12話 魔女と悪魔と懐刀
【聖魔霊】~おや!? 悪魔達のようすが……!~
短距離転移で黄龍達のところに戻ると全員が揃っていた。
うん? なんかでっかい白熊と白銀の毛並みのこれまたでっかい狼に、ふぁっ!? 狐耳の尻尾いっぱいの幼女がおる!
ガバチョ!!
「ほわぅ!?」
「この子は私がもらった!」
剣聖奥義の歩方・圧縮で一気に距離を詰め、狐っ子を抱き上げ確保。あぁ~可愛いぃ~♪
「あ、アリサ様!? どど、どうしたのじゃ!? 何故に妾を!? はっ、あっ……ほわぁぁ~心地良いのじゃぁぁ~♪」
なでなでなでなで~。あまりの可愛さに撫でる手が止まらない。
「ちょっとアリサ! なにやってるのよ!?」
「むぅ……何故九尾にそこまで反応するの?」
はっ! いけないいけない……ティリアさまの声に私は我を取り戻す。
いや、だってしょうがないじゃんレウィリリーネ……リアルなケモミミの女の子だぞぅ!? 可愛くてしょうがないんだよ~!
「ふふっ、アリサさんも大概可愛いもの好きですよね?」
「九尾はちんちくりんでもふもふしてて可愛いからね~♪」
「こりゃぁ! 末っ子! 誰がちんちくりんじゃぁ!?」
いや、前世ではここまでじゃなかったよ? でもなんだろう……今はもう歯止めが効かないくらいに可愛いもの好きなってるなぁ。
あぁ、ほらほら暴れないの。よしよし♪
「むーっ! 九尾ちゃんばっかりズルイ! アリサおねぇちゃん! ユニもユニも!!」
「うん! いいよぉ~おいでユニ」
ペガサスに乗ったユニが私の側にやってくるので抱っこして、頭を撫でてあげる。
「えへへ~♪ 嬉しい!」
「二人は知り合い? ユニが九尾ちゃんって呼んでいたけど?」
「うむ、ユニのこの姿を見るは初めてじゃがの。かねてより妾達は世界樹と共にあったんじゃよ」
って、そうか。考えてみればユニは見た目小さな女の子だけど世界樹だもんね。あ~でも二人の可愛さに何も考えられなくなりそう~!
「むぅっ!! アリサ! 話が進まない!!」
「はぅ! あぁ、ごめんごめん……」
いけないいけない……レウィリリーネに怒られてしまった。
私は気を取り直して、ユニをペガサスに乗せて、集まったみんなを見渡す。うん、ちゃんと悪魔達もいるね。
しかしまぁ、なんでこんなに綺麗に整列してるんだろ? ちょっと遊び心がわいてくるんですけど?
「ぜんたぁーい、気をつけ!」
ビシィッッ!!
「おぉぉ……ちょいびびったわ」
ちょっとお茶目して冗談言ったんだけど、みんな大真面目に気をつけしてるし、まぁ……悪魔達の処遇決めるには丁度いい緊張感かな。折角なのでこのまま進めよう。
「悪魔貴族の四名。前に出なさい」
ザザッッ!!
間髪入れず揃って一歩前に出てきた四人。侯爵バルガスが怪我したままだ、セインちゃんの一太刀凄いな。まずは治してあげるか、他三人も小さい怪我してるみたいだし。
ちょちょいと四人にまとめて治癒魔法をかけて傷を癒してやる。
「なんとっ!」「凄いですわね」「おぉ、傷が!」「わぁ~!」
うん? なんで驚くんだろ? 治癒魔法なんて結構みんな使うよね? ま、いいや。話を始めよう。
「さて、単刀直入に聞くわ。あんた達、私達と敵対するつもりなのかしらん?」
私は聖域を護る神剣の剣先を下にして立たせ、柄頭に両手を交差させ沿える。さぁ、ティリアさまの作戦は上手く行くかな?
ズアァッッ!!!
「あんた達の返答次第ではこの場で四人全員。私が消滅させる事になるわ!」
直立し、『神気』を迸らせて悪魔達を威圧する。
私の髪がブワッ! って舞い上がり、あっヤバ! スカートまでちょっとめくれた! うー……パンツ見えたかも!? 恥ずかしい(*/□\*)
おっと、『神気』にあてられてグリフォンの数頭と緑髪の蝶の羽の女の人が気絶しちゃった! 慌てず浮遊で保護。
ティリアさまが言うには……
「悪魔達は強さと契約を重んじる種族だからね。ちょーっと、力の差を見せつけてやれば大人しくなるわよ! 一発派手に『神気』飛ばして威圧でもしてやんなさいアリサ!」
って事だ。さて、反応は如何に?
ズザッ! って音が鳴りそうな勢いで四人揃って跪く。空中で器用だな。
「我等一同、アリサ様に従います!」
おぉ~! 効果テキメンじゃん! よかったよかった!
「それでも不服ならば、このバルガスの首を差し出しましょうぞ!」
「……見事な覚悟ね。その言葉に偽りはないかしら?」
一歩前に踏み出した禿頭のマッチョ悪魔バルガス、あんたの首なんていらんって。でも、その覚悟と決意は本物みたい。
なんでか知らないけどそういう嘘とか見抜けるようになったんだよね。アルティレーネ達が私の身体を再構築したときに、色んな能力付けてくれたのかな?
「無論! 我が命一つで家族が助かるなれば!」
「え、あんた達家族なの? じゃああんたが亭主で……そこの色気ムンムンのが嫁さん? 娘に息子の四人家族?」
「はっ、我が妻ネヴュラに娘フェリア、息子のパルモーで御座います」
マジか~! なんかビックリだわ……後で馴れ初めとか聞こうかな? って、今はそうじゃないね……
「うん、わかった。認めましょう~あんた達も『聖域』の一員ね?」
「おぉぉ……感謝致す!」
わぁっ!! って喜ぶ悪魔家族。これからも仲良くするんだよ?
あれ……でも?
「ねぇ、ちょいと気になったんだけどさ……悪魔ってこの『聖域』にちゃんと馴染めるん?」
『聖域』は女神達や、神獣、聖獣といった神聖な者の聖地らしいから、その対極に位置するような悪魔には住みづらいんじゃないかな?
「御心配には及びませんわアリサ様。私達はこう見えても爵位持ちの悪魔ですので、少々肌が焼ける程度で済みますわ」
「はい! このくらい何の問題もありませんアリサ様!」
「うん、ちょっとヒリヒリするなーって程度だぜ! アリサ様!」
無礼な口をきくなパルモー! ってフェリアに怒られるやんちゃ少年は別にいいとして……なんか日焼けでヒリヒリするみたいな感じがするらしいね。うーん、それはなんか可哀想だなぁ、なんとか出来ないかな?
「んー……悪魔ってのはそれでアイデンティティーだろうし、それを無くすのはそれで勿体ない……でも、『聖域』にも対応させたい……」
あれじゃない? 光と闇が合わさり最強に見えるってヤツ。あれをやってみようか? この場合……
「属性結合」
くっつけちゃえ。四人の悪魔達に手をかざしイメージした魔法、属性結合を使ってみる。単純に聖属性持ちの悪魔にしてやれば良いんじゃないかなーって……
「おぉぉ!? こ、これは!?」
「まぁ!? 肌が!」
「な、何だ何だ?」
「わぁー! アリサ様なにしたのさ!?」
まばゆい光が四人の悪魔を包み、おさまったと思ったらなんと、悪魔達の肌が普通の人間のように変化していた。
「うん、うまくいったかな? どう、まだヒリヒリする?」
そう質問しながら鏡を用意して四人に渡す。
「むぅっ! 焼き付くような痛みがすっかり消えましたぞ……ふむ、これが我か、変わるものよ」
バルガスはそう言って鏡に映る自分に戸惑っているみたい。肌は小麦色になり、そのムキムキの肉体も合わさってボディビルダーみたい。
「えぇ、痛みがすぅーっと消えましたわ、まぁ! 素晴らしいわぁっ!! 皆様と同じ肌色ですわね!」
「私も痛まなくなりました! わぁぁ~凄い、私じゃないみたいですね!」
ネヴュラとフェリアは綺麗な色白の肌になり、一層色気が増したように思える母親と、年頃の美人なお姉さんになった。
「アリサ様! 僕もだ! 全然痛くないよ! それにこの肌色も気に入った!」
パルモーはなんか日焼けした元気いっぱいの少年にしか見えない。バルガスよりは薄く、フェリアよりは濃い肌色だね。
「なるほど、悪魔に聖属性を持たせるとこうなるのね……『聖魔霊』か。考えたわねアリサ!」
ティリアさまが感心したように話しかけてくる、『聖魔霊』ってなんだべ? 四人の悪魔達も首をかしげているんだけど?
「『聖魔霊』とはあなた方悪魔という種族の進化の可能性の一つです、魔に属しつつも聖なる心を持った者が至れる境地ですね」
おー、なんか凄いじゃん? アルティレーネの説明に思わず感嘆してしまう。
「ん、アリサはあなた達の心に魔法をかけて、進化を促した。あなた達に聖なる心がなければなにも変わりはしなかった筈」
え、そうなの? 私そんな大それた事考えもしなかったんですけど、レウィリリーネさんや? 変わってくれないかなーって思っただけなんですけど? あ、勿論害はないってわかってて使ったよ?
「四人共普段から「悪魔らしくない」とか言われなかった? 多分それがきっかけだと思うよ? それに『聖魔霊』になってだいぶ地力が上がったんじゃない?」
フォレアルーネが言うには『聖魔霊』になったことでパワーアップしたんじゃない? って事らしいけど……
「た、確かに! 身体の奥底に溢れんばかりの力を感じますぞ!」
「えぇ! 私もよあなた!」
「凄い……私にこんな力があったなんて!」
「うおおぉ!! みなぎるーっ!」
どうやら本当らしいね。うまくいってよかったよ!
私がそう思ってニコニコしてると、何を思ったのか四人は顔を見合せ頷くと、また揃って跪いた。どうしたん?
「我等にこのような御力を授けて下さったアリサ様の慈悲! 我が家族一同、永遠の忠誠をもってお応え致したく!」
「アリサ様のその深い慈愛。私共の身に染み入りまして御座います! 是非、私共をアリサ様の傘下末席にお加え下さいますよう、伏してお願い致します!」
「「貴女様こそ我等が主! どうかお願い致します!!」」
えー……なんでまたそんな大仰な~って、グリフォン達といい、コイツ等といい……私を主にしたがるかな?
「あ~、私は別にいいけどさ。みんなにも聞いてみよう?」
ここに集まってるのは、まぁ『聖域』に住む種族の代表者達みたいなものだろうし、意見は聞いておいた方がいいと思うんだ。なのにみんなときたら。
「アリサ様の御心のままに」
そう切り出したのは『四神』玄武こと、げんちゃん。
今はミドリガメじゃなくて人間の姿になっている。
私より少し低い背丈に、膝裏まで伸びた深青のストレートヘアー。
垂れ目の優しそうな、私より大きな胸の女の子だ。
「アリサ殿が認めたのであれば異論は無い」
と、続けて青龍が言えば。
「アリサがオッケーなら私もオッケーよ!」
朱雀が明るく同意して。
「姉御に逆らうような馬鹿じゃねぇだろうよ! ガハハ!」
白虎が愉快そうに笑う。
「多少強うなったとて、まだまだじゃ。儂等がしごいてやらねばの!」
黄龍は四人を鍛えるつもりらしいね。
「だぞーアリサ様にお仕えするならもっともーっと強くなってもらうんだぞー!」
この熊面白いな。黄龍の意見と同意見みたいだぞー。
「アリサ様の深き慈愛……この『神狼』感服しましたぞ」
狼。心底感心したって感じでうんうんと頷いている、この子もなかなかのもふもふ具合ね、後で撫でまくって籠絡してやろう。私のなでなでテクニックをお見舞いしてやる!
「んふー! やはりアリサ様はお優しいのじゃ!」
九尾ちゃん可愛い♪ ユニと二人できゃっきゃさせたい!
と、まぁ……他のみんなもおおむね同意見でした。
「結構歓迎されてるみたいだし、勿論私も構わないよ。『聖魔霊』だっけ? うまくその力を引き出して『聖域』を護ってくれる?」
「「「「はっ! 仰せのままに!!」」」」
【女神の懐刀】~たまみんたまみん~
さて、バルガス達はこれで良しだね。後は気になるのが……
「あんた達には、会うの初よね? 協力してくれてありがとね! 私はアリサ、女神達の依頼を受けた『聖域の魔女』よ。改めてよろしく!」
狼に熊、九尾ちゃんに改めて挨拶しておく。緑髪の羽の女は気絶してるので後回しでいいや。
「はじめましてだぞーオイラ天熊だぞー!」
「余は神狼フェンリル、我等が守護神アリサ様。よろしくお願い致す」
「……いや、あんた達さぁ」
見上げる私、見下ろす二頭。
「でかいわ! 首疲れるっての!!」
黄龍と青龍は横ににょろーんと大きいけど、この二頭は縦にどーんってでっかい。顔を見るにはどうしても見上げなければいけなくて、首が痛い。
「ちょっと小さくなってくれない? 小さく~!」
こんなでっかいと撫でられない、目の前にもふもふの子がいると言うのに!
「アリサ様や、コヤツ等にそんな器用な真似できはしませんのじゃ。天熊なぞ見目通りのお馬鹿じゃからのぅ~ふはは♪」
「ひ、ひどいんだぞー! オイラ馬鹿じゃないぞー?」
「むぅぅ……何も言い返せぬ……」
あれま、じゃあしょうがないね。
「小さいは可愛い」
ボワワワーン!
イメージしたのは前世で有名だった某RPGの魔法。特にそのシリーズ三作目では序盤と中盤に必要になった小人化の魔法だ。あのダンジョンは苦労したなぁ~。
白煙が二頭を包み込むとみるみる小さくしていく、おさまった頃には神狼はペガサスくらいのサイズに、天熊は白虎よりは少し小さいくらいになっていた。よしよし、これなら存分に撫でまわせるぞ!
「おー! これはいいぞー! 小回り利くぞー!」
山のように大きかった分、下手に動き回ればそれだけで環境破壊してしまったであろう天熊。小柄になったことで、その危惧もなくなり嬉しそうにぐるぐるその場で回って見たりして喜んでいる。
「これなら遠慮なく棲処から出て『聖域』で遊べるぞー! アリサ様ありがとーだぞー!」
「どういたしまして~元に戻りたくなったら言ってね?」
ワシワシワシっ!
「うおぁっ! あぁっ! アリサ様いけませぬ、そ、そのようなっ!!」
「ふふっ……「そのような……」? なぁに?」
ワシワシ、サワサワッ! なーでなーで……ふぅぅ~♪
「ああぁぁ~……余は余は~……」
「むふふふ、気持ちいいでしょう~お客さん♪」
これまでミーナの我儘な撫で撫で要求を存分に満たしてきた、私の撫で撫でテクニックに加え、動画で見たASMRを参考に神狼の耳元でそっとささやいたり、ちょっと耳を掃除してふぅって息を吹き掛ける。
「あっ! あぁぁ~!! もう辛抱できぬ! アリサ様! 腹を! 腹も撫でて下され~!」
犬がする降参のポーズで私にお腹を見せる神狼。ふっ……私の勝ちね! 存分に撫で回してそのもふもふを堪能してくれる!
「す、凄いのじゃ……あの堅物の神狼がふにゃふにゃなのじゃ!」
「うっふっふ~♪ さぁ、次はあんたよシロクマちゃん!」
あふ~っ!! 『聖域』に天熊の声が響き渡りました。やったぜ!
「そいやアルティ、この子達がさっき言ってた『懐刀』なの?」
「そうですよ、彼等に黄龍を加えて『女神の懐刀』ですね」
右手で神狼を、左手で天熊を撫でつつ聞くとそんな答えが返ってきた。神とか天ってつくくらいだから結構凄い子達なんだろう。
「黄龍はジジイとかじいちゃんでいいとして、この子達にも名前がほしいね。特に九尾ちゃん!」
「魔女よそりゃあんまりじゃぞ……」
「冗談よ、あんたも名前ほしいならつけるけど?」
「ほぉ! 言うてみるもんじゃ! 是非とも頼むぞい」
ユニの時もそうだったけど、種族名じゃなくてちゃんと名前を決めて呼んであげたいんだよね。大切な仲間達なんだし。となると、『四神』達や他の聖獣達、グリフォン軍団の名前も考えてあげる必要がありそう。あれ……かなり大変じゃない?
「みんな一辺にって訳にはいかないから、いい名前が思い付いたらね?」
「わ、妾に名を授けてくださるのかアリサ様!?」
うんうん、九尾ちゃん嬉しそう♪ 尻尾がブンブン言ってるね。
「アリサっち~そんなに安請け合いしていいの? グリフォン達何頭いると思ってるんよ?」
フォレアルーネがズバリ指摘する、うーん……確かに結構な数いるね。
「ん? 簡単……ガルーダに見込みのある子を選ばせればいい」
《良い案だ。眷属達も魔女殿に命名して頂けるとあらば更に精進するであろう》
おぉ? そんなに名前をつけてもらえる事って嬉しいのか……ユニも喜んでたし、九尾ちゃんもワクワクしてる。うん、それなら私も頑張って考えてみようかな。
「オッケー、じゃあレウィリの案を採用しよっか。ガルちゃん、お願いして良いかな?」
《お任せあれ、魔女殿。ついてはフェニックスと八咫烏に相談しても構わぬか?》
「うん、勿論だよ。ありがとね」
まぁ、今回の戦いではグリフォン軍団はフェニックスと八咫烏についてたし、相談するのはまったく問題ない。
さぁ、九尾ちゃんの名前を考えよう。
私の知る『九尾の狐』と言えばやはり『玉藻の前』だ。でも、悪役なんだよねぇ~いっぱい悪さして、倒されると『殺生石』とかになってまた迷惑かけるっていう……
(この子が悪い事するとは思えないな……)
期待の眼差しで私をじっと見つめる九尾ちゃんの瞳は、キラキラ輝いていて純粋さが伺える。
「『珠実』なんてどうかな? たまみんたまみん♪ とか呼ぶとすごく可愛くない?」
「ほわわー! 妾、珠実かえ? たまみ……妾は珠実。珠実なのじゃ♪」
気に入ってもらえたかな。安直に玉藻ってのもいいけど、私の中でどうしても「玉藻は悪い狐」ってイメージが強くてなんか嫌だったんだよね。「珠の実のような瞳」を輝かせていたとこから『珠実』としてみたよ。
「たまちゃん……たまみちゃん、えへへ♪ なんて呼ぼうかな!」
「ふふっ! 改めてよろしくのぅ~ユニや♪」
癒される……ユニと珠実が仲睦まじく笑いあってるのを見るだけで、メルドレードとの戦いの疲れもどこぞに吹っ飛んで行くよ。頑張ってよかったぁ~♪
「二人のはしゃぐ姿を見ていると、本当に終わったのだなと実感が込み上げてきますな……」
「うん、アーグラスも満足そうに還っていったし……私もやっとのんびりできるかな?」
落ち着きを取り戻した神狼がしみじみ言うので考える。この世界に転生して……魔女になって……おい! まだ三日しか経ってないじゃないか!
「明らかにオーバーワークよ、もうホント、のんびりしたい……あんた達に名前を付けて一端屋敷に帰ろうか。気絶してるのもいるし、鳥達も羽休めしたいだろうし」
私はそう言うとミーにゃんポーチから再びリヤカーを取り出して、ペガサスを呼んで牽引してくれるようにお願いする。約束通り無事に『聖域』が再生されたからね、頼んでもいいだろう。
「お任せ下さい! アリサ様♪」
「ミーナちゃんが世界樹でおねんねしてるから、迎えに行こう~♪」
ペガサスも喜んでリヤカーを牽くことに同意してくれる。ユニは我先にリヤカーに乗り込むなり、ミーナを迎えに行こうと言う。どうも戦いの最中、ミーナは相変わらずのマイペースでスヤスヤおねむしちゃってるそうだ。我が愛猫ながら大した胆力の持ち主だと思うよ。
「たまちゃんたまちゃん♪ 一緒に乗ろうよ!」「うむ! お邪魔するのじゃ♪」
ユニの珠実の呼び方はたまちゃんになったみたい。
【神狼と天熊、黄龍と妖精女王】~リンとジュン、シドウ~
「あ、ユニ、珠実。気絶してるあの女の人乗せてあげて?」
「ティターニアかえ? ほんにコヤツは情けないのぅ、まぁ、元々争い事には向いておらぬがのぅ」
おや、どうやらこの女性が妖精女王のティターニアらしいね。ぐるぐる目を回して気絶してるその姿からは女王だなんて思えないけど。
「あぁ、後、ガルちゃん。同じように気絶してるグリフォン達を起こしてあげてくれる? あの程度の『神気』で気絶すんなーって渇いれといてよ。モコプーですら平気だったのに情けない」
(いえ~、わたしも距離近ければ同じように気絶してましたよぉ?)
《承知した。まったく情けない限りだ、しかと申しておこう》
そう言うとガルちゃんはフェニックスと八咫烏に声をかけて浮遊で浮いてるグリフォン達を文字通り叩き起こして回った。モコプーは謙遜してるけど、この子のガッツは相当なものだと知っている。
「まぁ、『聖域』の窮地にちゃんと姿を見せたってだけでマシかなぁ?」
「ティターニアなりに妖精達のため、考えていたのでしょうね」
「ん、でもこの子達は今後とっても役に立つ」
「あぁ、そう言えばあんた達開拓して美味しい食べ物作るんだって?」
さも当然とばかりにリヤカーに乗り込んでいる女神達。ユニはティリアさまに抱き抱えられてご満悦、珠実はアルティレーネに抱っこされちょっと複雑そうだけど、嫌がってはいないみたいだね。
「さて、「こういう名前が良い」とかリクエストはある? 出来るだけ考えてみるけど?」
「余は特にありませぬが……そうですな、フェンリルと言う名が既にありますのでそれに沿うような名が望ましいですな」
「オイラはなんでもいいんだぞー!」
二頭に向き合って名前の要望を聞くと、神狼が控えめに。天熊はなんでもと……うん、じゃあ神狼にはフェンリルの渾名で考えようかな。
「じゃあ、『リン』ってどう? あんたの佇まいが凛としててカッコいいからさ♪ それに「フェンリル」を文字った渾名にもなるよ?」
我ながらナイスな考えではなかろうか? さっき私に撫で回されてふにゃふにゃになってはいたが、普段はキリっとしてて佇まいもしゃんとしてる。ミーナだったらぐでーって寝転がって、だらしなくしてるんだけどね。
「リン……うむ、良い名ですな! では今後、余はリンと名乗りましょうぞ!」
ワォン! と嬉しそうに一吠えするリン。よかった、気に入ってくれたみたい。さぁ、次は天熊だね。なんでもいいと言うので私の思う名前をつけてあげよう。
「あなたは『ジュン』かな、純白の毛並み、純粋な心を持ったあなたにピッタリじゃないかって思ったんだけど……どう?」
「おー! オイラ天熊ジュンだ! ジュン! アリサ様感謝だぞー!」
うんうん、この子は本当に純粋だこと、見てて気持ちいいね。なんてしみじみと思っていたら黄龍が寄ってきた。
「純粋なジュンか、考えたのぅ、その調子で儂や『四神』達にも名をつけてくれんかのぅ?」
「いいよ~ここにいるみんなは『聖域』の危機に立ち向かった英雄達だもんね、ここで名前をつければ歴史に残るよきっと!」
頑張ったみんなにこういったかたちで報いることができるならお安い御用だよね。
さて、黄龍の名前かぁ~うーん、黄龍は変態だけど、まともな時は物知りで厳しくもちゃんと教えてくれて、道を示してくれるじいちゃんだ。
「『シドウ』かな……道を示してくれる、色々教えてくれる、先生のようなおじいちゃん。どう? シドウじいちゃん?」
「ほぉ~、『シドウ』か……悪くないのぉ、じゃが、出来ればもちっとハイカラで、ユニちゃんが好いてくれそうな名前を期待したんじゃがのぉ?」
何言ってんだこのジジイ? 注文多いわ。
「名付けてもらっといて文句とか言う普通? ユニ~あんなおじいちゃん嫌よねぇ?」
「こーじいちゃんキライ……アリサおねぇちゃんを困らせないで!」
「そうじゃそうじゃ! アリサ様が丁寧に考えて下さった名前に物申すなど、何様のつもりじゃこの老害めっ!!」
凄い援護射撃が飛んできた、話を近くで聞いていたティリアさまがユニを味方につけて、抗議すれば珠実も乗っかってくる。いやいや、流石に老害は言い過ぎでしょう?
「儂は『シドウ』じゃ! 黄龍シドウ、今後そう名乗るとするぞい! 魔女よ感謝する!」
はい、決定です。ティリアさまにユニ、珠実に抗議されればじいちゃん、うんとしか言えません。
「うぅ~ん……私は、一体……なにを……」
おや、リヤカーに寝かせていた妖精女王が目を覚ましたぞ。ぎゃいぎゃい騒いでたから、騒々しくて起きちゃったかな?
「気が付きましたかティターニア?」
「ん、よく寝てたね」
「うちらの事わかる~?」
女神達が目覚めた妖精女王を覗きこみ声をかけると、妖精女王はちょっとぼーっとして、気付いたようにバッと身を起こした。
「め、めめめ女神様!? これは、何てお見苦しいところを!?」
ペコペコと頭を下げて平謝りを繰り返す女王様……なんとも情けない姿だ。
「私もいるわよ~♪」
「はっ! あ、貴女様は……まさか、主神ティリア様っ!!? あわわわ……」
おっと、また気絶しそうだけど大丈夫かな? あぁ、踏み留まった。狭いリヤカーの上で器用に土下座してるね。この世界にも土下座ってあるんだ?
「主神ティリア様、女神様方におかれましてはご機嫌麗しく! この度の私の無様はどうか一笑に付して頂けると幸いでございます」
「はいはい、気にしてないよ♪ 『聖域』のピンチに駆けつけたその勇気に感謝してるって!」
フォレアルーネが代表して感謝する。
ふむん、妖精は荒事に向いていないって言うし、『四神』達とか、『懐刀』達に比べれば確かに弱々しい魔力だ。それを考えればこの女王様も、相当な勇気と決意をして立ち上がったんだろうね。
「黄龍は、シドウは臆病者とか言ってたけど、それはシドウ達から見ての評価だし。頑張って自分にできることをしようって判断は見事だと思うよ? まぁ、打算的な考えもあったんでしょうけど」
「あ、貴女は守護神様!?」
「初めまして、妖精女王様。私はアリサ、『聖域の魔女』よ。よろしくね、出来ればその守護神様ってのは止めてほしいなぁ~」
守護神だなんて私はそんな大層な人間じゃない、『聖域』を守れたのもたまたま何とかできる手段を持ち合わせていただけだし、誰か一人でも欠けていたらきっと失敗していただろう。
「とんだご謙遜ですわアリサ様。ですが、そう望まれるのであれば控えさせて頂きますわね」
「うんうん、それでさ一応聞くけど……あんた私達に対して不利益な事しでかそうなんて思ってないわよねぇ?」
「ひぇっ!? ととと、とんでもありませんわ!! 私達、妖精族もこの『聖域』に住まう者として、アリサ様に忠誠を誓いますわ!!」
強かな女って聞いてたから、下でに出れば、上手いこと言いくるめられて不利益被るかもしれないって警戒して強気発言してみたけど……まさか忠誠を誓われるとは。
「ふぅん……ティターニア、あんたの今の発言。主神の私と女神三人がしっかりと聞いたわよ?」
「妖精族は『聖域の魔女』たる、アリサさんに従う。と言うのですね?」
「ずいぶん思い切った決断したね、ティタっち~ちょいとうちビックリだわ!」
「ん、それは多分英断……」
そう、ティターニアはティリアさまと女神三人の前で私に忠誠を誓うと言った。まさに「神様に誓う」、だ。自分だけじゃなく、妖精の皆を巻き込んで。
「そうですわ、私達妖精族一同。全面的にアリサ様の傘下となります。ですが、もし少しでも不等な扱いをされるのであれば、直ちに離反しこの『聖域』から去りますわ!」
おっと、そう来たか。伊達に女王やってないね、さて、どうしたものか? 勿論私は妖精達に対して酷いことするつもりはないし、仲良くできればそれでいい。
「うふふ、そう言った政治的な事なら私が請け負いますよアリサさん。お任せ下さいね」
「ふふふ、勿論不等な扱いなんてしない、寧ろウィンウィン」
「お互いに美味しい思いしようね~ティタっち♪」
えっ? えっ? ってアルティレーネ達と私を何度も首を振って見ては狼狽する妖精女王。ふふっレウィリリーネの言うように損なことはさせないよきっと!
「世界樹についたよ、ユニ~おねがーい」
「はーい♪ ミーナちゃーんお待たせ~!」
世界樹に到着した私達は早速、ユニが入っていった場所に行き、ミーナを出迎える。ユニが声をかけると幹の一部が引き戸のように開き、内部が少し見えるけどなんにもないね。ちょこんと置物のように座るミーナがいるだけだ。
「なぁ~ん、んにゃぁぁ~♪」
「ほわぁぁ~! なんと愛らしいのじゃぁ~♪」
「ふふっただいまミーにゃん♪」
にゃあぁん、なあぁんと言って私の伸ばした手に何度も頬擦りするミーナ。ふふっ懐かしい、私が前世で仕事から帰るといつもこうして甘えてくれたんだよね。懐かしさと嬉しさで胸がいっぱいになった私は、沢山ミーナを甘えさせてあげる。うーん! やっぱり可愛い♪
「可愛いのじゃ可愛いのじゃ~♪ アリサ様、妾も抱っこしたいのじゃ!」
「うん、いいよ~でも、あんまりうるさくすると嫌がるから、ゆっくり丁寧にね?」
珠実がいたくミーナを気に入ったようで、抱っこしたがる。ちょっとだけ注意点を教えて、ミーナをそっとリヤカーに乗せる。
「んにゃぁ~ん?」
「おぉぉ、妾が珍しいのかえ? そんな懸命に鼻をならすとは?」
見るとミーナは珠実の匂いをかぐように、近づいてはクンクンと鼻をならしている。珠実が言うように珍しいんだろうね、ケモミミに尻尾から自分に近いのかと思いきや、やっぱり私みたいな人間の匂いもするから、「なんだろう?」って思ってるんだよ、きっと。
「おぉ、認めてくれたのかえ?」
しばらくクンクンしてたミーナは珠実の膝の上で丸まってはなぁ~んと鳴く。
「珠実、ミーナが「撫でなさい」って言ってるよ、この撫で撫でテストに合格すればミーナは認めてくれるわ」
「なんと……ふふふ、望むところじゃ。おぉ、良い毛並みじゃな……ふわふわじゃあ♪」
へぇ~手慣れたものだ、ちゃんと優しく撫でてる。やっぱり自分の尻尾とか丁寧に毛繕いしてたりするんだろうね。
「はぁ~とても可愛らしい子ですわね……小憎らしいケット・シーにも見せてあげたいですわぁ」
「本当にこの子見てるだけで癒されるわね♪」
ふふん♪ ミーナは最強だからね! ミーナを撫でる珠実の顔はふにゃって笑顔、その様子を見守るユニは満面笑顔。女神達に妖精女王、ティリアさまも微笑んでいる。ミーナがいれば世界は平和になるかもしれない……冗談だけどね。
「さぁ、これで全員揃ったことだし。屋敷に帰ろう!」
黄龍:シドウ(示道)
神狼:リン(凛)
天熊:ジュン(純)
九尾:珠実




