第三話「犬の名は」
今日もお嬢様はいつもの様に朝早くから目覚め、ニュースを確認していた。
先日拾ってきた犬(?)もお嬢様の熱心な世話により完全に回復し、お嬢様の隣にちょこんと静かに座っていた。
元主達がいなくなってからお嬢様は気丈に振る舞ってはいるが、隠れて寂しそうにしていたので友達が出来たのは喜ばしい事だった。
昼食後、リビングで犬と遊んでいたお嬢様に声をかける。
「そういえば先日拾ってきた生き物…その子の名前は決まっているんですか?」
「間抜けな顔してるしマヌケンでいいんじゃないか?犬だけにマヌケンってな!!ガハハ!!」
水田が大きな声を出して一人で笑っていると、犬はまた水田めがけて火の粉を噴いた。
「お前…学習しないな。」
「この子の名前…キャンディにしますわ。」
「キャンディの様にまんまるだし、甘くて良い香りがしますの♪」
彼女は犬…もといキャンディの頭を撫でながらそう答えた。
キャンディは気持ちよさそうに目を閉じている。
「良い名前ですね」
「マヌケンも良いと思ったんだけどなぁ…」
「…お前また燃やされたいのか?」
キャンディもまた、火を噴く準備をしていた。
冗談だよと焦りながら言っていたが、人間以外の生き物に冗談が通じると思っているのだろうか…。
そのやりとりを見てお嬢様が笑っていた。
「キャンディとお散歩に行ってきますわ。村を沢山ご案内しますの!」
そういい彼女は張り切ってキャンディと外へ出かけていったのだった。
お嬢様はキャンディの散歩から帰宅し、夕食と入浴を済ませた後、ずっとテレビを見ていた。
「ネージュフール村はどうなったんでしょうか…」
「村のご様子、最近は全然放送されていませんね…。」
以前見かけた旅番組ではあの村は春には様々な花が満開に、冬には雪を積もらせ一面の銀世界が広がる名所となっており、多くの旅人で賑わっていた。
そして沢山の人々も暮らしていたのだ。
しかし今のネージュフールは結界が張り巡られ、完全に封鎖されてしまっているため、中の詳しい状況を探るのは一筋縄ではいかなかった。
「あの村は、原因不明の悪天候が続いているため今は封鎖されています」
「村の様子を最近テレビで放送しないのも立ち入る事が出来れないからです」
彼女には以前からそう伝えてた。
ニュースでは彼女の両親がネージュフールを壊した主犯格だと事実が捻じ曲げられ大々的に取り上げられていた事は暫く寝込んでいた彼女はまだ知らない。
あのニュース以来、ウォー村の住人は殆ど引っ越してしまった。
今、この村に残っている者達は元主達の味方をする者だけだった。
彼女にその事実を伝えていいのか迷っているため村の住人にも協力してもらい、事実を伏せるよう様にお願いしているのだ。
「さぁそろそろおねんねの時間だぜ…また明日にしような」
まだ何か言いたそうなお嬢様に、水田が遮るように言った。
「はい・・・」
そういってお嬢様は寝室へと向かっていった。
「少し強引だったか…?」
「まぁお前らしくて良いんじゃないか?私もどう答えるべきなのか迷っていたしな…」
「なら良いんだけどな…嫌われちまったかなぁ」
「あの犬には嫌われているだろうな」
「今度散歩連れてってやるかなぁ…」
「やめておけ。また火を噴かれるぞ」
そんな他愛のない会話を交わした後、私達もそれぞれの部屋に行く事にした。
「早くお父様とお母様にキャンディをご紹介したいですわ…」
「いつ雪は降るのかしら…お二人にはいつ会えるのかしら…」
「わたくしの成長した姿、お父様とお母様にお見せするんですもの…これくらいで泣いてなんていられないですわ…」
「それなのに…涙が…止まりませんの…」
ペロ…
キャンディがユキの頬を舐めた。
「キャンディ…励ましてくれるんですの…?」
「ありがとう…おやすみなさい…」