俺の幼なじみが、かたくなに“文学少女”と呼ばれるのを拒む件
「だから、その呼び方はやめてくれといつも言っているだろう」
琴杉君乃は、眼鏡の向こうで眉をひそめた。
「でも、いつも本読んでるじゃん。本好きなら“文学少女”だろ」
「違う。私が読んでるのは“文学”ではない。よくある科学啓蒙書だ」
「ふうん――じゃあ、いま読んでるそれは?」
「……『ピタゴラスの定理でわかる相対性理論 時空の謎を解く双曲幾何』」
理解不能な単語の羅列に、俺は眉をひそめた。いや、“ピタゴラスの定理”は違うぞ。それ以外のことだ。
「……それ、面白いの?」
「面白いとも。三平方の定理が拡張されてユークリッド幾何学を飛び出し、e=mc^2にたどり着くところとか、何回読んでも感動する! キミも読め!」
「いや、授業以外で数学とか、マジ勘弁」
君乃は大げさにため息をついた。
「はああ……。だからキミは、いまだに恋人の1人も出来ないんだ」
「いやいや。いくらなんでも、そんな本読んで恋人出来たりはしないだろ、さすがに」
「出来るぞ――わ、私が、なってやる」
顔を赤らめた君乃に、光の速さで即答する。
「いや、マジ勘弁」
その瞬間、俺は向こうずねにとんでもない痛みを感じて、ひっくり返った。
こいつ、小学生に間違われる未発達ボディの、どこにそんな力が。
「ふん! 文学を読むべきはキミの方だよ! この無神経が!」
そんなこんなで、今日もにぎやかな科学部部室なのだった。
お読み頂きありがとうございました。
楽しんで頂けましたでしょうか。
ちなみに、この中で出てきた、『ピタゴラスの定理でわかる相対性理論 時空の謎を解く双曲幾何』は実在の書籍ですが、ここで書いている内容は正確ではありません。読んで感動したのは事実ですが、だいぶ昔のことなので、もう記憶が曖昧なのです……。
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