103話 出発! レウィリリーネとフォレアルーネ
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【うち等も】~でっぱつ!~《フォレアルーネview》
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「んじゃ行ってきまーす! ティリア姉、お留守番よろしくね~♪」
「ん。行ってきます」
やっほー♪ みんな元気~? フォレアルーネだよん!
アリサ姉達とアイギっち達、偵察部隊に冒険者候補達がこの『聖域』から旅立った翌日。うちとレウィリ姉、シドウとリン、りるりるとフォーネっち。『黒狼』のみんなも出発する日が来たんだ!
うち等はまず、『セリアルティ王城跡地』を見た後、『セリアベール』に行って、ユグラっちやラグナっち、そのセンセーっていうおっちゃんとか、『スラム街』ってとこの狼くんに会って、色々お話してね~りるりるとフォーネっちの故郷の『ファムナの村』にお邪魔するよ!
「はいはい。こっちはヴィクトリアも『四神』もいるから安心して行ってらっしゃい」
「『天熊』のジュンもいてくれるし、守りは申し分ないわ」
「くれぐれも女神として恥ずかしくない行動をしてくださいね?」
「ポコはお土産をわくわくして待っているのです!」
見送りに来てくれたティリア姉とヴィクトりゃんは安心して行ってこーいって言うのに、アルナっちってば、うち等が馬鹿やらかすとでも思ってるのかな? 変な注意してくる。ポコぽんは早くもお土産を期待してるみたいだね。
「ふふ、里帰りなんて久し振りだねフォーネ?」
「そうね。きっとお父さんお母さん、村のみんなもレウィリリーネ様達を見てびっくりするだろうなぁ~♪」
そう笑い合う二人はうち等にとっても大事な二人。りるりるとフォーネっち。何でもフォーネっちの家には昔、レウィリ姉が祝福を授けた『リーネ・リュール王国』を治めた女王リュールが遺したレウィリ姉の肖像画が今も飾られているって言う話だから、レウィリ姉本人が村に行ったらそりゃ驚くだろうね♪ そんな時を超えたサプライズを提供できるのは、『不滅』持ちの特権で醍醐味だよ。
「『ファムナの村』と言えば、その村人が『セリアベール』によく作物を卸しに来ているな」
「おぉ、『ファムナライス』っていやぁ結構有名だもんな!」
「お野菜も美味しいって評判ですよね~♪」
ほほ~? 聞き捨てならんよ? それは聞き捨てならんなぁ~!
バルドくん、バルばる? うーん、彼の愛称が定まらないねぇ、バルドんって呼ぶか……そのバルドんとセラっち、ミュンルっちの話だと『ファムナと村』では美味しい作物が作られてて、それを『セリアベール』に卸してるんだって! これは『農業班』のリーダーとして無視できない話じゃーん?
因みにこの三人はうちの『フォレスト組』に編成されたのだ! 『ファムナの村』を出た後は、うち。リン、りるりる、バルドん、セラっち、ミュンルっちの六人で、うちが祝福した『ルーネ・フォレスト跡地』に行く『フォレスト組』と……
レウィリ姉率いる、シドウ、フォーネっち、デュアっち、シェリりん、ブレイドん、ミストっちの『リュール組』七人が先に話した『リーネ・リュール跡地』に行くんだよ。
「ん。負けてられない……『聖域』の作物の方が美味しいってわからせる」
「あはは、味は流石に敵わないかなぁ~?」
「『聖域』産のお野菜とかとっても品質いいですもんね!」
「でも、やっぱ量で言うなら『ファムナの村』や『セリアベール』近辺の農村には及ばないわよね?」
「……いい、んじゃないか? 『聖域』産は高級品、他は一般品……みたいで?」
「今日は美味いの食いたい~って時は『聖域』ので、普段は農村からので~ってな感じにわかれんだろうし!」
うん! レウィリ姉も『酪農班』のリーダーだもん。考えはうちと同じだよね! 『魔法の鞄』にお土産も忍ばせたし、ふふ、『ファムナの村』の人達に食べ比べしてもらうんだ~♪
フォーネっちやミストっち達は『聖域』の作物で作ったアリサ姉の料理食べたから、『聖域』の作物は美味しいってわかってくれてるけど、シェリりんが言ったようにまだそんなに量は採れない。地産地消なのが現状だねぇ、でも将来的にはデュアっちとブレイドんの言う住み分けができたらいいなって思うよ。この美味しさを知ってもらいたいもん!
「女神達よ準備は出来たのか? そろそろ行くぞ?」
「今回はちと長旅になってしまうのぅ……ポコちゃんや、帰ったらまたこのじいじと遊んどくれ?」
「勿論なのです! シドウのじいじ、頑張ってほしいのです!」
おっとと、リンとシドウが出発を促してきたね。
今回リンもシドウもそれぞれ、『神狼』と『黄龍』の姿をとっている。と言うのも、うち等をその背に乗せて移動するためだ。『聖域』は世界の中心に位置する一つの島だからね。内海を渡るにも手段が必要になる。ま、うち等はみんなアリサ姉の『無限円環』での訓練で『飛行魔法』が使えるから、なんてことないんだけど、どうせだし、でっかいリンとシドウに乗せてってもらおうってことになったんだ。
シドウは『黄龍』だから元々でっかいし、リンもアリサ姉の『小さいは可愛い』を解除すれば、相当な大きさだから、それに『飛行魔法』なんて使わなくても普通に空飛べるからさ。
「済まない、世話になるリン殿」「よろしく頼むぜリン様!」
「お背中失礼しますね~あらぁ♪ リン様、毛並みがふさふさですね!」
その背に乗るよう促すように、伏せの姿勢でうち等を見るリン。バルドんとセラっちが颯爽と飛び乗って、続くミュンルっちがリンの毛並みのふさふさ感にちょっと嬉しそう。
「うむ。余も「シャンプー」だの「とりーとめんと」とやらを使ってみたのだ。以前ユニの奴めに「毛が硬い」と言われてしまってな……」
ぷぷっ♪ リンってばそんなこと気にしてたの? ちょっと意外だねぇ~っと、うちとりるりるにも乗れって合図してる、よーし! じゃあみんな行こう!
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【兵どもが夢の跡】~無惨~《レウィリリーネview》
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「……こう、して……上空から見ると……酷いものだ……」
「うむ……魔神の奴は長女への見せしめとして、この王国を徹底して破壊したようじゃな」
あたしと一緒にシドウの背に乗る『黒狼』メンバー。その一人のデュアードが呟き、見下ろす眼下には、かつて魔神とその軍勢に破壊された『セリアルティ王国』が無惨な姿を晒している……
「……かなりショックだったってアルティ姉さんが言ってたけど」
「こんな無惨な姿見ちゃったら……うちもショックだよ……」
シドウの言う魔神による「見せしめ」……『セリアルティ』があたし達女神の手を取ったから? シドウと並走するリンの背に乗ったフォレアも悲し気な表情になっている。
『聖域』に帰って来たときのアルティ姉さんは平気そうだったけど、それはアリサお姉さん達が励ましてくれたからだって聞いた。
「そうね、俯瞰して見ると本当にひどいものだわ……レウィリリーネ様、『リーネ・リュール王国』もこんな状態なんでしょうか?」
「……こんなこと、繰り返させちゃいけねぇよな」
「うん! そのために身に付けた力だもん! こんなこと絶対させないよ!」
シェリーもその惨状を目にして、表情を険しくしている、『聖域』に向かう途中徒歩で一度訪れていた筈だけど、こうして上空から見るその姿はまた別に見えるんだろう。それはブレイドとミストも同じのようだ。
あの『技工神ロア』の呼び出す『魔装戦士』達との激しい戦闘で『リーネ・リュール王国』もボロボロになったのをよくおぼえてる……
「リン、シドウ……このまま『セリアベール』に向かって……」
「良いのだな?」「構わんぞ……」
「……レウィリ姉、うん。そうだね」
「「レウィリリーネ様……」」
「「フォレアルーネ様……」」
あたし達を乗せるシドウとリンに『セリアルティ王国』を抜け、『セリアベール』へと進むように促した。二人の確認にあたしは小さく頷き、フォレアも理解してくれた。『黒狼』のみんなと、フォーネとリールの呟きが聞こえた気もするけど……今は、顔をあげたくない……
「いいの……暗い顔して『セリアベール』に行きたくないしさ……あはは」
こくん。その通りだ、あたし達女神がこの世の終わりみたいな酷い顔で街を訪れたら、ユグライアやビット、住人達を不安にさせてしまう。だから、このまま行く。
「……お気遣い痛み入る。リン殿、シドウ殿。このまま南下すればキャンプ地が見えてくる筈だ」
「そこは街から大体歩いて一日くらいの距離なんだ、一旦そこに降りようぜ」
「うむ」「了解じゃ。街の者に儂等のこの姿を見て驚かれても困るしのぅ」
お礼を言うのはあたし達……ありがとう、バルド、セラ。そのキャンプ地に降りて一度落ち着ける時間をくれるんだね?
「あ~確かにな~解決したとはいえ、一見魔物にも見えるじいちゃんとリン様が街に迫って来たら……」
「ヤバイよねぇ~下手すると攻撃されちゃうかもしれない!」
「そうだね、会議でフェリアちゃんが「人里に降りるなら人の姿じゃないと魔物に誤解されちゃうかも」って言ってたのを思い出したよ」
それもあるね。今ブレイドが口にしたように、『セリアベールの街』はつい最近まで『氾濫』の脅威と戦って来た。魔物の襲撃にはおそらく何処よりも敏感だろう。このまま街へ行けば、リールが懸念するように攻撃を受けちゃうかもしれない。
フォーネが言ってるのは、『魔王ヴェーラ』と戦う前に、『聖域』の神殿で会議した内容。『偵察部隊』を編成するって話が出たとき、フェリアと珠実が提案してくれたことだね。
「ふふ、私達『聖域』に向かう時もあのキャンプ地で一休みしたんですよレウィリリーネ様♪」
「またあそこでアリサ様のご用意下さったお弁当を頂きましょう?」
……そう言えば、『白銀』と『黒狼』にガウスとムラーヴェは一足遅れて『聖域』に来たんだったね? ミストとシェリーの言うキャンプ地が眼下に見えてきた、あそこでアリサお姉さんの作ったお弁当食べたの? ちょっと羨ましい。
「では降下するぞ、しっかりつかまっていろ」
「うむ…ちと早いが飯じゃな!」
リンとシドウも確認して、そのキャンプ地に降りて行く。どうやら他にそのキャンプ地を利用してる人はいないみたいで安心するね。
「……今は、まだ……街の北には……あまりめぼしい物がない、だが……『セリアルティ王国』復興に向けて、ここも……活発に、なって行く……筈」
タンッとシドウの背から地に降り立つ時、デュアードがあたしにそう言った。そっか、確かに『セリアルティ王国』の廃墟に『魔の大地』って呼ばれた『聖域』しかないんじゃ人も来ないよね?
「う~んっ♪ やっぱり地面は落ち着きますねぇ! 空の旅も素敵でしたけど!」
「アタイ高いとこ苦手だったんだけどな……『飛行魔法』使えるようになって、すっかり平気になっちまったな!」
リンから降りたミュンルーカとセラが大きく伸びをして身体をほぐしてる。地が落ち着くのは無理もないこと。『飛行魔法』で飛べるようになったって言っても、それは魔法で強引に飛んでるだけだから。
「リン殿、乗せて頂き感謝します」
「なに構わぬ。余の乗り心地はどうであった? できるだけ揺らさぬように注意したつもりだが?」
「快適でしたよリン様! もっと乗っていたかったくらいです♪」
『人狼』の姿をとったリンにお礼を言ってるバルドだ。彼は礼儀正しいね、そんなに気にしなくていいのに。そしてリンも気遣いが出来るくらい温和になったね? 以前はとんがってたけど丸くなった。リールに褒められて嬉しそうだし。
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【美味しそう】~さばの味噌煮~《ミュンルーカview》
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「元気出ました~レウィリリーネ様、フォレアルーネ様ぁ~?」
「ん……やっぱりアリサお姉さんの作る料理は絶品」
「な~んかさぁ……「まずこれ食べなさいね?」って言ってたアリサ姉に全部見透かされてる気がするよ、タハハ」
ここは、『セリアベールの街』から北に歩いて約一日の位置にある、旅人のためのキャンプ地ですよ。以前にワタシ達が『聖域』へと向かう際に一泊した場所ですね。今回は逆に『聖域』から『セリアベールの街』に向かう途中に立ち寄りましたよぉ~♪
リン様とシドウ様の背に乗り、上空から見下ろしたかつての『セリアルティ王国』……お伽噺に聞いた魔神との戦いで、破壊の限りを尽くされたその姿を目にして、二柱の女神様が落ち込んでしまいました……このまま街に赴くのもちょっと……と、言うことになり、このキャンプ地で小休止することになったんです。
事前にアリサ様がご用意下さったお弁当を広げ、少し肌寒いけれど、差し込んでくる陽射しは温かく、程よいキャンプ日和でもあるお昼時。美味しく頂いたお弁当の後、二柱の女神様がお口になさっておられるのは温かな湯気を立たせるホットミルク。
「アリサちゃん……きっとフォレアルーネ様達が『セリアルティ王国跡地』を見て、気落ちしちゃうってわかってたんだね」
「ホクホク美味しい肉じゃが、じんわり沁みるお味噌汁……ふんわり甘い玉子焼き……」
「話に伺ったアルティレーネ様を元気付けたメニューだったわね?」
リールちゃんとフォーネちゃんが二柱の女神様が食べたお弁当について話します。『状態保存』の魔法がかけられたお弁当は数日前に作られたのに、出来立てのほっかほか♪ そして、そのメニューについてシェリーはちょっと前にアルティレーネ様からお聞きしていたとっても優しく美味しい、癒されメニューだった事にちょっとびっくりしたみたいですね。
「うまそうだったなぁ~♪ あの肉じゃがとかさぁ~へへ♪ 味はどうだったんだ、レウィリ様に、フォレア様~?」
「へへっ! さいっこーに美味しかったよセラっち!」
「ん♪ しかも、アルティ姉さんの時にはなかったっていう……「さばの味噌煮」も入ってた」
セラもアリサ様特製『セラちゃん用お肉料理詰め合わせ弁当』をバクバクと平らげて、お味噌汁も「とん汁」で大満足だったみたいです。それでも女神様達のお弁当の内容が美味しそうに見えちゃってるなんて~食いしん坊なんですから、ふふ♪
「ふぅ~緑茶が美味いわい、次女と末っ子も元気が出たようじゃし、ふはは、まったくあの性悪魔女め、すっかりお主達の母親のようじゃなぁ~?」
「シドウ、緑茶を美味いと感じるか……余はどうも苦手だが……まぁ、それはよい。
この女神共はまだまだ幼子よ……故に三人で一つの世界の創造を任されたのだからな……」
ちょっとびっくりなのですけど……三女神様達より、『懐刀』の皆様の方が遥かに昔から存在しているそうなんですよね。そんなとっても凄い存在のリン様とシドウ様のお背中に乗せて頂けた事って誇らしいです!
「んぅ……情けないけど、その通りかも……」
「女神なんて言ってもさぁ~アリサ姉に頼ってばっかだしねぇ……でも……」
そのお二人に指摘されてちょっとしょぼーんとしてしまう二柱の女神様ですが、直ぐに表情を真剣なものに変えて、その強い意思を瞳に宿されました。「以前のように負けたりはしないぞ!」って聞こえてきそうですね!
「……『さばの味噌煮』……俺も、食ってみたい、残りの弁当に入って、ないかな……?」
ガサゴソ、ガサゴソ……
「ちょっとデュアード! 開けちゃったら折角の『状態保存』の魔法が解けちゃうでしょう!?」
「デュアードさん! 弁当に入ってたら俺とシェアして食いましょう? だから今開けないで我慢して下さい!」
ちょっとデュアード何してるんですか? 『さばの味噌煮』が食べたかったからって残りのお弁当まで開けようとしないで下さいよ! 私達の分まで開けようとするデュアードをシェリーとブレイドがあわてて止めに入ってます。まったく、普段クールに見えて変なとこで子供なのが玉に瑕なんですよねデュアードって。
「さて、あまりのんびりしてもいられん。レウィリリーネ様、フォレアルーネ様。俺とセラで『セリアベール』へと先行して事情を門衛に話してきます」
「龍と狼に乗ったアタイ達の仲間が来るから驚くなよってな!」
うふふふ~セラってば張り切っちゃって♪ 大好きなバルドと二人になれて嬉しいんでしょうね。でも、のんびりしてもいられないっていうのも本当。
そもそもの話……どうしてワタシ達が『リーネ・リュール王国』と『ルーネ・フォレスト王国』へと向かうのかと言うと、そこを決戦の地とするためなんですよね。
黒フードの一味がどう動こうと、関係なしに『獣魔王ディードバウアー』は復活を果たす。それは『武神リドグリフ』も『技工神ロア』も同じ……そう、シェラザード様やヴェーラがそうだったように、『不滅』持ちの魔王達は周りがどう騒ごうと問答無用で復活すると言うのです。
「復興はアイツ等をぶっ飛ばした後でゆっくりやればいいんだよ……十全の力を持って復活するってならドンと来い!」
「それ以上の力で吹き飛ばす……あたし達はもう昔のあたし達じゃない……」
と、このようにフォレアルーネ様もレウィリリーネ様も猛っておられます。かつて勇者達に倒されたそれぞれの魔王が復活する土地でもある亡国。ならば周りを巻き込む事も少ないだろう、と言うのも理由ですね。
(……もしかしたら、その戦いでワタシも死んじゃうかもしれませんね。でも、恐怖はないんですよねぇ……変な話ですけど♪)
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【行くぜ!】~駆ける二人~《セラview》
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「おし! 『圧縮』で一気に北門まで行くぜバルド! アタイにちゃんとついてこいよ!?」
「ふっ、それは俺の台詞だセラ。お前こそ遅れるなよ?」
へんっ! 言いやがるぜバルドの奴! 膂力じゃあお前に敵わなくても速度でなら負けねぇぜ!? さて、さっさと『セリアベール』に行って女神様がすんなり入れるように手配しねぇとな!
「「『剣聖剣技奥義の歩方』」」
スウゥーと静かに『剣聖剣技奥義の息吹・神気循環』で自分の神気を高めて行くアタイとバルド。アリサの『無限円環』内における一年間に及んだブッ飛んだ訓練の果て、アタイ達の実力は正直に言うと、ヤバイ領域にまで踏み込んでいる。
なんせアタイ達が喧嘩する相手は魔王共。元々『神界』に住まう神そのものだ、神相手に通常の武器だの魔法だのは一切通じない。だったらどうする? ってんで、アタイ達は鍛えに鍛え抜いた。その結果……
「「『圧縮』!!」」
ズドォンッ!!
派手な炸裂音をけたたませ周囲の景色がぶっ飛んで行く。
そう。対抗する手段はアタイ達も神気を纏う事。更にその神気を宿す武具を手にする事。その両方を手にするにはとんでもねぇ苦労があったが、その分滅茶苦茶強くなれたんだ。今ならあの『氾濫』の時に出てきやがったヘカトンケイルとか、アースドラゴンとか、ケルベロスとか、ベヒーモスだって軽く一捻りでぶっ倒せる自信……いや、確信がある!
「しかし、それでも慢心は出来ん……確かに俺達は女神様方からも、かつての勇者達を超えた実力といわれたが……それはどのくらいなんだ? 勇者達が戦った魔王達は『神界』の掟を破ったことで、その力は十全ではなかったとも聞いたぞ?」
そうなんだよな……バルドの言う通りだぜ、今度復活するって言う魔王達は、かつて勇者達に討たれたことでそのペナルティも解かれ、全力でその猛威をふるうだろう。そんな超弩級の化け物を相手にアタイ達の力が通じるのか?
「そう考えりゃとてもじゃねぇが慢心なんてしてる暇ねぇぜ!」
「ああ、それに……だ。アイギス達『白銀』が束になってもアリサ殿には指一本触れられず完敗したあの一戦を見て、まだまだ俺達は甘いのだと悟った」
応。アタイもあれは信じられない思いで観戦したぜ。アタイ達もアイギス達と同じくらいの高見に登ったつもりでいたけど、アリサはそんなアタイ達を歯牙にもかけねぇほどだ。正直ショックがデカイけど、同時に安心感もある。
「今はまだ及ばねぇにしても、『氾濫』の時みてぇにアリサに任せきりにはしねぇ! いいかバルド! アタイ達は全力でアリサの力になるんだ!」
「ああ! 受けた数え切れない程の恩義に報いなければな!」
ズドオォオーンッ!!
圧縮された景色を後方に吹っ飛ばし、アタイとバルドは駆ける。そうさ、アタイ達の気持ちは最初から変わらねぇ、あの面白可笑しい『聖域の魔女』の力になりてぇ……いつまでもアイツと馬鹿やって楽しく日々を過ごしてぇんだ!
バアァァーンッ!!
「うおぉっ!? な、なんだなんだ!?」
「炸裂音!? なんだ! 魔物の襲撃か!?」
おっと、やべぇやべぇ……『圧縮』を解除した衝撃音が爆ぜて派手な炸裂音を出し、『セリアベール』の北門の門衛を驚かせちまったぜ。やっぱすげぇなこの『剣聖剣技奥義の歩方』ってのは、ものにすんのに苦労した甲斐はあったぜ! あのキャンプ地からマジに一瞬で移動できるんだもんな。
「驚かせて済まない。『黒狼』のバルドだ」「よ! アタイもいるぜ~♪」
「バルドさん! セラさん! お帰りなさい!」
「お、驚きました……しかし『黒狼』は『聖域』へと旅立たれたのではなかったのですか? 随分お早いお帰りですが……」
ははは、門衛の二人が目をまるくして驚いてやがるぜ! へへっ、『無限円環』で一年過ごしたせいかめっちゃ久し振りに感じるなぁ~でも、実際はそんなに日も経ってねぇんだよなぁ?
「ああ、勿論行って来たぞ。そこで俺達は更なる力をつけ、アリサ殿達の力となるべく動いている」
「なんと! 確かに先程のバルドさん達の移動もまったく把握できませんでした……」
「つい先日アリサ様もこの『セリアベール』においでになりました、既に『エルハダージャ王国』へと旅立たれたそうですが……」
お、流石は歴戦の冒険者ギルド職員だな。さっきのアタイ達の移動方が並のもんじゃねぇって直ぐに気付きやがったぜ。そしてアリサ達も無事に計画を進められてるみてぇだ、既に『エルハダージャ王国』に向かったって事は、うまいことガッシュの奴を誘き出せたか。
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【とある『人狼』】~愉快な連中~《リンview》
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「おお、お、おはっお初にっおおお目にかかか、りますっ! 『神狼フェンリル』様っ!!」
余の目の前には深く頭を垂れ、ガチガチに緊張した一人の『人狼』の姿。うむ……どうやら余の威厳はしかと届いておるようだ。
バルドとセラが先行し、事前に『セリアベール』の街の者達に女神達の来訪を伝えてくれたお陰で、余達はスムーズに街に入ることが出来た。各ギルドとやらの代表の者と、ユグライアが出迎えに来てくれたのもありがたい。『黒狼』や、リールにフォーネと、この街を知る者が一緒とはいえ、住人達の好奇の視線は煩わしい故にな。
「お待ちしてたぜ~女神様方! どうだい俺等の街は? 結構立派だろ~?」
「んなあぁぁーっ!? 馬鹿ゼオン! お前女神様方に対してなんて口を聞くんだ!?」
「謝ればか野郎! 地に頭つけて謝るんだ!!」
申し訳ございません女神様方! 馬鹿な代表がとんだご無礼をっ!!
ふはははっ! なんだコヤツ等は!? 実に愉快な連中ではないか! ユグライアの奴め、他の代表共に頭を押さえつけられ謝罪するようにもみくちゃにされておるわ。
「あっはっは♪ いいよいいよ~気にしないで! ユグラっちはうち等と一緒にアリサ姉のごはん食べた仲だかんね、マブダチだよマブダチ♪」
「ん。その通り、ユグライアはあたし達の朋友。この創世の女神の一柱、『調和』のレウィリリーネが保証する」
「あ、うちは『終焉』のフォレアルーネだよ♪ よろ~(σゝω・)σ」
そう女神二人が言えば、代表共は一瞬呆気にとられたような表情を見せた後、直ぐ様我に返り、ははーっ! と、全員が頭を下げた。
「ほっほっほ♪ 儂は『黄龍』のシドウ、女神の『懐刀』の一人じゃ。コヤツ等は、なりは見ての通りの小娘じゃが、紛れもない女神共じゃ、そう長く滞在する訳ではないが、くれぐれも相応の扱いを望むぞい?」
「ここ、『黄龍』様!? ああ、あの、『四神』様を束ねる……っ!」
「ははーっ! かしこまりました!」
続けてシドウが自己紹介しつつ、この者達に対し、女神を扱いについて釘を刺す。ふむ、そうまでせんとも大丈夫と思うがな? コヤツ等には邪念の類いを感じ得ぬ。まぁ、余もシドウに倣い、自己紹介をしておくか。
「同じく、女神の『懐刀』である『神狼フェンリル』である。アリサ様より『リン』という気高くも尊い御名を賜りし者だ」
「あばばばっ!!? 『神狼フェンリル』様までも……」
「あ、ダメ……私、気が遠く……」
「お、おいっ! しっかりしろ! 気絶してる場合じゃないぞ!?」
……それほど驚かれる事か? 女神に続き、シドウと余の自己紹介を聞いた代表共は、皆口を大きくあけ、非常に驚いた様子を見せる。中には気を失う者まで出る始末だ。肝が据わっておらぬな。
「っちゃぁ~ったく! いい大人が情けねぇなぁ~? ゼオンのおっちゃん、取り敢えずギルドに移動した方がよくねぇ?」
「あー、一応事前に話しといたんだけどなぁ~しゃあねぇな。ブレイドの言う通りギルド行くぞ~お前等?」
やれやれ、ブレイドもこの情けない者達にため息をついておるわ。そして、余達はユグライアの案内で冒険者ギルドとやらに移動する事となり……
「ほら、ゲン。『神狼フェンリル』様こと、女神の『懐刀』であるリン様だぞ? お前会いたがってただろ?」
「ぜぜぜ、ゼオンさん! 確かに一度お目にかかりたいとは言いましたが、それは遠目にお姿を拝見出来ればいいという程度でして!!」
冒頭の『人狼』、ゲンと言う者に会うこととなったのだ。
「ああ、もも申し訳ございませんリン様! 貴重なお時間を俺、あっいやいや! 私などのために割いて下さいまして、なんとお詫び申せばよいか!!」
「いやいや、きょーしゅくしすぎっしょゲンちゃん~?」
「ん。過度な謝罪は逆に不敬。その辺にして?」
余に会ったことで、緊張がピークに達しているのであろう。ゲンは何度も何度も謝罪を繰り返すばかりでまったく話が進まぬ。これには流石に辟易した女神達から注意が飛んだ。ううむ……こうも余は畏れられておるのか……以前にも思ったが、余ももう少し世俗の事に目を向けるべきであるな……
「はいはい、ゲンさんはそこで気を付けしてお話聞いてて下さいね~♪」
「あ、はい!」
女神に注意され何も言えぬゲンに、ミュンルーカがそう声をかければ、ゲンはピシッと背筋を伸ばし直立不動の姿勢を取った。なにか、その……済まぬな。後程時間を取ってゆるりと話そうではないか。
「さて、先日アリサ様にレーネ様、そして珠実様から皆様の来訪のご予定はお聞きしてはおりました。察するに何かしら重要な案件のご様子……詳しくお聞かせ願いたい」
「確かに重要な事だが、そう構えるなディンベル。レウィリリーネ様もフォレアルーネ様も堅苦しいのは望んでいない」
ほう、あやつがラグナースを師事したという商業ギルドの代表か。ふむ、他の者と比べ貫禄があるな……畑は違えど、歴戦の猛者を思わせる。
「はは、済まねぇなバルド。俺のセリフ言ってくれて感謝するぜ。さて! んじゃ改めて……
『セリアベール』の各ギルド代表達、よく聞いてくれ。『聖域』からわざわざ女神様達がお出でになったのには当然訳がある! 重大な話でもあるため、箝口令を敷くつもりだ」
ざわっ!! 箝口令だと!? それほどの事態が起きているのか!?
「静粛に! 女神様と陛下の御前であらせられるぞ! 卿等もギルドを束ねる地位にあるならば泰然自若を心掛けられませい!」
しーん……
ふっ、流石は『セリアルティ王国』の聖騎士ビット。ユグライアの発言にざわめき立った皆が、その一喝でピタリと静まりおったわ。
「諸君が騒ぎ立てるのも無理はない。箝口令なんて敷くのは俺も初めてだからな。だから、それに承諾できんと言う者は何も言わずに席を立て」
……誰も席を立つ者はおらぬな。見れば皆、事の重大さを感じとったのであろう、その顔付きがまるで戦場を前にした猛々しい戦士のものと遜色なきものに変わっている。
「……よし。流石は『氾濫』を乗り越えて来た『セリアベール』の猛者達だ。俺はお前等を誇りに思うぜ!」
「お褒めにあずかり光栄だ……どうやら、大きな事態が起きてるようだな?」
ユグライアが誰も席を立たぬのを見て、皆を褒め称える。うむ、中々の統率よな。さて、場も程よく引き締まった、余達の事に魔王の事。目的を共有しようではないか。
セラ「そういやバルド~?(_ _)」
バルド「どうしたセラ(´・ω・`)?」
セラ「アタイ達『聖域』に拠点移すんだろ?(・о・)」
ミュンルーカ「あー( ̄O ̄) ホームはどうしましょって話~?(^_^;)」
バルド「あ~(;´д`) それなぁ……実は迷っているんだ(´ヘ`;)」
デュアード「……『ハンバーグ』か『フライドポテト』に貸す、と……言う、話……なかった、か?(  ̄- ̄)」
シェリー「それね、彼等断ったのよね(,,・д・)」
ブレイド「はぁ~?( ゜Д゜) なんでだよ、冒険者するなら家あった方が良いに決まってるぜ?σ(´・ε・`*)」
ミスト「そう、だよね?( -_・) どうしてドランドさんとルルリルさん達は断ったんだろ?(・・;)」
バルド「アイツ等本当の本当に一から冒険者としてスタートするつもりみたいだぞ?( ´ー`)」
セラ「マジかよ?(;゜д゜) すげぇな、アタイなら絶対甘えてたぜ?( ̄▽ ̄;)」
ミュンルーカ「ワタシもワタシも(^o^;) 自分で言うのもなんだけど、信頼できる筋から紹介された物件だし、断る理由がないですよ~♪( *´艸`)」
デュアード「……己に、厳しい((・ω・`;)) 尊敬に……値する(´-ω-)」
ブレイド「はぁ~(; ゜ ロ゜) ドランドのおっちゃん達とルルリル姉ちゃん達なら大丈夫だろうけど、普通の奴等だと冒険者始めるの大変なのにな?(ーー;)」
シェリー「そうね( ゜Å゜;) どぶさらいとかゴミ拾い、大通りの掃除にありとあらゆる雑用をこなして安い報酬で細々と……(TдT)」
バルド「魔法使いはまだいいだろう?( `д´) 俺達剣士や騎士、戦士と言った前衛は武器に防具の手入れにもお金を使うんだぞ?(>_<)」
ミスト「あはは(゜∀゜;) ブレイドもよく困ってたよね?(*´∇`)」
ブレイド「あー(ーωー) 剣を手入れする金なくてずぅっと雑用ばっかやってたな(*T^T)」
ミュンルーカ「それを聞いても「望むところだ!( ・`ω・´)」って言うんですから、見上げたものですよねぇ(*´▽`*)」
セラ「やっぱ『懐刀』と『四神』の教えが厳しいんだろうなぁ~(*゜ー゜)」
デュアード「特に……珠実様、とか……厳しそう、だよな?(´゜ω゜`)」
バルド「だな(^-^;) それでホームはどうする?(-ω-)」
シェリー「アイギスさん達『白銀』も保留にしているし、お金にも余裕があるからまだそのままでいいんじゃないかしら?(゜ー゜*)」
ミスト「ディンベルさんの商業ギルドにも立ち寄って、お家賃と、一応『ハンバーグ』と『フライドポテト』の事もお話しておきましょう♪(*^-^)」
セラ「それがいいな!( ・∇・) ついでに冒険者ギルドで『聖域』の魔物の素材換金しとこうぜ!(*`▽´*)」
黒狼達「おー!ヽ( ・∀・)ノ」




