第1話
太郎はハローワークに来ていた。
求人検索マシンの前でいくつかの企業を見て、印刷する。5枚ほど印刷してから、相談窓口には行かず、そのまま帰宅する。
帰りの電車の中で、スマホのニュースを見ていると、ある記事に目がいった。
― 生物研究センターの坂田教授 クローン人間に関与か
太郎は息を大きく吸い込んで、大きなため息を吐くように鼻から息を吐いた。
太郎は高校を卒業してから、電気関連の仕事に就いたが、長続きせず入退社を繰り返した。最後の会社では、社長とケンカをして、そのまま退職届を提出した。その性格と経歴のせいか、20代前半なのに再就職に難色を示していた。
電車が生物研究センターのある駅に到着すると、太郎はスマホを右手に持ちなおし電車を降りた。そして改札を出て少し歩くと、目の前に大きくそびえ立つ生物研究センターの方へ向かって行った。
そして入門証を取り出し、慣れた手つきで生物研究センターに入る。Tシャツにジーンズ、そしてリュック姿の青年が入るには場違い的な違和感を感じる光景だが、太郎の堂々として慣れている態度だった。それどころか、門衛が軽く頭を下げるのだった。
そう、ここは太郎が生まれ育った場所。太郎は坂田教授のいるA棟へと向かった。