第二話「犬とパンツと私」
彼女はいつもの様に手には紅茶を持ち、テレビの前のソファに腰かけていた。
「雪…全然降りませんわね」
お嬢様はまたこのウォー村に雪が降ることを切に願っていた。
「バルム地方は暖かい地域ですからね…」
以前の異常気象は何者かの魔術による影響ではないかと言われていた。
実際にあれ以来、雪の精の数が減っていっているのだ。
「でもお父様とお母様と約束したんです…雪の降る日に帰ってくるって…」
「そうしたらまた、ネージュフール村に行くって・・・」
元主一家は毎年ネージュフールへ旅行していたのだがネージュフールは今となっては完全に立ち入れない場所になっているのだ。
元主達はもう二度とここには戻って来れないと思い、果たせない約束をしたのだろう。
そんな滅茶苦茶な約束をひたむきに守る彼女を見ているのは心底辛かった。
「そろそろ昼食の準備してきます」
「そうですわね…」
そう悲しそうに呟く彼女を背に、私はキッチンへと向かった。
『この村にいる事が出来なくなってしまった…』
元主達が屋敷を出て行く数週間前の事だった。
ラネージュ地方にある、雪の降る村「ネージュフール」は『シルヴァ』に破壊されてしまったのだ。
ネージュフール村は魔神復活の儀式の地として使われてしまったのだ。
儀式は失敗に終わった。
しかし村には多くのマモノが棲みつき、止むことのない雨が永遠と降り続くようになってしまった。
『我々は、シルヴァに都市開発だと聞かされていたんだ…』
元主達はまんまと騙され計画に加わり、大勢の魔道士を向かわせ、多額の費用を受け渡してしまったのだった。
『シルヴァは全ての責任を我々に被せた』
シルヴァは自分達の手を一切汚すことも無く、全ての責任を元主に押し付けていたのだった。
「そ、そんな…どうして…どうしてマスター達が責任取らなきゃいけねーんだよ!!」
水田が悔しそうに壁を叩く。
『仕方ないんだ…我々も奴らに手を貸した事には間違いないからな・・・』
『時期に我々がネージュフールを壊した犯人だと大々的にニュースになるだろう…』
『もうじき城の地下牢に連行される…』
『ここに戻って来られるかは分からないわ…』
奥様が涙を流しながら話す。
『娘を…頼んだ』
そして元主達は数日後、屋敷にやってきた城の兵士達に連れられ、私達の前から姿を消したのだった。
「静かだな…」
余りの静けさに元主がいなくなる数日の出来事を気が付けば思い出していた。
あの日を境に、ウォー村はみるみると衰退していき、村で暮らす住人は今となっては20人にも満たないほどになってしまった。
そんな中、昼のニュースを確認した後、お嬢様は村のどこかへ毎日出かけているのだった
閑散とした村の中でも少し心配なので付いていこうとしたが、一人で出歩くのは両親がいない今しか出来ないチャンスだからと止められてしまった。
気が付けば時刻は17時を回っていた。
「そろそろお嬢様はお帰りの時間か…夕飯の準備をしないとな」
水田は夕飯の準備までには間に合うといっていたが結局帰ってこなかった。
晩飯抜きにしてやろうか…
水田の事も少しだけ心配だが、アイツはなかなか腕の立つ剣士なので問題ないだろう。
アイツの家系は魔法使いでアイツも一応魔法を使えるのだが、アイツは脳筋なので魔法は殆ど使わないのだ。
ヤツ曰く、
「後ろでコソコソ術式唱えて戦闘なんて男らしくない」らしい
そうこうしている内にお嬢様より先に水田が帰ってきた。
「遅い!夕飯抜きにする所だったぞ」
「まぁまぁそういうなって…」
苦笑いしながら、珍しく疲れた表情をしている。
「何か収穫はあったのか?」
「あともう一歩…ってところだな」
「その話は後にして、とりあえず晩飯にしようぜ!!腹が減ったら皆赤ちゃんだ!!」
こいつまた意味の分からない事を…
こいつの分だけ激辛カレーにでもしてやろうか…
「そうしたい所だが…お嬢様がまだ帰ってきてないんだ」
「何だって?俺、探しに行ってくる」
水田が探しに行こうとしたタイミングでお嬢様が帰ってきた。
「遅かったですね。夕食の時間ですよ。」
「申し訳ございませんわ…」
お嬢様は何やらもじもじとした様子で話している。
「…おしっこですか?」
「ち、違いますわ!!!!」
「その、実は…お話があって…」
「まさか…漏らしたとか?」
「その話から離れてくださいまし!!」
そして彼女はゆっくりと上着のファスナーを下ろし、胸の中から生き物を大事そうに取り出した。
「このワンちゃん、森で迷子になっていて…怪我をしていたので治療をしたんです。」
「森へ返したら、また迷っていて、カラスにいじめられていたのです…。」
「だから連れて帰ってきましたの…」
「その…この子、お屋敷で飼っても宜しいでしょうか…?」
そういって彼女は汚れた犬をギュッと抱きしめた。
少し苦しそうにしていたが嫌がってはおらず、彼女に懐いているようだった。
「へぇ~汚ねぇし犬のくせに角が生えてるなんて変だけどまぁまぁ可愛いな~」
そういいながら水田が近づき触ろうとすると、小さな炎を噴いた。
「うわ!!アッチぃ!!!こいつホントに犬か!?」
「ごめんなさい…!!あ、あの…この子は…知らない人に警戒しているんです…」
飼うことを止められると思ったのだろうか、お嬢様が慌てて庇った。
「お嬢様が決めた事なら止めませんよ。」
「夕食よりお風呂の方が先ですね…その後、その子も一緒にご飯にしましょう。」
「はい!!」
彼女と犬(のような生き物)は嬉しそう目を輝かせ、脱衣所へと向かっていった。