女性艦長とフリーダム級沿海域戦闘艦
日が南の空に昇った少しあと、一番気温が高い時間、南中高度がかなり高かったのでここが球体の惑星の上であれば赤道に近い場所だろう。しかし、相変わらずの曇り空で日光が遮られてそこまで気温は変わらなかったが、蒸し暑かった。潮の香りが漂う海岸から召喚したZONIAC MILPRO SRR-1100に乗りダニエルの操船により島から南に2kmほど離れた地点まで30分程かけリスターとイーサンが時折シュノーケルとフィンをつけながら潜水していた。南側は浅瀬にいなっており深くても5m程度だった。海水は濁っており視界は海中でも良くないらしく、あまり乗り気ではなさそうだった。
さらに進んで海岸から南に4km程行った頃先を泳いでいたリスターが海中から上がって来て、
「隊長、この近辺の水深が一気に深くなっています。」
「どれくらいだ。」
と隊長が返す。
「30m程です。あとその近辺の海水が非常に透明になっております。」
「報告ご苦労、イーサンを呼び戻してきてくれ。」
「了解」
と言うとリスターはさっきまで泳いでいたところまで戻りイーサンにハンドサインで指示すると彼らは並んで泳いで戻ってきた。船上の22席の座席にリスターとイーサンがフィンを外して俺の後ろに座った。
「リスター、イーサン」
「は!」
「お前らはダニエルの近くて水先案内をしてくれ。これから召喚の準備作業に入る。」
「了解」
「池田殿、よろしいですね。」
「問題ない。」
と俺は隊長からの質問に軽く答えた。俺の発言の調子とは反対に隊員たちが交代でボートの端から銃を構え物々しい警備を行っている。
「副隊長、ここです。」
とイーサンが言った。
「池田殿、到着しました。」
「ご苦労、これからフリーダム級沿海域戦闘艦フライトⅠの召喚を行う。隊長、艦に名前を付けてください。」
「は!、艦名はPEACEが良いと考えます。」
「よろしい。わが軍の一番艦だ。それにふさわしい名前だろう。これから我々の母艦はPEACEだ。総員、召喚時に大きな波が発生する可能性がある。十分に注意せよ。」
と言うと事前に候補として作成しておいた艦船のリストからフリーダム級沿海域戦闘艦を選択し、召喚前に艦番号LCS-1,艦名PEACEを入力するといつも通りすべての手続きを済ませ、初めて100m級の大型艦を召喚した。幸いにも召喚の際に海水が船体の出現によって急激に動くことがなかったので、波は発生しなかった。PEACEに乗船するため、端末の召喚物操作の画面からウェルドックの観音開きの扉を開け、SSR-1100を左舷側から船体後部に移動させるとSSR-1100がウェルドックに向けて微速前進で進入を始めた。ウェルドックから出ているガイドレールにより、船体がウェルドック内に入ると隊員たちはロープで船体を固定した。
そして副隊長率いる先遣隊15名は艦上に降り立ち、ブリッジ。コンバットコントロールセンター、機関室、格納庫に向かって行った。銃を構えた隊員たちはハンドサインでどんどん進み15分程した頃、館内放送で副隊長が全区画制圧完了。隊長、安全に下船できます。しかし操船出来るのがいません。対応願います。」
と言った。
「池田殿、下船します。」
「わかった。操船要員を召喚する必要があるようだからヘリ甲板に向かいたい。」
「了解しました。」
と言うと随伴している隊長以下4名のうちの一人のペンジャミンがウェルドックの壁際にある受話器に手をかけ、ブリッジに
「池田殿、隊長以下6名ヘリ甲板に向かいます。」
「了解した。終わり。」
と言うと副隊長はウェルドックからの電話を切って、コンバットコントロールセンターに
「コンバットコントロールセンターには最低限の人員を残し、他は全員見張りを行え。」
「了解しました。私とジェイコブは残り、他は見張りに行ってくれ。副隊長からの命令だ。担当は任せる。」
「了解。」
という返事と共にマイケルとジェイコブ以外のコンバットセンターにいた全員が見張りに向かった。
「ヘリ甲板て意外とでかいだなー。」
おれはのろけたようにレンに言う。
「池田殿、これでも相当小さい部類ですよ。」
「午前中の候補確定で多くの艦の説明を見たからわかっているけど、地球の人類は本当にすごいものを作ったよ。」
「あの女性がそれを使えるだけの力を与えてくれたんですから池田殿はその力で世界を救ってください。」
自分の知っている情報をひけらかすことが大好きなレンは、女神の存在をほのめかした。『そろそろ気づくかなーー』
「お前の感ってすごいな。感心したよ。」
『だめだこのご主人様は』
「おほめに預かり光栄です。そろそろ始めないとPEACEも更に流されてしまいますし、日も召喚が完了するまでに沈んでしまいますよ。」
「そうだな。まずこの艦の必要人数を確認したい。あと必要役職も。」
「15名でこの艦は動かせますが、乗員の疲労を考えると50名程度は必要になるかと考えます。あと必要役職は艦長、副艦長、機関士長、副機関士長、専任兵曹長、兵曹長が最低でも必要になります。
「じゃあ50人召喚しよう。」
「了解。」
と言うと俺は端末を開け使い人の召喚画面を開き人数を指定していつも通りの手順に従って最後に6778を入力した。端末の操作によって人が現れるのに初めは驚いたが今では普通である。なんと慣れは恐ろしいのだ。
召喚した50名は5x10の形で整列していた。今回は中に女性や白人以外の人種の人がいた。そもそも初めの20名全員が屈強な白人男性だったこと自体が珍しかったのか。俺は最前列真ん中にいる一人のアジア系女性を指名して前に呼び寄せた。
「君、前へ。」
「わかりました。」
と少し弱弱しい口調で返事をした。身長は160cmほどで髪は黒色、胸は小さめBくらいかな…結構好みかも!俺は一体何を考えているんだ。呼んだ目的は…艦長に任命することだ。俺は絶対に女に手を出さないと誓ったばかりなのに、ああああああああ!
と脳内で発狂してしまった。呼んでから気づかぬ間に数分が経過していたのか彼女は益々不安そうになってしまいレンはあきれたような顔でこっちを見ていた。
「池田殿、早く進めてください。」
「レン、君、本当に申し訳ない。」
「それでは君をPEACE艦長に任命する。ここに手を置いて。」
「わかりました.。」
「艦長任命する前に契約がある。宣誓に対し、了承する場合は誓います、出来ない場合は誓いませんと言ってください。」
「わかりました...。」
何をされるかわからないと思っているのかかなり怯えている。しかし使い人である以上宣誓は受け入れるだろう。
「それでは始める。あなたはいかなる時も主人に従うことを誓いますか。」
「誓います。」
「規律を守り、人権を尊重することを誓いますか。」
「誓います。」
「次に艦長の任命に入る。あなたはPEACE艦長として職務を全うすることを誓いますか。」
「誓います」
「あなたの名前は佐藤恵です。異論はありますか。」
「あります。」
少女は俯きながらそう言った。
「なら何が良い?」
「青野麗でお願いします。自分の中の心がそう叫んでいるのです。」
「わかった。あなたの名前は青野麗だ。艦長として職務を全うしてくれ。」
特化能力のおかげか。彼女はこの宣誓に敬礼をして
「了解」
と返した。この時初めて感じた彼らも人間であることを。今まで自分の命令にほとんど従順に従ってきた彼らを見て忘れていたのだ。隊長から時折反対を受けたがあれは指揮官としての能力のうちだったのだろう。そのようなことが関係ない彼女の拒否。人を遠ざけたかったはずの自分にとって人間がいることのぬくもりを実感した。人が自分の周りにいるのは本当に幸せでこれは極限状態で孤独を味わった俺にしかわからないだろう。
艦長の任命で相当時間を食ってしまった俺は残りの使い人一人一人の前に立ち、簡易的に契約を済ませた。後日紹介しよう。艦長の麗、機関士長のアレク、専任兵曹長のレイチェルを筆頭に15名の隊員を配置に就け、彼らに引き継いだ隊員20名と俺は日没前にも関わらず泥のように眠った。水平の3段ベットに眠っている隊員たちと食堂で雑談する非番の船員たち。彼らは実に対称的だった。しかしこの平穏は長くは続かない。