第四話「くっきー♡」
今日も水田は朝から城下町へと出掛けている様だった。
「お嬢様を頼む、晩飯までには帰るが準備は出来ないかもしれない、土産持ってくるから許せ!」
と書置きがしてあった。
「おはようございますわ。」
「今日はお出かけはしないのですか?」
「今日はおあいにくの雨ですの。お出かけは中止ですわ。」
「水田さんは雨ですのにお出かけですの?」
「アイツは城下町へ行ったので大丈夫でしょう」
「またお城へ向かったんですの…?確かにサントル地方は晴れでしたわね…」
「城を眺めるのが好きなんでしょう。お土産も買ってきてくれるそうですよ」
「まぁ!わたくし、ミレーユ名物のクッキー、大好きなんですの!お父様がよく買ってきてくれましたわよね!」
お嬢様は嬉しそうに目を輝かせながら話す。
「アイツは甘い物は苦手だからクッキーは買ってこないんじゃないでしょうか…」
「そうなんですの…?」
とても残念そうな顔をしていたが、彼女はすぐに何かを思いついた顔をする。
「そうですわ!!」
「今日はお菓子作りの日のしましょう!!クッキー、作りましょう!!」
お嬢様が両手を合わせて提案をする。
「いいですね。それじゃあ早速準備に取り掛かりましょう。」
そしてお嬢様と私のクッキークッキングが始まったのだった…
オーブンの準備をしていると、お嬢様がクッキー作りに一人で取りかかっていた。
「クッキーなら包丁も使わないし一人でも危なくないですね」
「あら、わたくし、包丁の扱い方だってお母様に教えて頂きましたのよ?」
そういってお嬢様は手に持っていた麺棒を包丁の様に扱って見せた。
「流石お嬢様。上手ですね。」
「お母様もそういって褒めてくれましたわ」
お嬢様は笑顔でそう答えていたが、その後少し悲しそうな表情をし、
「お母様に会いたいですわ…」
小声でそう呟いた。
私はそれを聞き逃さなかった。
「お嬢様…たまには甘えてもいいんですよ?」
私は両手を開きお嬢様を受け入れる体勢を作った。
「い、今はお菓子作りの最中ですし…それに、なんだか…少し抵抗がありますわ…」
「遠慮なんてしなくていいんですよ!さあ!さぁ!!」
そういうとお嬢様は遠慮がちに恥ずかしそうに私の元に近づいてきた。
私はお嬢様を優しく抱きしめた。
お嬢様の透き通る白くきめ細かい肌…雪の様に白く「サラサラの美しい髪、そしてお嬢様全体から匂う桃の甘く良い香り…ここが天国か…?私は今日、天に…いや・・・お嬢様に召されるのか・・・?くんくん…ハー…くんくん…ハー…」
「ちょっと!!やめてくださいまし!」
「途中から声に出てましたわよ…コーフンしすぎですわ」
そういってお嬢様は頬を膨らましプリプリ怒って私から離れていってしまった…
「さぁ、気を取り直してクッキー作り再開ですわ。」
そういってお嬢様は綺麗に型抜きをし生地を並べていった。
私もお嬢様に負けじと生地をくりぬいていく。
「市原さんは先ほどからハートの形しか作ってないんですね。ハートがお好きなんですの?少し意外ですわね。」
「お嬢様へ愛の数を表しているんですよ。これでもまだまだ全然、足りてないですけどね」
「もう何言ってるんですの…」
そんな事をいってる内に全ての生地の型抜きが終わった。
「後は焼くだけですわね♪」
「少し休憩にしましょうか」
オーブンに生地をいれた後、紅茶を入れて、クッキーが焼きあがるのを待った。
焼きあがるのを待っていたらどうやら少し寝てしまっていたらしい。
肩にはブランケットがかけられていた。
きっとお嬢様がかけてくれたんだろう…
お嬢様はオーブンの前にいた。焼きあがるのをああしてずっと待っていたんだろうか?
「すみません。少し眠ってしまっていたようです…」
「わたくしも少し休憩していましたのよ。お気になさらずに…もうすぐで完成ですわよ」
オーブンからクッキーを取り出すと良い香りが広がる。
「良い匂い香りですわね。早く召し上がりたいですわ♪」
「紅茶を準備しますね。」
私達の会話を聞いていたのか、はたまた良い匂いに釣られたのか、
部屋の隅で寝ていたキャンディが起きて大きく伸びをし、こちらに近づいてきた。
「あら、あなたの分もちゃんとありましてよ♪」
そういうと嬉しそうにキャンディは短い尻尾を振った。
…犬にクッキーなんて食べさせていいんだろうか
そう思いながらも二人(と一匹)でクッキーを頂くことにした。
「美味しいですわ…紅茶ともよく合いますの♪」
「お嬢様が焼いてくれたクッキーなら残さず全部食べられそうです」
「そういわずに水田さんにも差し上げましょう」
そういってお嬢様は可愛らしいラッピング袋にクッキーを包んだ。
私もお嬢様の手包みクッキーが欲しかったが、出来立てを食べれたので良しとしよう…
「そろそろ私は夕飯の準備の時間をしますね」
「お夕飯の準備、わたくしもお手伝いしますわ」
そういってお嬢様と私は夕飯も仲睦まじく作ったのだった。