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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
1/211

1話 猫と魔女

誤字報告ありがとうございます! 修正しました。(2023/08/04)

────────────────────────────

【目覚めは女体とともに】~頭痛を添えて~

────────────────────────────


 目が覚めた。

 見知らぬ部屋……というか廃屋? 何処だろう……ここ?

 そして今は何時?

 仕事があるんだけど……仕事?

 あれ? おかしいな、何の仕事だっけ?

 というか、俺は……あれ?

 変だ、自分の名前すら思い出せない……

 ズキッ!

 痛い……凄く痛い!

 頭が割れるかと思った。


 どうやら、何かを思い出そうとすると酷い頭痛に見舞われるようだ。

 なので、思い出すのは止めて、現状を確認することにする。


 女性だ……しかも素っ裸、流石に恥ずかしい。

 鏡とか無いかな?

 なんて思ったら、急に視界が切り替わった。

 まるで、第三者から自分を見ているような視点……凄く不思議。

 馴れないと感覚がおかしくなりそう、まぁ、折角なのでこの視点で自分をじっくり観察する。


 自分が『男』だったことは間違いない……知識として残ってるし。

 でも、目の前の『自分』は間違いなく女性だ。

 しかも結構な美人さん。

 これはいわゆる『TS』ってやつ?夢じゃないの?


────────────────────────────

【TSした身体はとてもエロぃ】~くしゃみはへくち~

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 腰まで伸びたサラサラで艶のある、ブラックストレートな髪。

 長い睫毛、ちょっとつり目、シャープな小顔と、まるで人形のように整っている顔立ち。

 身長は150~160cm位だろうか?

 美しく整った胸は大きい……ちょっと持ち上げてみれば、その重さに驚いた。

 腰は見事にくびれ、お腹を摘まもうとするも無理。

 お尻もこれまたグラビアモデルよろしくといったほどのものだ。


 結論から言うと……とてもエロい……んだけど、自分の身体だと思うと興奮もしなかった。

 これが、俺……あ、いや……確かに元男だが今はとっても美少女だ……『私』と、改めていこう。

 言葉遣いも女性らしく……うん、頑張ろう。

 そんな決意をして『私』を見る……確かに美少女だ……でも、目付き悪い。

 というのは私自身に原因があるのであまり気にしない。

 元……うーん、便宜上『前世』とでも呼ぼうか、中途半端に残ってる前世の記憶では私は人嫌い……人間不信だったようで、面倒な事に今にも引き継いでいるみたい。

 それがモロ顔に出てしまうようだ、こればっかりは仕方ない。

 私は頬をグニグニ指で摘まんで強張った表情をほぐし、ふにゃっと笑って見る。


「へくちっ!」


 くしゃみが出た。

 我ながら可愛いくしゃみだと思う……って、そう言えばスッポンポンだったんだ。

 このままだと風邪をひいてしまう、服は無いのかな?


 取り敢えず、視点を普通に戻し周囲を調べよう。

 って思ったら勝手に視点が元に戻った、なかなかに便利じゃないの。


────────────────────────────

【夢と希望の詰まりし双丘】~足元見えず~

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 ふと、下を見てビックリ……おっぱいで足元が見えません。

 OH……なんてこったい、女性になった故の苦労か……え? そんな苦労、知らない女性もいる?

 そうですね、すみません。


 下手に動かず、周囲を確認すると、随分広い部屋にいるとわかった。

 しかし、至るところがことごとく朽ちており、物が散乱して埃っぽい。

 私は胸を腕で押さえ、少し前屈みになって足元の視界を確保し、近くにあるタンスに近づいてみることにした。

 無事タンスにたどり着き、下から順に開けてみる。


「嘘でしょう?」


 タンスは全部空だった……気を取り直し隣のクローゼットに。


「……こっちも」


 現実は無情だった。


「え……これ、詰んだのでは?」


 見ず知らずの部屋……土地で、文字通り丸裸……人を呼ぼうものなら即事案だろう。

 理解した絶望に思わず倒れそうになる。

 この状態で倒れると怪我しそうなので、頑張ってベットに……


「……そう言えば、ベッドだけは綺麗だね……なんで?」


 私が目を覚ましたベッド、その周り……毛布、シーツ、掛け布団、窓、カーテン……


「私が寝ていた周囲の物だけは凄く綺麗な状態?」


 どういう事なんだろう?


「……さっきの視点の切り替わりと言い、訳がわからない」


 毛布にくるまりつつ、私は考える。

 一から順に……


────────────────────────────

【猫は最高の癒しである】~猫可愛いよ猫!~

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 『私』は何者なのか? 『私』自身の意思も記憶もないので、『俺』の見解と考察だが……10代後半~20代前半の美少女、名前は知らない。

 非常に優れた容姿とスタイルを併せ持つ、まるで「造られた人形」のようだ。

 何故か裸で廃屋のベッドで眠っていた。


 『俺』は何者なのか? 『私』の前世と先程ざっくりと位置付けたが、頭痛に見舞われた為そこで止めていた。

 今度は少し我慢して丁寧に思い出してみる。

 『俺』は、一般の成人男性だった。

 普通に仕事をして、普通に一人暮らし……ただ、他人に騙され、裏切られて。

 嗤われて、人を嫌いになった。

 擦りきれていたんだと思う。

 人を避け、人と関わらないように生きて、家族も疎んじ……当然友人もおらず。

 ズキズキ……

 あぁ、でも……そうだ……猫がいたんだ。

 生き甲斐……擦りきれて、疲れはてても、帰れば愛猫が出迎えてくれていた。

 『俺』にとって、最高の癒しであり、「生きる意味」だったんだ。

 でも……人と猫だ、当然、寿命が違う……あの子が天寿を全うして、『俺』は「生きる意味」を失った。

 ただ無気力に……惰性でその後を生きていた気がする。


 「痛い……これ以上は無理かな……」


 私は鈍く痛む頭を押さえて、ベッドに倒れこむ。

 知らず涙が流れていた。

 悲しいから、痛いから……理由は前者の割合が大きい、転生なのか転移なのかわからないけど……「引き継がれた思い」なのだから、相当なのだろう……忘れちゃいけない。


「会いたいよ……ミーナ……」


 今なら鮮明に思い出せる、愛猫の名を呟くと……


「うぅ、あぁ……」


 涙が……


「うあああぁぁ~!!」


 堰を切ったように溢れて、私は泣きじゃくっていた。


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【再会】~猫は無敵~

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 どのくらい時間が過ぎたのだろう?

 気付くと、ベッドの上だった……どうやら泣き疲れて寝てしまっていたらしい。

 辺りは薄暗い、日が落ちて来たのだろう……結局何も出来ずに1日が終わってしまうな。

 そんな栓無い事を考えて、ぼーっとしていると、不意に……

 ガサッ

 と言う物音に急速に意識が覚醒していく。


「な……何だ今の音……?」


 私は咄嗟に毛布で身体を包み、物音がしたであろう方向に目を向けた。

 凄く嫌な考えが脳裏をよぎる……考えないようにしてたのに、やっぱりそういうことなのだろうか?


「拉致、監禁……誘拐? 裸にされたのは逃げられないようにするため?」


 そして、ベッド周りだけ綺麗なのは……つまり。


「嫌だイヤだいやだぁ~っ!! 冗談じゃないぞ!」


 ガサガサッ!!


「ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァ!! 助けてミーナァァッ!!」


 私は本気で泣き叫んだ、我ながら凄い声が出たと思う。

 そのせいか、物音の主も驚いたようで……


「ンニャァァーンッ!?」


 と、鳴いた。


「えっ!?」


 猫!? 猫の鳴き声?


「……は、ははっ……あ~、ビックリしたぁ~」


 どうやら物音の主は猫だったみたいだ、私はヘナヘナ~と脱力してベッドに座りこんだ。


「にゃあ~ん♪」


 ふふ、愛猫(ミーナ)の事を思い出してすぐに猫に会うなんて……

 野良の子かな?


「おいでおいで~♪」


 薄暗くてよく見えないけど、どんな子かな? 私は猫が警戒しないように、出来るだけ優しく声をかけてみた。

 それが効を奏したのか猫が近づいて来る、うっすらとフォルムが見える。


「ンナァ~ん」

「えっ!?」


 目の前まで来て、はっきりその姿を見た瞬間、私は思わず絶句した。


「み、ミーナ……?ミーナなの?」

「ンンニャぁ」


 あぁ……間違いない、この仕草、私の手に頬擦りして喉をゴロゴロ鳴らして「撫でろ」って催促してくるミーナの甘え方。


「あぁ……み、ミーナぁ……」

「ゴロゴロ♪」


 在りし日のそのままの姿に、涙が溢れ出す……さっきあんなに泣いたのに……


「ミーナ、ミーナ……ごめん、ごめんな……あのときお前を看取ってやれなくて、側にいられなくて……ごめん……ごめん!」


 ミーナの晩年の際、側にいてやれなかった……その事を『俺』はずっと後悔していたんだ。


「寂しかったよな?暗い部屋で、ひとりぼっちで……ごめん、本当にごめんなさい」

「ニャ~ン」


 私は愛猫との再会による喜びとか、看取ってやれなかった罪悪感とか……感情がぐちゃぐちゃで、ただひたすら泣いて謝って、ミーナを抱きしめていた。


────────────────────────────

【魔法の手掛かり】~イメージって大事~

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 どれくらいそうしていたんだろう?

 幾分気持ちも落ち着いて来て、少し冷静になった頭で色々考える。

 辺りはもう真っ暗だ、完全に日が落ちて夜になったんだろう。

 せめて明かりがほしいよ、何も見えないし。

 パアァッ


「えっ!? ひかった?」


 なんと言う事でしょう、私が「明かりがほしい」って思ったら、文字通り明るい球体が部屋の隅、天井に現れては照らしてくれた。


「……これって、もしかしなくても私がやったんだよね?」

「にゃあ~♪」


 ミーナがまるで「そうだよ」と、肯定するかのように一鳴きする。

 うん、ですよね~、「明かりがほしい」と思った時のイメージが電球で、そのイメージが……何だろう?


「魔力……とか? えっ、じゃあ何? 私、魔法使いなの?」

「うにゃ~ん♪」


 またミーナが鳴いた……マジなのかな? じゃあ、視点が切り替わったのも『魔法』って事になるのか……す、凄いじゃん!


「あっ! それなら、服! 服が欲しい!」


 えぃっ! て、両手を前につきだしてそう叫んで見た! これで服が出てくれれば!

 しーん……何も起きない……


「え~? 何でよ?」


 何度も服服服! と、えいえいってやって見るけど何も起こらない。

 う~ん、イケると思ったんだけどなぁ……私は首をひねりつつミーナを見る。


「……じゃあ、これならどうだ、猫じゃらし!」


 ポンッ!


「やった! 成功~♪」

「にゃっ!」

「はははっほーらミーにゃん♪」


 ポンって出てきた猫じゃらしを持ってミーナと戯れる、よく見るとこの猫じゃらし前世でも使ってた物と同じだ。


 ひとしきりミーナと遊んだ後、もしかしたらと、思う。


「もしかしたら、具体的にイメージしないと駄目……って事か?」


 試して見る価値はありそうだ、漠然と服、と言ってもそりゃあ出ないよね、どんだけ種類あるんだって話だし。


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【黒髪には白が似合うと思う】~清楚なお嬢様は大好物~

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「……じゃあ、まずは、下着?」


 下着、パンツ……と、ぶ、ブラジャーですか? え、待って、それを明確にイメージしろ……と?


「ハードル高いんですけどぉっ!?」


 元男の私に女性の下着をイメージしろって言われても、いや、まぁ……写真とか動画とか漫画とかで知ってはいるけども。


「えぇい! ままよ! パンツにお揃いのブラジャー!!」


 ポポーンっ!!

 恥を忍んで気合いを込めた渾身の下着!

 出てきたそれらは特に飾り気のない白い下着セットでした。

 後はこれを着るだけだ、私は無心でパンツに足を通す、ブリーフ以上のフィット感に少しビックリ。

 うん、サイズもうまく合ってるようだ、食い込み過ぎて痛い~なんてこともない。

 さぁ、次はブラジャーを……困った……


「付け方がわからない!」


 当然だ、知ってる訳がない……一瞬着なくてもいいかな~なんて思ったけど。

 着けていないと形が悪くなると聞いたことがあるし、擦れて痛いとも言うし。

 何よりこの身体は借り物かもしれないのだ、大切に扱わねば!

 そう決意して、出てきたブラジャーをよく観察する、要はカップに胸を収め、肩紐と後ろのホックでとめるのだ、早速やって見よう!


「よっと……肩紐通して、んん~少し前屈みになった方がいいかな? これで、上手いこと胸を収めて……むむ、少し収まり悪いんですけど? なんとか調整でき、たよ! よし、後はホックをとめて……うおぉ、身体柔らか!? 余裕で手が回る、ホックはこれかな? 3つもあるとか……馴れないと大変だぞ?」


 じゃじゃーん♪ 完成~! 初めてにしては上手く着れたんじゃなかろうか?

 試しに腕を上下させたり、ピョンピョンとその場で軽くジャンプしたり色々身体を動かして見る。


「すんばらしいフィット感……サイズもピッタリとか、魔法凄いな!」


 さて、次は服を用意しないとな!


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【幽霊ですか?】~スタイル良ければ何でも似合う~

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 服、と一言で言っても色々ある。

 どんな服が良いだろうか? 正直、今の私……この女性のスタイルならなんでも似合いそうだ。

 

「ティーシャツ! ズボン!」


 ポンポンッ! っと、とりあえず簡単そうな無地のシャツとズボンをイメージ、柄物とかあんまり好きじゃないんだよね。シンプルなのが一番だ。

 サイズは大丈夫かな? 早速着てみよう。

 あ、シャツは胸の分お腹に隙間が出来るのか、ズボンの中に入れて~って、うおぉ、胸でズボンのボタンが見えないんですが!?

 手探りでなんとかズボンのボタンもとめて、OKっと。


「よし、じゃあ視点切替!」


 改めて視点を第三者の目線に切替えて、服を身に付けた自分を見てみる事に。


「うわぁ……凄い、めっちゃSの字」


 横から見るとよくわかる……胸・腰・お尻の三点を繋ぐ綺麗なS。

 前世でもこんな凄いプロポーションした女性なんて、それこそ写真や動画でしか見たことないぞ?

 思わず色んな角度からじっくりと見てしまう、ゲームのアバターのキャラメイク画面、とでも言えば伝わるだろうか?

 と、そんな時だ……気のせいだろうか? 部屋の角隅……の、天井に……


「ミーにゃん……あ、あそこ……あそこに何か居ない?」

「にゃあん♪」


 今のは肯定!? マジでマジで何か居るんですかぁ!?

 私は視点を通常に戻して、恐る恐る声をかけてみる。


「あ、あの……ど、どどど、どなたか、そこにい、いらっしゃるんですかぁ……?」


 うぅ、こっわ! ガチで幽霊とかだったらどうしよう?

 あ、もしかしたらこの身体の本来の持ち主……の、意識とか!?


《おぉ! やっと気付いてくれたみたいだね♪》

《ん、結構早かった……思った以上に優秀かも》

《これで、聖域が甦るかもしれません》


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【削られるSAN値】~覗いてました♪~

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 うわっ!? ビックリした! ボヤ~っと少し歪んで見えた天井から声が聞こえた。

 誰か天井裏に居るのか!?


「だ、誰!?」


 私は思わず誰何する。声質から女性……3人だろうか?

 とりあえず、女性同士なら酷い事はされないだろうか? いや、誘拐犯の可能性も十分に考えられる、油断は出来ない。

 私はミーナを後ろに下がらせて警戒をあらわにして身構える。


《うおぉっ!? 慌てないで慌てないで! 隠れてクスクス笑ってたのは謝るから!》


 正直だな! おいっ!? ていうか、見てたのかっ!?

 うわぁぁ~、こっ恥ずかしいーッ!!


《ん、面白かった……特に下着のあたり》

「ぎゃあぁぁっ!! やめろぉぉっ!」


 あれを、見られていたなんて!? なんて事だ……死にたい!


《二人とも、いい加減にしなさい》


 天井がパアッって眩しいくらいに光り、3つの球体が降りてくる。

 羞恥にもんどり打ってる私の目の前に来ると、なんとビックリ! その球体はそれぞれが少女の姿を形取って行くではないか!


「な、なんなんだよ……これ……? いい加減理解のキャパ超えて発狂しそうなんだが!?」

《あぁ……驚かせてしまってごめんなさい、あなたに危害を加えるつもりはありませんので、どうか少し落ち着いていただけると助かります》


 優しそうな声と一緒に姿を見せたのは、美しい金髪に白いドレス姿の女性。


《ん、ごめん……あたし達はあなたをこの世界に招いた者》


 少しぶっきらぼうな感じの、ピンクの髪をツインテールにした小柄な少女。


《いやぁ~少し様子見るつもりだったんだけどね、キミってば、泣き出すし寝ちゃうしで、何かタイミング掴めなくてさ~ごめんね♪》


 そう明るく笑う、茶髪の女の子。

 3人ともうっすらと身体が透けている、正直訳がわからなくて、いっそ気絶でも出来ればいいのになぁ~なんて思ってしまう。


《まずは名乗りましょう、私はアルティレーネ……この世界を創造した三神の一柱です》


 金髪の女性がそう言って、優雅にお辞儀する。

 あれだ、お金持ちのお嬢様がやる、スカートの両裾を摘まんで軽く持ち上げて頭を下げるアレ。

 リアルで見るの初めてだわ……何か感動してしまう。


《ん、同じくレウィリリーネ……宜しく》


 続いてピンクツインテ、眠そうな目で気怠げにサッっと手を上げて挨拶してくる。初対面で結構失礼だなぁと思うけど、悪い感じは全然しないね。


《うちはフォレアルーネ! 末っ子なんだ♪ よろ~(σゝω・)σ》


 ナチュラルに顔文字使ってくる茶髪っ子、めっちゃ明るい子だな……ムードメーカーなのだろう。

 こういう子がいると本当に雰囲気が明るくなってくるから、いいよね。


「あ……えっと、私は、目が覚めたら、ここに……男だったはずなんですけど……」


 そう口にして、改めて困る、自己紹介しようにも現状が滅茶苦茶なのだ。

 自分の事もよく覚えていないのに、どうやって紹介しろと言うのだ?


《大丈夫ですよ、無理に思い出そうとしないで……先程レウィリリーネも言ったように貴女をこの世界に招いたのは私達なのですから》


 アルティレーネと名乗った女性がふんわりと微笑みながらそう言ってくれる。

 なんか安心する笑顔だ、心が落ち着いてくる。


《アルティ姉の女神っくスマイルは強烈でしょ~♪》

《ん、何柱もの男神を虜にしてはバッサバッサと切り捨てて来た魔性の女》


 え~、何だよそりゃ……あ、でも、わからなくもないかな、男だったら惚れちゃうよねぇ。


《人聞きの悪い……えっと、現状を説明させて頂いても構いませんか?》

「あ、はい……お願いします、正直訳がわからなくて困っていましたので」


────────────────────────────

【女神さまの48クッキング】~アリサさんの作り方~

────────────────────────────


《まず、貴女のその身体は間違いなく貴女自身のものですからご安心下さい。誰かを乗っ取ってしまった等と言うことは決してありませんから》


 おぉ、そうなんだ、良かった……正直今まで見ず知らずの人の家に勝手にお邪魔してるようで少し落ち着かなかったんだよね。


《で、何でこんなんなってるかって言うと……キミ、自分が死んじゃったのってわかってる?》

「え、あ~そう言えば……ミーナがいなくなってから、ろくに食事も取ってなかったっけ、このままだといずれ死ぬなって思ってたけど」

《うん、まんま衰弱死、典型的な栄養不足……あの世界では結構珍しい》


 そっか……まぁ、別にいいや。あんまり思い出したくもないし。


《はい、私達はそんな貴女の肉体と魂を拾い上げ、肉体を再構築し魂を浄化してこの世界に来ていただいたのです》

「はぁ、再構築に浄化……ですか?」


 肉体を再構築ってのはまぁ、なんとなーくだけどわかるな、でも、魂の浄化ってのはなんだべ?

 浄化されたら私って普通消えるんじゃないの?


《簡単に説明すると肉体の再構築ってのは、こう、キミの身体を~》


 フォレアルーネが両手を前に出して、パァンッ!


《ってやって、こう丸めて……コネコネ~ってしてね》


 丸めて捏ねてって、パン生地かっ!?

 えぇ~私ってそんなで作られたの? 「造られた人形」ってのはあながち間違いじゃなかったわけだ。


《そして魂は洗濯機にポイッ》


 レウィリリーネが物を放り投げるようなジェスチャーでそう説明してくる。

 ワハハ、そうですか、魂って服か何かですかね?


《そうして綺麗になった魂を、再構築した身体につめて完成だよ!》


 おぅふ……生い立ち? を、聞かされて変な声が出る。


《ですが、浄化しきれなかった『想い』は残っていたようですね》


 アルティレーネがミーナを抱き上げて優しく撫でてくれている、透けてるけどちゃんと触れるのね?

 『想い』……私がミーナを生き甲斐にしていたことや、人嫌いなことだろう……正に「引き継がれた」のだ。


《この子は聖霊……今後貴女と常に共にあり続けることでしょう》


 聖霊っていうのはよくわからないけど、ずっと一緒にいられるのは本当に嬉しい。


「……で、女性にしたのは何で?」

《趣味です♪》

《女の子の方が可愛い》

《女子会したいじゃん?》


 なんていうか……薄々感じてはいたけど、この女神達軽いな!?


《もしかして、お気に召しませんでしたか?》

《ふぁっ!? 嘘……何処が気に入らないの!?》

《うちらが48時間ずっと張り付いて作り上げた渾身のキャラデザだよ!? 何が駄目なのさ!?》

「うわっ!! ビックリした! ってキャラデザってなんだ!?」


 どうやらこの身体は女神達3人の48時間の成果だったようだ。

 丸二日かけてキャラメイクとは、かなりの本気具合だろう……


「文句なんてないよ、こうして新しく人生スタートさせてくれただけで感謝してる」

《そうですか、良かった》

《ん、あたしを焦らせるとは、なかなかやる》

《あはは♪ まぁ、うちらが勝手に勘違いしただけだったね~じゃあ、次は名前だね!》


 あ、そうだ……私、名前なんていうんだろ? ミーナの名前はすぐに思い出せたのに、自分の名前は全然駄目だ、おそらく洗濯機で綺麗にされちゃったんだろう……まぁ、どうでもいいけど。


「私は完全に忘れてるみたいだから、良ければ3人で決めてくれる?」

《……》


 3人は互いに顔を見合せ、頷く。


《では、名付けましょう……貴女の名は、『アリサ』です》


 アルティレーネが代表するようにそう告げる。


「アリサ……私は、アリサ」


 うん、良いじゃないの♪ 気に入った!


「ありがとうみんな……嬉しいよ」

《気に入っていただけたようで、なによりでした》

《うん、実は3人であらかじめ名前は決めていた》

《ははは……これもだいぶ揉めたけどねぇ~》


 3人ともすごくほっとした様子だ……もし私がごねていたらきっと面倒な事態になっていただろう。


────────────────────────────

【聖域】~主神さまのお墨付き~

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 何はともあれ、まだまだわからない事は沢山ある……色々と教えてもらおう。


「はは、候補だった名前は後でじっくり聞かせてもらうからさ、今は他に色々教えてよ?」

《オッケー、任せてアリサっち♪》


 おぉ、早速愛称で呼ばれたぞ! なんだか嬉しくて思わず笑みがこぼれる。

 不思議だな、人嫌いだったはずなのに普通に会話できてる、彼女達が自分を害するような人達じゃないってはっきりわかるからだろうか? むしろ安心する。


「さっき、『この世界に招いた』って言ってたけど、ここは異世界ってことなの?」

《そう、この世界はあたし達が創った世界》

《自然豊かで生命の溢れる平和で優しい世界……に、したかったのですけど》

《魔神の大馬鹿たれが魔王だのなんだの召喚しては暴れまくって、滅茶苦茶にされちゃったんだよ》


 そう言ってはため息をつく3人……って、魔神とか魔王とかいるの? 物凄い物騒な世界なんじゃないのそれって!?


《あぁ、安心して。主神が召喚した勇者達がもうぶっ飛ばしたから!》

《魔王は討伐されて、魔神とは相討ちになった》

《天界に送還された魔神は主神の手で完全消滅させられました》


 おぉ、勇者達すごいな! 魔神とやらの戦いで相討ちというのは残念かもしれないけど……きっと熾烈を極めた凄い戦いだったんだろうなぁ……うんうん。


《でも、問題はその後……戦いの爪痕が世界中に広がってしまっている》

《本来なら創造神たる私達がなんとかしなければいけないのですが、その戦いの時に私達も勇者達に力を貸していたので……余力がないのです》

《おまけにこっちに顕現するための『聖域』がぶっ壊されちゃった上に呪いの置き土産までされちゃってね~もー! にっちもさっちもいかなーい! って状況なの!!》


 うわぁ……踏んだり蹴ったりだなぁ、可哀想に。


《もう、どうしたらいいかわかんなくてさぁ~主神さまに泣きついたんだよね》

《うんうん、それで貴女を紹介してもらった》


 やれやれって感じで左右に広げた両手を同時に持ち上げ、ふるふると首を振るフォレアルーネ、右手を顎に宛てうんうん頷くレウィリリーネ。


《アリサさんなら魔神が残した呪いを解いて、きっと聖域を解放してくれるだろう……と》


 左手を胸に、右手を私に向けたアルティレーネがそう説明する。

 私はなんと、偉い神様に選ばれたらしい。


「なるほど、だいたいわかった……私に呪いが解けるかどうかは別として、『聖域』っていうのは何処にあるの?」

《ここ》

「ここ……? って、この場所が『聖域』なの?」


 そっか、さっきフォレアルーネがぶっ壊された~って言ってたっけ……道理で廃屋ぽいわけだ。


《『聖域』は謂わば私達の家……敷地とか領地、そのようなものと思って下さい。そしてこの屋敷は比較的に被害の少なかった場所です、と言っても周囲には魔物もはびこり、高濃度の魔素が充満して普通の人間はとてもではありませんが近付く事もできませんが……》

「わーお、普通に魔物とかいるのかー魔素とかはよくわかんないけど……何はともあれ、まずはライフラインを確保しないとね」


 そうして私は今いる部屋を見渡す、うん、足の踏み場も無いくらいの散乱ぷり……穴の空いた天井、壁、床、壊れた家具etc。


「もしかして、これもイメージすれば直せたりしないかな?」


 思い立った私はとりあえず穴の空いた壁に手をあてて早速試してみる、イメージするのは清潔で綺麗な白い壁、ちょっとや、そっとじゃ壊れない頑丈なのがいいね……うん、出来そう!


「直れ直れ~えぃ!」


 服を出した要領でちょいと気合い? を込めてみると淡い光を放ってみるみる屋敷の壁が、イメージした通りの白い壁に変わって行く。よし、ちゃんと成功したみたいだ。


《おおぉー!! アリサっちすげー!》


 パチパチとフォレアルーネが拍手して絶賛してくれる、うへへ、もっと褒めてくれたまへ!


《……魔女》

「え? レウィリリーネ……魔女って何?」


 目を丸くして驚いていたレウィリリーネがボソッっと呟いた言葉が気になって、聞き返した。


《この子を具現化させた事といい、下着や衣服の事といい……これは間違いなさそうですね》

《ん、アリサは魔女、流石は主神が選んだ人》

「二人で納得してないで、どう言うことか教えてくれない?」


 ミーナを撫でていた手を止めて、アルティレーネがこちらをじーっと見てる。

 ん? なんかザワザワとした小さい違和感を感じる……ちょっと気持ち悪いのでパッパって身体を手で払ってみた。


《あぁ! 私の鑑定が弾かれました!》

《マジで!? アルティ姉の鑑定って文字通り神様レベルじゃん!? それを感じて弾いた!?》

《アルティ姉さんで駄目ならあたしでも駄目……誰にも見破れない、うん、魔女ならそれくらいでいいと思う》

「あ、さっきのってあの有名な鑑定だったのか、ごめん、なんかザワザワするな~って思ってたら知らずに拒否っちゃったみたい?」


 ポカーンとしてるアルティレーネにとりあえず謝っておく、魔女ってのはよくわからないけど賑やかにワイワイしてる三姉妹を見てると悪い意味ではないんだろう。


《驚きましたけど、アリサさんが魔女なら、私達で贈り物をさせて下さいね》


 え? どういう事? まだショックが抜けていないのかアルティレーネが何か要領を得ない事を言い出した。


《『聖域』の復興に協力してくれるアリサっちに、ありがとーの思いを込めて役立つプレゼントしたいんだよ♪》

《簡単にいうと職に合った装備品とか装飾品、剣士なら剣や、鎧、盾とか》

「あぁ、それで鑑定して私の職業を見ようってしたのか、どれどれ~私の職業何ですか?」


 ピコーンって感じでウィンドウが視界の端に出てきた、えっとなになに?


「おー『聖域の魔女』だって、大当たりだね」

《ん、それならやっぱり魔女装備一式がベスト。魔法の発動が楽になるし》

《わかりました、アリサさん『魔女』を強くイメージして、それを私達に見せて下さい》

《そのイメージを参考にしてうちらで良いの創っちゃうからさ♪》


 おぉ、何て有難い話だろうか、女神さまのお手製装備とかめっちゃ贅沢だ!

 しかし、『魔女』か……やっぱりあの帽子は絶対欲しいよね……あの三角のつばの広いウィッチハット、そしてローブ、ん~ワンピースタイプもいいけどベストとスカートを隠すようなマント付きも良いなぁ……靴はブーツがいいかな? 爪先がくるりんってのも魔女ぽくていいけども。

 そしてこれまた悩むんだけど、杖か箒か……箒に乗って空飛んでみたいから箒かなぁ?


《ほむ……興味深い》

《随分風変わりな『魔女』ですね? 箒で空を飛ぶとか斬新です》

《これってアリサっちの前世から引っ張ってきたイメージ? ワンピも可愛いしベストスカートも良いね! 何よりこの帽子が凄いインパクト♪》

「そう言えば洗濯機で綺麗になった~って言ってたけど、こういうのって残るんだな?」


 私が見せたイメージに盛り上がる三姉妹にちょっと気になった事を聞いてみた、自身の事はほぼ覚えてないけど、知識というかそういうのは都合よく残ってる。


《あたし達の洗濯機は優秀、培った知識や経験とかはちゃんと残してくれる》

「なるほど……だからこんなにはっきりとイメージできるのか」


 私がなるほど~って思ってると3人ともどれにするか決まったようで、それぞれこれこれこれ~って自分が決めたイメージを見せ合っている。


《よーし、じゃあ創るよ~そいやー!》

《ん! 力作を見せる!》

《ふふ、アリサさんに似合う可愛い衣装を!》


 ポンポンポーンっとフォレアルーネが衣服を、レウィリリーネが箒を、アルティレーネが帽子を創ってみせる……私が服を出した時と同じ感じ。


「おー♪ 凄い! 装飾とかデティールまでかなり細かいじゃん!」


 私がこんな感じって曖昧に見せたイメージからここまで高品質の物を仕上げてくるとは、流石は女神さまってことか~!


《さぁ、アリサさん早速着てみて下さい!》

「ありがとうみんな、ありがたく使わせてもらうよ!」


 感謝を忘れず伝えてちょっとドキドキしながら着替える、まぁ、この時細かい部分を少し教えてもらったりしたのはご愛嬌ってことで。


「できた! 視点切り替えて見ていいかな? いいよね!?」

《うん、モチのロンだよ♪ じっくり観察するといいよ!》

《これは……うん、凄く良い……!》

《この世界では珍しいでしょうから、流行るかもしれませんね》


 私は第三者の視点で魔女服を着た自分を見る、うはぁ~魔女だ~知識にあった魔女のイメージを色々重ねて出来上がった私だけの魔女装備。何だか嬉しくなって色々ポーズをとってしまう。


《箒も忘れないで、あたしの力作……》

「力作って言われても……棒じゃん」


 レウィリリーネから渡されたのは30cmくらいの棒だった、装飾は見事だけど箒にも杖にも見えない。


《フフン、それは杖にも箒にもなる、それを持って強くイメージして?》

「マジで? じゃあ、杖になれ!」


 私が杖を意識してそう言えば、手に持った棒の両端が光を発して伸びて行き、イメージした杖を形取る。


「おおおー! 凄いじゃん! じゃあ箒!」


 一瞬で杖から箒にその姿を変えた。これは凄い!


《如何でしょう? 気に入ってもらえましたか?》

「うん! 凄い、凄くいいよ♪ 本当にありがとう!」


 こんなに良いもの貰えて私はとてもテンションが上がっているのを感じる。


《ん、今のあたし達にはこれくらいしかできないけど……》

《『聖域』が復興してくればもう少しサポート出来るようになるからさ》

《どうかアリサさん、ご協力よろしくお願いします》


 そっか……『聖域』が復興しないと3人とも実体化もできなくて力も出せないんだ……なのにここまでしてくれるなんて。私は手にした箒を握りしめ、覚悟を決める。


「わかった! 私も頑張ってみるよ!」


 こうして始まった私の新たな人生、大切な愛猫(ミーナ)とののんびりだらだらした生活を目指して魔女活動頑張りましょうかね。

アリサ 『聖域の魔女』『異界からの転生者』

ミーナ 『聖霊』

アルティレーネ 『創造神 長女』『お嬢様』

レウィリリーネ 『創造神 次女』『ぶっきらぼう』

フォレアルーネ 『創造神 三女』『ムードメーカー』

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