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原始の娘  作者: 日和純礼
白昼の冥、闇夜の光
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04. 邂逅

 ヴェスカニーチェの斬擊の気配を感じながら、《跳ぶ》瞬間にハッキリと聞こえた。


 ――きっと、会うから


 シージュは紫黒の目を瞬かせる。


 軍にて定期的に測定されるシージュの魔力量は常にゼロ。

 魔術を展開するにはある程度の訓練が必要であるが、スヴェルートニア王国に産まれた者なら魔力自体は誰でも当たり前に持っている。

 しかし、魔力がまったく検知されないシージュは《魔なし》と揶揄されることもしばしばであった。


 しかし、シージュには人としては例のない力がある。


「誰かな」


 君は俺を知っているだろうに、望みを口にするだけで、《呼んではくれない》。


 シージュは、はたと気がつく。


「呼んで欲しいのか、俺は」


 呼ばれないと俺は《跳べない》。

 だから、呼んでくれないか。


 そうしたら――


「君に触れたい」





「シージュ師団長!」


 シージュが《着地》すると、広々とした客間の中央で泣き笑いのような顔をした男が、振り返る。


「会いたかったァ!」

「俺が会いたいのはお前ではない」

「酷い!」


 呼んだから来てくれたんじゃないのォ!?


 男は叫びながら、紫紺色の細身の刀身を脇に抱え、一拍後に周囲を一閃する。剣風に掠っただけの兵士が膝をつく。

 男は何かの魔術を展開させているようだ。


 俺、俺!俺は会いたかったですよォ!と息つく暇なく剣を奮うのは、第十師団クーゲル大隊長である。


「冗談だよ。第九があちらについた」

「ですよねェ!知ってます!」


 今襲われてるんでェ!と言葉はバタバタしているものの、クーゲルの動きには無駄がなく、次々と敵を払う。


 クーゲルの間合いに入らないようにしながら、シージュは客間を見渡した。


 客間と言えども、上級貴族が滞在する場所だったため、天井は高くホールのようですらある。

 第九師団に急襲されたクーゲル隊だが、周囲に十数人の敵兵士が昏倒していた。


 場所が俺向きだったから、何とかなってます!現在進行形でェ!と叫びながらクーゲルが報告しているが、台詞に反して、場はクーゲルの独壇場であり、制圧間際であった。


 クーゲルは、師団長クラスにも遜色ないと、他師団からも評価されるほどの剣の天才である。


 とはいえ限りなく感性で戦う性質のため、シージュは理性的な兵士をクーゲル隊に置いている。

 隊員たちはクーゲルから物理的にも会話的にも上手く距離を取って戦っていた。


「全体的におかしくて!師団長をお呼びしたんですけど!伝令帰ってこないし!」

「伝令は潰されたみたいだよ。フェーズ4はZにルート変更」

「Zォ~?はァ。昼飯食えるかなァ」

「こっちが美味しく焼かれる心配をしてね」


 相手は《クイーン》だよ。

 シージュは告げると、剣を奮うクーゲルの間合いに一瞬で入り、クーゲルの肩に触れ、離れる。


「くう!好きィ、師団長!結婚して!」

「謹んで断る」


 謹まないでェ!そして断らないでェ!と軽口をたたくクーゲルの、シージュが触れた肩から無数の紫紺の蔦が伸び、腕に絡まっていく。


 クーゲルが敵に向かって剣を一閃すると、蔦が周囲の敵に伸びて絡まり、蔦に触れた敵兵士は次々に昏倒する。


「クーゲル。次に家に帰った時、妻子が家に居るといいね」

「それシージュ師団長が言うと洒落にならないヤツ!」


 何が見えてんのォ!いや、この場合、見えてないの……?と、独りで喚くクーゲルに、呆れた目をシージュ以外の隊員が向けている。


 そんなクーゲルたちに背を向け、シージュは紫黒の目を二、三瞬く。


 ――?


「あっ、違う、違う、シージュ師団長!全体的に何がおかしいって話なんですけどォ!」


 部屋を制圧し終えたクーゲルがシージュに駆け寄って話し出す。


「敵の動向じゃなくて魔力の話です!

 魔力が寄せてきているというか!サワサワ来てます!あ、いえ正確には来てましたァ!」


 眉をひそめるシージュに、クーゲル隊の隊員たちがすかさず補足する。


「我々がハッキリと気づいたのは5分ほど前からです。何かしらの魔力が北側から《波状に寄せてきていた》ように感じられました」


「20分前に第九から急襲を受けましたが、その時点で第九の数名に魔力酔いのような症状が見受けられましたので、実際にはもっと前から魔力の影響があった可能性があります。

 最初は、何かしら魔術の影響かと、警戒していたのですが、何もなく」


「北側?魔術師団ではないね」


「おそらくですが、スヴェルートニア王国軍内の誰かによるものではありません。

 魔力が異質のため……としか我々では表現できないのですが、これは大隊長以外、全員一致の見解です」


「俺、聞かれてないよォ!」


 言葉数に反比例して、言葉の足りない上官に変わり、隊員たちが説明を続ける。


「第九は全体的に魔力量が多いですから、覿面に魔力にあてられたのかと。

 逆に魔力量が相対的に少ない我々は、影響を感じませんでした。

 今現在、この魔力による魔術の展開は感知していません」


 第十師団は、魔力量が平均よりかなり少ない兵士が配属している。師団長のシージュからしてゼロである。


「どうりでエインニック師団長の姿がない」


 第九師団エインニック師団長はスヴェルートニア王国軍でも三本の指に入る高魔力保持者である。動けなくなっているのかもしれない。

 この三本の中に先ほど相対したヴェスカニーチェも入るのだが――


「……あの人も大概《特殊》だからな」


 先ほどは十人隊であり、彼女自身に違和感がなければ、異常に気づかなかった可能性が高い。

 自分と同じように。


 シージュは独りごちる。


「それで?クーゲルの『正確には来てました』というのは」

「今は魔力が凝っているような……。範囲は不明です!」

「軍団長に報告済みかな。

 魔術師団がまだ動いてないのはそれが理由か。

 ――天から星でも降ってくるのかもしれないね」

「だからっ、それシージュ師団長が言うと洒落に」


 ならないヤツゥ!


 果たして――

 クーゲルの叫びは誰の耳にも届かなかった。


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