11話 魔女と勇者
【勇者が託す】~妹弟子~
鳴り響く。
キィン! ギィンッ!
鳴り響く。
ガキィンッ! キンッ! ガッ! ガガッ!!
鳴り響く。私と『剣聖』の剣戟が。
一合二合三合……十合、数十合。そして百合、数百合……
斬り合う度、斬り結ぶ度。馴染んでいく。
『データ』としか知り得なかった『剣聖』の剣技が『体感』として確実に私に馴染んでいく。
ガキィィーンッッ!! ギィンギンッ!! ガガガギィンッ!!
まるで一つの音楽を奏でるように、私達の剣戟がこの『聖域』を支配する。
雑音の混じる事ない演奏会。
舞台を彩る私の白銀と『剣聖』の黒赤。
二つの軌跡は踊る私達をなぞる舞台装置。
感じる。『剣聖』の無念。
伝わる。メルドレードの嘆き。
『何故……何故だ……』
重ねる剣戟に『剣聖』の記憶が、過去がフラッシュバックして私に流れ込んでくる。
それは……
『……手も足も出なかった』
魔神を相手に敗れ、四肢をもがれた。
『何故だ……っ!』
地に倒れ伏し、目の前で妻子が殺された。
『最愛の妻も、息子も……っ!! 何故っ!!』
仇を討たんと果敢に立ち向かった愛弟子達も……
『おぉぉぉっ!!』
流れ込んでくるその凄惨な記憶に思わず吐きそうになって、目を背けたくなる。
だけどそれを気合いで飲み込んで、真っ直ぐに『剣聖』と向き合う!
『私の……私達の今までは……受け継がれてきたものは』
剣戟が更に激しく、速く、その勢いを増していく。
『無駄だったのだっ!!』
違う! それだけは絶対違う!
《違う! 師匠! そんなことはない!》
私に寄り添う小さな光の玉。
世界の行く末を憂い、留まり続けた勇者の魂が叫ぶ。
《師匠の技が! 『剣聖』の剣技があったから! 俺達は魔神を討てた!》
その通りだ。勇者も『剣聖』の弟子、教え、伝え導いた『剣聖』メルドレードがいたからこそ魔神の暴挙を止めることができたんだ。
「貴方のしてきたこと、その生は決して無駄なんかじゃないわ!!」
意思のない影とわかっていながらも、言わずにはいられない。目の前の相手が過去をなぞるコピーに過ぎないとしてもだ!
『ウオオオォォーッッ!!!』
《くそっ! やはり届かないのか!? かつて魔王となった師匠と同じで……っ!》
剣戟に奥義が組まれ始めた。
『剣陣』刹那の内に繰り出される無数の斬撃は、今までの剣戟と比べようもないほどの速度。その残像がまるで結界のように『剣聖』を包み、下手に近付けば一瞬で細切れにされてしまうだろう。
『鏡』右から放たれる斬撃が鏡に写したかのように、真逆の左から迫る絶技。この技の恐ろしいところは普通の剣戟に自然に混ぜ込まれるところだ、一瞬の虚を付かれ対応が狂えばそこから一気に崩される。
『神旋』これも高速の剣戟の最中に組み込まれる。刹那の間隙を見切って放たれるカウンター。凄い速度で振るう剣を止めることも難しく、非常にかわしづらい。
「ねぇ、勇者……人が故人に墓標を建てるのはどうしてだと思う?」
《アリサ……? ……その人を忘れない為だ》
そう、メルドレードも勇者も故人。私達、今を生きる人は彼等を忘れないように墓標に花を供えたり、思い出を語り合ったりするだろう。
「勇者、あんたは世界を繋いだわ。きっと多くのものを遺せたでしょう?」
《ああ……そう、だな……》
「メルドレードは、貴方の師匠は何を遺せたか、何を遺したかったと思う? 私は勝手だけど剣技だと思って今こうしてる」
私よりも勇者の方がメルドレードと言う人物を詳しく知っているでしょう? だから……
「教えて……何が彼にとって一番の手向けになるか!」
《手向け……そうか、そうだな……師匠は弟子達の成長を、喜ばしく思っているのだと……奥方様から聞いた覚えがある》
「そう、じゃあ可愛い妹弟子に何か授けてくれたり、してくれないかしら?」
《……妹弟子って、え? お前か!?》
勿論私の事だ、何を驚いているんだこのヘッポコ勇者め。
「数分前に始めたばかりの素人だけど、勇者の目にはどう映ってる私達? 奥義とか必殺技とかを伝授するには足りないかしらん?」
《充分だ……影とはいえ師匠とここまで渡り合えてるんだから。問題は授けても二人いなければ使えないということなんだ》
メルドレードとの剣戟を続けながら聞いた話では、いずれ勇者と剣聖で連携して放つ技だったらしい。しかし剣聖は魔神に倒されてしまった為遂ぞ日の目を見ることはなかったのだと言う。
「いいわ、それこそ彼に対する最高の手向けじゃない! 教えてくれる?」
《そうしたいのはやまやまだが、時間が無さすぎる! それに一人では!》
うん、普通ならそうだよね。でも大丈夫、許可さえもらえれば。
《許可? よくわからないが師匠に手向けを贈れるならやってくれ!》
「ありがとう勇者、じゃあいくよ複製・貼り付け」
勇者の魂から剣聖奥義・連携のファイルをコピーして、私に貼り付ける。後はもう一人を用意しなくちゃいけない。イメージはある、大丈夫!
「『鏡映す私・私映す鏡』」
鏡映す私・私映す鏡……私がイメージする魔法の中でも最も反則的な魔法だ。
効果は、『現時点の私がもう一人現れる』と言うもの。
聖鎧も聖域を護る神剣もそのままに願いを乗せた翼達を背負った、聖なる戦乙女の私が魔力で作った鏡から現れる。
私にとっての切り札であり、そうそう何度も使うものじゃない。出来れば使いたくなかったし、今後もそれは変えるつもりはないので、これっきりかもしれない。
《──っ、とんだ妹弟子だよ……アリサは》
勇者が絶句する。ふふ、妹弟子の優秀さに驚きを隠せないようね!
メルドレードは奥義の歩方『圧縮』で私達から一瞬の内に距離を取り『断絶』の構えを取る。
望むところだ、私達二人は互いに頷き合い、メルドレード同様に構える。これが最高の手向けになると信じて。
《……師匠、幕です。俺の妹弟子が、俺達が為し得なかったあの技を手向けます。その奇跡を見届けて、俺も仲間達のところにいきます》
そう、この技はメルドレードだけじゃない。勇者にとっても手向けになる……もし、もしもこの技が勇者と剣聖によって放たれていたのだとしたら……勇者もその命を落とす事なく魔神を討てたであろう絶技!
「オオアアァァァーッッ!!!」
メルドレードの『断絶』が放たれる。
《……さようなら、師匠》
迫る『断絶』の剣閃。瞑目した目を開き、今!!
「『断絶・神』!」
振り下ろされる私達の聖域を護る神剣。二つの剣閃は重なり合い一つの剣となりて神すら断つ。メルドレードの剣閃を切り裂き尚勢い留まらず、メルドレードと『黒水晶の剣』を断った。
【さよなら勇者】~また会う日まで~
気付けば辺り一面何もなく、白一色の世界に私はいた。
鏡映す私・私映す鏡の私も消えており、私以外誰もいない。
いや、一人……光の玉だった勇者がいる。
「旅立つ前にどうしてもお礼が言いたくてな……招かせてもらった。俺が消えるまでの短い時間だけど、少しだけ付き合ってくれ。ありがとう、アリサ……全ての魔神の呪いを解呪してくれて」
「ううん、どういたしまして。あんたも助けてくれてありがとね」
どうやらここは幻の空間みたいだね、勇者が見せる幻惑かな?
今の勇者は光の玉ではなく、生前の姿そのままのようだ。
白銀の軽鎧に純白のマントを羽織う金髪の少しクセのあるハネっ毛、切れ長の目は濃い青色で優しさを湛えている。ふぅん、結構なイケメンだこと。
「そういや、あんた名前なんて言うんだっけ? みんな『勇者』って呼ぶから知らないのよね」
「あぁ、確かに名乗る暇もなかったな……アーグラス。俺はアーグラス・ランバード」
ほへぇ~……これまた洒落た名前だこと、アーグラスかぁ。正直かっちょえぇな。
「私はアリサって、アーグラスはいつの間にか知ってたわね?」
「あぁ、見てたからな。途中からだが……『聖域の魔女』だろ?」
そっか、見守ってくれてたんだ……
「アルティ達、女神達にはもう会ってきた? ティリアさまにも……」
「……いや、そんなに時間はないみたいだ。俺はもう行かないと……」
アーグラスは左右に首を振り、寂しそうに呟く。
そっか……残念だな。もっと色々話をしたかったんだけど。
「……ねぇアーグラス? どうして、魔神の討伐なんて危険なお願いを請けたの?」
ずっと確かめたかった、私だったらとてもじゃないけど頷けないと思うから。ティリアさまがどんなに真摯にお願いしてきても、きっと当時の私なら断ってた筈、でもアーグラスは違う。やり遂げたんだ、そりゃあ相討ちって結果にはなってしまったけれど、魔神は討伐はされたんだ。
凄いよ……本当に。
「なんだ、そんな事聞きたかったのか? 簡単だ、ティリアに惚れたからさ」
「は?」
「好きな女の子を笑顔にしてやりたかった……それだけだ」
マジか……それだけで命を賭けて魔神と戦ったのか……?
「ふふっ! 仲間達には呆れられたけどな!」
「そらそーでしょうよ……」
私も呆れたわ。
「それでも、みんな着いてきてくれた……最高の仲間達だったよ!」
「おーおー、いい顔しちゃって……あのさ、すぐ近くにティリアさまいるけど、伝えとこうか?」
「ははは! もうとっくにフラれてるから安心しろ! 『応えてあげられなくてごめんね』ってな!」
「はぁ? フラれてるのに魔神と戦ったの?」
「ん? なにかおかしいか? たとえ実らなくても惚れた女の為なら命くらい賭けるのが漢だろ?」
……そういやコイツ技名とかを叫んで繰り出してたってフォレアルーネが言ってたっけ。
『漢』って書いて『男』って読んじゃうくらいにあつくるしいヤツ……見た目爽やかなのにねぇ。
「師匠とやる筈だったの連携奥義も、アリサが形にしてくれたし。本当に感謝してる……出来れば生前に会いたかったけどな」
「馬鹿言わないでよ、私は魔神と戦うなんてごめんよ?」
「はははっ! まぁ、これからは女神達と力を合わせていい世界にしてやってくれよな? それが俺の……いや、俺達の願いだからさ」
……複雑な表情だ、世界を守るという宿願を果たせた喜びと、仲間達にも見せてやりたかったと言う寂しさと、そしてやっぱり……
「引き寄せ」
私は『その人』を引き寄せでこの空間に引き寄せる。
「聞いてましたよね? 本当にこれが最後なんですから……とびっきりの笑顔で送ってあげてくださいね?」
「あ、ああぁ……えっと……アリサ……」
どうせ合わす顔がない。なんて思っていたんでしょうけどね……最後を見届けてやれないって、辛いんですよ? ティリアさま。
「ティリア……」
「あ、アーグラス……」
……少しの沈黙、それは短くも長い時間。二人には万感の想いが去来しているのだろう。
無茶な願いと知りつつも、好いた人の為その命を賭して果たした勇者。
無茶な頼みと知りつつも、愛する妹達の為、死地へと送り出した女神。
「……行く前に会えてよかった」
「うん……うん! ありがとうアーグラス……本当に、ありがとう!」
あらら、ティリアさま泣いちゃった……しょうがないな。がんばれーって心の中で応援しておこう。
「泣かないでくれ、俺は、俺達は誰も後悔していない」
「アーグラス……」
「ふふっそれにこれからはきっと楽しい世界が待ってるぞ? アリサが約束してくれたからな」
あ、こんにゃろ! どさくさに紛れて私を引き合いに出すんじゃない!
「俺もその世界を楽しむからな、ティリアが泣く事なんて何もないぞ?」
「慰め方がヘタクソだぞーこのヘッポコ勇者め~!」
「ヘッポコとはなんだオイ!? まったく、最後の最後にとんだ妹弟子が出来たもんだ!」
「いーっだ!! あっかんべー!」
互いに減らず口を叩き合う。楽しい時間、ふふっ♪ 私がメルドレードに弟子入りしてこうやってじゃれ合うような世界がもしかしたらあったかもしれないね。
「ふふっ、あははは! なにやってるのよ二人とも!」
あ、良かった……ティリアさま、笑ってくれた。
「ねぇ、また……会えるかな?」
「あぁ、会えるさ。俺はこの世界に生まれ変わってるからな。ただ、記憶も失ってるし、環境のせいで堅物になってるけど、会えたら仲良くしてやってくれると嬉しい」
「おぉ、マジか!? うん、楽しみにしてる!」
記憶を失ってるって言うのはきっと洗濯機にかけられたからだね。今ここにいるアーグラスもこれからその洗濯機に入って生まれ変わってる方に戻っていくんだろう。
さぁ、私はこれくらいで……ティリアさま。
「うん、そうね! 湿っぽいのは私らしくないわ! アーグラス、また会いましょう! 約束よ!?」
「あぁ! 必ず!」
約束だ! そう言ってかつての勇者アーグラス、その少しだけ残っていた魂は光へ還って行き消えた。世界は『聖域』に戻り、私とティリアさまは互いにアーグラスの還って行った空を見上げていたんだ。
「「……」」
行っちゃった……なんだかんだ言っても、やっぱり寂しいな……う、泣けてきた……おかしいなぁ、私ってこんなに涙脆かったかな……?
「……ティリアさまは、アーグラスのこと好きだったんじゃありませんか?」
「……そうねぇ、ホントいつもヒヤヒヤさせられてばかりだったけど、手のかかる子ほど可愛いものでね、好きだったわね」
あぁ……そういう認識なのね……一人の異性って訳じゃなくて、可愛い子供ってワケだ。やっぱり神さまだったよ……ティリアさまは。
「はぁ、やっぱり私、ティリアさまの母親になんてなれそうにありません」
「えぇ~!? なんでよ~!?」
【残るは……】~事後処理~
気を取り直して周囲を見渡せば、魔神の呪いの『黒水晶』はもうどこにも見当たらず。眼下には緑溢れる豊かな大地、ヘドロの流れていた河川には澄んだ美しい水が流れ、色とりどりの草花がその美しい花を咲き誇らせている。
「アリサさーん! ティリア姉さまー!」
「アリサアリサアリサぁ~!! ついでにティリア姉さんも!」
「ティリア姉ぇ~! アリサっち~!」
女神達が私達の側に飛んでくる。三人とも表情が明るいところを見るとどうやら再生は無事に成功したみたいだね。って、レウィリリーネ……ティリアさまをついでにしちゃダメでしょ?
「三人ともお疲れ様、ちゃんと見届けたわ……ようやく終わったわね」
「はい! これもティリア姉さまとアリサさんのお陰です! 本当になんてお礼を言えば良いか……」
「アリサアリサアリサぁ……ありがとうありがとう!!」
「ちょぃ、どうしたのレウィリ? おーよしよし」
レウィリリーネが私に抱きついて泣き出すので、優しく頭を撫でてあげる。どうしてこの子はここまで感極まってるんだろ? と言うか、今の私聖鎧着けてるから固いぞ? 撫でる手にはガントレット着けてるし。あ、解除しないのにはちゃんと理由があるんだよ?
「おぉ、アリサっちめっちゃカッコいいじゃん! もう魔女と言うより戦う聖女だねぇ♪」
「フォレア~そんなことよりレウィリはどうしたのか教えて?」
「そうよレウィリ! ついでにって何よ!?」
ほら、ティリアさまも怒ってるじゃん! 滅多な事言うもんじゃないよ?
「あー、レウィリ姉はなんか再生を全力でやるとか言ったことに責任感じちゃってるみたいでね……」
「ティリア姉さんのヒント解りづらい」
あー、あの時かぁ三人とも泣き出しそうだったもんねぇ。
「うっ! それは、ごめん……もう少し考えればよかったって反省したわよ」
確かに、もう少し単純でよかったとは思う。「発生源壊せば良い」だけでも十分だった気がする……まぁ、過ぎたことだし気にしてもしょうがないじゃない?
「ふふっ私はいつも飄々としてるフォレアの泣きそうな顔見れて何か得した気分だけどね~♪」
「うえぇっ! アリサっちやめてよぉぉ~恥ずかしいぃc(>_<。)ノシ」
あははは♪ 珍しく顔を真っ赤にして照れるフォレアルーネが面白くて私達は揃って笑顔になる。
あぁ、やっとこのほんわか空間が帰ってきたね! 嬉しいな♪
「おねぇちゃん! アリサおねぇちゃん!! セインちゃんが! びゃっくんが!!」
「「「「!?」」」」
ユニがペガサスに乗って私達の側に飛んでくる。何か酷く慌てているけど……抱いているのは、セインちゃん?
「おねぇちゃん! セインちゃんとびゃっくんが大変なの! お願い助けて!!」
ユニはそう言って抱いていたセインちゃんを私に見せる。
「セインちゃん! うおぉ痛そう! 大丈夫ーじゃないね、すぐ治すからね!!」
なんとセインちゃんの顎が片方切断されてしまって何とも痛々しい姿になってしまっているではないか! これはユニも慌てるワケだ!
「な、治せるのかアリサ殿……我はこのままでも構わぬぞ?」
「セイントビートル……アリサ様を信じましょう、きっと大丈夫ですよ!」
ペガサスが不安そうに私を見つめる、ユニも同じように目をうるうるさせて泣き出しそう。大丈夫だよ、ちゃんと治すからね。
「セインちゃんのかっちょえぇ顎がないとカブトムシになっちゃう……部位復元」
「おぉぉっ!?」
私の部位復元がセインちゃんをふわっと包むと失われた顎が綺麗に復元される。神々の雫使ってもよかったんだけど、メルドレードに結構使ったからね。私の『神気』で済むならそっちの方が良い。
「これでもう大丈夫だよ、頑張ってくれたんだね……セインちゃん、ありがとうね」
セインちゃんを優しく抱きしめる、こんな大怪我負ってまで戦ってくれたこの子には本当に感謝だ。
「アリサ殿……なんと勿体ないお言葉……我の方こそ感謝する……」
「アリサっちスゲー……」
「神々の雫に頼らず欠損部位を復元……アリサ凄い!」
「お見事ですアリサさん!」
「セインちゃん、良かったぁ~!」
うんうん、良かった良かった! さて、次は白虎?
「さぁ、後は白虎が大変なんでしょう? アリサ、助けてあげましょう!」
「白虎さまは『四凶』の一体の自爆に巻き込まれて大怪我を負っています! アリサ様の聖なる祝福のお陰でゆっくりと回復してはいるんですが……」
ティリアさまの声にペガサスがはっとなり説明してくれる。自爆とはまた根性座ったヤツもいたもんだ、思わず某ロボットアニメの主人公が頭をよぎる。
「引き寄せ」
白虎を引き寄せる。おぉ、これまた酷い姿だ、自力で動けなさそうなので浮遊をかけて安静にさせる。
「おわっ! あ、姐御!? え、なんだコリャ!? イデデ!」
「はいはい、騒がないの! あんたちゃんとビシィって決めてきたの?」
白虎は特にどこかを欠損したって訳じゃなく、全身に怪我をしてる。これなら普通の治癒魔法で十分だね。
「あー……うん、まぁ~微妙だったぜ。自爆されちまうし」
「そう……でもまぁ、あんたも頑張ってくれたみたいね、ありがとう」
なでなで。おぉ、なんだコイツ結構なもふもふじゃないの。ミーナにするように撫でてあげると気持ち良さそうにゴロゴロ言い出した。
「あぁ~姐御ぉこんなことしてる場合じゃねぇ~あぁ~気持ちいぃ~」
「うん、わかってる……あの悪魔達だよね? さぁ、どうしてくれましょうかね?」
そう、まだ召喚された悪魔貴族四人が残っている。彼等をどうにかするまで私は聖なる戦乙女を維持するつもりだったんだ。
「今は懐刀が抑えてくれているようですが……魔神に与した者達です。警戒しましょう!」
「ん! 苦労して再生した『聖域』もう、汚させない!」
「うん! みんなが頑張ってくれたんだモン! 絶対無駄にしないよ!」
アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネがそれぞれ警戒をあらわにする。うん、これ以上何かしでかす気なら私も全力で排除してやる!
「女神達の神の護り手は健在だね、ユニとペガサスはこの中にいるのよ?」
「うん!」「はい!」
「アイツ等なら多分大丈夫とは思うけど……そうね、私も一緒に行くわ」
女神達を護る為の神の護り手の状態を確認して、問題無いのがわかったのでペガサスに乗ったユニもその内部に入れてあげる。そして白虎とティリアさまを伴い、私達はみんながいる場所まで短距離転移する。
【ちょっと戻って】~黄龍view~
「さぁ! 行こう、もう迷わない!」
魔女はそう決意し、メルドレードへとその翼を広げ飛んで行く。その身に凄まじい『神気』を迸らせて……儂等の想いを、願いをその背の翼に乗せて飛んで行く。
若者を導くのは儂等年寄りの務め、その結果が吉であれ凶であれ、責を負うも儂等年寄りの役目じゃ。そう、わかっておっても願わずにはおられん……生きて帰ってこいと。
「兄者! 無事か!?」
「おぉ、青龍か、その様子じゃと片付いたようじゃな?」
儂の弟、青龍が儂の元に飛んできおった。渾沌との戦いは決着がついたようじゃな。
「無論だ、所詮は影にすぎん。我が敗れる道理はない。そんな事よりアリサ殿はどうしたのだ!?」
「あそこじゃよ、よく見てみぃ」
ふぅむ、コヤツ少々焦っておるな、勇者と魔女を重ねておるのか……無理もないが……
儂は顎で差し、魔女の所在を示してやる。
「なっ!? なんだ……あの『神気』は!? あれが、アリサ殿なのか!?」
「うむ、わかっておると思うが手出し無用じゃぞ?」
「~っ!!!」
弟に去来する思いは恐らく己に対する悔しさであろうな……わかるぞ、儂とて同じ気持ちじゃ。
「何故……何故に我はこうも弱いのだ……あのような少女に『聖域』の未来を託さねばならぬとは!?」
無力な己に思わず俯く弟。コヤツの言う通り、儂も情けなくて仕方ないわい……『四神』の長、女神の懐刀等と称えられておいて今、魔女と『剣聖』の剣戟に目が追い付かぬ。
「目を逸らすでない、弟よ」
「兄者……」
「己を情けないと思うならば、尚。目を背けてはならぬ。見届けよ! その目に焼き付けよ!」
儂は青龍よりも儂自身に言い聞かせる。そうじゃ、こんな戦いを見せられて心が奮い起たぬほど老いぼれてはおらぬ! まだまだ若いモンには負けてられぬわい!!
「……ふっ、兄者、終わったら修行に付き合ってくれるか?」
「よかろう、なんなら儂等であの魔女に挑んで見るか?」
フハハハッッ!! 互いに笑い合う、なんじゃそう考えると楽しみにもなってきたわい! 見ておれよ魔女よ!
「どれ、そうと決まれば今のうちにアリサ殿の技を見ておかねばな!」
「かぁ~! まったく主等は言うに事欠いて守護神たるアリサ様に挑もうと言うのか? 身の程知らずめが……妾は呆れたぞ?」
声に振り向いて見れば『九尾』の小娘がガルーダと一緒に妙な女を連れてきおった。
コヤツは確か召喚された悪魔じゃったな?
「おぉ、『九尾』殿ではないか、久方振りだな。して、その悪魔は何者だ?」
「お初にお目にかかりますわ、私は伯爵位を授かる悪魔、ネヴュラと申します。どうぞお見知り置き下さいませ。『四神』の長黄龍様、『四神』青龍様」
ふむ、木っ端悪魔じゃな……どうでもよいわ。いや、待て……
「ヌシは魔神に呪いの番を言い渡されておったのではないか?」
だとしたらただでは置けぬ。この場で食い殺してくれようぞ!
「えぇ、家族を守る為に致し方なく今まで呪いの番人をしておりましたわ。それを皆様方が解放して下さったのです、感謝にたえませんわ」
「ふむ、我等と争う気はないと。そう言いたいのだな?」
「はい、現世に戻れた解放感に酔い、多少戯れさせて頂いた折りに皆様との力量差を思い知りましたわ……私達は敵対するつもりは御座いません」
ふん、この女の言に偽りは無さそうじゃが……どうじゃろうな? あくまでコヤツは敵対せん、というだけで他はわからぬ。
「なぁに、そう心配せんでも良いぞ黄龍よ。この者共は害に等ならぬ、証拠にホレ?」
「おー待たせたんだぞー! コイツ結構根性あったぞー?」
『九尾』が儂の心情を読み答える、まったくこの小娘が! やりづろうて仕方ないわい……ユニちゃんの爪の垢でも煎じて呑ませてやるべきかのぉ!? してこの間延びした声のヌシは『天熊』じゃな? なんじゃ、コヤツも妙な小娘を連れておるな。
「こ、降……参……だ……もぅ無理……動けん……」
《この者は、子爵位悪魔のフェリアです、『天熊』様に手も足も出ず力尽き……御覧の有り様です》
同行しておったフェニックスが説明しおる。
なんじゃ情けないのぅ~近頃の悪魔はだらしないのではないか? まぁ、まだまだ小娘じゃ。これからじゃろうなぁ。
「ハハハハッ!! いやぁ~楽しかったぞお前達! ありがとなボクの我儘に付き合ってくれて!」
《ふふっ構いませんよパルモー殿、わたくしも良い運動になりましたし、グリフォン共にとっても良いガス抜きになったでしょうからね》
《ぐわーぐわーっ!!》
「はぁ……はぁ……そ、それに……延々と……つ、つ、付き合わされた、わー私も……労って下さいませっ!!」
なんじゃなんじゃ今度は? 騒がしいのぅ~……あれは、八咫烏とグリフォン共に、妖精女王が小生意気そうな小僧を連れてやってきおった。
「うわぁっ!!? なな、なんだこの化け物達は!?」
「わぁっ! 馬鹿やめろパルモー! 失礼な口をきくな!」
ギロッ!!
儂を含め皆が小僧を睨む。誰が化け物じゃと!?
「ひぃぃ~! なんて魔力持ってるんだコイツ等ぁ~!」
「……申し訳御座いません。私の娘のフェリアに、息子のパルモーですわ……二人にはよく言い聞かせておきますのでご容赦下さいませ」
「母ちゃん~!」「母上~!」
ふん、ほんに情けない奴等じゃな……しかし、他の『四神』達はどうしたんじゃ? あ奴等の事じゃ『四凶』の影なんぞに遅れを取る事はあるまいに。
「黄龍様!! びゃっくんが!」
「黄龍! 白虎が大変なのよ!」
む! 噂をすれば……白虎がどうしたんじゃ!?
(白虎様も大変ですがセイントビートルも大変ですよ~!)
玄武に朱雀、モコプー等が白虎とセイントビートルの異常を報せにきおった。
一体何があったと言うんじゃ?
「セイントビートルは我との戦いで負傷したのだ」
「あなた!? 酷い怪我だわ早く治療を!」
「父ちゃん!」「父上!」
そう言うて現れたのは袈裟懸けに傷を負った悪魔じゃった、どうやらコヤツは女の夫であり、小娘と小僧の父のようじゃな、なかなか落ち着いとる。
「落ち着けお前達、死ぬような傷ではないわ……済まぬな『聖域』に住まう者達よ。我は悪魔侯爵バルガスである」
ほう、侯爵たる者が自ら頭を下げよるか。見上げたものじゃ。同行しとるのは親友の『神狼』フェンリルじゃな。
「皆、久しいな。騒がずに聞くが良い、白虎もセイントビートルも命に別状はない」
おぉぉーっ! フェンリルの言葉に皆がざわめく、安堵する者、ホッと胸を撫で下ろす者と様々じゃ。単に傷を負ったという話のようじゃな。
「セイントビートルはペガサスに乗せ世界樹に向かわせている、ユニと合流させ守護神たるアリサ様の助けを得るようにと指示しておいた」
その言葉に一同が魔女を見やる、気付けばメルドレードとの戦いは終わっておるようで、きゃつの姿は消えており、『聖域』は見事にかつての姿を取り戻しておるではないか。
「しまったのぅ、歴史的瞬間を見逃してしもうたわい」
「ふはは! なんじゃ黄龍見ておらなんだか? 妾は見ておったぞ。『聖域』がよみがえるその様をな! 残念じゃったのぅ~!」
ぐぬぬ……『九尾』の奴めがここぞと煽ってきおる! まぁ、良いわ。
魔女の側にはいつの間にやら主神ティリアの姿もあり、二人は空を見上げておる。
「……アリサ様、泣いておられるのか?」
フェンリルの言うように魔女は天を見上げ一筋の涙を流しておるようじゃ、『聖域』の再生を成した達成感か、はたまた消えたメルドレードへの追悼か……理由はわからぬが……
「なんて優しい涙だぞー。アリサさまは思いやりの心にあふれてるんだぞー! オイラにはわかるぞー!」
「『天熊』の言う通りだ……何を思い涙しているかはわからぬが、深い慈しみを感じる……」
「ついて行きたいものじゃ……あの心優しき守護神様に……」
『天熊』も『神狼』も『九尾』も……皆が魔女を見、思う……そうじゃな、儂もあの者が織り成す物語を見てみたいと思うぞい。
女神達もペガサスとユニちゃんも魔女のもとに合流し、なんと白虎も転移しおった。あれは確か魔女の使うた引寄せとか言う魔法じゃな。儂もあの魔法に助けられたからようわかるわい。
「さて皆の衆。我等が『聖域の魔女』の凱旋じゃ! 出迎えようぞ!!」
「「「おう!」」」
アーグラス「俺の妹弟子を名乗るなら、これは守れアリサ!( ・`ω・´)キリッ」
アリサ「これって……なんぞ?(´・ω・`)?」
アーグラス「技を叫べ!!ι(`ロ´)ノ」
アリサ「……ヤダヽ(´Д`ヽ)」
アーグラス「なにぃ!?Σ(Д゜;/)/ 叫ばずにどうする! 熱く吼えろ!(っ`Д´)っ・:∴ウオォ」
アリサ「嫌よ!(≧□≦) あんたバカじゃないの!?(゜A゜;)」




