ここはどこだ‼
曇天の空は相変わらずだが、日が昇ってきたことにより少しずつ空が明るくなってきた。人間にとって徹夜はつらい。才人の疲れは次第に体を蝕み始めていた。
「早く寝たい。こんなに徹夜がつらいなんて」
と一人誰もいない浜辺でつぶやいていた。幸いにも鍛えられた175cmの体は空腹にはなっていなかった。これが眠らないための唯一の助けだった。才人の疲れで半分死んでいる脳を動かし次に何をすべきかを考えていた。もちろん眠ることを本能のように追いかけて。
日が沈む前に読んだ使い人を出現させる方法を思い出して彼はそれを実行しようとする。MREのごみと一緒に入れた端末を小さなバックパックから取り出し、手のひらを置いて起動させた。そうすると頭の中に4桁の番号が焼き付くように記憶が入った。6778と。何かはわからないがこれがコードの通知方法なのだろう。そして使い人を出現させる手順を始める。端末の検索バーに“使い人”と入力し、昨日読んだ3つの書類のうち宣誓文と特化能力のリストを紙の形で出現させ、最後に虹彩認証のセキュリティーゲートを通過した後人数を指定するバーと“召喚”と表示されたページにたどり着いた。万が一第三者が侵入した場合にこのページだけは発見されたくないのだろう。人数を小隊規模の20人にセットし、召喚と表示されたボタンをクリックすると召喚の最終認証があり、手のひらを乗せ、端末に向けた後最後にコード6778を入力して召喚した。すると目の前に白い光の粒子が現れてそれが5列横帯で並ぶ20人の人間を形作っていった。しかし、あの女性との3者契約になると言っていたのに結局女性は現れなかった。不思議だなあー。あの女性のことで気がうつろになってしまったが気が付けば真っ白のワンピースのような縫い目のない190は余裕であるだろう筋肉ムキムキの目が青い20人の白人がこちらを凝視していた。屈強な姿は勇ましかったが、あまりの巨大さと眼光の鋭さに恐怖を覚えた。
しかし彼らと主として関わることになる人間がこんなんで怖気づいてしまってはいけないと言い聞かせ、左端にいた奴と宣誓を始めた。
「あなたの名前は?」
「は!、名前はありません。主となる方につけていただくのが慣習です。」
慣習なんてあるんだ、と思ったがそもそも他にどんな人が使っているんだよ!!、と内心で絶叫した。
「了解した。これから宣誓を行う。手をここに置き給え。」
というと俺とそいつは板を挟んで砂浜に座り、手を置いた。そして空いている左手で宣誓を読み始めた。
「あなたはいかなる時も主人に従うことを誓いますか。」
「誓います。」
「規律を守り、人権を尊重することを誓いますか。」
「誓います。」
「あなたには小隊長として職務を全うすることを誓いますか。」
「誓います」
「あなたの名前はリン=ヒッカムです。異論はありますか。」
「ありません。」
「それでは副隊長を指名しなさい。」
「了解」
とリン=ヒッカムが言うとリンは彼の後ろで並んでいた男を選んだ。
「主様。私リン=ヒッカムはこいつを副隊長に推薦します。」
「推薦された人前へ」
「は!」
と大きな返事をした。彼は前に進み出て隊長と同じように端末の上に手を置いた。俺も手を置き、宣誓を始めた。
「あなたはいかなる時も主人に誓いますか。」
「誓います。」
「規律を守り、人権を尊重することを誓いますか。」
「誓います。」
「あなたは副小隊長として職務を全うしますか。」
「誓います。」
「あなたの名前はダニエル=ジャンです。異論はありますか。」
「ありません。」
という言葉を最後に儀礼的な宣誓を終えた。他の18人は端末の上に手の平を置き特化能力を頭の中で案じるだけで終了だ。手の平を端末の上に置き双方が同意の意志を持つと端末が使い人の情報をすべてインプットされ、宣誓書にサインが入る仕組みになっている。そして18人にはそれぞれ名前を付けた。1番目からマイケル、ボクシー、チャンプ、ドレイク、リスター、ドナルド、ジェイコブ、マイケル、イーサン、ジョシュア、マシュー、アンドリュー、アレキサンダー、ウィリアム、ディラン、レーガン、ガブリエル、ペンジャミンと。彼らには海兵隊上陸部隊員の特化能力を付与した。これで実戦に最も強い部隊が出来ただろう。
俺は契約が終わった後、整列している隊員に訓示を行った。初めて人前で話すのでただでさえ緊張するのに相手が何歳も年上の屈強な男たちとは…とてもやばい(ガタブルガタブル)
「諸君らの最初の任務を説明する。ここの探索と脅威がある場合排除することだ。これから装備品を税員に支給する。ほかに必要なものがある場合は申告するように。」
というと俺は自分が装着している装備と同じものを支給した。ここで分かったことだが戦闘服や、アーマーなど体と直接密着するものは全てサイズがぴったりになっていた。これにはびっくりした。ここで隊長のリンが敬礼をして俺の前に立った。敬礼を返すと彼は敬礼をやめ話し始めた。
「主様、偵察任務を遂行するためにお願いがあります。」
「池田で良い。全員にそう呼ぶよう言ってくれ。」
「は!」
「でお願いとは。」
「未開の地に兵士を入れるのは危険極まりない行為だと存じ上げます。ですので無人航空機を使用するべきだと考えます。」
「それには賛成だが何を支給するべきだ?」
「RQ-11 raven でお願いします。それと三脚付きのアンテナ、コントローラー、ノートパソコンを支給願います。」
「探してみる。」
と言うと俺は端末を開きRQ-11のデータを取り寄せた。そしてリンに確認を取るために立体映像モードにしてリンに話しかけた。
「これで間違いないか?」
「これです。ありがとうございます。」
「それでは必要な各機材の数を教えてくれ。」
「各機材を2個ずつ支給願います。」
そうしてRQ-11 ravenとmil規格に沿ったPCを2セット支給した。リンは敬礼してマイケル、チャンプ、リスター、ドレイク、ジェイコブ、イーサンに機材を持たせた後離れた場所で彼らはアンテナを設置してコントローラーとPCを接続してマシューがプロペラを始動させて隊長の指示で端末のコンパスが示した東側にravenを投げた。
GPSを使えないために自動操縦が出来ずずっと操縦するマイケルは隊長の指示に従い海岸線沿いに飛行させた。高度200mを時速60km程度の速度で飛ぶravenは2分後には我々の上空を通過した。ravenからのカメラ映像からここは島だということが分かった。そして地面には砂しか見えない。島を全周探索を行ったravenはレイの近くで失速し着地と共にパーツが分離した。島があまりにも小さく砂しかないこの島を拠点にするべきなのかと思った。俺はレイに敬礼してから聞いた。
「ここで陣地を組むのは最適なのか。」
「池田殿、さっきの映像から見るように、砂しかなくこのように地盤も悪いです。ここに駐屯するには大規模な地盤改良工事が必要です。」
と言いながら地面を指さした。
「ならどうする。雲で遠くがよく見えないが、この近くには今のところ島がない。」
「艦を拠点にするのはどうでしょうか。錨を下せばここよりも良い拠点になります。」
「どの艦が良いのか教えてくれないか。海の知識は全然ないんだ。」
「20名程度でしたら駆逐艦はどうでしょうか。吃水も他の艦種より浅いですし、兵装が充実しています。海図もろくにない今の状況では超大型艦は使えません。」
「進言通りにしよう。だがここの海水は本当に海水なのか。第一に世界が違うので今までの常識が通用するかもわからない。」
「池田殿その端末で調べてみてはいかがでしょうか。」
「調べる?そんなこと出来るのか。」
「ええ、端末の中に“鑑定”という機能があるはずですよ。」
と言われて端末を操作すると本当にあった。
「なぜそんなにこの端末のことを知っている。」
「ものを簡単に召喚出来る機械ならそれくらいたやすいかと思いまして。」
もちろんこれは真っ赤な嘘である。
鑑定は端末の上に対象物を置くか端末越しに見ればいいのか。説明を読んで俺はそう理解した。端末の鑑定ソフトウェアを開くと“海水”の方に端末を向けた。
「鑑定の結果が出た。どうやら地球とほとんど変わらないらしい。魔素と表示されているものが数値的には結構あるようだけど。念のため比重の測定をしておくよ。」
と言うと慣れ始めた手つきで国際キログラム原器のレプリカとビーカーを出し、ついさっきまで気にしていなかったがそもそも重力は同じなのかを知らないとすべての結果が狂ってしまう。鑑定機能があるなら重さ量りくらい出来るでしょうと思い検索した。すると鑑定機能の中に組み込まれていると記されていた。物体の重量が端末に直接置いた時と端末を通して物体を鑑定した時の違いであることが分かった。説明は一語一句読んどくべきである。そして目を引いたのは端末が物質の情報を完全に取得すれば端末を通して複製できるということである。これを使えば世界一の富豪になれるかもゲフンゲフン。そんなことのためにこの端末を持っているわけではない。あの女性にたちまち消されてしまうだろうし、金と権力と女は人を狂わせる。まだ15才、まだ狂いたくない、そうなれば金におぼれた外道どもと一緒になってしまう。 『気をつけろ』と自分の心に言い聞かせた。
キログラム原器を乗せると値は980gを示した。2%ほど軽くなっている。この程度であれば仮に召喚される物体に反映されなくても支障はないだろう。有害物質は確認されていないので海上で暮らしても問題はない。
「980gを示した。地球よりも軽い。海水の成分も特に問題はない。」
「それなら艦船を使用できます。」
「ravenを飛ばせるか。」
「飛ばせます。しかしなぜ。」
「海上を偵察して様子を見たい。ボートで海岸から離れる時に脅威となる存在がいないか知っておきたいのだ。」
「了解しました。すぐに飛ばします。」
とレイが言うとマシューはravenを組み立て直しバッテリーを交換して投げる準備を整えた。
「隊長、飛行方向を指示願います。」
「こっちの方角だ。」
とリンは右腕を南側に向けた。
「投げます。」
そう言うとマシューは上に向けて投げた。
「高度50m、時速40km方位180で飛行しろ。2km地点で方位270で飛び、1km地点で帰投させろ。」
「了解。」
ravenは高度50m、時速40km方位180で飛行をし、2km離れた時点で方位270で1kmほど飛びその後、帰還し
た。
「どうだ。何かわかったか?」
「海上の波は穏やかです。空中、海上ともに脅威は発見されませんでした。しかし海中は海水が濁っているため確認できませんでした。以上です。」
「報告ご苦労。」
「水中の脅威は不明ということか。」
「そういうことであります。池田殿。」
「それなら隊員を潜水させて水中の脅威を確認するのはどうだ。海上に出て水深が8mある地点まで行けば、安全に駆逐艦を召喚できる。」
「しかし、隊員たちの安全が...」
「今回ばかりは投入しないと身動きが取れなくなる。出来るだけの機材は投入するから。」
「わかりました。しかしすでに活動開始から6時間が経過しています。そろそろ休憩と食事が必要です。」
日が南の空に昇っている、自衛隊の戦闘糧食Ⅱ型を全隊員に配り、即応体制を維持しつつ食事を口に運んだ。これが隊員にとってはじめての食事だった。食事のありがたみを隊員たちははたして実感するのだろうか。