100話 猫幼女のにゃるろってちゃん
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【ポコの処遇】~『神界』の事情~
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「うーっ! ダメだった~! リルリルまで遠慮しちゃってうちの事お姉ちゃんって呼んでくんないよぉ~!」
ドタバターッ! って、叫びながらフォレアルーネが屋敷に帰ってきた。どうやら、リールに「お姉ちゃん」って呼んでもらう作戦は失敗に終わったようだね。
はい、みなさんこんにちは♪ 魔女のアリサです。引き続き『聖域』の私達のお屋敷からリポートしまーす! え……? なんだかいつもよりテンション高いって? うへへ! よくぞ気付いてくれました♪ 実はアイギスと仮の恋人から仮の夫婦へとランクアップしたのですよ! さーらーに! いい、みんなここ重要だよ? アイギスがボソッと本音を漏らしてくれたのを聞いちゃったの!
私と本当の恋人になれたら~呼び捨てで呼ぶんだって! きゃーっ♥️ も~嬉しくてさ! あ、内緒よナイショ!
「アリサ姉はさっきからなにニヤニヤしてんの? ちょっとキモいんだけど? アイギっちが来てるってことは、そっち方面?」
「そっち方面ってどっちさね?」
そんな私にむかって失礼なこと抜かすこの末っ子ポニーテールに、むーっ! とか唸ってやると「口に出していいの~?」とかニタニタして反撃しよる! からかわれるのが目に見えているので、そこは駄目って言っておいた。
「全く、貴女は話し合いの途中でいなくならないで?」
「ん。じゃあポコの事決めよう?」
「あれ? アイギスさんも何か用事があったのでは?」
「ああ、まぁ急ぎではないしな」
アルティレーネが困った子ね! って感じでフォレアルーネを叱り、レウィリリーネの言葉に集まったみんなが改めて席に座り直す。アイギスは私の席のやや斜め後ろに立って静観する構えのようだ。そんなアイギスを見てエミルくんが用事があったのでは? と、聞けば、後で構わないそうなので、ちょっと待ってもらおう。
「って言ってもさ、特に罰があるわけじゃないし。ポコの自由にしていいわよ?」
「シェラザードのように『無限円環』に幽閉したりは?」
「その必要もありませんよ、アリサお姉さま。ポコは被害者ですから……ただ、『神界』にはそう簡単に戻れないでしょうけれど……」
「ん……残念だけど、今も魔王のままだから……」
先述した通り、ポコには特に罪も罰もないそうで、『無限円環』に幽閉することもしなくていいと、ティリアとアルティレーネが認めている。しかし、『神界』には暫く戻れないらしい。その理由が魔王へと堕とされてしまっているからってのが、レウィリリーネの言だ。
「ポコぽんはさ、やっぱ『神界』に戻りたい?」
「そんなことないのですよ? ポコはパパとママ、アルナちゃんとお姉ちゃん達と一緒にこの『ユーニサリア』で過ごしたいのです!」
フォレアルーネがポコちゃん自身はどうしたいのかって聞くと、ポコちゃんは『神界』に戻れないって事実をそれほど気にしてはいないようだ。
「んぅ~♪ 嬉しい、です! ポコはもうアリア達の家族、ですから」
「うん! ずっとこっちに居てくれていいんだよ♪ ねー? アリサおねぇちゃん!」
「そうだね。アリアとユニの言う通り、私達はもう家族なんだし一緒に過ごそうね♪」
ポコちゃんの宣言に破顔しては、三人で抱き合うアリアとユニとポコちゃん。ユニの「ねー?」に激しく同意して、この可愛い子ちゃん達に賛同する。
「えへへ、嬉しいですアリサお母さん♪ 正直なところ……今の『神界』は少し息苦しいと言いますか……」
おや、私のお膝の上にちょこんと座るアルナも嬉しそうに笑顔を見せたけど、直ぐにそれが雲ってしまったぞ? なんぞ? 『神界』が息苦しいってのはどういうことなんだべか?
「あ~……うん、ちょいと恥ずかしい話なんだけどね……」
「今『神界』は『保守派』と『革新派』と『静観派』という風に派閥が出来てしまっていまして……簡単に言えば石頭の老神達と、比較的若い柔軟な神とで意見の対立が起きていて、後は成り行きに任せる神がいるんですね」
ははーん。なるへそだよ、よくティリアが愚痴ってる石頭共ってのはそいつらのことか。じゃあ今ヴィクトリアの説明にあった『革新派』ってのがティリア達になるわけだ、話に聞いた『幼女神』の立場の改善とか色々方針を打ち出して、その度に老神達に難癖付けられたりしてるって事なのねん? そりゃあ~そんなバチバチ睨み合いしてる渦中にいたら息も詰まるってもんだ。
「なんじゃ~? まーだあの『竜神』の奴が幅利かせとるのか? いかんいかん! そんな場所に帰る必要などないぞいアルナちゃんに、ポコちゃんや? 魔女達と毎日楽しくのんびりこの世界で遊ぶとええわい♪」
ズズズーッて緑茶を堪能してたシドウもようやく息が整ったのか、話し合いに参加してきた。そしてシドウの口からも、これまたちょくちょく話が出る『竜神』の名前が挙がってきたよ。
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【ドワーフの国】~『ジドランド』~
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「まぁそういうわけだし、アルナとポコも今は『神界』に戻らないほうがいいだろうね」
「私達で頑張って住みやすい環境を整えるわ。それまではこっちでのんびりしててちょうだい」
うん。一先ず『神界』の状況については、私達がここでどうこう言ったところで、無駄に時間を浪費するだけだろうから、ティリアとヴィクトリアにお任せしておく。
「ん。それで……アイギスはどんな用事があったの?」
「はい。皆様、私達『白銀』は『ジドランド』へと向かおうと思っております」
お待たせしていたアイギスにみんなが視線を向けて、レウィリリーネがどんな用事なのかと聞くと、どうやら目的地の話のようだ。
アイギスの言う『ジドランド』とは。ドガとファムさん、ギドと言った私も知っているドワーフ達の国らしい。『魔神戦争』中、勇者一行のジドルがアーグラスに無理を言って建国したため、その名が国名に冠される事になったのだとか。
「ジドルんが興した国だね。アリサ姉、地図出してよ?」
「あいよ~」
ジドルが建国した国って事は、『神斧ヴァンデルホン』の行方に関係するんだろう。フォレアルーネに促され、私は『世界地図』を展開させ、その『ジドランド』が何処にあるかを確認する。
「ふむ。『セリア洞窟』よりも更に南、小さい島国のようだね。航路は?」
「はい、『セリアベール』の南西にある港町『リージャハル』より、定期船が出ていますよ。ドガさん達もここから『セリアベール』にいらっしゃいました」
揃って『世界地図』を覗き『ジドランド』とは何処ぞ? って探す私達にエミルくんが指を差して教えてくれる。大分小さい島国のようだ、そこには以前にジャデークとネハグラ家族も通った港町『リージャハル』から定期船に乗り移動するのだそうだ。
「とても豊富な鉱物資源に恵まれた島で、『セリアベール』もこの『ジドランド』から何割か鉄や鋼を輸入しています」
「うむ、過去に聞いた話じゃが、ジドルの奴めアーグラス達に無理を言うて、戦火で住む場所を失ったドワーフ達のために国を作ったと言っておったが……それがこの『ジドランド』なのじゃな」
なるほどね、エミルくんの追加情報を聞いて、鉱山で汗水垂らす、ドワーフ達の姿が目に浮かぶよ。そしてシドウの話で納得したのが、ジドルは『ドワーフロード』なんて呼ばれてる事だ。まさに困ったドワーフ達を導いた指導者だったからなんだね。
「アーグラス達の話ですと、リドグリフとの戦いで果てたジドルの亡骸と一緒に『神斧ヴァンデルホン』を『ジドランド』へと運び、盛大に国葬したらしく、『神斧ヴァンデルホン』は国宝として奉られているそうなのです」
「あらやだ! 私の創ったヴァンデルホンが国宝だなんて、なんだか恥ずかしいですね」
何が恥ずかしいのかさっぱりわからないけど、アイギスがアーグラスに聞いたという話にアルティレーネが恥ずかしそうにしている。いや、マジになんでなのかわからんわ……まぁ、でも彼女的にはそうらしい。でも、国宝とまできたか……それじゃあ簡単には返してもらえないかもしれないね。
「私達で『ジドランド』の王を説得するつもりではありますが、いざと言うときには女神様方のお力添えをお願いするかもしれません。その際はどうか御協力願えますか?」
「そういうことでしたら、勿論協力させていただきます」
Sランクの冒険者で、それなりに名が知れ渡っている『白銀』達の説得と言えど、国宝ともなればそう易々と手放す訳はないだろう。そうなれば女神である妹達の協力が必要になってくる。アルティレーネも事情を飲み込んだようで、アイギスの申し出に快く頷いた。
「うち等バラけて行動するけど連絡さえくれれば直ぐに飛んでくからね♪」
「ん。任せて」
うむうむ。以前に『無限円環』で話が出た、『聖域』出身の冒険者達や、『偵察部隊』に持たせたいと言ってた通信用の魔装具なのだけど、これの試作品が実に好評だったのだ。色々多機能に仕上げたため、どうしてもある程度の大きさとなってしまうが、それはアクセサリーという形にすることで解決をみた。
「このバングル……『世界樹』にペガサスであるカイン殿が刻まれていて、とても気に入っています」
「いいですね! とてもオシャレです。装飾品だけじゃなくて通信機能もあるなんて……いいなぁ~」
そう言って微笑み、左の手首につけた白銀のバングルを撫でるアイギスに、それを羨ましそうに見るエミルくんだ。ふふふ、心配せんでもちゃんとエミルくんにもあげるさね。
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【動き出す『聖域』の面々】~出発!~
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(翼さん頑張ってくださいねぇ? ルロイヤさんもウノさんもドゥエさんもお気をつけて~♪)
《皆、しっかりな! 『ガルーダナンバーズ』としての誇りを忘れるな!?》
《自由だからといって鍛練をおこりませんようご注意を!》
《何はともあれ、『聖域』外の空では多少勝手が違うかもしれません、十分気をつけて!》
「旅の道中の無事を祈っておりますぞ!」
そんなこんなで、娘達とヴィクトリアの歓迎パーティーやったり、『ルヴィアス魔導帝国』に行って『転移陣』設置して、不思議な絵画を観賞したりして、数日が過ぎ、いよいよ三方面作戦が開始される時が来た。
《はは! あんがとよ! んじゃ『偵察部隊』行くぜ~♪》
《うふふ♪ 『聖域』の外ってどんな世界かしら? 楽しみだわ!》
《まずはフィーナ様とセルフィ様って女神様にご主人の弁当届けねぇとな!》
《何かありましたら連絡入れます!》
バサアァッ! バサッバサッ! エスペルやゼーロ、レイミーア、レイヴン、ユナイト達『ガルーダナンバーズ』隊長、小隊長の見送りを受けて、力強く飛び立って行くのは、鳳凰の翼率いる『偵察部隊』だ。翼、ルロイヤ、ウノ、ドゥエの四人はまずティリアの義姉妹である、フィーナとセルフィに私のお弁当を届けてもらうところからスタート。その後は彼等の判断に任せ、自由気ままに空の旅を楽しんでもらう。
「俺達も行くぞ!」「おおっ! 目指すは『セリアベール』だ!」
「あんた達、しっかりやんなさいよ!?」「『聖域』を代表している事、努々忘れるな!」
「無理はしちゃ駄目ですよ?」「気張れよてめぇ等!」
続けて、おおぉぉーっ!! って元気よく掛け声を挙げて、『四神』から叱咤激励されつつ出発するのが『冒険者候補』の二組『ハンバーグ』と『フライドポテト』だ。結局パーティー名はこれで決まってしまった二組、やれやれだね。
『ハンバーグ』を率いるのは『龍人族』のドランド。メンバーは『黒王虎』のノア、『虹の鳥』のレイ、『魚人』のウェズ、『クーシー』のププルの五名だ。
そしてもう一方のパーティー、『フライドポテト』を率いるのはやはり『龍人族』のルルリル。そしてそのメンバーは『白灰熊』のアッシュ、『千年狼』のザウル、『狐人』のルーナ、『ケットシー』のニュイの五名で、計十名となる。彼等は『セリアベール』にて『冒険者』として登録し、一からきっちりと冒険者の下地を積んでもらうことになる。
「ホントに歩いて行くの? 私の『転移』で『セリアベール』までなら送るのに?」
「いいえアリサ様! 私達がアリサ様に『転移』をお願いする事があるとすれば……」
「それは魔王との戦いの場に参戦させてもらう時です!」
「必ず呼んで下さい!」「乗るしかないにゃ!」「このビッグウェーブにぃ~だワーン♪」
あはは、まったくこの子達ったらしょうがないわね! 最初は私達と一緒に『セリアベール』まで『転移』で飛んでいく予定だったんだけど、「はじめからアリサ様のお世話になるのはどうなのか?」とか考えたらしく、自分達の足でこの『聖域』から『セリアベール』まで行くのだと言い出した。
その彼等の心の成長を嬉しく思う反面、もっと頼ってくれてもいいのにって寂しさも募る。まぁ、魔王との戦いには必ず呼んでほしいって事だし、その時は頼りにさせてもらおう!
「みなさんの武運長久をこの『聖域』で祈っていますね。どうかお気をつけて!」
「ポコはみんなともっともーっと遊びたいのです! だから無事に帰って来てくださいなのです!」
「何も気負うことはありませんよ。貴方達の勝利は確定しています、この『勝利の女神』のヴィクトリアがそう言うのですから間違いありません」
そしてアルナとポコちゃん、ヴィクトリアの激励を受けて私達が動く。『人猫』の幼女に変身した魔女の私と、聖女の私。そしてアルティレーネ、珠実、バルガス、ネヴュラ。
「アリサ様。父上、母上。『聖域』の守りは私達が必ずや果たしてご覧に入れます!」
「ティリア様に『四神』のみんな、『ガルーダナンバーズ』も揃ってるしね! 安心してほしいな♪」
フェリアとパルモーも側に寄ってきて私達に見送りの言葉を投げてくれる。それにありがとうって返して、続く『白銀』達を見る。
「アイギス、共に戦えんのは残念だが今の貴様なら何者にも負けはしまい」
「ありがとうバルド。『黒狼』はファムナの村を経由して二手に別れるんだったな?」
『白銀』のみんなは『セリアベール』まで私達と一緒して、そこから港町『リージャハル』へ、そこから定期船に乗り、ドガの故郷『ジドランド』へと移動する。
一方『黒狼』の面々はレウィリリーネとフォレアルーネ、リールとフォーネ、シドウとリン達と一緒にリールとフォーネの故郷『ファムナ村』を訪れた後に、『リーネ・リュール』、『ルーネ・フォレスト』へと向かうことになっている。この時、バルドくん、セラちゃん、ミュンルーカがフォレアルーネと、デュアードくん、シェリー、ブレイドくん、ミストちゃんがレウィリリーネとそれぞれに二分して行動する事となった。
「『獸魔王ディードバウアー』の復活を目論む黒フード達かぁ、バルドとアイギスの親友を利用しやがって! 目にもの見せてやらねぇとな!」
「レウィリリーネ様とフォレアルーネ様の準備が出来次第ワタシ達も出発ですね!」
パーティーを二分する理由が今セラちゃんが言ったこれだ。アイギスとバルドくんの同期であるロッド少年が利用された、そのケジメを着けたいって気持ちをバルドくんは抱いていたの。それを『黒狼』のみんなが汲んでくれたってわけ。本当は『技工神ロア』が呼び出す『魔装戦士』を相手するために、レウィリリーネの『リーネ・リュール』方面に全員向かってもらうつもりだったんだけどね。
ミュンルーカが言うようにレウィリリーネとフォレアルーネは私達から少し遅れての出発となる。具体的には私達から一日位遅れてだ。と言うのも、みんな『セリアベール』を起点に各々の目的地へと移動するため、結構な大人数で『セリアベール』にお邪魔することになる。そうすると、街の住人達が騒ぎだすかもしれないからだ。
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【人気の猫幼女】~にゃるろって~
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ざわざわ……ガヤガヤ……
「おい、アリサ様と一緒にいるあの『人猫』は誰だろうな?」
「可愛いわぁ~♪ アリサ様のお身内の子かしらね?」
はい。そんなわけでね、場所は変わって『セリアベール』の冒険者ギルドでございますにゃん。私は今『人猫』の幼女に変身した姿で、聖女の私と手を繋いでここにやってきた。そんな私達の姿を見た冒険者達は目論見通りに「あの子は誰だ?」と興味を向けてくれている。
因みにアイギス達『白銀』は、ファムさんとギドさんを連れてさっさとこの『セリアベール』を抜けて、港町『リージャハル』へと旅立って行った。黒フード達にわざと自分達の不在を仄めかすため、道行く人達に「ドガとギドの里帰りに付き合って『ジドランド』に行く」と、世間話しつつ話してね。ゼオンには聖女が言伝てするって体だ。
アルティレーネに珠実、バルガスとネヴュラはスラム街の様子を見に行っている。聖女も後で合流し、ゲンちゃん達の様子を確認して、それから『エルハダージャ』へと向かうのだ。
「なんだぁ? なんかざわついてんなって思えばアリサの嬢ちゃんじゃねぇか?」
「おっすっす~♪ ちゃんと仕事しとるかね~不良ギルマスさんや?」
誰が不良だ誰が!? って、聖女の軽口に苦笑いして反論してくるゼオンは、ちょうど私達の来訪でざわめき立ったこの一階に、二階の執務室から降りて来たところらしい。さて……件のガッシュっていう『虎人』も遠巻きながらこちらの様子を伺っているようだし……ここからが女優アリサの出番ってわけだ!
「んで、今日はどうしたよ? なんかまた美味い飯でも教えてくれんのか?」
「あはは、ごめーん。今日は違うんだ、ちょっと依頼を出したくてさ」
なにぃっ!? アリサ様自らが依頼を!? ザワザワザワッ! 途端に強くなるざわめきに、ちょっとうおぉっ!? って、びびったけどなんとか平静を保ったよ。随分注目してくれてるのにゃーん?
「実はこの子……『にゃるろって』っていうんだけどさ……」
はっ!? いやちょっと待て聖女の私よ? 『にゃるろって』ってなんだその名前は!? 急造にも程があるじゃんよ! とか内心で抗議するけど、名前考えてなかった自分も自分だよねと納得。咄嗟の思い付きで出てくる名前がおしゃんてぃーなものだったら逆にびっくりして変な声をあげちゃってたかもしれないのでこれでよかろう。今から私は『にゃるろって』だにゃーん!
「にゃるろってだにゃーよろしくねギルドマスターさん♪」
「応。よろしくな! 俺のことは気軽にゼオンって呼んでくれや」
ふふふ、ゼオンも中々の演技上手だ。私の目の前に来てヤンキー座りして、私と握手。
「にゃるろっては『四神』の白虎こと、大地のとこの部下……と言うか住人かな? 仲良くしてやってちょうだいな」
おお~! 大地ってーと……あの時の白虎様か! じゃあにゃるろってちゃんって『聖域』から来たのね? へぇ~そうなんだ! よろしくねにゃるろってちゃん!
聖女の紹介を聞いていたギルドの冒険者達もこの私、『にゃるろって』に興味が湧いたようで、みんなフレンドリーに話しかけてきた。印象的なのが、みんなちゃんと私と目線の高さを合わせて話しかけてくれる事。この幼い姿になったからわかるけど、とても安心出来ることなんだね。
「んでさ、この子にあんたから聞いた『ゲキテウス王国』の王ちゃまのこと話したら、是が非でも見てみたいって聞かなくてさ……私はこの後妹と『エルハダージャ』に行かなきゃいけなくて、付き添えないのよ」
「あーゲッキーの奴に会って見てぇってか? んじゃ誰かに護衛でも頼みたい訳だな?」
「「マジマジ? 『ゲキテウス』なら俺達何度か行った事あるし、なんなら付き合うぜ?」」
「「えー! それなら私達も行きたいな! にゃるろってちゃんともっと仲良くなりたーい♪」」
ワイワイ~♪ って賑やかな喧騒に包まれて行く冒険者ギルド。にゅふふ♪ どうやら『にゃるろって』な私ってば大人気のようだね、ちょっと誇らしいぞぅ。
「待て待てお前ら、収拾つかねぇだろうが。しかし『ゲキテウス』だったら丁度いいタイミングだぜ? おい、ガッシュ! ガッシュはいねぇか!?」
「ここにいるぞゼオン。私に何か用か?」
ガタ、ぬおおぉ~と、ゼオンに名を呼ばれた『虎人』のガッシュが、ゆっくりした動作で椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。とても大きな体躯に高い背丈、虎の顔に背負った大剣、守りよりも動きやすさを重視した軽鎧に腰マント。うぅむ、どこぞの義理堅い将軍のようだね。威圧感もすごいぞ!
「応。『セリアルティ王国』の復興に向けての諸々を綴った親書を用意したんでな、元『誉』のメンバーだったお前にコイツをゲッキーの奴に渡してやってほしいんだわ」
「ふっ、なるほどな。ついでにこのお嬢様を護衛しろと言うわけか?」
そう言うこったって頷くゼオンに一瞥くれた後、ガッシュは私に目を向けてきた。ふぅむ、虎の顔は表情が読み取りづらいな。ただそこにあるのは少しの躊躇い? 迷い? のような『想い』を感じる。それが何に対してかまではわかんないけどね。
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【『聖域』の縮図】~思う虎人~
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「にゃるろって様、一つ聞きたいのだが……白虎様はどのような御方であろうか? あの防衛戦に現れたと聞いたが、残念なことにお目にかかる事が出来なかったのだ」
「ん~普段の大地様? なんかいっつも騒がしいよね? 元気に部下さん達と訓練したり、同じ『四神』のみんなとゲームしてたり、あ! そうそう~♪ 玄武の水菜様とはちゅっちゅする仲なんだよ~♪」
今の私……『にゃるろって』は大地のとこの住人って事になってるから、『四神』達を様付けで呼ぶことにする。なんでもこのガッシュくんは『虎人』ってこともあって、『白虎』の大地に深い憧憬の念を持っているみたいだにゃ。
「口は悪いけど頼りになる兄貴分って感じよ? まぁ、たまに爽矢……青龍と喧嘩して妖精さん達が丹精込めて育ててる畑を台無しにしたりするんだけど」
「なんにゃら私の護衛の報酬に大地様と会う権利? みたいなの追加するにゃアリサ様」
「おお! それは本当ですかアリサ様!?」
爽矢は茶碗蒸しが好きでさ、好物は最後に食べるタイプなのだよ。いつだったか大地がそれを知らずに、「爽矢、茶碗蒸し食わねぇならくれよ!」とか言ってヒョイパクしちゃった事があったんだ。それで怒った爽矢とで喧嘩が始まっちゃってね~なんて話もガッシュくんはとても興味深く聞いてくれるもんだから、会わせてみたくなって、報酬に追加するように聖女にお願いしてみたら、めっちゃ嬉しそうな顔になったよ。
「その依頼、是非とも私に受けさせてもらいたい! ゼオン、手続きを」
「ははは、乗り気だなガッシュ! ん~でも、もうちっと人数ほしいか……護衛対象がお嬢ちゃんだもんな」
是非とも受けたいとゼオンにクエストの手続きを促すガッシュくんに、ゼオンも嬉しそうにするけど、流石に一人だけじゃ心許ないし、おっちゃんと幼子のお嬢ちゃんではなぁ~と気持ち難色を示す……まぁ、これもポーズではあるんだけどね。
「話は聞かせてもらったぜぇー!」「そう言うことなら僕達の出番だるぉーッ!?」
「『人猫』の女の子を『ゲキテウス』まで護衛か」
「同じ女の子が一緒の方がそのにゃるろってちゃんも安心するんじゃないかしら?」
「アリサ様のお身内の方なら尚更丁重に対応しないといけないわ!」
「アリサ様『セリア洞窟』では大変お世話になり申した!」
「はは、なんかつい先日の事なのにすげぇ久し振りに感じますね!」
そんな時に大声を挙げる連中が現れた。ギルドに集まるみんなも、なんだ? 誰だ? と、その声がした方を見ると七人の冒険者達が私達に親しげに声を掛けてくる。
「なんだぁ~? アリサの嬢ちゃん、『七つの光』とも交流あったのかよ?」
「おー♪ アーヴィルくん達じゃん元気そうで何よりだね!」
おやおや! こりゃまた久し振り……って、そんなに日は経ってないよ。私達に声を掛けて来たのは七人で構成されたパーティー、エミルくんの依頼で私達が造り直した『悲涙の洞窟』改め『セリア洞窟』の攻略を先駆けた『七つの光』のみんなだった。
だが、今の私は『にゃるろって』なので、彼等とは初対面。知らんふりして、ガッシュくんにあの人達は誰? って聞くため、彼の足をつんつんしてみた。
「ん? ああ、にゃるろって様、彼等はAランクパーティーの『七つの光』ですね。中々に癖のある……個性的なメンバーの揃う実力者達ですよ」
……言い直したぞ? まぁ、ファビルくんやゴードなんかは特に変わってるから、個性的って言うのもよくわかる。
聖女の私とゼオンと賑やかに談笑している『七つの光』をガッシュくんと一緒に眺めつつ、ふと思う。
『七つの光』は人間二人に、『人犬』、『龍人族』、『鬼人』、エルフ、ドワーフと、多種族が一つのパーティーという枠に仲良く収まって、上手く互い互いに補い合う強いチームワークを生み出せるのが強みだ。
「まるで『聖域』の縮図みたいだにゃぁ~」
「ほう、にゃるろって様……詳しくお聞きしても?」
お? なんぞ食いついて来たねガッシュくん。ふぅむ……黒フード達が立ち上がった理由ってのが遠い過去に起きた『人間』『亜人』とのいさかい、そして現在に至るまでの『亜人差別』を憂いての事。『聖域』についても『亜人』達はどのように扱われているかとか気になるんだろう。
「にゃん? 詳しくもなにもまんまだよ? みーんな仲良し!」
「!? 『聖域』には多くの同朋……『亜人』達が暮らすと聞いておりますが、『人間』や多種族の者との争いや、差別的な事は起こらないのですか!?」
「うにゃにゃ♪ さっき話したしょーもないケンカすることはあるにゃ~! なんなら女神様ともじゃれ合うようなケンカしたりして~にゃぅ~そうだにゃ、みーんな対等だと思うにゃ」
最近の『聖域』じゃ多少の上下関係はあれど「恐れ多い」とか畏敬の念も薄れてきて、とにかく仲が良くとっても楽しい。悪く言っちゃうとなぁなぁなトコモあるんだけどね。
そんな私の話を聞いたガッシュくんは、大層驚いた様子を見せた後、少し考え込むように顎に手をあて、俯いて目を閉じて押し黙ってしまった。
ふぅむ……私の言葉に色々考えて、自分の行い、黒フード達の行いが本当に正しい事なのかいっぱい悩んでもらえたら、私と彼のファーストコンタクトは大きな意味があったって言えそうだね。
珠実「ふむ(´・∀・`) 結局ゼオン坊主の案で行ったのじゃな?(・о・)」
アリサ「まぁね(^-^) 一応気をつかっての結果だよ(゜ー゜*)」
アルティレーネ「『猫幼女をあえて一人にして、黒フード達に拐わせる』と言う案は、『『セリアベール』の街で犯罪を起こさせる事』ですので、ユグライアに迷惑がかかりそうだったのですよ(-_-;)」
珠実「ふむ( ・-・) 確かに、これから国の再興を成し、統治して行く者にとって手間が増えるのは避けたいことじゃろうしな(;´∀`)」
アリサ「それに『猫幼女誘拐事件』が起きて、「ゼオンが頭で大丈夫か?」って、住人を不安にさせちゃうのもよくないからね( ´∀`)」
ゼオン「みんなの気遣いに感謝するぜ(´-ω-)人 『セリアベール』を救った英雄の身内をむざむざ誘拐された~なんて事になったら騒ぎになっちまうからな(゜ω゜;)」
にゃるろって「私が『ゲキテウス王国』に行く~って言うと、冒険者達がみんな護衛につきたがってたのはびっくりだったにゃ~( *´艸`)」
アルティレーネ「ぷふ♪(((*≧艸≦) でもその『にゃるろって』っていうお名前、咄嗟だったとはいえ……プププ(*`艸´)」
にゃるろって「あ!Σ(´д`*) なにを笑っとるんにゃアルティ!ヽ(゜Д゜)ノ」
珠実「ふはは♪(´▽`) よいではないかよいではないか!(^∇^) よう似合うておるぞ~にゃるろってちゃんや(*≧∀≦)」
ゼオン「くくくっ♪(  ̄▽ ̄) そうだぜぇ~にゃるろってちゃんよぉ♪(*`▽´*)」
アリサ「むぅ( `д´) あんた達後で覚えてなさいよぉ!?(≧□≦)」
にゃるろって「そうだにゃ!( `□´) アルティのことアヒルって呼ぶにゃ!(*゜ε´*) 珠実はたまポチ、ゼオンはエロオヤジにゃ!(y゜ロ゜)y」
アルティレーネ「わぁーっ!Σ(゜ロ゜;) それはやめてくださーい!(>_<)」
珠実「た、たまポチ!?Σ( ̄ロ ̄lll) 勘弁しておくれ~!( ;∀;)」
ゼオン「誰がエロオヤジだ!(。・`з・)ノ 断固抗議する!(`□´)」




