリンクス』は『ゲキテウス王国』の方の港町だ、この『リージャハル』から北西に位置しており、船で一日程航海した先にある。
「ジャデークとネハグラ達も確か『ゲキテウス王国』の出身ったけ? まぁ、それはいいとして……」
あの二組の家族は、人手のない『セリアベール』の冒険者ギルドの話を聞いて、わざわざ祖国の『ゲキテウス王国』を離れてやって来たってんだから、相当人がいいよなぁ~でも、今気になるのはそこじゃねぇ、さっきの四人組の一人が、これから飯を食うって言ってた事だぜ。
「済まねぇ、アンタちょっといいか?」
「はい? 私でしょうか?」
気になったので、あの四人組から「店主」って呼ばれた、初老の『人間』の男に直接聞いて見ることにする。
「俺は冒険者で『白銀』ってパーティー組んでるゼルワって者だが、今宿を探しててな。アンタさっきの四人組に「世話になった」とか言われてただろ? もしかしてこの家、宿屋なのか?」
「おお、これはこれは。『セリアベール』の英雄殿でしたか。知らず失礼を致しました。お噂は聞き及んでおります、お察しの通り、小さいながら宿を提供させて頂いておりますよ?」
ビンゴ! やっぱ宿だったぜ。というか、俺達の噂ってこの『リージャハル』にも届いてんだな?
「申し遅れましたゼルワ様。私はこの宿を経営しておりますシーベルと申します。以後お見知り置き下さいませ。『白銀』の皆様は五名様と伺っておりますが、当宿をご利用になられますか? 今なら部屋にも空きが御座いますが?」
「あー、連れが二人いてな、七人なんだわ。それでも大丈夫ならここに決めてぇんだが?」
シーベルって名乗るこの初老の『人間』だが、もしかしてどっかの貴族の屋敷で執事でもしてたんかな? 言葉使いは勿論だが、所作が洗練されてるように見えるぜ。
「はい。当宿では十名様まででしたらご利用になれます。先程のお客様がチェックアウトされましたので、今ですと貸し切りも可能でございます」
「おっしゃ! んじゃ、それで頼むぜ。んで、飯についてなんだが……」
「有り難う御座います。ただ、申し訳御座いませんが食事の提供はしておりませんが、それでも構いませんか?」
オッケーオッケー! 寧ろなくていいんだ。しかも丁度空き部屋が出来て貸し切りに出来るってなら、話もしやすいってもんだ。こいつは願ったり叶ったりだな。
「構わねぇぜ。あ~そうだ、追加で料金払うからよ、よかったら調理場貸してくれるか?」
「おや? 『リージャハル』には所々に飲食店が御座いますが……ご自身達でお料理をなさるのですか?」
そうと決まれば、早速台所を貸して貰えるように交渉だ。店主の許可も取らねぇで庭先で勝手に料理をするわけにはいかねぇからな。
「はは、そこは冒険者の嗜みってやつもあるんだが、パーティーの中に料理に凝ってる奴がいてな。あ、後は酒を出してくれると有り難いんだが?」
「畏まりました。それでは台所の使用料を含めた料金がこれほどで、お酒に関しましては別料金となります。お酒の種類に関しましては……」
おうおう♪ いいねぇ~これならドガもギドも満足すんだろうぜ。
俺はシーベルと細かい話をして、パーティーのみんなが満足できそうだと判断。契約しておいた。さて、宿を見付けた事を知らせるために、みんなのとこに戻るとするか!
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【ご一緒しませんか?】~海鮮鍋ですよ♪~《サーサview》
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「あらぁ~♪ 中々にいい宿じゃないの! 部屋は綺麗だし、港の様子も見えるし!」
「うむ、これだけでいい宿だとわかるぞい」
街の入り口広場で小休止していた私達ですが、そこに宿を探しに行っていたゼルワが戻って来ました。小ぢんまりとした小さな宿で、今なら私達の貸し切りに出来るそうなのです。しかも、お台所も追加料金を支払う事で貸してくれるし、お酒も提供してくれるとのこと♪
早速私達はゼルワに案内されて、その宿へと足を向けました。ふふふ、その途中に食材の購入も忘れずに。
「お褒め頂き光栄です。なにぶん小さい宿で部屋数も少く恐縮ですが」
そうして到着したシーベルさんのお宿ですが、これがまた綺麗な宿で嬉しくなってしまいます。ちょっとだけ小高い位置に建てられた二階建てで、私達宿泊客が寝泊まりするのは二階の海に面した部屋。窓からは賑やかな街の喧騒が楽しめるし、港と海が臨める素敵な景観。真下には丁寧にお手入れされた庭があって、なんだかちょっと良いところのお嬢様になった気分が味わえますね♪
レイリーアもドガもこの綺麗なお屋敷のような宿に満足そうに感想を漏らすと、店主のシーベルさんがお礼を言って、部屋数が少ない事を申し訳なさそうに謝ってきました。全然気にしなくていいんですけどね。
「……シーベル殿以外にスタッフが見当たらないが、もしやお一人で経営されているのか?」
「いえいえ、私と娘の二人で御座いますアイギス様。お恥ずかしながら、私も娘のリデルも料理は不得手でして……それ故にご提供出来なく、重ね重ねお詫び致します」
あら、娘さんとお二人だけで経営されているんですか? それでしたら管理だけでも大変でしょうし、あまり大きな宿にできないのも納得ですね……お二人だけ、シーベルさんにどこか翳りが見えるのはつまりはそういうことなのでしょう。安易に踏み込まないよう注意しなくてはいけませんね。
「そろそろ買い出しから戻る頃だと思いますので、その時はまた改めてご挨拶させて下さいませ。それでは次に調理場へご案内させて頂きますね? 皆様どうぞこちらへ」
「待ってました! へへ、折角だしよ、シーベルさん達の分も作らせてくれよな?」
「そうさね~どうせならみんなで一緒に食べられるような料理がいいんじゃないかい?」
お部屋の次は台所に案内してくれるそうです。ふふ、ゼルワもファムさんも嬉しそうですね♪ 勿論私も、みんなも顔を綻ばせます……「やっと美味いメシが食える」とか思わず口にしちゃうのはギドさんですが、私達全員が同じ思いを抱いてるでしょうね。
「みんなで食べられる美味しい料理なら、アリサ様の『無限円環』で食べたアレがいいんじゃない?」
「レイリーア、「アレ」ではわからん。どれだけ沢山の種類の料理を食べたと思ってるんだ?」
「あらら? アイギスってば愛しのアリサ様のお言葉を忘れてしまったのですか?」
みんなで楽しく食べられる料理と聞いて、レイリーアがある一つのメニューを思い立ったようですね。勿論私も同じものを考えてると思いますよ? アイギスはわからないんですか? アリサ様が仰っていたでしょう?
「……「みんなで楽しく囲んで食べる」そうか! 鍋だな? 確かにアレはみんなでワイワイしながら食べるのが楽しかったし、美味しかったな!」
「ははは! ダメだぞアイギス~忘れてたなんてアリサ様が知ったら、「なによ、折角教えてあげたのに!」とか言われてフラれちまうぞ~♪」
そそそっ! そんなこと!? そんなことは、な……ない、ないはずだ! 皆、内緒にするように! とか、ゼルワの冗談にめちゃくちゃ動揺しまくりのアイギスにどっと笑いが巻き起こります。ふふ、大丈夫ですよ、アリサ様はそんなことで怒ったりしませんって。
「ワハハ! この『リージャハル』ならやはり海鮮鍋じゃろう! くぅーっ! 清酒を忍ばせておいて正解じゃったわい!」
「応! 昼が散々だったからな! 期待が高まるぜ。シーベルの旦那も娘さん連れて一緒に食おうや」
「え? え? な、鍋? お客様と一緒にだなんて……そんなお気遣い下さいませんでも……」
ドガったら、やっぱりと言うか、もう当然とばかりに荷物にお酒入れてるんですからまったく……シーベルさんもそんなに慌てずに。ギドの突然の誘いに戸惑う気持ちもわかりますけど、どうぞご一緒に♪
「遠慮すんじゃないよ? 娘さんに美味しい物食べさせてあげたいだろう?」
「そうよ~アタシもこんな素敵な宿を頑張って経営してるあなた達親子を応援したいわ!」
「別に「値下げしてくれ」なんて意味で言ってる訳じゃねぇからよ、「助け合い」を信条にする冒険者の心意気として受け止めてくれや」
ファムさん、レイリーア、ゼルワにも一緒に食べようって誘われてたじろぐシーベルさんですが、断る理由もないみたいで、申し訳なさそうにしながらも「娘と一緒にご相伴に預かります」と承諾してくれました。
そうして案内された厨房は思いの外広くて、私達……調理を担当する、私、レイリーア、アイギス、ファムさんの四人が入ってもスペースに空きがあるほどでした。
鍋に入れる新鮮な魚を捌いたり、お野菜を食べやすいサイズに切ったり、カツオと昆布からお出汁をとって味の要となるスープを作る等、それぞれに役割を決めて、賑やかに料理をする私達を見て、シーベルさんはしきりに感心した様子を見せてくれます。アリサ様の作られるお料理を見るまでは、私達もそうでしたけれど、「これほどの手間暇をかけて作るものなのか」と驚いているみたいですね。
「ただいまですよ~お父さん。あらら~その方々はどちら様なんです~?」
「おや、お帰りなさいリデル。こちらの方達はお客様ですよ? 厨房でご自分達で食事を用意したいと仰っいましたのでお貸ししているのです」
ふぁっ!!? え……この女性が娘さんなのですか!?
宿の一階、正面入り口の受付ロビーがこの厨房からも見えるのですが。そこに玄関の扉を開けて、一人のメイド服を着た女性が入って来たじゃありませんか。
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【シーベルさんの娘さん】~不思議ね~《レイリーアview》
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「あらら~うっふっふ♪ そりゃまた珍しいお客様ですねぇ、もしかしなくても冒険者の方ですよね? 美味しそうな匂いです~何をお料理されてるんでしょう?」
ポカーン……アタシ、ううん。アタシ達は全員、シーベルさんの娘さんっていう、リデルって子を目にした瞬間、手の動きがピタリと止まって呆気に取られてしまったの。ファムさんとギドはそんなアタシ達を不思議そうに見てくるけど……ごめん、ちょっと余裕ないわ!
「おやぁ? そんなイヤですよぉ~あまり見つめないで下さい。柄にもなくテレてしまうじゃないですかぁ?」
「あ、ああ……いや。これは失礼をしましたリデル殿」
「そ、そうね! 思わぬメイドさんの登場に面食らっちゃったわ。ごめんなさいね、リデルさん」
アタシ達が彼女のことを思わずじっと見てしまったのは、別にこのリデルって子がメイド服を着てるからじゃないわ。……いえ、まぁちょっとはそれにも驚いたけどさ。
なんだか彼女から微かにだけど『神気』を感じ取ってしまったからなのよ。普通の人が『神気』を帯びるなんてことはまずあり得ない話だわ……この子、本当にシーベルさんの娘さんなのかしら?
「ご紹介します皆様。こちら、私の不肖の娘。リデルで御座います。いつも人を食ったような物言いばかりして、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうぞ仲良くしてあげて下さいませ」
「あはは、可愛い娘さんじゃないか? リデルちゃんもあたし等と一緒に食べようじゃないのさ」
「うふふ。気を悪くされたのなら謝りますよぉ~? ドワーフのおばさま、是非ともご相伴に預からせてくださーい♪ もう、私この美味しそうな匂いだけでお腹が鳴っちゃいそうです!」
シーベルさんから紹介されたリデルさんは、アタシ達にペコリと頭を下げた後、ファムさんのお誘いに両手を合わせて笑顔を見せてきたわ。ご飯を一緒するのは全然構わないんだけど……う~ん。どうにも、このリデルさんの笑顔には何かありそうな予感がしてしょうがないわ。
「応! 任せときな、食材も多めに買ってきたし一人二人増えたって全然大丈夫だからよ!」
「そうですね♪ 私もリデルさんと色々お話してみたいですし、お父さんと一緒に食べて下さいね?」
あら? ゼルワとサーサは動じてないわ。まさか彼女の『神気』に気付いてない……なんてことはないと思うんだけど……そう疑問に感じてゼルワとサーサに顔を向けると、サーサがウインクを反してきたわ。なるほど、様子を見ましょうって事ね? そうして今度はアイギスと向き合ってお互いに頷き合う。了解って意味をこめて。
「ほほう~シーベル殿の所作を見てて思うたが、やはり執事、メイドを生業とする家系のようじゃな? 娘さんがメイド服を着ておるのもその名残かの?」
「これはこれは、流石は噂に名高い『白銀』のドガ様ですね。お察しの通り、私の家系は代々、各国の貴族王族にお仕えする事を生業にしており、幼少の頃より厳しい教えを受けて参りました」
ちょっとドガ、あんたもうお酒開けてギドと飲み始めてるの? おつまみにポテトチップまで用意して、まったく! あ、でも、アタシ達みたいにあんまり動揺しないで、自然な姿でいられるのは流石だわ。
「そんなあんたがなんで宿屋をやってるのか~ってのは、聞かねぇ方がいいんだろシーベルさん? ささ、あんたもとりあえず一杯だ。じっくり味わって飲んでみてくれ」
「お察し下さり感謝しますギド様。しかし、それはお酒なのですか? とても透き通った美しい水のようですが?」
あーもう、ギドがシーベルさんにお酒をすすめてる! しかも爽矢様のとこの清酒じゃないの? 飲みやすくて美味しいけど、結構酒精が強いから弱い人は直ぐに酔っちゃうのよ?
「あらぁ~♪ なんて気のいいお客様でしょう! ふふ、お父さん、残ったお仕事は私がちゃちゃーっと片付けちゃいますから、ゆっくりしてて下さい」
「ああ、有り難うリデル。お願いするよ」
う~ん、普通にお父さん思いのいい娘さんに見えるわね。リデルさんはシーベルさんに残ったお仕事を片付けて来ると言い、買い出しの荷物を持ってスタッフルームの方に向かって行ったわ。とにかく後で色々と話を聞いてみたいわね。まあとりあえず今は気を取り直してお鍋の準備を進めましょうか。
「シーベル殿は何か食べられない食材はありますか? 苦手だったり、食べてはいけないと決められていたりするものがあれば教えて頂けると助かるのですが?」
「お気遣い感謝しますアイギス様。私も娘も特にそういった物は御座いませんのでご安心下さい」
おっと、アイギスったら気が利くわね? ちゃんと食べる相手の事情なんかも気にかけるなんて、アタシは気にも止めてなかったわ。うむむ……やっぱり出会った時からずっとアリサ様の小間使いとして働いていたから、その辺の気配りなんかも身に付いたのかしら? アタシも気を付けよーっと!
「これは……じゃがいもですか? 不思議です……薄く切って焼いて、いえ、違いますね? 一体どんな調理法で作られたのでしょう? このパリっとしてクセになりそうな塩味……美味しいです!」
「うむ。うまかろう? これがまた中々酒に合うんじゃ。ほれほれ、清酒もやってみてくれシーベル殿。酒精が強いでな、ゆるりと飲むとよいぞ?」
ふふ、シーベルさんってば、おつまみにドガが出したポテトチップを食べて喜んでくれてるみたいだわ♪ やっぱり美味しいって食べてもらえるのは嬉しいわね!
「ふぅ~お仕事完了ですよぉ~♪ あ~お父さん達美味しそうなの食べて飲んでますねぇ~? って……なんですその薄っぺらい食べ物?」
「おぉ、リデルのお嬢さんお疲れさん。こいつはな……」
トントントンっと。うん、アタシも『無限円環』でアリサ様にお料理を教わったお陰で、だいぶ包丁の使い方にも慣れてきたわ。でも、流石に量が多すぎたかしら? 結構大変だわ。これを毎日、難なくこなすアリサ様って本当すごい! って、あら? リデルさんが戻ってきたのね? 思ったよりずっと速いわ、残ってた仕事ってそんなに多くなかったのかしら? ギドからポテトチップの説明を受けてるみたいだけど、気に入ってくれるかしら?
「おっし、後はレイリーアが切ってる白菜待ちだぜ?」
「残りもうちょっとですね? 手伝いますよレイリーア?」
あら? あらら? よく見ればみんなが担当してた食材が綺麗にお皿に盛り付けられてるじゃないの? アイギスもスープが完成したみたいでお鍋によそってる。やだ~アタシが一番遅かったのね! 時間を見れば結構過ぎてるし!
「大丈夫さレイリーア。丁寧に食べやすく切り揃えてくれたんだからねぇ……いい仕事だよ?」
「大雑把に見えて、意外と几帳面だよなレイリーアは?」
そ、そう? ありがとねファムさん。ついでにアイギスも。でも、よかった~「遅いぞ!」なんて怒られちゃうかと思っちゃったわ。そんなこんなでお鍋の準備万端! いい感じにお腹も空いてきたし、早速みんなでつつきましょうか♪
レイリーア「リデルさんってメイドなのね(*´∇`*)」
ゼルワ「いや、そりゃあメイド服着てんだし、見りゃわかんだろ?(;´д`)」
サーサ「もーゼルワ、メイド服着てれば誰でもメイドさんだと思ってますね?(-_-;)」
アイギス「ん?(_ _) つまりサーサがメイド服を着ても、『メイド服を着た魔法使い』であってメイドではないのだと、職の話か?(,,・д・)」
ゼルワ「あー(・o・) なんだそう言うことかよ……いや、つーかメイド服はメイドが着るもんじゃねぇの?(´~`)」
レイリーア「ぶーっ!p(`ε´q) なによーアタシもメイド服着てみたいわよ!( `д´)」
サーサ「私もです♪(*^-^) ゼルワは私のメイド服姿見たくありませんか?( *´艸`)」
ゼルワ「……見たい!(*´ω`)」
ドガ「はぁ( ´Д`)=3 しょうのない奴等じゃのぅ~(´-ω-`)」
ファム「若いってことだろうよ(´・∀・`) あたしも五十くらい若けりゃ着れたんだけどねぇ?(*`艸´)」
ギド「ドワーフのメイドなんざ『ジドランド』でも珍しいだろうぜ?(*^.^*)」
リデル「もしもーし!(。・`з・)ノ いけませんよそこなぇっちな女性陣さん達!(`Δ´)」
レイリーア「きゃっ!?Σ(゜ロ゜;) びっくりした!( ゜Å゜;) どうしたのよリデルさん?(^_^;)」
サーサ「べべ、別にぇっちな意味で着てみたい訳じゃありません……(;´゜д゜)ゞ」
リデル「えぇーい、だまらっしゃい!(≧□≦) どうせ「メイド服着て彼氏にご奉仕しちゃうZO♥️:*(〃∇〃人)*:」とか考えてらっしゃるんでしょう!?ヾ(*`⌒´*)ノ」
レイリーア&サーサ「「ギクゥッ!(゜゜;)」」
リデル「まったく!( ゜皿゜) なんちゃってメイドさんなんて、本業の私は許しません! どうしても着ると言うならメイド修行をして頂きますよ?(´・∀・`)」
アイギス「うむ。やはり本職( ゜ー゜) リリカも使用人達に厳しかったからな、レイリーア、サーサ、悪いことは言わないから諦めろ(´∀`)」
レイリーア「うう、残念だわ( ;∀;)」
サーサ「仕方ありません(・・;) 確かに本業の方々は、苦労してやっと袖を通す事が出来るユニフォームなんでしょうし(;>_<;)」




