池田才人の異世界転生
202X年8月1X日夏期講習のために塾に向かっていた一人の高校受験を半年後に控えた少年、池田才人は誰もいない住宅地の一本道で突然意識を失ってしまう。なんの前触れもなく意識を失ったので何が起こったのかわからず倒れてしまう。意識を完全に失うまでのほんの一瞬彼はおぼろげながら白い光とヒト型の何かの影を見た。この時彼は想像していなかっただろう。これが生まれ育った世界での最期の記憶になったことを。
そして意識を取り戻し、上半身を起こした。
「俺は確か塾に向かうために歩いていたはずじゃ…。俺は意識を失っていたのか?」
と言って彼は肩に提げていた教材の入ったバックを取ろうとする。自分の左真横にそのバックを取ると教材で詰まっていたはずの3kgぐらいはあるであろうそれからほとんど重さを感じない。意識を失っていた間に奪われたのかと慌てた彼はすぐさまその中身を確認する。中に入っていたものは全て無くなっており代わりに一枚のガラス板のようなすべての角が斜めにカットされた透明な板が入っていた。極度に混乱していた彼はそれを取り出してそれが何かを観察していた。なぜなら人生今までの15年間一度も見たことがないものだったからである。見方によってはそれが目の前にあることがわからないほど透き通っており、そして今までのどの物よりも固く、角を見てもすべてが完璧に切りそろえられており一切の歪みがない。
「これはいったい何なんだ?}
と彼がつぶやいた瞬間、突然脳の中で
「ユーザー登録が完了しました。これより起動します。」
という女性の声が聞こえた。ただでさえ理解が追い付いていない彼に追い打ちをかけるように突然“板”が光り出し、板を囲むようにホログラムが出現し始めた。
「こんにちは」
という“声”と共に。
そしてそこに現れたのは一人の女性だった。そして声はさっきと同じように板から聞こえるというよりは脳に直接響いてくるよな感じだった。その女性は話し始める。しかし混乱している彼は今度は何が起こるのかと砂を握りしめていた。そう、彼は気づいていないのだ。ここが倒れた時に歩いていた住宅街の一本道ではないことを。
「自己紹介が遅れてしまいましたね。私はあなた、池田才人をこの世界に送り込んだ張本人です。」
と優しい笑みを浮かべながら話した。
「この世界?、てことはここは生まれ育った場所ではないということ?」
と才人はやっと落ち着きを取り戻して呟いた。
「そういうことです。証拠にあなたが握りしめているものは砂です。そして周りを見てください。あたり一面砂と海で囲まれています。ここはこの世界の西端と呼ばれる場所です。あな…」
説明をしている女性の説明を遮るように才人は女神に質問する。普通の人であればNoと答えてほしかった最悪の質問をYesと同じ回答をしたのだ。でも小学生の頃に親の離婚騒動に巻き込まれたため、家庭裁判所から様々な答えたくもない質問を受け、両親からは理不尽な扱いをうけた経験がある。この経験があったので人一倍冷静な人間であった。そのため才人は落ち着いた口調で質問した。
「突然話を遮って悪いが、俺は家に戻れるのか。」
この世界に送り込んだ張本人は言う。
「無理です。」
この回答に彼はやはりと思ったと同時に、離婚騒動の後からずっと俺を目の敵にしてきた親と一生目を合わせなくて済むことに安堵していた。それを考えると学校の友達と二度と会えなくなることは寂しかったが許容することが出来た。この考えが出来たのもあの一件で友達を失ってしばらく孤独に苛まれたことがあるからだろう。安堵したので少し気分が軽くなり軽めの口調で発言した。
「邪魔して悪かった。さっきの話を続けてほしい。何か目的があるんだろう。」
女神は話し始める。
「そうです。あなたにはこの世界にいる人々、希少生物をメイス教から救ってほしいのです。今までもメイス教の勢力拡大によるホロコーストを止めるためにいろいろな時代の人を送りましたが、それらはすべて失敗、最後の希望があなたということです。今までの時代の人々では兵器の質、思考が劣っていたためにです。
あなたにその端末を授けます。それにはあなたが生きてきた世界のすべての情報が入っています。その中にあるものは全て目の前に出すことが出来ます。しかしこれは諸刃の剣です。あなたが使い方を誤るとこの世界は本当に滅んでしまいます。注意して下さい。詳しくは後でこれを操作して理解してください。
これから任務について説明します。任務はメイス教の教皇、皇帝、そして宗主国であるメイソニア大帝国の最高司令官を暗殺してほしいのです。この三人を失えばメイソニア帝国は機能停止になり、迫害されている人々を開放し世界平和を築いてください。」
その言葉と同時に女性は消えた。人を殺めることと“正義”に板挟みになる少年の葛藤は始まったばかりである。