16. 血煙
人の王はある日聞いてしまった。
『彼に呼ばれると、息ができなくなる』
自分に従う者は皆、どうしようもなく従っているだけなのか。
無意識に力を用いてしまっているのか。
慎重に息を潜めて、力を絶対に解放しないよう。
神から与えられた異能ではなく、自分自分の努力で積み上げてきた。
そう思っていた。
なのに。
もう駄目なのか。
もう駄目なのか。
気がつけば、王は一人一人、名を呼びながら斬っていた。
血煙で周囲がけぶる。
今度こそ力が発動し、呼ばれた者は命を失う瞬間まで何もできなかった。
腕が上がらなくなるまで。
血溜まりから抜け出せなくなるまで。
心を分けあえる存在はないのか。
神なぜ私にこのような力を与えた。
どうして。
どうして。
命を奪う私に抗え。
命より大事な者を奪う私に抗え。
どうして抗わない。
どうして私を殺さない。
誰か。
誰かいないか――
死ねば、死ねば皆と同じになれるのか――
神は、いや、神が。
神こそが。
神の名を以て、
神に一矢を。
十使は粉々になった人の王の魂を無理やり掻き抱き、魂の扉をくぐった。
――『紅蓮の記』より