魔王の娘
どうしてこうなった
「……なんだ、捨て子か」
そう吐き捨てたのは若くして魔導を修め、魔王と言われながらも人々の生活に寄り添い、薬を作ってきたモノ。
すなわち俺、ノワールだった。
「あっ……あっ…………あぅ」
……どうやらこの捨て子は言葉がうまくしゃべれないらしい。最近疫病と飢饉で俺も駆り出されたところだし大方その辺の理由で、それでも生きていてほしいからと俺のすみかの近くに捨てたのだろう。
……身勝手なことだ。
「名も知らぬ娘よ、貴様は幸運だ。わかるか……?まあいいか、今日から貴様は俺の子だ。いいな?」
「?」
「わからんならそれでいい。……まずは身なりをどうにかしないとな……ったく、貧乏くじ引いたか?」
そして家に連れ帰ったはいいが……こいつをどう呼べばいいか……ああ畜生、名付けは苦手なんだよな……。
「おい、貴様」
「あぅ?」
「まずは貴様の呼び名を決める。気に入ったのがあったら首を縦に振れ。いいな?」
「あっ……あぅ……(コクコク)」
どうやら言葉を理解はしているらしい。
「目の色が青か……サファイアみたいだな、サフィはどうだ?」
(フルフル)
「小さいからリトルをもじってリッテは?」
(フルフルッ)
「……雪みたいな肌だから……スノウはどうだ……?」
(……フルフル)
……お気に召さないらしい。こうなったらやけだ、安直すぎて避けてたんだが……
「髪が白いからブラン……はさすがにな……?」
「あっ!(コクコクッ)」
「……ブランがいいのか?」
(コクコクッ)
まさかブランが良いと言われる?とは……俺は自分の名前安直すぎてあまり好きじゃないんだが……まあいいか。
「……さて、ブラン。今日からお前の父になるノワールだ。話せるようになったらで構わんが、パパとだけは呼ぶなよ?」
「あぅあ(コクコク)」
「よし。まずは……体を清めて食事にするぞ。清浄!」
「あぅ!!(ピョンピョン)」
「……なんだ?魔術を見るのははじめてか?」
「うー!(コクコク)」
「そうか、そのうち覚えてもらうから楽しみにしておけよ」
「あぅ!(コクコク)」
これが俺の子、ブランとの出会いだった。声が出ないのは心因性、トラウマが原因だったらしく打ち解けてからは拙いながらも話せるようになったようで、
「ブラン、少し買い物にいってくる。そうだな……20分で戻る」
「やー!ボク、とと様、一緒!」
「あー……、だよなぁ……5分で支度しろ、遅れたらいつも通り留守番だ。よーいどん!」
「すぐやるっ!」
「あと4分な」
「あーうー!」
ってことが良くあったな……5分っていうと3分で支度するのがかわいくてな……ついつい一緒にいくのを許可してたな。そっから二年もしたら言葉も普通に話せるようになったし魔術も使えるようになってな……
「さてブラン、昨日教えた魔術は使えるようになったな?魅せてみろ」
「わかった!ちゃんと見ててねとと様!光明=拡散!」
「……ほう、光を拡散して人工の虹を創ったか。良くやったなブラン。綺麗だったぞ?」
「ほんとに?!やったぁ!」
「お返しだ、いいものを魅せてやる幻影濃霧投影!」
「わわっとと様がいっぱい!!」
「俺の影を霧に大量に写してるからな、さーて?本物はどれだ?当たったら今日のおやつはブランの好きなホットケーキだぞ」
「あぅあー!これっ!」
「残念だったな、本物は家でホットケーキを作ってるぞ」
「ほんと?!」
「手を洗ってからな?解除」
「はーい!」
……この頃は可愛かったんだがな……どうしてこうなった?思えばあの頃からちょっとおかしいとは思ったんだ……。
「ねーとと様ー!」
「……なんだ?」
「私ね!おっきくなったらノワ……とと様のお嫁さんになりたい!」
「あー……やめとけ……悪いことは言わんから、な?」
「やだー!なるの!」
「……っあー……わかったから泣くな、ほら、今日はシチュー作るんだろ?」
「グスッ……うん」
「なら泣かない、しょっぱいシチューは嫌だろ?」
「ボソッ」
「……なんか言ったか?」
「なんでもないよ!とと様!」
「ならいいが……」
うん、やっぱこの辺りからブランの目が時たま怪しくなってたよな……ああもう最近は外堀埋められ切ってるしどうすっかな………
「ねーねーノワール!そろそろ諦めて私と結婚しよーよー!」
「……ダメだ」
「なんでさー!私もう大人だしノワールと血の繋がりないじゃんかー!」
「それでもダメだっつの!自分の娘と結婚とかどう言うことだ!街の連中は結婚式呼べってうるせえし!あといつからとと様って呼んでくれなくなった?!」
「お嫁さんになりたいって言ったときからもうノワールって呼びたいの我慢してた!」
「やっぱあの頃から既におかしいじゃねえか!どうしてこうなった?!」
「捨て子の私を拾ってくれて、暖かいご飯作ってくれて、優しくしてくれて、ちゃんと悪いことしたら叱ってくれたんだよ?それは惚れるでしょ!ねえ結婚ー!」
「……ダメだって言ってるだろうが!!」
「結婚してくれるまで口説き落とすから、覚悟してねノワール」
「なんでだよおおおお?!」
ブランが強かすぎてもうだめかもしれん……
その後、ノワールはブランに根負け、ロリコンの称号を甘んじて受けることに。最期の会話時点でノワール39歳、ブラン15歳です。この世界の平均結婚年齢は18歳のつもりなのでこの世界でも奴はロリコンです。
ノワール「育て方間違えた」
ブラン「ノワールかっこいいぺろぺろ」
もう一回言わせてください。どうしてこうなった?!