09.スキル"移動"の使い方
ミラさんに呼ばれたギルド長のノアさんが連れ帰った子を確認すると召喚奴隷と言った。
「召喚奴隷?なんですかそれ…」
「簡単に言うなら奴隷にすることを目的にした召喚だよ。召喚紋と奴隷紋があるから間違いないよ」
ノアさんは付け足すように教えてくれた。召喚儀式は国家儀式であり、本来大きな目的を課し行い異世界の人間を召喚し、こちらの世界の目的に巻き込むこと。このネレイス神王国では、初代国王のネレイデスが止した儀式であるが、他国はそうではない。目的のためならばと、何度でも召喚し人権を奪い虐げる…その代表国とも言える国が隣国の1つローカスト帝国。
「このままだと、この子はどうなるの?」
「奴隷紋と調教に使われたであろう薬をどうにかしなければ……ひとまずギルドで保護しますがここまで弱っていると生命の保証は出来ません…」
キシキシの髪にガリガリになった手足、浮き出た頬骨や肋骨、異様に膨らんだ腹部…前の私を一緒だ。私もこんな時、誰かに助けて欲しかったな…。
「ノアさん、この子今から治療するんですよね?私がしてもいいですか?」
二つ返事で了承を得た。
ギルド・医務室__
奴隷紋は奴隷の証。消えない限り主人との繋がりは切れず、定期的に主人からの命令がない場合、脱走したものと扱われ紋章が奴隷の魔力を吸い上げ始末する仕組み。これがある限り、死と隣合わせだ。とりあえず、やることは2つ奴隷紋を消すこと、薬物を抜くこと。
「苦しいかも知れないけど、少し我慢してね」
30分後__
「……レティシアさん、僕は治療と聞いていたんだけど…」
「え、治療だけですよ??」
「紋章も消えて、外傷も消えている…。はぁ…レオ君の時といい…今回も何をしたのか聞かせてくれるね」
治療を終わらせ、ノアさんを呼んだら何か呆れられてしまった。
見透で紋章の実態と状況と身体状況、使用された薬物の特定をした。紋章をスキルの移動でひっぺがしてから失った魔力の補填、次に身体に染み付いた薬の成分を1つに纏めて紋章同様に体外へ移動。身体状況が良くなかったので医務室の備品の薬草を使ってポーションを作って飲ませたり、かけたりして外傷や栄養状態を少し治したことを伝えると、何だかさらに呆れられてしまった。
「前、分からないと言っていたスキルを使った治療なんですね…」
「今わかっているのは、スキルの効果は閉鎖された空間…例えば身体の中にある異物などを身体を傷つけることなく取り出したり、また逆のこともできるみたいです」
「それは、また珍しい魔法をすんなりと使いますね…。分かっているでしょうけど、この治療内容はステータス同様、内密にお願いしますね。ここまで回復して、奴隷紋も消えた今なら教会の孤児院に移しても大丈夫でしょう」
その日の夜のうちに教会の孤児院に移送された。その子の痩せ細った身体を見たシスターは、涙を流しながらも暖かく迎えてくれた。
はぁー、なんか濃い1日だったなぁ…。あの家の人間といい、隣国といい何で他者との尊重し合って共生することはできないのかな…そしたら無駄に傷付かず平和にいられるのに…。まぁ、今回はなんかもやっとするものが残ったけど報酬はノアさんに口止め込ではずんでもらったし、当面の生活は大丈夫だから、明日からは店番しよーっと。