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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
100/211

88話 聖女と『人化の術』

────────────────────────────

【人化した四人】~駆け寄るアイギス~《聖女view》

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「アリサ様。如何でしょう? どこかおかしなところはありませんか?」

「こっちも見てくれよアリサ様! なかなか決まってるって思うんだけど、どうよ?」


 私の前に並び立つイケメン二人。片やスラリとした長身に、美しい艶のある白髪をサラリと風になびかせ、優しそうな瞳で微笑む細い顔に、白いジャケットとパンツでキラリ眩しい王子様。

 片や同じく細身だけど覗く腕からしっかりとした筋肉が逞しい長身で、燃えるような赤髪、気の強そうなつり目にやんちゃそうな口調の、赤いシャツの上に黒のベスト、デニムを履いていかにも熱血そうなお兄さん。

 はて? 私はいつから乙女ゲームの世界に迷い込んだんだろう? いつこの二人とフラグが立ったのかしらん? 困るぅ~私はアイギス一筋なんですけど~?

 はい。な~んてバカな妄想は、置いといて、よいしょ。

 みなさんこにゃにゃちは~♪ 聖女アリサが引き続き『無限円環(メビウス)』内の様子をお届けします。


「あおぉ~カインも鳳凰も人化できて嬉しいんだな~?」

「そうアリサ様に詰め寄るな。戸惑っておられるであろう?」


 シドウとの『花園デート』を終えて、私はみんなが思い思いに休んでる『ミーナ野原』に戻ってきたんだ。そこで待ってたのが冒頭の二人。『人化の術』で人の姿をとったカインと鳳凰だ。

 ずずいっと私に詰め寄り、人化した自分はどうだ? と、感想を求められたのですよ。その二人をほわほわっとした笑顔で笑う頭にクマ耳生やした、雪だるまみたいな体型の大男と、ゲンちゃんみたいな狼の耳と尻尾を生やした、長い銀髪が美しい長身のクールぽいイケメンが呼び掛ける。


「ふふっすみません。ジュン様、リン様。人化できた事が嬉しくて」

「だな! 中々に人の姿ってのも悪くねぇや♪」


 そう。カインと鳳凰に声をかけてきた二人はジュンとリン。でも、この二人は『人化の術』でも『人間(ヒューマン)』の姿ではなく、『熊人(ベアズ)』に『人狼(ワーウルフ)』になったみたい。


「うぅむ、やはり余は細かい事は苦手だ。完全に人型にはなれぬ」

「オイラもだぞー? むつかしいのダメだぞー」


 ぷふっ♪ なんか新鮮で面白いな。シドウの話を聞いてちょっと沈んだ気持ちが浮上してくるのがわかる。むすっとした顔のリンに、眉を下げてあおぉ~って唸るジュンがなんか面白くて笑みがこぼれちゃう。


「ふふっ♪ 四人とも凄く似合ってるよ! カインは格好いいし、鳳凰も♪ ジュンは可愛いし、リンも頼もしいって♪」


 私が笑顔でそう言ってみれば四人とも嬉しそうな顔を見せて微笑む。別に完全に人型じゃなくても、ほら珠実だってそうじゃない? 気にしなくていいと思うよ。


「これで僕もアリサ様のお手伝いができます! 特にお料理とか教えて下さいね? 頑張って覚えて、ユニちゃんのようにいずれ、僕の手料理でお礼したいですから!」

「ははっ! 今じゃユニっぺもファネルリアにナターシャ、ランバードの連中だって美味い飯作ってくれるけどな? やっぱアリサ様の作るのとはちょっと違うんだよな~カイン?」


 うむ。今じゃ他の面々も概ね簡単な料理なら任せておけるようになったからね~♪ それでもカインは私から教わりたいみたいだ。鳳凰の言う味の違いってのは、それぞれで正しくレシピを覚えて、少しずつアレンジを加え始めたためだろう。人によって好みの味付けは違うからね。


「アリサ様の作る料理が基本となっていると言う事だな」

「な~んかオイラ達すごいぜーたくだぞー? 好みの味付けだなんて、最初は何食ってもうまーいだったぞ~?」


 あはは♪ みんな舌が肥えてきたんだね? うむうむ、食欲ってのは実に罪深いもんだのぅ~でも、こうしてどんどん美味しい料理が『ユーニサリア』にも広まってくれると嬉しいな。ファネルリアとナターシャ親子達に、ランバードのみんなに教えることで私も教えるコツっていうのを少し学べた気がするし、『セリアベール』の学校でスラムの子達に教えるための練習にもなった。それを活かしてスラムのみんなにも教えるとしよう。


「基本つーかさ、特別? って感じかな?」

「ええ、その通りです鳳凰さん。やっぱりアリサ様が作って下さる料理は格別なんですよね!」


 あらっ! もー♪ そんなに煽てちゃって、嬉しいじゃないの!? よしよし、それならカインにも料理教えようじゃないの。妹達にもカインは暫く私が預かるって話はしてあるし、人の姿をとったことで、カインに感じてた色々な可能性も試せるだろうし!


「アイギスの小間使いも解除して、入れ替わりにカインに手伝ってもらう事にしましょうか?」


ザザザーッ!!


「おっ! お待ちください! アリサ様、私はまだまだお手伝いをしたい! それに、人の姿をとって間もないカイン殿は何かと不慣れでいらっしゃる筈。そのサポート役としても、どうかこのまま貴女様の小間使いを続けさせて下さぁーい!!」


 うおお!? びっくりした~! どっかで話でも聞こえてたのか血相変えたアイギスがドダダッと突っ込んできて、早口で捲し立ててくる! そんなに面倒な小間使いを続けたいなんて……アイギスってもしかしたらMっ気でもあるんじゃないわよね?


「アリサ様。僕もアイギスさんがフォローしてくれた方が安心ですのでお願いします」

「カイン殿! 感謝します!」


 はぁ、うん……まぁいいけども。なんかアイギスってば安心したような、ほっとしたため息ついてるね。私もアイギスとサーサにユニに手伝ってもらうってのが日常化してたし、確かにいきなりの入れ替えは戸惑うか。


────────────────────────────

【気が気じゃない】~焦る!~《アイギスview》

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「きゃー♪ 見て見てティターニア様! カイン殿と鳳凰さんが『人化の術』で人の姿になりましたよ!」

「まぁ♪ 本当ですわぁ~うふふ、中々に美丈夫ですわね! これは『聖域』に戻ったとき同胞が騒ぎ立てそうですわ!」

「うおぉ見てよフォーネ! 十時の方向にイケメン発見っ!」

「素敵~♪ 何処の貴公子って、カインちゃんと鳳凰さんなの!?」

「カッコいい~♪ 二人ともめっちゃイケてる! お近づいちゃおうっかな!」

「ふふ、私達なんかじゃ見向きもされないんじゃないかしら?」

「カインさん……格好よすぎ♥️ まるで王子様です!」


きゃーきゃー♪ わいわい!


 女性陣の黄色い声が飛び交い、穏やかな『ミーナ野原』が喧騒に包まれる。

 『ルヴィアス魔導帝国』の近衛副隊長のカレンさんと、妖精国の女王ティターニア様にリールやフォーネ、『猫兎(キャットラビット)』のミミさん、ニャモさん、ネネさんと言った面々達だ。

 彼女達が騒ぐのは、カイン殿と鳳凰殿、ジュン様にリン様が珠実様より『人化の術』を教え賜り、人となったそのお姿を披露したからだ。


「ほぉ~こりゃすげぇ。ジュン様はなんかまんまって感じするけど……」

「カイン殿も鳳凰殿もリン様も「いけめん」。じゃのう~おなご達が騒ぐのも無理もないわい」


 ゼルワとドガが呑気な感想を口にしているが、私は人化した彼等を見て、気が気ではない。

 リリカから幼少の頃より、身嗜みや容姿に気を遣うように教わり、アリサ様とお会いしてからと言うもの、お隣に並ぶに、より相応しくあらねばと私なりに更に気を遣うようになっていたが……気が気じゃない!

 ず、狡いじゃないか! カイン殿も鳳凰殿もリン様も! 何故あんなに格好いいのだ!? あ、あの方達の姿をアリサ様がご覧になったら……他の女性達のような反応をされるのだろうか?


「くおぉぉーっ!? なんたることだ! これは由々しき事態だぞガウス!」

「し、しし然り! なんと言う美男子!? 俺達がより路傍の石になってしまう!」


 そう! それだムラーヴェ、ガウス! 人の姿となった彼等はあまりにも眩しい! その輝きに私の想い人も惹かれてしまうのではないだろうかと不安で仕方がないのだ! 私もお前達のように頭を抱えて叫びたいぞ!


「あんた、さっきから何ソワソワしてんのアイギス?」

「ぷふー♪ どうせアリサ様のお気持ちがあの方達に向いちゃうんじゃないかーって焦ってるんですよね~?」

「なっ!? ななな何を言うんだレイリーア、サーサ! わわ、私は、私は……」


 まるで面白い玩具を見つけたと言わんばかりに、レイリーアとサーサがイヤらしい笑みを浮かべ私をからかってきた。うぐぐ……否定したくてもズバリ言い当てられ、言葉が出ない!


「あ、あのねデュアード? 私は大丈夫だからそんなに睨まないで?」

「……」

「あぁ、いや……まぁ~ちょっとは格好いいなとは思ったわよ?」

「…………っ!」


 わたわたと焦って目を泳がせると視界の隅に『黒狼』のデュアードとシェリーの姿が見えた。

 少し気になったので観察すると、デュアードが無言でシェリーを見つめ、シェリーはまるで一人言のように言い訳を並べている。何をやってるんだあれは?


「ふふっシェリーったら目移りしちゃったのかしら~? デュアードもなんだかんだであんたと同じように不安なのね♪」

「あはは♪ 私とレイリーアは平気ですけどね。彼氏一筋の一途ないい女ですも~ん!」


 そうか、デュアードも不安なのだな。あれは無言の抗議と言うわけか。だがあれはシェリーと恋仲だからこそできる抗議じゃないか? 私がアリサ様にあんな真似をしたらみっともないだけだな……うむむ!


「ジューン! 『熊人(ベアズ)』になってもデッケーなぁ!」

「わーい♪ ジュン様だ~♪」

「おー! ブレきち~ミスミス~♪ 今日も元気いっぱいだなー!」


わーいわーい♪


 と、楽し気に笑い合いジュン様の両肩に抱き抱えられているのは、ブレイドとミストの二人だな。『人化の術』で人の姿となっても、とても大きい体躯のジュン様はその朗らかな性格もあって、子供達にも人気だ。


「ふっ、まるで父親のようだなジュン様は」

「おー♪ 恰幅よくておおらかでいい感じのとーちゃんって感じするよな! アタイもあんなとーちゃんがよかったなぁ~♪」


 そんな彼等を見て笑みを浮かべるバルドとセラだが……セラはカイン殿と鳳凰殿の人の姿を見てもあまり変わらないな? さほど興味ないのだろうか?


「アイギス様。彼氏持ちや想い人がおられる女性はあんなものですよ?」

「アリスとしてはさっきから挙動不審なむっつりんさんがおもろ~なので、黙って観察してぶふぉ~ワロスワロス♪ してたかったのに~リリカっちめぇ」


 それには私も同意なのですがって、リリカ! アリス殿と一緒になって人を笑うな!


「ですからこうして進言しに参ったではありませんか? 寧ろ感謝なさいませアイギス様♪」

「うぐぐ……そう言うところ昔からちっとも変わってないなリリカは!」

「あんた余裕なさすぎでしょー?」


 むむむ! リリカめ、人の気も知らないで好き勝手言ってくれる。余裕などあるものかレイリーア! ああ、不安だ……カイン殿も鳳凰殿もあんなに格好いいし、おや? リン様は何故あんなに不機嫌そうなのだ? 人化したリン様以外の三人はそれぞれに談笑し笑いあっているのに、リン様だけは珠実様とその美麗な顔をしかめ、何やら話をしている。


「むほぉ~♪ 『人間(ヒューマン)』じゃなくて『人狼(ワーウルフ)』になってるからお小言でももらってるんでっしゃろい? リンは細かい魔法制御ってのが苦手でっすからねぇ~♪」

「ああ、そう言うことですか。珠実様そういうところ結構厳しいですからね。あ、ほらほらアイギス! アリサ様が戻って来ましたよ!」


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【笑えるむっつりさん】~聞こえる歌~《アリスview》

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 ふひーふひー♪ いやぁ~おもろ! むっつりんさんてばめっちゃ面白いでっすわぁ~♪  『ユニちゃん先輩の花園』から戻られまっしたマスターに、早速『人化の術』で人の姿になったカインと鳳凰の二人が話し掛けるのを、さっきから、わたわた! そわそわ! って落ち着きなく、時にうぬぬっ! とか唸ったり……めちゃんこ笑えるほどにキャラ崩壊してまっする♪


「アイギスの小間使いも解除して、入れ替わりにカインに手伝ってもらう事にしましょうか?」

「んなあぁっ!? お待ちをアリサ様! お待ちくださあぁぁーいっ!」


ドダダーッ!!


 おーおーおー? すんげぇ勢いでマスターのとこにすっ飛んで行きまっしたよぉ? なんでっすぅ~そんなに小間使いのままでいたいんでっしゃろか?


「ぷふふっ! 小間使いでもなんでもいいから、とにかくアリサ様のお側にいたいんですねぇ~アイギスってば」

「はははっ! なんかアイツも自分に素直になってきた感じがすんなぁ~♪」


 そんなむっつりんさんを笑顔で見守るサーサさんとゼルワさんでっす。ふむぅん……伸び悩んで、散々情けない姿を見せて、マスターにもユニちゃん先輩にも色々庇ってもらったりと……沢山恥を晒したぶん素直になったんでっすかねぇ~? これもデトックスでっす?


「おっ! お待ちください! アリサ様、私はまだまだお手伝いをしたい! それに、人の姿をとって間もないカイン殿は何かと不慣れでいらっしゃる筈。そのサポート役としても、どうかこのまま貴女様の小間使いを続けさせて下さぁーい!!」


 あーうん。めっちゃ早口で如何にもそれっぽい事言っちょりまっするわ。マスターもこれには驚いて目をまるくしちょりますねぇ~。


「ぷっふ! アイギス様必死♪ これは面白いですね!」

「ぬはは♪ リリカっちあんまり笑っちゃ可哀想でっすよぉ? むっつりんさんにとっては大事な事なんでしょうからね」

「ワハハ! いやいや、アリス殿。これは笑わずにはおれんわい!」

「なんかギルドでお会いする時と違って、くだけた感じがするなジャデーク?」

「そうだな兄さん、鑑定で来られる時も微笑む事はあっても、あんなに慌てる姿を見たことはなかったよ」


 リリカっちってばホントいい性格してまっす♪ アリスとウマが合いますよ! 慌ててマスターに小間使い継続をお願いする、なんとも情けない姿を見せるむっつりんさんをドガじいちゃんが大笑いして、ネハグラさんとジャデークさんの兄弟が、苦笑いするも、どことなく嬉しそうに話しちょりまっす。


「ふふ、懐かしいね……本来アイギスくんは明るくて結構やんちゃな少年だったのだよ?」

「幼い頃は何かと駄々も捏ねたりしておりましたからね。ねぇ? あなた♪」

「ふはは! 雨でピクニックが出来なくなった時なんて物凄い駄々っ子っぷりだったな!」


 ぷふふっ! 騒いでたから『猫兎(キャットラビット)』のレジーナさんとセレスティーナさんにガルディングさんも寄って来ましたよぉ~♪ 彼等もマスターに詰め寄るむっつりんさんの姿を見て、何か思い出を語ってくれまっした。どうやら、キャラ崩壊というよりは……幼児退行でっしゃろか? むっつりんさんの生真面目さは悲劇の後に形成されていったもんみたいでっすねぇ。


「アリサ様。僕もアイギスさんがフォローしてくれた方が安心ですのでお願いします」

「カイン殿! 感謝します!」


 お。カインがむっつりんさんに助け船を出しまっしたよ? マスターも承諾したみたいでっす。よかったでっすねぇ~♪


「あら、じゃあいつもの面子にカインさんが加わるんですね? ふふ、最近はレイリーアも加わってお料理するのが楽しいですから嬉しいです!」

「ホントね! うふふ♪ 好きな人のために料理作るのって幸せよ! ダーリンが美味しいって言って食べてくれると凄く満たされるもの!」

「俺達も恋人が作ってくれた手料理ってだけで、めちゃくちゃ嬉しいよなラグナース!」

「ええ。時に幸せ過ぎてこわくなってしまいますね」


 ほへぇ~? そう言うもんなんでっす? カインがマスターのお手伝いに加入するのを喜ぶサーサさんとレイリーアさんにゼルワさんとラグナースさんが答えてますねぇ~いやいや、みんな幸せそうな顔をされてます。

 ふむんちょ……考えてみればアリスもマスターやユニちゃん先輩に食べさせてもらってばっかりでっす。日頃のお礼もしたいでっすし、アリスもお料理を教わるのもいいかもでっすねぇ~♪


「~~♪」

「おや? あの歌は誰が歌っているんだい? みんな知っている子かな?」

「え? あら……あらあらまぁ~本当だわ、とても可愛らしい歌声が聞こえてきますね」


 んにゃ? なんでっす? アリスがお料理教わるかなぁ~なんて考えてたら何処からか歌が聞こえて来ましたよ? レジーナさんとセレスティーナさんも気付いてみんなに聞いてまっす。なんだってんでっす?


「……誰が歌ってるんだ? なんか切ない? ような、不思議な感じがする歌だな」

「アリサ様? ……は、違いますね。じゃあ珠実様かな?」


 ゼルワさんがその唄を目を閉じて聞き入っているのに対して、サーサさんがマスターが歌っているんじゃないか~ってマスターを見るんでっすけど、どうもマスター達はたまみんの方に目を向けてまっする。

 アリスもみんなに倣ってたまみんのいる方に目をやったんでっすよ。そしたら~……


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【この感じは】~ちょっと見てくる~《レウィリリーネview》

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「ん……唄が聞こえる……それに、この神気……」

「ん~リンとジュン達じゃないのレウィリ姉~? 唄ってるのは誰だろ?」

「確かに、聞こえますね。様子を見に行ったらレウィリ?」


 アリサお姉さんが用意してくれたこの錬成場で、あたし達女神姉妹はそれぞれに担当する武具を創っていた。アリサお姉さんはシドウと何やら話があるそうで席を外しているけど……そろそろ戻ってくるかな?

 そんな風に考えを巡らせていたら、外から誰が唄っているのか、少し淋しげな、でも情熱的な唄を神気に乗せて届けてきた。あたしはその神気に少し親近感を感じて作業する手を止めて顔を上げた。フォレアがリンとジュンではないかと言うけど……ああ、そうか、そう言えば珠実が『人化の術』を教えてる最中なんだ。じゃあ、この唄と神気はもしかして……


「ん。そうする……オルファ、後の工程。任せる」

「ええっ!? 複雑過ぎて僕にはさっぱりわかりませんよレウィリリーネ様ぁ~!?」

「はいはい、泣き言言わないの~私がフォローしてあげるからやってみなさい?」


 アルティ姉さんにも様子を見て来ていいって言われたので、創造中の杖の残りの工程を手伝いにきてたオルファに任せる事にする。なんか喚いているけどティリア姉さんがフォローするって言うし大丈夫。


「んじゃうち等も一段落したら見に行くよ~パルもんそれ取って~♪」

「はーい。これだねフォレアルーネ様?」


 同じく手伝いのパルモーに素材を取って渡してくれるように頼むフォレアがその手を休めることなく、声だけをこちらに向けた。なんだかんだ言っても集中する子だから、邪魔にならないように「ん」とだけ答えておく。アルティ姉さんとティリア姉さんは笑顔で手を振っているので、あたしもシュタって片手をあげて応えておいた。


「~~♪」


 あたしが錬成場から出ると、みんなはそれぞれのグループに別れて数ヵ所に固まっているのがわかった。

 どのグループも視線を向ける先は、珠実とリンがいる場所だ。そこは唄の出所。優しく淡い光が放たれている場所。ん。この感じはやっぱりだね。あ、アリサお姉さん発見。急いで声を掛けよう。あの子が人の姿になったら一番に撫でてもらいたがる筈だから。


「アリサお姉さんこっち」

「あ、レウィリ。珠実とリンのとこでペカーって光ってるのってさ、やっぱり?」


 ん。そう。やっぱりなの。だから側に行こう?


「そっかぁ~ちょっと緊張してきたけど、ちゃんとお祝いしなきゃね! 行こう行こう!」

「私達も参りましょう」「ええ、僕もご一緒します」「ヘヘ! 俺っちも行くぜ!」


 アリサお姉さんの確認に首肯で答え、察したアリサお姉さんは嬉しそうに笑顔を見せる。一緒にいたアイギスと……ああ、カインと鳳凰だね? 二人とも無事に人化できたんだ。よかったね♪ リンとジュンは直ぐにわかったけど二人は一瞬わからなかったよ。


「見事じゃ。無事に成功したようじゃぞ? さぁ、己が目で確かめるがよい」


 そうしてあたし達が珠実とリンの側に来ると、ちょうど術が成されるタイミングだったみたい。淡い光がゆるりゆるりと収まっていき、小さな人の子の姿にその輪郭を形どって行く。


「ユニちゃんと同じくらいの子か?」

「そのようですね。ああ、見えてきました」

「ささ、アリサ様。お迎えなさって下さい」


 鳳凰とカイン、アイギスの三人も彼女の『人化の術』を見届け、アリサお姉さんに正面から向き合わせようと場に促している。あたしもアリサお姉さんの隣でお迎えする。だって彼女はあたしが創った子だからね。


「こやつは妾達やカイン達ともまた違う生まれ故な、ちと手間取ったのじゃ。術の工程を一から丁寧に構築し、組み直す必要があった。それが先の唄と言う訳じゃ、つまり魔法で言うところの詠唱じゃな♪」

「見事だね珠実。正直あたしが手を貸さなきゃ駄目かなって思ってた」


 『人化の術』を教えていた珠実も彼女にそれを施すのは結構苦労したみたい。でも、しっかりクリアーして教えてやれたそうだ。本当に優秀だね。


「……珠実よ、余とジュンが『人狼(ワーウルフ)』に『熊人(ベアズ)』であるのは……その、やはりか?」

「……何が「やはりか?」じゃ、お主達は術の構築そのものが雑なんじゃよ? だからその姿となったのじゃ!」


 うむむぅと珠実のお叱りに項垂れ落ち込むリン。そんな彼を誰にでも苦手なのはあるからとフォローするアリサお姉さん。うん、珠実もそんなに怒ってる訳じゃないし、どちらかと言えば少しあきれてる? だけみたいだから気にしなくていいと思う。

 それより、ほら。光が収まってきたよ?


「……あるじ様」

「おおぅ~こりゃまた儚げで可愛い美人さんだわね! アリサさん嬉しい~♪」

「ん。無事に人化できたね? おめでとう、アリア」


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【あるじ様と】~ふれあいたいから~《アリアview》

────────────────────────────


 いつも見ていた。

 いつも近くにいるのに。

 いつも届かない。

 いつも貴女に伸ばす手はうばたまの夢に消えて……

 いつもかける言の葉も泡沫。


「さあ、紡げ……お主の想いを、願う姿に。光差すその譜面を唄うのじゃ」


 聞こえる珠実の声が……私は唄う。声なき声で……

 今度こそ、あるじ様に届きますように。と、切なる願いと……

 あるじ様のもとに会いに行きたい。と、確固たる想いを乗せて……

 唄う……唄う……


「~~♪」


パアアー……


 光が溢れた。


「見事じゃ。無事に成功したようじゃぞ? さぁ、己が目で確かめるがよい」


 珠実の声に従い、瞳を開け周囲を見る。

 そこには……


「……あるじ様」

「おおぅ~こりゃまた儚げで可愛い美人さんだわね! アリサさん嬉しい~♪」

「ん。無事に人化できたね? おめでとう、アリア」


 私の……あるじ様!

 自然声が、形をとって私の口から紡がれた。しゃべれる! 人となった手が、足が動く!


「アリア~おめでとう♪ 頑張ったんだね、私も嬉しいよ!」

「あるじ様……っ!」


 あるじ様が目の前にいて……両の腕を大きく広げて優しく微笑んでくれていた!


ぽふんっ。ぎゅっ。


 私は吸い込まれるようにあるじ様の胸に抱きついていて、あるじ様もそんな私を優しく抱きしめてくれる。ああ、ずっと焦がれていたあるじ様のぬくもりを感じる。背に添えられたあるじ様の手。慈しむように頭を撫でてくれるその手。箒となり、杖となり、剣となってあるじ様の手に握られる事はあっても、こうして抱きしめてもらって撫でてもらえる事はなかった。


「……ずっと、ずっと、みんなが羨ましかった。です……アリアもこうしてあるじ様に抱きしめてもらって撫でてもらいたかった。です! あるじ様……あるじ様……」


 あるじ様、ようやく、ようやくふれあえた……ずっとずっと夢見てた……


「あるじ様……アリアはずっと、ずっとあるじ様とこうしてふれあって、お話がしたかった……です」

「うん……うん! 私もアリアをこうして抱き締める事が出来て嬉しいよ!」


 すりすり。あるじ様のぬくもりを感じたくて顔を抱きついたあるじ様の体にすりすりする。あたたかくてやわらかいあるじ様。私をいつも大切にしてくれるあるじ様。いつも気にかけてくれるあるじ様。大好き! 嬉しさで涙が出そう……


「アリサおねぇちゃーん! みんなぁ~ごっはんだよぉ~♪」


 そんな風にあるじ様のぬくもりを感じていたら屋敷からユニが出てきて、大きな声でみんなに呼び掛けてきた。


「ん。ちょうどいい。みんな集まるからお披露目しよ?」

「ふふ、そうだね♪ アリアは勿論、カイン達もね!」


 あ。その時私は初めて周りにみんなが集まって来てることに気付いた。あるじ様の隣にはレウィリお母さん。そのすぐ後ろには一緒に『人化の術』を学んでたカインと鳳凰。私の後ろには珠実とリン。ちょっと離れた所にみんなが……錬成場からは女神様達も出てくる。


「あーっ! アリサおねぇちゃん! また女の子捕まえて!? もー! 節操なしなんだから!」

「うえっ!? ちょ、ちょいとユニさんや! 人聞き悪いこと言わないでよ!? この子はアリアだよアリア!」


 あるじ様に抱きつく私を見たユニが眉をつり上げて怒ってる。むぅぅ! ユニは私より後に名付けてもらっていたので、私にとって妹? ううん、後輩なのにいつもあるじ様に甘やかされてて狡い!


「アリアはアリア。ユニの先輩! ユニは先輩のアリアにあるじ様を譲るべき」

「えー!? そんなのおーぼーだよぉ~ユニはアリサおねぇちゃんの一番の妹で親友だもん! アリアちゃんこそユニを敬うの!」


 うむむ! 手に持ったおたまで私をビッ! と差してくる小癪な後輩めぇ~! 私は負けない! あるじ様に甘えたいのは私だって同じなんです!


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【またも!】~らいばる出現!~《ユニview》

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「はいはい、二人共ケンカしないの。仲良くしなきゃもう撫でてあげないよ?」

「えー! やだやだ~ユニはアリアちゃんと仲良くするもん!」

「あるじ様に甘えたいから、仕方ないけど仲良くします……です……」


 お昼御飯ができたからみんなを呼びにキッチンから出てみたら、なんとびっくり! あのアリアちゃんが人の姿になってアリサおねぇちゃんに抱きついてたの! 最初アリアちゃんだって気付かなくてこらーってしちゃったんだけど、アリアちゃんは自分が先に名前をもらったんだからユニの先輩だって言って頑なにアリサおねぇちゃんから離れようとしないんだよ!


「ふふ、よしよし二人共いい子だね♪ 確かにユニは私の一番の妹で親友だし。アリアは私の一番の相棒で戦友なんだから、先輩後輩に拘らずにお友達になればいいと思うよ?」

「うー……うん。ごめんねアリアちゃん……ユニ、アリサおねぇちゃんをとられちゃうって思っちゃって……」

「ううん……アリアもごめんなさい。いつもあるじ様に甘えることができるユニが羨ましくて……」


 そしたらアリサおねぇちゃんにちょっと叱られちゃった。アリサおねぇちゃんになでなでしてもらえなくなるのは、やだからユニ、ちゃんとアリアちゃんに謝ったよ。アリアちゃんも今まで甘えること出来なかった分いっぱいアリサおねぇちゃんにくっつきたかったんだって! なんだかユニとアリアちゃんは似た者同士みたい♪ お互いにごめんねってして、ユニとアリアちゃんは晴れてお友達になれたの!


「ん。折角だし、お外で食べよう? 『四神』達とゆかりにフェリアにも声かけてさ」

「いいね♪ おーい、みんなごはんよぉ~♪ 今日は『ミーナ野原』で食べるから集まって~!」


 レウィリリーネ様がユニ達が仲良くなったのを見て、お昼御飯はお外で食べようって言ってきたの。アリサおねぇちゃんも賛成して、魔法でみんなに呼び掛けてくれたよ♪ ふふっ! お外でみんなで集まってご飯なんてなんだかパーティーみたい♪ ユニも楽しみになってきちゃった!


「おおーっ! 飯だ飯! 腹減ったぜ~!」「今日のお昼御飯は何かしら~♪」

「しかしゆかり殿は流石だな。まさか進化した我等四体相手に互角以上とは、恐れ入る」

「いやいや! 爽矢達がまだ進化したばかりだったからだ! 馴れてくればこうは行かないさ! それよりフェリアもよく付いてきたな!」

「あはは、もういっぱいいっぱいでしたけどね……」

「フェリアも随分強くなったよね!」


 わーわー! ガヤガヤ! と訓練場の『転移陣(ワープポータル)』からゆかりちゃんとフェリアちゃんに、『四神』のみんながぞろぞろと戻ってくる。あれ? 人の姿の『四神』達だけど、四人とも顔に同じ紅いお化粧してるのはなんだろう?


「ほうほう、『四神』共も無事に進化を果たしたようで何よりじゃな♪ あの紅い隈取り。皆『真』となったようじゃな」

「ほえ~進化したからあのお化粧してるんだねぇ~くまどりって言うんだ?」

「珠実は物知りですね……えっ!?」


 ちょこーん♪ あーっ! たまちゃんずるーい! ユニとアリアちゃんが『四神』達の姿に気を取られてる隙に!


「あはは、珠実も甘えん坊だねぇ~よしよし♪」

「むふぅ~♪ 心地好いのじゃぁ~アリサ様、もっともーっと撫でてほしいのじゃ~♪」


 わーう! たまちゃんったらアリサおねぇちゃんのお膝の上でなでなでされてるーっ! ズルいズルい! ってアリアちゃんと一緒にたまちゃんに文句言うんだけど。


「ふっ、ケンカした罰であろうよ? 仲良くせねばこの女狐にアリサ様を独り占めされると言う訳だ」

「これリンよ! 妾のようなぷりちぃな幼女を捕まえて女狐とはなんじゃ!?」

「ぷっ! うち等より長生きしてるクセに幼女とかメタクソ笑えるんだけどたまみ~ん♪」


 むむぅ~! リンに怒られちゃった! いつの間にかフォレアルーネ様もお側にやってきて、たまちゃんをからかってはワイワイと騒ぎ出したよ!


「ふふ、みなさん。騒ぐのもいいですけど、ごはん食べませんか? 僕、お腹空きました!」

「ああ、私のところの使用人達が今キッチンから、こちらに運んで来てくれています。私も手伝ってきましょう」


 カインちゃんとアイギスおにぃちゃんの言葉にユニ達もお屋敷を見ると、ランバードのみんながそれぞれにお料理を持ってこちらにやってくる。うん。ここは一時休戦だよ~♪ みんなでワイワイお昼ごはんを食べよう~!

アリア「……一つ( ゜ー゜) ユニに自慢できる事がある……!( ・`ω・´)」

ユニ「むむ!?( ゜ε゜;) それは一体!?(´・ω・`; )」

アリア「アリアは……アリア(^-^)」

ユニ「うんうん(・・;)」

アリア「あるじ様は……アリサ!( ・∇・)」

ユニ「はっ!(; ゜ ロ゜) それは!(´゜ω゜`)」

アリア「つまり……アリアリ姉妹!(y゜ロ゜)y」

ユニ「ガーンッΣ( ̄ロ ̄lll)」

アリス「……あ、あのぅ~|д゜)ノ アリアちゃん先輩、アリスもまぜてほしいんでっすけども?(;ω;)」

アリア「……あ(・о・) ……忘れてた、ごめんアリス(  ̄- ̄)」

アリス「そんなぁ~(つд⊂)」

アリサ「あはは(;゜∇゜) ユニもアリスもアリアも私の大事な家族だから、安心してね(^_^;)」


モモ「……騒ぎすぎです(¬_¬)」

ミミ「えー?(,,・д・) ももちードラーイ!ヽ(゜Д゜)ノ」

ネネ「モモはカインさんと鳳凰さん見てカッコいいとか思わないの?( *´艸`)」

ニャモ「そう言えば、モモの好みの男性ってどんな人か知らないわね?(´・∀・`)」

モモ「ももちーは……(*´ー`*) レジーナがライバルですもん(*^-^)」

ミミ「え~?( ̄0 ̄) どいうことぉ~(´・ω・`)?」

レジーナ「やや、やっぱり!Σ(´□`;) やっぱりそうだったんだねももちー!?((゜□゜;))」

モモ「負けないですよ~?(* ̄ー ̄)」

レジーナ「うぐぐ……ぼ、ボクだって負けるものか!( `ー´)」

ネネ「な、なんなの~?(´・ω・`; )」

ニャモ「はは~ん♪(*゜∀゜) これは面白そうね(*´▽`*)」

ミミ「リン様のあのクールな感じも、ジュン様のほわほわした感じもいいなぁ♪。:+((*´艸`))+:。」

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