92話 帝国にお邪魔する女神達
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【帰ってきた】~帝国~《ルヴィアスview》
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「静まれ皆の者! ルヴィアス皇帝陛下の御入来である!」
俺の養子ルォンの声が謁見の間に木霊し、集った諸侯達のざわめきがピタリと止んだ。同時に皆の目線が玉座に向けられる。さあ、いっちょ説明してやりますか。
はい。どうも皆さんこんにちは! 『ルヴィアス魔導帝国』の皇帝やってるルヴィアスです。
アリサ様の『無限円環』での長いようで短かった一年間の修行を終えて、『ユーニサリア』に戻って来た俺達なんだけどさ。いや、マジにびっくりだよ。話で確かにこっちの一日が『無限円環』では一年だって聞いたけどさ。ホントに一日しか経ってねぇのよ!
今日はアリサ様とレウィリリーネに改良を頼んでた『言霊の石』を我が帝国諸侯達に下賜するってのと、俺の私室に『聖域』と繋がる『転移陣』を設置してもらうために、一時的にアリサ様の『転移』でこの帝国に帰って来たんだ。んで、養子に会ってさ……
「義父さん。お早いお帰りですね?」
とか言われてさぁ~いや~俺からしたら一年振りだからちょっと可笑しくて笑っちゃったよ。
そんな訳で、ルォンには戻る前にアリサ様達を連れてくから諸侯集めといてって頼んでたんだよね。お世話になりっぱなしだしさ、ちゃんとした場を設けてキッチリお礼しなきゃいけないって思ってたし!
ルォンにその話をしたらさ、開口一番「助かります!」って大声で言われたよ。なんで? って聞けば、諸侯からの問い合わせ? が殺到してたんだって! 曰く……
「あの豪雪を止めたのは如何なる手段で、誰がやったのか? 『ランバード公爵領』が聖地とはどういう事なのか? 是が非でも礼を述べさせて頂きたい!」
とかだ。これにはルォンも悲鳴を挙げて困った困ったって頭抱えたらしいんだ。そんなときに俺が連絡入れたって訳。その辺りの事情をアリサ様達女神も納得してくれてさ。んじゃ、魔王復活の兆しありって注意を促す事もひっくるめて、ちょこっとお邪魔するって言ってくれたんだよね。
「じゃあちょっと諸侯達に経緯とか簡単に説明してくるよ。アリサ様達は呼ばれるまでこの部屋で寛いでて?」
玉座の後ろに続く廊下にある、基本的に俺やルォン……皇帝と皇子が使う控え室。
帝都ルヴィアスの象徴でもある、魔導宮殿が俺ん家って訳で、一応他国に権威を示す意味合いもあって、えらく豪華な宮殿なんだよ。んでもって、更に外交にも使われる謁見の間ともくれば、そりゃもう、これでもかってくらい意趣、意向を凝らせた調度品なんかがズラリと並び、きらびやかさが凄い。ぶっちゃけやり過ぎじゃね? って思うほどだ。
まぁ、そんなやり過ぎ感があるこの控え室も、こうして女神達を迎え入れるに一役買ってくれたんだから、無駄じゃなかったかな?
「あいよ~♪」「手早く済ませなさい?」
「お紅茶とクッキーを頂きながら待ってますね」
「ん。オルファの言ってた魔装具工房見に行きたい……」
「あんま放っておくとどっか行っちゃうぞ~♪」
ああ~もう! 手厳しいねぇ~特にティリアにフォレアルーネ……ちょっと我慢出来るようにならないと男にモテないよ?
「私には旦那いるからいいのよ?」「うち、男なんて興味ないもーん♪」
トホホ……ちょっとしたイヤミもどこ吹く風よとでも言わんばかりに流された。アルティレーネにアリサ様は紅茶とクッキーで談笑。レウィリリーネは飾られた調度品が気になってるのか? 色々見て回っている。
「わかったわかった。レディをあんまり待たせるのもよくないね。手っ取り早く済ませるよ」
さて、んじゃこっから真面目にお仕事と行きますか。俺は気を引き締めて、皇帝モードに意識を切り替える。そして、各諸侯達の待つ謁見の間に入って行く。
「皆。揃っているな?」
俺の座る玉座からやたらと横幅のある十段くらいの階段の下は、これまただだっ広い広間となっており、そこには属国である各諸侯王と、その側近が規則正しく整列して、俺の登場を待っていた。
ザザッ!!
彼等は俺の姿を認めると、一斉にひざまづき、頭を垂れる。俺の隣にいるルォンも同じくだ。いや~いつも思うけどさ、よく訓練されてるねぇ。
「よい。皆面を上げよ……うむ。ではまず待たせてしまった事を詫びよう。そして急な召集にも関わらず、こうして集ってくれた事に感謝する」
いや~もう何百年とやって来たもんだから、俺も馴れたもんだよ。できる限り、ちゃんと話を聞いてくれるリーダーってのを心掛けてきたからね。自分で言うのもなんだけど俺ってば臣下に民に結構慕われてるんだぜ~?
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【諸侯さん達には】~何かごめん~《アリサview》
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「へぇ~思った以上にちゃんと皇帝してんじゃんアホっぺってばさ?」
「臣下の各国の代表の者達もしっかりとルヴィアスの話を聞いている様子ですね」
私の魔法『監視カメラ』が、ルヴィアス達のいる謁見の間の様子を映し出し、私達に伝えてくれる。玉座に座るルヴィアスに、その隣に立つルォンくん。ズラリ並んで、ひざまづき、真剣な表情でルヴィアスの説明を聞いている属国の王とその側近達。
クッキー片手に感心しているのはフォレアルーネだ。ルヴィアスの普段の姿からは想像つかない皇帝然りとした彼の様子を興味深く観ている。
アルティレーネは逆に、集った属国の王と側近達の様子をつぶさに観察している。一糸乱れぬその姿勢に、ルヴィアスの話を真剣に受け止めるその瞳。うん。ルヴィアスってば、よほど信頼されているようだね。
さて、少し話を戻そう。今、私達がいるのは『ルヴィアス魔導帝国』の『帝都ルヴィアス』の『魔導宮殿』っていう、それはそれは豪華な宮殿だ。この宮殿は言わば帝王の城ってことらしい。『聖域』に完成した女神の神殿も凄かったけど、この『魔導宮殿』は宮殿そのものが一つの魔装具って言うんだから更にびっくりだよね?
本来ならルヴィアスの私室に『聖域』と繋がる『転移陣』を開通させて、さっさとおいとまするつもりだったんだけど、どうもルヴィアスが『言霊の石』で、皇子のルォンくんに連絡を取ったら、諸侯王達が帝国に起きた問題についての説明を求めて、問い合わせが殺到して困っているらしかったんだよね。
で、「お礼もしたいから」って事で私達姉妹が招かれた。帝都に留まっている者もいれば、連絡を受けて強行軍で帝都に向かう諸侯もいるので、『無限円環』から帰って来て、二日空けての訪問となった。
「なんだか申し訳なく思いますね。たった二日でこの帝都まで移動していただくなんて」
「結構な無茶振りよね? お土産いっぱい渡してあげましょ?」
皇帝陛下の勅命とはいえ、ホントによくやるわ~なんて感想をアルティレーネとティリアと一緒に思いながら、私も色々とお土産を用意しておいたので、お詫びも兼ねて渡そうと思う。
「──では紹介しよう。余が気にかけていた『ランバード公爵領』を聖地と見抜き、そこを狙っていた魔王ヴェーラを討ち滅ぼしてくれた女神達!」
「お、やっと出番みたいだよ!」
「ん……前置き長い……」
まぁまぁ、そう言わないのレウィリリーネ。『監視カメラ』からようやく私達を紹介するって言うルヴィアスの声が聞こえて、フォレアルーネが椅子から腰を上げる。ちょっとウトウトしてたレウィリリーネも、目を擦り、一つ悪態をついて立ち上がった。
「んじゃご挨拶といきましょうか」
私、ティリア、アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの五人は互いに頷いて、一人づつ謁見の間に『短距離転移』する。妹達の大好きな演出のために。
「創世の三女神、『生誕』のアルティレーネです」
「ん……『調和』のレウィリリーネ」
「同じく、『終焉』のフォレアルーネ」
おおーっ!!
ははーっ! って、謁見の間に集まってるみんなが深々と頭を下げる様子が『監視カメラ』に映し出される。神気纏った妹達が『短距離転移』で、何もない空間から舞い降りて来たのだから、みんなも驚いたんだろう。よく見れば、ルヴィアスとルォンくんも諸侯側にいて、一緒に頭を下げているのがわかる。やれやれ、皇帝自らがそうする事で帝国としての意思を示しているんだろうか? もしかしたら、面白がってるだけかもね♪
「どっちもだと思うわアリサ姉さん。ルヴィアスって変なとこで子供だから」
「あはは♪ ノリがいいって言うかなんと言うか……」
そんな事をティリアに話せば、ちょっとあきれたような苦笑いして、「しょうがないんだから」とぼやく。
話す内容は真剣なものなんだけどね。魔王復活の兆候があって、私達はそれに対抗すべく動いてること。そのために色々と迷惑かけちゃってしまうこととか、諸々をアルティレーネが説明して聞かせて、頭も下げて理解を求めている。
その話を驚愕しながらも集まったみんなは、真剣な面持ちでしっかり聞いてくれて、中には涙を流し感動してくれている人もいるみたいだ。
「迷惑だなどと言うことがあるものですか! 我々は全力で女神様達の助けとなるべく動く所存!」
「陛下が何故あれほどまでに『ランバード』に執着されておられたのか……ようやく疑問が解けました」
「まさか魔王が暗躍していたとは……それを見抜けなかった事を恥じ入るばかりです……」
「しかし陛下! 水臭いではありませぬか! 我が国は帝国のためならば魔王が相手でも怯む事なく戦いますぞ!?」
「落ち着かれよ。魔王が相手ならば兵の犠牲は甚大なものとなろう?」
「その情報は瞬く間に拡がり、民の不安を増長するであろうな……」
おーおー、なんかみんな国を背負ってるリーダー達だけあって、理解が早いね。『ランバード公爵領』が聖地である~ってのは後付けなんだけど、『龍脈の源泉』の一つでもあるので、あながち間違いじゃないんだけどさ。
「ルヴィアスの思惑通りに、みんな上手いこと納得してる……アイツはまったく……まぁ、変に角立たないで済んでるし、いいかな?」
あはは、ティリアがそんな謁見の間に集まってるみんなの様子を見て、あきれ気味だ。ホント、ルヴィアスのやり方には頭が下がるね。
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【女神様!?】~義父さんまで~《ルォンview》
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「諸侯達に話さずにいたことを詫びよう。卿等が懸念した通り、多くの犠牲をうまぬための手段であったのだ。またジェネアが魔王ヴェーラの傀儡であったことに気付けなかった余を許してほしい」
義父さんが集った諸侯達に深々と頭を下げます。臣下に対してもキッチリと礼を通すこの姿勢は見倣わなくてはいけないと、常々思いますね。
申し遅れました。私はルォン。ルォン・オーヴェ・ルヴィアス。
この『ルヴィアス魔導帝国』の皇帝ルヴィアスの養子であり、皇子を務めております。どうかお見知り置き下さい。
「魔王復活の兆候が見え隠れしている今、この時代。それをいつまでも隠し通せるものではありません」
「ん……皆の……帝国全体の意志が知りたい」
「我等女神も永きに渡る魔王との戦いに終止符を打つため、全力を賭す」
創世の女神様達が私達に問い掛けます。かつての魔王達がこの時代に再び姿を現そうとしている今。私達『ルヴィアス魔導帝国』はどうするのか?
共に戦うもよし。静観するもよし。或いは……魔王側につくのもまた一つの道であると。
「馬鹿な。受けた恩を仇でかえすような恥知らずはこの帝国におりませんぞ?」
「陛下! 我等の答えは決まっております!」
共に戦いましょう!
静観? 魔王側につく? あり得ません。助けてもらうだけ助けてもらって、後は知りません。なんて何処の大馬鹿者でしょうか? 私達は『聖域』の傘下! 採るべき道は一つ!
「見事な覚悟ね。貴方達のその想い嬉しく思うわ」
「ありがとう。帝国の勇士達……貴方達のその勇気に感謝を!」
パアァァーッ!!
おおぉぉーっ! なんと、なんと神々しい!!
天井に神々しい光が溢れ、そこから感じる三女神とはまた違う大きな気配が二つ。優しげなその二つの声に私も諸侯達も天井を見上げる。ああ、ついに……ついにお目にかかる事が出来た! 義父さんから、その側近達から話だけは聞いていた『聖域の魔女』アリサ様! そして、主神ティリア様!
ふわり……
緩やかに舞い降りて来たそのお二人。私達は皆、自然と頭を深々と下げていた。一目見ただけで理解るその圧倒的な神気。魔力など遥かに飛び越えた大いなる神聖な力をさも当然とばかりに自然に纏うお二人。
ある者は震え、ある者は涙し、ある者は高揚の雄叫びすら挙げて、それぞれに畏敬の念を抱く。私もその二柱の女神から目が離せず、情けない事に硬直して動けずにいた。
「はいはい。妹達がなんぞカッコつけちゃったみたいでごめんねぇ? そんなに固くなんなくていいからさ、もっとリラックスしてお話しようよ♪」
「ちょっ!? アリサお姉さま! 折角私達が頑張って女神としての威厳をですね」
「あっはっは♪ さーんせー! うち堅苦しいの耐えらんなーい!」
「ん。自然体が一番……ふあぁ~」
こ、このお方が……アリサ様! 我が帝国を魔王の手からお救い下さった『聖域の魔女』!
『言霊の石』でそのお声を拝聴した事は、義父を通して一度だけあるが……なんとお美しい御方だろうか……
唖然とする諸侯に私を置いて、賑やかに騒ぐ女神様達には、先程までの荘厳とも感じた威厳は消え失せ、とても親しみやすい空気になっている。街で見かける仲良しな女性グループの如し、とでも言えば伝わるだろうか?
「アルティ~あんたの言う外交ってのは、女神の威厳で頭を押さえ付けて一方的に話を通すって事じゃないでしょう?」
「あはは~なんか私も耳が痛い言葉だけど、その通りね~対等の立場で話し合いましょう?」
「あうぅ……だって、こう最初に演出しておかないと、私、見た目小娘ですから軽く見られるんですよ~!?」
ぷっ! あはは♪ と、声を挙げて笑いだしたのは義父さんだった。私を含む諸侯達もポカーンと口をあんぐりとあけ、事態についていけず呆然としていた。
「わかる~! いや、俺も見た目その辺にいる若者じゃん? だから結構舐められるんだよね」
ちょっと義父さん! 諸侯達の前で素が出ていますよ!?
「あ~いいのいいの! 今更俺を見た目でみくびるような奴は諸侯達にいないって。なぁみんな?」
「……ふ、ふふ……ははは! いやいや、そうですな!」
「ふはは! 私は陛下が実はやんちゃであることを存じておりましたぞ!」
「あはは♪ しかしまさか女神様方もこれほど親しみやすいとは、思いもよりませんでしたね」
場が、とても明るい喧騒に包まれて行く。先程までの神妙な空気は吹き飛び、義父も諸侯も皆その顔を喜色に染めて笑顔を見せ合い笑っている。なんだか私まで嬉しくなってしまうな。
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【どんなに親しみやすくても】~驚く~《帝国諸侯view》
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「うんうん♪ いい感じにみんなの緊張も解れて来たね! そうそう、お腹空いてないかな? 中には大急ぎでこの帝都? に来てくれた人もいるんでしょ?」
降臨された女神様の一柱である、創世の三女神と主神様の姉。『聖域の魔女』様であるアリサ様がその明るい笑顔を我々に向けて仰った。言われてみれば……そう意識すると、私は忘れていた疲労と空腹を思い出す。
『ルヴィアス魔導帝国』の属国の一代表者である私は、陛下の召集に、急ぎ国からこの帝都に駆け付けたのだ。普段三日はかかる道を昼も夜もない強行軍を強いて、食事も片手で食せる簡易な物で済ませ、兎に角急ぎに急いだ。何せ帝国の問題をまとめて解決したと言う経緯が説明されるのだと言うのだ。急がずにはいられない。
帝国が総力を挙げて解決しようと躍起になっていた豪雪問題。しかし、大雑把な発生源しかわからず手をこまねいていたその問題を一体どのように解決したのか? 再発の危険性等の懸念も心配されており、国も民も……いや、帝国全土が不安だったのである。
陛下自らが解決のために動き出した程の大問題。その原因がまさか、魔王ヴェーラによるものであったことを聞かされ、私を含む各諸侯達の背には冷たい汗が流れた。
ぐぅぅーっ!!
っと、わ、私ではないぞ!? アリサ様のお言葉に誰かの腹の鳴る大きな音がこの謁見の間に響いた。皆、その音を聞き、辺りを見回すと一人の大男が恥ずかしそうに頭を掻いて照れているのが見えた。あの大男は隣国の王の近衛だな。
「も、申し訳ない! 緊張で忘れてた空腹が……」
わははははっ!!!
どっ! と、場が笑いに包まれる。その大男の情けない姿に皆も完全に緊張が解けたのだろう。「実は私も」「我も」と、次々に笑顔を見せ空腹を訴え始めた。
「うんうん♪ みんな急に呼び出されて参っちゃうよね! 私ね帝国のチーズ……ケーゼって言うんだっけ? それ使った料理持って来たからみんなで食べよっか?」
「わーい! アリサ姉のチーズ料理だー♪」
「ん♪ 楽しみ!」
おお! なんとまさか女神様自らがお作りになられたと仰るのか!? しかも我等が帝国の特産品でもあるケーゼの料理とな? フォレアルーネ様もレウィリリーネ様も喜んでおられるぞ。期待が膨らむではないか!
「ふふ、凄いぜ~アリサ様の作る料理は! みんな腰抜かすなよぉ~?」
「陛下がそれほどまでに絶賛される料理なのですか?」
「俄然興味が湧いてきましたぞ! では食堂に移動されますかな?」
ふふふ、こうなるともう謁見の場ではなく、晩餐会の様子だな。皆も和気藹々と喋りながら食堂へと移動しようと、足をそちらに向けるが……
「いやいや、待たれよ。名目上は陛下との謁見の儀なのだ。この場で食そう。今テーブルと椅子を用意させる故に」
「あー、大丈夫だよルォンくん。ほいさっさ~ってね♪」
ポンポンポーン!!
「うわあぁぁっ!?」「なっ! 何もない所から突然、椅子とテーブルがぁっ!?」
ルォン殿下が、「え?」と言うのと同時、アリサ様がサッと手を振れば、なんと、何もない空間から椅子とテーブルが現れたではないか!? これには諸侯達も「魔法!?」「いやいや、そんな魔法など聞いたことがない!」「収納魔法では!?」「いや、魔素も魔力も全く動きがなかった!」等々、ざわめき立った。勿論私も何がなんだか理解出来ず呆然としてしまったよ。
「ふふ、アリサお姉さまのイメージ魔法はいつも皆を驚かせてくれますよね♪」
「これ、私も真似できないからね~♪」
驚く事に今のはアリサ様のみが扱える魔法なのだと、アルティレーネ様とティリア様が仰られた……ううむ、如何に親しみやすかろうと、やはり神の一柱……くれぐれも失礼のないよう接しなくてはいかぬようだ。
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【グラタン】~『記憶の宝珠』~《ティリアview》
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「おおぉぉ……これは、これは! なんと言うっ!?」
「ま、まさか慣れ親しんだケーゼにこのような可能性があったとは!?」
「なんたる美味!!」「これは正に天上の食べ物ぞ!!」
いやいや、なんかこの光景も久し振りに見たわね。ルヴィアスのとこの部下達……帝国に属する国々の王だのなんだのらしいけどさ。アリサ姉さんが作った、チーズを使った数々の料理を食べては何度も何度もびっくりしてはうまーい! って叫んでる。
『無限円環』での一年の間、アリサ姉さんの料理のレパートリーが増えたわ! なんとびっくり! ハムを作り方出したのよ!? マジすごくない? 自家製ハムよ!?
「これもまたうまく出来たと思うの♪ 食べて感想聞かせてほしいな?」
そういってアリサ姉さんがミーにゃんポーチから取り出すのはマカロニとハムの熱々グラタン♪ 専用の厚目の容器に沢山の……これまたお手製のマカロニと、ハムにスライスされたトマト、よく混ざるようにカットされたチーズに沿えられたミニトマトを高温で焼き上げ、見事にメルトされたチーズの海が鼻腔をくすぐり食欲を促す、とても美味しそうな一品だ。
「妹達から説明あったと思うけど、魔王に堕ちた神が迷惑かけたお詫びね。謝って済むような事じゃないけど、本当にごめんなさい」
「何を仰いますかティリア様! この世界に生きる我等にこうして救いの手を差し伸べて下さる、そのお気持ちだけでも有り難い事です!」
「その通りです! 我等帝国は全力で支援させていただきます!」
「陛下もそう望んでおられるのでしょう?」
「我々にはかつての『三神国』の血が受け継がれております……今こそ遠き祖先の「共に戦いたかった」という悲願を成就させるとき!」
アリサ姉さんがグラタンを一人一人に配膳する様子を見ながら、私はヴェーラの仕出かした事について、帝国の諸侯達に謝った。正直、もっと非難されるかと思っていたから、彼等の言葉には驚いたわ。みんな本当にいい奴等ね、ちょっと感動しちゃった。
「聞けば南方の『セリアベール』も『氾濫』が解決し、『セリアルティ王国』の復興に着手するとか」
「うむ。長年苦しめられた大きな問題も解決したことで、教育機関も新たに作られるとの由」
「ゼオン殿が王となられる日も近かろう。交流を深め、より連携を高めこの難局を共に乗り越えたいものであるな!」
あら、流石に情報が早いわね。『セリアベール』の現状についても正確に把握しているみたいだわ。帝国出身の冒険者が『セリアベール』にいるのかしらね?
「そうそう、その教育機関ってのには私も一枚噛んでるんだ。まぁ、私が受け持つのは料理とかなんだけど。後は色々この世界に広めようと思って商業ギルドの代表者達とも約束してるの」
アリサ姉さんが『セリアベール』のみんなに何かと教えるって約束をしたって話をすれば、帝国のみんなは揃って「羨ましい!」って言い出した。ふふふ、絶対そう言うと思ってたわ♪
「ほらほら、お前達。そうアリサ様に詰め寄るなって! ちゃんとアリサ様は俺達帝国にも教えてくれるって言ってくれてんだからさ」
「「おおっ!! ありがとうございます!」」
「あはは、まぁ今は何かと忙しくて中々手を回せないんだけどさ……そこで思い付いたのがこれなんだよね♪」
ごそごそ。詰め寄って来た諸侯達に苦笑いを見せつつ、アリサ姉さんはミーにゃんポーチをまさぐって、一つの『宝珠』を取り出した。
「これはもしや!? 『記憶の宝珠』ですか!? かつての『魔神戦争』時代の『古代遺産』ではありませぬか!」
「そ、レウィリに聞いたら昔はこういう便利なのがあったって言うから再現してみたのよ。私の前世にも映像を保存しておくって事はあったからね。んで、この『記憶の宝珠』にはね~」
コトリ、とアリサ姉さんは口をあんぐりあけてびっくりしてる帝国の諸侯達に、「別にどうってことないよ~」って感じで『記憶の宝珠』をテーブルに置いて、軽く魔力を通す。すると、宝珠が光始め、中空に記録された映像が映し出された。
『アリサおねぇちゃーん準備できたよぉ~♪』
『はーい、ありがとねユニ~♪ じゃあ改めて……はい。みなさんこんにちは♪ 『聖域の魔女』アリサです』
『えへへ♪ アリサおねぇちゃんの妹のユニだよ~♪』
その映像は明るいユニの可愛い声からスタートした。そのユニの声に振り向くアリサ姉さんは、こほんと一つ咳払いをしたあと、私達に向かい挨拶を始める。
『この映像はみんなが美味しいご飯を作れるようになりますようにって思って残す、お料理教室みたいなものです。まぁ、私ができる範囲なんだけど、できるだけわかりやすく解説しながらやって行くから、参考にしてもらえると嬉しいな』
そう。これは『無限円環』内で撮影された、アリサ姉さんの『お料理教室教材版』なのだ! この教材は全部で四つ作られた。一つは今再生中の『料理ってなんぞ?』っていう基本の前の基本? 料理する前はちゃんと手や服装を清潔にしましょうとか、調理器具の名称とか扱う際の注意点とか、そういった諸々の予備知識を学ぶことができる。
「ほう……興味深い。これは素人でもとてもわかりやすい説明ですな!」
「うむ。「何故そうしなくてはいけないか?」と言うところまで事細かに……」
「いやいやいや! もしや我が国で流行った腹痛はもしや、この映像でアリサ様がご説明されている食中毒か!?」
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【面白い】~『立体映像通信』~《フォレアルーネview》
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「──と、まぁ~こんな感じ。取り敢えずこれを四つ。しっかり観てくれれば、誰でも野菜炒めが作れるようになるんじゃないかなって思うんだけど……どう?」
試してみてくれないかな? って、アホっぺことルヴィアスの帝国の諸侯達に尋ねるアリサ姉だ。うちにもめっちゃわかりやすい内容だったし、映像の中のアリサ姉とゆにゆにがめっちゃ可愛かったしで、凄く良いと思うんだけどな!
「「「「是非っ!!!」」」」
我が国に! いいや私達の国が先だ! いやいや我等が!
おーおー、ぎゃいぎゃいとまぁ~やかましいこと~どうやらアリサ姉の教材はみんなに凄い興味を持たれたみたいだね! 集まったみんなが我先に! って言い争いを始めちゃったよ。
「狡いぞ! 我等もこのグラタンを作れるようになりたいのだ!」
「なにおうぅ! 私も国でこのピザが食べたいのだぞ!」
「我とてこの柔らかなパンを知ってしまった以上、今までのパンは食えぬ!」
ぶっふ! おもろっ! あんた達一応国背負ってんじゃーん? その代表者達が美味しいご飯のことで滅茶苦茶白熱した論争繰り広げるとかマジウケるんですけど!
「ん。うるさいよ? ちゃんとみんなに行き渡るようにコピーをとってある」
「ですのでケンカしちゃいけませんよ♪ ふふ、もう~みなさんやんちゃなんですから♪」
「あ、『古代遺産』を複製……私達では何も解明できなかった物を……おみそれしました……」
レウィリ姉が騒ぐみんなにちゃんと全員分あるから~って怒って、アルティ姉がしょうがないんだから~って感じで笑ってる。ぷふふ、うちもホント見ててオモチャの取り合いしてる子供みたいだなって思ったからその笑いはよくわかるなぁ~♪
んでもってルヴィアスの養子の子。ルォンくんだっけ? 皇子くんがうち等が『記憶の宝珠』をぽんぽこ作っては同じ映像記録を複製したことに驚いて、凄いですって頭下げてくるんだけど?
「気にしないの~そのうち出来るようになるって。じゃあ後、『セリアベール』にも広める予定のポーションとかのレシピに、アルティ達からファッションの類いとかだね」
「うおぉーっ! マジに有り難うアリサ様! ティリア達もサンキューな!」
「別に礼なんていらないわよ? 迷惑かけたお詫びなんだもの」
そうそう、うち等が魔神をもっと警戒してればみんなを巻き込む事も、アホっぺが魔王に堕ちる必要もなかったんだよ……ホントごめん! だから遠慮せずに受け取ってほしいよ。
うち等が今回プレゼントするファッション類は結構な自信作が揃ってるんだよ! 女の子の下着は勿論、アリサ姉の協力で可愛い服、綺麗な服にちょっとセクシーな服のデザインが出来上がったんだ! それだけじゃない、男の子の服も沢山デザインしたよ! なんてったってアリサ姉は元々前世じゃ男性だったからね、やっぱり男の子の服装の方が詳しくてさ、シンプルな部屋着だけどそのまま街に出ても恥ずかしくない様な服とか、ゼルワっちのようなやんちゃな兄ちゃんが着ると似合いそうな、少し派手目な服とか、ラグナっちのような商人が大きな取引とかでビシッ! っと、決める清潔感のあるスーツ。アイギっちに着てもらったタキシードなんかは、そのまま王族と並んでも全く違和感がないのでは? なんて思えたくらい。
「ん。後これ。依頼のやつ」
「おお、『言霊の石』だね。有り難うレウィリリーネ、早速試しても?」
ん。って、ルヴィアスに改良してって頼まれた『言霊の石』を渡し、試用してみていいかって言葉に小さく頷くレウィリ姉。確か改良前のはノイズとかタイムラグとかがあったって言ってたけど、どう改良したんだろ?
「んじゃルォン、持ってろ」
「はい義父さん」
アホっぺの養子だなんてかわいそうに、ってちょーっと失礼な事を内心に思って、ルォンくん……どんなあだ名にしようかな? を見ると、アホっぺから『言霊の石』を受け取り、謁見の間の端っこに移動してた。対してもう一個を持ったルヴィアスはその対角まで移動してから『言霊の石』に魔力を通して「ルォン」と小さく声をかけた。
ブゥゥンッ……
おおおぉぉっ!!?
その様子を見ていた諸侯達と実際に手にその石……ゆにゆにくらいの小さな女の子の手でもすっぽりと手の内に握り隠すくらいのサイズでまん丸の、その辺の道端に落ちてそうな普通の石と間違いちゃいそうなやつだ。
それを持ってたルヴィアスがまさにアホっぺな声を挙げて驚いた。一体なんだろ? って思ったら向こう端に移動したルォンくんも驚いた表情で、小走りにこっちに戻ってきた。
「るる、ルォンがっ! 小っちゃいルォンが出てきたんだけど!?」
「ととと、義父さんが、義父さんが! いい、石から出てきて!?」
はぁ? いや、親子して何言ってんだってばよ? ルヴィアスのアホがルォンくんに染っちゃったの?
うちとアルティ姉、ティリア姉もそうだけど、諸侯達もみんなが顔を見合わせて「?」って顔をしてアホアホ親子に目をやるんだけど、その親子はアリサ姉とレウィリ姉に『言霊の石』をどういう風に改良したか詳細を聞かせてもらいたがっている。
「ん。アリサお姉さんの『映像通信』にした」
「正確にはそれの小型版って感じかな。『立体映像通信』ね♪」
はへぇーっ!? ちょっと凄くない? うちも欲しい!
なんでもその『言霊の石』に魔力を通して通話相手の名前を思い浮かべると、相手側の石がその人に魔力で伝えるんだって! 何その超技術? 更に受信側の相手も通信に応じるって意思を持つと自動で繋がって、お互いの姿が立体映像で映し出される。いや、もう、何でそんな機能つけたの?
「王様ってね、話す相手の表情とか、身振り手振り、仕草と言った、言葉だけじゃなくてその総てを観て真意を図らなきゃいけないんだってのをお父様……ガルディング様が教えてくれたの♪」
「はへぇ~ガルるんってば公爵じゃなかったけ?」
「フォレア、公爵は『公国』を持つこともあるのよ?」
ふぅーん、そうなんだ~? うちがなんでアイギっちのパパさんがそんな王様のうんたらを知ってんだろって疑問を口にすると、アルティ姉がそう教えてくれたよ。なんだか色々複雑なんだねぇ?
アリサ「そもそもたった二日で帝都に集合って、キツくない?(;´д`)」
ルヴィアス「あー、確かにキツイだろうけど……(-∀-`; )」
ルォン「我が帝国の諸侯達はやりますよ?(^ー^)」
ティリア「マジか(;`・ω・)」
アルティレーネ「あらら、一体どんな無茶をされるのか気掛かりですね(ーー;)」
レウィリリーネ「身体強化の魔法をかけて夜通し走り続けるとか(´・ω・`)?」
フォレアルーネ「いやそれキッつ……(>_<") 真似したくないわぁ~(;´Д`)」
ルヴィアス「あはは( ̄▽ ̄;) 実はそうだったりするんだよねぇ(*´艸`*)」
ルォン「ええ、良い訓練ともなりますし、何より有事の際には、いち早く駆け付けてもらわなくてはいけませんので!( ・`ω・´)」
ルヴィアス「だからか帝国じゃ馬もめっちゃ強いよ(*´∇`*) そんじょそこらの魔物なんて蹴っ飛ばすからね!( ゜∀゜)」
アリサ「いやさ……こんなに魔装具とかの技術が発展してんのに、何でそんな脳筋な事やらせてんの( ̄0 ̄;)」
ルォン「Σ(゜ロ゜;)」
ティリア「国を繋ぐ直通の通路とか作ってなんか乗り物走らせればいいじゃない?┐( ̄ヘ ̄)┌」
ルヴィアス「( ̄□ ̄;)!!」
フォレアルーネ「それこそレウィリ姉が創った『魔動車』とかね(о^∇^о)」
レウィリリーネ「ん(-ω- ?) あれはお遊びで創った物だから遅いけど、ちゃんと創ればそれなりに速いのできる( ・-・)」
ルォン「義父さん!(ノ≧▽≦)ノ」
ルヴィアス「そのアイデア頂きまーす!ヽ(*´∀`*)ノ」




