頭上の音楽【詩】
ああ あれは
いつか見た鷺のかげ
本物のピアニストは
そんなふうに鍵盤をたたきつけたりしない
あくまで空気をふるわすだけなのだから
力をこめるような真似はしない
本物のピアニストは
肉でできた腕などもたない
もつのは羽
白くかろやかな翼
本物のピアニストは
歌ったりしない
楽器という喉があるのだから
わざわざ口をつかうことなどない
だから 音楽を思い出しなさい
腹の底に澱んでいる
汚い粒々を解放しておあげ
あなたの音楽はあなたが弾いているものではない
あなたの音楽はいまだ生まれていない
白い鳥はまっすぐにかえってゆく
あるべき場所へ
フィナーレは必ずある
拍はきちんときざまれてゆく
あなたはそれを
忘れていやしないでしょうか
2012年頃の詩。