101話 聖女と猫幼女と戸惑う虎人
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【セリアベールの裏側で】~『企み』~《ガッシュview》
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「ほう……あの魔女の身内の護衛とはな。クククッ! やはり油断を見せたな」
「これは好機。して、ガッシュよその『人猫』の娘は何処に向かうつもりなのだ?」
「は。『ゲキテウス王国』でございます」
ここは『セリアベール』の街にある『ディード教団』の支部……と言っても、決して表立っての物ではなく、隠れ潜む為に偽装した家の地下室だ。そこで私は今回の件を幹部達に報告していた。
『セリアベール』の冒険者ギルドにて、私に思わぬ依頼が飛び込んで来た。あの『氾濫』を解決に導いた魔女の身内。『人猫』の幼子を『ゲキテウス王国』まで護衛すると言うものだ。しかも、魔女と女神は真逆の方角の『エルハダージャ王国』へと旅立ち、更に『白銀』達はドワーフ王国たる『ジドランド王国』へと赴いている。
「ふふふ、ならば道中丁重に護衛せねばならんな?」
「うむ。客人として迎え入れ、魔女と女神相手との交渉に役立って頂くとしようではないか」
今この支部にいる幹部は二人。『蛇人』のヴァルジャ様。そしてエルフのジャイファ様のお二人である。『氾濫』での混乱に紛れ、『セリアルティ王国』の末裔、王族の血を継ぐゼオンの暗殺に失敗したことにより、目立つ動きをするべきではないと、雌伏の時を過ごしていた。
「ちょうど『ゲキテウス王国』にはボスが率いる幹部に多くの教団員が潜んでおりますな」
「うむ。我々はこの好機を早々にお伝えしておくとする」
「ガッシュよ、くれぐれも丁重にその『人猫』の幼子を護衛せよ、我々も急ぎ後を追いボスと合流する」
はっ! 私はお二人に深々と頭を下げ、この任務を必ず成功させると誓う。これであの恐ろしい魔女と女神を抑える事ができれば、我々の理想は成就も目前である! 後は……
「一つ、お耳に入れて頂きたい事がございます」
「ふむ?」「なんだ? 申してみよ?」
「此度の護衛任務に際し、そのメンバーについてなのですが……十年程前から消息が不明であったあの『猫兎』達が現れ、参加することとなったのです」
私の報告に幹部のお二人が少しばかりの驚きを見せる。うむ……私も驚いた、だが、本当に驚くべき点はそこではなく……
「摩訶不思議なことに、彼女達の容姿が十年前となんら変わっておらぬのです」
「なんだと? 『人猫』に『兎人』なら百歩譲ってわからなくもないが……」
「リーダーのレジーナは『人間』であったはず……解せぬな、他に情報はないのか?」
「はっ、何でも時の流れの違うダンジョンに挑戦していたとかで、本人達も十年が経過していた事に驚いている様子でした」
私も『誉』時代に『猫兎』達と面識はあるのでわかるのだが、再会した彼女達は当時とまったくその容姿が変わっていなかった。彼女達が『セリアベール』の冒険者ギルドに現れた時は場が騒然となったものだ。私も我が目を疑った程である。
「ふぅむ……なんとも奇妙な、どう思われるヴァルジャ殿?」
「うむ、頭が痛いな……よりにもよってあの問題児共が帰って来たのか」
さて、「酒に騒ぐドワーフも即座に黙る」とは誰が言った言葉だったか? 『猫兎』が酒場に現れれば、途端に喧騒が止み、客は皆戦々恐々と萎縮したものだ。
その見目麗しい女性達に言い寄る無知な男共に、血の制裁を与える僧侶のモモを筆頭に、触れようと伸ばす手を容赦なく切断してのける『斥候』のニャモ、それを『魔法戦士』のネネが謝ろうと、リーダーである『剣士』レジーナが構うことはないと一蹴し、今度は『踊り子』のミミがまた新たに問題を起こす。
「一度騒動が起きれば、最後には誰一人として客は残らず。泣いて「出ていってくれ!」と懇願する酒場の店主に……」
「ふんぞりかえる『猫兎』四人と、顔面蒼白となったネネが、ただひたすらに平謝りをする姿だけ……」
……はあぁぁぁーっ。
私達三人は揃い盛大なため息をついた。出発前から早くも前途多難なのが手に取るように想像できてしまう。私はあのにゃるろって様を護衛しつつ、あの問題児達と旅をしなくてはならないのだ。
「しかし、何故『猫兎』共が同行する事になったのだ?」
「ゼオンとてあやつらとは旧知の仲であろう?」
「ジャイファ様、ヴァルジャ様。旧知の間柄だからこそでございます……」
何故突如現れた『猫兎』達が同行する事になったのか? それはゼオンの奴が体よく厄介払いしたためだ。
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【一緒に行くのは】~誰だ~?~《にゃるろってview》
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「それでは共に行くのは『七つの光』の皆で決まりか?」
「あー? アーヴィル達は『セリア洞窟』から戻って来たばっかだぞ? 却下だ却下。上にエミルが報告待ってんだ、早いとこ行ってこいよ?」
私の話を聞いて、少しばかり考えてたガッシュくんだけど、切り替えたようにゼオンに対して同行するパーティーはアーヴィルくんが率いる『七つの光』のみんなでいいのか? って確認を取った。
しかし、ゼオンの言い分は『セリア洞窟』の調査から戻って来たばかりの彼等に、直ぐ様私の護衛クエストを受けさせるつもりはないって断ってる。
アーヴィルくん達も「確かにそうだ」「さっさと報告にいかなきゃね~」って納得し、辞退して、冒険者ギルドの二階に登って行ったよ。
にゃん♪ みなさんこんにちはだにゃ~! 魔女のアリサさんこと、今や『人猫』の幼女に変身中のにゃるろってちゃんが『セリアベール』の冒険者ギルドからお届けするぞい?
「ふむ、彼等ならば腕も立つし申し分なかったのだが……それではデールはどうだゼオン?」
「デールの野郎は最近『学校』の方に付きっきりなんだよな……しゃあねぇ、受けてぇ奴等は大勢いるみてぇだし、抽選でもすっか?」
おいおい、抽選だなどと……いい加減が過ぎるんじゃないか? ってガッシュくんのド正論。これには聖女の私も苦笑いで見守っているよ。だけど、ゼオンは大丈夫大丈夫! って、サムズアップからのニカッ! って笑顔を見せてくる。
「我が『セリアベール』の冒険者は優秀な奴等が揃ってんだぜ!? 安心してくれや!」
「はぁ~なんなのだその妙な自信は……ピンキリだろうが? これは私が気張らねばならんか?」
「あはは、なんか始まる前から苦労かけちゃってごめんなさいね、ガッシュさん?」
わーわーと抽選に沸き立つ冒険者達を横目に、頭を抱えるガッシュくんに、聖女の私もとりあえず謝っておくとする。うむむ、きっと『誉』時代もこうやってゼオンや脳筋のゲッキーにエミルくんと同じように振り回されていたんだろうねぇ?
「エミルくんとガッシュさんは苦労してそうね……聞けば『ゲキテウス王国』の王ちゃまも同じ『誉』ってパーティーだったんでしょ?」
「わかっていただけるかアリサ様? そうなのだ、このゼオンと言い、ゲキテウスと言い、デールと言い……ココノエと言い……皆勝手が過ぎてな、私とエミルはもう~苦労ばかりかけられたものだ」
くぅっ! って思わず男泣きするガッシュくんだ、うむうむ。やはり読み通り彼も苦労人だったのだねぇ~まぁ、そんなに悲観しなさんな。
「きっとガッシュくんとそのエミルってのがいたから、パーティーとして成り立ったんだにゃ。泣くことないにゃ~胸を張って「ゼオンのバカヤローっ!!」とか叫んで、一発ぶん殴るといいんだにゃ!」
ポンポンっ! って、よよよしてるガッシュくんの背中をさすってあげて、一言アドバイスをしておく。そういうストレスは溜め込んじゃいかんよ? 発散しなきゃね?
「にゃ、にゃるろって様……ふ、ふふふ! それはまたなんともシンプルな解決法ですな! 是非とも今度『セリアベール』に戻ってきたらやってみます!」
「はぁ~まったく、この子ったら見た目いいとこのお嬢様なのに、大地の影響受けまくって、とんだ脳筋娘になっちゃってるわ……ガッシュさん、苦労かけるかもしれないけど、よろしくお願いね?」
お任せ下さい! って聖女に元気に返事を返すガッシュくんを、内心「キミも脳筋だよね?」とツッコミつつ、急遽始まった護衛クエスト抽選会を見守っていること数分。その報せは舞い込んできた。
「おおぉーいっ! みんなぁぁーっ大変だぁぁーっ!!」
ドダドダドダドダーッ!!!
わいのわいのと賑やかな冒険者ギルドに、一人のギルド職員さんが大声を挙げて駆け込んで来ると、みんなの表情が真剣なものに変わり、「なんだどうした! 魔物が襲って来たか!?」と一瞬で緊張感を持った空気が流れ始める。いつもこうなのだろう、長年の『氾濫』を経験した彼等のこの切り替えの速さは見事としか言いようがない。
「キャッ、『猫兎』だ!! アイツ等生きてやがった!!」
なんだってぇーっ!!?
「やべぇ! 魔物よかよっぽどタチ悪ぃのが来やがったーっ!!」
「ややや、おお、落ち着けって! 十年経ってんだぜ? 流石に落ち着いてんだろ?」
「変わってねぇ……」
「「「えっ!?」」」
アイツ等どーいうわけか十年前のまんまなんだよぉぉーっ!?
うそだろぉぉーっ!!? って言う叫びが、ひえぇ~! 凄くうるさい! 耳の良い『人猫』に変身してる分、みんなの絶叫が凄く響くよ。
「やべぇな、おい! 酔っ払い共を今すぐ叩き出せ! 手の空いてる職員は街の酒場の奴等に言って聞かせろ! ディンベルんとこにも協力を仰げよ!?」
「「「おおぉーっ!! ホレ急げ急げ!」」」
え~? ナニコレ? 『猫兎』の名前を聞いた瞬間に起きたこの騒動に私はわけがわからずにポカーンとお間抜けに口あけてぼーぜんとしてしまったのでした。
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【恐れられる】~『猫兎』達~《アリサview》
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「やれやれ、久し振りに立ち寄ってみれば……」
「んふふ♪ これは何のお祭りなのかしらね?」
「お祭りです? じゃあももちー頑張って沢山粉砕☆しちゃいますね~♪」
「お祭りって言うなら、やっぱり踊り! あたし頑張っちゃうよ!」
「あはは……お、お久し振りです『セリアベール』の皆さん」
うわあぁぁーっ!!? 出やがったあぁぁーっ! マジで十年前と変わってねぇぇーっ!!?
あい。聖女のアリサさんですよ~♪ いや~楽しいねぇ楽しいねぇ!
一人の冒険者ギルドの職員さんが『猫兎』の来訪を告げた途端、騒然となったこの『セリアベール』の冒険者ギルド。ゼオンの指示が周りの職員と冒険者達を動かすけれど、既に彼女達はこの冒険者ギルドにその姿を表してしまった。
と、まぁここまでは事前に話していた私達による仕込みだ。勿論みんなとっくに気付いてたよね? ふふ♪ そんなわけだから、是非ともゼオンと『猫兎』達の名演技をご覧あれ♪
「ウッソだろ!? おめぇ等なんで全然変わってねぇんだよ!?」
「私は悪夢でも見ているのか……?」
ゼオンの驚いたと言うその言葉にガッシュが項垂れ、他の職員も続く。冒険者達は恐れ戦きそそくさと退散していく有り様である。うーむ、こりゃ相当だねぇ、レジーナ達って十年前はかなり悪目立ちしてたようだ。
「おやおやおや! そこにいるのはもしかしなくてもゼオンにガッシュじゃないかい? 久し振りだねぇ~このボク……レジーナを覚えてくれているかな?」
「あらあら、二人とも随分老けたわねぇ~? 特にガッシュ? あなた随分苦労してるように見えるわよ?」
芝居がかった大袈裟な仕草で、集まる冒険者と職員さん達の間を抜けて受け付けカウンターの前までやってくるレジーナ。その隣にクスクスと怪しく微笑みながら静かに歩いてくるニャモ。どうやら彼女の目にはガッシュがより老けこんでるように見えるようだ。
「あ、あの! 大丈夫ですから! 私達、変に絡まれたりしなきゃ問題なんて起こしませんから!」
「そうですよ~ももちーが粉砕するのは悪いことする人ですよ~?」
あーこの感じちょっと懐かしいぜ~とか言う声もちらほら聞こえ始めたのは、続いて登場してきたネネとモモの姿を見たからだろう。困り顔で、胸の前で両の手をパタパタ左右に振りながら弁明しているネネに、腰にでっかいモーニングスターを携え、てくてくと可愛らしく歩くモモ。
「実際に苦労してるのだから仕方ないだろう? それよりもお前達こそどういうわけだ?」
「ったく! 『氾濫』の次はトラブルメーカーがやって来やがるたぁな……」
ガッシュとゼオンがはぁ~ってでっかいため息をついて、レジーナ達に悪態をつきながら、何か聞きたがっている。まぁ、十年前とまったく容姿が変わっていない理由が知りたいんだろう。しかし、その時だ。
「ぎゃああーっ!!?」
ズデーンッ! ドガドガバキィッ!!
「こーら! 踊り子にお触り厳禁って忘れちゃったのー!?」
一人の冒険者が派手に吹っ飛んでテーブルだの椅子を巻き込んでぶっ壊したよ。ミミが扇を構えてその吹っ飛んだ冒険者に文句言ってるから、セクハラでもしでかしたんだろう。
「ああぁ~早速かよ!? ええいっ! お前ら散れ! 落ち着くまでギルドに来んな!」
「えー! 手出さなきゃ大丈夫だろ~?」「ははは、遠巻きに見物してるさ」
「安心しろってギルマス~♪」
やんややんやと騒ぎ出す冒険者達を見て、さっきゼオンが口にした「トラブルメーカー」って言葉が脳裏をよぎる。うむ、なるほど。こんな感じで行く先々で悪目立ちしてたのか『猫兎』達は。
「まーったくぅ! すーぐミミのおっぱい触ろうとしてくるんだから! あれ? ちょっと老けてるけど、ゼオンさんとガッシュさんだよね? 久し振り~♪」
はぁぁぁーっ……再びゼオンとガッシュが盛大にため息。毎度こんな騒ぎになっちゃ頭も抱えたくなるわよね、お疲れ様です。
「あぁ、まあ……久し振りだな『猫兎』達。お前達が消息を断って十年くらい経つんだが……今までどうしていたのだ?」
「ふふ、実はボク達も最初驚いたのだがね……」
それからレジーナはガッシュの質問に対して、あらかじめ決めておいた設定を説明した。時間の流れが違う不思議なダンジョンの発見と攻略。しかし、それに気付いたのは、ダンジョンから出て、街に戻った後だったことなど。如何にも実際に体験してきたかのように話すもんだから、私は感心してしまったよ。
「……『ルヴィアス魔導帝国』にそんなダンジョンがあったのか。ううむ、やはり世界は広いな」
「そうだね……時に、さっきから気になっていたのだけどね。このお二人は何方なんだい? 紹介してくれると嬉しいのだがね?」
話を聞いてうんうんと納得したガッシュを確認して、レジーナは一度私達に目をやり、ゼオンとガッシュに私達を紹介するように頼んでいる。うん、私達は今日が初対面って事になってるからね、自然な流れだ。
「ああ、この嬢ちゃんは依頼人だぜ。しかも、聞いて驚けよ~?」
そうして今度はゼオンがレジーナ達『猫兎』に対して、『氾濫』の解決に至るまでのあらましを、少し大袈裟に話して聞かせるのだった。
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【見極めるさ】~君の旧友として~《レジーナview》
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「はぁ~あのさぁゼオン。つくならもう少し現実味を帯びた嘘をつきなよ?」
「『悲涙の洞窟』が実は十階層構造だったとか……」
「お伽噺の魔王が原因で『氾濫』が起きていたとか」
やあやあ、みんな! 元気にしているかな? 『猫兎』を束ねるボク。レジーナが今の状況をお伝えしていくよ! ボク達は事前にアリサ様の『無限円環』と、『聖域』で話し合って決めたように、アリサ様達より少し遅れての『セリアベール』への到着となった。この街には十年前にも何度か滞在したことがあったんだけどね、うん。ますます発展しているのがよくわかるよ! とてもじゃないけど、何度も『氾濫』の猛威に曝されて来た街には思えない。普通の街ならとうの昔に滅んでいるはずだ。
それを乗り越えて発展した街並みを見て回り、冒険者ギルドに足を踏み入れてみれば、ふふ♪ なんだいなんだい? とても賑やかじゃないか? どうやらボク達の事を覚えている者がそれなりにいたようで少し嬉しくなってしまったよ。
そんな中で再会した旧友のガッシュを見て、改めて十年と言う年月は残酷なのだなと感じてしまった……彼の毛並みはやや荒れ気味で、艶も失せてしまっているし、何よりもその顔はくたびれたものだ、でもその瞳には十年前以上の強い意思を感じたね。
その意思はきっと同朋たる『亜人』の環境を憂いてのもの……でもね、『魔王ディードバウアー』に頼って叶えるものじゃあないだろう? ガッシュ。君達には悪いが、その企みはボク達が全力で阻止させてもらうよ?
内心でガッシュに対し感情を昂らせつつ、ゼオン達と話を合わせて行く。この『セリアベール』を長年悩ませてきた、『悲涙の洞窟』からの『氾濫』を解決に導いたアリサ様の活躍をゼオンは詳しく話してくれる。まぁ、大部分は既に聞いていたのだがね、今のボク達はアリサ様とは初対面と言う事になっているから、あえてその話を信じられないと断じるのさ。
メンバーの皆もそれは承知だからね、上手くボクの言葉をニャモとネネが繋いでくれているよ。
「大体ですよ? こーんな美人なお姉さんが、よりにもよってあのベヒーモスを吹っ飛ばしたとか信じられませんよねぇ~?」
「ははは! ミミよぉ~人を見かけで判断しねぇ方がいいぜ~?」
「うむ。信じられぬのも無理はないだろうが……私達は実際にその光景を目の当たりにしたからな。なんなら他の者にも聞いてみるといい」
聖女のアリサ様を指差して「うっそだぁ~!」って騒ぐミミだけど、いけないよ? 人を不用意に指差すんじゃありません。後で叱っておかないといけないね。
「ふふ、随分と楽しそうなパーティーね? 私は今の紹介にあったアリサよ。よろしくね『猫兎』のみんな♪」
「ああ、これはご丁寧に、ありがとう。ボクはレジーナ。この子達のリーダーを務めさせてもらっているよ」
ゼオンによる紹介が終わり、アリサ様がボク達に向けて挨拶をしてくれる。それはとても洗練された見事な所作の礼節だ。『ランバード公爵家』でもこれほどじゃあない、ボクも丁重に礼を反さねばいけないね。
「にゃんにゃんにゃにゃにゃん!」「ももももちー♪」
「うーにゃうーにゃ♪ にゃーるろってちゃん!」「にゃーるろってちゃん!」
「もーも♪ もーも♪」「ももももちー♪」
「にゃにゃーん!!」「ももーん!」
「わぁー♪ お上手ですにゃるろってちゃん!」「モモも可愛かったわよ~♪」
そんなボクとアリサ様のやり取りの横でミミと一緒にダンスを踊る、魔女のアリサ様が扮する『人猫』の女の子とモモ。ネネとニャモの合いの手に、二人とも息の合った一回転のターンを決めて両の手を高く頭上に広げてフィニッシュ! ネネとニャモの称賛の歓声が響く。因みに、ミミは今回の主役は彼女達。と、言わんばかりに上手くバックダンサーとなっていた。
「なにやってんだおめぇ等は?」
「お前達! にゃるろって様はかの白虎様のお身内なのだぞ!? 妙な事を教えるんじゃない!」
はぁーっ? 駄目だねぇ~この男共め。何もわかってないようだ。
「ブーブー! ガッシュくんげんてーん!」
「ここは上手にダンスを踊れたにゃるろってちゃんを褒めるところよ?」
うんうん、その通りだね。ミミもニャモもよくわかってる。小さな子には恭しくするよりも、親しみをもって距離を縮めるべきなのさ。
「そーんなんだから十年経っても独身なんですよ?」
「ちょっ!? モモさん! 失礼すぎですよ!?」
「よ、余計なお世話だ!」
ははは! モモにズバリ図星を突かれ、赤面して怒るガッシュが何か面白いね。君は真面目すぎるから、からかいにも律儀に反応を返してくれるよね。
でも、だからこそ、黒フード達の手を取ってしまったのかい? 君が悪巧みをするとは思えないからね……これからの旅で見極めさせてもらうよ?
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【同朋の未来のために】~耐える!~《ガッシュview》
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「おお、そうだそうだ! ちょうどいいぜ! おい、レジーナ。お前達一つ依頼をやってくれや」
「おや、なんだいゼオン? ボク達今日は街を見て歩いてのんびりするつもりなんだがね?」
「冒険者ギルドには挨拶しに寄っただけで、クエストを受ける気はなかったのよ?」
思わぬ来客。まさかの『猫兎』達の登場に、すっかりペースを狂わされた私は、『猫兎』のメンバーの一人である、『兎人』で、『僧侶』の少女モモと、非常にしょうもない口喧嘩をしているところだったのだが、ゼオンが発した一言に嫌な予感がして、口喧嘩をピタリとやめた。
「まぁまぁ、レジーナもニャモもそう言うなよ? せっかくそのお嬢ちゃんと仲良くなったんだろう?」
「うんうん! にゃるろってちゃんめちゃめちゃ可愛い~! あたしはもうお友達だよ!?」
「……そう言えば貴女は依頼を出すためにこのギルドにいらしたのでしたね?」
待て待て! ゼオン、余計な事を言うな! ミミの奴もにゃるろって様と仲良く談笑しつつも反応を反してくる! そして極めつけにネネが魔女に問いかけてしまった!
「ええ、にゃるろってが『ゲキテウス王国』に行ってみたいと言うから……ただ、私達は『エルハダージャ王国』に行かなきゃいけなくてね?」
「ほむむ。護衛クエストです? ももちー受けますよ~因みに報酬はいかほどです?」
あああ! なんと言う事だ!? 確かに私一人では心許ない。それは認めるが、よりにもよって『猫兎』達が着いて来てしまうとは!?
「うーん、私その辺詳しくないのよね。ゼオン、相場とかあるの?」
「護衛の報酬については特に相場は決まってねぇぜ? つーのも、護衛にあたる冒険者のランク。人数、旅程。それに何よりも重要なのが護衛対象の重要度ってのがあってな?」
そ、そうだゼオン! その通りだ! 今回は幼子一人の護衛。『猫兎』達は五人。報酬も微々たるものにしかならんはずだぞ? さあ、諦めるのだ!
「昔にあったのだと俺の親父が『ルヴィアス魔導帝国』に行くのに、腕利き五人雇って、金貨十枚で設定したって記録が残ってるが……」
「んじゃ、金貨十二枚出すわ。ガッシュさんと貴女達で計六人。一人二枚づつわけてね? それでお願いしようかな、どう?」
なっ!? なんだと!? この幼子一人を『ゲキテウス王国』まで護衛するだけで一人金貨二枚だと!?
「「「やりまーす!!」」」
「驚いたわ……随分羽振りがいいのねアリサさん?」
「ふふ、それだけにゃるろってちゃんが大事と言うことじゃないのかな?」
「そうね。大切な『聖域』の家族だからね。可愛い子には旅をさせろとは言うけれど、やっぱり心配だからさ」
むむむ……これは断る方が難しい。しかし、この好機をみすみす逃すのも下策。今魔女が口にしたように、この幼子は『聖域』の者達の弱味だ。上手く事を運べば、一番の脅威を抑える事も可能となる。『猫兎』の再来には驚いたが、それを含めヴァルジャ様とジャイファ様にご相談せねばならん。
「よっしゃ! 決まりだな。いつ出発するんだ?」
「そうだね。先程も話したけれどボク達は何も準備していないのでね、直ぐにでも準備しようと思うが、一日はほしい」
「明日の朝までには整えるわ。幸い『セリアベール』にはお店も沢山あるし」
ふむ、私としても幹部のお二人にご報告せねばならんし、旅支度もせねばならぬ。ゼオンの如何にも「厄介払いできるぜぇ」とでも言わんばかりの笑顔に「バカヤロー!」と叫びたくなるが……まぁ良い。レジーナとニャモの言うように一日を準備に割くのは賛成だ。
「えへへ♪ 道中よろしくお願いだにゃ~ん!」
「はーい♪ ふふ、楽しい旅になりそう~♪」
「にゃるろってちゃんはこのももちーがお守りしますよ~近付く奴は粉砕です!」
「それではアリサさん。にゃるろってちゃんは私達が責任を持って『ゲキテウス王国』に送り届けます! ご安心下さい!」
にゃるろって様の無邪気な笑顔にミミとモモは楽しそうであるな……悪い方にばかり考えてしまいがちだが……私はそう愛想の良い方ではないので、彼女達がにゃるろって様の話し相手となるならば助かるか。しかし、ネネは変わらず真面目だな、依頼主の魔女にしっかりと挨拶を忘れない。
「おしっ! んじゃアリサの嬢ちゃんに、にゃるろってちゃんよ! 依頼書の手続きとかすっから呼ばれるまで寛いでてくれや」
「それじゃあボク達も準備に取りかかろう。出発は明日。早朝にこのギルドに集合でいいね?」
「ああ、それで構わんが……遅れるなよ? 遅れた奴は置いて行くからな?」
そうして『猫兎』達はクエストの準備を整えるために、街へと繰り出して行ったのだった。魔女とにゃるろって様はこれから依頼の手続きを行うようだ、私達の仲介手数料や、依頼書の発行手数料、書類の記入等、まぁ、そう多くはないがやや面倒な手続きが待っている、当然だが依頼者側もやることはあるのだ。
「──と、言った次第でございます」
「なるほどな、そう都合よく事は運ばんと言う事だな……」
「なに、物は考えようだ。『ゲキテウス王国』までの護衛ならば、到着後は離れる事もあろう?」
以上の経緯を幹部のお二人にご説明し、その反応を伺うが、流石よ。大して動じてもおられぬ。ジャイファ様が頷き、ヴァルジャ様が事に及ぶのは『ゲキテウス王国』に到着してからで良いと申される。
「ゼオンを狙おうにも、あの剣士……否、騎士か? 並々ならぬ手練れよ。おいそれと手出し出来ぬ」
「うむ。かの武人ビットの名を語る者だな。故に此度の好機、逃す手はあるまい。よいかガッシュよ? その『人猫』の幼子の護衛、必ずや成すのだ」
「はっ! このガッシュ。同朋の未来のため全霊をもってあたらせていただきます!」
ゼオンの奴が『聖域』から帰って来たときに、一人の騎士を連れ立って来た。その騎士の名はビット。かつての『セリアルティ王国』において、その勇猛さを世に知らしめた伝説の武人と同じ名を持つ者。まさかその実力までも同じとは思わぬが、その立ち居振舞いを見ただけでも相当な手練れと他者にわからしめる程の者だ。下手に手を出して我等の組織が明るみに出るのは避けたいこと。
ならば今回のあの幼子を上手く使い、『聖域』の連中とゼオン達を無力化させる方が懸命なのだ。
ふふふ、見ているがいい。世界よ、もうじき我等『亜人』の栄華の時代が訪れるのだ!
ヴァルジャ「はーいヽ( ・∀・)ノ 皆さんこんにちは(*´∇`*) 『ディード教団』で幹部やらせてもらってる『蛇人』のヴァルジャです~♪(*^▽^*)」
ジャイファ「はい(^-^) 同じくエルフのジャイファと言います(´・∀・`) お集まりの皆さん、今日はね、お話はともかく、私達の名前と、『ディード教団』( ´ー`) この名前だけでもちょーっと覚えていってくれると嬉しいのでね?(^ー^)」
ヴァルジャ「はいはい(*´▽`*) どうぞよろしくお願いしますね♪( ≧∀≦)ノ 早速ですね、私達ってどんな集まりなのかって事をね、ちょーっとお話させてください!( ・-・)」
ジャイファ「私達はですね~『人間社会をぶっ潰せ! 世界は我等『亜人』のためにあり!』をモットーに日夜頑張っています(゜▽゜*)」
ヴァルジャ「かつての『魔王ディードバウアー』様にご復活頂いてですね?(°▽°) 人間達からの差別や迫害に苦しむ亜人達を救うため、ボボーンっと今のこの世界を吹っ飛ばし(`へ´*)ノ」
ジャイファ「その浄化された世界の上に、私達亜人のユートピアを築くのですよ~♪O(≧∇≦)O」
ヴァルジャ「勿論!(о^∇^о) 同朋たる亜人の皆さんのサポートも、私達『ディード教団』は手厚く!( ・`ω・´) 手厚く、整えておりますよ♪( *´艸`)」
ジャイファ「衣食住と言った福利厚生は当然!( ̄0 ̄)/ 種族における様々な仕来たり、風習などについても!(^∇^)」
ヴァルジャ「教団に所属する各種族代表が、ご理解頂けるまでご相談をお受け致します(≧ω≦。)」
ジャイファ「如何でしょう?(・ω・`人) 亜人であるなら、どなたでも♪( ^▽^) お気軽にご入団頂けますよ?(*´艸`*)」
ヴァルジャ「さあ!ヾ(゜▽゜*) そこな差別に泣く貴方も!( ´ー`) 迫害に苦しむ貴方も!(゜ー゜*)」
ジャイファ&ヴァルジャ「「私達と一緒にユートピアを目指しませんか!?ヽ( ̄▽ ̄)ノ」」
ガッシュ「…………(・о・)」
ヴァルジャ「……どうだ、ガッシュよ?( `_ゝ´) このように新たな教団員を募集するためのぴぃあぁるを考えてみたのだ(_ _)」
ジャイファ「貴様の率直な意見を聞かせよ?( ・`ω・´) 何か至らぬ点はなかったか?(; ・`ω・´)」
ガッシュ「……いいえ(-д- 三 -д-) とても素晴らしいと思いますぞ!ヽ( ゜∀゜)ノ これならば新たな信徒も続々と増えましょう!(^ー^) 流石は幹部まで上り詰めたお二人です、このガッシュ敬服致しましたm(。_。)m」
ヴァルジャ&ジャイファ「「ふははは!(´▽`*) そうであろうそうであろう?(°▽°)」」
アリサ「……っていうのを『監視カメラ』で観てたわけだけども(  ̄- ̄)」
にゃるろって「いやいや、待つにゃ( ̄0 ̄;) 一体何処のテレビ通販だってーの?(´Д`;)」
アルティレーネ「なんだかこの幹部の二人は憎めませんねぇ( ̄▽ ̄;)」
珠実「コヤツ等、教団なんぞより、お笑いでもやらせといた方がよっぽど良さそうじゃなぁ~(((*≧艸≦)ププッ」




