第一話「そのパンツも雪の様に美しかった」
外の景色は一面に広がる銀世界
この村に雪が降ったのは一体何年振りだろうか…
「この景色を見るためにどれほどの時を過ごしたかしら…」
「もう、待ちくたびれてしまいましたわ」
少女はそう呟くと、雪景色の中に佇んでいる二人に駆け寄り、涙を流し微笑んだ。
「もう二度とこの美しい景色を眺める事は出来無いと思っていましたわ」
「ずっと会いたかった…。」
少女の涙声に答えるかのように、しんしんと雪が降り続けているのであった。
私は少女に声をかけようとしたが少女は光に包まれ雪と共に、消えてしまった。
「ん・・・」
窓の外から差し込む眩い光に目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開くと雪の様に白く長い髪に大きなリボンを付けた幼い少女…
「飯塚ユキ」が私のベッドの上でドヤ顔をし、見下ろしていた。
「本日も快晴ですわ」
彼女が窓の外を眺めながら、少し寂しそうに話す。先ほどの景色はどうやら夢だったようだ。
「お嬢様は今日も朝早いんですね…もう体調は大丈夫なのですか?」
「何言ってますの?もう9時ですのよ?体調はおかげさまで良くなりましたわ」
彼女の両親は莫大な資産と娘を残し、失踪した。
そのショックからか彼女はつい最近まで寝込んでしまっていたのだ。
「そうですか…今日は休日だし少しくらいゆっくりしたらいいんじゃないでしょうか」
「ゆっくりなんてしていられませんわ。お父様とお母様が戻って来られるまではわたくしがこのお屋敷の当主。お仕事は完璧にこなさなくてはいけませんわ!」
「…それにお昼のニュースに間に合わなくなってしまいますもの」
毎日、天気予報をテレビで確認するのが彼女の最近の大切な日課なのだ。
「完璧か…さっきからパンツが丸見えなのも……これも完璧の内、なのですか?」
「!!」
「さ、さてお昼のニュースの時間ですわ!!」
そういうと彼女は顔を真っ赤にしながら逃げるように去って行った。テレビのある部屋へ向かっていったんだろう。
…まだニュースの時間には少し早い気がするが
「ご主人様よりも遅く起きたあげくセクハラとは良いご身分だな」
声のする方へ振り向くと少し筋肉質な男が立っていた。こいつは「水田タカユキ」だ。
私と同様にここで執事をしている。
「なんだ脳筋オバケ。わざわざ嫌味を言いに来たのか?」
「さっさと起きて支度をしろ。俺は城下町に行ってくる。夕飯の準備までには帰るようにする。ご主人様の面倒、頼んだぞ。」
お嬢様の両親…元主がいなくなってからお嬢様は更に、自分で何でもこなしたがるようになったのだがどこか見ていて危なっかしい。
なので必ずどちらかが付いてみるようにしているのだ
「また観光か?」
「今回は違う。シルヴァの連中の尻尾を今日こそ掴んでやる」
『シルヴァ』は多くの騎士を揃え
国の発展や新たな町作り、民衆の安全を守る事などを目的として活動をしている王国一、大きな組織である。
「そうか…気を付けてな」
しかしそれは表向きの姿であり本当の目的は、世界に災厄をもたらす魔神の復活を画策しているのだ。
その真相を探るために水田は町で調査しているのだった
「お前に心配されるなんて明日は雪でも降ったりしてな」
私達のいるバルム地方は雪が降らない地域なのだが5年ほど前、異常気象によってバルム地方にも雪が降ったのだ。
その日は観光地の名所として知られるラネージュ地方の「ネージュフール村」にはより一層美しい銀世界が広がっていたようだ。
「そうなってくれるとありがたいんだけどな…」
そう答え、私はお嬢様のいる部屋へと向かっていった。