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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
109/211

97話 聖女と幼女神アルナ

────────────────────────────

【封印された魔王】~ポコ~

────────────────────────────


「そう……アーグラス達はジドルを待っているのね……」


 かつてこの世界を救った勇者達との邂逅を経て、無事に『神器』の回収に成功した私達は『聖域』に戻り、その旨をティリア達女神に報告したところだ。


「はい。それでティリア様、彼等から聞いたのですが、かつての魔王は十全の力を振るってはいなかったとの事ですが……」


 『聖域』の私達の屋敷の一室に私とティリア、アイギスにユニで集まり、話をしているのだけど、まず『神器』を回収したこと。今アイギスが聞いた魔王達の事に、もう一つ聞いておきたいことがあった。それは魔王達はどうやってこの世界にやって来たのかって事だ。

 先のユニの話では先ず『神域』を通り、『世界樹(ユグドラシル)』に呼び掛け、『神域門』を開いてもらってから『顕現門』を開いて、ようやくその世界に降り立つ事が出来ると言う。


「それがアイギスの疑問の答えよ。あの馬鹿共はねぇ~強引に『神界』とこの『ユーニサリア』を直通で繋げたのよ? まぁ、そんなことしたら当然掟でペナルティが発生するわけ」

「なるほど、そのペナルティってのが弱体化って事ね? そのペナルティの有効期間ってのはいつまでなの?」

「……お察しの通り一度討たれるまで。だからルヴィアスも実はペナルティかかったままなのよ?」


!!?


 え……マジで? 『無限円環(メビウス)』での訓練じゃルヴィアスってば普通にシェラザードと互角以上だったんだけど? それと私全然察してなかったよティリア?


「あれ? そうなの? アリサ姉さんなら気付くって思ってたんだけど……まぁいいや。ほら、アイツ自分で言ってなかった? 「俺は魔王の中でも強い方なんだぜ」ってさ?」


 いやいや、あんまりアリサさんを買い被ってもっらちゃ困るぞ妹よ? 私は万能じゃないからね? ん~でも、確かにルヴィアスの奴自分でそう言ってたわね。んじゃペナルティ解ければめっちゃ強いのかな?


「ですがティリア様、シェラザード様をアルティレーネ様とアリサ様は圧倒していたではありませんか? その弱体化が解かれたとて、他の魔王がそれほどとは思えぬのですが……」


 はぁ~って、アイギスの質問に対してティリアは肩を竦めて、やれやれしてのため息で返してきた。まるで「わかってねぇなこのむっつりドスケベは」とでも言わんばかりのジト目。そんなに的外れな考えだったのかな?


「あのねぇアイギスくんや。あんたギルドの受付嬢と、Sランクの冒険者がガチバトルしたらどうなると思うの?」

「え……それは言うまでもなく冒険者に軍配が……それほどの開きがあるのですか?」

「そう言うこと。例えるならファネルリアやナターシャがあんたやバルドと戦うようなもんよ?」


 あはは~そりゃ納得だ。更に言うなら会社の事務員が格闘家と戦うみたいな感じなんだろう。って、笑い事じゃないんだけどね。


「むぅ、ファネルリアさんもナターシャさんも今じゃお料理当番としていなきゃ困っちゃうんだよ~ティリア様!」

「そうね、そうだったわ。今日の朝に出た焼き魚も結構な美味しさだったものね……アリサ姉さんほどじゃないけど」


 うむうむ。ティリアが喩えにファネルリアとナターシャを出したことで、ユニがぷんすかと抗議をすれば、今朝の朝食の焼き魚を思い出したのか、じゅるりとヨダレを飲むティリアさんだ。今じゃご飯当番としてあの二人は主力と言えるほどだからね。


「えへへ~って! あうぅ~ごめんなさい、脱線させちゃった」

「いいんだよユニ。でも、そうなると、『武神リドグリフ』や『獣魔王ディードバウアー』なんかは特に要注意か……勿論『技工神ロア』もだけど……」

「そうね、それとアイギス。レリルティーネをここに」

「はい。ティリア様……こちらに」


 私は話を脱線させちゃってごめんなさいするユニを優しく撫でて、魔王の中でも特に物騒な肩書きを持つ、リドグリフとディードバウアーが本来の力を取り戻した状態で復活をしたら、さぞや危険なんじゃないかって思案する。ティリアはそんな私に一瞥をくれた後、アイギスから『神剣レリルティーネ』を受け取ってまじまじと見つめた。


「……うん。確かにポコが封印されてるわね。さて、どうしたものかしら?」

「出してあげれば? 私とあんたで抑えておけば暴れられても大丈夫じゃない?」


 確か『神剣レリルティーネ』には魔王の一柱である『幼女神ポコ』が封印されている。……だろうっていう予想は見事に正解していたらしく。アイギスから受け取った『神剣レリルティーネ』をまじまじと見つめていたティリアが確信を持って私達にそう言った。

 それならどうすべきかとティリアがチラッと私を見たので、私は封印を解いて出してやればいいんじゃないかって言う。もしポコが呪いかなんかをかけられていて、暴れだすのであれば即座に押さえ付けてやればいいのだ。


「『神界』で彼女の同僚も心配してるんでしょう? 確か『アルナ』ちゃんだっけ? その子のためにもポコちゃんは出してあげましょう?」

「そう、ね……一応神殿でやりましょうか? ここ壊されちゃったら困るし」

「私も同行させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ユニも行くーっ!」


 同じ『幼女神アルナ』って言う女神もポコの事を心配してるだろうし、封印を解いて元気な姿を見せてあげれば安心もするだろう。それに、だ……『神剣レリルティーネ』を振るって、アイギスがバトル中に、なんかの拍子に封印が解けちゃってポコが暴れだしたら大変だしね。

 それなら戦力が集まっている今に、その封印を解いてポコを抑えるのが懸命だろう。考えられるリスクはあらかじめ潰しておくに限るよ。


「アルティ達とルヴィアスにも立ち会ってもらいましょう。アイギス達は同行する前に、ティターニアと話して妖精達を安全な場所に避難させてちょうだい」

「了解しました!」

「ユニは『懐刀』と『四神』達に声をかけてちょうだい。アリサ姉さんは『ガルーダナンバーズ』に、聖魔霊達をお願いね」

「はーい!」

「わかったわ、映像通信(ライブモニター)で呼び掛けて備えておいてもらうわね」


 こうしてティリアの指揮の下、『幼女神ポコ』の制圧作戦が始まるのだった。


────────────────────────────

【来客】~『幼女神』と『勝利の女神』~

────────────────────────────


「ねぇ、ティリア。あんたの義理の姉妹のフィーナとセルフィなんだけど……彼女達って門通ってないわよね?」

「うん。あの二人は私の主神権限でこっちに来させたからペナルティもないわ。それにね、『龍脈の源泉(レイライン)』を守ってもらうために色々と許可してるから、例え復活した魔王が狙って来ても大丈夫よ?」


 女神の神殿には東西南北にそれぞれの『四神』を象徴する塔がトランプのダイヤマークを描くように聳え、そして正方形を描くように『懐刀』の塔が聳え立ち、中央の『世界樹(ユグドラシル)』を見守る造りになっているのはいつか話したと思う。今私達が集まっているのは、水菜こと玄武が司る北の塔の屋上だ。


「それにね、あの子達も結構強いから……昔は私達三人で結構やらかしたもんよ?」

「それなら安心かなって……なんかやらかしたの?」


 円を描くその屋上の中心に私とティリア。それを取り囲むように主戦力が待機し、臨戦態勢を取っている。アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの三人とアリスは上空で被害を広げないようにするための結界を構築しているので、いつ事が起きても大丈夫だ。

 そんな風に着々とポコの封印を解く準備を進める中、私はティリアに少し気になっていた、ティリアの義姉妹というフィーナとセルフィの事を聞いていた。あの二人はどうやらティリアの主神としての権限で守られているので、先に話が出たペナルティに関しては問題ないらしい。


「あはは♪ やらかしたから今、神なんて座に着いてるのよ。安心してちょうだい?」

「オッケー。そう言うことなら心配しなくても良さそうだね。それとルヴィアスのペナルティは解除してあげないの?」


 もう一つがルヴィアスにかけられているペナルティについてだ。今じゃ彼も重要な戦力の一人なので、弱体化っていうハンデを背負ったままなのはこれからの戦いに支障が出るんじゃないかって不安がある。


「それもRYOが今必死こいて手掛けてるわ♪ ふふふ、この『ユーニサリア』に来てアリサ姉さんに会ってみたいだの、アルティといちゃつきたいだの馬鹿なことぬかすとんちんかんには馬車馬の如く働いてもらわないとね……うっふっふ♪」


 おおぅ、やだぁ~怖いわこの妹ってば。まだ見ぬ私の義弟よ、頑張ってくれたまへ……


「まっすたぁ~♪ ティリア様~結界はバッチリんりんでっすよぉ~!」

「ん。いつでも、おっけぃ!」


 くら~い笑いをするティリアにちょっと引いていると、上方からアリスの能天気な声とレウィリリーネの可愛らしい声が降り注いで来た。どうやら結界の構築が完了したらしい。さて、じゃあいよいよ噂のポコちゃんとのご対面かな!


「よし、じゃあ始めま……って、この感じ……」

「待って待って~ティリア様~アリサおねぇちゃ~ん!」


 なんて思ったんだけど、ティリアがレリルティーネを持ちあげようとしたその手をピタッて止めて何事か呟くと同時、静観していたユニが慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるではないか。いや、どうやらそれは妹達も同じみたいだ。結界を維持する手を止めて降り立ってくる。何事なんだべか?


「ええ、わかっていますよユニ」「これってアルナ。だよね?」

「もう一つあるじゃーん! 誰ぞこれ?」「あぁ、この感じはヴィクトリアよ?」


 私達の側に駆け寄って来た妹達。だけど、アルティレーネがしゃがんでユニと目線を合わせてうんうんとお互い頷き合って、レウィリリーネにフォレアルーネ、ティリアが三人であーだこーだと話はじめて……おいてけぼりのアリサさんですよ……えー? なんぞなんぞ~? ちょいと~仲間はずれにしないでよみんな~! さっぱりわかんないよ!? 一体なんなの?


「あ、ごめんなさいアリサお姉さま……実は今『神界』から『世界樹(ユニ)』にアクセスがありまして……」

「どうもアルナ……ポコと同じ『幼女神』の子がこっちの状況を覗いてたみたいでね……」

「ん……長年行方不明だったお友達のこと聞いて、いてもたってもいられなくなったんだと思う」

「でもヴィクトりゃんはなんで? アルナっちとなんか接点あったっけ?」


 私が側にいたアルティレーネの肩をツンツンして、ちょっとムスーってした顔を見せると、慌てて立ち上がって状況を説明してくれた。続けて妹達もそれぞれに説明を始めたので聞いてみると、まずティリアが言うにはポコちゃんの同僚のアルナちゃんが『神界』から私達の様子を見ていたらしい。で、レウィリリーネの説明では、そのアルナちゃんが封印の解除に立ち会いたいみたい。そしてフォレアルーネはそのアルナちゃんの他にも一人いて、それが『勝利の女神』ことヴィクトリアだと言うんだけど……アルナちゃんとの接点があったかどうかを疑問に思ってるみたい。


「あら? フォレアは知らなかったの? 『幼女神』が他の世界に降りる際には必ず他の神が一人以上同行しなきゃ駄目なのよ?」


 アルティレーネがフォレアルーネにそう教えているのを聞いて、私は思わず……保護者かな? って思ってしまった。ぷふ~♪ 『幼女神』っていうくらいだし、きっとユニやアリア、ミストちゃんやブレイドくんくらいの見た目なんだろう。私もユニを一人でお出かけなんてさせるつもりはないから、その掟? は賛成だ。


「そうだったんだ~? でもまぁ、納得出来るかな……んで、どうするん?」

「許可しましょう。朋友を案じる気持ちは私達も同じです!」

「ん。そうだね……」


 そんな彼女達の突然の訪問にどうすべきかと悩んでいた妹達。結局、友を案じる心に国境無しってことで受け入れることになった。そしてちょっと聞くと、どうもユニ……『世界樹(ユグドラシル)』の『神域門』へのアクセスはその世界の創造神ともリンクしていてるんだそうだ。なるほど、道理でユニと妹達がストップかけてきたタイミングが同じな訳だ。


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【『幼女神』アルナ】~怒るみんな~

────────────────────────────


「遅いですよ主神ティリア、そしてその妹達よ。もっと早くに対応なさい、未熟者」


 あれま。随分と上から目線の子だこと。

 『幼女神』アルナと、『勝利の女神』ヴィクトリアの申請を承諾し、『神界』との『顕現門』が開かれ二柱の女神が新たに降り立った。その開口一番アルナが発した言葉がこれである。


「こらこら、アルナ。そんな言い方はないでしょう?」

「黙りなさいヴィクトリア……」


 そんな居丈高なアルナに対し、一緒に顕現したヴィクトリアが注意しようとするが、それをピシャリと遮って黙らせるアルナ。ふぅん……なんだろうこの子。随分と無理してるように見える。子供が一生懸命に背伸びして、大人ぶっているというか……不遜な態度をとられているにも関わらず、不快感を感じないのはそのせいだろう。


(ごめんねアリサ姉さん。アルナは悪い子じゃないんだけど『幼女神』の中でも特に責任感の強い子で、リーダー格なのよね……同僚で友達だったポコがいなくなってから、それに拍車がかかっちゃって……)


 ああ、やっぱりそういうことなんだね。ティリアが気を利かせて『個人通話(ウィスパー)』を私に飛ばしてきたよ。なるほど、ただでさえ『幼女神』ってだけで甘く見られて……というか、軽んじられたりしてきたのかもしれないね。こうして精一杯虚勢を張って威厳を示そうとしているんだろう。


「貴女は私の従者。余計な口を挟まないで下さい。さて、主神にその妹女神達よ。同朋のポコを封印から解き、その身にかけられた魔神の呪いを解呪した上で引き渡しなさい。そうすれば()()()()()から直ぐに立ち去ります」


 力強い言葉と眼差しだ。アルナはよほどポコちゃんが大切みたいだね。まぁ、私達としてもポコの解放は望むところなので断る理由はないよ。


「……ティリア姉さんレリルティーネ貸して」

「え? ああ、はい。どーぞレウィリ」


 あれ? なんかレウィリリーネがティリアから『神剣レリルティーネ』を受け取ってるんだけど……ティリアが封印解くんじゃないのかな?


「はい。そんなに大事なら自分でやれば?」

「なっ!?」


 あれれ? ど、どうしたの!? なんかレウィリリーネ怒ってない? ティリアから受け取った『神剣レリルティーネ』をそのままアルナに差し出したじゃないの。なーんか、雲行きが怪しくなってきちゃったぞ!?


「さっきから黙って聞いてればさ~アルナっち、酷くない?」

「百歩譲って私達の『ユーニサリア』を貶したことは不問にするとしても、主神であるティリア姉さまに命令するとは……何様のつもりなのですか?」


 あわわ、こりゃヤバイぞ! 妹達は姉であるティリアに対してのアルナの発言に大層お怒りだ。アルナは虚勢張ってるだけだってわからないのかな? ああ、いや、わかってても許容できるラインを越えちゃってるからか!


「テメェ等俺達に喧嘩売りに来たのか? ああっ!?」

「『こんな世界』で悪いか? 我等はそれでも必死に生きているのだがなぁっ!?」


 あああ~大地と爽矢までキレ出しちゃったぞ! マズイマズイ! こうなっちゃうと怒りがみんなにも連鎖して大変なことになっちゃう!


「アルナ、謝りなさい。今のは完全に貴女の発言が悪かったわ。私を従者とするなら、相応しい主であってほしいものなのだけれど?」

「……断ります。私はこの者を主神だなどと認めておりません。そもそもの原因は魔神を止められなかったこの者の怠慢にあります。そのうえ同朋のポコまでもが巻き込まれたのですよ? それに……」


 ヴィクトリアも流石に見かねてアルナを諌めるんだけど、どうもアルナはティリアが魔神の事を止められず、ポコちゃんを巻き込んだ事に相当ご立腹の様子だ。妹達と周りの怒りの声も素知らぬ顔で受け流して話を続け、私に視線を向けてきた。


「それに、よりにもよって勇者達を呼び出し、その罪もない尊き五人を死なせ、更に今、同じ過ちを繰り返そうとしているではありませんか?」

「…………」


 あっちゃぁ~こりゃ痛いとこついてくるね……事実アーグラス達は、言い方は悪いだろうけど、ティリアの身勝手なお願いを聞いてあげたっていう立場だ。「妹達を助けたかったのであれば、主神と言う立場を放り投げて自分で助けに行けばよかったのだ」と、アルナの追撃に誰もが押し黙ってしまった。


「ああ、ですが少しは学んだようですね。かの五人のように気高く尊い魂ではなく、今回は酷く歪んだ醜い魂を選んだみたいですし」


!!!?


 あはは、歪んで醜いか~確かに私の前世は酷かったからね、自分でも歪んでるっては思ったしなんも言えんわい。


「アルナ様。それは誰の事を仰っておられるのですか?」

「聞くまでもないでしょう? そこにいる者ですよ」


 アイギスの静かだけど普段より一つ低い声にアルナは私を指差してそう答えた。それに、あーやっぱ私か~なんて思ったその瞬間だ。


パチーンッ!!


「!!?」

「謝って! 今すぐアリサおねぇちゃんに謝って!!」


 ……ユニが、アルナの頬を思い切り平手で叩いていた! その瞳にいっぱいの涙を浮かべて!


「ひどいよ!! アリサおねぇちゃんのどこが醜いっていうの!?」

「このっ! 無礼者……たかが『世界樹(ユグドラシル)』の分際でっ!!」

「うるせぇぇーっ!! テメェ! 言うに事欠いて俺等の姐御が醜いだと!?」

「そうかいそうかい……アルナ、ヴィクトリア。お前達はこの『ユーニサリア』に宣戦布告しに来たって訳か? いいぜ? 買ってやるよ! みんな、戦争だ! 武器を取れぇっ!!」

「冗談。私は君達につくわよ。アルナには悪いけれど、従者は廃業させていただくわ」


 ちょちょちょ!? いやいやいや! 待て待てーい!?

 いや、確かによくもユニを泣かせたなこのチミっ子め! なんては一瞬思ったよ!? でも、なんてこったい! ユニの叫びを皮切りに集った全員が怒り心頭、マジでブチギレして世界がぶっ壊れそうな程の神気が立ち上ってる! 大地は怒りの『咆哮(ハウル)』を挙げ、真・白虎の姿になって、他の『四神』達もそれぞれ進化した姿を取った! ルヴィアスもまた静かにキレてて、普段絶対見ることのない殺意を秘めた真剣な顔でみんなに物騒な事を言ってるし! それだけじゃない! なんと、アルナの側にいたヴィクトリアすらもこちらについてしまったのだ! これはマズイって! 止めなきゃ!!


────────────────────────────

【痛い!】~強烈! ティリアんパンチ☆~

────────────────────────────


「アルナ……私の事を貶したりするのは別に構わない。私が未熟だって事は私自身よく理解しているからね……だけどっ!!」


ブワアッ!!!


「私達にとってかけがえのないアリサお姉さまを侮辱したことっ!!」


ヒュンヒュンッジャギィッ!!


「絶対……許さない……っ!」


フィィィーンッ!! シュンシュンシュンッ!!


「一回『根源の核』にまで還って反省しなよっ!!」


ヒュオンッ! シャキッ!!


 ティリアが、妹達がそれぞれに『無限円環(メビウス)』での訓練で培った、それまでの比ではない凄まじい『神気』を纏い、魔方陣や武器を構えアルナを取り囲む。


「う、あ……な、なんで……」

「これは、驚いたわ……ティリアはともかく、随分成長したのね……アルティレーネ達……」


 これには流石のアルナもたじろいでしまっている。ヴィクトリアは神界時代のアルティレーネ達しか知らなかったのだろう、見違えるように強くなっている彼女達に驚いているみたいだ。


「おい、アイギス。バルド!! 見た目に惑わされんなよ? あんななりしてても相手は神だぜ? 遠慮なんていらねぇだろぉっ!! 吼えやがれ! 『ヴァランガ』!!」

「当然だ。俺達の恩人を貶した事を後悔させてやる! 猛ろ! 『冥王・真黒狼』!」

「これほどまでに怒りを覚えたのは、魔王ヴェーラ以来か……女神アルナ! 覚悟してもらおう!」


ウオオオォォォーッ!!!!!


 まっずーい!! セラちゃんとバルドくん達『黒狼』もアイギス達『白銀』も! もうみんなが今正にアルナに攻撃を仕掛けようとしてる!


-止めなさぁぁぁーいぃっ!!-


 私はありったけの大声を『言霊』にして叫んで、駆け出した!


ドッガァァーンッッ!!!


「痛ぁぁーいぃっ!!」


 背中に走る爆ぜるような激痛! 痛いったらありゃしない!


「なっ!? アリサ姉さんっ!!?」

「な、なにを……!? どうして、貴女が……!?」

「いででで……大丈夫アルナちゃん? うぬぬ、やっぱりティリアだけは止めらんなかったかぁ~」


 私の咄嗟に放った『言霊』で他のみんなの動きは止められたんだけど、やっぱりティリアだけは私の力が及ばずに、その攻撃の手を止めることが出来なかった。なんとかアルナを抱き締めて庇うことができたけど、背中に強烈なティリアんパンチをもらっちゃったんだよね。いやぁ~それにしても痛烈すぎでしょ? ティリアんパンチ!?


「ご、ごご、ごめんなさい! アリサ姉さん! 大丈夫!?」

「あー、だいじょばないかも~『神々の雫(ソーマ)』ちょーだい……」

「だだ、大丈夫な訳ないでしょう! そんなに血だらけで!」


 背中から全身を駆け巡ったティリアんパンチの衝撃で、私は全身血みどろのゾンビみたいになっちゃった。あわてふためくティリアに『神々の雫(ソーマ)』を要求して、おろおろと泣きそうになってるアルナの無事を確認。あ、いけない……私の血で汚れちゃってるね?


「ごめんなさいごめんなさい! アリサ姉さん死なないで!!」

「んぐんぐ……ぷはぁ~死なないわよ! はー……さて、『神々の雫(ソーマ)』飲んで全快したし、『汚れ落とし(クリーニング)』っと!」


 泣きながら謝ってくるティリアが差し出す『神々の雫(ソーマ)』を飲み干し、回復した私は、腕の中のアルナをそっと地に降ろして、私の血で汚れてしまった彼女と私自身に『汚れ落とし(クリーニング)』をかけて綺麗綺麗する。

 改めてアルナを見ると、とても心配そうな瞳で私を見つめている事に気がついた。うん。やっぱりこの子はとっても優しい子だね。さっきまでの突き刺すような警戒心が霧散していて、今は見た目相応の女の子にしか見えない。


「「「アリサ様!! ご無事ですか!?」」」

「アリサお姉さま! なんて無茶を!」「アリサお姉さん!」「アリサ姉ぇ~!」

「アリサおねぇちゃん! 大丈夫!? 大丈夫だよね! うわぁーん!」


 おうおうおう!? いやいや、大丈夫だってばみんな~♪ 『神々の雫(ソーマ)』のおかげで完全復活してるってばよ? ティリアんパンチを受けた拍子に『言霊』も解けたんだろう。みんなが私を心配して駆け寄って来た。ユニなんてもうわんわん泣いちゃってるし、たはは、こりゃ宥めるのが大変そうだねぇ♪


────────────────────────────

【互いの立場】~当たり前のこと~

────────────────────────────


「馬鹿アリサ! なんでお前はいっつも無茶ばっかすんだよ!」

「よせ……セラ。今回は……俺達が、悪い……」

《デュアード殿の言い分もわかる……しかし、しかしだ……》

「我等にとっての神たるアリサ様を侮辱されて、黙ってなどおられぬ!」


 私がみんなを強引に止めて、アルナを庇ってティリアんパンチを受けた後。みんなが紛糾し始めてぎゃいのぎゃいのと騒がしい。こりゃポコの封印解除は後回しにして、この場を収めない事にはどうしようもないね。さて、うまいこと説得しなきゃ!


「はい! みんな~どうか落ち着いて聞いてちょうだい。セラちゃん。ユニ。私は大丈夫だから、ちょっと離してね?」


 心配そうに私に抱き着いて来たユニとセラちゃんの頭を優しく撫でて、離してもらう。不安そうな二人に大丈夫だって安心させるために笑顔も忘れずにね。


「ゼーロやバルガスのように、みんなが私のために怒ってくれたのはわかるし、嬉しいよ。ありがとね? でも、同時に考えてほしいんだ。みんなが私を大事に思ってくれてるように、アルナちゃんもまた、ポコちゃんのことがとっても大事なんだよ?」

「っ!!」


 私はそうみんなに呼び掛けながら、アルナの頭をそっと撫でる。一瞬、アルナはビクッってなったけど、逃げることなくおとなしく私に撫でられてくれている。よかった、彼女なりにちゃんと反省してるみたいだ。


「確かにちょっと行き過ぎた発言はあったけどさ。それも『幼女神』の代表として、決して下に見られないようにって、アルナちゃんなりに頑張った結果なんだよ? そこをどうか汲んであげてほしいの」

「……驚いたわ。貴女は観察眼……いえ、とても優れた洞察力を持っているのねアリサさん?」


 お? なんか私の口上にヴィクトリアが反応を返して来たぞ? 他のみんなもそんな彼女を注目する。そのヴィクトリアの反応を見るに、私の推測は間違いじゃなかったって確信する。


「確かに私達神の間でも『幼女神』は軽く見られてしまうことが多いわ。そしてアルナはそんな状況を憂いていた一柱でもあったのよ……そんな時に彼女の親友のポコが魔神に拐われてしまってね……」


 先のティリアからの『個人通話(ウィスパー)』での内容もそんな感じだったね。そこまで話すと、ヴィクトリアは私と同じように膝をおり、アルナと目線を合わせた。


「私はアルナとは結構以前からの親友同士でね……今回、遂に行方知らずだったポコと会えるかもしれないと、アルナは喜んでいたんだよ?」


 そんなヴィクトリアの告発に、みんなが怒りを静めていくのがわかる。やっぱりそうだったんだね……アルナは単に仲の良いお友達が心配だっただけなんだ。それを神なんて立場のせいで余計な虚勢を張らなきゃいけなくなってしまったのだ。


「……なんか、ガキってだけで俺もよく舐められるから……あんたの気持ちが少しはわかるぜ」

「あたし達もよく「女、子供がいきがってんじゃねぇ」とか言われたよね~?」

「あー、僕も他の悪魔達に馬鹿にされてたなぁ」


 お、いいぞいいぞ! アルナの置かれている立場と状況を把握したブレイドくんが共感を示して、それに続くミミ達『猫兎(キャットラビット)』にパルモーだ。うつむきがちだったアルナもちょっとそんな反応のみんなを見始めたぞ。


「なるほどね。同朋を思っての行き過ぎた発言だったってのはわかったわ。確かに最初に威厳とか示しておかないと大地みたいに見た目で判断して無礼を働く奴もいることだし?」

「うっ! 確かに、最初アリスを見くびって痛ぇ目に会った事あるしなぁ~否定できねぇ~」


 あはは! あったねぇそんなこと。今、朱美が話したのは私がアリスを召喚したときの事だ。実際はまだそんなに日数経ってないけど、『無限円環(メビウス)』で一年間過ごしたせいで、最早懐かしい思い出になっている。


「アルナ様、お初にお目にかかります。私はアイギスと言う冒険者です……アーグラスの転生体。と、言った方が伝わりますでしょうか?」


 朱美と大地のやり取りにみんなから少しの笑いが漏れてきて、少しずつ剣呑だった空気も和らいで来たかな~って感じた時、私の隣にアイギスが来て、私とヴィクトリアと同じように膝をおり、アルナと目線を合わせ自己紹介を始めた。凄く真剣な横顔だ、少し怒ってるみたい。


「……貴方が、ああ、確かに同じ……いえ、それ以上の輝きを秘めていますね」

「ありがとうございます。

 アルナ様、私達冒険者にも「他者に見くびられては終わりだ」と言った風潮がありますので、貴女様のお考えは理解したつもりです」


 おやまぁ、アイギスが自分からアーグラスの転生体だって、他の人に話すのって珍しいんじゃないだろうか? それなりに受け入れることができたってことなのかな? で、話しかけられたアルナは戸惑いつつも、しっかりとアイギスの話に耳を傾けている。


「アルナ様はとても朋友であるポコ様を大切に思われていらっしゃる事も、この場にいる私達一同が皆理解しました……ならば、逆の立場でしたらどうでしょうか? ポコ様のことを私達が「醜い」と言ったら、アルナ様は如何思われますか?」

「それはっ! ……ぁ。わ、私……私は……」


 そうか、アイギスはちゃんと「相手の立場」と「自分の立場」を考えて、置き換えてアルナを諭そうとしているんだ。結構当たり前の考え方ではあるんだけど、それをしっかりと考え、実行できる人ってどれくらいいるだろうか? アイギスはそれができる、むふぅ~きっと将来は素敵なお父さんになるだろうなぁ~♪ そしてその隣には私がいるのだ! きゃーっ♥️ 何妄想してんの私ってば!?


「……アルナ様。事情を知った以上、私達は貴女の御力になれればと考えます。ですが、そのためには、どうしても貴女の口から聞かなければいけない事があるのです」


 厳しくも、優しく。そして根気強くアルナに訴えるアイギスだ。そしてその様子を静かに見守っているみんなも、そうだそうだと頷いている。

 そしてアルナは、自分の言動を振り返り、アイギスに諭されたように立場を変えて考えたんだろう。ポロポロと涙を溢して、私を見つめ、口をパクパクと動かそうとしている。私はそんなアルナの姿を見て……


ぎゅっ!


「ふぁっ!?」

「うん……うん。大丈夫。大丈夫だよアルナちゃん……ちゃんと伝わったよ。貴女の「ごめんなさい」が……だからもういいんだよ? ここは『神界』じゃないんだし、誰も貴女を見下したりしないから」


 抱きしめちゃった。いや、これ以前に珠実の時にも思ったけど……絵面よ。泣いてる小さな女の子を放ってなんておけないもん。一生懸命私に謝ろうって姿勢が健気過ぎて、きゅんってしちゃったもん!


「だからね? 私達と一緒に大事なポコちゃんを助けてあげよう? また一緒に笑い合いたいもんね? いっぱい遊んだりしたいもんね? 私も……私達も協力するから、頑張ろアルナちゃん」

「あ、うぅ……ごめ……ごめんなさい! ごめんなさいぃ! ありがとう……ありがとう!」


 お~よしよし……緊張とか、神すら超える程のみんなの力を目の当たりにした恐怖とか、諸々の感情でただでさえいっぱいいっぱいだったんだろうね……そこに追い討ちのように自分の間違いをアイギスに諭され、気付いたことで我慢できなくなっちゃったアルナは私に抱き着いてわんわんと泣き出しちゃったよ。

 取り敢えず一件落着だろうか? アルナが落ち着いたら、いよいよポコの封印を解除だ。頑張らないとね!

アリサ「でさ、妹達よ(-_-;) 私の魂とやらは、実際どんくらい醜く見えんの(-ω- ?)」

アルティレーネ「!?Σ(O_O;) み、醜くなんてありませんよ!( `Д´)/」

レウィリリーネ「ん(_ _) 少し歪んでるってだけ(;-ω-)ノ」

ティリア「それも私達のせいだしねぇ……(ーー;)」

アイギス「えっ!?Σ(゜ロ゜;) それはどういう事なのですか(゜ω゜;)?」

フォレアルーネ「うち等が好き勝手にアリサ姉をいじったせいで、アルナっちには魂まで歪んで醜く見えてるって事だよ~(>_<)」

ルヴィアス「あ~自然に任せておけばアリサ様はマキナの世界に輪廻してたわけだしなぁ( ゜Å゜;)」

ヴィクトリア「世界の移動に、性別の固定、身体の再構築、前代未聞の加護の多重付与……(´ヘ`;)」

アリサ「はぁε=( ̄。 ̄ ) なるほど、そんだけやらかしてれば歪に見えるってわけか~(゜-゜)」

ドガ「神様方がそう仰るのであれば、そうなんじゃろうが……(_ _)」

サーサ「在り方が歪であろうと、アリサ様のそのお心は決して醜いものではありません!( `ー´)」

ガウス「然り!(`□´) アリサ様のこれまでの献身!ι(`ロ´)ノ」

ムラーヴェ「それを醜いだなどと誰にも言わせん!ヾ(*`⌒´*)ノ」

みんな「おーっ!!( `□´) そうだそうだーっ!!(ノ≧∀≦)ノ」

アリサ「お、おぅ……(;´A`)」

ユニ「そうだよ!(*´▽`*) アリサおねぇちゃんは綺麗でカッコいいんだからね!ヽ(゜∀゜)ノ」

珠実「うむっ!( ・∇・) ユニの言う通りじゃ~♪O(≧∇≦)O」

アリサ(おぉぉ……((゜□゜;)) どうすべ?(;´゜д゜)ゞ 別に歪だの醜いだのどうでもいいんだけど……( ̄0 ̄;) だらけてのんびりするのが一番の目的とか言ったら怒られそうだわヽ(´Д`;)ノ)

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