104話 セリアベールで会議
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【覚えてる?】~ぼーくんmkに~《シドウview》
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「馬鹿な!? 魔王が復活するですと!?」
「いや待て! 『悲涙の洞窟』よりこの『セリアベール』に『氾濫』を引き起こした原因も魔王であったのだ……」
「何て事……それでは他の魔王達もいずれは復活を果たしてしまうと言うの!?」
これは一大事!! と、紛糾し騒がしくなるこの『セリアベール』の街の冒険者ギルドの一室じゃ。やれやれ、大仰に驚きおって、外部に声が漏れたらそれこそ一大事ではないのかのう?
「はっ! そうだ皆静まれ! シドウ様が仰った通り、こんな情報が外に漏れたらパニックが起きるぞ!?」
「「ああ! そうだったーっ!」」
……ふむ、やっと静まったようじゃな。やれやれ、魔王と聞いて慌てふためくのは無理からぬ事ではあるが、そう焦るでない。何のために儂等がこの場に居合わせたのかその意味を考えてもらいたいもんじゃな。
「ふぅ、一応アリサの嬢ちゃんからもらった魔装具使っといたから、外には漏れてねぇはずだがな」
「ん? ユグライア、それアリサお姉さんが作った『ぼーくんmkに』?」
「あ~ちょっと前にアリサ姉がレウィリ姉に教わって色々作ってた魔装具の一つか~懐かしい♪」
ほぉ~あの性悪魔女め、いつの間にやらユグライアに防音の魔装具を渡しておったのか? どうやら今の会話の内容が外に漏れるという事にはなっておらんようで一安心ぞ。
「ええ、初めてアルティレーネ様とアリサの嬢ちゃんに会ったときに用意してくれたんでさぁ、そん時に一つ譲ってもらいましてね、こう言う時便利なんですよ」
「うむ。流石はアリサ様だ、いつも先を見据えておられる」
いやぁ~リンよ、そんな大袈裟な話ではないと思うぞい? あの魔女は単に「売れるといいな」程度だった筈じゃて。ユグライアの説明に心底感心しとるリンに内心そう指摘しておく。
「しかし、それならば箝口令を敷くと言うゼオンの言い分も納得だ」
「ええ、これはおいそれと口にしていい話ではないわね。ですが……」
「今やこの『セリアベール』は『氾濫』に割いていた防衛費を削減し、新たに生まれ変わろうとしている最中だぞ?」
「ううむ、我々は一体どう動くべきであろうな?」
うむ。そのための話し合いの場じゃ。住人達をいたずらに不安がらせる訳にもゆかぬ、故に内密に事を進めねばならんでな、口外禁止とするユグライアの策は正しかろう。
しかし、『氾濫』が解決し、新たに歩みだそうとしている『セリアベール』をまた戦に巻き込んでしもうては元の木阿弥ぞ。ならばどうすれば良いのか?
「難しいとこだよねぇ~? 一応さ、『聖域』から二組の冒険者候補をこの『セリアベール』に派遣してるけど……」
「ん。彼等はここにいる『黄龍』と『神狼』、それに『四神』と『妖精女王』の部下」
「すげぇんだぜ!? なんせ女神様とアリサ姉ちゃんが直々に鍛え上げた精鋭だかんな!」
ふむ、『ハンバーグ』と『フライドポテト』の連中をあてにするか。確かにあやつ等ならばそうそう遅れは取るまいな。
「私も先陣を切りましょう。陛下、そして各ギルドの代表の皆様方、ご安心召されい」
「あ~そん時は俺も気張るぜビットさん。後、ラグナースにも手を貸してもらう事にならぁな」
末っ子と次女の言葉に少しばかり安堵のため息をつく、街の各ギルド代表達じゃ、しかし中には『黒狼』のバルドの顔を見る者もおるな。「『セリアベール』が誇るSランクパーティーはどうするのだ?」と、暗に言いたいのじゃろう。
「俺達『黒狼』とアイギス達『白銀』は女神様が予測された、魔王の復活する地へ赴く事になっていてな……」
「ああ、アタイ達は『セリアベール』出身のSランクパーティーだぜ! 魔王相手に黙ってるわけねぇだろ!」
バルドとセラもそんな視線に応え、「安心しろ」と言わんばかりに魔王討伐に向けて動いていると宣言しよる。こやつ等もまた、素晴らしい成長を遂げた故な、頼もしいわい。
「おお! なんと頼もしい……なんと有難い! 感謝する、心から!!」
「いつも君達にばかり頼ってしまい申し訳なくも思う……支援が必要なら遠慮なく声をかけてくれ!」
デュアード、シェリー、ミュンルーカにブレイド、ミストといった他の『黒狼』のメンバーも力強く頷く様を目にし、深々と頭を下げ感謝する者、任せ切りにしてしまい済まぬと謝罪する者、感涙にむせび泣く者もおる……いやはや、コヤツ等は誠、慕われておるのぅ。
「しかしゼオン。お前やビット殿が並々ならぬ実力者と言うのはわかるが……その、ラグナースもあてにするとはどういうわけだ? あいつは俺の愛弟子、生粋の商人だぞ?」
「うむ。『誉』のメンバーであったエミルやデールであればまだわかるが……」
ディンベルとその他の者がユグライアの言う「ラグナースもあてにする」と言う言葉に不思議がっておるな。ふふふ、無理もないわい。なんせラグナースの奴めは一介の商人だったのだからな。
「そう思うのも無理ねぇけどな、あいつは俺と一緒に『聖域』に行ったんだぜ? レイリーアの番ってわけもあってアリサの嬢ちゃんの覚えもいい。となりゃあ~そのまんま戻って来るわけねぇだろ?」
「ラグナースさんも私達も『聖域』でハチャメチャな特訓受けて来ましたよ~♪」
「自分で言うのもなんだけど……今じゃ私達もラグナースさんもすっごく強いのです!」
魔女の『無限円環』の事も説明すべきかと思うたが、まぁ、長くなるでの。割愛じゃ。事実ラグナースもリールとフォーネの二人もあの過酷な訓練を乗り越えよった故、儂等と肩を並べる程に強うなっておる。
「ん。今のユグライアの言った事は全部本当。あなた達も彼をあまり困らせない方がいい」
「そーいうこと! んじゃ具体的にうち等がどう動くかって事も教えとくね」
ユグライアにリール、フォーネ達の話と、それを裏付ける女神の言葉に絶句しておる皆じゃが、しっかり気を持ってもらわんと困るぞい?
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【帝国とセリアベール】~縁~《シェリーview》
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「……この『セリアベール』が攻撃を受けるとしたら、それは『技工神ロア』が操る『魔装戦士』によるものだと思う」
「「「ま、『魔装戦士』ですか!?」」」
レウィリリーネ様が集った各ギルド代表者達に、『セリアベール』が襲撃される一番の可能性についてお話をされたわ。皆『魔装戦士』については知らないようね? まぁ、お伽噺の『魔神戦争』の記述にもその名称は出てこなくて、「巨人兵器」としか記されていないから、仕方がないわ。
「ん。『魔装戦士』はいわば、『魔装巨人』……当然、普通のじゃない」
「順を追って話そうか。まず七大魔王のうち、四柱は既に討伐、無力化されてるよ」
レウィリリーネ様が『魔装戦士』について説明をしようとするのだけど、皆ちょっと理解が及んでいない様子だわ、戸惑いが見られるもの。そんな空気を感じ取ったんだろう、フォレアルーネ様が魔王についてお話を始めたわ。
「おお!! 我々の知らぬ内に既に四柱もの魔王を!」
「流石は女神様方、それに『聖域』の皆様ですね!」
「その内の一柱は『悲涙の洞窟』のシェラザードですな。他三柱は?」
既に四柱もの魔王を制したと聞いて、喜ぶ彼等は、「流石女神様と『聖域』の皆様!」と、絶賛するけれど……シェラザード様、ヴェーラ、ポコ様を本当に制したのは、他ならぬアリサ様だと知ったらどんな反応をするのかしらね?
「これは内緒なんだけど、みんなを信用して話すね? その四柱のうち、まずは北の帝国を治めてるルヴィアスだよ」
「馬鹿な!?」「我々の朋友たる帝国が!?」
「皇帝ルヴィアスが魔王ですと!?」「そんな……信じられん!」
ガタタタッッ!!!
うわっ! ビックリした! フォレアルーネ様の言葉に集まった各ギルドの代表達が一斉に席から立ち上がって、顎が床につきそうなくらいに絶句して驚いて、誰もが声を失ったわ。
「ん。安心してほしい。ルヴィアスは最初から私達の仲間……魔神側にスパイとして潜り込んで、陰ながら支えてくれていた……そして、あたし達が逃がした三神国の国民達を受け入れ、その王と武将達と一緒に北方の大地を平定して今に続く帝国を築き上げたの」
……淡々と語るレウィリリーネ様の話を誰もが静かに聴いていた。ルヴィアス様が北の大地を平定して戦火に巻き込まれた人々のための受け皿となる国を興したのは、かの勇者達との約束だったとお聞きしているけれど……あれだけ広大な大陸で、少ない食料、住みやすい環境を求めて争い続けていたと言う先住民達をまとめあげるのには相当の苦労があったことでしょうね……
「北の大地を平定し帝国を築き上げ、落ち着いた頃。当時のユグライア王は『セリアルティ王国』の復興の為、ルヴィアス様に別れを告げ、この大陸に帰って来たのだそうだ。『ルヴィアス魔導帝国』に数人の家臣を残してな」
バルドがその続く話を代表達に聞かせる。ゼオンさんがなんだかんだと言っても人情に厚く、義理堅いのは、やっぱり血筋なのかしらね? 当時のユグライア王もお世話になったルヴィアス様に対して信頼できる家臣を残していくっていう事をして、帝国と自分達との繋がりを遺してくれたんだし。
「あなた達には伝わってない? 『いずれ来る未来の子孫達の為に、三神国と帝国を結ぶ架け橋とならん事を期待している』と言って、ルヴィアスの帝国に家臣を残した、ユグライアの言葉が?」
!!!!? う……うおぉぉっ!!
あらら、今度は私達がびっくりだわ! 物凄く驚いていた代表達がレウィリリーネ様のお言葉に何か思い出したかのようにハッとなったと思ったら、大声で泣き出したじゃない!
「おぉぉっ! そうだったのか! その古きお言葉……しかと、しかと伝え聞いております!」
「ああ……偉大な祖先よ! 尊き先人達よ! 古くから続いている帝国との友好的な関係と、今の私達があるのは……」
「総て……総て貴方様方のお陰であったのですね!」
「我は! 我はこの感謝を生涯忘れぬ!! 子々孫々語り継がねばならぬ!」
おおおぉぉーん!! って、むせび泣く代表達に呆気にとられてしまったけれど、ルヴィアス様の近衛を務めていらっしゃるバロードさんは『セリアルティ王国』の聖騎士の子孫だと聞いているし、当時のユグライア王がルヴィアス様と行動を共にしていた事も聞いているわ。
そのユグライア王の言葉がこの『セリアベール』を興した祖先達にも伝わり、そして今に至るまで細々と継がれていったのね……
「永くに続く『ルヴィアス魔導帝国』との友好関係。その礎を築き上げた祖先と、皇帝ルヴィアスに感謝だな」
「ん。せっかくの縁だから、大事にしてほしい」
ゼオンさんが随分長く続いている帝国との友好関係の基盤を作り上げてくれたのは、他ならぬ魔王ルヴィアスからの歩み寄りがあったからなのだと言うことを話せば、もう、誰もルヴィアス様を魔王だからって警戒する者はいなかった。レウィリリーネ様の言うように遥か昔から続く縁、大切にしていきたいわね。
「次はね、その帝国とアイギっちを巻き込む大問題を引き起こした魔王ヴェーラだよ!
まぁ、あのクソババアはもう、ティリア姉の『完全消滅』を受けて文字通り消滅したけどね」
続いての制した魔王はヴェーラだ。思い出すのも腹立つくらいの酷い魔王だったけれど、こちらも既に解決済だわ、征したと言う方が正しいわね。
「なんと!? あの神出鬼没と称されている魔王を!」
「しかも帝国と、『白銀』のアイギスを巻き込んだですと?」
「そうか、先日のルヴィアス様のあのメッセージにあった帝国の諸事情とはその事か!」
「……詳しくお聞かせ下さいますかな、女神様方?」
この魔王の名は『魔神戦争』の記述に何度か記されているわ。いずれも正体がよくわからない不気味な相手として描写されていたわね。正直思い出したくもないけれど、情報の共有は大事ですものね、その経緯を代表達にゼオンさんが説明をしたわ。
「……そうでしたか。女神様、そして『聖域』の皆様。我等一同、この世界に住まう者として、厚くお礼申し上げます! また、苦い記憶を思い起こさせてしまいましたこと、重ね重ね、謝罪させていただきたい」
ガタッ! ぺこり。
事の経緯を聞いて、ディンベルさんが女神様と『聖域』の皆様に対してお礼と謝罪をすると、全員が起立し、一斉に頭を下げたわ。勿論、私達『黒狼』も、リールとフォーネもそれに倣い頭を下げた。私達は見ている事しか出来なかったけれど、女神様方は人知れずこの世界を守ってくれていたのだから、当然よね。
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【忘れられていた】~歴史の真実~《とある代表者view》
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つい先日の事だ。この『セリアベールの街』の代表であるゼオンに私達、各ギルドの代表に召集がかかった。何事かと思ったが、ゼオンは『聖域』に赴いていた事から、その件に関しての報告であろうと言う事はすぐに察しがついたのだ。私も『聖域』には興味が尽きぬ故、一体どのような報告があがるのか、と、内心わくわくした。
そうして集まった私達の前にはゼオンとあの大恩人のアリサ様。更に、威風堂々とした立ち姿の騎士の姿があった。その騎士の名はビット。かつての『セリアルティ王国』が誇った聖騎士、伝説の武人とも讃えられている御方と同じ名を持つ騎士であった。
ビット殿はゼオンの護衛としてアリサ様がご紹介下さったのだが、まさかあの伝説の武人と同一人物という事は……? いやいや、流石に考えすぎか?
それから、以前にアリサ様が街に広めて下さった数々の料理を住人達が求めてやまぬ、と言う問題について、『聖域』より料理人達を派遣して下さる事など、私達にとって嬉しい報告が相次ぎ、場はとても盛り上がった。
しかし、私達が驚くべき報告はこの後に起きた。それは北の大国。『ルヴィアス魔導帝国』を治める皇帝、ルヴィアス様による、一つのメッセージだ。
「──いやぁ、なんか世話になってばっかで悪いな、アリサの嬢ちゃん! 俺等全員、嬢ちゃんに感謝するぜ」
「「「本当にありがとうございますアリサ様!」」」
「あ~気にしないで気にしないで。私が軽い気持ちで広めちゃったのも原因なんだしさ」
私達の感謝に少し苦笑いを浮かべるアリサ様。そんなばつの悪そうなお顔をしないで下され。私達が感謝しているのは本当なのですから! アリサ様が広めて下さった料理は私達の生活に彩りと張りを出して下さった。あの味を再現するため、試行錯誤をする者も出始め、『教育ギルド』に続き『料理ギルド』も設立すべきかと議論も交わされたりしたのですよ?
「いいねいいね♪ みんなが美味しいの作って、色んな料理が広まって。みんなが美味しいごはん食べられるようになればきっと世界は平和になるよ」
仰る通りでございます。美味な食事はそれだけで人を笑顔に変える、総ての種族……いや、世界共通の魔法とも言えるかもしれませんな!
「さて、最後に一つ重大な報せだ。皆北方の大国『ルヴィアス魔導帝国』と、この『セリアベール』は大昔から交流があり、朋友とも言える間柄なのは既に知っているだろう?」
「実は『聖域』にそこの皇帝さんが遊びに来てたの。まぁ、正確にはちょっと問題起こってて、その解決の為に協力を仰ぎに来てたんだけどさ」
なんと! 流石は広大な北の大地を治める帝国。早くもアリサ様方のおられる『聖域』と交流を始めたのか? 私達も遅れを取るわけにはいかんな。して、その帝国の問題とやらは解決したのだろうか?
「ああ、凄かったぜ? 詳細はまぁ……長くなるし割愛するが、アリサの嬢ちゃんと女神様達の尽力で無事に解決したんだわ。そうしたら、ルヴィアスが一つ俺達にメッセージを送ってくれてな。いいか? 今からその内容を記録した映像を出すからよく聞いてくれよ?」
映像を記録しただと? そんな超技術は『古代遺産』の域ではないか! あ、いや……アリサ様方女神様の方々にかかればどうと言うこともないのか? 「嬢ちゃん頼む」とゼオンに促されたアリサ様が、腰に提げた愛らしい猫を模したポーチから一つの宝珠を取り出し、軽く魔力を込めると、私達の前にその映像が映し出された。
『……親愛なる『セリアベール』の諸君。久しいな? 『ルヴィアス魔導帝国』皇帝、ルヴィアスである。諸君等がこの映像を視ていると言うことは、我が帝国の諸事情を友であるゼオンより聞いた事だろう』
おおっ!! これは凄い! これほどはっきりとした映像と音声が記録できるのか! 私達は映し出されたルヴィアス皇帝陛下と、その音声の明瞭さに驚きを隠せずにいた。
「しかし、ルヴィアス様は何年経ってもお姿が変わらぬな……妖精の血が入っておられるのか?」
「うんうん、いつも若々しい……というより、若者のままよね? 羨ましいわ」
うむうむ。確かに、ルヴィアス皇帝陛下はもう、数百年もの間帝国を治め続けておられるので、世間からは不老不死なのか、妖精の血が入っているのでは? とか、色々な憶測が飛び交っていたりするのだが、この数百年の間に妖精の青年を養子として迎えた事もあり、妖精の血筋説が濃厚だろうと言うのが最近の傾向だ。
『……何を隠そう、その問題は我が帝国の未来を脅かす程のものだった。しかし、『聖域』の女神達とアリサ様の尽力により無事に解決をみたのだ。この事を受け、我々帝国は『聖域』との厚い同盟を結ぶ運びとなった。諸君等にはそれを伝えておきたい』
おお! 『ルヴィアス魔導帝国』も『聖域』と同盟を組むか! 私達も多大な恩を受けた『聖域』と、朋友とも呼べる北方の帝国。そしてこの『セリアベール』……いずれ復興を果たす『セリアルティ王国』が力を合わせれば、世界の中心に太い大柱が立つも同義!
「──この驚くべき報告に我々は新時代の幕が開けると、喜んでいたものですが」
「事態はそう簡単には行かぬようですな」
そして今、そのルヴィアス皇帝陛下が魔王であり、女神様達だけでなく、私達の祖先をも救って下さっていた事が明らかとなった。私達はこの、永い時の流れの中で、風化しつつあった歴史の真実を改めて心に刻まねばならない!
「主神のティリア姉さんが勇者に用意した『神剣レリルティーネ』に封じられていた、『幼女神ポコ』も魔神から受けた呪いを解呪されて、今はあたし達の陣営に加わっている」
「だから、残ってるのは『獣魔王ディードバウアー』と『武神リドグリフ』、そして『技工神ロア』の三柱になるんだ」
私達は置かれた現状を改めて認識し、女神様方の話に耳を傾ける。フォレアルーネ様が『獣魔王ディードバウアー』と、レウィリリーネ様が『技工神ロア』と、そして『白銀』達が『武神リドグリフ』との戦いに赴かれ、『黒狼』はパーティーを二分し、フォレアルーネ様とレウィリリーネ様に協力をすると言う。
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【魔装戦士の対抗策】~守護者~《バルドview》
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「んじゃ、話を『魔装戦士』に戻そうか。レウィリ姉お願いね?」
「ん。『ロア』の目的は、この世界を自分の技術の実験場とする事……」
各ギルドの代表者達に現状を説明し、今、この世界がどういう状況にあるのかを認識してもらえたところで、フォレアルーネ様とレウィリリーネ様が改めて話を再開させた。
以前にアリサ殿の『無限円環』内でお聞きした内容だが、魔神と共に降り立った魔王達にはそれぞれに目的があったのだそうだ。判明しているのは……
まずはヴェーラだが、あの不快感しか覚えない魔王はこの世界をゲームの舞台として、己が遊び、退屈しのぎをしていたのは記憶に新しい。
次に、シェラザード様だが、彼女は魔神に操られ、自分の意思とは無関係に利用されたにすぎない。謂わば被害者とも呼べるだろう。
同じくポコ様もそうだ。聞けば彼女はたまたま魔神とロアの密会の場を目撃してしまったと言う。この世界に攻め入る事についての話を聞いてしまい、見つかって捕らえられた後に、『狂化』の呪いをかけられ、意思を失っていたらしい。
そしてリドグリフだが、彼の目的は『闘い』そのもの。争いや闘争がなく、平和過ぎる『神界』でいくら『武』を極めようと、実践する場が与えられなくては、己の存在に意味はないと、魔神の手を取ったのだ言う。
よくわからないのが、ディードバウアーだ。この魔王は『神界』でも古くから封印されており、人々の怨嗟の念を糧に、只ひたすらに破壊の限りを尽くすのだと言う。「目的」と言うなら、ディードバウアーにとって「破壊」がそうなのか?
ルヴィアス様については、何度も話が出た通り、魔神側にスパイとして潜り込み、陰ながら女神様達に協力する事が目的だった。
「実験場とは……なんと性質の悪い……話に聞いたヴェーラと同様、ろくでもない魔王ですな」
「まったくだ……そんなもの自分で用意して、自己満足してればよいものを!」
「皆が憤る気持ちはわかるが、今議論すべきはそこではあるまい? 具体的に『魔装戦士』とやらの対策を講じなければならん」
ロアの目的がこの世界を己が技術の実験場とする事と聞いた者の多くが、その身勝手さに怒りを顕にしているな。ああ、確かにそうだ、俺もロアと言う魔王はあのヴェーラに同じものを感じて酷くイラつく。
「あーこないだの防衛戦で東にヘカトンケイルが出ただろ? 『魔装戦士』ってなアイツくらいのサイズで、空飛んで、妙な筒から魔法ぶっぱなしてきたり、魔法の剣で斬りかかってきたりするって話だ。ですよね、女神様方?」
「ん。そう」
ゼオンが『魔装戦士』とは一体どのような相手なのかを、先の『氾濫』で現れたヘカトンケイルを例に説明した。因みにだが、俺達はアリサ殿の『無限円環』内で、その『魔装戦士』を想定した訓練も受けている。
「なんだと!? そのような相手にどう立ち向かえばよいのだ!?」
「しかも複数体来るかも知れないんでしょう!? どうしようもないじゃない!」
おっと、いかん。無慈悲な事実を突き付けられ、場がちょっとしたパニックに陥ってしまった! 慌てるな皆!
「落ち着きなさい! なんのためにうち等が来たと思ってんの!?」
ビシィッ!! フォレアルーネ様が少しばかり神気を乗せた一喝にこの冒険者ギルドの一室が震える。と、同時に慌てていた各ギルドの代表者達もピシャリとその動きを止める。
「大丈夫。ちゃんと対策は用意してある」
「ああ、だから落ち着け? 今ラグナースとエミル、デールの三人がそいつを設置するために街を歩き回ってるからな」
「し、失礼しました! そうとは知らず取り乱してしまい……」
「そ、そうだな、いや。お恥ずかしいところをお見せした……しかし、そうか。道理でエミルとデールの姿を見ないわけだ」
「ラグナースさんも動いてくれているのね、その対策についてお聞かせ下さいますか?」
彼等の気持ちはわからなくもない。ヘカトンケイルのような巨人が数体街を襲撃して来るともなれば、その街が地獄絵図となるのは想像に難くないからな。だが、当然それを黙って見てる訳がない。レウィリリーネ様の言うように、しっかりと対策を用意し、今それをラグナースが主導となり、街の各所に設置している最中なのだ。それをゼオンから説明されると、各ギルドの代表者達も落ち着きを取り戻した。
「ん……聞く? 聞いちゃう? 聞いてくれちゃうの♪ いいよ♪ 教える、教えちゃう」
「あはは……実を言うとレウィリ姉ってば、ずぅぅっと話したくてしょうがなかったんだよね~? んでも、マジ凄いよ? みんな存分に腰抜かしてちょうだい♪」
ははは……本当にイタズラが好きな方々だ。確かにあの対抗策を目にしたら皆驚いて腰を抜かすだろうな……俺達もそうだった。
「何を隠そうその対抗策はあたしとアリサお姉さんの合作。『守護者』!」
ブフゥゥーッッ!!!?
「「「なんじゃこりゃあーっっ!!?」」」
レウィリリーネ様が少し得意気な顔で『記憶の宝珠』を操作すると、その『守護者』を映した映像が流れ始め、それを見た各ギルドの代表者達が驚きの声を挙げた。
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【強いぞ!】~カッコいいぞ!~《ブレイドview》
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「これはアタイ達が訓練中のもんだよな? レウィリリーネ様いつの間に撮影してたんだい?」
「あたしじゃないよ? 記録してたのはアリサお姉さん。だからこうして色んな角度から撮影できてる」
あ~、今セラ姉ちゃんが言ったようにこの映像はアリサ姉ちゃんの『無限円環』内での訓練の様子だなぁ。レウィリリーネ様の記憶を頼りに『魔装戦士』を再現させて、その性能を遥かに上回る『魔装巨人』を作り上げたんだーって言ってたぜ。
「この全身を甲冑で覆った一つ目の巨人が『魔装戦士』か……って、映像の『黒狼』達が普通に空飛んでるんだが?」
「言っただろうディンベル? 俺達は『聖域』での訓練で強くなったと。それより見ろ。成りはヘカトンケイルのような巨体だが、『魔装戦士』は機敏に動き、空すら飛び回り、あの銃と呼ばれる筒から魔法を放つ。更にこの剣だ」
ドシュウゥーッ!! ドギューンッ!!
映像の中の『魔装戦士』は俺達を相手に空中を飛び回っては、妙に長ぇ筒……アリサ姉ちゃん曰く「ビームライフル」を撃ちまくって、手にした剣はスゲェ熱量の刀身を持つ「ビームソード」とか言ってたっけ……をぶん回して襲って来やがんだよな!
「おおっ! 凄い! バルド達が『魔装戦士』を倒したぞ!」
「だね。この時は実際にバルドん達がちゃんとこのでっかいの相手に戦えるかってのを確認したんだよ、んで、次が『守護者』と『魔装戦士』の戦いの様子ね?」
まあ。馴れちまえば『魔装戦士』は冒険者で言うところのAランクくれぇの実力と言ったとこだ、ただ、デッケェせいでSランク以上の脅威だけどな。でもって、続きだ。アリサ姉ちゃんとレウィリリーネ様の共同作、『守護者』が『魔装戦士』と戦うぜ?
「おおお……これが、『守護者』か! なんと凛々しい、伝え聞く『セリアルティ王国』の聖騎士のごとき装い!」
映像の中のアリサ姉ちゃんが『守護者』を呼び出して、その全容が映し出される。その出で立ちは白亜に輝く見事なフルプレートメイルを身に纏い、巨大な大盾と片手剣を装備した騎士だ。マジカッケェ……頭にスッポリと被る兜からは鋭く、そして蒼白く光る二つの眼光がなんかギィンッ! って感じで、尾を引いてんの! それで『魔装戦士』を睨み付けてるぜ! チョーカッケェ!
「ああっ! 『魔装戦士』が魔法を!」
ギィインツッ!!
「弾いた! って、速い!?」
フィフィフィンッッ!! バラバラバラッ!! ドドーンッ!!
一瞬だぜ? 何度見てもスゲー。『魔装戦士』が撃った「ビームライフル」をその大盾で弾いたと同時、一瞬の刹那『守護者』は『魔装戦士』の懐に潜り込み、無数の斬撃を浴びせた! バラバラに斬り刻まれた『魔装戦士』はそのまま空中で爆散だ!
「くぅーっ!! やっぱ何回見てもカッケェぜぇ~♪」
「たまらん……あの動き……真似したい、でも……俺、槍使い……なんだよ、な……」
「いやいやいやいや!!? 待て待て待て! 凄すぎるんだが!?」
「エミル達はこんなとんでもない兵器を設置しに行ったのか!?」
俺とデュアードさんが『守護者』のカッコよさに痺れてると、なんか代表達が慌て出したぜ? なんか勘違いしてるみてぇだな?
「ああ、違う違う。それはまた別のヤツ。後で話すから今は置いといて?」
「応、フォレアルーネ様の言う通りだぜ? そう慌てんなって。
んじゃ、この『守護者』だけどよ、具体的にどう扱えばいいかってのを説明願えますかねレウィリリーネ様?」
そんな代表達にフォレアルーネ様とゼオンのおっちゃんが声掛けて落ち着かせると、レウィリリーネ様に『守護者』はどうやって使うのかってのを教えてもらおうってしてんな。そういやアリサ姉ちゃんもレウィリリーネ様もこの『セリアベール』から離れるから……どうやって呼び出すんだ?
「ん。ユグライア……『あるちぃ』持ってるでしょ? 出して?」
「え? あ、いやぁ~今は俺もそれなりに強ぇし、ビットさんもいてくれるし……なので、その~へ、部屋に、ですね……」
「あー! ユグラっちひどーい! せーっかくアリサ姉が用意してくれたのに~? アルティ姉が知ったらどーんな顔するかなぁ~?」
うぇっ!? ゼオンのおっちゃんマジかよ? 『あるちぃ』って確かアリサ姉ちゃんが用意してくれたオプションで、アルティレーネ様を模した人形だろ? あのよちよち歩いて、時々手を振ったりする可愛いの?
「「「馬鹿野郎ゼオン! 何やってんだ!?」」」
「「「アルティレーネ様から見限られたらどうする気なの!?」」」
さっさと部屋から持ってこぉぉーいっっ!!!
わはは! 全員にボロクソ言われてんじゃねぇかよゼオンのおっちゃん!
「はぁ、ですから肌身離さずお持ち下さいと、あれほど進言したではありませんか陛下?」
「は、はい……スンマセン……」
ビットさんも呆れてらぁな♪ しょぼーんってなったゼオンのおっちゃんはそそくさと部屋に向かって、やれやれって感じでその後をビットさんがついて行ったぜ? まったく、いくら恥ずかしいからって、折角の気遣いを無駄にするような事しちゃ駄目だよなぁ?
ギルド代表者達「こ、この映像の『魔装戦士』は本物なのかヾ(゜0゜*)ノ?」
レウィリリーネ「ん(´・ェ・`) あたしの記憶から再現したから間違いなく本物(_ _)」
フォレアルーネ「う~ん(;´Д`) でも復活する魔王って、『神界』の掟やぶりによる弱体化のペナルティが消えてるから(´ヘ`;)」
バルド「それを考えると、実際に現れる『魔装戦士』はもっと強化されているかもしれないな( ・`ω・´)」
ギルド代表者達「な、なんて事だ!Σ(゜д゜lll) ゼオン、速く『あるちぃ』もってこーい!ヽ(゜Д゜)ノ」
ゼオン「へーへー(-ω-;) 今持って来るってばよ(>_<)」
アルティレーネ「はっ!Σ(*゜Д゜*)」
珠実「なんじゃ長女よ、どうかしたのかえ(´・ω・`)?」
アルティレーネ「ユグライアに預けている『あるちぃ』が蔑ろにされている気がします!(*`Д´*) アリサお姉さま、確認して下さい!(。>д<)」
アリサ「別にいいけど(ーωー) プライベートな時もあるんだから気を付けてね?(^-^;)」
アルティレーネ「これは緊急です~!ι(`ロ´)ノ」
珠実「しょうのない奴じゃの( ̄▽ ̄;) アリサ様、やかましいので見せてやると良いのではないかの?(ーдー)」
アリサ「あいあい(ーー;) どれ……ん?( -_・) なんか暗いね、お部屋かな? ゼオンはいないみたいだけど……」
アルティレーネ「ああ!Σ( ゜Д゜) お部屋に飾って放置だなんて、ひどい!o(T◇T o)」
ゼオン「げっ!Σ(゜Д゜ υ) やべぇ『あるちぃ』がなんか光ってる!ヽ(´Д`;)ノ」
アリサ「お、戻ってきた(^-^)」
アルティレーネ「ユグライア!(>д<*) ちゃんと持っていて下さいとあれほど言ったじゃないですか!(≧□≦)」
ゼオン「うわっ!Σ(Д゜;/)/ アリサの嬢ちゃんにアルティレーネ様!( ; ゜Д゜) す、スンマセン(;>_<;)」
珠実「まったく、無駄に察しの良いこの女神が騒がしいんじゃ(,,・д・) しっかり持っておれ、童よ?(¬_¬)」
アリサ「あはは(;゜∇゜) なんかごめんね、うちの妹が騒いじゃって(;´∀`)」
ゼオン「あ~(^_^;) 俺も恥ずかしがってる場合じゃねぇよな?(-""-;) 『守護者』のキーになってるっていうし、これからはちゃんと持ち歩きます( ´ー`)」
アルティレーネ「そうですそうです!(*⌒∇⌒*) 大事な『あるちぃ』ですからね♪(*´▽`*) しっかり持っていてもらいませんと(*´艸`*)」
珠実「……めんどくさい女神じゃのぅ~(  ̄- ̄)」
アリサ「ふふ(゜ー゜*) そこがまた可愛いと思うけどね(´∀`)」




