自動販売機
自動販売機
うう寒い
最近グッと寒くなって
外回りには辛い。
公園の横に設置された自販機
スーツのポケットから小銭を出して
お気に入りの缶コーヒーを押すと
ルーレットが回って数字が3つ揃った。
ラッキー!
もう一本。
よし今度はカフェオレをポチッと
またルーレットが揃った。
ラッキー!
もう一本。
よし今度は、微糖をポチッと
またルーレットが揃った⋯⋯
やっ⋯⋯
⋯⋯ おかしくないか⋯⋯
壊れましたかね?
いやこれは
ドッキリとか?
慌ててキョロキョロして
カメラを探す。
右! 左! そして再度右!
⋯⋯ 無し。
カメラ無し。
「すごい!」
!?
後ろから声を掛けられた。
左右確認したのに真後ろだったのか
振り返ると
ベンチに小学生の女の子が座っていた。
「めちゃめちゃ 当たったね」
5〜6年生だろうか
こらこら 知らない人に話しかけちゃダメって
教わらなかったのかね
「押さないの?」
あ?
ああ最後の当たり
まだ押してなかった。
「好きなの押していいよ あげる」
いやこれ事案じゃないよな
話しかけられたの俺だし 大丈夫だよな
いや待て
これで 返事をしなかったら
『挨拶をしたのに 男に無視される事案が発生』
となっていたかもしれない。
もう何が正解なのかわからない。
「届かない」
あ 上のボタンに届かないの
小さいのね。
どれ押すのよ?
「ぶどう」
え?
ぶどうスカッシュなの?
絶対選ばないよね 普通 この寒いのに。
「ぶどう!」
ぶどうを押すと
ルーレットが回って
また当たった。
「いえーーい!!」
めちゃくちゃジャンプしてる。
確信した。
壊れてます。
「おめでとう じゃ お兄さん お仕事だから」
行こうとすると
「おじさん ボタン押してー」
おじ⋯⋯
まあいいか、
ぶどうのボタンに手が届かないのだ
ぶどうを押すと
ルーレットが回って
またまた当たった。
「いえーーい!!」
ジャンプジャンプ!
ぶどうが5本になったところで女の子が言った
「これぜんぶ もらっていいの?」
そう聞きながら女の子は
小さなポシェットから
型遅れのスマホを取り出して
画面を操作していた。
どうぞ
これから当たり続けるならそれも あげるよ
「ありがとう!」
キラキラした笑顔で笑う
スマホを見ると
女の子から通話アプリの友達申請まで送って来てる
可愛いなぁ
素直な子供っていいね
でも知らないおじさんに
友達申請なんか危ないよって教えてあげないと だね。
⋯⋯ 結局
自販機は全ての缶ジュースを吐き出して
それでもまだ当たりのチカチカが点いたままだった
女の子の座っていたベンチにならんだ缶ジュース
220本。
個人的には故障だとは思うけど
自販機が何もなくジュースを
吐き出してるわけじゃなく
毎回ルーレットで抽選を行い
その結果当たり続ける事で
ジュースが吐き出されているので
悪いことでも無いし⋯⋯
でもこれ どうしましょう
持ちきれないよね。
家が近くなら運んであげてもいいけど
知らないサラリーマンが家までついてきたら
それこそ通報だよね。
かと言って
この本数 この子に持ちきれないなぁ。
「家が 近くなら 親御さんに来てもらう?
ジュースがたくさん当たっちゃったって」
うん、これなら通報もされないし
いいよな。
親御さんが来たタイミングで帰ろう。
女の子は答えず
スマホの画面をポチポチやってる。
「だいじょうぶ」
?
大丈夫なのか?
いや、運べないよね
俺も運ばないよ???
「あと20分で 運送業者さん引き取りに来るから」
え?
は?ぎょうしゃさん?
「うん、200本の段階で 売れたから」
え?
「残りの20本も 交渉したら一緒に
買い取ってくれるって」
女の子は
スマホの画面をこちらに見せた。
フリマサイトの商品ページが表示されて
大きな文字で
「sold out」
とスタンプが押されていた。
え?
え?え?
えええ????
今このジュース この瞬間に
ネットで売りさばいたって事????
女の子はニコニコ笑って
「いえーーい!」
い、いえーい⋯⋯
「おじさん ありがと
もう大丈夫だから 行っていいよ」
そう言うとベンチに座って脚を組み
スマホでSNSだろうか ポチポチやりだした。
「じゃ、じゃあね」
俺は最初の缶コーヒーを握りしめてそう言った。
「ばいばーい」
女の子は画面から顔を上げずに言う。
きっと俺の顔は今、
ハニワみたいな顔をしていると思うんだ。
公園から外へ出て帰社する道を歩く
なんだこれ
俺は夢でも見てるのか
うう寒い
最近グッと寒くなって
外回りには辛い
胸ポケットでスマホが鳴った。
通話アプリに 女の子からの申請とメッセージが
載っていた
俺は思わず吹き出した。
日本の経済は明るいぜ。
「おじさん の取り分です 7ー3ね」
そのメッセージと一緒に電子マネーが
3000円課金されていた。